遊☆戯☆王THE HANGS   作:CODE:K

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 ※ 汁ネタ注意。今回は食事中に読むのをお勧めしません。


MISSION3-尚、沙樹への報酬は0、必要経費ドン!の大赤字となりました。

 私の名前は鳥乃 沙樹(とりの さき)。陽光学園高等部二年の女子高生。

 そして、レズである。

「けど、ドMの喜びは一生理解できないわ」

 鉄の貞操帯生活3日目。いま私は、生き地獄の最中にいた。

「沙樹ちゃん、まだ外れないの?」

 前の席に座っているマイエンジェル梓が、心配そうな目で私に訊ねる。ちなみに彼女には「知人の女の子を襲おうとして、鍵錠ロックの鉄の貞操帯をつけられた」と説明してある。一応、木更“ちゃん”(もうターゲットでもないし、今後ちゃん付けで呼ぼうと思ってる)を襲おうとしたのは事実だから間違ってはいない。

「正直心折れそう。……だって濡れる度に責め苦に襲われるのよ」

 まず、この鉄の貞操帯。汗が篭りやすくすごく蒸れる形状になってるのだ。仮にこの状態でもっこり美少女を見て濡れてみる。すると、やはり股間が蒸れ、最終的には痒くなる。それはもう地獄の程の痒さ、しかも鉄の貞操帯故に掻くこともできず、貞操帯自体を揺らしたり、擦らせたりする事もできない殺意の程のフィット感。

 そんなものを、隙あらば女の子を目で追って発情するこの私が着ければどうなるか。

 濡れる。蒸れる。痒くなる。濡れる。蒸れる。痒くなる。

 ほぼ四六時中この繰り返し。

「もしドMだったら、これさえご褒美なのかな」

 なんて考えることこれで三桁。しかし私は、残念ながらこの苦痛を快感を受け止める感性は持ち合わせてないので、ただただ痒みに耐えるしかない。

「辛そうだね沙樹ちゃん。私としては暴走が減って助かるけど」

 何か酷いこと言われた気がするけど、癒しの天使がそんなこと言うはずがない。たぶん気のせいだ。

「それに、何よりこれだと夜のライディングに支障が」

「それ聞く度に心配必要ないかなって思いそうになるよー」

「心配して? もう梓だけが癒しだから」

「はいはい。大変だねー」

 と、梓が私の頭を撫でてくれる。責め具と強制された禁欲生活で荒んだ心が……。

「ッッ!!」

 ビクンビクン。

「……」

 梓が手を止め、絶句する。そして、ちょっと間を置いて、

「沙樹ちゃん。いま……もしかして」

「うん。イッちゃった。梓の手でイッちゃった♪」

 貞操帯の内側に噴いた潮が一気に。あぁ^~荒んだ心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~。

「もう、どうして沙樹ちゃんは何でもそっちに受け取るのー」

 梓が困った顔をしていう。

 段々絶頂が抜け落ち着いてくると、噴いた潮が貞操帯の穴から流れだしてるのがわかった。一応ナプキンが吸ってはくれてるけど、一度トイレで全部抜け出るのを待って、ナプキンも交換してから戻ったほうが良さそう。あと臭い対策も。

「梓、ごめん。ちょっと席離れるわ」

「うん。先生には今日も私が説明しておくね」

 うん、今日も。

 ここ数日、経緯は様々ながらトイレに駆け込んでは梓に色々と誤魔化して貰ってる。こういう時、無条件の味方がいるというのは真面目に頼もしい。性的な意味なしに。

「ありがと」

 と、私は一回合掌してからトイレへと走るのだった。

 

 この貞操帯は普通より排尿用の穴が小さい。そのせいで、一度潮を噴いたり尿を出す場合、貞操帯の外に全て出し切るのに結構な時間が掛かる。もちろん、その間にじっくり股部を蒸らせ、カブらせ、私を痒み責めにしながら。

「はぁ……」

 一体、いつになったら解放してくれるのだろう。早く夜のライディングしないと排卵が終わってしまいそう。

 なんて、誰かが聞いたら「阿呆か」と言われそうなことを割と本気で考えながら、ひとりトイレの個室に座ってた。すると、

「失礼します。大丈夫ですか?」

 と、私は個室の外から話しかけられた。

「その声は木更ちゃん? 正直キツい」

「私も辛かったです。鳥乃先輩、警察に突き出さないって言ったのに」

 ここ数日、愛しのかすが様とろくに接触できてないのだろう。木更ちゃんの声は苦しげだった。

「悪いわね。私が勝ってたら通報なしに終わらせれたんだけど、こちらも仕事だから。おかげで私も木更ちゃんと夜のライディングできなかったんだから、痛み分けってことで」

「……いま、衝撃の真実を聞かされた気がしましたけど。ツッコミは控えさせて頂きます」

「いやボケで言ったつもりじゃないんだけど」

「余計性質(たち)悪いのですけど」

 そういえば、私が勝った時の詳細彼女に言ってなかったけ。まさか負けてたら自分が襲われてたなんて、夜のライディングレズを経験させられてたなんて知ったいまの木更ちゃんは、一体どんな気持ちでいるんだろう。……あ、しまった! また濡れてきた。

「で、話はそれだけ? 悪いけどいま軽く鬱いから」

 主に、濡れた結果、潮の出が悪くなったせいで。

「いえ、今日はお願いがあってきました」

「お願い?」

「はい。……今度は私のボディガードをしてくれませんか?」

「っ」

 その言葉を聞いた私は、扉に背を預け、彼女だけに聞こえるよう小さな声で。

「詳しく」

「はい」

 木更ちゃんの声量も、同じように下がる。

「今朝、私はフィールを用いた強制デュエルを仕掛けられ、《アポクリフォート・カーネル》を奪われました」

「!? まさか、負けたの?」

「はい」

 信じられない。あのデッキで負けるなんて。

「実は、釈放された日からなのですけど、どうも誰かに監視されてる気配がありまして」

 なるほど。いま木更ちゃんは警察のお世話になり社会的に立場がかなり悪くなっている。警察の目さえ掻い潜れるだけのコネか情報があれば、いまの彼女はとても狙いやすい。

「その時は特に気にしてなかったのですけど。昨晩、かすが様のお宅に侵入を試みた所を狙われて」

 ちょっと待て。

「相手は二人組の男でした。夜ずっと逃げてたのですけど、早朝ついに補足されて」

 と、そこへ誰かの足音がトイレに近づく。すると、

「っ、先輩。……少し失礼します」

 ドアノブからカチャカチャと音。刹那、かけていた鍵がピッキングで開けられ、木更ちゃんが個室に飛び込んできたのだ。

「き、木更ちゃ!? え?」

 私は咄嗟にドアから飛び退きながら、入ってきた彼女の姿にハッとなった。木更ちゃんが着ていたのはチェックのブラウスにプリーツスカート。私服だったのである。しかも、所どころ破け、埃がついて、彼女自身にも小さな傷が幾つか見つかった。

「あなた、もしかして」

 私は物音を立てず、そっとドアを閉めなおし鍵をかける。

「はい。まだ逃走の最中です」

 木更ちゃんはいった。

「デュエルで負けてカードを奪われた後、私は口封じで殺されそうになりまして。ちょうど学校の傍でしたから逃げ込んで、ずっと隠れてました。まだ停学も解除されてませんから、先生に助けを求めるわけにもいかなく」

「そう」

 私は、そっと彼女の体を抱き寄せた。

「先輩……?」

「怖かったでしょ。もう大丈夫だから、木更ちゃんの安全は私が保証する」

「それって」

「依頼、受けるわ」

「あ……」

 すると、木更ちゃんは私にもたれかかって、

「ありがとう、ございます」

 と、弱弱しい声でいう。最初は震えていたけど、頭や背中を撫でてあげると私の胸の中で段々落ち着いていき。

 ああ、弱りきった女の子のこういう姿って最高にそそるわね。つけこんで陥落させちゃ駄目かな?……いやむしろかすが店長の為にも、ここで寝取ったほうが。あ、そうなるとこの子のストーカーが私に移るのか。それは嫌ね、店長には「あなたを殺して私も」はないって言ったけどいざ自分がその位置に立つと考えると……予感するわ。すごく怖いわ。やっぱりヤク打ってつぶ――

 

「沙樹ちゃーん」

 

 と、軽くトリップしかけた所で、私は個室の外からの梓による声でハッと現実戻った。

「ちょっと様子を見てくるっていって授業抜け出してきたんだけど。大丈夫ー?」

「あ、梓。うん、心配しなくてもだいじょ――」

 私は、返事しかけた所で、ふと木更ちゃんのことを思い出し、

「ぶ、と思うけど。ごめん梓、ちょっと今日は落ち着いたら早退するわ。先生に伝えといて」

 すると、梓は心配気な声で、

「そっかー。うん、分かったー。無理しないでねー」

 程なくして、梓の足音が遠のくのがわかった。教室に戻ったのだろう。

「ごめんなさい、早退させてしまって」

 木更ちゃんがすまなそうにいう。私は笑って、

「大丈夫。仕事上よくある事だから」

「そんなによく頼まれるのですか? ボディガードのお仕事」

「んー。まぁね」

 と、私は誤魔化した。

 そういえば、彼女は“法に護られた”表の世界の住人だっけ。そもそも、私の“仕事”をどこまで正確に認識してるのだろう。あの時はハングドの事も教えなかったし、木更ちゃん暴走してたし、それで私も対話を諦めて説明とか脇に置いてたし。

 私の仕事が慈善事業じゃなくて、完全にアウトローの裏稼業ってことは教えないほうが良さそうだ。

「ま、心配しないで。仕事のほうはちゃんと完遂するから。……ちょっとひとつ頼まれてくれれば」

「え?」

「いま私、貞操帯つけられてるんだけど。外してくれない?」

 

 

 木更ちゃんのピッキングは、組織特性の鍵錠ロックでさえ20分で攻略した。

 ……の、だけど。

「その後個室をいいことに依頼人を襲おうとしたら、貞操帯をつけ直されてしまったと」

 ハングドにおける幹部のひとり。立花 鈴音(たちばな すずね)さん(38)は、頭を痛めながらいった。

 “ある事情”もあって、その見た目は二十代前半。気難しそうな吊り眉に2対6本の縦ロール髪。これでゴスロリならお嬢様系のコスプレで通じるものの、残念ながら大真面目にスーツ姿。しかも童顔でもロリ属性でもないのに小柄な背丈に極貧乳なのもあって、一目で“残念”な印象を与えてくれる。

「針金でより強力な鍵錠を施されてね」

「自業自得ですわね」

 何故か話し方も“ですわ調”だし。

 鈴音さんはラウンジテーブルに紅茶とケーキを置き、微笑んでいった。

「藤稔 木更さんでしたわね? わざわざご足労様ですわ、こんなものでよろしければお召し上がり下さいませ」

 いま私たちはハングドが拠点としてるビルの一室にいる。

 表向きは漫画家事務所「スタジオミスト」として活動しており、その日もスタジオの副代表を兼任してる鈴音さんを筆頭に、一部の構成員たちが表稼業のアシスタントとして働いていた。

 私? 私は表のスタッフには登録してないからヘーキヘーキ。

 木更ちゃんの対面には席がふたつ置かれ、そのうちひとつに私は座って。

「という事で、事件が落ち着くまでの間あなたにはここで寝止まりして貰うけど、平気?」

「はい。それは構わないのですけど」

 と、木更ちゃんは辺りを見渡し、

「よろしいのでしょうか? ここの方々も仕事があるのに」

 ちなみに彼女には、ここが殺しも請け負うプロの巣窟だとは伝えていない。

「構いませんわ」

 鈴音さんがもう片方の席に座って、

「ここのスタッフも、何人かはフィールの扱いに長けてますもの。大体のことは仕事の片手間で対応できますわ」

 だから避難所として利用されるのは日常茶飯事なのだと鈴音さんは説明した。

 本当は何人どころか全員長けてるけどね。私より強いのもごろごろいるし。

「わかりました」

 木更さんはいった。普段の彼女がみせる柔和な微笑み顔。しかし、心の底では納得してないんだろうなーって風に見える。そんな様子は、当然鈴音さんにも伝わったのだろう。

「ただ、もし暇でしたら。ボランティアで臨時アシスタントをして頂けませんか?」

「え?」

「ここのスタジオの代表、まるでスタッフを使い潰す前提のブラックスケジュールを組むものですから。できれば手伝って頂けると助かるのですけど」

「……私でもできる仕事でしたら」

 木更ちゃんはゆっくりと頭を下げた。お引き受けします、と。

「話は決まったわね」

 私は立ち上がって、

「じゃあ木更ちゃん。私はちょっと奥に用事があるから一旦失礼するわ。何かあったら極力鈴音さんに聞くといいよ。ここの面子、この人以外基本非常識だから。私含めて」

「ありがとうございます、何からなにまで」

 感謝を告げる木更ちゃんに、私は笑顔でいった。

「別にいいわよ、今晩夜のライディングに付き合ってくれたら」

「では早速、鈴音さん。鳥乃先輩のこういう時の対処方法を教えて頂けますか?」

 ちょっ、待っ!?

「あとでフィールのついた《ハンマーシュート》をお渡し致しますわ」

「行ってきまーす」

 既に溜息吐きそうな鈴音さんを尻目に、私は奥の資料室へと足を運んだ。

 この部屋には、事務所メンバーによる単行本やその掲載雑誌が保管されており、辺り一面が棚に覆われている。

 そして、一箇所だけキャスターのついた移動棚が引き戸代わりに使われており、奥に進むとヘッドホンをつけた男がひとりデスクに座りパソコンに向かい合っていた。

 こっそり、私はパソコンのモニタを覗いてみる。

 フルスクリーンで表示されゲーム画面だった。そこに映るのは、小学生くらいの女の子。ボブヘアーに八重歯がチャームポイントの、明るく元気そうな子だ。……それが、夜のライディング的な行為をしている。

 この男は、職場でエロゲをしてたのだ。

 私は、こいつの背後から、

「何やってるのよ、増田」

「何って、今日買ったばかりの『相思相愛イカヅチの性活~お兄ちゃん、私がいるじゃない~』をだな。……って、うわっ」

 ここでやっと私に気づいたエロゲ男こと増田は、

「と、鳥乃か。脅かさないでくれよ」

「ヘッドホンでエロゲしてるほうが悪いんでしょ」

 私はマウスを奪ってゲームを終了し、「ああぁあああああああ!!」と嘆く増田に向かって、

「それで。私が頼んでおいた件は?」

 増田はショックからか、死んだ魚のような目で、

「イカヅチがモニターから消えた。この人でなし」

「また後で起動すればいいんでしょ」

「イカヅチは私の母になってくれたかもしれない女性だ。……その想い出を殺したお前に言えたことか!」

「セーブ……してなかったのね」

 それはご愁傷様。

「で、何しにきたんだよ」

「だから、さっきから報告をって」

「ああ。そうだったそうだった」

 ロリコンエロゲ男の増田は適当にあしらうような素振りで、

「勿論、大体の調べはついたよ」

 と、パソコン上で一個のフォルダデータを開く。その際パスワード入力画面が表示され「youjo」と打って解除していた。――確定ではないけど、キーを打つ指の動きから特定できた。

 木更ちゃんを事務所に連れてくる際、私は同時に「木更を襲った人を調べてくれ」と依頼していた。そして、担当してくれたのがこの増田である。

 ちなみに、その木更ちゃんからは男の詳細やデュエル内容は聞いてない。何故って……股間が限界で、最低限の聞き取りもすっかり忘れてたのよ。それで、ハングドに依頼して木更ちゃんを事務所に連れてきてって所で「あ、依頼者から情報収集できるじゃない」と気づいたわけで。もっとも動揺してて正確に状況を記憶してるとも限らないので、結局こちらで調べてもらったとは思うけど。

「確か、木更ってバ……君の後輩を襲ったふたりの男性だっけ? なんとか特定に成功したよ」

 おいロリコン。いま去年まで義務教育だった子をババア呼ばわりしなかった?

「どうやら、彼女を襲った者たちは『黒山羊の実』という組織の者らしい」

「黒山羊の実?」

 聞いたことのない組織だった。

「どうやら一種の宗教組織のようだけど、やってる事はマフィアと同じさ。カードの窃盗・偽造・密売、麻薬も取り扱ってると聞いたことがある」

「麻薬ねえ」

 かすが店長の目の前で木更ちゃんレズキメセクしてみたい。

「ただ、この組織は科学力が群を抜いてるようで、規模としては弱小ながらフィールで動かす機械人形を所有していたり、構成員たちに偽造コピーだけで作った【堕天使】デッキを支給しているようだ」

「フィールで動かす機械人形に、堕天使?」

 私は、少し前に引き受けた依頼でのことを思い出した。たしか美術館の時に戦ったコートの男も、機械人形を部下に配備し、堕天使モンスターを使ってたような。

「それはともかくとして、今回彼女を襲った構成員だけど」

 と、増田はひとつのフォトファイルをクリックする。そこに映ったのは、顔や背丈、体格までそっくりの、ふたりの牧師の姿だった。

 もみあげと繋がった特徴的な顎鬚にブロンドの髪。その眼差しは一見優しげだけど。

「彼らは通称テスタメント兄弟といい、左から兄のボブ・テスタメント、弟のバイブル・テスタメント。普段は近辺の教会で寝泊りしている」

「双子?」

「ああ。表の顔では人々にとても人望があるらしい牧師なのだけど、どうやら揃って男色のようでね」

 うげっ。

「元々彼らは熱心なプロテスタントだったようだが、そのせいで自らの性癖に悩んでたらしい。そこを“黒山羊の実”に付け込まれたそうだ。いまでは表向き牧師を続けながら、裏では従順な奴らの手駒さ」

「あー。そういう系かあ」

 こういうタイプは忠誠心や執念が強いから、付け入る隙が見つけないと下手な狂人よりずっと厄介な場合がある。もう少し情報が欲しいわね。

「そういえば、ふたつ程気になったんだけど」

「なんだ?」

「さっき、黒山羊の実を宗教組織って言ったけど、何の組織かわかる?」

「いや。そこまではまだ調べがついてない」

 増田は首を横に振った。

「ただ、一種の悪魔崇拝に似た雰囲気はある。それも現存のサタニストではなく、一般的にイメージするサバトの類でだ」

「調べがついてないって、その状態で遊んでたの?」

「あのなぁ」

 増田は肘をついて、

「何も脳筋ばりにしらみつぶすばかりが情報収集じゃないんだ。他所と連絡を取ったり、罠を張ったり、色々あるだろう」

「つまり、こうしてる間も調査は続いてるってこと?」

「そうだ。別に早くイカヅチともっこりしたくて、こういう手段を取ってるわけじゃないさ」

 そういうことね。

「で、気になることもうひとつっていうのは?」

「あーうん」

 まあ、これでも優秀なスタッフなんだしいいか。と、私は切り替え、

「えっとハラスメント兄弟だっけ? そいつらってそんなにデュエル強いの? あの木更ちゃんが負けるなんて」

「ハラスメントじゃなくてテスタメントな。それで、デュエルだけど実力は並程度だ。しかし、今回彼女が負ける理由は俺調べで3つも見つかった」

 3つも?

「その理由って?」

「まずひとつは、兄弟が仕掛けたデュエルがライフ・フィールド・墓地共有、兄・木更・弟・木更といった具合にターンを進行する良心的な2対1だったとはいえ、結局はハンドアドバンテージが圧倒的に不利だった事だ」

 けど、それだけでは理由にならない。木更ちゃんのデッキは一度型に嵌れば相手がふたりでも纏めてジリ貧に追い込むカードパワーを持ってる。

「そしてふたつめは。鳥乃は彼女を高く表現してるけど。君が負けた理由は、あの時苦し紛れにいった『9期テーマには勝てなかった』が9割9分正解なんだ。つまりは」

 あ……。

「気づいたみたいだな。そう、彼女はデッキが強いだけでデュエルの腕は並程度だ」

 そういえば、木更ちゃんとのデュエルも付け入る甘さは結構あったっけ。すっかり忘れてたよ。

「そして最後の理由だが。彼女はフィールを用いたデュエルの初心者だ」

 そこは、もしかしたらと考えてはいた。

「やっぱり」

「テスタメント兄弟は最初から飛ばしすぎず比較的堅実なプレイを好み、かつタッグの相性も当然良いせいで、彼女のほうがジリ貧に追い込まれて負けてたよ」

「え」

 私は、さっきの増田の言葉に強く反応する。

「いま。最初は飛ばさず、堅実なプレイをして、タッグの相性が良いって?」

「ああ」

 増田はうなずいた。

 見えてきた。

 予想外の所から、兄弟の付け入る隙を。

「ありがとう、増田」

 私はいった。

「これで、何とかなるかもしれないわ」

 

 

 ――現在時刻23:00

 いま、私はテンペスト兄弟(間違い)の教会に真正面から突入する所だ。

 兄弟には、増田から入手したテンペスト兄のメールアドレス宛に「今晩、23時頃に《アポクリフォート・カーネル》を取り返しにアンティデュエルを仕掛けにいく」と、これまた正々堂々と果たし状を送りつけておいた。

 話を聞いてる限り、兄弟は揃ってとても真面目で根が善人だ。木更ちゃんに対しても、強襲はしても不意打ちはしない。恐らく真正面から追いかけ、真正面から追い詰め、真正面からデュエルをしたのだろう。

 そして木更ちゃんが負けた後逃げ切れたのも、恐らくわざと「見失った」気がする。でなければ、木更ちゃんはとっくにフィールで実体化したモンスターに殺されてるはず。

 私は教会の扉を開けた。

 広がるのは、明かりの灯された礼拝堂。その奥に、テンペスト兄弟は立っていた。

「ジャスト23時半」「ようこそ来て下さった。ごきげんよう」

「わざわざ待ってくれるなんて律儀ね」

「時間を指定され」「出迎えを怠る等、失礼な行いはできぬ性分故」

 兄弟は言うと、ゆっくりと歩み寄る。

「初めまして、ミス鳥乃。ボブ・テスタメントと申します」

「弟のバイブル・テスタメントです」

「鳥乃 沙樹よ」

 お互いに自己紹介を終えた所で、本題に入ることにする。

「早速だけど、一応アンティを仕掛けるとはいったけど、好意で返してくれる気はない? 条件付きでも多少は考えるけど」

 例えば寝取りたい彼女持ちのイケメンを攫ってくれとか。もちろん彼女のほうは私が頂くけど。

「残念ながら」

 テンペスト兄は首を振り、弟が、

「他のカードなら、フィール・カード同士でトレードでもといいたいのですが、《アポクリフォート・カーネル》は上が求めてるもので、渡すわけにはいきません」

 そして兄が、

「本当なら既に上に献上していたはずのものを、貴方の連絡を受けて待って頂いてるのです。どうかご理解頂ける様」

「なるほどねー」

 この話が本当なら、呆れるほどガチでいい人だわこの兄弟。恐らく「このカードを餌にもうひとつカードを献上できます」とか報告したんだろうけど、それでも私のために相当頭を下げたんじゃないかな。

「じゃあ、いっそ組織を抜けて他所の善良な組織に匿って貰う気はない? いいトコ紹介できるよ」

 なお、いいトコとはハングドではない。

 世界の裏には、名小屋周辺でも色んな組織があって、その中のひとつにNLT(ナルツ)っていう治安維持組織がある。

 その組織は警察と連携しており、またこの地域の地主にして裏で官界・政界にも進出してる白樹家もバックについてる、いわばこの近辺の裏の守護神だ。

 ハングドとは直接協力関係にあるわけではないものの、共通の外部仲介業者と契約しあい任務や依頼を住み分けたり、時に互いに依頼を出し合う仲でもある。

 ハングドでもいいんだけど、テンペスト兄弟(まだ間違えてる)の性格から考えると、NLTのほうがいいんじゃないかなって思ったのだ。

 だけど。

「お気持ちは感謝致します。ですが」

「上は私共に一筋の光明を与えてくれた。私はあの方を裏切るわけにはいきません」

「例え自分たちがただの手駒だったとしても?」

『勿論』

 兄弟は、真っ直ぐこちらを見据え、口を揃えていった。

 分かってた事だけど、これは平和的に解決する手段はないわね。貞操帯で本調子じゃないから、できれば安全に解決したかったのだけど。

「了解。私もこれ以上は駄々をこねないわ」

 私はデュエルディスクを構えていう。そして、ふたりのディスクを強制的にデュエルモードへ移行させ、

「じゃあ、宣言通り私とアンティデュエルをして貰うよ。私が勝ったら木更ちゃんから奪ったカードを返して貰う」

『私たちが勝ったら?』

「ひとり1枚ずつ、好きなフィール・カードを持ってっていいわ、それでオッケー?」

「構いません」「私も構いません」

 兄弟はいい、そして既にデュエルモードになってるデュエルディスクを構える。

「ルールは木更ちゃんにしたのと同じ、ライフ・フィールド・墓地共有、私のターンを挟んで交互にそちらのターンを行ってもらう。これでいい?」

『承知した』

 デュエルディスクが音声認識機能によって、タブレット端末画面にルールが表示される。三人全員の承認が確認され、

『デュエル!』

 三人の発声によって、デュエルは開始された。

 

 

沙樹

LP4000

手札5

 

テスタメント兄弟

LP4000

ボブ:手札5

バイブル:手札5

 

 

「先攻を頂きました」

 デュエルディスクは先攻プレイヤーに兄弟の兄ボブを指した。

「私は手札から邪典……《堕典使ブックス》を召喚」

 ボブのフィールドに現れたのは、《光天使(ホーリー・ライトニング)ブックス》を2Pカラーの黒色にしたようなモンスター。

「このカードは聖典の典の文字で表記されてるがルール上堕天使として扱う。そしてブックスのモンスター効果! 1ターンに1度、手札の堕天使魔法・罠1枚を墓地に送る事で発動。私は《堕天使の戒壇》を墓地に送って発動。手札から《堕天使アスモディウス》を特殊召喚する」

 《堕典使ブックス》の効果もまた《光天使ブックス》の亜種みたいな効果。そしてフィールドに現れたのは、またあの攻撃力3000堕天使のひとつ。

 前のコートの雑魚と微妙にデッキは違うっぽいけど、同じテーマなだけあって、また目にする事になるなんてね。

「《堕天使アスモディウス》の効果、デッキから《堕天使スペルビア》を墓地に送る」

 スペルビアは墓地から特殊召喚した時に、墓地の天使族1体を引っ張ってくる。そしてボブは堕天使専用の蘇生カード《堕天使の戒壇》を墓地に送った。そして、一部の堕天使モンスターは揃って墓地の「堕天使」魔法・罠の効果を使う共通効果を持っている。

 増田のいう通り、堅実に準備を整えてきたわね。

「私はこれでターンエンドになります」

 とはいえ、伏せカードを敷かずに終わったのはこちらとしてはラッキーといえる。

「私のターン。ドロー」

 次は私の手番。カードを1枚引き抜き、手札を確認する。

 どうやら、このターンはアスモディウスを除去するので精一杯みたい。

「私は《幻獣機テザーウルフ》を召喚。召喚成功時、効果によって幻獣機トークンを1体生成」

 私はフィールドに一機の戦闘ヘリを呼び出し、その横に同じ形状をしたホログラムのデコイを作り出した。

「そして、装備魔法《団結の力》をテザーウルフに装備、攻撃力を私のモンスターの数×800アップ」

 テザーウルフに装備魔法が付与されると、先ほどのデコイから一筋の光が伸び、テザーウルフと繋がる。

 

《幻獣機テザーウルフ》 攻撃力1700→3300

 

「そして、攻撃力が3300になったテザーウルフで、《堕天使アスモディウス》を攻撃」

 攻撃の指令を受けたテザーウルフは、鎖を飛ばしてアスモディスの体を拘束し、デコイと連携した射撃攻撃でモンスターを爆破した。

 

 テスタメント兄弟 LP4000→3700

 

 アスモディウスは攻撃表示だった為、その差分だけテスタメント兄弟のライフを削る。けど。

「アスモディウスは破壊された場合、アスモトークンとデウストークンの2体を特殊召喚する。両方とも守備表示」

 しまった。そんな効果もあったっけ、すっかり忘れてた。

 とはいえ、いまの私の手札にこれを対処する手段はない。

「カードを1枚セット。ターンを終了よ」

 うーん、作戦が上手くいかない。皮肉にも男相手のおかげで貞操帯の内側は今日一番に落ち着いてはいるけど。

「では、次は私のターンですね」

 弟、バイブルがいった。

「バイブル、頼みましたよ」

「ええ、兄さん。行かせて頂きます。ドロー」

 バイブルは既にやるべき行動を決めてたのだろう、すぐ手札を2枚引き抜き、墓地へと送った。

「私は《堕天使イシュタム》の効果を使用します。イシュタム自身ともう1体の堕天使カードを墓地に送る事で発動。私は《堕天使マスティマ》と一緒に捨ててカードを2枚ドローします」

 これで相手は手札交換をしつつ、スペルビアで蘇生するモンスターを墓地に送ることに成功。

「そして墓地の《堕天使の戒壇》をデッキに戻し、魔法カード《堕天使の祭典》を発動。このカードは墓地の堕天使魔法・罠をデッキに戻して発動し、その効果を適用するカード。私は《堕天使の戒壇》の効果を適用し、《堕天使スペルビア》を守備表示で特殊召喚」

「待って」

 私は《堕天使の祭典》にチェーンし、手札からカードを墓地に送る。

「その前に、私も手札の《幻獣機ジェイクローチ》の効果を発動」

 すると、教会の床を海面に一機の黒光りする水上偵察機が姿を現した。

「このターン、私は相手がモンスターを特殊召喚する度に幻獣機トークンを特殊召喚する。これによって《堕天使の祭典》によってスペルビアが特殊召喚されて1体、スペルビア自身の効果を使うならもう1体トークンを呼び出すわ」

 顔をしかめるボブ。けど、ターンプレイヤーのバイブルは何てことなさそうに。

「承知した。改めて私は《堕天使スペルビア》を守備表示で特殊召喚し、スペルビアの効果で《堕天使マスティマ》を特殊召喚。トークンを2体生み出してください」

「はーい」

 言われた通り、現れた2体の堕天使に続いて、ホログラムの水上偵察機が2体顔を出す。よく見ると先端の形状は……Gとよばれる生きた化石。

 私が呼び出してあれだけど。……うん、キモい。

 とはいえ、これで幻獣機トークンは3体。これ全部破壊しなければテザーウルフは破壊できない上、

 

《幻獣機テザーウルフ》 攻撃力3300→4900

 

 そのテザーウルフも、《団結の力》でこんな風になってるのだけど。

「で、その様子を見るに何かこの状況に対策でも?」

「当然」

 バイブルはいった。すると相手のトークン2体が光の粒子に変わり、上空へと吸い込まれていく。

「私はアスモトークンとデウストークンをリリースし、《堕天使ゼラート》をアドバンス召喚」

 そして、上空から降臨したのは攻撃力2800の新たな堕天使。

「私は手札の《堕典使ブックス》を墓地へ送り、《堕天使ゼラート》の効果を発動。このモンスターは、手札から闇属性モンスター1体を墓地へ送る事で相手フィールドのモンスターを全て破壊します」

 ゼラートがその手に持つ剣を天に掲げると、教会内の空間が闇色の曇り空に変わり、一本の稲妻が落ちた。

「っ、けど《幻獣機テザーウルフ》は私のフィールドにトークンがいる限り破壊されない。3体のトークンは破壊されても、テザーウルフは生き残るわ」

 稲妻は全てのデコイを破壊するも、テザーウルフはなんとか被害を免れる。でも、

 

《幻獣機テザーウルフ》 攻撃力4900→2500

 

 フィールド上のモンスターが1体だけになったことで、《団結の力》の影響も大幅に減ってしまった。そして、現在フィールドにいる堕天使はブックスを除いて全員最上級モンスター。守備表示のスペルビアはともかくとしても、いまのテザーウルフなら、ゼラート(攻2800)でもマスティマ(攻2600)でも素で戦闘破壊できてしまう。やっぱ堕天使ってパワー高いわ。

「バトルフェイズに移行しましょう。《堕天使ゼラート》でテザーウルフに攻撃」

 攻撃の指示を受けたゼラートは、今度は先ほどの剣を直接テザーウルフへと向け、斬りかかる。

「手札の《幻獣機ジョースピット》を墓地に送って効果発動!」

 そこへ現れたのは、一機の鮫口の戦闘機。

「この効果は、幻獣機が戦闘を行うダメージステップ時からダメージ計算前にジョースピット自身を墓地に送って発動可能。ターン終了時までテザーウルフの攻撃力を400アップし、さらに幻獣機トークンを1体生成」

 さらに、ジョースピットと同じ外見をしたホログラムのデコイが現れ、3機で陣形を組みつつ《団結の力》によってトークンから伸びた光がテザーウルフと繋がる。

 結果、ゼラートの剣撃は3機のフィーメーションによって回避し、反撃の機銃で返り討ちに成功。相手のライフを更に削る結果に持ち込んだ。

 

《幻獣機テザーウルフ》 攻撃力2500→3700

 テスタメント兄弟 LP3700→2800

 

「そして、トークンがフィールドに現れたことで、再びテザーウルフは破壊されなくなったわ」

「ううっ」

 さすがに今度はバイブルのほうも顔をしかめる。

 ボブはいった。

「仕方ありませんね。せめてマスティマでトークンを破壊しましょう」

「分かりました、兄さん」

 バイブルはうなずく。

 気づいちゃってたか。いまテザーウルフの攻撃力はジョースピットの効果でも上昇して、トークンなしでも攻撃力2900。攻撃力2600のマスティマでは破壊できないことを。

 ここでトークンを仕留めるのは、ブックスではなくマスティマで行うのが正解なのだ。

「《堕天使マスティマ》でトークン破壊します」

 マスティマの一撃がデコイを粉砕し、

「カードを1枚セット。《堕典使ブックス》を守備表示にしてターンを終了しましょう」

 うーん。ブックスでトークンを攻撃ってしてくれたら、表示変更できなくなって、次のターンにいい的になったんだけど。仕方ない。

 

 

沙樹

LP4000

手札1

場:《幻獣機テザーウルフ》《団結の力(テザーウルフに装備)》《伏せカード(×1)》

 

テスタメント兄弟

LP2800

ボブ:手札2

バイブル:手札2

場:《堕天使マスティマ》《堕天使スペルビア(守備)》《堕典使ブックス(守備)》《伏せカード(×1)》

 

 

 再び私のターンがまわってきた。さて、早速だけどこのターンが勝負所ね。私はドローする指にフィールを多く集める。

 こうする事でドロー運を高めることができるのだ。そして、このフィールを多めなんていわず殆ど使い切る勢いで行うドローが、この前木更ちゃん相手にやってみせたダークドローである。

「私のターン。ドロー」

 私はフィールを込めた指でカードを引き抜く。

「む」「仕掛けてくるか」

 兄弟たちも気づいたようで、警戒を強める。

 そして、引いたカードは。

「きたきた。私は《幻獣機メガラプター》を通常召喚」

 私は、早速いまドローしたカードをフィールドに召喚し、

「さらに永続罠カード《空中補給》を発動。効果でフィールド上に幻獣機トークンを1体生成。さらに《幻獣機メガラプター》は1ターンに1度、トークンが特殊召喚された時に幻獣機トークンを更に1体生成する効果を持つ。これで私は2体の幻獣機トークンをフィールドに呼んだわ」

 出現するメガラプターと同じ外見のホログラムデコイ。

「そして、手札から魔法カード《マジック・プランター》を発動。《空中補給》を墓地に送って2枚ドローする」

 私は再び指にフィールを込め、そしてカード引き抜く。しかし、

『させません』

 ここで兄弟は両の掌を突き出し、フィール・エネルギーで作った波紋を放ってきた。

「しまっ」

 以前もちらっと触れたけど、基本的にフィールは同じフィールをぶつける事で相殺できる。指に込めた私のフィールは、兄弟の放った波紋によって消失してしまった。

 私の手には、すでに引き抜かれた後の2枚のカード。もちろん、このドローにはフィールの補正は入っていない。

「(不味いわね)」

 このターンだけで結構フィールを消費してしまった。リアルファイトする分には問題ないだけのフィール量だけど、そろそろふたりがデュエルにフィールを込めた行動、例えばモンスターの攻撃をリアル(質量をもつ)ソリッドビジョン化させて攻撃したり、私がしたようなフィール込みのドローをされると少々防ぎきれないかもしれない。

 だけど、私にはここまでしないといけない理由があった。なぜなら、このターンで決めないと私はどの道負ける。

 やっぱり、2対1はハンドアドバンテージに差がありすぎるのよね。それでも私が勝機ありとみてアンティを挑んだ理由は、相手が「最初から飛ばしすぎず比較的堅実なプレイを好む」みたいだから。

 つまりは逆転の発想だった。ふたりのエンジンが入りきる前に、具体的には相手に二巡目がまわってくる前に倒してしまえと。

 さて、現状を把握しよう。

 現在、私のモンスターは4体いるからテザーウルフの攻撃力は4900だけど、相手の表側表示モンスターの《堕天使マスティマ》と戦闘しても相手のライフは500残ってしまう。メガラプターで守備表示のブックスを破壊し全滅させた所で、幻獣機トークンの攻撃力は0、そもそも守備表示で出している。

 いまのフィールドのままでは勝利することができない。

 私は、ここで初めて引いた手札を確認した。

 1枚は《弾幕回避(バレル・ロール)》。幻獣機トークンを全てリリースして発動するカウンター罠。といっても、このターン使えない時点で、ねえ。

 そしてもう1枚は《RUM-アージェント・カオス・フォース》。

「(あ)」

 私はふと気づいた。

 いま幻獣機トークンは2体。フィールドのメガラプターとテザーウルフは、いまレベル10になってる。つまり、ランク10のエクシーズモンスターを召喚可能。

 そして、このRUMがあれば。

 頭の中で勝利の方程式が組みあがっていく。これは、いけるかも。

「どうやら、せっかくフィールで妨害したのに無駄になったみたいね」

 とりあえず、私は虚勢を張ってみる。

「む」「何か引いたのですか」

 相手はまんまと虚勢に乗せられた。まあ、確かに引いたことは事実ではあるけど。

「私は、レベル10となったメガラプターとテザーウルフでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築」

 教会の床に銀河の渦が出現すると、2体の幻獣機は霊魂となって取り込まれる。

「なんと!」「ランク10ですか」

 驚く兄弟。私はエクストラデッキから目当てのカードを出し、

「古代国家の名を持つ空の宮殿よ、いまこそ降臨し、私に勝利と繁栄をもたらして! エクシーズ召喚! 発進せよランク10、《超巨大空中宮殿ガンガリディア》!」

 現れたのは、とにかく巨大な一機の母艦。その攻撃力もランク10なだけあって素で3400と青眼超え。

『なんと……』

 驚く兄弟。

「だが」「しかし」

 とはいえ、まだ対処手段を残してるらしいふたり。やっぱり、あの伏せカードなのだろうか。

「ガンガリディアのモンスター効果。オーバーレイ・ユニットをひとつ使って、相手フィールド上のカードを1枚破壊し、相手に1000ポイントのダメージを与える」

『なっ』

「私は、その伏せカードを破壊」

 ガンガリディアは機動する。その下底部から、オーバーレイ・ユニットとして消費された《幻獣機メガラプター》が無数に発進すると、伏せカードは機銃の弾幕を浴び破壊される。

 伏せカードは《次元幽閉》だった。

「《超巨大空中宮殿ガンガリディア》の効果は1ターンに1度しか使えなく、このターン中、ガンガリディアは攻撃できなくなるわ」

 説明すると、兄弟はどこか安堵の様子をみせた。

 さっきの《次元幽閉》が秘策だったのだろう。これなら確かにトークンで耐性持ったテザーウルフだろうと除去することができる。破壊はされてしまったが、結果的には攻撃を止めることができてほっとなったのだろう。

「だから、さらにエクシーズ素材になって貰うわ」

『!?』

 そして一転驚愕の表情。

 私は言葉で兄弟を振り回してから、

「《RUM-アージェント・カオス・フォース》を発動!」

 と、カードを発動した。

「私はこの効果で《超巨大空中宮殿ガンガリディア》をランクが1つ高いCX化させる。私はガンガリディア1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築」

 今度は上空に銀河の渦が出現し、ガンガリディアは霊魂となって吸い込まれる。

「冒涜なる科学の力よ、いまこそ国家を要塞へと改造し、私の勝利を磐石にして! ランクアップ・エクシーズ・チェンジ! 機動せよランク11、《CX 超巨大空中要塞バビロン》!」

 銀河の中から降り立ったのは、一機の戦艦型の要塞。その攻撃力は3800と更に上がっている。

「これで私はバビロンで攻撃が可能」

 私は一体の堕天使に向けて腕を向け、いった。

「《CX 超巨大空中要塞バビロン》で《堕天使マスティマ》に攻撃。砲撃開始!」

 バビロンはゆっくりとマスティマに標準を合わせると、ビーム状の主砲をマスティマに浴びせ、塵ひとつ残さず消滅させる。

「この戦闘でマスティマとの攻撃力の差分、1200ポイントのダメージが入る。そして、バビロンは破壊したモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える」

 主砲は勢い余って兄弟の下へも届き、そのライフを一気に削りとった。

「これで私の勝ちね」

 

 テスタメント兄弟 LP1800→600→0

 

 兄弟の前に、ライフ0と勝敗の決定を告げるビジョンが表示され、デュエルは私の勝利で幕を閉じた。

「そんな、私たちが」「負けた……」

 放心する兄弟。他のビジョンが消える中、私はバビロンだけを召喚したままにふたりの下へと歩み寄る。

「じゃ、約束通りあの子のカードは返して貰うわよ」

 私がいうと、ボブの服の内側から一筋の光が浮かび上がる。それはゆっくりとこちらに向かってきて、私の手元で《アポクリフォート・カーネル》に姿を変えた。

「これでミッション終了っと」

 私がいうと、

「こ、こうなったら!」

 弟のバイブルは懐から銃を取り出し、構える。

「よせ、バイブル!」

 兄のボブは止めるも、

「止めないでください兄さん。これを易々渡しては私たちの身が」

 と、バイブルはトリガーを引きかける。けど、

「なっ」

 驚くバイブル。

 その瞬間、私の撃った銃弾が彼の銃を弾き飛ばしたからだ。

 弾丸は本物。しかしフィールでコーティングしたことで、逆にゴム弾のように威力は弱まり、兆弾で相手を死傷させるような危険は抑えてある。

「銃を隠し持っておりましたか」

 ボブは転がった弟の銃を拾い、懐へとしまう。

「しかし、銃を取り出す姿はみえなかった。一体どこから」

「秘密」

 私はいった。()()()手首に煙があがってたので、私は衣服でさっと払い、

「今回は殺さないよう配慮はしたけど、二度目はないからね」

 その言葉にバイブルは苦味の入った顔で睨み付ける。

「……」

 一方、ボブは無言でバイブルをみてから、

「弟がすみませんでした」

 と、頭を下げた。

「ん」

 私は、そんな兄の態度ごとさらっと流し、

「じゃ私はこれで失礼するわ。早く木更ちゃんに夜這いのライディング仕掛けに行きたいし」

 貞操帯はずして欲しいし。

『ん?』

 すると、なぜか兄弟はきょとんとして、

「失礼ながら」「もしや、そういうご趣味をお持ちで?」

「レズは人生」

『おお、同士でありましたか!』

 兄弟は嬉しげにいい、

「そう言って頂ければ」「好意でカードをお返ししたものを」

 え?

「何か夜這いに必要なものはありますか?」「拘束具や聖油などならお貸しできますよ?」

 は?

『私たちは『黒山羊の実』に誓いました。この世全ての同性愛者の友となることを。……私たちはあなたの夜を全力で応援しましょう』

 えっと、『黒山羊の実』って一体何の組織なの? 易々渡したら身が危ないんじゃないの? そもそも敵にそんな施していいわけ?

 ああ。そこもカオスな組織なのね、ウチみたいに。

「あ、ありがとう。けどいいや」

 とりあえず私は断った。男の汗の染み込んだ拘束具とか使いたくないから。

「そうですか」「力になれず申し訳ございません」

 こうして、私は兄弟に見送られながら教会を後にした。

 

 

 ――現在時刻0:05

「ただいまー」

 ギリギリ日付変更に間に合わなかったものの、私は事務所へと帰還完了。

「ミッション終了。カード取り返してきたから」

「お疲れ様ですわ」

 迎えてくれたのは鈴音さんだった。いや、厳密にいうと鈴音さんが遠隔操作しているAIBOに似た人型ロボットだ。本体は恐らく帰宅済なのだろう。一応あの人シングルマザーだし。そう、あの髪あの見た目あの口調でよ。

「今日はお疲れでしょう、カードの返却は私がやっておきますからシャワーでも浴びてすっきりして下さいませ」

 とはいっても、見た目と口調以外は組織一の良識人で常識人。気配りもあって本当に助かる。普段は残念な部分のせいで対象外だけど、見た目の若さと大人の心遣いのせいで、たま~に血迷って襲いたくなってしまうのよね。さすがに偽AIBOを押し倒そうとは思わないけど。

 それに、いまは……。

「貞操帯つきで?」

「失念してましたわ」

 偽AIBOの動きが止まる。恐らくリアルのほうで頭を抱えてるのだろう。

「というわけで、鍵を返してほし……あ」

 そういえば、木更ちゃんの魔改造が施されてたんだっけ、貞操帯。

「木更さんなら給湯室におりますわ」

 鈴音さんはいった。

「え? まだ起きてるの? それに給湯室って」

「アシスタントを頼みましたでしょう。そしたら予想以上に小回りの利く方でしたので、普段私がしている雑用全般を教えまして」

 いま、さらりと雑用を自分の仕事とか言っちゃってるけど、この人スタジオとしては副代表なのよね。

「そしていまは皆の夜食を作っておりますわ」

 木更ちゃんの夜食かあ、そういえば炊事とか結構得意なんだっけあの子。まあ私は夜食に木更ちゃん本人を食べたいけど。

「あ」

 私はハッと気づいた。

 いまなら台所に立ってる彼女を後ろから襲って悪戯できるじゃない!

「じゃあ、顔を出してくるわ」

 こうなったら居ても立ってられない。私は急いで給湯室に向かった。

 

「か~すが~の“か”~は~かわいい~の“か”~」

 木更ちゃんは、変な歌を歌いながら給湯室に立っていた。それで、

「ぶほっ」

 その歌の内容に私はむせた。

「かっちゃんはね。かすが様ってい~うんだホントはね」

 しかし、幸運にも木更ちゃんは私に気づかず歌い続ける。っていきなりサッちゃんの替え歌に!?

「いいな~いいな~かすが様っていいな~」

 そしてまた別の替え歌に移行する。脊髄の反応するままに口ずさんでるのだろう。なんていうのかカオスとしか言いようがない。かすが様の顔も性格も知ってるものだから余計に。

 しかし、炊事をしている木更ちゃんの後ろ姿そのものはとても天使だった。ロングヘアの見た目清純美少女がベージュのエプロンを着込み、歌にあわせて体とかお尻が僅かに揺れ動いてるのだ。もうね、貞操帯で禁欲性格強いられてる身としてはたまらんわけよ。

 私はしのび足でそーっと近づく。

「はあ、はあっ」

 やばい私。興奮しすぎてキモい位に息荒くしてる。けど、仕方ないわよね? もうすぐ……もうすぐ目の前の女の子を毒牙にかけられるんだから。

 とはいえ、蒸れに蒸れた私の股間も正直限界に近い。興奮しすぎてさっきからえっちなお汁が大洪水だし、痒くて痒くて仕方ない所を発情のムラムラがダブルパンチで責めたてる。さらに尿意まで催してきたせいで、辛さのあまり意識が朦朧としてきた。

 けど、負けられない。

 せめて背後から木更ちゃんの胸をまさぐる。それだけでも完遂しなければ私のプライドが。

「―zy, Kee―――!! も――――く――」

 木更ちゃんはまた別の曲を歌いはじめる。しかし、すでに私は彼女の歌に耳を傾け発音を聞き取るだけの余裕はない。いま私の脳裏で流れる幻聴は、某UC。ん? 流れ変わったな。

 そして。

 一歩、また一歩、気づかれないよう細心を払い、私はついに手が届く位置まで接近できた。脳内BGMもちょうど完全勝利するタイミング。さあ、夜のライディングデュエル! アクセラレ――。

 

「いくぜ Kasuga Mind!」

「ここでClear Mind!?」

 

 私は反射で突っ込みを入れてしまい、

「え?」

「あ」

 振り向く木更ちゃん。

 その瞬間、私は限界に達した。

「あー…ぁー…ぁー…」

 抑え込んでた防波堤が決壊し、一切の緊張が途切れ脳裏での盛り上がりに併せて――失禁ア○メ!

「アーーアアアーアーアー」

 天を仰ぎ、私はひとりコーラスしながら腰から崩れ落ちる。あああ、おしっこでアソコを洗う刺激がこんなに気持ちいいなんて。

 そのまま私は大の字で倒れ、白目を向きつつ床に聖水を施しビクンビクン。

「鳥乃先輩。いつ戻……っ、て……」

 木更ちゃんの顔がみるみるうちに青く、そして真っ赤になる。

 そして、おもむろにデュエルディスクを装着し《ハンマーシュート》を握ると、

「き、きゃあああああああああああああああああああああ!!!」

 真っ直ぐ、私に振り下ろしたのだった。




●今回のオリカ

堕典使ブックス
効果モンスター
星4/闇属性/天使族/攻1600/守1400
このカードはルール上「堕天使」カードとしても扱う。
①:1ターンに1度、手札の「堕天使」魔法・罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。
手札から「堕天使」モンスター1体を特殊召喚する。

堕天使の祭典
速攻魔法
①:自分の墓地の「堕天使」魔法・罠カード1枚を対象として、そのカードをデッキに戻して発動できる。
その魔法・罠カードの効果を適用する。

幻獣機ジェイクローチ
効果モンスター・チューナー
星1/風属性/機械族/攻 200/守 500
「幻獣機ジェイクローチ」の①の効果は1ターンに1度しか使用できず、相手ターンでも発動できる。
①:このカードを手札から墓地へ送って発動できる。このターン、以下の効果を適用する。
●相手がモンスターの特殊召喚に成功する度に、自分フィールドに「幻獣機トークン」(機械族・風・星3・攻/守0)1体を特殊召喚する。
②:自分フィールドにトークンが存在する限り、このカードは戦闘・効果では破壊されない。
③:自分フィールド上のトークン2体をリリースして発動する。手札・墓地からこのカードを特殊召喚する。
(零式水上偵察機ジェイク+コカローチ)

幻獣機ジョースピット
効果モンスター
星3/風属性/機械族/攻1400/守 900
①:自分の「幻獣機」モンスターが戦闘を行うダメージステップ開始時からダメージ計算前までに、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。
そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで400アップし、自分フィールドに「幻獣機トークン」(機械族・風・星3・攻/守0)1体を特殊召喚する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
②:このカードのレベルは自分フィールド上の「幻獣機トークン」のレベルの合計分だけ上がる。
③:自分フィールド上にトークンが存在する限り、 このカードは戦闘及び効果では破壊されない。
(スピットファイア+ジョーズ@サメというよりあご)

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