遊☆戯☆王THE HANGS   作:CODE:K

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MISSION19-2日目Side木更

 私の名前は藤稔 木更(ふじみのり きさら)。陽光学園高等部一年の女子高生。

 そして、かすが様愛です。

「ちょっとメールちゃんと風俗行ってくるわ」

 二日目、朝。早速鳥乃先輩が酷い台詞を吐いて、

「はいアウト」

「ひでぶ!」

 徳光先輩からハンマーを受けてました。

 この日は夕方まで自由行動で、みんな揃って旅館を出て、いざ解散という所で起きた事件でした。

「あの先輩気持ちは分かりますけどみんなが」

 私が止めると、徳光先輩は「あ」となって、

「ごめんなさい」

「気にしないでください」

 だって、私もメールちゃんが巻き込まれて、手がつい防犯ブザーに伸びてましたから。

「ですけど、あんな光景を見てしまって小学生組が」

 と、私は様子を窺った所、

 

「す、凄い。ソリッドビジョンが本物みたいに」

「ねえ!ねえ!それどうやったの? 昨日のかすが様のカードも実体化できるの?」

「これが……古の魔術か」

 

「大丈夫そうですね」

 私はほっと安堵します。どうやらソリッドビジョンのリアル化の衝撃が大きかったみたいで、鳥乃先輩が潰れてるのが目に入ってなかったみたいでした。

「姉さんは、今日はどちらへ向かわれますか?」

 そこへ深海ちゃんが訊ねてきました。親戚の中では私によく似た容姿をした子で、私自身も親戚の中で一番仲が良いつもりでいます。

 私は「うーん」と考えつつ、

「実は何も考えてなかったのよねぇ、彩土姫ちゃんたちは何か予定は?」

 と、訊ねようとした所、その彩土姫ちゃんはメールちゃんに興味津々って顔で、

「で、さ。でさ、本当に行くの? 風俗、風俗」

「い、行かないよー」

 メールちゃんはにこっと笑って、

「だって今日の彩土姫ちゃんの分も残しておかないと」

 なんて爆弾発言。

「え」

 その言葉に、私は絶句してしまいました。見ると周囲もみんな固まってて、

「うわマジかー。雨降って地固まれとは思ってたけど、たった一晩でこれかよ」

 勘弁してくれって顔で地津ちゃんがいいます。痛みっぱなしのロング髪に眼鏡が特徴の子で、今日も伸び切ってダボダボのシャツ1枚に短パン姿と親戚の中で特に洒落っ気がないので、密かに姉として心配です。

 この前なんて、珍しく自分で服買ったと聞いて姉として嬉しくなってフォトデータを頼んだら「働いたら負け」ってプリントされた白一色のTシャツで。元ネタ知らなかったせいで、悲しさで泣きそうになりました。

「私……百合は、あまり……」

 冥弥ちゃんは明らかに引いてるご様子。彼女はボブカットの髪型をした物静かな子です。感情を顔に出すのが苦手で、そのせいでミステリアスな印象を受けますけど、性格のほうも実は表情が乏しいだけで本当は凄く感情豊かな子ですし、凄く美人さんなんですよ?

 まあ、実は重度の腐女子という濃い一面がすべて台無しにしてるんですけど。その上、いまはドン引きしてる冥弥ちゃんですけど、数時間後には百合にも目覚め(MISSION18参照)て更に濃くなってしまうわけでして。

「ま、まあ。仲良きことは仲良きことは美しいのだ」

 ゼウスちゃんは、少し頭がショートちゃってるものの、一応祝福する側のようでした。ただ、肉体関係のほうに頭が追いつくのはもう少し後かもしれません。

 私や深海ちゃんより更に長い髪を後ろでひとつに縛り、大きく「神」と書かれた黒一色のTシャツ姿。洒落っ気がない地津ちゃんも心配ですけど、彼女は本気でファッションのつもりらしくて、来年は高校生になるのにこのセンスと、こちらも姉として心配でたまりません。

 そして深海ちゃんは、

「姉さん。ライバルがふたり減りましたね」

 ひとりだけR-18的な意味込みでふたりの関係を喜んでました。その上、

「姉さんも、かすが様から鳥乃さんに乗り換えては如何ですか?」

「深海ちゃん……」

 この子だけは、本気でかすが様が絡むと親戚全員敵認定するんですよね。比較的平気なのは、自分がくっつこうとは思ってない冥弥ちゃんと、実は親戚で唯一かすが様LIKE勢の水姫ちゃんくらいでしょうか。

 私は微笑んでいいました。

「ごめんなさい、私ノーマルですから」

 とはいえ、実の所先輩に心は許してはいるんですけどね。先輩は私を黒山羊の実から助けて下さった恩人ですし、抱きしめてもらうと凄く安心するんです。まあ、抱きしめ方に女性をオトすテクニックが入ってるのは分かってるので防犯ブザーは常に手元に。……あ、でも最近は、その防犯ブザーでからかうのも楽しかったりして。今度、脈ナシなのにちょっと先輩を誘惑して、襲われかけた所を防犯ブザー鳴らしてみようかな。なんて考えてたりします。

 そんな感じで、最後に脱線はしましたけど年長組の様子を見て現実逃避してた所、

「と、とりあえず風俗ってのは冗談だけど、ちょっと色々あって今日私とメールちゃんのふたりで見て回る約束しちゃって、じゃ行ってくるわ。メールちゃん、ほら行こ」

 って、鳥乃先輩はメールちゃんを連れて行ってしまいました。

(あ)

 そうでした。先輩とメールちゃんは、今日は監査の仕事で高村司令とハイウィンドの下に行く予定だったのです。その口実に風俗というのはあまりに酷いですけど。

「…………不安だわ」

 つい、私は呟きます。先輩がメールちゃんに手を出さないのは間違いありません。けど、風俗に連れて行ったり、はたまたメールちゃんが鳥乃先輩から悪い影響を受けないって保証もないのですから。

 そんな風に考えてたのは私だけじゃないみたいで、

「徳光さん、大丈夫なのか鳥乃さんは」

 と、徳光先輩に訊ねるナーガちゃん。先輩は「うーん」と難しい顔で、

「基本的に沙樹ちゃんって大の子供嫌いだから大丈夫、と思いたいんだけど」

「だけど?」

「何だか沙樹ちゃん、ナーガちゃんとメールちゃんには心開いてるように見えるんだよね。だから、もしかしたらもしかするかも」

「ならアタシと一緒に監視しねーか」

 なんて、話に割り込んだのは地津ちゃん。

「元々自由行動なんて面倒臭いから、適当に冷房効いたネット喫茶で時間潰そうと思ってたんだ。こいつでも飛ばしながら」

 と、地津ちゃんが見せたのはプロペラのついた小型の機械が何個か。

「何だこれは」

 ナーガちゃんが訊ねると、

「超小型のドローンだぜー。こいつのカメラをネット喫茶のパソコンに繋いでしまえば、一歩も外に出る事なく観光旅行」

「お前なあ」

 ため息を吐きながらナーガちゃんはデュエルディスクのタブレットを開き、

「それじゃあ観光旅行にならないだろ、何のために名小屋まで来たんだ」

 そんな時、私のタブレットがメールを受信します。

 送信者はまさにそのナーガちゃんでした。

『そちらで地津の監視に回れる奴はいるか? できればカメラの映像を盗み見れる奴』

 私はすぐ返事しました。

『すぐ手配します』

 そして、続けて事務所と、そして鳥乃先輩と入れ替わりで私のサポートに入った双庭さんに連絡。

 地津さんが使うパソコンのハッキングは私が行うとして、双庭さんに地津ちゃんの監視にまわって貰うよう話をつけて貰いました。

 これらをメールで伝えた途端、

「仕方ない、徳光さん地津の相手をして貰って構いませんか?」

 と、途端にナーガちゃんは折れた様子を見せます。徳光先輩は笑顔で、

「うん、いいよー。その代わり地津ちゃん、ちゃんと沙樹ちゃんにもドローンを手配してね」

 いえ、鳥乃先輩を監視する気満々の凄みのある笑顔で。

「まあ、それを条件に誘ったんだけどよ。鳥乃さんも信用されてねーな」

 ぼさぼさの髪をぼりぼり掻き、地津ちゃんがうなずきます。どうやら地津ちゃんは徳光先輩とペアで動くのが確定した模様。

「で、木更姉さんひとつ相談なんだが」

 ここでナーガちゃんが私に向かって話しかけてきました。

「今日の自由行動なんだが、小学生組は小学生組で纏まって動きたい。構わないだろうか」

「小学生だけで行動ですか?」

 訊ねると、

「ああ。本当はそこにメールも加えて、彩土姫と仲直りしたのを皆で祝おうって流れになってたんだ。まあ、いまは主役のひとりがいないから、祝い自体は宿に戻ってからで、その準備をって流れになりそうだが」

「そういう事でしたら」

 私が快諾しようとした所で、

「駄目、です……」

 と、いったのは冥弥ちゃん。

「小学生だけで、街を歩くのは危険……です。誰かひとり、保護者について貰わないと」

「ああ、確かにそうか」

 納得するナーガちゃん。ですけど、そんなナーガちゃんは私に視線で「その保護者側につくのは避けてくれ」と懇願。確かに、私たちが一緒に行動してしまうと残りの中学生組がフリーになってしまうので、できれば避けたい事態ではあります。

「保護者か? 保護者が欲しいのか?」

 代わりに食いついたのはゼウスちゃん。

「はっはっはー。この神の加護が必要だと言うなら、このゼウス喜んで保護者になってやるのだ」

『……』

 高笑いするゼウスちゃん。それを、私、ナーガちゃん、冥弥ちゃんの3人は揃って信頼0の白い目で眺め、

「言いだしっぺだから……私が、入ります」

 と、冥弥ちゃんはナーガちゃんの隣についたのでした。

 

 

 こうして、私は残ったゼウスちゃんと深海ちゃんの3人で行動する形になったわけで。

 ただ、正直いって私的にはこのふたりが黒というのは無いんじゃないかなと思ってたり。深海ちゃんは親戚組で一番仲良くしている子だからという理由の願望でしかないですけど、ゼウスちゃんは……あのキャラで実は黒だったら衝撃的という域を超えてます。

 だからといって、それなら誰が一番怪しいかなんて、該当者はいませんし考えたくもない事なのですけど。

「ぐううう、何故だ。何故このゼウスより冥弥のほうが信頼されるのだー」

 私と深海ちゃんの一歩前を歩きながら、ゼウスちゃんが不満を洩らします。

 他の親戚と別れた私たちは、現在3人でまず駅に向かってる所。どこを観光するかは、まず駅についてから考えようって話になったからです。

「普段の積み重ねではないですか?」

 深海ちゃんがサクッといきました。しかも冗談って様子も責めてる様子もなく、意見をそのまま言いましたって感じの素の笑顔で。

「なぬーーっ」

 ゼウスちゃんは、オーバーリアクションで仰け反り、

「それは聞き捨てならんぞミカァ! この神が徳以外の何を積み重ねてると言いたいつもりなのだ?」

「木更姉さん、ゼウス姉さんに徳ありましたっけ」

「がびーん」

 あ、ゼウスちゃん固まった。

「木更ぁーーーっ! 深海が虐めるのだー」

 数秒停止した後、ゼウスちゃんは号泣し私の胸にしがみつきます。私はゼウスちゃんの頭を「よしよし」と撫でてあげながら、

「駄目ですよ深海ちゃん、ゼウスちゃんに本当の事を言ったら」

「お主も敵かああああああああああああああああああああっ」

 とどめをさしてあげました。

 鼻水もだし、可愛らしい泣き顔を晒すゼウスちゃん。私は彼女の背をとんとんと叩いて、

「冗談よ。そういうゼウスちゃんの可愛らしい反応の一つ一つがあなたの一番の徳だもの」

 するとゼウスちゃんは、すがみつくような瞳で、

「徳か? 我は、ちゃんと神々しいか? 威光に満ちておるか?」

「ええ、とても」

「そ、そうか、そうか」

 ゼウスちゃんは泣きやむと、すぐふんぞり返った態度で、

「さすが神、冥弥と子供には神のありがたさが分からないだけだったのだ、はっはっはー」

「子守って大変ですね」

 深海ちゃんが小声で呟く。ゼウスちゃん仮にもあなたより年上ですよ? まあ幸いにも本人の耳には届いてなかったらしく、

「おーい、名小屋駅についたのだー」

 と、小走りで一足先に進んで、私に両手を振ります。

「慌てなくても、すぐ行くから」

 と、私は深海ちゃんの手を取って、

「行きましょうか」

 あまり待たせるとゼウスちゃんが不貞腐れますから。

「はい」

 深海ちゃんは素直にうなずいてくれました。

 

 こうして、昨日何度か往復した名小屋駅。こうして改めて来てみると地下鉄、新幹線など幾つものホームが存在し、地下街もあって相当広く、3人で相談した結果、とりあえず駅そのものを観光することになりました。

 ただゼウスちゃんがはしゃぎ過ぎて喉が渇いてしまったそうなので、まずは地下街内のコンビニに足を運びます。

(あれ?)

 そこで、私はひとりのお客さんの後ろ姿に目が行きました。

 服装はコートと帽子で全身を隠すような格好。恐らく女性で一本の三つ編みに眼鏡をかけてるのが分かります。手に持ってるのはお茶とおにぎりでしょうか。

 見間違いでなければ、彼女は確か。

「失礼、もしかしてフェンリルさんですか?」

 私が訊ねると、

「えっ、ごごっ、ごめんなさい」

 立ち止り、びくっとしながらその女性は謝り、恐る恐るとこちらを向きます。その見た目文系な感じ、間違いありません。

「あ、やっぱりフェンリルさんですね。こんにちは」

「え、えっと君は確か」

「木更です」

「あ、うんそうだったね。久しぶりだね」

 何故か挙動不審な態度でフェンリルさんはいい、そそくさと手に持ってたおにぎりを元の位置に戻します。買われないのでしょうか?

「お知り合いですか?」

「お、木更その子は誰なのだー?」

 そこへ深海ちゃんとゼウスちゃんが訊ねてきたので、

「お友達でフェンリルさんです」

「は、初めまして」

 軽くお辞儀をするフェンリルさん。けど、視線が泳いでる等、やっぱりその様子は少しおかしく。何か急いでるのでしょうか、それなら早めに解放してあげないと。と、思ったのですけど、

「おおー。汝フェンリルと申すのか、日本人らしい名前ではないな。当て字は何と書く」

「いや、当て字はなくてカタカナでフェンリルなんだ」

「ほうほう」

 と、ゼウスちゃんが人懐っこく食いついてしまい、

「ゼウスちゃん。どうやらフェンリルさん急いでるみたいですから」

 私がそっと伝えるも、

「なぬ、そうか、それなら仕方ない」

 と、解放するのかと思いきや、

「で、その用事とは何なのだー?」

 さらに追及。

「い。いや、別に急いでないから大丈夫だよ」

 そういってフェンリルちゃんはお茶も元の位置に戻し、ついに手ぶらに。

「何だ。木更、彼女別に急いでないそうだぞー」

 と、ゼウスちゃん。でしたら、さっきの挙動不審は一体。

「買われないのですか?」

 つい、私は訊ねてしまいます。するとフェンリルは苦笑いして、

「お金がなくって」

 するとゼウスちゃんが、

「まさか万引き現場だったりしたのか?」

「ッ」

 私は見てしまいました。

 失礼な事を言ったゼウスちゃんに私が叱るより先に、フェンリルちゃんの顔がピクッと固まるのを。

「図星、だったみたいですね」

 深海ちゃんがいうと、

「ごめん。できれば見なかったことに、かつ知らなかった事にしてくれると嬉しいんだけど」

 フェンリルさんがいいます。

「分かりました」

 私はいいました。

「少なくとも警察には黙っておきます。幸いにもお店の方も接客に忙しくて私たちの会話にも気づいてない様子ですし」

「ありがとう」

「けど、できれば事情を聞いてもいいですか? どこか場所を変えて」

「それは……」

 フェンリルさんの視線が沈みます。

「そうですか、仕方ありませんね」

 私は追及を諦めます。とはいえ、

「けど、ただでは帰せません」

 そういって、私はたったいまフェンリルさんが戻したおにぎりとお茶を取って買い物籠へ。

「また時間を改めたり別の場所で同じことされても困りますからね。お金は私が出しますから遠慮せず貰ってください」

 するとフェンリルさんは目を丸くして、

「い、いいの?」

「友達の犯罪を防ぐ為ならお安いものです」

「友達……」

「違うのですか?」

「う、ううん。ありがとう」

 やっと笑顔を向けてくれたフェンリルさん。続けて私はふたりにも、

「ゼウスちゃんも深海ちゃんも、何か欲しいドリンクがあったら籠に入れちゃってください」

「え、買ってくれるのか?」

「買って頂けるのですか?」

 訊ねるふたりに、

「はい」

 私は笑顔で応えます。

 結局、ゼウスちゃんのスプライト、深海ちゃんのグリーンスムージー、そして私のお水も一緒に買って、おにぎりとお茶をフェンリルさんに渡して一緒にコンビニを出ます。

「ありがとう。助かったよ」

 早速、おにぎりをがっつきだすフェンリルさん。相当お腹がすいてた様子が見て取れ、

「おにぎりじゃなくて、お弁当にすれば良かったですね」

 私がいうと、

「元々これだけで食いつなぐ気だったし、そこまで迷惑はかけれないよ」

 と、フェンリルさんはお茶を一口。ところで、お茶をおにぎりを買ってあげた辺りから、何だかフェンリルさんにチラチラ見られてる気がするのですけど、気のせいでしょうか?

「そ、それより。その……」

「どうしましたか?」

「な、何でもない」

 と、わざと顔を背けるフェンリルさん。何でしょうか、チラチラもあって捨て犬にご飯を与えたらまだ少し警戒されつつ懐かれたような、そんな絶妙な距離感を感じます。

「フェンリルさん、顔赤いですよ? どうしましたか」

 深海ちゃんが訊ねると、フェンリルさんは慌てて、

「き、気のせいだよ。気のせい」

 そこへ続けてゼウスちゃんが、

「まさか、おにぎりとお茶で木更に惚れたか?」

「ぶふぉっ」

 むせるフェンリルさん。

「まあ仕方ないのだ。木更はいつも笑顔で優しいから、同性でもトゥンクしてもおかしくないのである」

「い、いやおかしいでしょ。同性でトゥンクとか」

 顔を真っ赤に反論するフェンリルさん。

「そうですよ」

 私も、それに同意して。

「ゼウスちゃんは素直に受け止めてくれるからいいですけど、私これでも笑顔の裏が読めないって同性に多く警戒されるのですから」

「あ、それは私もあります」

 と、深海ちゃん。彼女も私と同じで普段は常に穏やかな笑みを絶やさない子ですから。もっとも、口を開けば私と同じ丁寧語でこそあれ、私と比べて歯に衣着せない事をズカズカいうほうではありますけど。

「そうなのかー。ふーむ」

 腕を組んで考え込むゼウスちゃん。

「そ、それより。今日は木更ちゃんどうしてここに?」

 なんて、露骨に話題を変えようとしたフェンリルさんに、私は乗って、

「今日は私の親戚たちが名小屋に遊びにきたので、一緒に観光してる所なんです」

「藤稔 深海です」

 深海ちゃんがぺこりと挨拶、そこに続けて。

「天の神と描いて藤稔 天神(ぜうす)であ~る。畏敬を持って気軽にゼウスと呼んでくれたまえ。はっはっはー」

 と、腕を組んだまま、ふんぞり返ってゼウスちゃんも挨拶します。

「改めてフェンリルだよ」

 すると深海ちゃんが、

「ファミリーネームは?」

「名字もないんだ。色々不自然だとは思うけど気にしないでくれると嬉しいな」

「だ、そうですからゼウスちゃんいいですか?」

 と私がいうと、

「何で神名指しなのであるかー」

 と、ゼウスちゃんがげんなりした顔でいいました。そこへ私のタブレットに通信が。相手は妹のほうの双庭さんから。

「あ。ごめんなさいちょっと失礼します」

 私は一言断り、3人から少しだけ離れて通話に出ます。

「はい。藤稔です」

 すると通話先から、

『あ、木更ちゃん? ごっめーん。いま地津ちゃんって子のパソコン監視してるんだけど、沙樹ちゃん先輩見失っちゃった』

「どういう事ですか?」

『それがねー、さっきまで小型のドローンが沙樹ちゃんを追尾してたんだけど、突然メイド服のNINJAが現れてビームクナイでスパッて』

 メイド服のNINJA、ビームクナイ、どこかで情報にあった気が。

「ドローンのカメラが破壊されたのですね。では、最後に先輩たちがどこにいたかは分かりますか?」

 すると双庭さんは、

『名小屋駅だよん』

「え、名小屋駅? いまちょうど私もそちらにいる所です。すみませんけど詳しい場所を教えて頂けますか?」

 すると通信先から、

『うーん。それがねー』

 と、どこか言いづらそうに。

「何かあったのですか?」

『何かあったっていうか、関係者以外禁止区域に入っちゃってー。ほらほら、あそこあそこ。あそこって確かかつてアンちゃんって子とデュエルした調整池のある所』

 なるほど。それでは皆を連れて追跡しようにも追跡できないですね。

 と、通話していた所、遠くでゼウスちゃんが私をじっと見てるのが分かりました。それも、露骨に何か警戒しているような。少なくとも、間違いなく普段のゼウスちゃんは見せない顔です。これって。

「分かりました。では先輩の追跡は私たちも一旦諦めることにして、そちらは地津さんの監視と他のドローンで何を確認してるかを重点的にお願いします」

 そういって、一言二言交わし、私は通信を切ります。

 そして3人の下に戻って。

「ごめんなさい、お待たせしました」

「気にしないでください」

「大丈夫なのだー」

 と、いってくれる深海ちゃんとゼウスちゃん。

 ですけど、先ほどのゼウスちゃんの反応。これは、心が痛みますけどゼウスちゃんに重心を絞って警戒したほうが良さそうですね。

 とまあ、それはそれとして。

「そういえばフェンリルさんって、今はオフですよね?」

「え、うん。そうだけど」

 ぴくっと反応し、ちょっぷり慌てていうフェンリルさん。その頬はほんのり紅く染まってるように見え、先のやり取りのせいで彼女に対しても別の意味で疑ってしまいそうになりますけど、さすがにトゥンクは無いと心の中で否定し、

「でしたら、今日一日私たちと行動を共にしませんか?」

「え? ボクは別にいいけど、木更ちゃんや、それにふたりはいいの?」

 するとふたりは、

「私は別に構いませんけど」

「むしろ大歓迎なのだー」

 と、揃って笑顔で受け入れてくれたので。

「ありがとう」

 と、フェンリルさんは快諾。しかし続けて、

「でも、どうして? せっかく親戚たちで楽しくしてるのにボクがいたら邪魔でしょ?」

 なんていうから、私は。

「だって、また万引きされるわけにはいかないじゃないですか」

「そうですね。この様子だとお昼も万引き品で済ませそうですし」

 と、深海ちゃんが同意。さらに続けてゼウスちゃんも、

「なるほど! それなら確かに手元に置いたほうが罪悪感なくて気が楽であるな」

 と、同意。こちらは、いまやっと意図に気付いたって感じですけど。

「は、はは……とりあえず今日は大丈夫なんだけどね。さっきのおにぎりで食いつなげたから」

 なんて苦笑いしつつ、自覚なく「今日はおにぎり1個だけ」という悲しい事実を洩らしたので、私は財布を確認し、

「深海ちゃんゼウスちゃん、今日のお昼は食べ放題にしようと思うのですけど、財布の中身は大丈夫ですか?」

「食べ放題!?」

 驚きすぎて声のトーンが上がるフェンリルさん。けど、さすがにふたりは、

「二千円以内のお店でしたら」

「さすがに神でも学生の財布では」

 と、なったので。相談した結果Kasugayaでひとり千円分くらいガッツリ食べようって話に決まりました。

 

 それから私たちは4人で駅を観光しました。飲食店や土産選びに良さそうな店も多く、書店もあって、粘ろうと思えば半日くらい過ごせそう。途中スイーツに舌鼓を打ちながら、私たちはガールズトーク……とは言い難い何かに花を咲かせます。

 そんな時間に動きがあったのは、1時間か2時間か経った頃でした。

 突然、私とゼウスちゃんにタブレットに通信が同時に入ったのです。

「はい。藤稔です」

『木更ちゃん?』

 通信の先は鳥乃先輩でした。

『突然だけど、金玖ちゃんが失踪したわ。至急そっちの面子と一緒に捜索にまわってくれない?』

「金玖ちゃんが!? けど、どうして先輩が」

 そこへゼウスちゃんのほうからも、

「何っ!? 金玖が失踪しただと!」

 と、反応。

 直後、互いに同じ内容の連絡を受けてると気づき、私とゼウスちゃんは視線を合わせます。

 先輩がいいました。

『詳細は後で話すけど、途中小学生組と偶然合流したのよ。それと冥弥ちゃん、ゼウスちゃん、地津ちゃんも別口から例の『協力者』を捜索してると発覚、協力体制を取ることにしたわ』

「ゼウスちゃんが、ですか?」

 あ、だからあの時彼女、私に向けて警戒した目を。どうやら、お互いに互いを疑ってた模様。

『それと、こっちの仕事はほぼ終了、ハイウィンドの上にいたのは神簇家だったわ』

 てことはアンさんが!?

『その流れでハイウィンドも捜索に協力してくれることになったわ。フィーアも味方側と認識お願い』

「わかりました」

『じゃあ、何かあったら連絡お願い』

 と、先輩から通信は切れました。と、ほぼ同時にゼウスちゃんも通信が切れたようで、私たちは口を交わさずともうなずきあって、

「ミカ、それとフェンリル。頼みたいことができたのだ」

「金玖ちゃんが失踪したそうです。一緒に探してください」

 すると、まず深海ちゃんが、

「金玖ちゃんがですか?」

 と、何故かマイペースに首をかしげ、その隣でフェンリルさんが、

「その金玖って子も親戚のひとり?」

「はい」

 私はうなずきます。

「外見はこんな子なのだ」

 ゼウスちゃんがタブレットからフォトデータを見せ、フェンリルさんが「なるほど、分かったよ」とうなずきます。

 そんな中、

「あの」

 と、深海ちゃん。

「どうしたの?」

 私が訊ねると、深海ちゃんは遠くを指さし、

「金玖ちゃん、そこにいるのですけど」

 って。

「え?」

 振り返ると、そこにはトイレの近くに女の子がひとり。金玖ちゃんが、しょぼんとした顔でひとり立ってたのでした。

「金玖ちゃん」

 私は駆け出します。続けてゼウスちゃんと深海ちゃんも。

「木更……姉さん……」

 弱々しい声で、すまなそうに言う金玖ちゃん。

「良かった、無事だったんですね。皆いなくなったって心配したんですよ」

「いや……」

 けど、金玖ちゃんは小さく首を振り、

「この金玖、無事ではない」

「え?」

「不覚にも、捕まってしまった」

 金玖ちゃんがいいました。直後、彼女の後ろの女子トイレから投げ網が飛んできて、私たちは捕獲されてしまいました。

「きゃっ」

 しかも直後、タブレットの電波が圏外になり、フィールで強化した指で網を引き破ろうとしましたけど何故か通じません。網は袋状になってて、恐らく外からのみ開けれる仕様なんでしょう、出ることもできません。

 そこへ、

「この網には我々が新開発した対フィール機能と電波障害両方対応のフィールバリアが搭載されてある。これに捕らわれた者は闘う事も逃げる事も応援を呼ぶ事も不可能だ」

 と、女子トイレからひとりの「男」が姿を表しました。迷彩の軍服を身に付け、ベレー帽を被った眼帯の男です。年齢は30代前半くらいでしょうか。

「俺はフィール・ハンターズの緒方 銃(おがた ライフル)。悪いがお前たちの身柄は拘束させて貰った」

「フィール・ハンターズ!?」

 もしかして例の協力者の仲間?

「藤稔 木更だな?」

 緒方さんが訊ねます。

「でしたら、どうするのですか?」

 私が訊ねると、

「お前には、俺の目的の為、レズの肌馬への交渉材料になって貰う」

「先輩への?」

 どうして、ここで先輩の名前が出てくるんでしょうか?

 そこへゼウスちゃんが。

「レズの肌馬とは誰か知らんが、木更を何の交渉に使うつもりなのだ?」

「知れた事だ」

 と、緒方さんは懐から何か用紙を1枚取り出し、

「肌馬には、藤稔木更の解放を条件に、この用紙にサインをして貰う」

 よく見るとそれは婚姻届でした。この人、先輩に? あの先輩に?

「……うわ」

 私は、ついドン引きしてしまいました。すると緒方は、

「うわとは何だ! 俺も男だ、夢をみてもいいだろう。鳥乃さんと金玖たんと俺で孕まセ○クスの3Pを」

「ろ、ロリコンだーーーー!」

 叫ぶゼウスちゃん。しかも先輩と男と子供の3Pって特に先輩が萎えそうな組み合わせじゃないですか。正気ですかこの人。

「残念だけど、それはさせれないな」

 直後でした。いつの間にかフェンリルさんが緒方さんの背後に密着し、いったんです。

 確かに、気づけば彼女は私と一緒に駆け出してはいないので投げ網に捕まってはいなかったのですけど、一体どうやって彼の背後に。

「だ、誰だ!」

 叫ぶ緒方さんに、フェンリルさんは。

「木更ちゃんの友達だよ」

 と、いって。

「悪いけど引いてくれないかな? ボクもフィールが使える以上、もし断ったら君がどうなるか、この時点で分からないとも思わないけど」

 恐らく背中にナイフか銃を突きつけてるのでしょう。緒方さんから冷や汗が出るのが映ります。

「ボク、この前木更ちゃんを助けるって言った矢先に返り討ちにあったばかりなんだ。だから今回こそ彼女を助けたいって気持ちが強くて、正直手段選べる精神してないよ?」

 凶器を更に押し付けたのでしょう。緒方さんは腰をじりじり前に倒し、

「だがこちらも、そう簡単に引き下がるわけにはいかない。あと少しで幼女と鳥乃さんとハメハメが」

「そっか。酷くても生傷ひとつで解放してあげようと思ったけど仕方ないね」

 そういって、フェンリルさんは《ワーム・ホール》を発動。緒方さんの前方に時空の穴が出現しました。そして、穴の先から。

「おや、どちら様ですかな?」

 直後、緒方さんが「こ、この声は」と顔を青くします。

 フェンリルさんはいいました。

「久しぶりだねテスタメント神父」

 その名前は確か、黒山羊の実のメンバーながら鳥乃先輩とも親しくしている噂のゲイ牧師さん。私自身は、過去に私のフィール・カードを目当てに命を狙われた経緯があるから今でも少し怖いのですけど。

「悪いけど、フィール抜き前のフィール・ハンターズなんだけど、そっちに送って構わないかな?」

「男ですか?」

「男だよ。たぶん前にもハメた経験あるんじゃないかな、緒方 銃(おがた ライフル)って言うんだけど」

「頂きます」

「わかった」

 言って、フェンリルさんは《ワーム・ホール》の穴に緒方さんを突き飛ばし、

「や、やめろ。助けてくれ、嫌だ、もう掘られるのは、掘られるのだけはぁぁぁああああああああああああああああ」

 と、断末魔じみたい悲鳴を最後に、穴が閉じ緒方さんはその場から消えてしまいました。

「さてと、皆大丈夫?」

 網の袋を開け、フェンリルさんは手を伸ばします。

「大丈夫です」

「助かったのだー」

「感謝……」

 深海ちゃん、ゼウスちゃん、金玖ちゃんがいい、その金玖ちゃんがまずフェンリルさんの手を掴み外に出ます。

 続けてゼウスちゃんが自力で出ようとしますけど、網の袋はなかなか体に絡んで動き辛く、結局フェンリルさんの手を借りて外へ。深海ちゃんは先に出た金玖ちゃんの手を借りて脱出しました。

 そして、最後に私。

 一応自力脱出を試してみたけどやはり難しく、

「ほら、木更ちゃんも」

 と、伸ばしてくれたフェンリルさんの手を掴みます。けど、

「っ」

 途端、フェンリルさんがぴたっと停止して、

「あ、あの?」

 引っ張って頂けないと、私出られないのですけど。なんて彼女と目を合わせたら、フェンリルさんは一度顔を真っ赤にしてから、明らかに正気とはいえない目つきに代わり、

「ごめん」

 と、一言。突如、私の手を離すと網の袋を再び閉め、その袋ごと私を引きずってトイレの中に駆け込んでいったのです。 

「ふぇ、フェンリルさん!」

 何が起こったのか分からず、混乱する私。

「き、木更ぁっ!」

 一歩遅れて、ゼウスちゃんが叫びながら追いかけます。けど、フェンリルさんが直角の壁に飛びこむと、突如煙が巻き上がって、

 

 気づくと、私の視界は廃屋の一室に変わってたのでした。

 

 あれから数分。

 私は、狂気を孕んだ目をしたフェンリルさんに、袋ごと宙吊りにされ、

「フフ……これからずっと一緒だよ木更ちゃん。……………………って、やっちゃったあああっ」

 そこでハッとなったフェンリルさんが両手で頭を抱えます。

「事前に謝るくらいなら、どうしてこんなことを」

 さすがにこの時点になってくると、私は彼女に誘拐・監禁されたのだと察しはします。そして、この網のせいで私は連絡を取ることも逃げることもできず、助かるには誰かがここを見つけてくれるか、もしくはフェンリルさんを説得するしかないことも。

「あれが最後の理性だったからね。あとはもう全部衝動だよ、ああもう」

 適当な席に座り、はあっと嘆息するフェンリルさん。

 どうやら私を誘拐したのを全力で後悔してるのが見て取れました。

 それでも。

 正直、私はいま自分の置かれた状況を、そしていまのフェンリルさんに恐怖を抱きます。

「でしたら、すぐ戻りませんか? いまならまだ、そこまで大事にはならないはずです」

 私は、少し怯えながらいいました。だけど、

「駄目だよ。それも」

 フェンリルさんは自虐的に笑って、

「だって、こんな事した時点で、ボクをこれからも友達って呼んでくれる?」

「え、それは……もちろん」

 私は、恐怖で一瞬躊躇ってしまってしまいます。

「ほらね」

 フェンリルさんは察した様子で、

「もう心から友達って思ってくれない。だったら、もう木更ちゃんがボクのモノになるまで、ずっとずっと閉じ込めるしかないじゃないか」

 と、力なく。だけど、先ほどの狂気の瞳を再び向けます。

「そんな……こと……」

 何か言うのは簡単でした。けど、いまの私では恐怖と焦りで、露骨に逃げ出す為の口から出まかせしか言えそうにありません。そうでなくても、いまのフェンリルさんは、現在の私の言葉を信じてくれないでしょう。

 フェンリルさんは、狂気で濁った瞳を向け、微笑みいいました。

「だからね、木更ちゃんはもう何も考えなくていいんだよ。死ぬまでずっと、ボクの事だけ考えてればいいんだ。その優しい瞳も、ずっとボクだけに向けてくれると嬉しいな。だって、それが木更ちゃんの一番の幸せなんだから、ううん。ボクが責任持ってそう思わせてあげるから、心配しないで」

 フェンリルさんは、いまも正気のようで狂気に身を任せている。下手な言動を取ることはできない。

 いまの彼女を相手にするには、焦らず、そして怯えを捨てて冷静にならないと。そして、考えを練って最適な解決方法を導き出さないと。

「本当に、トゥンクだったんですね」

 考えを貼りめぐらせ、冷静になろうと努めながら、自然に私の口から出た言葉は、そんな問いでした。たぶん、なぜフェンリルさんがこんな凶行に出たのか確認したかったんでしょう。

「……うん」

 フェンリルさんは肯定しました。

「優しい言葉に弱くて、すごく惚れっぽいんだボク。その上、愛も友情も重いほうで。君のことは処分人の時からちょっとだけ意識してたから、本気にならないよう気をつけてたんだけど」

「本気になっちゃったんですね」

「うん。あれだけされたらね」

 私からしたら、「あれだけで?」だったのですけど、気づけば彼女は万引きを辞さない程飢えてた所だったんです。そこを考慮すると全く分からないわけではありません。性別の垣根に関しては脇において。

「だから、木更ちゃんを助けようと手を取ったとき、君の手の温もりに、手を放したくなくて、ずっと握ってたくなって。それで、この網に閉じ込めてればずっとボクのモノじゃないかって。……って、何で話してるんだろうボク。許して欲しいんだろうなあ、そんなの無理だって分かってるのに。それに……」

「解放する気もないから、ですか?」

「うん。嬉しいな、ボクの気持ち分かってくれるんだ」

 余裕の無さで漏れてしまった皮肉でしたけど、フェンリルさんは素直に嬉しそうに返します。もしくは、皮肉に皮肉を返してこの顔なのかもしれませんけど。

「でも、ちょっと違うかな」

 フェンリルさんは言いました。

「正確には、解放する気があっても、だよね?」

「フェンリルさんは、私の気持ちを分かってくれないんですね」

 こちらは、しっかり皮肉を皮肉で返します。

「え?」

 きょとんとなるフェンリルさんに、私は会話しながらやっと浮かんだ改善策を実行に移すことにしました。

「フェンリルさん。デュエルをしませんか?」

「デュエルを?」

「はい」

 私は、どうしてもまだ怯える体を抑え、精一杯気張っていいます。

「フェンリルさんが勝ったら、誰かに救助されるまで、私はあなたの全てを受け入れます。私があなたの所有物である限り私もあなたの所有物であり続けます。ですけど、私が勝ったら、素直に私と一緒に駅に戻って、観光の続きに戻ってくれますか?」

「有り得ないよ。そんな条件」

 フェンリルさんは言いました。

「ボクも許されない事しちゃったって自覚できる程度の正気はあるからね、ボクが勝った時の条件が信用ならない位は分かるよ。それならデメリットしかないじゃないか」

「メリットでしたらありますよ?」

 私は返します。

「デュエルに負ければ少なくとも私のフィールは全損しますから、こんな網に閉じ込めなくてもいいですし、フェンリルさんのフィールは残ってるのですから、煮るなり焼くなり何されても私は受け入れるしかできません」

「そ、それはそうだけど……」

「それに、私が負けて二度とここから出られなくても、“それが一番幸せ”って思わせてくれるんですよね?」

「っ」

 二三回、目をパチクリするフェンリルさん。

「ああもう、ずるいな君は。それがどういう意味か分かって言ったでしょ、それ」

「勿論です」

 私は努めて微笑み、

「それを受け入れてしまったら確かに私の人生は終了でしょうけど、フェンリルさんなら約束は破らず責任持って幸せにはしてくれると思いますから」

「重いんだね、君の愛も」

「言われてみると、私って案外地雷ですね」

「それに、わざと誘うような事いってボクを刺激したよね?」

「鳥乃先輩の相手で慣れてますから」

 けど、誘いに乗るには私を網の外に出してデュエルするしかない。それをしてしまえば、私は幾らでも逃げれる状況になると分かっていながら。

 それでも、フェンリルさんは誘い乗るしかないはず。

 私に刺激された、彼女の「私を幸せに堕としたい」欲求は、たぶん私が網の中にいてはできない事が殆どでしょうから。具体的にはR-18。

「分かったよ」

 フェンリルさんは、デュエルディスクを起動しいいました。

「罠だと分かっても、一度期待しちゃったボクの心は抑えられそうにないからね。受けてあげるよ、そのデュエル」

 そういって、網の中にディスクを装着した腕を潜り込ませ、私のデュエルディスクを強制デュエルモードに移行させる。そして、私を網の外に引っ張り出して、

「けど、ボクが勝ったときには本気で覚悟して貰うから」

 と、デュエルを開始するのでした。

 

 

木更

LP4000

手札4

[][][]

[][][]

[]-[]

[][][]

[][][]

フェンリル

LP4000

手札4

 

 

「先攻は貰ったよ、ボクのターン」

 デュエルは私の後攻で始まりました。デッキの性質上、先にあのカードを伏せたかったのですけど。

「ボクはモンスターとカードを1枚ずつセットしてターンを終了するよ」

 フェンリルさんの初手は、カードが2枚裏側敷かれるだけで手早く終わります。

「では私のターンですね、ドローします」

 私はカードを1枚引き、

「私は手札から永続魔法《機殻の制限起動(クリフォート・セーフモード)》を発動します」

 すると、私の周りの空間が、解像度が落ちるように雑な色彩へと変わっていきます。

「このカードは私のPゾーンにPカードが存在する場合に発動できず、ゾーンにPカードが置かれた場合に墓地に送られます。ですが、今回のデュエルはスピードデュエルですから、一切問題がありません」

「なるほどね、実質スピードデュエル専用のカードか」

 フェンリルさんは辺りを見渡しながら、

「そして、前情報通り木更ちゃんのデッキは【クリフォート】」

「はい」

 否定しても意味はないので、私はうなずき、

「《機殻の制限起動》の効果。1ターンに1度、私はクリフォートPモンスターを1体だけP召喚扱いで特殊召喚します」

「スピードデュエルでP召喚、なるほど、だからそのカード名なのか」

 はい。つまり、このカードはセーフモード仕様のP召喚を行う永続魔法。

「ペンデュラム召喚! 来てください、私のモンスター! 手札から《クリフォート・ゲノム》 をP召喚します」

 私のフィールドに出現したのはレベル6のクリフォート。共通効果で攻撃力は1800に下がりますけど。

「そして《クリフォート・ゲノム》 をリリース。プログラム実行、クリフォト・ドット・エグゼ。アドバンス召喚! 起動せよ《クリフォート・アーカイブ》!」

 出現したのは同じくレベル6のクリフォート。アドバンス召喚の為、今回は攻撃力が元々の2400を維持。さらに、

「リリースされた《クリフォート・ゲノム》の効果。このカードはリリースされた場合にフィールドの魔法・罠カード1枚を破壊します。私はフェンリルさんの伏せカードを破壊します」

 《クリフォート・ゲノム》 のプログラムの残骸が出現し、アンインストールされながらビームを放ち、フェンリルさんのカードを貫きます。

「伏せカードは《ティンダングル・ドロネー》だよ。防ぐ手段がないから、このまま墓地に送られるよ」

「ティンダングル?」

 何かの造語でしょうか? とにかく、破壊したのですから問題ないはず。私はあのカードを伏せて、

「カードをセット。バトルフェイズ! 私はアーカイブでフェンリルさんのセットモンスターに攻撃します」

 アーカイブのビーム攻撃がセットモンスターに放たれます。

「セットモンスター《ティンダングル・エンジェル》のリバース効果発動。手札からリバース効果モンスター1体を裏側表示でセットする。ボクは手札の《ティンダングル・トリニティ》をセット」

 カードが表向きになって出現したのは、名前のようなエンジェルとは程遠い、多数の鋭角で構成された化け物でした。その鋭角から煙が上がると、中からカードが出現し、裏側表示でセットされます。

「さらに、この効果が相手のバトルフェイズ中に発動した場合、バトルフェイズは強制終了されるよ」

「元々、もう攻撃できるモンスターはいません。私はこれでターンを終了します」

 

木更

LP4000

手札1

[《機殻の制限起動》][][《伏せカード》]

[][][《クリフォート・アーカイブ》]

[]-[]

[][][《セットモンスター(ティンダングル・トリニティ)》 ]

[][][]

フェンリル

LP4000

手札1

 

「ならボクのターンだね、ドロー」

 再びフェンリルさんにターンが回りました。

「ボクは《ティンダングル・トリニティ》を反転召喚」

 裏側表示のカードが反転し出現したのは、3体の化け物が合体したような形相のモンスター。その中には《ティンダングル・エンジェル》と思われる姿も。

「そして《ティンダングル・トリニティ》の効果を発動」

 フェンリルさんがリバース効果を宣言します。しかし、その為にモンスターは表側攻撃表示となり、さらに攻撃力は0。この機を逃すわけにはいきません。

 私は、あのカードを表向きにし、

「私もリバースカードをオープン! 永続罠カード《スキルドレイン》を1000ライフ払って発動します」

 

木更 LP4000→3000

 

 私のデッキの定番《スキルドレイン》を起動させます。

「このカードの効果で、フィールドの表側表示モンスターの効果は無効になり、結果《ティンダングル・トリニティ》のリバース効果も無効にさせて頂きます」

 しかし、フェンリルさんは。

「うん。そうくるよね」

 と、たった今ドローしたカードをディスクに挿しこんで、

「ボクもね。このカードだけは発動させちゃ駄目だって思ってたんだ。間に合ってよかったよ」

「え?」

「速攻魔法《サイクロン》! その《スキルドレイン》を破壊させて貰うよ」

 あっ!?

 いまはフェンリルさんのターンなので、たったいま引き当てた速攻魔法も手札からチェーン発動できてしまうのです。

 破壊されてしまう私の《スキルドレイン》。

「そして《スキルドレイン》が場から離れた事で、《ティンダングル・トリニティ》のリバース効果も問題なく発動。ボクはこの効果でデッキから《ティンダングル・ベース・ガードナー》を特殊召喚」

 出現したのは、正三角形が組み合わさり形成された球体のようなモンスター。

「そして、ボクはこの2体をリリース」

 反転召喚されたトリニティと、その効果で呼び出されたベース・ガードナーが光の粒子に姿を変える。これはアドバンス召喚!?

「いま、鋭角の世界に干渉がなされた。不浄の体現者よ、時間の角より現れ、時間距離全てを超越し獲物を捕らえよ。アドバンス召喚! きて、《ティンダングル・ハウンド》!」

 直後、光の粒子は三角形の模様へと姿を変え、その模様を基点に空間が歪み、鋭角を創り出す。

 その角の先から煙が放たれ、悪臭と共に現れたのは鋭い針のような舌を持つ一匹の犬……とは似ても似つかわしくない化け物の姿。

「《ティンダングル・ハウンド》……犬、ティンダ……あっ」

 ここで、私はやっと、このデッキの性質に気づきました。

「もしかして、ティンダロスの猟犬」

 それは、黒山羊の実にも関係しているクトゥルフ神話に登場する怪物の名前です。

「うん、正解。テーマのティンダングルもティンダロスに角度を指す言葉のアングルを組み合わせたものだよ」

「では先ほどフィール・ハンターズに襲われた時も全て」

「さすがにタイムトラベルはできないけどね。ボクはフィール・カードの力で90度以下の鋭角同士をゲートみたいに行き来できるんだ」

 つまり私たちが捕まった時も、別の適当な鋭角とトイレの中の鋭角を繋いで緒方さんの後ろに回り込んで、私を拉致した時も、トイレの鋭角とこの廃屋の鋭角を繋げたのでしょう。

「さっきのおじさん、トイレの前に立っててくれて助かったよ。丁度あそこに逃げる予定だったんだ。コンビニで万引きした時」

 という事は、認識してる場所限定だったり、事前に指定してた所にしか行けないのでしょう。そういう情報を教えてしまってるのは彼女の失態なのか慢心なのか、それとも私との会話を求めているのか。

「まあ、自分で台無しにしちゃったんだけどね。と、《ティンダングル・ハウンド》の攻撃力は2500、これなら本来の性能をもった《クリフォート・アーカイブ》も倒すことができるよ。バトル! 《ティンダングル・ハウンド》で《クリフォート・アーカイブ》に攻撃」

 《ティンダングル・ハウンド》は飛び掛かってアーカイブを押し倒し、針のような舌を突き刺しアーカイブの機能にエラーを発生させ、その間に前足で引き裂き、破壊する。

 

木更 LP3000→2900

 

 この戦闘によって私のライフがわずかに減る中、

「台無しだとかやってしまったとか、そう思うのでしたら」

「解放しろって? 嫌だよ、だってもう放したくないんだから」

「フェンリルさん……」

 やっぱり、駄目です。会話が通じるようで本題に触れると途端一方通行。まだ怖いと思ってしまってるのに、すぐ説得に出てしまう私も私なのですけど。

「ボクのターンはこれで終了だよ」

 そして、フェンリルさんのターンが終わり、二度目の私の手番がやってきます。

 

木更

LP2900

手札1

[《機殻の制限起動》][][]

[][][]

[]-[]

[][《ティンダングル・ハウンド》][ ]

[][][]

フェンリル

LP4000

手札0

 

「私のターン、ドローします」

 私はカードを1枚引き抜きます。どちらにしても、まずはこのデュエルに勝たなくては。

「《機殻の制限起動》の効果、再びクリフォート1体をP召喚します。再び来てください、私のモンスター! EXデッキから《クリフォート・アーカイブ》をP召喚します」

 再び現れる《クリフォート・アーカイブ》。さらに、私はそれをリリースし、

「プログラム実行、クリフォト・ドット・エグゼ。アドバンス召喚! 起動せよ《クリフォート・ゲノム》!」

 と、手札から新たなゲノムをアドバンス召喚。

「そしてリリースされた《クリフォート・アーカイブ》の効果。このカードがリリースされた場合、フィールド上のモンスター1体を持ち主の手札に戻します」

「え、あっ」

 残骸が放った転送装置で、瞬時に手札へ送還される猟犬。

 これでフェンリルさんの場はガラ空きに。

「バトル。《クリフォート・ゲノム》でフェンリルさんに直接攻撃」

 攻撃を宣言すると、ゲノムはフェンリルさんに向けて巨大なビームを発射する。

 

フェンリル LP4000→1600

 

 フェンリルさんは、瞬時にフィールを発生させて身を護ったのがみえました。けど、私の攻撃がフィールを使ってないのに気づくと、

「っ、優しいんだね木更ちゃん。直接攻撃なんて、相手に生傷残すチャンスなのに」

「傷つける気はありませんし、そんな事にフィールを使うくらいなら、ドローや護りに使います」

 だって、私のフィール量はそこまで多いわけではないのですから。元々リアルダメージを与える気もないですけど。

「私はこれでターンを終了します」

 私は宣言します。すると、

「ちょっと。……残念だったな」

 少し言葉を溜めてから、フェンリルさんはいいました。

「せっかくだから、最後の機会に木更ちゃんの愛を、この身に生傷として残したかったな」

「ごめんなさい」

 私は、いいます。

「そんな自己満足だけの贖罪に付き合う気はありませんので」

「ッ、そんなんじゃないよ!」

 フェンリルさんは、カッとなって反抗します。

「ボクはただ、最後の機会に木更ちゃんに傷をつけて欲しかっただけで」

「どうして傷なんですか?」

「一生残るじゃないか。死ぬまで痛むなら尚更いいよ」

「それで、痛む度に自分の幸せが友達の人生を終わらせて創った虚像なんだって罪悪感に浸る為ですか?」

「っ」

 図星だったのか、それとも今初めて気づいたのでしょうか。フェンリルさんはハッと目を見開いた後、追い詰められたみたいに、

「悪いの?」

「はい。まだ薬を打たれて廃人にされたり、四肢切断されて達磨にされたり、漫画みたいな催眠術とか洗脳電波とかで頭の中弄られるほうが許せる位に許したくありません」

「なら、なら正にそれをしてあげるよ!」

 フェンリルさんは気がふれたように叫び、

「もうバトルは終了だよね? なら墓地から《ティンダングル・ドロネー》を除外して効果を発動するよ!」

 え、墓地から罠カード!?

「このカードは墓地に存在する場合、除外することで墓地のティンダングルモンスターを3体裏側守備表示で蘇生する!」

「さ、3体も?」

「来い! 《ティンダングル・トリニティ》! 《ティンダングル・エンジェル》! 《ティンダングル・ベース・ガードナー》!」

 一気に、フェンリルさんの場に3枚の裏側守備表示カードが出現。

「そしてボクのターン! ドロー! そして3体を反転召喚し、開け! 過去未来を摘み取るサーキット!」

 3体のモンスターが姿を見せたと思うと、出現したのは八方のマーカー。これってリンク召喚!?

「アローヘッド確認! 召喚条件はティンダングルモンスター3体。ボクはトリニティ、エンジェル、ベース・ガードナーの3体をリンクマーカーにセット! 来て、LINK-3! 鋭角の王《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》!」

 3体のモンスターが普通より鋭い形状の矢印になりマーカーへと取り込まれる。すると、マーカーはひとつの扉へと姿を変え、煙と共に中から飛び出たのは3つの炎。それは混ざり合い、三つ首の《ティンダングル・ハウンド》のような化け物へと姿を変えます。

 その攻撃力は0。ですけど、

「《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》は、墓地に《ティンダングル・ベース・ガードナー》を含むティンダングルが3種類以上存在する場合、攻撃力を3000アップさせる」

 

《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》 攻撃力0→3000

 

 と。当然そのまま攻撃力0なわけではなく。さらに、

「そして《ティンダングル・トリニティ》の効果。このカードがティンダングルのリンク素材になって墓地に送られた場合、デッキから《ジェルゴンヌの終焉》を手札に加え、さらにデッキの魔法・罠カード1枚を墓地に送る。ボクは《ジェルゴンヌの終焉》を手札に加え、デッキから永続魔法《ナーゲルの守護天》を墓地に送るよ。そして、墓地の《ナーゲルの守護天》の効果! このカードは墓地のこのカードを除外し、手札からティンダングルカードを1枚捨てることで、デッキから新たな《ナーゲルの守護天》を手札に加える。ボクは木更ちゃんが手札に戻してくれた《ティンダングル・ハウンド》を捨てて、《ナーゲルの守護天》を手札に加える! そして発動!」

 と、デッキを回してきました。

「《ナーゲルの守護天》が存在する限り、ボクのティンダングルは戦闘と相手の効果では破壊されない。さらに《ティンダングル・スパイク》を通常召喚」

 続いて現れたのは、煙から《ティンダングル・ハウンド》の口らしきものと注射針のような舌だけ顔を出したモンスター。攻撃力は1700。

「アキュート・ケルベロスは自身のリンク先のティンダングル1体につき攻撃力を500上げる。《ティンダングル・スパイク》はリンク先に召喚したから、その効果を起動!」

 

《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》 攻撃力3000→3500

 

 そして、アキュート・ケルベロスはまさかの脳筋タイプのモンスターだったみたいで、どんどん攻撃力を上げていきます。

「いくよ。カードを1枚セットしてバトル! 《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》で《クリフォート・ゲノム》に攻撃。まずは木更ちゃんの両手足を使いものにならなくしてあげるよ。アキュート・マス・ブレイズ!」

 モンスターが炎を放ち、《クリフォート・ゲノム》を焼き払います。

「さらに《ナーゲルの守護天》は1ターンに1度、戦闘ダメージを倍にできる。ボクはこの効果をいま使う! くらえっ!」

 ゲノムを通過し更に襲い掛かる炎は、フェンリルさんの宣言の直後さらに火力を増し、私を飲み込みます。

 

木更 LP2900→700

 

「っ、きゃああああああああああ―――ッ」

 四肢だけをピンポイントに焼く痛みが襲い、私は悲鳴をあげます。このままだと一瞬で四肢が灰になり達磨にされそう。私は必死にフィールを張り、自分の身が焼き焦げないように努めます。

「はあ、はあっ」

 結果、何とか炎が消え、耐えきったと思ったときには、もう随分とフィールを消費してしまい、フィール面でのアドバンテージが一気に劣勢に立たされてしまいます。

 さらに、ライフも1000を切って絶体絶命。

「ところで木更ちゃん」

 そんな私に向けて、フェンリルさんはいいました。

「ティンダロスの猟犬の舌ってね、文献によっては魂を啜るとか、精神にダメージを与えるとか、そういう扱いをされることがあるんだよ」

 そういってフェンリルさんは《ティンダングル・スパイク》を撫で、

「《ティンダングル・スパイク》は《ティンダングル・ハウンド》かティンダングル・リンクモンスターが存在する場合に相手に戦闘ダメージを与えたら、相手の手札をランダムに1枚破壊する効果を持つ。木更ちゃん、薬を打たれて廃人にされても許してくれるんだよね? なら、この攻撃で頭の中吸っても別に構わないよね?」

「許すとは一言も言ってないんですけど」

 指摘はしますけど、フェンリルさんは聞こえてないように笑って、

「あはは、楽しみだなあ。この舌を刺されたら、もう頭は二度と戻らないからね。ボクのモノになるしかないんだ」

「それは駄目です」

 私は、ここだけは譲れないのでいいました。

「私はかすが様のモノですから」

「かすが様?」

「Kasugaya本店で店長をしてる方です。もう何年も想い続けて」

「なに、言ってるの?」

 唇を震わせ、フェンリルさんはいいました。

「そんなの、いるわけ無いじゃないか! 木更ちゃんに想い人? 男? そんなの、君の妄想だよ! そんな幻想、木更ちゃんには必要ないよ!」

 いえ、怒鳴るように叫びます。

「忘れさせてあげるよ。何もかも! 《ティンダングル・スパイク》で木更ちゃんに直接攻撃!」

 するとスパイクはその舌を適当な鋭角に伸ばすと、その角度のゲートを取って私のデュエルディスクの角から生えるように現れました。

 舌は触手みたいにうにょうにょ動きながら、私の耳の穴へと狙いを定めます。

「これで、終わりだァァッ!」

 と、叫ぶフェンリルさん。

 私は耳元でうにょうにょ動く舌に恐怖で一瞬固まるも、

「と、罠発動!」

 私は叫びます。すると、耳に挿り込む寸前だったスパイクの舌が一時停止。

 危なかった。あと一瞬遅ければ、恐らく舌は私の鼓膜を破り、その奥の脳へと到達してたのでしょう。私は舌に触れないようおずおずと伏せカードを表向きにし、

「き、《機殻の凍結》を発動します。このカードは発動後、攻撃力1800の効果モンスターになって、フィールドに特殊召喚されます。《ティンダングル・スパイク》の攻撃力ではこのカードを破壊することはできません」

「そんな……」

 相当、気合と期待が入ってたんでしょう。フェンリルさんはしょんぼりとし、

「見たかったな。脳を犯される木更ちゃんの姿。……けど、まあ勝てばいつでもできるんだから、いいよね? バトルフェイズ終了時、《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》の効果で、攻守0のティンダングルトークンを特殊召喚できる。守備表示で特殊召喚し、ボクはターン終了」

 スパイクの舌がデュエルディスクから消え、ターンプレイヤーが私に切り替わります。

 

木更

LP700

手札0

[《機殻の制限起動》][][]

[][《機殻の凍結》][]

[]-[《ティンダングル・アキュート・ケルベロス(フェンリル)》]

[][《ティンダングル・スパイク》][《「ティンダングル」トークン(守備表示)》]

[][《セットカード》][《ナーゲルの守護天》]

フェンリル

LP1600

手札0

 

 何とか、デュエルの敗北を待たずして廃人にされる危機は去り、私は心底ほっとすると同時に、改めてフェンリルさんが恐ろしい性癖の持ち主だと分かり、恐怖が落ち着くどころか、更に増して私の体は震えあがります。

 達磨とか、薬とか、催眠術とか全部例え話のつもりだったのに、まさか本当に実行しようとするなんて。いえ、当時は実行する気がなかったとしても「したい」って欲求を刺激してしまったのかも。

(もしかして)

 かすが様も、こんな恐怖に耐えかねて、鳥乃先輩をボディガードに雇って?

(まさか、ですね)

 ふふ、本当に恐怖にやられて、心が委縮してるみたいです。かすが様を疑うだなんて、そんなマイナス思考にまで陥ってしまうなんて。

(割り切りましょう)

 どちらにしても、私がデュエルに負けたら何してもいいと言ったんです。思えば「私の人生が終わってフェンリルさんに愛玩されるだけのモノ」になるのは間違ってないのですから、薬を使われても四肢切断されても、結果的には大差ないじゃないですか。

(あ)

 と、いうより。「殺されて死ぬ」のと「命以外のすべてを奪われる」のって殆ど変わらないのでは?

 ここでやっと、私は恐怖に怯えておきながら事態を甘く見ていたのだと気づきました。同時に、私がハングドのような世界、デュエルに負けたら死ぬかもしれない世界に足を踏み込んだ自覚が薄かったことも。

 それを教えてくれたのがフェンリルさんで良かった。

「私のターン。ここで私はスキルを発動します」

 私はいいました。

 場には、攻撃力3500のアキュート・ケルベロスに、攻撃を通したら私を廃人にする《ティンダングル・スパイク》。さらにトークンが1体と、それらのカードを戦闘・効果で破壊させなくする《ナーゲルの守護天》。攻守全てにおいて隙が無い布陣。さらに伏せてある《ジェルゴンヌの終焉》もどんな効果か気になる所。それを突破できるカード引き当てないといけません。私の記憶では、このデッキの中でそれを可能にできるのはモンスターだけ。ですから!

「スキル《ドローセンス・地》! この効果で、私のこのドローで引けるカードを地属性モンスターに限定させて頂きます」

「そのスキルで逆転の一手を引き当てる確率を上げたの? 無駄だよ」

 フェンリルさんがいい、直後強烈なフィールが私のデッキトップに襲い掛かります。

「ボクのフィールで、その逆転のドローを妨害する! 無駄なんだよ! ドローカードをモンスターだけにした所で、フィールで流れを奪える以上変なカードを引き当てるだけだ!」

「させません」

 私も、ありったけのフィールをドローする指に注ぎ込み、フェンリルさんのフィールを掻きわけながら、

「ドロー!」

 と、カードを引きます。結果、私のフィールは殆ど空になるも。

「引けた……」

 私は呟きました。そして、それは間違いなく《ドローセンス・地》の助けがあってのこと。ドローするカードから魔法と罠を排除することで、フィール抜きに引きたいカードを引く確率は間違いなく上がっています。その上がった確率分、本来のドローより余裕持って注がれたフィールが、フェンリルさんの妨害に勝つか負けるかを分けたのです。

「なら、その希望を更に打ち砕いてあげるよ」

 フェンリルさんはいいました。なお、あちらのフィールは私よりも少しは残ってるみたい。

「罠カード《ジェルゴンヌの終焉》! このカードを装備カードとして《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》に装備! 装備モンスターは戦闘・効果では破壊されず、相手の効果の対象にならない! つまり、《ナーゲルの守護天》を破壊した所でアキュート・ケルベロスの耐性は消えず、さらに《ジェルゴンヌの終焉》を破壊しない限り対象を取ることはできない! もう何をしてもボクのモンスターは倒せないよ、木更ちゃん」

「いえ」

 私はいいます。

「もはや“倒す”必要はなくなりました」

 私は、彼女の説明を聞いて逆に勝利を確信しつつ、

「どういうこと?」

「すぐ分かります。まずは《機殻の制限起動》の効果、再びクリフォート1体をP召喚します。再び来てください、私のモンスター! EXデッキから《クリフォート・ゲノム》をP召喚」

 出現する今回3度目の《クリフォート・ゲノム》。さらに私は《機殻の凍結》と共にゲノムをリリースして、

「プログラム実行、クリフォト・ドット・エグゼ。アドバンス召喚! 起動せよ《クリフォート・ディスク》!」

 と、最上級モンスターをアドバンス召喚。

「《クリフォート・ディスク》と《クリフォート・ゲノム》の効果をそれぞれ発動します。まずゲノムの効果で《ジェルゴンヌの終焉》を破壊します」

「う、早速」

 フェンリルさんが発動したばかりのカードを墓地に送ったのを確認して、

「さらに《クリフォート・ディスク》の効果。このカードはクリフォートモンスターをリリースしてアドバンスした時、デッキから2体のクリフォートを特殊召喚します。来てください、《クリフォート・シェル》そして2枚目の《クリフォート・ディスク》!」

 と、私は2体のモンスターを呼び出し、

「いきます」

 私が手を掲げると、瞬く間に辺りは真っ白の世界に切り替わって、

「かすが様に届け、私のサーキット!」

 私の真上にリンクマーカーが出現。

「召喚条件は機械族モンスター2体。私はディスクの効果で呼び出した《クリフォート・ディスク》と《クリフォート・ゲノム》をリンクマーカーにセット。プログラム起動、クリフォト・ドット・エグゼ。リンク召喚、解放せよリンク2、《クリフォート・ゲニウス》!」

 光の世界が終わると同時に出現したのは、クリフォートの中から一体の黒い精霊が半身抜け出たモンスターの姿。攻撃力は1800。

「クリフォートに、リンク召喚?」

 驚くフェンリルさんに私は続けて、

「《クリフォート・ゲニウス》のモンスター効果。1ターンに1度、このカード以外の自分及び相手フィールドの表側表示のカードを1枚ずつ対象として発動し、それらの効果をターン終了時まで無効にします。私は《クリフォート・ディスク》と《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》の効果を無効にします」

 ゲニウスの体から闇が放たれ、2体のモンスターはその効果を停止。

「でもアキュート・ケルベロスの効果自体を封じた所で」

 と、フェンリルさんはいいますけど。

「ですが《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》は元々の攻撃力は」

「え、あっ!?」

 私の指摘でハッとなる中、

 

《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》 攻撃力3500→0

 

 そのモンスターの攻撃力は元々の数値である0まで下がる。

 私はいいました。

「確かに《ナーゲルの守護天》で破壊はされませんけど、こうして攻撃すれば、フェンリルさんにダメージは入りますよね?」

「う、あっ、そんな……」

 すでに自分の敗北を確信した様子のフェンリルさん。

「嫌だよ、ボクはこのデュエルに勝って、君を……」

「バトル! 《クリフォート・ディスク》で《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》に攻撃します」

 彼女の嘆きを全部聞く前に、私は攻撃を執行。

 

フェンリル LP1600→0

 

 デュエルは終わりました。

 

 

 フェンリルさんは、消えていくソリッドビジョンと全損するフィールを呆然と受け入れてから、

「ははは、馬鹿だねボクって」

 と、その場でへたり込みます。

「気持ちが抑えきれなくなって木更ちゃんを誘拐して、提案を受けずじっくりと愛せばいいのに、提案に乗ってデュエルして、結果負けだよ。絶対愚かなことするって分かってるから、誰かを好きになることも、情で深入りするのも避けたかったのに、もうイヤ」

 フェンリルさんは、真っ白になったみたいに俯いたまま、

「約束は護るよ。どうせ、いっそ包丁で君を刺したくてもフィールがない以上通じないのも分かってるし、ボクを始末するなり警察に突き出すなり《ワーム・ホール》で逃げ出すなり好きにしてよ」

「あのー」

 そんなフェンリルさんに私はいいました。

「私が勝ったときの条件、忘れてませんか?」

「…………え?」

 力なくゆっくりとした返事に、私は、

「私は、勝ったら一緒に駅に戻って、観光の続きに戻って欲しいって言ったんですけど」

「……。…………は、え?」

 途端、フェンリルさんは目を丸くして。

「それ、嘘じゃなかったの?」

「嘘なんて言いませんよ。それなら最初から解放してって言います」

「そもそも、本気でまだそんな事考えてたの?」

「それは……。さすがに躊躇いたくなるような材料は幾つかありますけど」

「なら」

 と、追及するフェンリルさんに私は、

「でも。せっかく友達って言い合えたのですから、フェンリルさんの気持ちも受け入れる所は受け入れて、互いに折り合いつけて元の鞘の近くまで仲直りしたいって考えちゃってますから」

 それが、私が導き出した最善ですから。

「勿論、誘拐されて火達磨にされかけ脳姦までされそうになって、あなたを見て怖くないって言えるほど聖人じゃないですから。私も恐怖を乗り越える努力をするのと、そんな私をフェンリルさんが受け入れる前提の話になってしまいますけど」

「いや、十分聖人だと思うよ」

 フェンリルさん真顔でした。

「どこにボクみたいな事したのを許す人がいるのさ、ボクとは別の意味でキチガイの域に入ってるよ既に」

「キチガイ、ですか。そうかもしれません」

 私はいいます。

「私、希望とか理想を実現させようとして、最善を取り過ぎて人間味が無いって言われる人間ですから」

「希望や理想?」

「今回だと、監禁からどう脱出するかですね。一番いい形を取るなら、フェンリルさんと決別するより仲直りして一緒に脱出するほうがいいですし、あなたをよく知り仲を深めるチャンスでもあります。脱出後を考えると、拉致監禁なんて無かった事にしてゼウスちゃん深海ちゃんと観光の続きに戻るのが一番事が大きくならないじゃないですか」

「そんな事、考えてたんだ」

 ありえない事を聞いたみたいに呆然とするフェンリルさんに、

「はい。私が今回でどれだけトラウマになったかとか、フェンリルさんが怖くて仕方なくなる危険性とか、そういった問題は完全に計算の外において」

「そんなの自分が何とかして受け入れればいい、とかトラウマなんて乗り越えれば解決だから、とか? さすがに言うよ、馬鹿じゃないの?」

「馬鹿ですよね、でも。これが私ですから」

 言いながら私は《ワーム・ホール》を発動し、

「では、とりあえず戻りませんか? 騒動はこちらでなんとかしますから。……あれ?」

 と、ここで《ワーム・ホール》がゲートは開いたものの、駅と繋がらず入ることができないのに気づいたのです。

「もしかしてフィールが足りないんじゃないかな? ここと駅だと結構距離あるから」

「そうみたいですね」

 もしくは、私がどの位置にいるのか分からないから起こったエラーなのかもしれませんけど。どちらにしても、これでは最善の形で戻ることはできません。

 幸いにも電波は届くみたいですから、ここは鳥乃先輩に事情を話し回収に来て貰うしかなさそう。先輩なら幻獣機を使った飛行手段もありますし。

 仕方なく私がタブレットで通信を取ろうとした、その直後。

「木更ちゃん!」

 と、鳥乃先輩が拳銃を構えてやってきたのでした。

 

 

 

 それから私たちは先輩の《ワーム・ホール》で廃屋を後にしました。

 どうやら私がデュエルの為に網から出た時点で、私のタブレットの位置がハングドに特定されてたとの事。つまりは私が提示したデュエルの条件に従うなら、デュエル前にすでに勝敗は決まってるようなものだったんです。

 これは私も知ってた機能だったのですけど、焦りや恐怖ですっかり忘れてました。フェンリルさんには悪い事をしてしまったかもしれません。

 駅には、すでに全員が合流してて、遠くには双庭さん姉妹が隠れてる様子もみえます。

「姉ちゃん!」「お姉ちゃん!」「おねーちゃん!」

 みんな凄く心配してくれ、特に彩土姫ちゃん、水姫ちゃん、メールちゃんの3人は私を見ると真っ先に飛び付いてくれます。さらに、後ろから徳光先輩が小走りで近づいて、

「藤稔さん。無事でほんとに良かったよー。大丈夫だった?」

 って。3人が飛びつかなかったら、抱き着いてきたのは彼女だったかもしれません。 

「ごめんなさい、心配かけちゃったわね」

 私は3人を抱きかかえ、

「徳光先輩、ご心配をおかけしました」

「ううん」

 けど、その隣では、

「貴様がフェンリルだな」

 と、明らかに立腹した様子で話しかけるナーガちゃん。

「う、うん」

 視線を落とすフェンリルちゃん。

「何故木更姉さんを拉致した。無事だからいいようなものの、事と次第によっては」

「あー待って待って」

 と、会話に割り込んだのは鳥乃先輩。

「事実はちょーっと違ってたみたいだから。木更ちゃん伝えてくれる?」

「は、はい」

 言われて私は慌てて事情を説明した所、ナーガちゃんはため息を吐いて、

「まったく。だからって連れ去るような真似はしないでくれ」

 と、引いてくれました。

 救助にきた先輩にも口を合わせて貰い、今回の件は拉致監禁なんかじゃなく、二人きりでどうしても話したい事があった為、事を急ぎ過ぎて誘拐に出てしまった、という事にさせて頂きました。

 その経緯でデュエルで交渉に折り合いをつける流れになりお互いフィールを使いすぎて帰れなくなってたとも。

 とはいえ、世界の裏側に生きてる側は殆ど察してるようで、ナーガちゃんも口先では合わせてくれましたけど、目は「まったく木更姉さんは」と呆れてる様子。分かってないのはゼウスちゃんくらいでしょうか。

「何はともあれ、無事だったのなら良かったです」

 そして深海ちゃんも。彼女は裏側には関わってない子なはずですけど、台詞の後、私の傍に立つと小声で、

「姉さんがその気なら私も従うだけです。けど、さすがに人が良すぎますよ」

 って。

「なんかボクたちだけ除け者な感じ。なんでだろ?」

 同じく裏側と関わってない彩土姫ちゃんも、察してはいないみたいですけど裏があることは感じてる様子。それを聞いて水姫ちゃんが、

「フィーちゃん、なにか分かる?」

「いえ」

 って答える、その子ってもしかしてフィーアさん? どうして水姫ちゃんと仲が良い感じなのか分からず、「え?」てなってると、

「あとで事情を伝えるわ」

 と、鳥乃先輩。

 なおフィーアさんは本気で察してない様子でした。

「ところで」

 そこへ小声でフェンリルさんが、私と鳥乃先輩に話しかけてきました。

「交渉の条件って、ホントにアレだけでいいの?」

 アレとは、今回鳥乃先輩がフェンリルさんを許し、私たちの口合わせに乗る為に提示した条件です。

「本当に呑んでくれるならね。もちろん、破った瞬間に真実は関係者全員にまわるから」

 その条件とは、今ごろ緒方さんを美味しく頂いてるであろうゲイ牧師さんに、フェンリルさんのほうから「襲撃事件やその協力者に関する情報」および「緒方さんの犯行と例の襲撃事件の関係」等の尋問を依頼して欲しいという内容でした。

 さらに、手に入れた内容を包み隠さずハングドに提示すること。本来黒山羊の実として外に漏れたら困る情報など、鳥乃先輩がゲイ牧師さんに依頼したら提供されなかったであろう情報を全て。

 実をいうと普段の先輩なら「不必要に黒山羊の実を敵に回したくない」からって、二つ返事で口合わせに乗ってたと思うんです。けど、フェンリルさんが相当反省し落ち込んでるのを見抜いて、あえて足元を見て、組織を裏切りかねない危険な条件を吹っかけた様子でした。恐らく先輩は断られも痛くも痒くもない。むしろ、一度断られてから「機密情報は省いてもいい」と提示して、心理的に「それなら」と思わせて交渉成立させる算段だったのだと思います。

 けど。

「しないよ、そんな事。ボク個人としては組織なんかより、こっちの皆のほうが好きだしね」

 って、フェンリルさんは笑顔で、

「任せてよ。バッチリ情報を取ってくるから」

 そう、彼女は最初の無理難題のほうの条件で引き受けてしまったんです。

 私たちは、この時点では知りませんでした。

 今日の夜。早速フェンリルさんが持ち込んできた情報で、私たちはとんでもない事実に立ち会ってしまうことを。

 

 

 

 ところで、これは気のせいでしょうか?

 この中で少なくとも2人以上が、談笑したフリして私たちの会話に耳を傾けてるような気がしたのは。




最近ふと思ったんです。
清純・清楚な雰囲気で、いつも柔和に微笑んでて、優し“そうな(重要)”性格の、そんな女性キャラ。
もし男性化させるとどんな雰囲気になるんでしょうか?
個人的な結論:CV石田彰の優男

最終結論:木更は胡散臭い。


●今回のオリカ


機殻の制限起動(クリフォート・セーフモード)
永続魔法
自分PゾーンにPカードが存在する場合、このカードを発動できない。
(1):1ターンに1度、「クリフォート」Pモンスター1体をP召喚扱いで特殊召喚する。
(2):自分のPゾーンにPカードが置かれた場合、このカードを墓地に送る。

ティンダングル・スパイク
リバース・効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1700/守 0
(1):このカードがリバースした場合に発動できる。
相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。この効果が相手モンスターとの戦闘によって発動し、この効果でその相手モンスターを破壊した場合、このカードはその戦闘では破壊されない。
(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
(3):フィールドに「ティンダングル・ハウンド」もしくは「ティンダングル」リンクモンスターが存在する場合に、このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動する。相手の手札をランダムに1枚選んで捨てる。

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