遊☆戯☆王THE HANGS   作:CODE:K

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MISSION10-アンバーカラーの想い出(中篇)

 私の名前は鳥乃 沙樹(とりの さき)。陽光学園高等部二年の女子高生。

 そして、レズである。

「和服って、エロいよね」

 お昼休み。今日も私は、梓に向かっていつもの妄言をのたまう。けど、今回その場にいるのは私の天使()だけではなく。

「鳥乃さん、私たちのことをそういう目で見てらしたのですか?」

 と、フリ程度に驚いてみせる神簇 アンちゃんと、

「相変わらずですね、先輩は」

 と、最早いつものことと微笑んでる木更ちゃん。現在私たちは四人で弁当を食べていた。

 少し前の移動教室の時、私と梓が1階の科学室に向かう途中、偶然その科学室から教室に戻る木更ちゃんとアンちゃんコンビにエンカウントしたのだ。どうやらふたりは校内ではクラスメイトで友人だったらしく、梓の提案で一緒にお昼を食べることになったのだ。

 そんなわけで、いま私たちがいるのは学校の屋上。これまた運がいいことに今日は週に数回ある屋上の開放日だった。

「沙樹ちゃん、具体的には?」

 ああ、梓が既に《ハンマー・シュート》の準備ばっちり。けど、訊ねられたんだからレズの私としては応えずにはいられない!

「そりゃ、和独特の色彩が女の子を華やかに魅せ、服の上からは物凄く着痩せして映すのに、一度開ければ途端におっぱいの強烈な存在感。あのギャップこそ日本の心! 遺伝子に刻まれた和の記憶が和服エロに浪漫を感じさせずには――」

「はいアウト」

「メメタァ!」

 最後まで言わせず放たれた梓のハンマーに、私は絶叫をあげつつ床にめりこむ。

 ピクピク痙攣する私を尻目に梓は笑って、

「ごめんねアンちゃん。いまの沙樹ちゃんって救いようがない変態さんだからー」

「そ、そうみたいですね」

 さすがに乾いた笑いを浮かべるアンちゃんはぼそっと、

「けど、私としては、どちらかというと梓さんの暴力のほうが」

「アンちゃん、何かいった?」

「……いえ、お気になさらず」

 うわ、私以外の子に笑顔で黙らせる梓なんて見たくなった。

「大丈夫ですよ。徳光先輩は鳥乃先輩にしか暴力で訴えませんから」

 と、木更ちゃんがフォローを口にし、しかし続けて、

「あ、先輩。もしアンさんに手を出そうとしたら私もハンマー制裁に参加させて頂きますから。そのおつもりで」

 まさかの木更ちゃんからハンマー宣言。私はやっとメメタァの痛みが引いて起き上がり、

「心配しないで、和服エロいといっても、アンちゃんとお姉さんとでは全く別の感情抱いてるから」

 すると梓が、

「どこが大丈夫なのか分からないけど、じゃあとりあえずアンちゃんは?」

「アンちゃんは愛玩欲と庇護欲?」

「じゃあ琥珀さんは?」

「……。…………昔の関係の延長でブチ犯したい」

「はいアウトですね。……あれ、徳光先輩」

 てっきりニ発目のハンマーが飛ぶと思ってた木更ちゃんは、私のアウトな台詞に反応しない梓に首を傾けた。

「え?……あ、ごめんね」

 聞き逃してた、といって笑い誤魔化す梓。けど、ふたりに反して私とアンちゃんからはふっと笑顔が消える。

 梓は、決して聞き逃してたわけではない。いまでも彼女は神簇 琥珀を許してはいないのだ。

 

 

「で、一応聞くけど。今日は大丈夫だった?」

「はい。今日の所は特に問題はありません」

 私の問いに、アンちゃんは顔に「ありがとう」とも「すみません」とも取れる腰の低い態度でいった。

 あの後、木更ちゃんと梓は先に屋上を後にし、他の生徒たちもひとりまたひとりと教室を後にして昼休み終了10分前。いま現在屋上は私とアンちゃんの二人きりだ。

「なら良かった」

 一応、ドローン代わりに《幻獣機テザーウルフ》で監視してはいたけど、実際彼女に問題が起こった形跡は見られない。

「それにしても、鳥乃様……」

「呼び捨てでいいよ」

「で、でしたら鳥乃……さん?」

「ん、なに?」

 躊躇いがちにいうアンちゃんに、私は似合わなくも「くすっ」となりながら訊き返すと、

「鳥乃さんって、あの鳥乃沙樹さんだったのですね」

「驚いた?」

「はい」

 アンちゃんは頷くも、特に怯えたり敵視する様子は見られない。

「まさか、初日から姉上様の布団に潜り込もうとして簀巻きで一晩過ごされたようなお方が、元姉上様の宿敵だったなんて」

 と、アンちゃんは顔を赤くする。

「おかげでアンちゃんの部屋に夜這いに行けなかったわ」

 なんて私は冗談をいう様に本音いったら、

「え? 私に、ですか?」

 驚くアンちゃん。

「あまり前でしょ。じゃないと泊り込みで警備に入った意味がないわ」

「いえ、そういう事ではなくて。鳥乃さんの狙いは姉上様なのでは?」

「両方に決まってるじゃない」

 言いながら私は、制服の上からアンちゃんの桃まんを鷲づかみ。

「きゃっ」

「確かに成長した琥珀さんも魅力的だけど、アンちゃんだって魅力的よ。お淑やかなのに体は超ドスケベボディで私のレズ性欲を刺激しまくる逸材って話なのよね」

 とか言いながら、服にしわを作らずして彼女の胸を撫で回す。ってかホントデカい!

「ん、ぁん……ぁ、その……」

 アンちゃんは艶かしい声を漏らしつつ、顔を真っ赤にして。

「こ、これ以上は」

「大丈夫よ」

 そのまま私は彼女の手を引いて、おっぱい触ったまま優しく抱き寄せる。

「いま屋上には誰もいないから」

 よし、イケる!

 こういう大人しい子は強引に迫れば断りきれないパターンが多い。いままでの反応を見る限り、恐らくアンちゃんも同じはずだ。私はこのまま青姦に及ぼうとし、

『♪』

 最悪なタイミングでハングドから通信が入った。デュエルディスクから着メロが流れる。

「あ」

 と、私が反応した隙に、

「申し訳御座いません。私、そろそろ教室に戻らせて頂きますね」

 と、アンちゃんは私からそっと離れ、ニ三回ぺこりとお辞儀しながら屋上を後にしてしまう。

 残念。私はデュエルディスクのタブレット画面を操作し、

「はい鳥乃だけど。何いまいいトコだったのに」

 と、露骨に不満をもらす。

「そうか、お前の奇行を止めれたのなら幸いだよ」

 しかも通信先の増田は言ってやがるし。

「で、要件はなに? それで何でもない話だったら増田もゲイ牧師送りにしてあげてもいいんだけど」

「まさにそのゲイ牧師関連だよ」

 増田はいった。

「先ほどふたりから連絡が入った。依頼者を襲ったふたりの男だが、どうやら黒山羊の実らしい」

「そう……」

 予感はしてたけど、まさかここで奴らと当たるなんて。

「で、その同業者はどうしたって?」

「ああ。『おいしく頂いてから解放した』そうだ」

「うわ」

 そこは予想外。自分の仲間もお構いなしって話? まあ、ある意味嬉しい誤算ではあるけど。

 とはいえ相手が黒山羊の実と分かったからには、これ以上ゲイ牧師は外部協力者に使えないことになる。

「分かったわ。要件はそれだけ?」

「いや、それとは別に個人的な話がひとつある」

 増田はいった。

「鳥乃、おまえ俺のカードを勝手に持ってっただろ。具体的には《リンク・スパイダー》」

「あ、バレた?」

 実は昨日の神簇とのデュエルで使った《リンク・スパイダー》は本来私のカードではない。過去にもいった通り私は最低でも週1回(MISSION4参照)はデッキのカードを入れ替えてるんだけど、

「仕方ないじゃない。今回はどうにも手持ちだけでは一手足りなかったんだから」

「全く」

 タブレット越しに呆れた顔をする増田が脳裏に浮かぶ。

「ならふたつ約束してくれ。1つはこの依頼が終わったらすぐ返して欲しい。2つ目は、この依頼絶対に結果を出してくれ」

「言われなくても。もっとも2つ目は増田も協力してくれるんでしょ?」

「勿論だ。だから俺の協力を無駄にしないでくれ」

「りょーかい。じゃ、もうすぐ授業だから通信切るわ」

 私は通信を切った。

 

 

(ぐへへ。姉が駄目なら妹から)

 その日の夜。私は日付が変わった頃を見計らい、アンちゃんの部屋へと夜這いに向かってた。

 目の前には既に寝室の扉。これからあの子の大盛り桃まんを直接拝めると思うと、もっこりならぬ大洪水が止まらないわ。

「じゅるり。お邪魔しま~す」

 そ~っと扉を開けた。部屋の主は既に就寝中みたいだけど真っ暗闇は危険だからか豆電球が灯ってる。

 これで光源も十二分にクリア。私は忍び足でアンちゃんの布団に潜り込み、

(おおっ)

 となった。

 アンちゃんの浴衣が開けかけてたのだ。帯が緩み、左肩が露になったことで豊満な谷間が見え隠れする。たまらない!

 ヤバい、いますぐ窒息するまでおっぱいダイブしてしまいたい。私はそっと浴衣を脱がせようと手を伸ばす。

「んんっ」 

 そんな時だった。アンちゃんの体がもぞっと動き、その瞳がゆっくり開いたのは。

「あ」

 同時ではなかったけど、互いが互いに気づいて呟く。

 私の手は。うん、手は伸ばしてるけど浴衣に触れてはいない。セーフ。

「あーえっと、寝巻き開けてたよ」

「鳥乃さん、夜這いですか?」

「レズの嗜みよ」

 あ、しまったつい反応してしまった。夜這いといえば相手が寝たふりして待ってるか、起きたときには既に行為の真っ最中ってのがおつなのに! 襲う前に起こしてしまうとか失敗もいいとこ。……あれ?

「アンちゃん、もしかして最初から起きてた? むしろ襲われる気でいた?」

 なんて思ったのはアンちゃんの格好が私の理性を飛ばす気満々過ぎたのと、あまりに目覚めるタイミングが絶妙だったからだ。

 少し恥ずかしそうにアンちゃんはいった。

「さすがに休んではいましたけど、何となく襲われるような予感はしておりました。そして、もし襲われたら受け入れる覚悟も」

「覚悟? それは嬉しいけど、どうして?」

「姉上様は莫大な対価を払って鳥乃さんに護って頂いてるのに、私は何もハングドに御支払しておりませんから」

「気にしなくてもいいのに」

 私は、くすりと笑って彼女の頬を撫でる。

「心配しないで、アマチュアや友達の口約束とは違ってこれは書類もある正式なプロとの契約なんだから。護衛対象にアンちゃんも含まれてる以上、しっかり護らせて貰うわ」

 だから安心して私に抱かれて?

「鳥乃さん、ですけど」

 潤いの入った瞳で見つけるアンちゃん。衣服の開けた姿も相まってなんかえろい。

「そんなに、自分からもお支払いしないと信じきれない?」

「はい……」

 アンちゃんはうなずき、そのまま続けて。

「けど、家の資産を継いだ姉上様と違い私には出せるものは何もなくて。もし私と姉上様が同時に襲撃にあったら、きっと私は見捨てられてしまうのでしょう」

「そんな事は」

 私は否定しようとするけど、

「いいえ。依頼人は姉上様なのですから、仕方のないことです」

 と、体を震わせる。

 私としては勿論そんなつもりは毛頭ない。アンちゃんみたいな美少女を見捨てるなんてレズの美学に反するんだから、仮に護衛に含まれてなくたって両方とも助けようとするに決まってる。幸い、私の体は半分機械だから自分の身も犠牲にしやすい。けど。

(難しいよね)

 言った所で、アンちゃんは私の言葉を受け入れてくれるとは思えなかった。

 どうにもアンちゃんは自分の価値を極端に低く受けとめてるのだ。恐らくは過去に虐められた後遺症だろう。結果として他人に対しての不信に繋がってる。有事の際には裏切られる、真っ先に切り捨てられる、そもそも大事に思われてない。ってね。私も元人間不信だったから、方向性こそ違えど分かるのだ。

 思えば、姉に対して聞き分けが良すぎるのも「そういうこと」だったのだろう。

「ですから。今日のお昼、鳥乃さんが私を魅力的だといって手を出そうとした時、あの時は逃げてしまいましたけど、後になってこれしかないと思いました」

 そういって、アンちゃんは私の手にそっと触れる。

「鳥乃さん。私は私の体を報酬として姉上様とは別に私の護衛をお願いしたく思います。鳥乃さんが護衛に就かれてる間、いつどこでも私に手を出されて構いません。そして、無事に私を護りきって下さったら、改めて私は貴女の物となります。そういった御支払方は受け付けてはおりませんか?」

 そんな言葉を、色っぽい恰好でいわれて首を横に振れるはずがない!

「悦んで!」

 鼻息荒く私はいった。その刹那だった。

「なにが悦んでなのかしら?」

 背後から見下ろされる殺意にも似た冷たい視線。

「え、えーと」

 全身ガタガタさせながら振り返ると、そこには鬼の形相をみせる神簇さんの姿。

「確かに貴女にはアンの護衛を依頼したけど、布団に潜り込んで何をしようとしてたの?」

「ま、待って落ち着いて、話せば分かるわ!」

 私は慌てていうも、神簇さんは「ふ~ん」と一瞥し、

「アンをあられもない姿にしておいて、何が分かるっていうの?」

「そこ! まさにそこが誤解だから! これはアンちゃんが自分から」

「問答無用!」

 神簇さんは私の腕を掴むと見事な背負い投げをご披露。痛みに呻く間に私は手際よく簀巻きにされてしまうのでした。

「今日はもう護衛はいいわ。そこで反省してなさい」

 そういって自室に戻っていく神簇。私は芋虫みたいにもぞもぞしながら、

「あー。アンちゃん悪いけどこれ解いてくれない?」

 しかし、アンちゃんはすまなそうに開けた寝巻を整え、

「解くのは構いませんけど、見つかったら鳥乃さん解雇されてしまうのではないでしょうか?」

「う……」

「それだけでなく、もし屋敷を出入り禁止になってしまわれては、代わりに私が雇うことも難しくなります。ですので、申し訳ありません」

 アンちゃんの推測は正しい。さっきの神簇さんの様子からして、恐らく言い訳は通用しないだろう。

「あ~あ、せっかくアンちゃんが乗り気だったのに」

 と、私は一回嘆息。とはいえ、これで諦める私ではない。

「ねえアンちゃん。物は相談だけど」

「はい」

「この場で脱いでくれない?」

「はい。その程度でしたら……え!?」

 目を丸くするアンちゃん。

「だって仕方ないじゃない。手足が使えないんだから、せめて目と口と鼻で堪能しないと」

「あの、そこまでして私の裸見たいのですか?」

「見たい」

 即答した。

「あ、えっと、ぅぅ」

 顔を真っ赤にアンちゃんが動揺する。

「で、ですけど鳥乃さん。姉上様と違って私の裸なんてそんな価値のあるものでは」

「十分に価値アリってことは昼に教えたはずだけど」

「そ、それは……」

「それにアンちゃん、賃金払わず体だけ報酬に私雇ったでしょ。さすがの私でも金銭ゼロまでくると簡単には引き受けないわよ。ハングドも私ひとりでやってる仕事じゃないからね、赤字になった分は私のポケットマネーから出てるのよ」

「えっ」

 アンちゃんは驚き、

「そうなの、ですか?」

「そ。つまり大赤字してでも私はアンちゃん襲いたいって話なのよ」

「っ」

 再び顔を赤くし、さらに今度は布団を被って体を隠そうとする。可愛い。

「それに鳥乃さん。まだ依頼を受けたわけでは」

「受けたけど?」

 こちらも再び即答。

「だから堂々と襲おうとしたんじゃない。受けてなくても襲ったけど、私の中では和姦未遂だったけど違った?」

「っっっ」

 そのまま布団にぎゅーして縮こまる姿に、私は一瞬理性が飛んで、

「というわけでアンちゃん!」

 私はアンちゃんにルパンダイブする。簀巻きの芋虫状態のまま。そんでもって。

「鳥乃 沙樹!」

 お姉さんが勢いよく扉を開けて、

「手足拘束されて尚妹を襲うとか! どこまで貴女の根性腐ってるのよ!」

 簀巻き状態の私を掴みあげると。

「一晩、反省してなさい!」

 部屋の窓を開け、私を放り投げるのだった。

「え、ちょっ、待っ」

 その日私は庭で一晩を過ごした。

 

 

 ――任務開始3日目。

「では、行ってらっしゃいませお嬢様」

 まさにセバスチャンって雰囲気の初老の執事がいった。

「はい、行ってまいります」

 丁寧にお辞儀するアンちゃん。その隣では、

「セバスチャン、何かあったら連絡するのよ。すぐに戻るから」

 と、神簇さんはいった。私が信用できないらしく学校前までついて行くらしい。って、本当にセバスチャンだった。

「分かりました。鳥乃様、お嬢様をよろしくお願い致します」

 セバスチャンが見送る中、私たちは徒歩で学校に向かう。

「青姦日和のいい天気ね」

 空を見上げ、私はいった。

「学校、サボってホテル行かない? 3人で」

「どうして朝っぱらから発情してるのよ貴女は」

 半眼で呆れる神簇さん。一方、アンちゃんも苦笑いし、

「それに先ほど青姦日和と申されてたのにホテルなのですか?」

「気にしたら駄目な気がするわ、アン」

「……。そうですね」

 仲睦まじい姉妹の図にこっそり股を濡らせてると、

「けど、いまだに信じられないわね」

 と、神簇さん。

「何が?」

「貴女のことよ。昔は徳光さん以外の全人類を敵視しかねないレベルで人間不信だったのに」

「なのに、いまはハングドで活動してるって話?」

 と、1日目は言われたけど。

「そこもだけど。いま私が不思議に思ってるのは貴女の性癖のこと」

「性癖?」

「そうよ。あの鳥乃が女の尻追いかけて生きてるような変態性犯罪者になるなんて誰が想像できるのよ」

「あ、あー」

 確かに。

「しかも、元宿敵をナンパして、互いに身元判明した後も変わらず肉体関係求めてくるとか」

「そこはまあ私も元宿敵を口説く日だけは来ないと思ってたけどね」

「だったら」

 どうして、と訊ねる神簇さんに、

「ここまで綺麗なお姉さんを前にして抱かない選択肢あるわけないでしょ」

「なっ、えっ」

 神簇さんが顔を真っ赤にすると、アンちゃんが「ふふ」と微笑み、

「満更ではなさそうですね姉上様」

「ちょっ、あああアン!」

 激しく動揺する元宿敵萌え。

「べ、べべべ別にそんなわけないじゃない。こ、これはそうよ破廉恥な発言に動揺しちゃっただけよ」

「何だそうだったの残念」

 と、私もにやにやしながら食いついてみる。

「当たり前じゃない。抱くしかないとかセクハラ発言されて誰が不覚にもドキッとなるのよ。女性同士なのに」

「不覚にもドキッとしたのね、女性同士なのに」

「だから違うって言ってるでしょ!」

 と、神簇さんは私の頭にげんこつ一発。暴力に訴えるほどですかそうですかにやにや。

「ふふ、本当に仲がよろしいのですね」

 一方アンちゃんはそんな私たちのやり取りをやっぱり微笑ましげに眺めてた。

 

 

「ところで、鳥乃さん」

 学校に到着した。

 神簇さんは校舎近くに差し掛かった辺りで私たちと別れ、屋敷へと引き返す。

 私たちはその後ろ姿をしばらく見送ってたけど、神簇さんの姿が見えなくなった辺りで、アンちゃんが話を切り出した。

「鳥乃さんの目から見て、いまの姉上様はどういう風に映っておられますか?」

「どうって」

 抽象的な質問を前に、私はちょっと返事に困るも、

「まあ、半端なく凄い人だとは思うわ」

「凄い人、ですか」

「まあね。不器用で、見栄っ張りで、その上ちょっと抜けすぎてる。それで神簇家の当主継ごうっていうんだから、ある意味凄い人よ」

「ふ、ふふっ」

 姉の散々な言われ様に思わず噴き出してしまうアンちゃん。

「けど」

 私は続けていった。

「不器用で見栄凄くて抜けてるけど、筋は通すし状況や立場はしっかり弁えてる。完璧でも万能でもないけど、あの歳で家を神簇の財産を受け継ぐだけあるわ。凄い器よ」

「その通りです」

 アンちゃんはうなずいて、

「姉上様は、周りの方が一目見て思うほど完璧でなければ万能でもありません」

 寂しそうに話しだした。

「姉上様は自分に厳しい努力型なだけで、実は潜在スペックはあまり高くありません。でも、あの見た目と態度で皆に誤解されてしまうんです。完璧で万能な高嶺の花と」

「むしろ実はアンちゃんのほうが天才肌で何でもこなせそうよね」

「え?」

 何気なくいった言葉。けど、本人には相当意外な反応だったらしい。

「だって、お茶の淹れ方ひとつもそうだし、社交だってアンちゃんのほうがずっと上手くこなせてるしね」

「ありがとうございます」

 アンちゃんはペコリと一回。

「自惚れに受け取られるかもしれませんけど、実際そうなんです。でも姉上様は本当に本当に努力して、最後には本当に皆の期待に応えてしまいます。だから、姉上様の正体は屋敷の中でさえ一部の人しか御存じありません」

 アンちゃんはそこまでいってから、改めて私の正面に向き合う。そして、

「ですから鳥乃さん、よろしければ姉上様の弱さをどうかご理解下さい。等身大の姉をみてあげてください」

 と、想いのこもった言葉を私に伝えてきた。

「もしかしたら神簇って、内心アンちゃんのこと羨ましく思ってるかもね」

「え?」

「だってアンちゃん、お姉さんと違って何でも出来て器用だもの」

 少なくとも、いまのアンちゃんみたいな交渉術は神簇さんにやれと言っても難しいだろう。

「大丈夫、ちゃんと見てるから。アンちゃんのことも、お姉さんのこともね」

 言いながら、私はアンちゃんの頬を撫でる。

 トロンとなった瞳を前に、私は濡れた。

 

 

『鳥乃、緊急だ』

 連中が動いたのは、それから30分後。まるでこちらが動けないタイミングを狙ったようにホームルームの真っ最中だった。

 私は何とか理由をつけてトイレの個室に駆け込む。しかし思ったより時間ロスを食ってしまい、

「増田、何が起きたの?」

『依頼人が屋敷内の庭で襲撃された。既に交戦開始から数分経っている』

「敵の数は?」

『6名だ。どうやらデュエルを介さずリアルファイトで仕留めようとしてるらしい』

「分かったわ」

 数分、か。既に手遅れとかになってなければいいけど。

 そこへ、

「鳥乃さん」

 個室の外からアンちゃんの声が。

「先ほど姉上様が襲われたと連絡が入って、本当なのですか?」

「本当よ。こっちにも連絡が入ったわ」

「そんな」

 扉越しに悲痛な声。

「というわけで、ちょっと行ってくるわ」

「行かれるって、どちらへ?」

「もちろんアンちゃんのお家。そこの庭で襲撃を受けてるらしいわ」

 数秒ほどの静寂。扉の外からはどことなく不安で弱弱しい気配を感じる。

「私は」

 アンちゃんはいった。

「私はどうすればよろしいでしょうか?」

「アンちゃんはこのまま授業を受けてくれる? そして、放課後になっても迎えが来なかったら何かと理由をつけて職員室にいて。大事なのは誰か大勢と一緒にいること。ひとりになるのは危険だから」

 ゲスい考えだけど、アンちゃんを護るため、この際無関係者には盾になって貰うことにする。神簇さんは何いうか分からないけど、護る範囲は屋敷の人間に限定されてるし、「名目を都合よく使って臨機応変に対応しろ」と言質も貰ってる以上、契約に問題はない。何よりハングドはアウトローの組織であって正義のヒーローではないのだ。

 もちろん手が回れば無関係者も助けるけど、それはあくまで手が回ればって話。

「鳥乃さん、私を見捨てになられるのですか?」

 しかし、アンちゃんはここで予想外な台詞を口にした。

「もしかしたら罠かもしれません。真の狙いは私で、鳥乃さんを私から引きはがす為に姉上様を襲撃されたとしたら。いまここで鳥乃さんが離れるのは、私不安で御座います」

 扉の先から震えた声。

「鳥乃様、私からの依頼も受けて頂けましたよね? 何なら契約通りいまこの場で私をお抱きになられても構いません。ですから、姉上様だけではなく私も護ってください! お願い致します」

 そして、泣きすがるような声。私は極力優しくなだめる声で、

「心配しないで、既に手は打ってあるから。でなければ、授業中は否応なしに離れてるのにアンちゃん護るなんてできないでしょ」

「ですけど」

「それに、例え罠でもいま危険に晒されてるのはお姉さんのほうなのよ。それなのにアンちゃんだけを護ったら、それこそ契約違反になるわ。()()にね」

「それでも……」

 納得できない様子のアンちゃん。

「アンちゃんを疎かにするわけじゃないんだから信用して。私はアンちゃんだって護りたい。けど、いざって時にアンちゃんが信用してくれないと護りきれないわ」

「分かりました」

 落胆混じりの声が聞こえる。納得してないけどここは折れます。そんなオーラが扉を超えて胸に突き刺さった。

 幸いにも書類上の二重契約回避の為、彼女との契約はまだ口約束だ。

 元々色欲に負けて引き受けちゃった依頼ながらこれでアンちゃんが安心してくれたらと思ったものの、これは依頼を断る方向で話を進めないといけなそうだった。

「ありがとう」

 それでも、私には時間がない。

 私は感謝だけ伝え、すぐ《ワーム・ホール》を発動して神簇邸に向かったのだった。

 

 

 神簇さんは森林の中(庭の一部)に身を潜めていた。

 増田の情報通り敵の数は6体。いずれも神簇さんの正確な位置こそ特定してないようだが、ほぼ包囲完了してると見て差し支えない状況にある。

「っ」

 息を殺し、じっと一瞬の隙をうかがう神簇さん。以上の光景を私は樹の上から拳銃片手に眺めていた。

(うーん残念、見えない)

 神簇さんの谷間が。神簇さん割と胸大きいから着崩れてワンチャンと思ってたんだけど。

 なんて考えてたら敵が2名ほど射程圏内に入ったので、私は引き金を2回引く。いつものようにフィールで非殺傷弾となった弾丸は、相手の銃を両方とも弾き飛ばした。

「うわっ」

 ふたりが声をあげる。そこを続けて撃とうとしたけど、

「はあッ!!」

 それより先に神簇さんが動いた。

 獣が駆け抜けるように一瞬で敵の懐に踏み込むと、隠し持ってたビームサーベルによる居合抜きでひとりを両断。血の代わりに火花が飛び散り、悲鳴をあげる間もなく気絶したのが見えた。

「こ、この!」

 もうひとりが懐からナイフを抜くも、そっちは今度こそ私の獲物。特性の麻酔弾を受けた相手はその場で意識を手放した。

「よっと」

 私は樹から飛び降り、神簇さんの傍で着地した。

「鳥乃 沙樹! あなた学校にいたはずでしょ」

 言いながら神簇さんは袈裟斬りの構えを解く。

「それで駆けつけれない様ならこの仕事やってけないって話よ」

 と、私はいい。

「それより、さっさとこの場を何とかしましょ。一応アンちゃんの防衛措置も十分してるけど万一ということもあるから」

「そうね」

 神簇さんはうなずいた。

「お嬢様、覚悟!」

 残り4人。その内ふたりが私たちの前で拳銃を構える。よく見るとそれは屋敷で働く使用人だった。私も1度か2度顔を合わせたような気がしなくもない。

「また銃器。日本の銃刀法はどうなってるのよ」

 なんて神簇さんは言うけど、彼女も彼女でビームサーベルなんて握ってる。

「銃は剣よりも強しっていうけど、正にそうなのよね」

 武器を構えて呟く神簇さん。って、それ実際には「ペンは剣よりも強し」のパロディだから、元はジ〇ジョって漫画の台詞だから。

「どうすればいいのよ、これ」

 つぶやく神簇さんに私は、

「構わないわ。突っ込んで神簇さん」

「え?」

「どうやら、私の銃よりあなたの刀のほうが非殺傷に向いてるみたいだからね」

「そういう事を聞いてるんじゃなくて、ああもう分かったわ」

 駆け抜ける神簇さん。使用人たちは引き金を引くも、私の銃撃でふたりの弾丸は弾かれる。

「――」

 そして、驚く一瞬の隙に神簇さんは懐に飛び込み、ふたりをビームサーベルで横一文字。声ひとつ発する暇なく崩れ落ちた。

 神簇さんは振り返り、

「弾丸を弾丸で弾くって、貴女どういう精度してるの、――って鳥乃、後ろ!」

 と、叫ぶ。

 気づくと、5人目が私の背後すぐ傍まで肉薄し、いまにも日本刀を振り下ろそうとしている瞬間だった。

(しまった!)

 と、私は一瞬思うけど。焦らず相手の一撃より早く腕に内蔵してる銃で撃ち抜く。

「き、きさ……ま。どこから、銃を」

 血を流して倒れる5人目。フィールを込める暇がなかったので殺してしまったかもだけど仕方ない。何より、ここまで気配を悟られず接近してきたって事は、神簇さんと同じかそれ以上の剣豪だった可能性は高いわけで、下手すれば本気で自分が殺られてたのだ。

「そんな、先生までもあちら側だったなんて」

 言いながら、神簇さんは日本刀を拾う。

「先生?」

「うちの道場で剣術を教えてる先生のひとりよ。アンと仲が良かったわ」

「アンちゃんと」

 これはやっちゃったかも。しかし直後、神簇さんのデュエルディスクが勝手に動き出し、デュエルモードに移行する。

「こうなりましたら、先にデュエルでフィールを奪う所から始めるとしましょう」

 樹と樹の間から6人目がやってきた。サブマシンガンを担いだ初老の執事で、D・パッドとD・ゲイザーをつけている。

「セバスチャン、そんな貴方まで」

 悲痛な顔で神簇さんはいった。

「ええ」

 セバスチャンはニヒルに笑い、

「個人的にお嬢様には恨みも不満もありませんが、私にも事情がありまして。ここで倒れて頂きます」

 言いながら、銃器を背中のホルダーで固定しD・パッドを構えるセバスチャン。

「気を付けて。フィールを用いるデュエルはルールが同じなだけの別物よ」

「分かってるわ」

 まだショックから抜け出てない様子ながら、なんとか神簇さんはデュエルディスクを構える。

 不安だ。しかし、私は自分のデュエルディスクを確認する。タブレット画面には、魔法・罠カードの発動確認を要求するウィンドウが複数。すべてアンちゃんに忍ばせた魔法・罠カードの起動スイッチである。

 つまり、ここで私がデュエルに混ざったら画面がデュエルモードに切り替わり、カードを発動できなくなってしまうのだ。

「ご心配なさらず、殺す気はありません。お嬢様が雇われた方は別ですが」

 セバスチャンはいった。

 

 

琥珀

LP4000

手札4

[][][]

[][][]

[]ー[]

[][][]

[][][]

セバスチャン

LP4000

手札4

 

 

「先攻は頂きます。私のターン」

 セバスチャンは初期手札の4枚を確認すると、

「完璧な手札だ」

 ニヤリと笑った。

「これなら最初から全開でいける。私は手札から《古代の機械(アンティーク・ギア)猟犬(ハウンドドッグ)》を召喚」

 フィールドに現れたのは機械でできた一匹の犬。その犬は、地面に降り立つと同時に口から火球を飛ばし、いきなり神簇さんへと攻撃してきた。

「このカードは召喚の成功時に相手に600ダメージを与えます。お嬢様、覚悟下さい」

「え、きゃっ」

 やはり私の注意は耳に届いてなかったのか。神簇さん火球の衝撃に耐えきれず、宙を舞い地面に倒れる。

 

琥珀 LP4000→3400

 

「神簇っ」

 私は駆け寄るも、

「大丈夫よ」

 と、神簇さんはビームサーベルを杖に何とか自力で起き上がる。

 どうやらフィールの防壁自体は間に合ったらしく傷を負った様子は見られない。しかし、和服の一部が焼け焦げ素肌が露になっていた。

(ごくり)

 欲望に逆らえず、私は横乳を覗き込む。

「おおっ」

 と、大きくともハリのあるおっぱいに大興奮してたら、私は神簇さんのビームサーベルでばっさり斬られた。

 実際に肉を裂かれたわけではない。しかし、自分の身に鋭利な刃がスパッと入る感覚。直後、切り口からバチバチと音を立て強烈な電流が私を襲った。

「――っ!!」

 私は全身を痙攣させながら地面に倒れる。い、痛い。しびれて声も出せない。

「今度不真面目なことしたら、斬るじゃなくて突き刺すからね」

 神簇さんは、いまの私にとって最も恐ろしいことを言ってから、

「先攻バーンをしてくれて逆に感謝するわ」

 と、迷いを断ち切った様子で、対戦相手を真正面から見据える。

「おかげで、貴方を倒す覚悟ができたもの」

「強がりが言えるのも今のうちです。私は《古代の機械猟犬》のもうひとつの効果を使用。このカードは《融合》なしでアンティーク・ギア融合モンスターを融合召喚できる。私はフィールドの《古代の機械猟犬》自身と手札の《古代の機械(アンティーク・ギア・)贋作(フェイク)》を融合」

 セバスチャンが宣言すると、手札から更に1体の機械人形が出現。

「《古代の機械贋作》は必要な融合素材モンスター1体の代わりにできる。私はこの効果で贋作を《古代の機械(アンティーク・ギア・)参頭(トリプルバイト・)猟犬(ハウンドドッグ)》の代わりに使用。融合召喚、現れ出でよ《古代の機械(アンティーク・ギア・)究極(アルティメット・)猟犬(ハウンドドッグ)》!」

 《古代の機械贋作》が3つの頭を持った《古代の機械猟犬》の偽物に姿を変えると、2体のモンスターは混ざり合い、長い3つの首と無数の尻尾を持った、魔改造の成れの果てともいうべき機械猟犬が姿を現す。

「《古代の機械究極猟犬》の効果。このカードが融合召喚に成功した場合、相手のLPを半分にする!」

 

琥珀 LP3400→1700

 

 先攻1ターン目にして、いきなり2000以上削られる神簇さんのライフ。しかし、神簇さんは半減していくライフを前に全く焦った素振りを見せてない。

「その余裕、いつまでお持ちになられますかな? 私はカードを2枚伏せてターンを終了させて頂きます」

 

 

琥珀

LP1700

手札4

[][][]

[][][]

[]ー[《古代の機械究極猟犬》]

[][][]

[《セット》][《セット》][]

セバスチャン

LP4000

手札0

 

 

 先攻1ターン目から相手のライフを2300削り、最上級モンスター1体に手札全伏せ。随分と「完璧な手札」だったらしい。

「沢〇さん、《大嵐》っすよ!」

「誰が〇渡さんよ。変に敗北フラグ立てないで頂戴」

 神簇さんは「全く」と嘆息し、

「それに《大嵐》は禁止カードじゃない。いまは《ハーピィの羽根帚》よ」

「そうともいうわね」

 私は冗談っぽく言いったものの、《古代の機械究極猟犬》自身に破壊耐性がない以上、この局面で伏せカードを除去さえできれば、セットカードの内容にもよるけど勝利が一気に近づく。なにせ相手は手札0だから、手札誘発効果を使うこともないのだ。

「まあ、言われなくても使うつもりだけど」

 神簇さんはいった。直後、彼女の片手にフィールが集まり、光り輝く。

 って、これって!?

「私のターン。ここで私はスキル《デスティニー・ドロー》を宣言するわ」

 やっぱり。

「スキル!?」

 と、セバスチャンが驚く中。

「このスキルは私のライフが2000ポイント以上減った場合に使用可能。私はこのターン、ドローフェイズ時に通常のドローを行うかわりに、任意のカードを選んでドローするわ。最強デュエリストのデュエルはすべて必然! デスティニー・ドロー!」

 神簇さんはカードをデスティニー・ドローし、すぐデュエルディスクに読み込ませる。

「魔法カード《ハーピィの羽根帚》! その2枚のセットカードは破壊させて頂くわ」

 セバスチャンの傍に1つの羽根帚が現れ、セットカードをスマートに払い除けられる。2枚は《導爆線》と《聖なるバリア -ミラーフォース-》だった。

 しかし、デスティニー・ドローは私のダーク・ドローと同じく強烈にフィールを消耗する能力だ。実際、私の目にも神簇さんのフィールが3分の1ほどごっそり失われて映る。

「大丈夫なの神簇」

「仕方ないじゃない。フィールをケチって負けるわけにはいかないもの。もっとも、このデュエルではもうフィールの残量を心配する必要もないけど」

 と、神簇さんは続けてカードを1枚デュエルディスクに置く。

「私は《先史遺産ネブラ・ディスク》を通常召喚。効果でデッキから《RUM-先史遺産ザ・バプティズム・オブ・フォース》を手札に」

 神簇さんはモンスターを呼びつつ目当てのカードをデッキから引き抜き、

「続けて永続魔法《オリハルコン・チェーン》! このカードの発動後の次にX召喚する場合、素材を1つ減らしてX召喚する事ができる。これで勝利の方程式は揃ったわ」

 と、堂々たる勝利宣言。

「あ……」

 直後、セバスチャンの顔が青くなる。どうやら相手はこれから神簇さんが何をするのか察したみたいだ。

「私はレベル4《先史遺産ネブラ・ディスク》でオーバーレイ! 1体の先史遺産(オーパーツ)モンスターと《オリハルコン・チェーン》でオーバーレイ・ネットワークを構築」

 上空に銀河の渦が出現すると、霊魂となったネブラ・ディスクが《オリハルコン・チェーン》と一緒に取り込まれる。そして、爆発する銀河と共に浮かび上がったのは36の数字。まさかの新たなるナンバーズだった。

「エクシーズ召喚! 現れなさいNo.36! 結界に護られし遺跡チャタル・ヒュユク! いまこそ機動し、勝利へ導くコアとなれ! ランク4、先史遺産-超機関フォーク=ヒューク!」

 こうしてフィールドに舞い降りたのは、球状の結界に護られた古代遺跡のモンスター。その攻撃力は2000。

「フォーク=ヒュークのモンスター効果。このカードのオーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、相手モンスターの攻撃力をターン終了時まで0に!」

 神簇さんが宣言した瞬間、ソリッドビジョンの映像上辺りのあらゆる光がシステムダウンを起こし、光源がフォーク=ヒュークの結界だけになる。程なくして電力は回復し太陽も光を取り戻すも、ただ1体、《古代の機械究極猟犬》だけはエネルギーを根こそぎ抜かれたように動作を停止、ぐったりしていた。

 

《古代の機械究極猟犬》 攻撃力2800→0

 

「そして、私は続けて魔法カード《RUM-先史遺産ザ・バプティズム・オブ・フォース》を発動! このカードは私のXモンスター1体をランクが1つ高い先史遺産モンスターにランクアップさせるカード。私はランク4フォーク=ヒューク1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築。ランクアップエクシーズチェンジ!」

 再び上空に銀河の渦が出現すると、今度はXモンスターであるはずのフォーク=ヒューク自身が霊魂へと姿を変え、渦に取り込まれる。そして出現したのは33の数字。

「エクシーズ召喚! 現れなさいNo.33! 空に浮かぶ要塞マチュ=ピチュよ。いまこそ無数の砲を構え、敵を殲滅せよ! ランク5、先史遺産-超兵器マシュ=マック!」

 続けて出現したナンバーズは、昨日の私とのデュエルでも出してきた空中要塞。その攻撃力は2400。

(そういうこと。うわ、えぐっ!)

 私は、やっと神簇さんの狙いに気づき、そのえげつなさにゾッと身震い。

「マシュ=マックのモンスター効果。このカードのオーバーレイ・ユニットをひとつ取り除いて効果発動。相手モンスター1体の現在の攻撃力と元々の攻撃力の差分だけ相手にダメージを与え、同じ数値だけこのカードの攻撃力をアップさせるわ。《古代の機械究極猟犬》の攻撃力は、現在フォーク=ヒュークの効果によって0! それによりセバスチャン、貴方には実質的に《古代の機械究極猟犬》の攻撃力分のダメージを受けて貰うわ。インフィニティ・キャノン!」

 マシュ=マックから召喚口上でも触れてた無数の砲身が顔を出し、セバスチャンに向けて一斉に掃射される。しかも今回はフィールでリアルソリッドビジョン化。

「ぬわあああ!」

 無数の砲弾を浴び、絶叫をあげるセバスチャン。元々のフィール量が少なかったのだろう、フィールを消耗してる神簇さんの攻撃でさえ完全に防御しきれずダメージを受けてるように映った。

 

セバスチャン LP4000→1200

《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》 LP2400→5200

 

「これで終わりよ。マシュ=マックで《古代の機械究極猟犬》ごと相手プレイヤーに攻撃。ヴリルの火!」

 砲撃による煙が落ちつき、背中のサブマシンガンも壊れボロボロなセバスチャンが姿をみせる。そこへ神簇さんは無慈悲にも攻撃力5200のフィール攻撃を元屋敷の執事だった人にぶつけるのだった。

 

セバスチャン LP1200→0

 

 

 ――現在時刻9:40

「……はっ」

 1時間近く気を失ってたセバスチャンが目を覚ました。現在、私たちは神簇さんの部屋にいる。もちろんアンちゃんも一緒だ。

「そうか、私は作戦に失敗したのですね」

 縄で拘束されてせいか、抵抗する素振りも見せない。

「他の人たちはどうなりましたか?」

「生存者は全員この部屋に転がってるわ」

 神簇さんの言葉に、セバスチャンは辺りを見渡す。部屋には男女問わず使用人が4人ほど同じように縄で拘束された姿で気絶していた。

「先生がおりませんね」

「先生は死んだわ」

「そうですか」

 沈痛な空気が辺りを支配する。その殺した張本人である私としては居たたまれない。

 あの後、私たちは改めて被害者の容体を確認したけど既に脈はなかった。神簇さんにはあとでハングドが死体処理すると伝え、生存者をいまいる自室に運ぶ最中、私はこっそり遺体を地縛神の生贄に取り込み“死体処理”とした。

「姉上様、お茶をお淹れしてきます」

 そんな空気に堪え切れなかったのだろう。アンちゃんは席を立って一度自室に戻る。しかし神簇さんから反応はなく、結局彼女が3人分の湯飲みを持って戻ってくるまで、この空気は続いた。

「ありがとう」

 湯飲みを受け取り、やっと神簇さんは口を開く。そして、淹れたてのお茶を一口飲むと、

「私、そこまで人望がなかったのかしら?」

 不意に、神簇さんは呟いた。

「貴方とも先生とも、まだ起きない使用人のみんなとだって良好な関係を築けてると思ってた。そりゃあ、私がまだ小学生だった頃は酷いことしてたと思うわ。けど、今回の6人で昔の私を知ってる人なんて貴方と先生くらいじゃない。誰かをぞんざいに扱った覚えもないし、それどころか屋敷の人たちは全員大事にしてきたつもりよ。ねえ、教えて! 私の何がいけなかったの? 私がまだ若いから? 昔の私のツケ? それとも私、まだ皆に恨まれるような人間だったの?」

 涙を流し、抑えきれない感情が彼女の言葉に強く強く込められる。私は彼女の嘆きを聞きながらお茶を一口。――って、このお茶!?

「この屋敷において、お嬢様と双璧を成す立場の人間」

「え?」

「その人の誘いで、私たちはお嬢様から離反しました」

「それ、……って」

 詰め寄ろうとする神簇さん。その体が、突如として崩れる。お茶に仕込まれてた睡眠薬の効果だ。

「神簇!」

 遅かった。私は手を伸ばすも直後首筋に痛みが走る。注射針だった。

「な、ぁ……」

 薬剤を流し込まれた私もまた、意識が急速に薄れていく。

 一体、誰が。

 私は最後の力を振り絞って後ろを向く。そして、私と神簇さんは同時に“そこに立ってた黒幕”の名を呼んだ。

 

『ア……ン……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~SIDE:Anzu~

 

 私の名前はアン。神簇の家で次女として生誕し、現在陽光学園高等部の一年に在籍してます。

 そして、これから真の神簇家当主となるものです♪

「見苦しい姿を見せてしまいました」

「いいのですよ、セバスチャン」

 私は情けない執事に微笑みまして、

「私も失敗してしまいましたから」

 と、注射器を捨てました。ふふ、この薬剤の中身が全部裏切り者の鳥乃様に流し込んだのだと思うと、いい気味だと興奮してしまいますね❤

「ありがとうございます、アンお嬢様。いえ」

「アンのままで構いません。私もそのほうが聞き慣れてますから」

 アンというのは愛称。本当の私の名前は神簇 杏(かむら あんず)といいます。もっとも、原作遊戯王に登場する杏子さんとは正反対な人間ではありますけど。背もあまり高くありませんし、勝ち気というには内気。ダンスはダンスでも私は得意なのは社交ダンスのほうで、性格もあまり「いい人」ではありません。

「ではアンお嬢様。鳥乃様は如何致しましょう」

「もちろん、始末します」

 当然じゃないですか♪ 籠絡できるようなら組織から引き抜いて私の犬にとも思いましたけど、彼女は()()できないですもの。

 私はデュエルディスクを起動し、手持ちのカードを読み込ませる。

 浮かび上がったのは15の数字。そこから出現したのは1体の巨大な機械人形♪

「ジャイアントキラー、よろしくお願いしますね」

 私がジャイアントキラーと呼んだモンスターは指から糸を伸ばし、意識のない鳥乃様を捕らえます。そして、そして♪ モンスターの胸部が開くと、そこには凶悪な粉砕機(ローラーミル)♪ いまから鳥乃様は粉砕機にかけられて肉片になってしまわれるんです❤

 ローラーがギュイイインと回転を始め、粉砕機に運ばれていく鳥乃様♪♪ 貴女が悪いんですよ❤ 貴女が私より姉上様を優先したのですから❤❤❤

 ですけど、もう少しでローラーが鳥乃様のお綺麗な脚を粉砕するその時でした。突如として鳥乃様の体から紫色の瘴気みたいなフィールが浮かび上がると、中から見たこともない鯨のモンスターが顔を出して、ジャイアントキラーを逆に体当たりで粉砕したのです。

「え、な、なに?」

 と、私が呟いた時には既に瘴気も鯨も消えておりました。いまのは一体何だったのでしょう?

「セバスチャン、あれが何かは……」

 言いかけて私はやめました。だって、セバスチャンも困惑してたんですもの。

「申し訳ありません」

 セバスチャンがいいました。

「ただ、私に分かることは鳥乃様は気を失っても尚フィールを使って迎撃に出たということです」

「そうみたいですね。……でしたら」

 先にフィールを頂いてしまいましょう。

 私は鳥乃様のデュエルディスクにデュエルを申し込み、フィールと違法プログラムの合わせ技で強引にデュエルを開始させます。そして、こちらから彼女の手を操作してサレンダーを宣言。フィール・カードはデュエルのアンティか本人の意思でしか奪うことができません。けど、どのような形であれ私は正式にデュエルをし、そして勝利致しました。

 鳥乃様の体から何枚もの光が浮かび上がって、私の手元でカードに姿を変えます。

 《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》に《幻子力空母エンタープラズニル》そして《CX 超巨大空中要塞バビロン》。《ダーク・ダイブ・ボンバー》《重爆撃禽 ボム・フェネクス》《起爆獣ヴァルカノン》。《紅貴士(エーデルリッター)-ヴァンパイア・ブラム》に《ヴァンパイアジェネシス》なんてカードも持ってらしたのですね。他にも沢山、たくさん頂きました♪

 ですけど、再び殺そうとしたらやっぱりさっきの鯨が反撃してくるんです。ジャイアントキラーだけでなくて、私自ら毒を彼女のお口に流し込もうとしたときも。決闘者の勘でフィール現象なのは間違いないと思うのですけど、既に鳥乃様のフィールは0のはず、なのにどうしてでしょう? そもそもカードなら先ほど全部奪い取ったはずですのに。

「恐らく鯨のモンスターには有事の際に自立行動できる特殊なフィールを持ってるのかも致しません」

 とは、セバスチャンの推測。根拠はないものの「まだ未解明な部分の多いフィール・カード故に」だそうで。

「どちらにしても、殺せないのでは仕方ありませんね。残念ではありますけど」

 姉上様のフィール・カードも同様に奪いながら私はいいます。せっかく、鳥乃様が死んで姉上様の悲鳴を聞けると思ったのに。……あ、いいこと思いつきました♪

 私はセバスチャンに一言断り自室からカメラを持ってきます。少し機械音痴気味の姉上様と違って、多機能かつ高画質の最新版です♪

「お嬢様、何をされるおつもりですか?」

 訊ねるセバスチャンに、私はうきうき顔で、

「撮影しようと思いまして。セバスチャンや皆様が粉砕機(ジャイアントキラー)にかけられるお姿を」

 言っちゃいました❤

「なっ!?」

 セバスチャンは驚き、

「正気ですか、お嬢様。あなたは自分についてきた従者を殺すというのですか?」

「はい」

 だって、だって❤

「姉上様は皆様のことも信頼してましたから、皆様が死ぬ動画をご覧になればきっとショックを受けて下さると思うのです。それを何度も何度も繰り返し見せて心が壊れる姉上様。想像しただけでうっとりしませんか?」

「っ」

 顔を真っ青に絶句するセバスチャン。私、何か変なこといいましたか? ふふ、気のせいですね❤

 だって、だってだって♪ こんな素敵なアイデアなんですもの❤❤❤

「ア、アンお嬢様。そのような非道をなぜ。やはり作戦に失敗した罰ということですか?」

「罰? とんでもありません」

 私はいいます。

「不器用で抜けてる姉より私こそが当主になるべき。そんな私の言葉に皆様は賛同して下さり、今日まで尽くして下さいました。先にも言いましたけど、今回の失敗の原因は私にもあります。命を掛けて戦ってくれた皆様に感謝こそしても失望などしておりません」

「で、でしたら何故?」

「二度も言わせないで下さい、姉上様に見て頂く為です」

 けど、確かにそうですね。セバスチャンが言うように「作戦に失敗した罰で殺した」と伝えれば、姉上様へのショックはもっと大きいはずです❤ だって、セバスチャンを倒したのは姉上様ですもの❤❤❤

 

 数分後、ローラーが騒音をたてながらセバスチャンの脚を、胴を、そしてお顔を砕いていきます♪ 部屋を染めるのは真紅の血飛沫。昨日まで姉上様が心を許してた人間が、全てを投げうってでも逃げようと暴れ、敵わず恐怖そして死の痛みに顔面を崩壊させるその様♪

 悲鳴と絶叫。断末魔の叫びをあげ、セバスチャンというひとりの人間が血と骨の分別さえつかない肉片になり果てるその瞬間まで♪♪

 全部♪ 全部♪ 全部ぜんぶぜ~んぶ♪♪♪ 撮影しちゃいました❤❤❤❤❤❤

 姉上様、どんなお顔を見せて下さるでしょう❤❤❤ その綺麗なお顔が絶望に変るのが楽しみ❤❤❤ そうですね、動画を見せた後もたっくさん追い込んで「くっ殺」でも言わせてみせましょう❤❤❤❤❤❤

 うふふ、楽しみにしてくださいね。私の大切な、愛おしい程に憎らしい姉上様❤




●今回のオリカ


古代の機械贋作(アンティーク・ギア・フェイク)
効果モンスター
星2/地属性/機械族/攻 500/守 500
(1):このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。
(2):このカードを融合素材に使用する場合、他の「古代の機械」融合素材モンスター1体と同じカード名として扱う事ができる。
(3):このカードは、融合モンスターカードにカード名が記された融合素材モンスター1体の代わりにできる。
その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。

古代の機械究極猟犬
融合・効果モンスター
星9/地属性/機械族/攻 2800/守 2000
「古代の機械参頭猟犬」+「古代の機械」モンスター1体
①:このカードが融合召喚に成功した場合、相手のLPを半分にする。
②:このカードは1度のバトルフェイズ中に3回まで攻撃できる。
③:このカードが攻撃する場合のダメージステップ終了時まで、相手は魔法・罠カードを発動できない。
(遊戯王ARC-V)

RUM-先史遺産ザ・バプティズム・オブ・フォース
(1):自分フィールドのXモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターよりランクが1つ高い「先史遺産」モンスター1体を、対象の自分のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果で「先史遺産」モンスターを対象として発動した場合、そのメインフェイズ中に墓地のこのカードをゲームから除外する事で、
自分のデッキまたは墓地から、「RUM-アージェント・カオス・フォース」1枚を手札に加える事ができる。
(キリストの洗礼)

オリハルコン・チェーン
永続魔法
このカードの発動後の次にエクシーズ召喚する場合、
エクシーズ素材を1つ減らしてエクシーズ召喚する事ができる。
このカードが破壊された時、このカードの効果によってエクシーズ素材を
1つ減らしてエクシーズ召喚したモンスター1体のコントロールは相手に移る。
このカードの効果によってエクシーズ素材を1つ減らしてエクシーズ召喚した
モンスター1体がフィールド上から離れた時、このカードを破壊する。
(遊戯王ZEXAL)

デスティニー・ドロー
スキル
自身ライフが2000ポイント減るごとに使用出来る。ドローフェイズ時に通常のドローを行うかわりに、任意のカードを選んでドローする。
(遊戯王デュエルリンクス)

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