遊☆戯☆王THE HANGS   作:CODE:K

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 3か月以上も更新を停滞し、みませんでした。
 リアル事情で以前より執筆にあてる時間が減ってしまい更新頻度は減りますが、遊☆戯☆王THE HANGSは新マスタールール導入後も更新を続けていきます。
 これからも、どうかよろしくお願いします。


MISSION9-アンバーカラーの想い出(前篇)

 私の名前は鳥乃 沙樹(とりの さき)。陽光学園高等部二年の女子高生。

 そして、レズである。

「プロポーション抜群のお姉さんと赤ちゃんプレイしたい」

「はい《ハンマー・シュート》」

 コンビニでロコちゃんと会った翌日の朝。早速、私は教室で梓のハンマーを受けた。

「ひ、ひどい梓」

 床にめりこむように倒れ、何とかピクピクしながら梓にいうも、

「だって、今日の沙樹ちゃん普段以上に気色悪いこというからー」

「私にだって、たまにはお姉さんにベッドで甘えたいのよ」

 そう。理想をいうなら、この前の任務で死なせてしまった奴隷9番こと猫俣さん。抜群のわがままプロポーションで、包容力もあって、本当に惜しい人を護りきれなかった。

「だからって赤ちゃんプレイはないよ」

 どうやら梓にはそこが駄目な様子。私は起き上がり、

「なら幼児プレイ? それともばぶばぶ?」

 はいハンマー二発目入りました。私は再びメメタァされたカエルみたいな顔で、

「あ、あへ」

 一回生死の境を彷徨う。けど、

「あ、そういえばお姉さんで思い出したんだけど」

 そんなことお構いなしに、梓は屈めていった。

「近所に住んでる神簇(かむら)さんって覚えてる? ふたつ年上の、豪邸に住んでるお嬢様」

「忘れるわけないでしょ」

 フルネームは神簇 琥珀(かむら こはく)。小学生の頃は同じ学校に通い集団登下校で梓共々同じグループだったのだけど、彼女にはあまり良い印象を持ってない。というのも、登下校中に神簇さんが梓を虐め、それを見た私が徹底的に虐め返した経験があったからだ。

「それで神簇さんがどうかしたの?」

 ハンマーの痛みが引き、椅子に座り直しながら訊ねると、

「うん。噂なんだけど、先日先輩のお爺ちゃんが亡くなっちゃって、いまお屋敷が色々大変なんだって。それも普通の大変さじゃなくって、この前銃声が聞こえたって」

「銃声?」

「うん」

 梓は不安そうに頷き、

「私の家はまだ離れてるからいいけど、沙樹ちゃんのお家はすっごく近かったよね? 気をつけて」

「そうね、気をつけるわ」

 ちょっとだけ。

 “裏側”を知らない梓が「銃声」なんてものを普通に受け止めてるのが気になったけど、タイミング悪くチャイムが鳴ってしまい、その話はお開きになってしまった。

 

 

 ――現在時刻12:30

「神簇 琥珀からの依頼か?」

「そ、確かリストにあったはずだけど」

 昼休み。

 私は食事を手早く終えてから屋上でハングドと通信を取っていた。

 この学校の屋上は週に何回か一般開放されてるんだけど、今日はその日ではないからか、私以外には誰もいない。

「ああ、確かにあるな。まだ誰も手付かずだ」

 通信先から増田はいった。

「受けるのか?」

「うん、お願い。ついでに詳細データも転送してくれる?」

「わかった。数分待ってくれ」

 と、通信先からキーをカタカタ打つ音が聞こえた。

「ところで」

 そんな音を出したまま増田は、

「何かあったのか? 知らなかったならともかく、普段のお前なら若い女性の依頼ならすぐ受けようとしただろう」

「そう、なんだけどね」

 私は一泊置いて、「琥珀さんは私が小学生だった頃の知り合いなのよ。それも、お互いあまり良くない印象のね」

 それ以上に、前回友人でもある依頼人を護りきれなかったショックが残ってるから、とは言わないでおく。

「なら、どうして突然受けようと思ったんだ。オフの時間に連絡まで取って」

「神簇のお屋敷から銃声が聞こえたっていうからね。近所には私の幼馴染だっているし、万一巻き込まれる前に解決したいだけ」

「なるほど」

 直後、私の端末がファイルを受信した。

「一応データは送ったよ。届いてるか」

 私は「ちょい待って」と受信したデータを確認し、

「受信完了。ありがと増田」

「いまから依頼人に連絡を取ってこちらで待ち合わせを決めておく。事前の希望から恐らく18:00にステーションホテルのラウンジになると思う」

「分かった」

 それから幾つか取りとめもない確認を取ってから、増田との連絡を終える。

「(さてと、仮眠でも取ろっと)」

 半ば予想はしてたものの、受け取った依頼内容には護衛が含まれてた。となれば、私は今日この時間を逃せば夜通しの警備で寝れない可能性がある。

 私は適当に身を隠せそうな場所を探し、壁に背を預けた。

 それから30分くらい経った頃だろうか。ちょうどいい日差しもあってか目を瞑ってるだけがつい寝息に変りはじめる。

 そんな時だった。

 耳が銃声を捉えたのは。

「っ」

 私はすぐ気を張り巡らせ、辺りの様子をうかがう。音からしてフィールを用いて発砲時の騒音を抑えたもの、そして屋上よりずっと遠くから撃ったものと思える。

 私は警戒しながら双眼鏡を出し、屋上から外を眺める。そして、見つけた。

 場所は学校からすぐ近くの路地。そこで、ひとりの特徴的な格好をした女性がコートにサングラス姿の男ふたりに追いかけられてた。

 女性は腰まで届く長い髪に少し気が強そうに見えるも整った顔立ち。私の見立てでは同じ歳から大学生辺りだろう。世間から高嶺の花に見られそうなタイプの美女だった。そんな人間が、よりによってハイカラな袴に下駄姿で怪しい男から逃げている。こんな光景を見たら火災現場さえ恐れない江戸っ子も回れ右して逃げ出すだろう。

 よく確認すれば、男は銃を隠し持ってる様子だった。

(さて)

 私は考えた。仮にいまここで彼女を危機から救うことができれば、どんな反応を貰えるだろうか。きっと「すてき、抱いて」となるに違いない。

(ぐへへ)

 私は顔をにやけさせたまま双眼鏡で美女を追い続け、彼女の足が止まるのを待つ。そして、

「魔法カード《ワーム・ホール》」

 私は目の前に空間の歪みを作る。すると、同時に遠く離れた彼女の傍にも同じ歪みが。

『!?』

 突然のことに、美女だけでなく3人全員が驚いてるのがうかがえる。私は歪みに手を伸ばし、

「こっちよ」

 と、歪みの先にあったものを掴み引っ張る。すると、あらら不思議美女は歪みの中に飲み込まれたと思うと私の下へ。二つの歪みは、まるでど○でもドアのように繋がっていたのだ。

「きゃっ」

 強引に腕を引かれた美女は、“こちら側”で姿勢を崩し私に抱きかかえられる。そして、突然学校の屋上にきてしまったことで目をぱちくり。

「ここは」

「陽高の屋上よ」

 と、彼女の胸を鷲掴み。なお陽高とは陽光学園高等部の略語だ、ってわお! さすが和服のせいで目立たなかったけどこの人結構ぼいんじゃないのよ。

 なんて喜んでたら、

「きゃあッ!」

 バチンとビンタ一発。しかも、それが並の威力じゃなく私は空をトルネードしてからのヤ〇チャ倒れ。

「な、何なのよ貴女いきなり!」

 ぜーぜー息をしながら睨みつける彼女に、私はまだ痺れの残る頬を撫でながら、

「何ってそんなの、そこに揉めるおっぱいがあれば普通に揉むでしょレズの生態的に」

「意味分からないわよ。それと聞きたいのは突然こんな所に連れ込んで、何が目的?」

「ナニが目て――」

 ふざけた瞬間だった。彼女が懐から何かを抜き出すと同時に光の筋が私の喉元に突き付けられる。

「もう聞くわ。何が目的? いま私命を狙われてるから容赦はできないわよ」

 それはビームサーベルだった。もしくはライトセーバー? とにかく遊戯小説に似つかわしくない光学兵器を握り、余裕なく睨む彼女に私は冷や汗混じりに、

「い、いや正にそのピストル持った男に追いかけられてたのを見つけて、つい手を差し伸べたんだけど」

「証拠は?」

「って言われても、信じて貰えないと悪魔の証明になるんだけど」

 だって、突発的な行動なんだから、相手の状況も知らない以上照明する手段がなさすぎる。

 言いながら私はこっそり手首の向きを調整し腕の銃でビームサーベルの握り手を撃ち抜く準備は万全にしておく。彼女の様子から、私を信じる余裕など無さそうに見えたから。

 けど、意外にも彼女はすぐ殺傷には出ず、

「なら腹の底を言いなさい。でないと、こんな逃げ場のない所に連れられて、貴女が“ピストル持った男”とグルだと判断するしかないわ」

「あなたを助けて『すてき、抱いて』って言われたくてしました」

「……は?」

 突如のことに彼女の顔が唖然となる。よし! ちゃんと聞く耳をもってくれた。私は続けて、

「あなたみたいな素敵な女性がブ男ふたりに追いかけられてるなんて、レズの私としては見逃すわけにはいかなかったのよ。それでもってここには他に人いないしね。上手く口説いて堂々と青姦に及べるかなって。迷惑だった?」

「嘘、じゃなさそうね。信じられないことに目が本気だもの」

 彼女は盛大なため息一回に、

「まあ一応、助けてくれたことには感謝しておくわ、ありがとう。……その下心さえなければ」

 と、ビームサーベルの刀身を収める。

「褒めても発情しかでないからね」

「何なの貴女」

「レズである」

「頭痛してきたわ」

 頭を抱え彼女はいった。

 私は笑い、双眼鏡でもう一度外を眺めながら、

「まあ、外が落ち着くまで避難してるといいわ。あいつら、まだ君を探してるみたいだしね」

 男共は二手に別れいまも現場近くをうろちょろしてた。

「そうさせて貰うわね」

 彼女は言うも続けて、

「ただし。セクハラしたら痛い目にあって貰うからそのつもりで」

 と、展開前のビームサーベルを見せて笑った。よかった。少しは肩の力抜いて安心してくれてるみたい。

 こうして間近で見ると、改めて彼女は魅力的に映った。

 ただ強気なだけでなくお淑やかも併せ持ち、一度微笑めば満開の桜みたいに周りが彩る。その上驕ったりする所もなく、多少きつめの態度が棘をつくる場合もあるものの一度接してみると案外打ち解けやすい。

「そういえば、お互い自己紹介まだだったわね」

 そんな様子のまま、彼女はいった。

「私は神簇 琥珀(かむら こはく)、よろしくね。貴女は?」

 なんて訊ねられる中、私は静かに思考停止した。

 OK、話をしよう。

 実は受け取った資料には当然、顔写真も添付されてたんだけど私はまだ確認してなかった。何故なら、神簇 琥珀という人間には私の中で悪い印象が強すぎて、「いまも醜悪な中身が見た目に露見したブスでしょ」と思い込んでたせいで、視界に入れるのを拒んでたのだ。

 知っての通り私は女の子には目がないレズである。けど、私にだって数え17年生きてきて受け入れられない女性というものは存在する。唯一ひとりだけ。それが、神簇 琥珀だったのだ。

 ぶっちゃけ、体が頭が現実を拒絶しているのだ。認めてしまったら、何か大事なものが音を立てて崩れてしまいそうで。

「? どうしたの?」

 そんな事も知らず神簇 琥珀は固まった私の顔を覗き込む。しかも、先ほどまでのピリピリしたものもなく、友達に接するようなフレンドリーな態度で。

「神簇……琥珀、サン?」

 数秒ほど固まった後、やっと私は口だけ動く。

「ええ、そうだけど」

「もしかして、陽光学園小学部を卒業して中学は某お嬢様女子中へ移った、あの?」

「よく知ってるのね、その通りだけど」

「小学部時代にある子を虐めて、その子の友達に返り討ちにされた、あの、あの?」

「な、何でその黒歴史知ってるのよ貴女!」

「アイエエエ!? カムラ=サン!? カムラ=サンナンデ!?」

 私は腰を抜かしお尻から床に倒れる。ジョバババババ。

「そこまで驚くことなの? どういうことなの、貴女一体だれ?」

「ドーモ。カムラ=サン。匿名希望です」

「名乗ってないじゃないの」

「いや本当。せめてあなただけは、せめて今だけは想い出ブレイクせず冷静でいて?」

 彼女から依頼を受けた以上時間の問題なのは分かるけど。黒歴史って言ってたから私のことも覚えてるみたいだし。

「という事は、過去に面識のある人なのね? 私の知り合いに貴女みたいな危険人物の変態はいないはずだけど」

「酷い! レズ代表の私を侮辱するってことはこの世のレズを侮辱するって話じゃないの」

「貴女こそこの世のレズを侮辱してるじゃないの。一応、私は女子高の出だからそういう趣味の友達だって何人かいるけど、貴女のこと話したらみんな怒りを覚えるんじゃないかしら。こんなのと一緒にされたくないって」

「そんな、そんなことは!」

 ない、とは言い切れないわね。さすがにそろそろ「自分のレズ定義」が他所と違うことくらい自覚はしてる。だからって自分のキャラを変える気もないけど。

「まあそれはともかくとして」

 神簇さんは私の手から離れた双眼鏡を手にとると外を眺め、

「まだ私を探してるわね。どうしよう、このままだと……」

 と、神簇さんは言いかけた口を止める。

「何か緊急の用事?」

 訊ねると、神簇さんは「ええ」と頷き、

「人と会う約束をしてて、けどこのままだと連絡を取ることもできないわ」

 その相手とは間違いなく。

「それって、ハングド?」

「え?」

 神簇さんは驚き、

「ど、どうしてそれを」

 やっぱり。

「そりゃあね」

 私は立ちあがり、いった。

「いまから会う予定のハングド構成員って私だから」

「っ!?」

 ついに声さえ出ないって様子の神簇さん。けど、

「この位って驚かれたら困るって話なんだけど。本当の地雷はこの後なんだから」

 そこまで言ってから私は彼女の正面に立ち、それでいて気まずさに視線を逸らしいった。

「改めて、今回あなたの依頼を担当することになったハングドの鳥乃 沙樹(とりの さき)よ。んーまあ何、久しぶり?」

 数秒後、神簇さんは絶叫した。

「アイエエエ!? トリノ=サキ!? トリノ=サキナンデ!?」

 

 

「あの人たちが狙ってるのは、私の祖父が残した財産なの」

 神簇さんはいった。依頼内容の詳細である。

「うちは代々古武術と古物を扱ってた家の分家でね。本家から預かってる貴重な品もそれなりにあるわ。両親は神簇を名乗ってないから、いずれ家を継ぐのは私だと聞かされてきた。けど、それは遠い遠い未来の話。そう思ってたんだけど」

「この前、亡くなったんだっけ。その祖父が」

「ええ」

 私の正体を知った神簇さんは最初こそ激しく取り乱したものの、意外にもすぐ「それはそれ」とすぐ仕事の話に入りだしたのだった。

 仮にも自分を虐めたことがある相手なのに。それだけ余裕がないのだろうか。

「これを好機と様々なやり口で財産を狙われたわ。私では神簇の当主は務まらないと思われたのか内部からも、そして」

 神簇さんは、一拍置いていった。

「ある日、ついに金庫が盗まれた」

「なるほど」

「うちの金庫って大人が数人掛かりでやっと持ち運びできるかどうかってレベルの重さなのよ。だから、まさか丸々持ってこうとするなんて。けど」

「けど?」

「恐らく、あの人たちは金庫を盗むことはできても、中を開けることはできなかったんだと思うの。金庫には特殊な加工が施してあって、開錠手段を知ってるのは祖父と私だけ」

「だから狙われてたのね、さっきの男に」

「ええ」

 神簇さんはうなずいた。

「ですので、ハングドには私たちを追ってる男たちの特定と対処。及びその間私たちの護衛をお願いしたいの。できれば2人雇いたいわ。報酬は金庫の中に。本家の財産は出せないけど、神簇の財産だったら最悪全額提供するわ。ただし、依頼執行の結果金庫の破壊に至った場合、報酬は無いに等しくなるわね」

「つまり、報酬が欲しければ可能な限り金庫を無事な状態で回収しろと」

「逆に要らなければ爆破でもいいわ。あの男たちのものになる位ならそれでもいいと思ってるから」

「了解」

 私はいって、

「人数については問題ないわ。元々ハングドは担当の他に支援がついての最低2人体制で任務に入るから。それよりも確認したいのがひとつ」

「なに?」

「さっき、私()()って言ったけど。一応詳しく聞いても?」

 私の記憶が正しければ、たしか神簇さんにはアンっていう妹がいたはずだ。

「任せるわ」

 神簇さんはいった。

「任せる?」

「現在、私の屋敷の中は誰が敵で誰が味方か分からないわ。確実と言い切れるのは妹だけよ。貴女も敵を護ろうとは思わないでしょう」

 しかし、説明する神簇さんはどこか雲って見えた。嘘をついてる。そんな目だった。

「依頼は正直にお願い」

「え?」

「依頼者はあなたよ。そちらの希望に私は従うだけ。敵ごと全て護れっていうなら従うわ」

「貴女……」

 一回、驚いた顔。それから神簇さんはすまなそうに、

「撤回はしないわ。名目を都合よく使って臨機応変に対応して下さい。でも、私の我侭を言わせてもらうなら屋敷の人たちも敵と確定した人以外は可能な限り護って欲しい。これが本音よ」

「分かった」

 私はうなずいた。

「依頼内容は以上と思って構わない? それなら、早速任務に入ろうと思うんだけど」

「お願いします」

 頭を下げる神簇さん。

「じゃ、早速」

 私はデュエルディスクのタブレットから梓に電話をかけ、

「もしもし、梓? ごめん悪いけど早退するわ」

 とだけ伝え、電話を切る。

「一応、学業が終わるまでは待てたのよ?」

 すまなそうに言う神簇さんに、

「ああいや、そうじゃないのよ」

 と、校舎の外に視線を向けていった。

「ちょうど尋問しやすそうなのが二匹うろちょろしてるじゃない」

 その後、男共をデュエルで拘束した後、幾つか質問の後ゲイ牧師(MISSION3、4参照)に献上した。

 

 

「いまの所はこんな感じかな?」

「そうね」

 神簇邸に徒歩で向かいながら、現在私たちは現状の再確認を行ってた。神簇さんが先ほど追いかけられてた経緯についても。

 先述の通り神簇邸は現在誰か敵で誰が味方か分からない状況にある。その為に神簇さんはハングドに連絡を取ろうと外へ出たのだが、そこを男共に襲われた。しかも、うっかり部屋着のまま外出した為デュエルディスクを持ち忘れ、返り討ちにもできず、逃げ続けるしかできなかったらしい。

 男共は、どこかの組織の構成員らしい。実のところゲイ牧師に預けたのは、彼らが黒山羊の実だったら牧師は「同業者だったので解放しました」と馬鹿正直に報告してくれるだろうと思ったからだった。組織絡みなら、ハングドが介入した情報を掴まれるのも時間の問題だろうしね。

 なんて話してるうちに、私たちは神簇邸に到着した。

 敷地は背の高い塀に覆われ、門の隙間からのみ内部を覗かせる。そこを潜れば車で移動するのを前提とした、まるでアニメや漫画でみるような庭という名の大自然。鳥の囁きを聞きながら、私たちは徒歩で更に数分。やっと屋敷の玄関へと到着した。

「ただいま」

 中に入り神簇さんがいうと、

「お帰りなさいませ」

 と声。奥からひとりの少女がやってきた。

「姉上様、そちらのお方は?」

 この子もしかして。

「お客様よ。アン」

 やっぱり。彼女は妹のアンちゃんだ。

「初めまして、神簇 アンと申します」

 一礼するアンちゃん。それがもうホント作法礼儀弁えたご丁寧なそれで、

「初めまして、鳥乃です」

 私もついつい畏まってしまう。

「鳥乃様、ですね。姉がお世話になっております」

 少し小柄で、凛としてる姉とは反対に腰も低く大人しい印象を覚える。しかし、そのバストだけは別。幾ら彼女が自己主張しない雰囲気をしてても、胸の目立ちづらい袴姿であろうとも、隠しきれない巨乳がそこにあった。決して小さくない姉でさえ袴の上からは全然目立たないというのに。この妹さん脱げばどれだけの凶器をお持ちなのだろうか。

「悪いけど後で私の部屋にきてくれる?」

「わかりました。でしたら先にお茶をご用意致しますね」

 そんな私の視線にも気づかず、アンちゃんはおっとりした微笑み顔で「3人分でよろしかったですか?」なんて訊ねる。特大肉まんふたつ付いてくるから、これは立派な飲茶ね。

「ありがとうアン。彼女のことはその時改めて紹介するわ」

 姉の神簇さんはいい、

「こっちよ」

 と、私を自室に案内する。

「悪いわね。本当ならもっとちゃんとした部屋で話したかったのだけど」

「別に大丈夫よ」

 私は返す。自室ならこっそり寝床をくんかくんかしたり、下着を頂いたりできるしね。幾ら正体が昔嫌ってた神簇さんだからといって、これだけの美女になったとあれば性欲に生きるのが私ことレズである。

「それよりアンちゃんだっけ。大きくなったわね」

 確か神簇さんより3つ下だから、木更ちゃんと同じ歳のはず。

「うん。ほんと、いい子に育ってくれたわ」

「特に胸がね」

「あの子に、しっかり注意を呼びかけないと」

 頭を抱える神簇さん。

「って」

 突然、神簇さんは驚いた顔で、

「あの子とまだ会ってなかったの?」

「え?」

 どういうこと?

 すると神簇さんは、

「アンが通ってる学校、陽光学園なんだけど」

「え!?」

 今度は私が驚き、

「アンちゃん、神簇さんと同じ学校行ってないの?」

「中学は私が卒業した女子中だったのだけど。どうやら、あの子あっちで虐められたみたいで」

「あー」

 確かに、ああいう大人しい子は虐めのターゲットになるよね。

「もしかして、だからここまでキャラ変わったの? 元虐めっ子の神簇さん」

「黒歴史穿り返さないで」

 神簇さんはため息一回に。

「私が変わったと思うなら、原因はあな……別にあるけど。でも、思うところがあったのは確かね」

 何か言いかけてたのは分かったけど、すぐ言い直されてしまい、仕事的にも追求する必要はなさそうだったので私はスルーし、

「そりゃあるでしょうね。梓とか梓とか昔の梓とか」

 でも、弄りはやめない。

「やめて本当に」

「えー」

「それでも弄るなら担当のチェンジも辞さないから」

「うっ」

 どうやら、これ以上遊ぶのはやめたほうが良さそうだ。

「それより。ここよ」

 神簇さんは部屋のドアを開けていった。どうやら到着したらしい。

 そこは、いうなら旅館の寝室を思わせる和室だった。畳の匂いが鼻を抜け、ちゃぶ台に掛け軸がどこか落ち着く。

 横隅には給湯設備もあり、やろうと思えばトイレ以外この部屋を出ず一日を過ごすことも可能にみえた。

「いい部屋じゃない」

「ありがとう。適当に楽になってて」

 座布団を用意してくれたのでありがたく座らせて貰ってると、程なくして。

「姉上様、お茶が入りました」

 と、アンちゃんが人数分の湯飲みと饅頭を持ってきてくれた。

「ありがとう、そこに座って」

「はい」

 促されてアンちゃんが座ると、

「さて、早速だけど本題に入るわね」

 神簇さんはいった。

「現在、この屋敷で信頼できる人間は私とアンのふたりだけ。それ以外は誰が敵で誰が味方なのか分からない状況にあるのは知っての通りね?」

「はい」

 アンちゃんは頷いた。ふたりとも表情に緊張と不安が入り乱れてる。

「そこで」

 と、神簇さんは目で私を見て。

「この度、私は事態の早期収拾のため奪われた金庫そのものを報酬にハングドを雇うことにしたわ。こちらにいる鳥乃さんが私たちを担当して下さる方よ」

「えっ」

 アンちゃんが驚き、

「ハングド、ですか? 姉上様。もしかしてここ数日行動されてたのは」

 どうやらアンちゃんには知らされてなかったらしい。

「ごめんね黙ってて。貴女のことは信じてるけど、どこで誰が聞いてるか分からなかったから伝えたくてもできなかったのよ」

「そう、ですね」

 納得した、というより分かってますといった様子のアンちゃん。普通なら一言二言いってやっても良い内容なのに。それだけアンちゃんが理解の良すぎる子なのか、それだけ厳しい状況にあるのか、それとも。

「それで、今後からの行動だけど。ハングドの方には先述の通り私たちを護衛しながら奴らを特定、かつ対処して頂きます。それで」

 と、神簇さんは視線を私からアンちゃんに移し、

「鳥乃さんには、明日から彼女と一緒に通学し、学校生活の傍ら可能な範囲で彼女を護ってくれないかしら?」

「え?」「姉上様?」

 驚く私とアンちゃん。神簇さんは私がアンちゃんと同じ高校の先輩であることを告げ、

「学生兼任なら留年させるわけにはいかないでしょう。それに何より、ここ数日危険だからとアンには学校を欠席して貰ってたから」

「ああ」

 私は納得した。

 しかしアンちゃんのほうは、

「けど、姉上様が」

「鳥乃さんへの依頼はこの屋敷の方たちの護衛、当然対象にアンは含まれてるわ」

「ですけど、それでは姉上様が!」 

「半日自衛する程度はできるわ。今日はうっかりデュエルディスクを忘れただけで」

 不安だ。不安だけど私ひとりでは離れた場所にいるふたりを同時に護ることはできない。

「……わかりました」

 アンちゃんも同じ気持ちだったのだろう。すごく不安を顔に表して、しかし姉の意志を尊重しますといった様子で彼女は折れる。

「一応、ハングドのほうでも私が離れてる間どうにかできないか相談してみるわ。もし何かあったら私だけの失態では済まないしね」

「この際、強がりは言わないでおくわ。ありがとう」

 つまり本当なら強がっておきたい所なのだろう。やはり彼女はプライドの高い人間なのだ。それでいてプライドより現実を優先させる器量も弁えてる。

「あ、そだ」

 私はふと。

「しばらくの間、私もこの屋敷に寝泊りしても大丈夫? 依頼内容からして、私24時間体制で目を光らせてたほうがいいと思うのよ」

 するとアンちゃんが、

「では、私がお部屋の準備を致しますね。姉上様」

「そうね。悪いけどお願い、アン」

「はい」

 よし。私は心の中でガッツポーズした。

 これでいつでも夜這いができる!

「それと食事や入浴も基本的に外で済ませることになるわ。家での水分補給はアンが部屋に給湯器などを置いてるから彼女に頼んで頂戴」

「アンちゃんが? けど」

 私は部屋の給湯設備に視線を向ける。

「アンのほうが上手なのよ。お茶を淹れるの」

「そうなの、アンちゃん?」

「えっと」

 アンちゃんは困った笑みを浮かべるだけ。すると神簇さんが、

「べ、別に私が不器用ってわけじゃないのよ?」

 なんて見事に自爆してくれる。

「不器用なのね?」

「べ、べべ別に不器用じゃないってば。剣道薙刀合気道は段持ちだし」

 うわなにこのいきものかわいい。

 けど、剣道に薙刀しかも合気道まで有段者だったの神簇さん。怖い。

「そ、そんな事よりも!」

 あっ、誤魔化した。

「ハングド側から何もなければ、いま説明した態勢で進めてこうと思うだけど構わないかしら?」

 神簇さんの真剣な瞳。

 私はからかうのをやめて頷いた。

「なら話は以上よ。アン、悪いけど鳥乃さんと話があるから、少し下がって頂けるかしら?」

「はい」

 席を立つアンちゃん。

「ごめんね、アン。こちらから呼んでおいて」

「いえ、私のことはお構いなく。では」

 と、アンちゃんは一礼してから部屋を後にした。

 神簇さんは妹の足音が聞こえなくなるのを待ってから、

「さて」

 と、改まっていった。

「ここからはプライベートの話よ」

 ()()()()()()。わざわざこう口にした時点で、私は気づくべきだったのだ。

 この時、私はすっかり無防備だった。

 年月を経て、公私を使い分ける次期当主として遜色ない美女に生まれ変わった彼女を前に、私は完全に心を許してしまってた。

 神簇さんは。――いきなり私の胸倉に掴みかかった。

「鳥乃沙樹! なんで貴女がハングドなんかにいるのよ!」

「え、ちょっ、神簇さん?」

 突然のことに軽く混乱する私。

「貴女絶対そういうタイプじゃなかったでしょ! 寧ろ始末される側でしょ、なに正義のヒーロー面してるのよ。性格最悪なくせに、性格最悪なくせに!」

 そこにいたのは、まさに想い出の天敵である神簇 琥珀そのものだった。な、なんて奴! いまのいままでずっと猫被ってやがったっていうの?

「そ、それはこっちの台詞って話よ!」

 ここでイニシアチブを取られるわけにはいかない。遅れて私も彼女の胸倉を掴み返す。

「そちらこそ未だ梓に謝りもせず、虐め被害者の家族面? 自分の失態は権力でもみ消す気なのが丸分かりなんだけど。一体どっちが性格最悪だか」

「そんな性根悪いことするわけないじゃない!」

「するから梓が虐められたんじゃない。家のコネで周り味方につけといて」

「それは……」

 図星なのか押し黙る神簇。が、次の瞬間。

「そんなの、虐められる態度をするあの子が悪いんじゃない!」

 言いやがった。私は口角を吊り上げ、

「ほう、それアンちゃんが聞いたらどんな反応するかな~?」

「あ」

 ハッとなる神簇。

「あの子を出すなんて卑怯よ! このクズ! 鬼! 悪魔!」

「そのまま返してあげるわ、このクズ! 鬼! 悪魔!」

「なによ!」

「なによ!」

 そのままお互い胸倉を締めあい、真正面からにらみ合うふたり。

「こうなったらデュエルよ。貴女との長年の宿命、ここで決着つけてあげようじゃない」

「望む所じゃない」

 私は喧嘩腰のまま返し、

「せっかくだから、勝ったほうは何かひとつ言うこと聞くってのはどう?」

「いいわね。貴女に一生物の恥を与えてあげるわ」

「なら私が勝ったらあなたに一生物の傷をつけてあげるから」

 その貞操に。

 しかし、神簇は私の意図には気づかなかったようで。

「もう勝ったつもり? 勝つのは私なんだから」

 と、真正面からデュエルディスクを起動する。

 私もデュエルディスクを起動し、互いの機械が目の前の人を対戦相手と認識。デュエルモードへと移行する。

 

『デュエル』

 

 こうして、全くもって自然な流れでデュエルが始まった。

 

 

沙樹

LP4000

手札4

[][][]

[][][]

[]ー[]

[][][]

[][][]

琥珀

LP4000

手札4

※ 試験的にリンク導入後の表記を以上の形で行います。今回はスピードデュエルになります。

 

 

「先攻は貰うわ。私のターン」

 ディスクの決定を見て神簇はいい、

「私は手札から《先史遺産ネブラ・ディスク》を召喚」

 神簇が召喚したのは、1体の先史遺産(オーパーツ)モンスター。その攻撃力は1800。

「このカードは召喚成功時にデッキから先史遺産(オーパーツ)モンスターを1体手札に加える。私はデッキから《先史遺産ゴールデン・シャトル》を手札に加え、カードを2枚伏せるわ。ターン終了よ」

 確か《先史遺産ネブラ・ディスク》には、自分の場のモンスターが先史遺産のみの時に墓地から特殊召喚する効果を持っていた。つまりここで戦闘破壊しても、次のターンにはサーチしたゴールデン・シャトルと併せてフィールドに舞い戻ってくる。

 そしてゴールデン・シャトルの効果は「フィールドの先史遺産全てのレベルを1上げる」もの。

 レベルはどちらも4、つまり彼女の狙いは次のターンにランク5のエクシーズ召喚。

「私のターン、ドロー」

 だったら、どんなモンスターがくるかは分からないけど出来る限りの対策はしておこう。

「私は手札から《幻獣機ブラックファルコン》を召喚。更に装備魔法《団結の力》で攻撃力を800アップ」

 私の場に1体の幻獣機が出現すると、《団結の力》を受けたそれはオーラに包まれ攻撃力上昇がビジョンで表示される。

 

《幻獣機ブラックファルコン》 攻撃力1200→2000

 

「攻撃力がネブラ・ディスクを超えた」

 つぶやく神簇。けど、その程度で終わるはずはない。

「ブラックファルコンでネブラ・ディスクを攻撃。ここでブラックファルコンの効果が発動。私の場に幻獣機トークンが発生。そして《団結の力》の効果は場のモンスターの数×800攻撃力を上げる効果。つまり」

 

《幻獣機ブラックファルコン》 攻撃力2000→2800

 

 ブラックファルコンの攻撃力は更に上昇する。そして《幻獣機ブラックファルコン》は場にトークンがいる限り戦闘や効果では破壊されない。トークンが生成される前に《炸裂装甲》とかされたらやばかったけど、賭けには成功。これで次の相手の一手に対処する準備は整った。

 と、思ってたら。神簇はいった。

「そうするわよね、読んでたわ」

「え?」

 しかし、攻撃自体は成立したようでネブラ・ディスクはブラックファルコンの攻撃に撃ち抜かれ破壊される。

 

琥珀 LP4000→3000

 

 攻撃力の差分が琥珀のライフを削るも、ここで彼女は2枚の伏せカードの片方を表向きにし、

「罠カード。《先史遺産の呪い》発動」

 と、宣言した。直後、紫色の瘴気が怨念の如くブラックファルコンの機体に絡みつく。

「このカードは私の先史遺産モンスターが相手モンスターによって破壊された場合に、その相手モンスターを対象に発動するカードよ。この効果でブラックファルコンは以後攻撃と表示形式の変更が不可能になり、さらに効果も無効にする。また、私はこの戦闘で発生したダメージの倍の数値だけライフを回復するわ」

 

琥珀 LP3000→5000

 

 回復していく神簇のライフ。実質的にダメージが回復に変換されてしまった。

「でも、ブラックファルコンの攻撃力上昇は《団結の力》によるものだから。《先史遺産の呪い》では消えないから」

 しかし琥珀は、

「だからいいのよ」

「え?」

 それって。しかし本人からの回答はなく。

「私のターン」

 今回のデュエルルールであるスピードデュエルではメインフェイズ2が存在しない。ターン終了時にすることもなく、そのままターンは神簇へと切り替わる。

 

 

沙樹

LP4000

手札2

[《団結の力(ブラックファルコンに装備)》][][]

[《幻獣機ブラックファルコン(攻撃)》][][《幻獣機トークン(守備)》]

[]ー[]

[][][]

[][(伏せカード)][]

琥珀

LP5000

手札3

 

《幻獣機ブラックファルコン》 攻撃力1200→2800

 

 

「行かせて貰うわ。私は手札から《先史遺産ゴールデン・シャトル》召喚、更に墓地から効果によって《先史遺産ネブラ・ディスク》特殊召喚。そして《先史遺産ゴールデン・シャトル》の効果で2体のレベルを5に」

 予想通り、神簇は2体のモンスターを並べレベルを5にしてきた。

「そして私は、レベル5になったゴールデン・シャトルとネブラ・ディスクでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築」

 部屋の天井に銀河の渦が出現すると、2体のモンスターはいつものように霊魂へと姿を変え取り込まれていく。そして、銀河の中からまず浮き出たのは、なんと33の文字。

「え!?」

 私は驚いた。だって、その演出から推測されるモンスターは、ナンバーズと呼ばれるフィール・カードなのだから。

「エクシーズ召喚! 現れなさいNo.33! 空に浮かぶ要塞マチュ=ピチュよ。いまこそ無数の砲を構え、敵を殲滅せよ! ランク5、先史遺産-超兵器マシュ=マック!」

 フィールドに現れたのは口上の通りその存在そのものが巨大な兵器と化した空中要塞。その攻撃力は2400、ってそんな事よりも。

「ちょ、ちょっと!?」

 私は驚きながら叫んだ。

「神簇、なんであなたがフィールカードなんて持ってるのよ」

「当たり前でしょ、古物を扱う家なんだから」

「まるで古物を扱うなら持ってて当然みたいに言わないで」

 しかもこの断言どこか既視感。ああ、そうだ普段の私の「レズなら当然」発言と同じなんだ。

「それに、フィールカードもなしに『半日なら自衛できる』なんて言わないわよ」

 そこはごもっとも。

「でも、肝心のデュエルディスクを忘れて外に」

「そんな事よりいまはデュエルよ!」

 あ、また誤魔化した。

「マシュ=マックのモンスター効果。オーバーレイ・ユニット1つを取り除いて、相手モンスター1体の攻撃力とその元々の攻撃力の差分のダメージを相手に与え、同じ数値だけこのモンスターの攻撃力をアップ」

「えっ」

 待って、いまブラックファルコンは《団結の力》で強化されてるから。

「この効果によって、鳥乃沙樹! 貴女に1600点のダメージを与え、マシュ=マックの攻撃力を1600上昇!」

 神簇の言葉と同時にマシュ=マックから召喚口上でも触れてた無数の砲身が顔を出し、私に向けて一斉に掃射される。

 

沙樹 LP4000→2400

《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》 攻撃力2400→4000

 

 とはいえ、さすがにフィール込みで攻撃する気はないらしく、私は砲撃の雨を浴びるも痛みひとつ感じることはない。でも、ビジョンで表示されたマシュ=マックの攻撃力に私は「やばっ」となる。

「お返しよ。マシュ=マックでブラックファルコンに攻撃!」

 ブラックファルコンの攻撃力は2800、このままだと私はさらに1200のダメージを受けてしまう。

 けど。

「あ、じゃあダメステいい?」

「え?」

 一瞬硬直する神簇。まあ、オのつくモンスターみたいなカードは使えないんだけど。私は手札を1枚墓地に送って、

「手札の《幻獣機ジョースピット》の効果発動。このカードを墓地に送り、ブラックファルコンの攻撃力を400ポイントアップ。さらに私の場に追加の幻獣機を特殊召喚するわ」

 フィールドに半透明のジョースピットが浮かび上がると、ブラックファルコンの攻撃力を上昇させつつ、その横に新たなデコイの幻獣機が出現する。

 神簇はほっとして、

「なんだ400アップね。驚かせないで頂戴よ」

 なんて様子の彼女に、私はついにやけながら一言。

「で、《団結の力》」

「え? あっ」

 途端、ピシッと固まる神簇。気づいたらしい。

「幻獣機トークンが新たに出現したことで、ブラックファルコンの攻撃力はさらに800ポイントアップ。これで私のモンスターの攻撃力も」

 私は表示されたビジョンを指し、

 

《幻獣機ブラックファルコン》 攻撃力2800→3200→4000

 

「4000って話よ」

 いった。

「嘘、追いつかれた!?」

「じゃあ迎撃しちゃってブラックファルコン」

 マシュ=マックとブラックファルコン。互いの攻撃が互いを撃ち抜き、戦闘は同時討ちという形で双方とも墓地に送られる。

「なら、リバースカード!」

 神簇はいった。

「《ストーンヘンジ・メソッド》を発動。このカードは、……って、あれ?」

 神簇はきょとんとした顔をみせる。発動を宣言はずの《ストーンヘンジ・メソッド》が表側表示にならないのだ。

「どうして、デュエルディスクの故障?」

 と、状況を把握できない様子の彼女に私は一言。

「ネブラ・ディスク」

「え? あっ」

 再び、ピシッと固まる神簇。

 彼女が使ったネブラ・ディスクには、自身の効果で墓地から特殊召喚したターン。先史遺産カードの効果しか使用できなくなるってデメリットがあるのだ。

 《ストーンヘンジ・メソッド》はデッキから先史遺産を呼ぶ効果を持ってるから確かに先史遺産サポートのカードではある。けど、カード名に先史遺産がない以上、ネブラ・ディスクの制限に引っ掛かってしまうのだ。

「あ、うー……あー」

 自分の失態に、すっごく顔真っ赤な神簇。ほんといつの間にこの子は可愛い反応をするようになったのだろう。

「べ、別にネブラ・ディスクのデメリット忘れてたわけじゃないのよ。ちょっと熱くなって、うっかりしてただけなんだから」

「ふ~ん」

 にやにや。

「な、なによ!」

「ううん別に」

「なら何でにやにやしてるのよ! 言いなさい! 正直に言いなさいよ鳥乃沙樹!」

 きゃんきゃん騒ぐ神簇萌え。

「あーもう、バトル終了」

 そんな頭に血が上ったままの神簇(可愛い)は、吐き棄てるようにフェイズの移行を宣言し、

「メインフェイズ2にカードを伏せ……え、なんでターン終了になってるの?」

 と、再びやらかしてた。

 スピードデュエルには、メインフェイズ2は存在しないのである。

「じゃ、私のターンね。ドロー」

 私がさっさとカードを引いた頃、やっと神簇は気づいたようで。

「あ、そういえばメインフェイズ2はないルールだったわね。って、鳥乃沙樹なんでもうドローしてるのよ」

「可愛い(いやそう言われても)」

「ななななななななな!」

 まるで茹蛸になる神簇。あ、しまった心の声が表になってた。

「も、もういいわ。どっちにしても私のライフは5000あるんだから。対して貴女は場にトークンが2体と手札が2枚。私のライフを削りきるには少し手が足りない状況のはずだもの」

 なんて、ご丁寧に説明フラグまで口に出してくれちゃう。

「じゃあリクエストにお答えして」

 私はまず、真ん中のモンスターゾーンに存在してた幻獣機トークンを取り除き、

「私は通常モンスター、幻獣機トークン1体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!」

「えっ」

 突如、辺りは暖色の電脳空間に書き換わり、前方に八方のマーカーが出現する。幻獣機トークンは矢印となって下を指し示すマーカーに取り込まれ、 

「リンク召喚! 起動せよ、リンク1《リンク・スパイダー》!」

 EXモンスターゾーンに出現したのは、1体の電脳の蜘蛛。

「え、ちょっ。鳥乃 沙樹! 貴女、リンクモンスターなんて持ってるの!? しかもトークン1体で呼び出すような」

 驚く神簇。

「《リンク・スパイダー》の攻撃力は1000。まずこれで1000点確保ね。続けて《リンク・スパイダー》のモンスター効果、1ターンに1度、このカードのリンク先に手札の通常モンスターを特殊召喚できる。《リンク・スパイダー》のリンクマーカーは下。リンク先のゾーンはさっきまで素材モンスターがいた場所だから、いまモンスターはいない。特殊召喚可能よ」

 私は手札の1枚をフィールドに置き、

「手札からレベル4チューナーモンスター《バルジザン》を特殊召喚」

 出現したのは、水兵服を着た機械兵士の群れ。

 神簇は「うわっ」て顔で、

「チューナーって事は、もしかしてトークンを使って今度はレベル7の」

「大正解。レベル3幻獣機トークンにレベル4《バルジザン》をチューニング」

 機械兵士が4つの輪に変化すると、中を幻獣機トークンが潜り、3つの星になって輪と混ざり合う。

「未だ穢れに染まらぬ無垢なる翼よ。その透明さで敵を討て!シンクロ召喚!飛翔せよ、レベル7!《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》!」

 口上と共に出現したのは、やっぱりまだ本来の持ち主に返却できてない1体のドラゴン。

「クリアウィングの攻撃力は2500、これで合計3500点ね」

「ま、まだ1500足りてないじゃない!」

 虚勢を張る神簇。けど、私は最後の手札を見せて一言。

「そしてこのカードを通常召喚」

「あ……」

 神簇の唇が小さく動く「おわった」と。

 そのカードは攻撃力1700の《幻獣機テザーウルフ》だった。

 

琥珀 LP5000→4000→1500→0

 

 

「む、無効よこんなの」

 デュエルが終わるとすぐ、神簇は喚くようにいった。

「わ、私の手札にはミラフォがあったんだから。それをちゃんと伏せてたら勝ってたのは私のほうじゃない。だから無効よこんなの」

 とかなんとか言ってるけど、そんな我侭が通用すると思ってるのだろうか。

「確かに伏せてたら神簇が勝ったかもしれないわね。……それで?」

「それで、って」

「ミスがあっても勝ちは勝ち、負けは負けでしょ。さすがに性格最悪だった神簇のお嬢様でも、いまのあなたならその位の事は分かると思ってたんだけどね」

「それは……」

 押し黙る神簇。しばし訪れた静寂。私は、彼女への落胆で「はぁ」となりかけた頃。

「あの頃に戻りたかったのよ」

 神簇はいった。そして、涙目で詰め寄り、

「貴女キャラ変わり過ぎなのよ。貴女元々は人間嫌いの人間不信で徳光さん以外この世に必要ないって感じの孤高なキャラだったじゃない。それが何でレズビアンで正義の味方になってるのよ」

 彼女の嘆きが痛いほど伝わってきた。

 どうやら、思った以上に神簇の中で私の存在は大きかったらしい。恐らく宿敵として、ある意味好敵手として。

 けど、決着をつけるべき相手は、すでに想い出とはかけ離れた人間になってて、それが自分の人生の一部を否定されたようにショックで。彼女のいう通り「梓以外この世に必要な」かった私でさえ、いまの変り過ぎた神簇にショックがあるのだから、彼女の言葉を聞けばどれ程のものかなんて凄く分かる。

 だから。

「プライベートなんだから、我儘ひとつ言わせなさいよっ」

 涙を一粒浮かべる神簇の姿が、取り残された一羽の雛鳥みたいに痛々しく映る。

「ごめん」

 居たたまれなさに、私は視線を逸らした。

「私も、神簇があまりにキャラ変わりすぎて、ううん……人間的に成長しすぎて甘えちゃってたわ」

 正直いまの神簇はレズ目線抜きでも魅力的な人間に見えた。優れた人格者で、だけど隙が多くて程々に抜けてて、いい意味で完璧じゃない。

 だから、つい“いまの”神簇に攻撃してしまったのだ。

 僅かな間、静寂が訪れる。私はどうすれば神簇に「ごめん」って気持ち届かせれるか必死に言葉を探すも、正解は頭の中に出てこない。

「ごめんなさい、困らせちゃったわね」

 静寂を打ち消したのは、神簇だった。

「少し、喋っていい?」

 訊ねる神簇に私は、

「うん」

 と頷く。

「ありがとう」

 神簇はいった。

「昔の私は、自分が誰より偉いと思ってたわ。通せない我侭はなかったし、周りの人間はすべて私に従うものとだと思ってた。そりゃ家族っていう例外はあったけど、まだ幼かったからそういう矛盾には気づかなかったわね。祖父の教育はむしろ厳格だったけど、その分使用人に我侭言いたい放題してたわ」

 確かに。私の知る神簇 琥珀という人間はス○夫の財力を持ったジ○イアンともいうべき、親のスネでふんぞり返るテンプレ的な傲慢我侭お嬢様だった。

「だけど、貴女は私に屈しなかった。私が教師も世界も味方につけても、貴女はだから何って態度で私に向かってきたでしょ」

 うん。確かに神簇の姿が目に映るたびに執拗に殴りかかってたわね。覚えてますとも。

「でも」

 神簇はやさしい微笑みを浮かべだす。

「あそこで貴女に報復されなければ、私はいまも虐げられる側の気持ちも、誰しも自分に従うわけじゃないことも知らなかったかもしれない。だからね、貴女から見て私が変ったって見えたなら、それは間違いなく貴女が私を変えてくれたのよ。不思議な話だけど、私いま貴女には感謝してるのよ。そりゃ当時は屈辱が先にきてたから、絶対貴女を屈服させてやる、報復に報復で返してやろうって思ったけど」

 私は、驚きのあまりに言葉を失う。まさか、昔の自分の行動をそう受け取られてるとは思わなかった。ハングドに入る前の自分って終始クズだったのに。

「次に貴女と会った時には、もう性格最悪とか言わせないし卑劣な手段に出たら正統な手段でやっつけようと思ってたわ。さすがに元が元だからある程度は仕方ないとしても、前みたいに性根酷いキャラはしてないはず。……って思ってたけど」

 神簇はばつの悪そうに笑い、

「やっぱり駄目だった。気づいたら完全に昔の私に戻っちゃって、また返り討ちに遭うし。……ほら」

 と、神簇はデュエルで使わなかった3枚の手札を見せる。そこにはミラフォなんてないし、そもそも私の攻撃を耐えるようなカードさえなかった。

「伏せてれば勝てたなんて嘘ついちゃうんだもの。私、まだ昔と全然変わってなかったのね。屋敷の皆も私を見限るわけよ」

 なんて笑いながら自棄に配する神簇に、

「いや」

 気づいたら、私は微笑み返してた、

「むしろ、いまの神簇は凄い人格者になったわ。人として尊敬できるし、いまなら神簇家の当主になっても問題なくやってけると断言できる。まあ、完璧な人間とは口が裂けてもいえないけど。そこがまた、いまの神簇の魅力でしょ?」

「……」

 今度は神簇のほうが驚きで言葉を失ったらしい。

「けど」

 今度は真面目な顔で、

「いま正にそんな神簇の全てを脅かす存在がいる。改めて約束するわ。仕事としてだけじゃなく昔の悪友のプライドとして、絶対にあなたを護ってみせるって。今度は、メンタルのほうもしっかりと」

 つい昔に戻った、なんて言ってたけど。本当はただただ不安だったのだろう。誰が敵で誰が味方か分からない現在が辛くて、つい想い出に逃げてしまったのだ。過ぎ去った過去なら決して自分をこれ以上裏切らないって。けど、私は彼女が求めたものを裏切ってしまった。

「だから神簇、もう1度だけチャンスを頂戴。もう、二度と裏切らないから、私を信じて」

 私は、やっと「正解」を彼女へと届ける。

「鳥乃。……ありがとう」

 神簇はいった。

「ここで貴女に逢えて、本当に良かった」

 今日一番の安心を顔に出して。

 

 ところで、こんな空気に呑まれて私はデュエルに勝利した特典を要求するのをすっかり忘れてしまった。なんという不覚!

 





●今回のオリカ

バルジザン
ペンデュラム・チューナー・通常モンスター
星4/闇属性/機械族/攻1500/守2100
【Pスケール:青1/赤1】
(1):このカードはPゾーン以外の魔法・罠ゾーンに置く事ができる。その場合、このカードはPスケールを持たない永続魔法として扱う。
(2):EXデッキからモンスターを特殊召喚する場合、自分はこのカードの上のモンスターゾーンに特殊召喚できる。
【モンスター効果】
(バルジ+パルチザン)

先史遺産の呪い
通常罠
(1):自分フィールドの「先史遺産」モンスターが相手モンスターとの戦闘または相手モンスターの効果で破壊された場合、
その相手モンスター1体を対象として発動できる。
このカードを発動するために戦闘を行っていた場合、その戦闘で自分が受けたダメージの倍の数値分だけ自分のLPを回復する。
対象のモンスターは攻撃と表示形式の変更ができず、効果は無効化される。
(テキスト協力:夢種さん)

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