遊☆戯☆王THE HANGS   作:CODE:K

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●前回のあらすじ


 私の名前は鳥乃 沙樹(とりの さき)。陽光学園高等部二年の女子高生。
 そして、レズである。

 今回の依頼人は中学時代のクラスメイト、川泥 炉子(かわで ろこ)ことロコちゃん。
 梓越しに『ドラゴン・キャノン』つまり某漫画でいうXYZを受け取った私は、早速その日最後の授業をボイコットし彼女の通う高校へ。

 ロコちゃんは依頼を払えるお金を持ってなく、まあ色々あったんだけど。

「依頼料の話なんだけど、どうすれば立替えてくれるの?」
「ん、ベッドインだけど?」
「沙樹ちゃん。お願い! その条件でいいから、だから助けて!」

 ってわけでお楽しみを取り付けた私ひゃっほい!
 妙子の死の真実、そして吉月先生の死と引き換えに手に入れた情報を手に、いま私たちは牡蠣根の居所であるレストラン追星の地下へと向かってるところ。


MISSION8-2年越しの遺言(後編)

 ――現在時刻21:15

「私の名前はヴェーラ・バルティスカヤ。陽光学園小学部に通う小学生。そしてフリーダム(自由)である」

 まさかの定型文ジャックだった。

 なぜか現地で待ってたヴェーラは、到着した私たちを見るや一言。

「やあ、奇遇だね」

 私は呆れ顔で、

「奇遇で会える状況じゃないでしょ。何しにきたの情報屋、個人に肩入れできる立場じゃないでしょうに」

「カニェーシナ。もちろん、商品の仕入れだよ」

「商品? なにを?」

「情報屋の商品といえば情報に決まってるじゃないか」

 ヴェーラはいい、

「今日は新しい奴隷を仕入れる予定らしくてね。こっそり潜入して内部情報を仕入れついでに牡蠣根の終焉を笑おうという魂胆さ」

 と、ヴェーラは背中で抱えてたバッグからダンボールをだして、

「だから、ちゃんとアーティファクトも完備してるよ」

 それをアーティファクトと申すか。

 というわけで、現在私たちはレストラン追星の前にいる。

「ところで、新しい奴隷って」

 私が訊ねると、

「恐らく君の依頼人のことだろうね。もしくは鳥乃を含めたふたりかもしれない」

「考えただけで舌噛み切りたくなる話ね。私を男の慰みものにしようとか」

 冗談めかして言いながら私は目の前のレストランを眺める。窓越しに中をみる限り、中々にご盛況の様子だった。

 レストラン追星は、名小屋の繁華街で若い女性を中心に人気を集める薬膳中華のお店だ。

 製薬会社が経営する店であることを最大の売りにしており、レディース誌でも何度か特集が組まれ、健康的で安全そして美味しいとの評判を勝ち取っている。

「ここのお店、私好きだったのに」

 ロコちゃんが残念そうにいった。

「来たことあるの? ここ」

「うん。1度食べたら病みつきになるくらい美味しくて2、3回通っちゃったかな?」

 するとヴェーラが、

「ハラショー。そういうリピーターを作るために変な油増々のドラッグ入りらしいからね」

「嘘……」

 途端、固まるロコちゃん。

「ここの背後が誰か忘れたかい? 麻薬密売と奴隷売買に精出す追星組だよ。ついでに店のアルバイトやリピーターからも過去何度か奴隷被害者が選別されてるらしい」

「知りたくなかったー」

 なんて嘆くロコちゃんをヴェーラは眺め、

「マラジェッツ。思ったより元気そうで良かったよ」

「ほんとにね」

 私はうなずいて同意する。とりあえず、メンタルの応急手当は間に合ってくれたみたいだ。

「じゃ、そろそろ行こうか」

 私はいった。するとロコちゃんは「うん」とお店のほうへ進みだしたので、

「ああ、違う違う」

 と、止める。

「え? でもレストランの地下に行くんだよね?」

「レストランから堂々と地下に行けるわけないじゃない。そろそろ顔も割れてる頃だろうしね」

 私は店の横にできた細い隙間を通り、「こっちこっち」と手招きで誘導する。

 抜けた先は一転して暗く静かな裏通りになってて、店の裏には「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた扉があった。

「実はここ、店の裏口じゃないのよ」

 そういって私は堂々と扉を開ける。

 鍵は掛かってなく、扉の先はエレベーターになっていた。

「入るよ?」

 そういって乗り込む私たち。

 地下へと潜る途中、私はヴェーラに向かって聞いた。

「実は私、この先がどうなってるかって知らないのよね。サービスで教えてくれない?」

「マラジェッツ。知らないで乗り込んだのかい? すばらしい行動力だ。――と、私は一度褒めてからいった」

 ヴェーラは地の文を代弁しつつ、

「この先にあるのは、奴隷売買所だよ」

「えっ」

 反応したのはロコちゃんだ。

「妙子みたいに牡蠣根が予約済みの奴隷は屋敷に直通だけど、それ以外の子はこの地下で裏オークションにかけるんだ。アスタロージナ(気を付けて)、ふたりとも覚悟したほうがいいよ。妙子がどんな顔して牡蠣根のモノになったのか、その一部を目の当たりにする事になる」

 程なくしてエレベーターは最深部に辿り着く。降りると、そこは廊下のど真ん中だった。

 床一面にはカーペットが敷かれ、壁に飾られた幾つもの絵画。光源の絶妙な明るさもあり、まるで洋風のホテルやクラシック劇場を思わせる。しかし道幅は狭く、仮に挟み撃ちにあったら逃げ場は無さそうにみえた。

「さて、ここから先は別行動を取らせてもらうよ」

 ヴェーラはいった。カメラ片手に、ダンボールを本当に被って。

「どこへ行くの?」

「盗品や奴隷たちを撮影してブンヤやマスゴミに売りつけるんだ。きっと高く売れるよ」

 さすがヴェーラ。この歳で情報屋なんてしてるだけある。なんて思ってたら、

「そして、ニュースを肴に妙子の墓前でウォッカの酒盛りだよ」

「ヴェーラ」「ヴェーラちゃん」

 私とロコちゃんはもそもそ動くダンボールにつぶやく。

 そうだった。ヴェーラも私たち同様大切な人の命を奪われた同志だったのだ。

 まあそれはそれとして。

「待って」

 私はヴェーラの後ろを2、3歩追いかけ、

「奴隷ちゃんの所行くなら私も行かせて? せっかくだから、ついでに味見もとい傷ついた体にカウセリングしたいし」

「台無しってレベルじゃないよね、それ」

 ああ!? ロコちゃんが半眼で呆れてる。

「……プローハ。悪いけど必要ないよ」

 僅かな間の後ヴェーラはいった。

「そんな事しなくても恐らく君はいい思いができるだろうさ、選択次第だけどね」

「?」

 どういうこと? 私は思ったけど、こちらが訊ねる前に。

「という事でダスヴィダーニャ(さようなら)。少しだけお別れだよ」

 と、行ってしまった。

 私は彼女の後ろ姿を目で追い、ダンボールが右折し見えなくなった所で、

「行こうか」

「うん」

 うなずくロコちゃん。私は回れ右し、ヴェーラと逆の道に足を進める。

 正直、どこへ進めばいいかわからない状況だけど、恐らくヴェーラが向かった先に私たちの目的地はないのだろう。

「にしても」

 道中、ロコちゃんが未だ呆れながら、

「沙樹ちゃん、驚くほど欲望に忠実なんだね」

「まあ、私の人生それが楽しみで生きてるようなものだからね」

 それ以上に梓、という事実は触れずにおくけど。

「でも」

 ロコちゃんは私の顔を覗き込んで、

「その割には、機内で結局しなかったよね? 『体にカウセリング』」

「あー」

 私はつい顔を逸らす。

 レイステイルスでの移動中。結局私はロコちゃんにキス以上のことをしなかった。ううん、できなかったのだ。

「まあその、私にだってレズのプライドがあるって話」

「どういうこと?」

「抱くならやっぱり元気なロコちゃんじゃなくちゃ嫌ってこと。勿体ないでしょ、君の真の魅力がどこにあるかを知ってるのに、全部消えてる状態で手を出すなんて」

「ふぇっ!?」

 途端、真っ赤にし、激しい動揺をみせるロコちゃん。

「ん、どうしたの?」

「ななっ、なんでもないっ」

 激しく目を泳がせ、ロコちゃんは慌てて必死に、

「本当になんでもないから」

 と、私の後ろに隠れる。

「んん?」

 この反応って、もしかして。私はついにやにやしながら、

「おろろ、もしかしてドキっとしちゃった? ロコちゃんレズに堕ちちゃった?」

「堕ちかけたけどいまの沙樹ちゃんで冷めたよ! 台無しだよっ」

「ええっ」

「ええっ、じゃないよ」

「じゃあ、ひでぶ? それともうわらば?」

「誰も指先でダウンしてとか言ってないってば」

 背中をポカポカするロコちゃん、可愛い! アヘ顔にしたい!

 けど、そんな背中への攻撃が終わると、ロコちゃんは再びしがみついて、

「ありがとう」

「……」

「沙樹ちゃんが絶妙なタイミングで重い空気を吹き飛ばしてくれるから、私の心崩れずにいれるんだよね? だから、ありがとう」

 私は何も言わず歩き続ける。

 言えるはずがない。逆に私の心が崩れそうだなんて。ロコちゃんの胸が背中に当たって、お股が濡れ濡れ大洪水の理解崩壊寸前だなんて!

 

 それから程なくして、廊下は行き止まりへとたどり着いた。

「沙樹ちゃん」

「うん」

 私たちは小声で確認しあう。

 左側に大きな扉がひとつ。恐らく奥に何かがあるに違いない。

 私は周囲に気を張りながら、扉に耳をあて中の様子を探る。

 すると。

『社長、今日はどの奴隷の味見をなさいますかな?』

 扉の先から会話が聞こえた。しかも、社長ということは牡蠣根がそこにいる可能性は高い。

『9番の子にしよう』

『左様ですか』

 私はつい驚いた。

 だって、9番ってことは扉の奥では少なくとも9人以上の女体から選び放題って状況なんでしょ、羨ましい。

 しかも私の理性は、いまガタがきている。

「うらやまけしからん!」

 私は、つい欲望に逆らえず扉を勢いよく開けてしまった。

「さ、沙樹ちゃん!?」

 驚くロコちゃん。そんな彼女の声を他所に、扉の先の桃源郷が私の目を釘付けにする。

 そこには、番号札を乳首のピアスで吊るした全裸の女性が20人近く壁際で繋がれていたのだから。一同にして空ろな瞳に媚びるような眼差しが彼女たちの状態を痛々しく語ってるも関係ない。素材をそのまま愉しむのも好きだけど、生きたダッチワイフや調理された娼婦だって素敵じゃない。

 一応、執事らしき白髪の男性と椅子にコートをかけて座る牡蠣根 水一(かきね すい)という汚いツーショットもあったけど。

「だ、誰だ!」

 執事が懐から銃をだす。私は即座に腕に内蔵された銃で弾き飛ばし、

「私の鳥乃 沙樹(とりの さき)、ハングドの構成員よ。そして、レズである」

「レズの肌馬か!」

 執事がいった。その額には脂汗を滲ませ、銃を持ってた手を庇うように膝をつく。恐らく指の骨が何本か逝ったのだろう。

 一方、牡蠣根は冷静な物腰で、私を一度品定めするように舐め見る。

「君が鳥乃かね? 待っていたよ」

「待っていた?」

「君の噂は色々伺ってるよ。どうやら、同性愛の好色家だそうじゃないか。どうだ? ひとつ交渉を受ける気はないかね?」

 牡蠣根は立ち上がった。

「この私の頼みを受けてくれれば、ここの女たちを格安で提供しよう。手始めに部屋にいる彼女たちで酒池肉林を愉しみ、気に入った娘を買うといい」

 なるほど。これがヴェーラのいう「選択次第でいい思いができる」ね。

「一応、条件は?」

 訊ねると、牡蠣根は視線を私の後ろへと移し、

「君の依頼者、川泥 炉子(かわで ろこ)を引き渡して欲しい」

 やっぱりそうなるわよね。

「沙樹ちゃん」

 後ろからロコちゃんの不安そうな声が耳に届く。

「悪いけど、断るわ」

 私は、はっきりいった。

「ほう」

 牡蠣根は意外そうに、

「どうしてかな? 悪い条件ではないと思うが」

「私この娘の体を報酬に依頼受けてるのよね。なのに、約束された報酬を受け取らずに豚に売り渡すなんて愚行すると思う?」

 さりげに牡蠣根を豚扱いしたんだけど、相手は動じることはなく。

「そうか、残念だ」

 しかし、いいながら牡蠣根は奴隷9番の背中をぽんと叩いて、

「とはいえ、私はこれでも気が長いほうでな。考えを直すまで猶予をやりたい。彼女は私からのプレゼントだ。抱きたまえ」

 拘束を解かれた奴隷9番は情欲を駆り立てる仕草でゆっくり近づき、そっと私に絡みく。恐らく20代だろう。長い髪に均等の取れたプロポーション。私もまだJK、彼女にお姉さんフェロモン感じちゃいまして正直たまらない。

「もちろん、格安で提供する奴隷は引き渡し後の川泥も含まれている。予約さえ入れてくれれば、処女を残すなり君に心酔するよう人格操作を施すこともできる。どうかね?」

 それはそれは魅力的な提案をしてくれる。けど、私は制服の上着を脱ぎ、彼女の肩にかけてあげた。そういえば、シ〇ィーハンターにいまとそっくりのシーンがあったっけ。せっかくだから私はそのオマージュっぽく、

「この上着のポケットに、ハングドがごひいきしてる医師の名刺が入ってるわ。この人なら、きっとクスリの中毒も更正させてくれる」

「えっ」

「大丈夫。君から全て奪った男はすぐ潰すから。代わりに、終わったら改めて夜のライディングに誘わせて頂戴。もちろんクスリなしの健全な、ね」

 と、彼女の首筋にそっとキスし、彼女を後ろに下がらせた。

「ロコちゃん、この人と一緒に避難してて」

「き、貴様!」

 ここで初めて牡蠣根が声を荒げた。

「レズの肌馬ともあろう者が、彼女を、そしてここの女共を今すぐ抱きたいと思わないのか?」

「ん、抱くよ?」

 私は即答した。しかも、“抱きたい”ではなく“抱く”と。

「だから、先に牡蠣根社長っていう豚を駆逐して、自由の身になった彼女たちを独占させて貰うって話」

「ならばデュエルだ。君にはここで倒れ、奴隷のひとりになって貰う」

 牡蠣根は椅子にかけてあったコートを羽織る。デュエルディスクと一体化された上着、デュエルコートだった。さらにタブレットの代わりのDゲイザーを装着。

「やれるものならね」

 デュエルディスクを構え、私は返す。お互いのディスクが対戦相手を認識し、タブレットからデュエル用の画面が映し出された。

 

『デュエル』

 

 私たちは同時に叫んだ。

 

 

性欲の権化(♀)

LP4000

手札5

 

性欲の権化(♂)

LP4000

手札5

 

 

「ひ、酷い」

 ソリッドビジョンに表示された私たちの名前に、ロコちゃんがドン引きする。

 しかし。

「良いではないか、性欲の権化。さあ、どちらのもっこり欲が高いか、雌雄を決する時がきた」

 なぜか牡蠣根は気に入ってしまった模様。これはもう、あの名前のままデュエルするしかない。

「そして、先攻は頂いた。私はモンスターとカードを1枚ずつセット。ターンを終了しよう」

 先攻は性欲の権化(♂)こと牡蠣根になった。彼は5枚の手札からモンスターと伏せカードを1枚ずつセットし、堅実に終わらせる。

「私のターンね、ドロー」

 と、私はカードを1枚引いて。

「さてと。私は、まずスケール2の《幻機獣ゼータセクト》と、スケール5の《幻機獣サーチライオネット》でPスケールをセッティング!」

 2枚のカードをディスクの左右に置いた。

「なにっ!」

 驚く牡蠣根。私の左右に光の柱が伸びると、中から昆虫の姿をした電探と額が探照灯になった機械の仔獅子が浮上する。

「幻獣機というのは、ペンデュラムモンスターを持たないテーマではないのか? いや、そもそも幻機獣とは何だ。まるで意味が分からんぞ」

「見たことがないモンスター」

 ロコちゃんもつぶやく。

 当たり前だった。これは元々私がダークドローで作り出した存在しないカードをハングドで複製した物なのだから。

「これで私はレベル3~4のモンスターを同時に召喚可能。生と死の境界よ。いまこそ歪を開き、幻世より甲板を下ろせ。ペンデュラム召喚! 発進せよ、私のモンスターたち!」

 私が口上を終えると同時に、上空から光の穴が開き、中から2つの霊魂が舞い降りてフィールドでモンスターへと姿を変える。

「私が召喚するのは、レベル4《幻獣機メガラプター》、そしてレベル3チューナー《幻獣機 甲豹》」

 それは、恐竜の顔をした戦闘機と、豹の顔をした潜水艇であった。

「《幻獣機 甲豹》の効果。このカードはP召喚に成功した時、幻獣機トークンを1体特殊召喚する。そして、《幻獣機メガラプター》は私がトークンを特殊召喚した時、幻獣機トークンを1体特殊召喚する。これで私は2体の幻獣機トークンを特殊召喚に成功」

「すごい。一度に4体もモンスターを」

 驚くロコちゃん。が、対し牡蠣根は、

「だが、所詮その内2体はトークンだ。そこから何をしようというのだね?」

 と、動じることなくいった。

「相当セットカードに自信があるみたいね」 

 私はチラとペンデュラムモンスターの片方を見て、

「なら。ちょいと確認させて貰うわ。《幻機獣ゼータセクト》のP効果を発動。フィールド上の守備表示モンスター1体を表側攻撃表示に変更させる。

 ゼータセクトが流した電磁波が辺りに広がり、牡蠣根のセットモンスターを捕らえる。セットという隠れ蓑を剥がされ、杖を持った吸血鬼の魔女《ヴァンパイア・ソーサラー》が姿を現した。その攻守はどちらも1500。私のモンスターの攻撃力は2体ともそれを上回ってる。

「さらに、《幻機獣ゼータセクト》の効果を受けたモンスターに対し、私は効果を無効にし攻守を半減させることを選択できる。もちろん私は適用するわ」

 

《ヴァンパイア・ソーサラー》 攻撃力1500→750

 

 さらに電磁波が強さを増すと、4体の幻獣機は《ヴァンパイア・ソーサラー》にレーダーを当て、心臓部を探し出しロックオンする。

「バトルよ。《幻獣機メガラプター》で《ヴァンパイア・ソーサラー》を攻撃。さらに《幻獣機 甲豹》で直接攻撃」

 《幻獣機メガラプター》がロックオンした箇所を中心に機銃をばら撒くと、いとも簡単に相手モンスターは爆破四散し、続けて《幻獣機 甲豹》が放った魚雷は牡蠣根へと命中する。

 牡蠣根は、伏せカードも手札からの誘発効果も使う様子はなかった。

 

性欲の権化(♂) LP4000→2850→1250

 

「ぐうう」

 牡蠣根は顔をしかめるも、

「だがしかし、これで《ヴァンパイア・ソーサラー》の効果は発動される。このモンスターは相手によって墓地に送られた場合にデッキからヴァンパイアカードを手札に加えるのだからな。私はこれで《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》を手札に加える」

 まるで倒してくれて感謝するとばかりにデッキから目当てのカードを抜き取る牡蠣根。たぶん、状況やライフの消耗がどうであれ《ヴァンパイア・ソーサラー》の効果を使うことができれば想定内の動きだったのだろう。

「《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》って確か。沙樹ちゃん、気をつけて」

 ロコちゃんがいった。ちらと後ろをうかがうと、奴隷9番も心配気に私を見る。

「ありがと、でも大丈夫だから」

 私はふたりに返した。

 牡蠣根は笑い、

「ほう。どう大丈夫なのか見てみたいものだな」

「そう? じゃあお言葉に甘えて」

 私は宣言した。

「《幻獣機メガラプター》と《幻機獣サーチライオネット》のP効果それぞれ幻獣機トークンを1体ずつリリースして発動。この2体はトークンを1体リリースする事で、デッキの幻獣機を1枚手札に加える効果を持ってるわ。この効果で私はデッキから《幻獣機レイステイルス》と《幻獣機テザーウルフ》をサーチ」

 と、ここで消耗した手札を4枚まで肥やし、

「そして続けて私はレベル4《幻獣機メガラプター》にレベル3《幻獣機 甲豹》をチューニング」

「ふん、自らトークンを除去する事でレベルを調整してきたか」

 牡蠣根はいった。もちろんサーチ自体も意味があるけど、概ね正解。

「未だ穢れに染まらぬ無垢なる翼よ。その透明さで敵を討て!シンクロ召喚!飛翔せよ、レベル7!《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》!」

 《幻獣機 甲豹》が3つの輪となり、メガラプターが潜って4つの星に。

 輪と星が発光しつつ混ざり合い、誕生したのは近いうちに陽井氏に返却する予定の、盗まれた四龍のうちの1体。攻撃力は2500。

「さらに《幻獣機 甲豹》の効果。このカードが風属性モンスターのS召喚の素材として墓地へ送られた場合、デッキから幻獣機1体を墓地に送る事ができる。私は《幻獣機オライオン》を墓地に送って、オライオンの効果で幻獣機トークンを特殊召喚。このカードは墓地に送られた際に幻獣機トークンを発生する効果を持ってるわ」

 と、ここまで軽く回してから、私は締めにカードを2枚ディスクに置く。

「カードを2枚セット。私はこれでターン終了」

 これで手札は先ほどサーチしたモンスターだけになってしまう。けど、私はまだ問題ないという確信を持っていた。

 

 

性欲の権化(♀)

LP4000

手札2(《幻獣機レイステイルス》《幻獣機テザーウルフ》)

場:《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》《伏せカード(×2)》

 

性欲の権化(♂)

LP1250

手札4(《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》)

場:《伏せカード(×1)》

 

 

「私のターンだ。ドロー」

 牡蠣根はカードを1枚引き、

「そんなドラゴン1体と伏せカード2枚で何ができるというのだね。私は《ヴァンパイア・ソーサラー》のもうひとつの効果を使用。墓地のこのカードを除外し、このターン私は1度だけ上級ヴァンパイアをリリースなしで召喚できる。舞い降りろ、《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》!」

 フィールドに出現したのは妖艶なフェロモンを放つ女性ヴァンパイア。攻撃力は2000。

「どうだね、この色香。レズで好色家の君にはたまらないだろう」

 胸ポケットから煙草を出し、煙をふかせて牡蠣根はいった。

「否定はしないわ」

 でも牡蠣根とかいう豚のフィールが詰まったモンスターでしょ? なんか嫌。

 しかし牡蠣根は私の地の文を(ヴェーラと違って)察することはなく。

「なら、その妖艶なる力を愉しんで頂こう。代金は君の未来だがね。《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》は召喚時に自身より攻撃力が高い相手フィールドのモンスター1体を装備カードにする。さあ、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》よ。我が僕の美女に飼われたまえ」

 手を伸ばした《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》がフッと息を吹きかけると、ピンク色の煙がクリアウィング向けて飛ばされる。

「《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》のモンスター効果。1ターンに1度、フィールドのレベル5以上のモンスター1体のみを対象とするモンスターの効果の発動を無効にし、破壊する」

「なに!?」

「悪いわね、サーチされてからの対策って余裕だったのよ」

 直後、クリアウィングの翼が輝くと、その光にピンク色の煙が弾かれ、逆に《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》へと襲い掛かる。

「くっ。罠カード《ヴァンパイア・シフト》を発動。デッキから《ヴァンパイア帝国》を発動する!」

 《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》が破壊される寸前、辺りは紅い月の照らす夜の街のビジョンに切り替わる。そして《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》は破壊されるも、

「《ヴァンパイア・シフト》はその後、墓地のヴァンパイアを表側守備表示で蘇生する。舞い戻れ《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》!」

 再び舞い戻る《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》。しかし守備表示だ。

「……カードをセット。ターンを終了する」

 そう口にした牡蠣根の顔には「遺憾」の二文字が表れていた。

「私のターン、ドロー」

 私はカードを引きすぐさま、

「《幻獣機レイステイルス》を召喚」

 ディスクにカードを読ませると、私が移動用モンスターとして愛用してるステルス爆撃機がフィールドに出現した。もちろん攻撃表示。

「レイステイルスだと!?」

 驚く牡蠣根。当然の反応だ。このモンスターの攻撃力はたったの100なのだから。

 私は、クリアウィングにフィールを込めて、

「《幻機獣ゼータセクト》のP効果。《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》を攻撃表示にして攻撃力を半分に。そしてクリアウィングで攻撃」

「だが、《ヴァンパイア帝国》はダメージ計算の間だけアンデット族の攻撃力を500アップさせる」

「それでも攻撃力はクリアウィングには届かないから」

 

《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》 攻撃力2000→1000→1500

性欲の権化(♂) LP1250→250

 

 クリアウィングが上空へと舞い上がり、ジャイロ回転しながらの急降下で《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》を貫く。すると、フィールでリアル化した衝撃が牡蠣根を襲い、

「な、ぐあああああっ」

 と牡蠣根は宙を舞い、一度壁に叩きつけられてから床に倒れる。

「ぐうう。きさ、ま……何のつもりだ」

 手をつき、何とか起き上がろうとしながら牡蠣根は、

「人をおちょくるようなプレイングに加え、テザーウルフを出せばとどめを刺せるであろう所でレイステイルス。しかも私に負けを確信させてからフィールを込めた攻撃で痛めつけるなど、まるでいたぶって愉しむような」

「まるで、じゃなくて実際愉しんでるのよ、いたぶって」

 私はいった。

「なっ」

 顔を蒼白とさせる牡蠣根に、私はにこりと笑い、

「《幻獣機レイステイルス》で攻撃。今回は直接攻撃だから相当痛いの覚悟して頂戴」

 レイステイルスは上空に飛び上がると、無数の小型ミサイルを牡蠣根に向かって撃ち込む。

「くっ、私を護りたまえ、我がフィールようわああああああ!」

 咄嗟に牡蠣根はフィールによるバリアを張り、身を護ろうとする。が、小型ミサイルは最初の数発だけでバリアを破り、無防備になった牡蠣根を爆発に巻き込む。

 

性欲の権化(♂) LP250→150

 

 以前の私だとここまでの威力は出せなかったと思う。それを可能にしたのはクリアウィングだった。あれを手にしてから、私のフィール量は笑える程にぐんと上がったのだ。

「沙樹ちゃん……」

 後ろから、ロコちゃんの呟きが聞こえた。横目で覗くと、彼女は少し怯えた様子で私を見える。

「ごめんごめん」

 私は努めて笑い、

「でも、私にも少しくらい報復させてよあいつには」

「はあ……はあ……」

 その()()()が煙の中から姿を現す。息を切らせ、衣服をぼろぼろにし、ふらついた足取りで。しかし、血走った目で私をじっと睨む。

「許さん! 許さんぞ肌馬ァァァアアアア! 私をここまでコケにした事、後悔して貰う!」

 なんて叫ぶ牡蠣根を、私はとりあえずスルーし、

「《幻獣機レイステイルス》は相手に戦闘ダメージを与えた際にトークンを発生させる。私はフィールドに再び2体目のトークンを呼び出しバトル終了」

 しかし、ターンはまだ終えない。私は出現したトークンをすぐさま取り除き、

「《幻機獣サーチライオネット》のP効果。私は幻獣機トークン1体をリリースし、デッキから《幻獣機ネシェルフィ》を手札に。そして墓地の《幻獣機オライオン》除外して効果発動。私は手札から幻獣機を1体召喚できる。《幻獣機ネシェルフィ》を通常召喚」

 フィールドに出現したのは、貝の模様が描かれた幻獣機モンスター。

「《幻獣機ネシェルフィ》のモンスター効果。このカードはトークンを1体リリースして、幻獣機トークン2体を特殊召喚する。私は最後の幻獣機トークンをリリースし、新たに2体の幻獣機トークンを発生。さらにネシェルフィのもうひとつの効果を発動。このカードは幻獣機トークンの数だけレベルが上がる共通効果を持たないかわりに、フィールドの幻獣機モンスター1体とレベルを同じにできる。現在、幻獣機トークンが2体存在する《幻獣機レイステイルス》はレベル9! 《幻獣機ネシェルフィ》のレベルを9にするわ」

 これでレベル9のモンスターが2体。

「私は、《幻獣機レイステイルス》と《幻獣機ネシェルフィ》でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 上空に銀河の渦が出現すると、2体の幻獣機は霊魂へと姿を変えて取り込まれる。

「幾多もの幻獣機を搭載せし艦よ。いまここに舞い降り、禁断の力を解放せよ。エクシーズ召喚! 発進せよ、ランク9《幻子力空母(ミラージュフォートレス)エンタープラズニル》」

 銀河の中から降り立ったのは、私の使うフィールド魔法の舞台にもなってる一隻の空母。

「オーバーレイ・ユニットをひとつ取り除き、エンタープラズニルの効果発動。相手の手札をランダムに1枚除外する。もちろんフィール込みでね」

「て、手札だと。そこまでする気か貴様は」

 目を見開き、ぞっとした様子の牡蠣根。私は思わずフッと嘲笑い、

「『そこまでする気か』ね。あなたに廃人にされるまでいたぶられ使い潰された奴隷たちは、それを何回思ったことやら」

 そこで、初めて私がいたぶろうとする意図に気づいたのだろう。

「まさか貴様、デュエルで奴隷たちの痛みを返そうと」

 私は返事の代わりに宣言した。

「エンタープラズニル! 牡蠣根を幻子力の奔流で飲み込め。アトミック・ミラージュ!」

 すると、エンタープラズニルから牡蠣根向けて虹色の光が放たれ、彼を基点に光は放射線が描く。

「こ、この光は。おっ、おおおおおおお!」

 虹色の光の中で牡蠣根の悲鳴が発せられる。

 ロコちゃんがいった。

「なんか。あの光怖い」

「ええ」

 隣の奴隷9番も同意しうなずく。

 まあ、カード名の元ネタが原子力空母だしね。設定レベルでヤバい代物なのは確かだと思う。

 エンタープラズニルからの放射が終わると、光の中から牡蠣根が姿をみせる。全身を震わせながら、死んだ魚の目をして立ち尽くしてた。

「どう? 肉体ではなく精神に直接ダメージが入る体験は」

 私はいった。

 デュエルモンスターズにおける手札は、紙幣や財産の他に頭脳を司る場合がある。そして、いまフィールでリアルソリッドビジョン化した効果は幻子力による“手札の除外”。

 牡蠣根は、あの光の中で過剰な放射線を浴び様々な異常に苦しみながら自分を損失していく、まるで奴隷被害者が受けた絶望のような疑似体験をしたのだ。

 もっとも現実で後遺症が残るほどの力はないけど。それでも牡蠣根はいまだ幻想から抜け出せず放心したままだった。

「っっっっっ、が、はあッ! はあっ、はあっ」

 そんな牡蠣根がやっと我に返り、荒く息を切らす。

「は、肌馬ァッッッ!」

 牡蠣根が睨みつける。相当苦しそうに、それでいて怒りで恐怖を裏返すように。

「この世の地獄からお帰りなさい。けど、妙子たちが体験した地獄はこんなものじゃないのよ。人として最低限の尊厳も希望も棄てられ、クスリであなたの玩具としてでしか生きれない体にされ、精神が摩擦する程自分が消えてく恐怖に怯え続ける。次第に心が崩壊し、反応しなくなったら廃棄され、その時にはすでに自分の名前さえ分からないほどに知能も人格も記憶さえ摩擦しきり、あなたの目論見通り一切の抵抗なく衰弱して死んでいく。自分という存在の全てをあなたに奪われて死んだのよ」

「だからどうした!」

 牡蠣根は怒鳴った。

「この私という偉大な存在の為に死ねるのだ。その血肉精神全て我が栄養となる。これ程の名誉はないと思え!」

「それ、本気で言ってるの?」

 訊ねたのはロコちゃんだ。

「当然だとも」

 牡蠣根は笑い飛ばし、

「妙子というガキも、すぐに私に媚を売り、笑顔で股を開いた。私に奉仕することだけを考えて生きた日々はさぞ幸福だったろう。そのまま自分が棄てられたと知らずまま死んでいったのだ。感謝されてこそあれ恨まれる筋合いはない」

「ひ、人でなし」

 ロコちゃんが泣いて叫んだ。

「どうして、どうしてそんな事が言えるの? どうして、妙子を殺して尚追い詰めれるの?」

「ならば問おう。お前は養豚場の豚を哀れと思うのか?」

「ぶ、ぶた……?」

 ショックのあまり、ロコちゃんの息が止まる。

 牡蠣根は続けて、

「むしろ、こう思うのが人の心理だろう。美味しい豚肉になれと」

「っっっ」

 ついにロコちゃんは、ぷつりと糸が切れたように膝から崩れ堕ちる。

 一見、笑顔が戻ったようにこそ見えたものの、すでにロコちゃんのメンタルはセロハンで繋ぎ止めたハリボテ状態だったのだ。

 そこへ牡蠣根の非人道的な言葉。耐えきれるはずがなかった。

 ロコちゃんの笑顔を護れなかった。その怒りに私は叫ぶ。

「か、牡蠣根ぇっ!」

「フハハハ」

 牡蠣根は高笑いし、いった。

「肌馬よ何か言いたそうだな? しかし貴様もこちらの世界の人間だ。よもや自分は誰からも恨まれず生きてる、などと思ってはおるまい?」

「……そりゃあ、レ○レイプ未遂だってしたし、彼氏持ちの女と海のリゾートでワンナイトラブしかけたし、依頼人の風呂を覗いたり夜這い仕掛けようとしてこんぺいとうで叩かれた事なんて数え切れないわ」

 だけど、と怒りに任せて私は続けて言いかけたが、

「それだけではないだろう」

 牡蠣根は口角を吊り上げ、

「レズの肌馬、貴様は我が同類だ。何故なら、貴様は過去に女を潰したことがあるな?」

「え?」

 崩れ落ちたままのロコちゃんが、空虚な眼差しで私を見る。

 私は、ハッとなり、そして顔を青くする。頭の血が一気に冷え、寒気さえ覚えた。

 私はさっき何ていった? レ○レイプ未遂、彼氏持ちの女を寝取りかけた、それと覗きに夜這いだっけ?

「川泥という少女よ、教えてやろう。貴様が信頼し雇ったこの女は、女をクスリと凌辱で使い潰す味を知った我が同類だ」

「沙樹ちゃん。本当なの?」

 失望寸前の目でロコちゃんはつぶやく。いや、彼女の状態を思えばそんなレベルではない。自分を保てる為の最後の拠り所を失おうとしてるのだ。

「私……」

「違う、そんなこと。ロコちゃん!」

 私は否定し声をかけるも、彼女の耳には届かない。

 全身をガタガタ震わせ、更に絶望に身を堕とそうとしている。

 誰か。誰かロコちゃんを支えてあげて。じゃないと彼女は。

 そう思った矢先だった。

「あの子の顔をみて?」

 言ったのは、奴隷9番だった。羽織ってた私の上着をロコちゃんにかけ、

「あの子はいま、とても心を痛めてるわ。誰のため? あなたのためよ。あの子は、もしかしたら本当に自分の悪行を否定できない何かあるのかもしれない。でも、見てあげて? あの子の瞳を。あの子は悪人じゃないわ。あなたのことをとても大切に想ってる、やさしい人よ。だから信じてあげて」

 と、奴隷9番は後ろからロコちゃんを抱擁する。さらに私に向かって、

「この子は私が護るわ。だから、あなたはデュエルで牡蠣根を」

 私は不安のあまりロコちゃんを眺める。けど、

「わかった。お願い」

 意を決し、彼女にロコちゃんを任せ牡蠣根に向き直った。ロコちゃんの唇が「だいじょうぶ」と動いた気がしたからだ。

 恐らく私の都合のいい願望だろう。けど、いまはその勘と彼女を信じるしかない。

「私はこれでターンエンド」

 私はいった。

 

 

性欲の権化(♀)

LP4000

手札2(《幻獣機テザーウルフ》)

場:《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》《幻子力空母エンタープラズニル》《伏せカード(×2)》

 

性欲の権化(♂)

LP150

手札2

場:《伏せカード(×1)》

 

 

 牡蠣根は嫌らしい笑みを浮かべ、

「フハハハ、その余裕のない顔。どうやら相当こたえたと見える」

「そうね。いまなら依頼を無視してあなたをコロコロしても後悔ない自信があるわ」

「それは私も同じだ」

 牡蠣根はデッキに手を伸ばし。

「だが、貴様だけはただ殺すのでは惜しい。最大級の絶望と屈辱を味わった上で死んで貰おう。私のターン」

 その瞬間だった。牡蠣根のドローする指が光り輝いたのは。

「唸れ、我がフィールよ。そして私を勝利へと導き給え。デスティニー・ドロー!」

 牡蠣根は光る指でカードを1枚引く。それは、私が使うダークドローの亜種のひとつだった。

「行かせて頂こう。魔法カード《おろかな埋葬》を発動。デッキから《ヴァンパイア・ソーサラー》を墓地に送る。そして、いま墓地に送った吸血鬼を除外し、リリースなしで《シャドウ・ヴァンパイア》を通常召喚」

 フィールドに降臨したのは、1体の巨大な吸血鬼の影。鎧武装し、長い髪をしてるのが伺える。

「《シャドウ・ヴァンパイア》は召喚成功時に、デッキから他のヴァンパイアを1体特殊召喚できる。私は《ヴァンパイア・デューク》を特殊召喚」

「なら、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の第一の効果。レベル5以上のモンスター効果の発動を無効にして破壊する」

 《シャドウ・ヴァンパイア》の隣に闇色の煙が巻き上がり、中から1体のヴァンパイアの影が浮かび上がる。が、クリアウィングの翼が輝くと、光に照らされ中の影は消滅し始めた。

 けど。

「なら、手札の《ヴァンパイア・バット》の効果を発動。このカードは私の場にヴァンパイアカードが存在する場合、手札から捨てることで相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする」

「えっ」

 《ヴァンパイア帝国》の紅い月から紅い瞳の蝙蝠の大群が出現すると、クリアウィングの翼に張り付き、光が遮断されてしまう。

 前のターンまで使う気配がなかった所から、恐らくこのカードがデスティニー・ドローで引き当てたカードなのだろう。

「これで《シャドウ・ヴァンパイア》の効果は有効。《ヴァンパイア・デューク》を特殊召喚させて貰おうか」

 消えかけた影は再び姿を現し、煙から抜け出ると同時に吸血鬼の公爵へと姿を変える。

「《ヴァンパイア・デューク》は特殊召喚に成功した際、モンスター・魔法・罠のいずれかを宣言し、相手はデッキから宣言した種類のカードを墓地に置いて貰う。私は罠カードを宣言しよう」

 私はデッキからカードを1枚抜き取り、

「《ブレイクスルー・スキル》を墓地に」

「この瞬間、《ヴァンパイア帝国》の効果が発動される。1ターンに1度、相手のデッキからカードが墓地へ送られた時、 手札・デッキからヴァンパイア1体を墓地へ送り、 フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。 私は《ヴァンパイア・ロード》を墓地へ送り、《幻子力空母エンタープラズニル》を破壊しよう」

 巨大な《ヴァンパイア・ロード》の幻影が姿を現すと、その腕で一突き。エンタープラズニルはあっけなく轟沈した。

「フハハハ。流れが私に向いてきたぞ。続けて私はレベル5《シャドウ・ヴァンパイア》と《ヴァンパイア・デューク》でオーバーレイ。2体のアンデット族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築」

 紅い月が渦を描いて歪み、2体のヴァンパイアを霊魂にして取り込む。刹那、月は膨張をはじめ私たちの視界を紅一色に染め上げる。

「魔法カード《洗脳-ブレインコントロール》を発動」

 紅い世界の中、誰かがこっそり呟いた気がした。

「仮初のシャドウを捨て、いまここに高貴なる騎士皇が目覚める。吸血鬼を統べ紅き夜に繁栄をもたらせ。エクシーズ召喚! 出でよランク5《紅貴士(エーデルリッター)-ヴァンパイア・ブラム》!」

 紅い視界に1体の《シャドウ・ヴァンパイア》が浮かび上がり、周りの紅を取り込みはじめる。

 視界から完全に紅が消えた時、先ほどの《シャドウ・ヴァンパイア》は、肉体を取り戻し、攻撃力2500の吸血鬼の騎士になった。

「これこそが私の真なる切り札。この力の前には効果を失ったクリアウィングなど無力なり」

 確かに、戦闘を行えば《ヴァンパイア帝国》で攻撃力は3000になり、クリアウィングは破壊される。けど、

「残念だけど《シャドウ・ヴァンパイア》の効果によってこのターンあなたは攻撃できないんだけど」

 《シャドウ・ヴァンパイア》には、デッキからの特殊召喚効果を使ったターン、その特殊召喚したモンスターでしかこのターン攻撃できなくなるデメリットが存在する。

「何も攻撃とは言ってない。オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、ヴァンパイア・ブラムの効果を発動。相手の墓地に存在する《幻子力空母エンタープラズニル》を私の場に蘇生しよう」

 ヴァンパイア・ブラムが剣を空向けて掲げると、地面が紅に光りながらボコボコと盛り上がる。

 なるほど、その後何らかの手段で蘇生したエンタープラズニルにオーバーレイ・ユニットを与え、効果でクリアウィングを除去する算段らしい。あのカードの除外効果は、手札だけでなく場、墓地、デッキの一番上にも対応し、その4つから1つを選んで適用する効果なのだ。

 仕方ない。私はここで2体のトークンを全て破棄し、

「カウンター罠《弾幕回避(バレル・ロール)》! 幻獣機トークンを全てリリースし、その効果を無効にして破壊」

 演出上、ヴァンパイア・ブラムの力によって盛り上がった地面からエンタープラズニルが浮上。しかし、直後その甲板から無数の幻獣機が出現し爆撃を落としてエンタープラズニルを再轟沈。さらにヴァンパイア・ブラムに機銃で雨を振らせ、弾幕回避(バレル・ロール)と言いながら弾幕によって吸血鬼の効果を回避する光景が映しだされた。

「出てきて早速だけど、退場して頂戴ヴァンパイア・ブラム」

 弾幕を浴びた吸血鬼は「グオオオ」と唸りをあげながら爆破四散。無数の幻獣機たちもUターンし戦場から姿を消した。

「これで終わりよ、牡蠣根」

 牡蠣根の手札はゼロ。伏せカードは1枚だけど、恐らくオーバーレイ・ユニットに関係する罠カードだろう。このデュエル、私の読みが正しければ完全に牡蠣根はすべての手を失ったはず。

「フフッ、フハハハハ」

 が、牡蠣根は突然笑い出し、

「それはどうかな?」

「え?」

 どういうこと、と私が反応した瞬間だった。

 ――後ろで銃声が聞こえたのは。

「!?」

 私は後ろを振り返る。見えたのは、奴隷9番がロコちゃんを覆い抱きしめる姿。

 その奴隷9番が、血を流し倒れた。

 撃ったのは、ロコちゃんだった。

 私の上着から出した拳銃を握り、虚ろな瞳で、しかし私を真っ直ぐ見据え銃口を向ける。

(あ!)

 私は思い出した。ヴァンパイア・ブラムの召喚に紛れて聞こえた《洗脳-ブレインコントロール》の発動宣言。

 私はすぐ辺りを見渡す。

 ロコちゃんを操ったのは執事だった。私は腕に内臓した銃で《洗脳-ブレインコントロール》のカードごとデュエルディスクを破壊し、続けて脳天に弾丸2発。

「が……」

 執事は小さく唸り、頭から血を流して絶命。

 私はすぐ、ふたりの下へ駆け寄る。

「ぁ……」

 私の眼前で正気に戻るロコちゃん。彼女の腕がだらんと垂れ、拳銃が床に転がる。

 奴隷9番は、私をみると消え入りそうな声で、

「無事、みたいね。……よかった」

「何言ってるの。どうして離れなかったの?」

 ロコちゃんが銃を構えるのに気づかなかったはずがない。なのに、わざと自分の体で銃口を覆い塞ごうなんて

 奴隷9番はいった。

「じゃない、と……あなたが、撃たれて……た」

「っ」

 その通りだった。先ほどの私はデュエルに集中してたから、フィールで防壁も張ってないし、背後から狙われてるのにも気づかなかったのだ。彼女が庇ってくれなかったら、いまごろ私は間違いなく背中を撃たれ倒れていた。

 奴隷9番が私に手を伸ばす。唇はわずかに動いてるけど、すでに声は出てない。

 私がそっと彼女の手を握ると、彼女は穏やかにほほえみ、そのまま息を引き取った。

「奴隷に庇われたか。運のいい奴め」

 牡蠣根がいった。私を始末できず悔しげな声で。

「だが、これで川泥という少女の手は汚れた。少女は殺人の罪を一生背負って生きてくことになり、肌馬貴様は自分の不注意で少女の心を壊した後悔を背負っていくことになる。貴様に最大級の絶望と屈辱を味わった上で死んで貰うといったのを覚えてるかね? どうかな、いい絶望だろう? フハハ、フハハハハハハハハ!!!」

 私は、ギリッと握り拳を作る。

 どっかのライトノベルで「獲物を前に舌なめずりは三流のすること」という名言がある。

 その通りだった。

 ただ倒すだけでは惜しいといたぶらなければこんな結末にはならなかった。もっと周囲を警戒してればロコちゃんに起きてたことも気づけれた。この事態は、すべて私の失態なのだ。

「殺、して」

 ロコちゃんが囁いた。それが誰を指してのことかは言わなかったけど、私は「牡蠣根を殺して」という契約変更と受け取った。

「わかった」

 私はうなずき、怒りに任せ残りの伏せカードを発動する。

「速攻魔法《サイクロン》!」

 牡蠣根の伏せカードの真下から竜巻が上がり、カードは《エクシーズ・ドロップ》という正体を曝してから破壊。さらにフィールを強く込めた竜巻からは激しい強風がリアルソリッドビジョン化し、牡蠣根の体を宙へ飛ばす。

「ぐあっ!」

 壁に叩きつけられ、牡蠣根は口から血を吐く。

「あ……が、ひっ、ひい!」

 デスティニードローでフィールを殆ど消費したせいもあるだろう。一転し、牡蠣根は恐怖に全身を強張らせる。

 私は銃を拾い、ショックで廃人寸前のロコちゃんを庇うように抱えながら、

「デュエルディスク。対戦相手がサレンダーを申請したら自動拒否でお願い。その上で10回連続で申請したらカウントダウン10でターン継続の意思表示を確認して、応答がなかったら私のターンに移行して」

 と、ハウスルールを申請。ディスクは問題ないと判断したのか要求を受け入れ、

「サレンダー! サレンダーだ。な、拒否!? どういうことだ。デュエルは終了だ。終わらせろ、終わらせろぉおおお!」

 予想通り、牡蠣根はデッキの上に手を置きサレンダーを宣言。しかし、当然自動拒否。

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 発狂してるのか、私が自動拒否にしたのも分からず人の言語を成さない悲鳴を上げ、狂ったように牡蠣根は何度も何度もサレンダーを宣言。

『対戦相手の要望によりカウントダウン10が開始されました。ターン継続の意思表示をお願いします』

 双方のデュエルディスクから電子音声が発せられた。

 デュエルを続行すると一言いえばいいのだけど、牡蠣根はそれさえ理解できずいまだ発狂しサレンダーばかり行う。

 牡蠣根のターンが終了した。

「私のターン、ドロー」

 と、私は急ぎでカードを引き抜き、

「《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》で直接攻撃!」

 空高く舞い上がったクリアウィングは、ジャイロ回転しながら牡蠣根の腹を貫き、風穴を開ける。

 

性欲の権化(♂) LP150→0

 

「――っ!」

 牡蠣根の声にならない悲鳴。直後、彼の体が光の粒子状に分解されていく。

「あなたはただの死なんて生温い。あなたは地縛神の生贄となって永劫に苦しんで貰うわ」

 牡蠣根だった光の粒子は、私の体へと取り込まれていく。同時に、2枚のカードが私の手元に浮かび上がった。

 《紅貴士(エーデルリッター)-ヴァンパイア・ブラム》、そしてデュエル中姿をみせることはなかった《ヴァンパイアジェネシス》。それが、牡蠣根の所有するフィールカードだった。

「終わったのよね? 妙子」

 私はロコちゃん越しに妙子を見、呟く。

 その直後、部屋中を突然の猛吹雪を襲った。

「えっ」

 何事? 私はフィールで自分とロコちゃんを護りつつ辺りを警戒する。それがフィールによる攻撃なのはすぐ分かったけど、狙いは私たちではないらしく、むしろ私たちを避けるように冷気が舞ってるように感じた。

 吹雪はすぐに止んだ。

 私は辺りを見渡す。すると、先ほどの冷気によって残りの奴隷たちがひとり残らず凍り付いてるの気づく。

「そんな……」

 まさか、牡蠣根が死んだ(厳密には違うけど)からって全員口封じに!? 私は一瞬思ったけど、

「フショーフパリャートゥキェ。大丈夫だよ、全員死んではいない」

 直後、聞き覚えのある声が私の耳に届く。

 ヴェーラだった。後ろにはフィールでリアルソリッドビジョン化した《氷結界の龍 ブリューナク》が浮かんでる。

「ど、どういうこと? なんでこんなことを」

イズヴィニーチェ(すまない)。彼女たちを助ける手段はこれしかなかったんだ」

 ヴェーラは帽子を深く被り直し、

「情報収集の結果、ここの奴隷たちは牡蠣根が死んだ際に舌を噛み切って自害するよう後催眠がかけられてるらしいんだ。一度彼女たちの意識を奪った所で催眠の元を断たない限り事態は変わらないからね。悪いとは思いつつ助ける算段が生まれるまで彼女たちにはコールドスリープして貰うことにしたわけだよ」

 ……結局、私は奴隷9番もロコちゃんも助けれなかったばかりか、ヴェーラの強行が間に合わなければ残りの奴隷たち全員も殺してしまう所だったわけだ。そう追い込んでしまう程度には、私の心は弱ってた。

 不意に、ロコちゃんが私の服の裾を掴んだ。

「沙樹ちゃん。いますぐ依頼料払わせて」

 一度かすれた声でいってから、ロコちゃんは私にしがみついて嘆き叫ぶ。

「沙樹ちゃん、あの社長さんと同じことしたことあるんでしょ? お願い、私を妙子たちと同じにして! 使い潰して捨てられるまで、沙樹ちゃんに払わせて、みんなに償わせて! そして私を殺して!」

 心が抉られる思いだった。あの時のロコちゃんの「殺して」は牡蠣根に向けたものじゃない。罪悪感に惜し潰れ、自分を殺してという言葉だったのだ。ロコちゃんを、あのロコちゃんをそこまで追いつめてしまったのだ。

「私、ずっと護ってくれてた沙樹ちゃんを疑って、銃で撃とうとして、それを体を張って止めようとしてくれたあの人を殺して、それでもまだ銃を沙樹ちゃんに向けて、撃ち殺そうとした。私なんて、私なんて!」

「違う」

 私はロコちゃんを抱きしめ、

「あれはロコちゃんの意思じゃない。ロコちゃんはカードの効果で操られてたのよ。じゃなければ撃ちかけた銃を手放したりはしないでしょ」

「そんなことないよ。私、本当にあのとき憎んで」

 いまのロコちゃんは、弱り切った心と罪悪感で洗脳中の自分を本心と誤認している。

「わかった」

 こうなると、もう私にはいまのロコちゃんの認識を受け止めてあげるしかできない。それでも。

「でも。そういう償い方は駄目、妙子も誰もそんなことは望んでない。逆に泣くか更にロコちゃんを許さなくなるでしょ」

「だけど……」

「何より牡蠣根が悦ぶ。癪でしょそんなの」

「……」

 私の胸に顔を埋め、押し黙るロコちゃん。

「それでも、私個人にだけでも償ってくれるなら、早く笑顔を取り戻して」

「え?」

 ゆっくりとロコちゃんは顔をあげる。私は努めて微笑み、

「言ったでしょ、レズにもプライドがあるって。ロコちゃんがいまを乗り越えてより魅力的な女の子になったら、頼まれなくても私のほうから襲いに行くから。死ぬほど抱いてあげるから。それまでは体の報酬も支払い拒否」

「……っ」

 ロコちゃんは無言のまま小さくうなずく。

 本当は、彼女の要求に頷いてしまいたかった。もちろん、「使い潰して殺す」気はしないけど。

 こっちも今回はメンタルやばいからね、人肌寂しさに傷心のロコちゃんと傷を舐めあってしまいたいなんて思っちゃってる。けど、私は何とか理性で思い留まる。これも「レズのプライド」なのだろう。

 ヴェーラが《ワーム・ホール》を発動し、空間にゲートを作ったのをみて私はいった。

「帰ろう、ロコちゃん。日常へ」

「うん」

 少しだけ安心してくれたのか、そのままロコちゃんは意識を手放した。

 

 

 あれから数日。

 催眠を解除し、即席コールドスリープから目覚めた奴隷被害者たちは身元確認と検査を行った後、現在精神病院で療養している。また、彼女たちの証言を受け、警察は名目上牡蠣根容疑者を指名手配および捜索本部を結成したが、彼より奴隷を買ってたであろう政治家そして警察上層部の圧力により世間には未だ公表されてない。

 しかし、それでも踏み込もうとするマスコミは当然存在する。

 この度ヴェーラから買われた情報が週刊誌に流出したと聞いた私は、事務所の買い出しを名目にコンビニへと立ち寄った。

 現在時刻午前3:00。

「いらっしゃいま……あっ」

 店内に入ると、店員は私を見て嬉しそうにいった。

「沙樹ちゃん」

 それはロコちゃんだった。

「久しぶり。知らなかったわ、ここでバイトしてたなんて」

 言いながら私は雑誌コーナーへ足を進める。深夜しかも店内に他の客はいなかったので会話にさほど支障はない。

「一昨日からね。前いた所は倒れてる間にクビになっちゃって」

 しかし、ロコちゃんはレジを離れ私の下へ小走りで寄る。可愛い。

「無茶しないでよ。梓から聞いたけど、学校も休学届だしたんでしょ?」

「その学校も昨日から復帰しましたー」

 両手をばんざいして妙なハイテンション。まだ空元気なのは間違いない。

「だから無茶は」

 私はいいかけるも、

「まあいいか。頑張ることにしたのね、あれから」

「うん」

 ロコちゃんはうなずいて、

「だって、沙樹ちゃんの言うとおりだもんね。妙子も猫俣さんも、早く私が元気にならないと安心できないよ」

 猫俣さんとは奴隷9番のことである。事件後ヴェーラと永上さんに身元を調べてもらった所、猫俣 秀子(ねこまた ひでこ)さんという医学部の大学院生だったことが分かった。誘拐されたのは去年の12月で、本当ならいまごろ学校を卒業し女医としての第一歩を踏み出すはずだったとか。

「それに」

 ロコちゃんは、もじもじと照れながら、

「早く私が元気にならないと、沙樹ちゃん依頼料払わせてくれないって言うから」

 それって。

「おろろ? じゃあ、なに? そんなに私に抱かれたいの?」

 と、私はからかってみたけど。

「うん」

「あーあーそんな必死で否定しなくてもいいのにこの前あれだけ犯してって言っておいて、ってえええええええ!?」

 ちょ、うわ私いますっごいコントみたいな反応しちゃった。

 私は気恥ずかしさに視線を逸らし、

「あーえっと、自分で言っておいてあれだけど。本気?」

 ロコちゃんはこくんと頷き、

「なんだか私も目覚めちゃったみたい」

 てへ、なんて舌を出しながら、顔が真っ赤っか。それでも人懐っこい笑顔を見せてくれて、「その様子だと、大丈夫そうかな」なんて私はほっと安心。

 やっぱり、色々あったけど機内や牡蠣根を倒した直後に慰めでも手を出さなくて正解だった、と改めて思った。

 だって、あの時に手を出してたらロコちゃんは確実にメンヘラ化する。二度と自分で立ち上がり笑顔を取り戻すことはなかっただろう。私はレズである。でもそれは、女の子が大好きでという上に成り立ってる。私だってたまには女の子との一時より女の子の永遠の笑顔を選ぶことだってあるのだ。自分にそんなプライドあったことに、私自身が一番驚きだけど。

 そんな時だった。

「金を出せ! それも1万や2万じゃない。全部だ!」「スッゾコラー」

 二人組の男がナイフ片手にやってきた。どうやらコンビニ強盗らしい。

「あっちゃー」

 苦笑いするロコちゃん。それ以上の修羅場を潜り抜けただけあって、もう余裕綽々。

 それでもって私に、

「沙樹ちゃん、『ドラゴン・キャノン』いい?」

 なんて手を合わせ、小声でお願いするのであった。

「了解」

 私は手を伸ばしかけた週刊誌を棚に戻し、

「報酬は今度一緒に妙子の墓参りね。あと、その日は親御さんに友達の家に泊まるって言っておいてくれる?」

「それって……」

 目で訊ねるロコちゃんに私は一回ウインク。ちょうど、店内のBGMが「Get Wild」に切り替わる。

 さて、任務開始ね。

 私は(息を)止めて、(引き金を)引いた。

 






●今回のオリカ


幻機獣ゼータセクト
ペンデュラム・チューナー・効果モンスター
星3/風属性/炎族/攻 200/守 500
【Pスケール:青2/赤2】
「幻機獣ゼータセクト」の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールド上にトークンもしくは「飛行甲板(フル・フラット)」が存在する場合、メインフェイズ時に発動できる。
フィールド上に守備表示で存在するモンスター1体を選択し、表側攻撃表示にする。また、この効果を受けたモンスターに、以下の効果を適用する事ができる。
●そのモンスターの効果は無効化され、攻撃力・守備力は半分になる。
【モンスター効果】
このカードはルール上「幻獣機」カードとしても扱う。このカードをS素材とする場合、風属性モンスターのS召喚にしか使用できない。
?:???(現在効果未定)
(ゼータクト+インセクト)

幻機獣サーチライオネット
ペンデュラム・効果モンスター
星3/風属性/炎族/攻 0/守2000
【Pスケール:青5/赤5】
「幻機獣サーチライオネット」の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールド上にトークンもしくは「飛行甲板(フル・フラット)」が存在する場合、フィールド上の「幻獣機」モンスター1体をリリースし、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●デッキからPモンスター以外の「幻獣機」モンスター1体を手札に加える。
●デッキからPモンスター以外の「幻獣機」モンスター1体を墓地に送る。
【モンスター効果】
このカードはルール上「幻獣機」カードとしても扱う。
①:このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上のトークンは戦闘及び効果では破壊されない。
?:???(現在効果未定)
(サーチライト@探照灯+ライオネット@子獅子の某漫画表記。ラテン語で名前の最後にetをつければ「小さい○○」みたいな意味になるとのこと)

幻獣機 甲豹
チューナー・効果モンスター
星3/風属性/機械族/攻1600/守 200
①:このカードがP召喚に成功した時、「幻獣機トークン」(機械族・風・星3・攻/守0)1体を特殊召喚する。
②:自分フィールドにトークンが存在する限り、このカードは戦闘・効果では破壊されない。
③:このカードが風属性モンスターのS召喚の素材として墓地へ送られた場合、デッキから「幻獣機」モンスター1体を墓地に送る事ができる。
(甲標的+豹)

幻獣機ネシェルフィ
星3/風属性/機械族/攻1000/守1000
「幻機獣ネシェルフィ」の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールド上のトークン1体をリリースして発動できる。
自分フィールドに「幻獣機トークン」(機械族・風・星3・攻/守0)2体を特殊召喚する。
②:自分フィールド上の「幻獣機」モンスターもしくはレベル5以上の風属性モンスター1体を選択して発動できる。このカードは選択したモンスターと同じレベルになる。
③:自分フィールドにトークンが存在する限り、このカードは戦闘・効果では破壊されない。
(ネシェル+シェルフィッシュ@貝)

ヴァンパイア・バット
チューナー・効果モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 300/守 200
①:自分フィールド上に「ヴァンパイア」カードが存在する場合にこのカードを手札から墓地へ送り、
相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。
その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。

エクシーズ・ドロップ
通常罠
①:フィールド上に存在するXモンスター1体を選択して発動できる。
このカードを選択したモンスターの下に重ねてX素材とする。
(遊戯王ZEXAL)

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