遊☆戯☆王THE HANGS   作:CODE:K

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序章+第1章
MISSION1-フィール・カードを護れ!


 私の名前は鳥乃 沙樹(とりの さき)。陽光学園高等部二年の女子高生。

 そして、レズである。

「あー、女の子抱きたい」

 と、私は教室の机に突っ伏してると、

「もう。またそんな事いって」

 と、前の席に座っていた徳光 梓(とくみつ あずさ)はいった。

「だってー。女体が恋しいのよ」

 私はだらけたまま。

「女の子のカラダって全身ドスケベボディでしょ性的じゃん。思いっきり抱きしめて全身を愛撫して、唇奪って滅茶苦茶してやりたい」

「そういう沙樹ちゃんも女の子だよお」

「あーおっぱい揉みたい、痣が残るまで揉みまくりたい」

「だったら自分のお胸を揉んでてよ」

「自分の胸揉んで何が楽しいの」

「そこだけ正論言わないでー」

 ちょっとだけ困った顔をみせる梓。かわいいなぁ、私の内心はとてもほっこりだ。

「あー誰かおにゃのこファッキュー」

「もうー知らない。勝手にして」

 梓はぷいっと顔を逸らすも、確実に呆れてはいるだろうけど、本当に怒ってるわけではないのはすぐ見て取れた。もちろん、私の危険人物さに拒絶したわけでもない。

 私と梓は幼馴染なのだ。もうかれこれ十年以上の付き合いなので、私の言動なんてとっくに聞きなれてる。でなければ私はとっくに彼女から白い目で……いや、そんな風に拒絶するだろうか、あの梓が。

 梓は、とてもマイペースでぽわわんとした子だった。

 小さく緩んだ口元に威圧を感じさせない目つき、制服の上からでも分かる豊満なバストに、ちょっとだけ栗色に染めてカールをかけたセミショート髪。外見からしてもう、ふわふわして抱き心地がよさそうな感じが物すご……実際すごく抱き心地が良い。

 そして、性格も外見からみえる印象とまったく違わず緊張感を感じさせない。

 だからなのかな、なんて最近考えてしまう。

 ガチレズで危険人物さを思いっきりカミングアウトした私に全く拒絶や警戒を見せないのは、幼馴染の特権なんかじゃなくて、この性格にあるのではと。

「あ、そうだー」

 事実、さっきそっぽを向いてたのに梓は緩~い笑顔で、

「つい先日、美術館でねー」

 と、そこへ私のスマフォにメールが届いた。

「あ、ごめんね」

 私は一言断ってメールを確認する。そして席を立ち、

「梓ごめん、ちょっと電話入れてくる」

「あ、う――」

 彼女の返事を最後まで聞かず、私は急いで教室を出た。こんな時、彼女は一体どんな顔をしてたのだろうか。

 その日、私は最後まで教室には戻れなかった。

 

 

 ――同日、14:30

 この日、某美術館では『都市伝説~フィールとデュエルモンスターズ展~』が開かれていた。

 館内に展示されてるものは、どれもデュエルモンスターズのカード。それも、市販では手に入らず、例え決闘者であっても殆どの人たちによっては初めて見るカードばかりである。

 デュエルモンスターズというカードゲームには、何もない所からカードが出現するといった都市伝説が存在する。

 それらのカードは「フィール・カード」と呼ばれ、その名の元になったフィールと呼ばれる立体映像を実体化させたり、衝撃や異常現象を引き起こす特殊なエネルギーを内包してるとされる。今回展示されているカードの殆どは提供された情報を元に再現されたレプリカだった。

 フィール・カードで有名なのはナンバーズだろうか。巨大パネルで展示されてるカードには《No.10 黒輝士イルミネーター》と明記されている。

 そんな美術館を、コートの襟を立てサングラスと帽子で顔を隠した男がひとり歩いていた。

 彼の向かう先には、他の展示品と同じ……いや、他のカードと比べて目立たずひっそり展示されてる4枚の原寸大のカード。

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》

「……これか。ククッ」

 男はニヤリと笑い、コートにそっと手を突っ込んだ。

 直後だった。

 館内が無色の煙幕と爆発音に包まれたのは。

『キャー』

 館内の至る所から来客の悲鳴が響き渡る。平日の昼過ぎで人が少なかったが、逆に警備員も完全に警戒しておらず、非難口への誘導は間に合わなかった。

 発生した煙幕の正体は催眠ガス。館内にいた殆どは、その場で意識を手放してしまったのだ。

「(こうも簡単に上手くいくとはな。順調すぎて笑えるほどだぜ)」

 とでも、コートの男は思っていたのだろう。彼は催眠ガスの中倒れる様子なく堂々と4枚のカードに手を伸ばす。いまや襟で顔を隠す素振りさえない。

 

 そんな男の背後で、

「はいストップ」

 私はいった。

「なッ!」

 男は振り返り、そしてもう一度驚いてくれる。

 そこにいたのは制服姿の麗しき若い乙女(自称)。整った顔立ちから勝気で快活な瞳、髪はポニーテールに縛ってあり、胸は……梓と比べる程でもないけど、Cくらいあるんじゃない?

 左腕には起動済のデュエルディスクが装着され、そこから召喚された模型サイズの戦闘ヘリがコートの男に銃口を向ける。

 私の名前は鳥乃 沙樹(とりの さき)。陽光学園高等部二年の女子高生。

 その正体は殺しに警備、探偵等を行っている組織“ハングド”の構成員だ。

 私は一歩踏み込んで、

「ちょっとある人から依頼があってね。この美術館にある“本物のフィール・カード”を狙う輩がいるって」

 戦闘ヘリからコードが伸び、男の首へと巻きつかれる。

 そして、私が脳裏で指示を下すと戦闘ヘリから機銃が放たれる。ソリッドビジョンではあるが、フィールで実体化してる為に殺傷能力はある。事実、銃弾はコートの襟を撃ち飛ばした。

「で、見つけ次第捕らえろ。場合によっては殺傷も許可されてるんだけど。……投降の意志は?」

 なんて分かりやすくヘリの銃口で男の首元を狙う。

「チッ」

 男は一回舌打ち、コートの内側からデュエルディスクを取り出し、

「誰がするか、死ぬのは貴様だ!」

 なんてデュエルディスクを起動する。そしたら、何処に隠れてたのか出るわ出るわ部下モブ集団(沙樹視点)たちが私たちを取り囲む。

 彼らが持ってるのは、フィールを使った光線銃だと一目で分かった。

「さあ、デュエルだ。貴様が負けた時、俺の部下共が一斉に貴様を撃ち抜く」

 基本的にフィールによる攻撃や現象は同じフィールをぶつける事で相殺できる。つまり、いま男たちが光線銃を撃った所で私はフィールを使って防ぐ事ができる。しかも、あの光線銃なら体力が続く限り10時間でも20時間でも可能だろう。……反撃にフィールを使いながらでも。

 しかし、私にフィールを使えなくさせる手段がひとつだけ存在する。

 それはデュエルで敗北させることだ。しかし、逆を言えば私が勝てば逆に男のほうがフィールを損失するんだけど。

「ふ~ん」

 私は軽くほくそ笑んで、

「分かったわ。そのデュエル乗った」

 だって、フィールでターゲットを殺せる最初で最後のチャンスは威嚇射撃に使ってしまったもの。私としても相手のフィールを消す機会は大歓迎ってモノ。

 お互いのディスクが対戦相手を認識する。そして、

『デュエル』

 と、ふたりの言葉を認識し、ディスクは画面にデュエル開始を告げたのだった。

 

 

沙樹

LP4000

手札5

 

コートの男

LP4000

手札5

 

 

 デュエルディスクにはランダムで先攻プレイヤーを決定する機能を持っている。

 今回の先攻は、私だ。

「先攻は貰ったわ。私のターン」

 私は早速5枚の手札から2枚を引き抜き、ディスクに裏向きで読み込ませる。すると、拡大表示されたカードのビジョンが私の前方に映し出された。

「モンスターと伏せカードを1枚ずつセット。私はこれでターン終了よ」

「しけた初手じゃねえか。俺のターンだ、ドロー」

 と、男は「余裕だわwww」とか内心思ってそうな顔でカードを引き抜き、

「相手だけにモンスターが存在する時、こいつは手札から特殊召喚できる。……来い《堕天使ベリス》!」

 男のフィールドに出現したのは、馬に跨り一本のランスを握った全身甲冑の槍騎兵。どうみても名称に「ガイア」とかつきそうな戦士族にしか見えないが天使族。攻撃力は1700と表示された。

「バトルだ。《堕天使ベリス》で貴様のセットモンスターに攻撃! 貫けベリス!」

 男の指示を受けたベリスはフィールドを駆け、カードのビジョンに槍を突き立てようとする。それを防いだのは、カードの上から浮かび上がったエイに似た外観のステルス爆撃機。

「私のセットモンスターは《幻獣機レイステイルス》、守備力は2100よ」

 レイステルスはまさにエイのような平たさでベリスの槍を受け流し、反撃の爆撃で追い払う。その余波は奥に立つ男にまで及び、

 

 コートの男 LP4000→3600

 

 そのライフを僅かばかり削る。

「さらに《幻獣機レイステイルス》のモンスター効果、このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合、私の場に幻獣機トークンを1体特殊召喚するわ。守備表示」

 レイステイルスによる爆風が消散する。すると、そこにはレイステイルスにそっくり、しかし半透明でより立体映像らしい外観のトークンが浮遊していた。

 が、男はトークンに目もくれずに笑い、

「助かったぜセットモンスターの守備力が高くて。おかげでこいつを召喚できるぜ。……バトル終了、再びメインフェイズだ!」

 と、男はベリスを墓地に送り、新たなモンスターをディスクに読み込ませる。

「《堕天使ベリス》は堕天使モンスターをアドバンス召喚する際に2体分のリリースになる。俺はこいつを召喚だ! 来い、《堕天使ルシフェル》!」

 ベリスの肉体が2つに割れつつ光の粒子となって天へ昇ると、そこから漆黒の穴が浮かびあがって1体の堕天使が降臨する。

「へえ、攻撃力3000とかドデカい大物出してきたじゃない」

「余裕ぶってるのも今のうちだ! このデッキの最強カード《堕天使ルシフェル》のモンスター効果! このカードのアドバンス召喚成功時、相手の効果モンスターの数まで手札・デッキから堕天使を呼び出す」

 ああ、なるほどね。私はちょっとだけ納得した。

 ――おかげでこいつを召喚できる。

 この意味は、まさに私のモンスターが破壊されなかったおかげでルシフェルのモンスター効果を使用できる、という意味だったのだ。

 トークンは通常モンスター扱いなので、私のフィールドの効果モンスターはレイステイルス1体。

 男は、デッキ……ではなくわざわざ手札からカードをフィールドに置いて、

「俺は手札から《堕天使アスモディウス》を特殊召喚! こいつはデッキ・墓地から特殊召喚はできないが手札からの特殊召喚は可能だ!」

 ルシフェルに続くように降臨したのは新たな堕天使の男。このカードの攻撃力も、また3000だった。

「ブルーアイズ級の攻撃力が2体……」

 私は、さすがに軽く驚くも、

「まだだ! 《堕天使アスモディウス》には1ターンに1度デッキから天使族を1体墓地に送る能力がある。こいつの効果で俺は《堕天使ブリュンヒルデ》を墓地に送るぜ。そして、墓地のブリュンヒルデとベリスの効果をそれぞれ発動!」

 男の前に、先程の槍騎兵と闇に堕ちたヴァルキリーの幻影が浮かび上がる。

「《堕天使ベリス》の第三の効果、こいつは墓地のベリス自身を除外する事で、俺はもう1度堕天使を通常召喚できる! そして《堕天使ブリュンヒルデ》は堕天使をアドバンス召喚する際、自身を除外する事で1体分のリリースとして扱う」

 つまり、この2体を組み合わせて使えば本来の召喚権とは別にもう1体上級の堕天使をアドバンス召喚できるという事らしい。……が、男は更に、

「そして俺が召喚するのは《堕天使ディザイア》! こいつはレベル10の最上級モンスターだが、天使族なら1体のリリースでアドバンス召喚ができる。……現れろォ!」

 男の咆哮と共に召喚された三体目の堕天使。……その攻撃力は、

「また、3000」

「その通り、これで俺のフィールド上には攻撃力3000の堕天使が3体! 俺はこれでターンエンド、次のターン、このデッキのスリーエースで貴様を粉砕してくれる」

 と、なんかフラグを立ててくれちゃってるコートの男。

 私はデュエルディスクからディザイアの効果をみて「あれ?」と思った。

 

 堕天使ディザイア

 効果モンスター

 星10/闇属性/天使族/攻3000/守2800

 このカードは特殊召喚できない。

 このカードは天使族モンスター1体をリリースしてアドバンス召喚する事ができる。

 1ターンに1度、自分のメインフェイズ時にこのカードの攻撃力を1000ポイントダウンし、相手フィールド上に存在するモンスター1体を墓地へ送る事ができる。

 

 このモンスターの効果には、攻撃力こそダウンするものの1ターンに1度、相手モンスターを墓地送りにできるって書いてあるのだ。

 それをしなかったのは、ただの慢心なのか、それともこのデッキこのカードを理解していないからなのか。

 トークン以外の幻獣機には大抵『自分フィールドにトークンが存在する限り、このカードは戦闘・効果では破壊されない』って効果を持ってるが、ディザイアならその効果さえ無視して除去できるというのに。

「ま、いっか」

「何だどうした怖気づいたのか?」

「まっさかー」

 私は笑って、

「こっからどう貴方をブチのめせばいい顔見せてくれるのかなって脳汁出してたトコ」

 なんて冗談半分にからかいながら、

「私のターン。ドロー」

 と、私はカードをドローする。

 そして、

「助かったわ。貴方が慢心すぎるフラグ立ててくれて。おかげでいいカードを引くことができたわ」

 って、私は顔芸ばりに邪悪な笑みで、つい先程の男の“感謝の言葉”を真似して言ってみる。

「じゃあまずは、このカードは1ターンに1度だけ、幻獣機トークンが存在する場合に手札から特殊召喚できるカード、チューナーモンスター《幻獣機モールツカノ》を特殊召喚」

 フィールドに出現したのはもぐらの顔のついたCOIN機の幻獣機モンスター。

「幻獣機モールツカノのレベルは1、だけどこのカードはフィールドの幻獣機トークンのレベルの合計だけアップする。幻獣機トークンのレベルは基本一律3、数は1体。これでモールツカノのレベルは4になるわ」

 実は、このレベル上昇効果は先程の破壊耐性同様に殆どの幻獣機が持ってて、レイステルスもちゃんとレベルが3から6になってるのだけど。今回は意味がないのでわざわざ補足はしない。

「そして私は、レベル3の幻獣機トークンに、レベル4となった《幻獣機モールツカノ》をチューニング!」

 私が宣言すると、モールツカノは4つの円に姿を変え、それを幻獣機トークンが潜る。すると、トークンの機体が3つの光に変わり4つの円と混ざり合って光を放つ。

「大空を駆ける機械の怪鳥よ。その巨体にて勝利の旅路へ私を導け、シンクロ召喚! 発進せよ、レベル7《幻獣機コンコルーダ》!」

 光の中から駆け上がったのは、先端が怪鳥の頭部の形状をした旅客機を思わせるシルエット。

「そして、私はまだ通常召喚を行っていないわ。私は手札から《幻獣機テザーウルフ》通常召喚」

 と、さらに私はこのターン引き当てたモンスターをフィールド上に呼び出した。

「このモンスターは!?」

 男が驚く。なぜなら、このモンスターこそ最初に男の首にコードを巻きつけ、コートの襟を打ち抜いた戦闘ヘリなのだから。

「《幻獣機テザーウルフ》のモンスター効果。このモンスターは召喚成功時に幻獣機トークンを1体呼び出す」

 テザーウルフの真横に空間の歪みが生じると、そこから迷彩を解除したかのように今度はテザーウルフそっくりの立体映像が出現する。

「《幻獣機テザーウルフ》のレベルもまた幻獣機トークンのレベルの合計だけ上昇する。いまフィールド上のトークンは自身が生み出したトークン1体だから、そのレベルは7よ」

「レベル7モンスターが2体。まさか貴様、狙いは」

 ここで男が何かに感づいた模様。私はいった。

「正解。私はレベル7の《幻獣機コンコルーダ》とテザーウルフでオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」

 今度は床に銀河の渦が出現し、2体の幻獣機は霊魂の姿になって銀河の中に取り込まれ、そして銀河は爆発する。

 そこから駆け上がったのは、先端に竜の首を模した部位の追加された大型の航空機の姿。そして、機体の周りを銀河に取り込まれたはずの霊魂が2つ飛び回っている。

「竜の名を持つ機械の鳥よ。いまこそ空を支配し、私に勝利を輸送せよ! エクシーズ召喚! 発進せよ、ランク7《幻獣機ドラゴサック》!」

 すると、

「……ククッ」

 突然、男は笑いだした。

「貴様の狙いがどんなモンスターかと思えば、攻撃力たったの2600じゃないか。……これでは俺の堕天使を倒せないぜ、どうやら負けを認める前の最後の自己満足だったってワケか」

 私は、

「……貴方」

 ポカーン、ってなった。ものすごく、ポカーンってなった。

 正直アニメの世界だけだと思ってた。こういうモンスターを攻撃力だけでしか判断できないデュエル音痴。

 とはいえ、

「(ま、いっか)」

 私はこいつに教示なんてしてやらない。たぶん時間が掛かるし、時間の無駄だし、それに。――いまから、その“攻撃力”でブチのめすのだから。

「エクシーズモンスターは、他のモンスターと違って自身の召喚に使用した素材を下に重ねてオーバーレイ・ユニットとする。私はそのうちの1枚を取り除いて《幻獣機ドラゴサック》のモンスター効果を発動。1ターンに1度、幻獣機トークンを2体特殊召喚する」

 ドラゴサックは先端の口を開くと、周りを飛ぶ霊魂をひとつ飲み込んだ。

 すると、上空からドラゴサックそっくりの立体映像が2機ほど降臨する。

「そして」

 フィールドにはドラゴサック、レイステルス、そして幻獣機トークンが3体。モンスターゾーンが見事に埋まったこの状況で、私は伏せていたカードを表向きにする。

「リバースカードオープン。装備魔法《団結の力》!」

「ッ!?」

 さすが攻撃力でしか判断できない男、このカードの効果は知っていたらしい。その顔が途端に青ざめる。

「このカードは装備モンスターの攻撃力・守備力を、私のモンスターの数×800アップさせるカード。私はこれを《幻獣機ドラゴサック》に装備!」

 すると、残り4体の幻獣機から光が伸びドラゴサックを包み込む。

 味方機のエネルギーを授かったドラゴサックは、その機体を金色に輝かせる。

 その攻撃力は。

 

《幻獣機ドラゴサック》 攻撃力2600→6600

 

「嘘……だろ」

 負けを覚悟したのか、男の腕がだらんと垂れる。

「そんな、そんなはずがない。……俺が、この俺が。ボスから授かったこのデッキがあってこのお――」

「《幻獣機ドラゴサック》で《堕天使ルシフェル》に攻撃!」

 私は、男の愚痴を最後まで聞かず、ドラゴサックでとどめを刺した。

 

 コートの男 LP3600→0

 

 ルシフェルの攻撃力は3000、ドラゴサックの攻撃力との差分3600が男のライフへのダメージとなる。

 ジャストキル成立だった。

 

 デュエルが終わり、男のデュエルディスクが機能停止すると同時に3体の堕天使も消え去る。

 すると、途端に周りを囲んでた男の部下たちがバタバタと倒れていったのだ。

「こ、この!」

 (負け犬)がコートの内側から拳銃を抜いたのが見えた。その銃口が私へと狙いを定める。

 しかし、その銃が火を噴くことはなかった。

 彼が引き金を引くより先に、ドラゴサックの機銃が男の脳天を貫いたからだ。

 最期の言葉を発することなく男は倒れ、そして絶命した。

 すると、男の体が光の粒子へと変わっていき、私の体へと取り込まれていく。

 同時に、部下からも体から抜け出るように光が浮かび上がり、やはり私の体へと取り込まれていった。

 これは、私の能力だった。

 フィールを用いて殺した相手を取り込み、自分が持っているフィールの血肉にできるのだ。相手が持ってるカードごと。

 私はこの能力を、ターゲットを殺害してしまった際の証拠隠滅として利用している。

 ところで、気になるのはあの男の部下たちだ。

 男がフィールを失うと奴らは一斉に倒れ、肉体を保ったまま光の粒子が抜け出たのだ。

 私は、試しに近くの部下の下へと歩み寄る。そして、腕を掴んでみた所で、

「そういう事ね」

 と、納得した。

 その腕からは人の温もりがなく、人工皮膚の内側は血管ではなく幾つものコードが通っている。

 つまり、コートの男がフィールを動力源に動かしてた機械人形だったのだ。

 さて、そろそろ催眠ガスの効果が切れる頃だ。

 私は男がいた場所に転がっている4枚のカードを手に取り、元の位置へ戻そうとする。

 その時だった。

「――っ」

 何だろうか、私は「カードに強い拒絶を受け」ながら「その内の1枚に強く共鳴する」ものを感じる。

「(もしかして私が? いや、ありえないでしょ。そもそもだったらなんで同時に拒絶されてるのよ)」

 私はなんとかカードを展示しなおし、元いた持ち場へと帰還した。

 

 残りの数日は、館長に頼んでモニターを持たせたモンスターをオブジェクトとして配置させて貰い、私は日常に戻りながら監視を続けさせて貰った。

 結果、あの日以後に新たな襲撃犯が現れることはなく、依頼を満了するのだった。

 

 

「いやー。助かったよ」

 と、依頼人の陽井氏はグラスふたつにワインを注ぎ、そのうちひとつを私に差し出しいった。

 童顔もあって若くみえるが、調べによると娘がひとりいるらしい。前髪が長く掴みどころのない風貌をしているものの、私の直感は悪人ではない……と告げている。

「あ、いいの? 私一応未成年なんだけど」

「いいよいいよー。14歳でアル中だった子とか、小学生なのにビール好きの子とかウォッカ中毒の子とか知り合いに結構いるからー」

「それ全然よくないじゃん」

 とはいえ、職業柄行きつけのバーさえある私なので、ここは有難くご馳走になる。

 夜。

 私は任務満了の報告をした所、報酬の受け渡しを兼ねた会食に誘われ、館内レストランの個室にきていた。

 陽井氏は今回狙われた4枚のカードの所有者である。しかし、彼は所有者にも関わらずこれらのフィール・カードを使いこなすことができなかった。

 どうやら、この4枚にはその話題で有名なナンバーズを超える程のフィールを有してるのだが、陽井氏にはその内の半分も使うことができず、その手の研究者の下で数々の実験を行ったが結果は変わらずだったらしい。

 そんな中、陽井氏は知人が今回の美術展を開くことを知り、何か変化が起こる事を期待して4枚を目立たないフロアにこっそり数日だけ展示させて貰ったのだとか。

 しかし、美術展に本物のフィール・カードが展示されてることが外部に漏れてしまい、それを狙う輩が今日行動を起こすという情報が流れた。

 陽井氏は事情があり、4枚のフィールを引き出そうとしてるも手放す気はないらしい。その為、私に今回の依頼が届いたのだ。

 なお、私がカードに触れた時の経験は陽井氏には伝えていない。カードに拒絶された以上深追いしたくないし、何より面倒だったから。

 ま、そんな事はどうでもいいんだけどね。

 そんなわけで、私は早速切り出す。

「ところで陽井さん、約束の報酬の件だけど」

「ああ、うん。分かってるよ、事務所のほうに振り込んでおけばいいんだよね?」

「それもそうだけど、私が言ってるのは個人的な報酬のほう」

 実は今回の件、事務所としての契約の他に私自身も個人的に約束を取り付けてるのである。

「ああ」

 陽井氏は思い出したかのようにいい、

「ちょっと熟した人でもいいかな? うん大丈夫性格以外は保障するよ」

「まさか自分の奥さん売る気だったとか?」

「あ、ばれたー?」

 その要求とは……。

 極上の美女を一晩寄越せ! というもの。

「年齢次第だけど、どうせなら娘さんが希望かなー私」

 にやにや顔で一応私は希望をいってみるも、

「あ、それは駄目ー」

 と、当然だけど返事はあっさり却下。とはいえ、酒の勢いもあったのかもしれない。私はもう少し粘って、

「なら。お金を幾ら落とせば考えてくれる?」

「いやー。そういう問題じゃないんだよ」

 突然、表情を沈ませる陽井氏。それだけで、私は単純に「娘は差し出さない」っていう親心とは別の問題があるのを察する。

 そして、彼はいった。

「病院から出られない子に、そんな無茶はさせられないよ。もちろん健康でも差し出したりしないけど」

「……」

 さすがに、私もふざけたことを言う気にはなれなかった。

 陽井氏は続けて、

「もって半年かな? 一年は難しいって言われてるよ。……僕はね、フィールのエネルギーであの子の命を繋ぎ止めたいと思ってるんだよ」

「だから、貴方は4枚のフィールを全部引き出したいと」

「うん」

 陽井氏は頷いたのだった。

 




初めまして、そしてお久しぶりです。
CODE:Kです。
今回、ちょっと思いつきでリハビリを兼ねて新小説を書く事になりました。
こちらは基本1話完結(前後編とかもあるかも)のつもりで書き進めていく予定になっております。
更新頻度に偏りの多い自分ですが、どうかこれから(も)よろしくお願い致します。

ちなみに「遊☆戯☆王THE HANGS」ですが、当初はシティーハンターの影響を受けて、「女性・ガチレズ版冴羽獠やりたくなった」というのが始まりです。
こうして書いてみると思ったよりキャラがまだ確立しきってなかったり、冴羽獠&シ○ィーハンターからかな~り離れて(キャラも話も)しまってますけど。

今後少しずつ上達、こちらでの雰囲気を固めていけたらな、なんて思っております。


あ、最後に。
ゲリヒトはもう半年以上も更新停止しててごめんなさい。打ち切ってはいません。
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今回使用したオリカ

堕天使ベリス
効果モンスター
星5/闇属性/天使族/攻1700/守1900
①:相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
②:「堕天使」モンスターをアドバンス召喚する場合、このカードは2体分のリリースにできる。
③:墓地のこのカードをゲームから除外して発動する。手札から「堕天使」モンスター1体を通常召喚できる。

堕天使ブリュンヒルデ
効果モンスター
星4/闇属性/天使族/攻1800/守1050
①:このカードの召喚・特殊召喚・反転召喚に成功した時、自分のデッキから天使族モンスター1体を墓地に送る事ができる。
②:「堕天使」モンスターをアドバンス召喚する場合、墓地のこのカードをゲームから除外して、1体分のリリースにできる。

幻獣機モールツカノ
効果モンスター・チューナー
星1/風属性/機械族/攻 500/守 200
「幻獣機モールツカノ」の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールド上に「幻獣機トークン」が存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。
②:このカードのレベルは自分フィールドの「幻獣機トークン」のレベルの合計分だけ上がる。
③:自分フィールドにトークンが存在する限り、このカードは戦闘・効果では破壊されない。
(元ネタはEMB-314 スーパーツカノ+もぐらです)

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