それ往け白野君!   作:アゴン

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近所のお付き合いは大事。

 

 

「……はぁ。一体、この人達は何者なんだろ?」

 

衛星軌道上に浮かぶ次元航行巡洋艦『アースラ』。

 

その艦のオペレーターを勤める管理局員、エイミィは目の前のモニターに浮かぶ複数の画像を前に深い溜息を漏らす。

 

 今現在自分達が担当している『闇の書事件』と呼ばれる案件。当初は襲い来る守護騎士達による対応や二人の幼い魔導師をフォローするのに手一杯だったのたが、スクライア一族の少年の協力により、今回の事件の全貌が明らかになっている。

 

それはいい。事件の終息に向けて皆が一丸となっている空気は良いものだし、エイミィ自身も良い傾向だと認識している。

 

だがここ数日、闇の書事件の他に気掛かりになる案件が増えたのだ。

 

モニターに映る花嫁姿の女剣士。そしてそれに加えて赤い剣と弓矢を巧みに扱う男の戦士と凄まじい武具の物量で守護騎士達を圧倒する黄金の男。

 

 そんな並外れた戦闘力を持った彼らの側には一見何てことない、どこにでもいそうな普通の青年が映っていた。

 

 そしてその青年は以前記録していた花嫁の女剣士の側にも見切れてはいるが確かにいる。

 

 この青年が花嫁剣士、赤い弓兵、黄金の男と関係性があり、且つ中心人物である事は明白だ。問題は何故そんな青年が守護騎士達を相手にしているのか、である。

 

「やっぱり、ただ巻き込まれただけなのかな? でも、どこか別世界からの来訪者であるなら私達に連絡あってもおかしくないと思うし……けれど、そんな連絡は本局も無いって言ってるし」

 

 この世界。管理外第97世界地球に魔法が栄えたという記録は存在しない。

 

だが、彼等の扱う術は魔法に関連しているのは予想できる。しかし、管理局の総本山───所謂本局はここ近年地球に他の管理世界からこの世界に訪れた人はいないと報告が来ている。

 

なら正規な手続きをしていない集団が違法な手段を用いてこの世界に来ているのか? だとすれば何が目的で?

 

 彼等の狙いが闇の書であるなら一応の説明は付くが、今の所その様子は見受けられない。

 

無論見えない所で守護騎士達と何か企みをしているのかもしれないが、それは自分の推論であって確証には程遠い。

 

「やっぱクロノ君に相談するしかないよねー。私じゃどんなに頭を捻っても全然分かんないや」

 

たはー、と苦笑いしながら腕を伸ばし、デスクワーク特有の凝った肩を解しながらエイミィは本日の報告書のマトメに入る。

 

ふとそんなとき、地球の形をとった電子地球儀に一つの赤い点がエイミィの視界に入る。

 

 時空管理局の技術力は文字通り様々な世界の集合体。故にこの巡洋艦一隻だけでも地球のネットワークにも介入し、その地の情報を得ている。

 

なのに、何故今までこんな巨大な端末に気付かなかったのだろう?

 

「なんだろ……これ? 記録端末……なの?」

 

 不思議に思ったエイミィはその赤い点を凝視する。その点の位置は現在艦長の住んでいる海鳴市から近い街に地点にある。本来なら彼女はまずその艦長に報告すべきなのだが………。

 

ここで間が悪く、彼女の女性特有のデバガメ根性……即ち好奇心が騒ぎ出し、興味本位でその赤い点にアクセスしてしまったのだ。

 

 そして次の瞬間、エイミィは巨大モニターに映し出される膨大なデータ量に戦慄を覚える。

 

「何………これ?」

 

モニターに埋め尽くされるデータ量。流れてくるデータの並に圧倒され、呆然となってしまう。

 

こんな記録容量、普通の端末では有り得ない。

 

(これじゃあ無限書庫、いえ、それ以上の──!)

 

エイミィは急いで親友のクロノ、そして艦長に連絡するために通信回線を開こうとする────が。

 

 

「!!?」

 

鳴り響くアラーム音と共に全ての通信回線が遮断され、モニターは黒に染め上げられ、浮かび上がるのは緊急事態とミッド語に翻訳された文字がアチコチに表示されている。

 

現在繋がっているのは艦内通信のみ、そこから聞こえてくる声は艦に乗り込んでいる武装魔導師と、自分と同じオペレーター局員達の断末魔にも似た悲鳴だった。

 

『な、何だ!? 何が起こってる!?』

 

『これは! 外部からの電子……いえ、量子演算機能によるネットワークを通じた電脳侵略(サイバーアタック)です!』

 

『バカな!? この艦は管理局の最新鋭の技術で造られているんだぞ! まだ未発達なこの星にそんな技術力があるわけ……』

 

『電脳侵略、更に侵攻速度を加速! 艦の80%の機能が奪われました!』

 

『う、うわぁぁぁぁっ!!』

 

『今度はなんだ!?』

 

『か、管理局に登録されたデバイスが次々と暴走! ネットワークを通じて操られている模様です!』

 

『ファイヤーウォールが利かない!? なんだこれ、これじゃ破壊じゃなくて……侵食!? いや───溶かされている!?』

 

『ダメです! アースラ艦、制圧されます!』

 

 通信越しから聞こえてきたその言葉を最後に、艦内のシステムがダウン。アースラと呼ばれる次元の海を渡る艦は暗闇に閉ざされ、艦内にいる全ての乗組員達は訳の分からない事態に混乱していた。

 

ただ一人、事態を把握していたエイミィはその顔を絶望に染め上げる。

 

「私、の……私の、所為だ」

 

デスクに座り、頭を抱えながらエイミィは数分前の自分を殴り付けたかった。

 

変な好奇心に駆られ、勝手に未知の物体にアクセスし、ハッキングを許しあまつさえ艦の全てを制圧されてしまった。

 

 言葉では表現できない後悔と混乱がエイミィの頭を支配する。

 

これから一体どうする。とそんな時。

 

『迷える仔羊に合いの手……もとい愛の手を! 出張版! BBー、チャンネルー!』

 

艦内に響きわたる場違いな軽い声が聞こえるも同時に、今まで暗かったモニターに光が灯り。

 

『さてさて、噂の時空管理局という胡散臭い皆さーん! 元気(ライフ)してますかー? 勿論生きて(ライフ)してますよねー? 活動(ライフ)しているに決まってますよねー?』

 

「な、なに?」

 

『超銀河系アイドル美少女! BBちゃんの送るBBチャンネル! 今回は時空の管理者といかにもアレな組織のスタジオにきていまーす!』

 

 モニターにデカデカと映る見た目は麗しい少女が、その口から毒をまき散らしながらまるでコメディー番組の司会者のように映像画面の真ん中を陣取っている。

 

『本来なら先輩を弄り倒し、その様を笑いながら炭酸飲料を飲み干したい所なんですが、今回はワザワザ虐められたいMっ子さんがいるらしいので本日はこのような形になりましたー。はい皆さん拍手ー!』

 

 言葉が……出なかった。艦内システムが全て掌握され、本局にも、地球にいる友人達にも通信手段が断たれ、絶望した所にこんなふざけたコメディー番組擬きが流されているのだ。

 

エイミィは自分か悪い夢を見ているのではないかと錯覚し始めた。しかし、何度瞬きしようと目を擦ろうと目の前の悪夢(現実)は消えない。

 

『違うわ。間違っているわよBB。ワザワザ相手の望むことをしてしまえばそれは虐めでもなんでもないわ。ただのご褒美よ』

 

『むむ! 流石は我が分身。一々言うことが辛辣な癖に的を射てますね』

 

『え、えっと、取り敢えず潰していいのかな?』

 

『ストップ。ひとまず貴方は大人しくしてなさい。全く、あれほど少しは手加減を覚えなさいと言ったのに……』

 

『て、手加減ってなんですか?』

 

『……それ、ネタで言ってるのよね?』

 

『………………?』

 

『この子、天然か!?』

 

「…………」

 

 この人………いや、姿は見えないが他にも声がするので人達か。

 

いきなり登場したかと思いきや今度は漫才を始めているBB名乗る少女に、エイミィはバカじゃないと不覚にも思ってしまった。

 

そんな彼女の姿に落ち着きを取り戻したエイミィは声を張り上げて言葉を吐き出す。

 

「あ、貴方達は一体なんなの!? 何が目的でこんな事をするの!?」

 

 言ってやった。これで少しは溜飲が下がったとエイミィは少しばかり冷静さを取り戻すが───。

 

『─────はぁ? ふざけてるんですか? 貴女』

 

「きゃあぁぁっ!」

 

 瞬間、エイミィの手元にあったコンソールが爆発する。

 

そこに置いていた手がコンソールの爆発に巻き込まれ、エイミィの両手は皮膚は焼かれ、破片が突き刺さり、見るも無惨なモノへ変わり果てている。

 

痛みでのた打ち回るエイミィ。しかし、それをお構いなしに画面に映る悪女は言葉を続ける。

 

『勝手に人の恥部を覗き込んだ癖に、随分上から目線なんですね? そういう態度を取るのでしたら此方にも考えがありますよ?』

 

「な、何を……する気なの?」

 

『貴女達の指揮官、リンディ提督でしたか? 今その人が住んでいる街に向かって“アルカンシェル”を撃ち込みます』

 

「っ!?」

 

 その一言にエイミィは絶句した。あの街には自分達の指揮官だけではなく多くの無関係な市民が住んでいる。

 

アルカンシェルという戦略兵器を撃ち込んだら、それこそ甚大な被害が……!

 

『勿論、それによる不始末は全て貴方達に被って貰います。時空の管理者、無関係の市民ごと悪を滅ぼす───なんて、良い記事(ゴシップ)になると思いません?』

 

本気だ。エイミィはモニターに映る悪魔(BB)が本気でそれをやるというのを本能的に察知した。

 

『ま、そんな事をやれば先輩……あの人が悲しむからそれはまだやりませんけどね。こんなくだらない事であの人の負担にはさせたくはないですから』

 

 と、それだけ言うとBBと名乗る少女は侮蔑の籠もった冷たい視線を向け。

 

『いいですか? 今度こんな真似をすればアルカンシェルなどとちんまい手段は取りません。本局に保管されているロストロギアを全て暴走させ、あなた方を文字通り消しますから────そのつもりで。ああそれと、この座標地点に手を出せば問答無用でそうするのでお忘れなく』

 

 その言葉を最後に、BBの姿が画面から消え、それと同時に艦内の制御が元通りになる。

 

遠くから自分の名前を呼ぶ声を耳にしながら、エイミィはとんでもない事をした。と自責の念にかられながら意識を手放すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あーあ、あのおバカな人達の所為でとんだ無駄な時間を過ごしたわ。────あ、でもこの映像を撮っていた事だけは褒めてあげるとしましょう。邪魔なギルガメッシュさんやアーチャーさん、セイバーさんを切り抜いて………ウフフ。必死な先輩、可愛いです』

 

 暗闇の空間。誰もいない地の底で少女は回収した映像を加工し、一人悦に浸っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────!

 

「先輩? どうかしましたか?」

 

 午前の鍛錬も終わり、昼食を採っていた自分の背中を言いし難い悪寒が走る。

 

一瞬背後を見るが其処には誰もいなく、あるのは自分達を囲んだ食堂の壁程度だ。

 

心配した様子で見つめてくる桜に大丈夫だと言って昼食のおかずである唐揚げに箸を伸ばす。

 

カラッと揚がった衣とジューシーな鶏肉が口の中に広がりご飯を頬張る速さも増していく。

 

 また腕が上がったのではないかキャスター、と素朴だが自分なりの褒め言葉を口にする。

 

「え? そ、そうですか? なにぶんこの手の食事を作るのはは初めての試みでしたので、不安でしたから……天ぷらなら自信あったのですけど」

 

「いや、確かにこの唐揚げは旨い。まだ改善の余地はあるが初めてにしては見事な仕上がりだ。これでは私もうかうかしてはおれんな」

 

 おお、アーチャーからも太鼓判が貰えるとは、流石良妻賢母を目指すキャスターさん。

 

「女性ではなく男性のアーチャーさんから褒められるのは何故か今一つ釈然としませんが、ご主人様にそう言って戴けるのならこのキャスター、頑張った甲斐がありました」

 

 と、素直に褒められるのは慣れていないのか、狐耳を垂らしながら照れるキャスターに思わず笑顔が綻ぶ。

 

それが面白くなかったのか、キャスターの隣にいる食べ専だったセイバーが膨れっ面で口を開く。

 

「む、そ、奏者よ。余だってこれくらい出来るぞ。余は皇帝故に調理場に立つことは出来ぬが……あ、あれだぞ! カップラーメンは作れるぞ!」

 

 セイバー、それ料理って言わない。

 

「むふふ、セイバーさん。そう言うのはマトモに料理を出来てからにしてくださいな。ご主人様が好みなのは家庭を支える良妻賢母。つまりはこのタマモこそがご主人様のストライクゾーンのド真ん中なのです」

 

「ぐ、ぐむむ! よ、余も出来るぞ! この間こっそり卵焼きとやらを作ったのだ!」

 

 あの、セイバーさん。貴女さっき自分は皇帝だから調理場には立たないって言いませんでした?

 

「誰にも見られていないからよいのだ!」

 

 な、なんて無茶苦茶な暴論! 赤セイバーてばマジ暴君!

 

「ちょっと待ちたまえ、セイバー。その卵焼きとやらはもしかして先日私のテーブルに置いてあったあのダークマターの事か?」

 

「うむ! ちょっと失敗した故な。捨てるのも勿体ないのでソナタにくれてやった。どうだ? 旨かっただろう?」

 

「もしアレで自信作とか抜かしていたら全力で全国の鶏さんに土下座させる所だったぞ。なんだあの未知の物体は? 煎餅かと間違ってかじったら思わずその日食べたモノが全て戻してしまったぞ!」

 

 酷く憤慨した様子でセイバーに箸を向けるアーチャー。普段そういう作法には煩い彼がなりふり構わずにしているのだから、それほどセイバーの作った卵焼きは酷い味がしたのだろう。

 

 しかし、一生懸命食べる人の事を想って作ってくれたのだ。味はどうあれ自分は食べて見たかった。

 

「ほ、本当か奏者!」

 

「正気かマスター。あんなものを食べたら間違いなく腹を壊すぞ。あまり軽率な言動は………」

 

 そこまで言い掛けた所でアーチャーの口は止まった。そう、どんなに不味い料理でも、それが料理である限り自分は完食できる自信がある。

 

それが、喩え人の領域を超えたものでも、だ。

 

「そうだった。このマスター、大抵のものならなんでも食べてしまうのだったな。迷宮の時も拾い食いとかしてたし」

 

 自分というマスターの性質を思い出したアーチャーは呆れの溜息を漏らす。

 

失敬な。確かに拾い食いはしたけどそれは時々であって毎回ではない。いつも人が雑草食べてるような言い方はしないで欲しい。

 

「いや、奏者よ。結構頻繁だったと思うが?」

 

 セイバーの言葉をスルーし、話を戻す。

 

自分は嘗て“この世、全ての欲”即ちアンリマユなる存在と対峙した。

 

けれどその前に自分はもう一つのアンリマユと対峙し、これを打ち勝った事を思い出して欲しい。

 

「もう一つのアンリマユだと? そんな存在あったか?」

 

「私も記憶にありません。ご主人様、それはどこルートの話ですか?」

 

 どこのルートも何も、これはここにいる全員が知っている事だぞ。

 

これだけ言っても分からないのか、セイバー達、桜も覚えが無いのかその頭に疑問符を浮かべている。

 

 とその時、今まで食べる事に専念して いたギルガメッシュが口元を吊り上げてニヤリと笑う。

 

「クク、我は覚えているぞ雑種。あの時の貴様の戦いは見事だった。最古の英雄王たる我ですら記憶に深々と刻まれているのだからな」

 

 ふ、流石は英雄王、見る目が違う。でも、ほっぺたにご飯粒くっつけている所為で威厳/Zeroですけどね。

 

そう、あれはサクラ迷宮の地下14階での事。あそこで起きた戦いは生涯忘れることはないだろう。

 

 あれはまさにアンリマユ。“この世、全てのメシマズ”に他ならない。あれを打ち倒した自分なら、もはや恐れるものは何もない。

 

現に、あの後食べた店員自慢の激辛麻婆豆腐が甘味に思えたわ!

 

「………あー、成る程。確かにそうですね」

 

「あの時のマスター。ホント追い詰められていたからな」

 

「口からロケット噴射で後方三回転とか、人間超えてましたものね」

 

「あれほどの推進力は我が舟ヴィマーナでもなかったからな。正直、雑種ながら驚いた」

 

 それぞれからそれぞれの賛辞に思わず目から熱い雫が零れる。

 

と言うわけで、今晩のご飯は麻婆豆腐をリクエストしたいのだけれど……。

 

「それはだめだ」

 

「それは無理だ」

 

「却下だたわけ」

 

「却下ですわご主人様」

 

 四人のサーヴァントからの一斉のダメ出しに自分は為す術なく消沈。隣にいる桜は苦笑いを浮かべてドンマイとだけ告げてくる。

 

あぁ、神父。購買の店員神父よ。私の願いは未だ聞き届けられない。

 

 

───ふ、温めますか?

 

食べたい、その麻婆豆腐。

 

 

と、まぁおふざけはここまでにして、実際どうなんだセイバー。

 

「む? なにがだ?」

 

 惚けた様子で首を傾げるセイバーに思わず溜息が零れる。

 

自分がセイバーに対して思う所など、先日の女騎士から受けた傷に決まっているだろうに。

 

心配を掛けたくない気持ちは分かるが、それでも気に掛かるのが自分だとセイバーも理解している癖に。

 

「ぬ、それは、そうだが───けど、怪我の方は大丈夫だぞ。サクラの治療やキャスターの看病もあったお陰で今ではこの通り万全よ!」

 

「先輩、セイバーさんの容態なら既に全快です。必要あるなら戦闘も可能ですし、日常生活に於いても問題はありません」

 

「私が看病していたのですから当然です」

 

 力瘤を見せてくるセイバーは兎も角、桜やキャスターがそう言うなら確かにそうなのだと安心できる。

 

それなら今度セイバーの料理を楽しみにしておくとしよう。

 

「う、うむ。だが余の手作りは本当に稀だからな! 楽しみに且つ腹を空かせながら待ち続けるがいい!」

 

 顔を赤くしながら宣言してくるセイバーに楽しみだと返す。

 

「くっ、ご主人様のメシマズに対する耐久力を逆手にアピールするとは! この皇帝、やる!」

 

「わ、私も頑張らないと!」

 

「……なぁ贋作者、そこの醤油を取れ」

 

「自分で取れ、と言いたい所だが私も少々塩分を摂取するとしよう。その後でなら取ってやる」

 

「全く、毎度毎度飽きぬものよ。いい加減口から砂糖が出てきそうだ」

 

(……俺も、端から見たらこんな感じだったのかな?)

 

と、こんな調子で我が家の食卓はいつも通りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それじゃあ、行ってくるよ。

 

昼食を終えた後、自分は外出用の衣服を身に纏い、玄関先にまで見送りに来てくれた桜に外出の旨を伝える。

 

本日の午後の鍛錬はキャスターに無理を言って休みにしてもらった。彼女は自分との過ごせる時間を無くした事に機嫌を損ねたのか、いつもならいるはずの見送りにその姿は見せないでいる。

 

それが少しだけ寂しく、心苦しいが、これも昨日買えなかった目的の物を手に入れる為である。

 

今現在に於いて風評被害は甘んじて受けるとしよう。

 

全ては聖夜の日に挽回させる手筈なのだから!

 

「あ、あの、本当に誰も付けないで一人で街に向かうつもりですか? やっぱり一人くらい誰かに付いて貰った方が……」

 

桜からの警告に似た呼び掛けに自分は大丈夫だと返す。

 

昨晩、ギルガメッシュがあの女騎士達を必要以上に叩きのめしてくれたお陰で此方にはもう二度と干渉しないと言ってくれた。

 

彼女達が本当に騎士だと言うのなら、自分から言った宣誓を破ることはしないだろう。

 

「で、ですが……」

 

 それを証拠にアーチャーは一人で出る事に反対はしなかった。

 

寄り道しないで早く帰宅するように等と小言を言われたが、それだけである。

 

それに怪我を治したばかりのセイバーにはまだ負担を強いるような真似はしたくない。

 

 ……まぁ、何かあればすぐに連絡するよ。そのためにワザワザ携帯も買った訳だし。

 

それに逃げる速さなら多少自信はある。アーチャーから生き延びる術を──まだ途中だけど──教えて貰ってるから何とかなるさ。

 

「もう、本当強情なんですから。……気を付けていってらっしゃい」

 

行ってきます。

 

見送ってくれる桜を後目に、俺はマンションを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局のところ、特に問題らしい問題には直面せず、目的のモノはすぐに買えた。

 

現在マンションに住む女性陣。キャスターやセイバー、桜のそれぞれの好みに合わせて買った割にはさほど時間は掛からなかった。

 

 まぁ、そのお陰で予定よりも出費はデカかったが………必要経費だと思っておこう。

 

これからも良い関係を続けられるよう。感謝を込めて渡す。あの月での戦いの中では決して得られなかった幸福を、噛み締めるように、よく味わうように。

 

 それは兎も角として、問題はムーンセル(仮)の内部にいるBBについてだ。

 

彼女は電子の海にいる存在。現実的にプレゼントを渡すには無理がある。

 

プログラムの彼女にプレゼントを渡すには物理的にではなく、やはりプログラムとして渡すのが正しい……のだろうか?

 

 まぁ、一応桜に合わせて彼女の分も買っているが、直接そう言う風に渡すのは……嫌味みたいに取られるのではないだろうか?

 

 ドンドン巡りの自問自答。取り敢えず両方準備しておく方向で自身を納得させると、いつの間にか自分が住宅街に迷い込んだのだと気付く。

 

既にこの街───いや世界に来てひと月が経過しようとしているのだからこの周辺の地域は大体把握している。

 

一応マンションの場所なら把握しているし、ここならそう遠くないのだけれど……。

 

やめておこう。興味本位で知らない道を行くと後々迷子になりしょーもない理由で皆に電話をする羽目になる。

 

 そうなったらソレをネタにギルガメッシュがまた自分を弄り倒すに決まっている。

 

『その年になって迷子とか、マジ愉悦』

 

───うん帰ろう。急いでもといた場所に引き返しダッシュで家に帰ろう。

 

折角早い段階で目的の代物をゲットできてのだ。早々に帰宅し、クリスマスに備えて準備をする事にしよう。

 

無論、女性陣にはバレないように。

 

 そうと決まれば善は急げ、踵を返してその場から立ち去ろうとするが……。

 

「シグナム、ザフィーラ、本当に大丈夫?」

 

「問題ない。傷の治癒なら既に完了した。戦闘も充分可能だ」

 

「それに、最早我らには時間がない。早いところ闇の書を完成させねば」

 

「あぁ、つーわけで無理を承知で頼むぜ、ザフィーラ、シグナム」

 

 自分の横から聞き慣れた四人の声。まさかと思いつつ振り返ると………。

 

「あ、貴方は!」

 

「むっ!」

 

「………貴様」

 

「っ! テメー……」

 

 扉から出てきた三人の女騎士と一匹の狼が、固まった自分を見てそれぞれ敵意を全開にして此方を睨んできた。

 

──────わぁ、意外とご近所さんだったのね。

 

 

 




今回、BBの他にも二人出てきますが……ハイ、皆さんのご想像通りです。
ただ、まだ彼女達の本格的な出番はまだ先ですので名前は伏せておいて下さい。

せめて、「BB以外にもいただと!? 一体何者なんだ!」位にしておいて下さい。

誠に勝手なお願いですが、宜しくお願いします。


PS
今回の感想の半分近くが英雄王のキャストオフについて。

裸を期待するのならば君達も相応の対価を払わねばなるまい。

───つまり。

パンツ 脱ぎな さい

以上。さぁ、読者の皆様よ。英雄王のキャストオフをその身で以て示せ。

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