それ往け白野君!   作:アゴン

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久々の更新。暫くは此方をメインにしたいと思います。


推測、銀髪、お好み焼き

 

 

 

 

 

「ほぅ、単なる偶像の小娘かと思っていたが……風鳴翼、中々見所のある女ではないか」

 

 翌朝、久し振りに皆が会した食堂で昨夜の出来事を説明した際に、ギルガメッシュが愉悦に満ちた笑みを浮かべてそんな事を口にした。

 

朝っぱらから気が滅入りそうな事を言わないでくれ、自分のそんなささやかな抗議も英雄王様には当然届かず朝の新聞を読みながらニヤニヤしている。

 

「しかし、相変わらず厄介な事に巻き込まれるなマスターは、一度祓って貰った方がいいのではないかね? 丁度専門家が要ることだし」

 

「ちょっとアチャ男さん、人を軽い女の様な物言いは控えて下さいまし。それに今回を限って言えば厄介ごとの元凶はどうやらその風鳴翼ご本人あるご様子。お祓いとか正直めんど……もとい、祓うよりも直接的な対応で済ませれば良いのです。より具体的に言えばここにいるメンツでフルボ……」

 

そこまで。何だか興奮し、物騒な事を言い出すキャスターに待ったを掛ける。彼女の言いたい事も分からなくはないが、それでも実力行使で黙らせるのには少し急すぎる結論だ。

 

此方はまだ彼女の事情を知らないのだ。一方的的に話を決めつけるのは少し早急と言うものだ。

 

「問答無用で襲い来る相手に事情とか、相変わらずそういう所は甘いわね。岸波君は」

 

呆れ顔でそう言ってくる遠坂に自分は苦笑う。確かに人が好いかもしれないが、それ以上に気になる事があると言った方が正しい。

 

「気になる事?」

 

遠坂の問いに自分は頷いて見せる。あの時の風鳴翼は自分の知るアイドル歌手ではなく、まるで一振りの日本刀の様なただずまいだった。それなのに……いや、だからこそその時の彼女の言動が解せなかった。

 

天羽奏。確か二年前まで風鳴翼と共に“ツヴァイウィング”として活動していた歌手として知られていた女性だ。風鳴翼と天羽奏は揃って人気の歌い手であり、当時はトップアイドル、アーティストとしても破格の実力を持っており、あの頃の輝きはファンにとって色褪せる事のない記憶としていつまでも残っている事だろう。

 

「随分ツヴァイウィングについて詳しいんですね先輩。いつのまにそこまでの情報を入手したんですか?」

 

どうやら自分の解説に驚いたのか、お茶を持ってきた桜が目を丸くさせて訊ねてくる。

 

何、そんな大層な話ではない。この岸波白野もまたツヴァイウィングの熱烈なファンだという事さ、因みに映像記録も既に入手済みである。プレミア価格が付いていた為、手に入れるのに相当苦労したが。

 

腕を組んで目を瞑り、シミジミとその時の事を思い出して語っていると、ふと視線を感じた。目を開けてみるとそこには自分を引いた目で見てくるサーヴァント達。

 

ゴホンと咳払いをして話を戻す。ともあれ、昨夜の風鳴翼の攻撃的な言動はツヴァイウィングの天羽奏、そしてガングニールの奏者となった立花響ちゃんが関係しているのは間違いないと思う。

 

するとそこで何か思う事があったのか、今までニヤケ面だったギルガメッシュが新聞を畳んで席を立ち、窓ガラスの方へ歩みを進め、そこから見える街並みを見下ろしながら愚痴をこぼした。

 

「ガングニールに天之羽斬りか、欠片とはいえ神槍や神刀を扱うとは雑種共の貪欲さには呆れ果てるな。だが、それはそれで愛で慨があるというものよ」

 

その呆れと彼特有の悦に満ちた表情に自分はやれやれと溜息しか出なかったが、同時に頼もしく感じた。

 

 そんなギルガメッシュをさておいて、自分は最後にもう一度話を進める。立花響、風鳴翼、ツヴァイウィングに……そして、天羽奏、この要因にもう一つキーワードがあるとすれば───それは二年前、ツヴァイウィングが最後に公演したあの舞台とその後に起きた“事故”が先程の要因を繋げる決定的な鍵となる事だろう。

 

「二年前? そういえばさっきから二年前ってのが良く出てくるわね。その二年前に一体何か起きたのかしら?」

 

質問してきたのは何気に初めてこの食堂に集まったメルトリリスだった。彼女の質問を機に全員の視線が自分に集まる。

 

……自分達がこの世界に来てまだ数ヶ月しか経っていないし、当時の出来事はファンの間でも、社会としてもタブー扱いされていた為、アイドル活動に忙しい彼女達では知るには難しい事柄だろう。

 

幸い……といえばいいのか分からないが、ツヴァイウィングのファンである自分はこの世界にきて僅か一週間足らずで二年前に起きた事件を知る事が出来た。

 

 二年前、当時のツヴァイウィングは人気絶頂の中、多くのファン達の歓声を浴びながら歌を歌った。その歌声に観客は感動し、魅了され、彼女達を讃えた。

 

何もかもが上手く行っていた。アイドルとして、歌い手として、そして……風鳴翼の言う防人としても、大歓声を上げる観客達相手に熱唱できた事を、心から嬉しく思えていた事だろう。

 

───そう、“ノイズ”が現れるまでは。

 

特異災害であるノイズは唐突に出現し、人間を索敵し、殺害する。この人間に対する破壊者であるノイズの登場に観客たちはパニックを起こしたという。

 

ノイズの襲来に多くの市民は死亡。だが、それ以上に酷いのはノイズによって殺害された人よりも、パニックを起こした人々によって亡くなった人の数が多いという事実だ。

 

「……パニック現象を起こした人間はその思考が著しく低下する傾向がある。我先へと逃げ出す人間が倒れた人間を気にも留めずに踏み殺していく。良くある話だな」

 

どこか達観した様子で呟くアーチャーに食堂は静まり返る。そう、そしてその死亡者の中に天羽奏の名前もあるという事だ。

 

「……成る程、大体読めてきたわ。風鳴翼が立花響を異常なまでに敵視する理由が」

 

「え? え? ど、どういう事なの?」

 

全員が納得し始めた頃、唯一分からないといった人物が一人、メルトリリス同様初めて食堂で顔を合わせることになったパッションリップである。

 

辺りを見回しながらどういう事なのかと口にする彼女だが、その度に激しく揺れる二つの物体に目が往く……ゲフンゲフン。

 

隣の桜の視線がキツくなってきたのを察知し、瞬時に話を続ける。

 

ツヴァイウィングである風鳴翼は天之羽斬りの奏者だった。同じツヴァイウィングとして活動していた天羽奏が無関係とは思えない。

 

 ここからは推測に過ぎないのだが、恐らくは天羽奏もシンフォギア奏者で、しかもガングニールの奏者だったのではないのかと考えられる。

 

そして現れたノイズと戦う最中に死亡、その時に立花響ちゃんにガングニールのシンフォギアが何らかの形で継承されたのではないかと自分は考える。

 

根拠としては昨夜、翼さんが響ちゃんの纏うシンフォギアを見て激しく怒りだしたのが理由なのだが……。

 

「確かに、少し無理矢理感は多少するけど、そう考えるとしっくり来るわね」

 

「流石は我が奏者よ。僅かな合間にそこまでの解を導きだせるとは、我が師セネカに勝る知将ぶりよ!」

 

煽てるセイバーを制止しながら再び話を戻す。先程も言ったがこれらの話は所詮自分主観の推測に過ぎない。決め付けるのは早急だし、これからまた時間の合間に調べていこうと思う。

 

「ま、妥当な所ね。あちらさんも色々複雑そうだし、下手に干渉すれば此方にとっても余計な火種になりかねないわ。岸波君も込み入った話をする時は必ず私か貴方のアーチャーに一言相談しなさい」

 

凛の忠告にそうだなと頷き、時計を確認する。そろそろバイトの時間だ。席を立って食堂から出ようとした自分にギルガメッシュから声が掛かる。

 

「雑種、貴様の推測だが確かに我もそれはそれで間違いはないと同意してやる。だがな、果たして問題はそれだけかな?」

 

視線だけを此方に向け、不敵な笑みを浮かべるギルガメッシュに自分はどう言うことだと訊いた。すると英雄王は更に口角を吊り上げながら。

 

「立花響という雑種、アレもアレで相当屈折した感性の持ち主だと我はみるが……贋作者、貴様はどう思う?」

 

「………………」

 

響ちゃんに対して気になる事を口にしながらアーチャーの方を見る。アーチャーはアーチャーでギルガメッシュの言葉に耳を傾けず、目を伏しているが…………なんでだろう、その姿勢が彼のギルガメッシュに対する答えを言っている様な気がしてならない。

 

二人の言動に引っかかる部分はあるが……いい加減バイトに向かわなければ遅刻してしまう。後ろ髪が引かれる感触を残しながら、朝から憂鬱な話題をふってしまった皆に侘びを言いつつ、自分は食堂を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんじゃ岸波君、お店の方は任せたよ」

 

 原付バイクに跨がり、買い出しに出掛ける店長を見送りながら、自分はフラワーに入って作業に戻る。

 

時刻は既にお昼を過ぎ、賑わっていた店内も今はすっかり大人しくなった。最早手慣れた皿洗いに没頭しながら自分の頭には今朝のギルガメッシュの台詞が思い出されていた。

 

立花響ちゃん。普段は明るくて気さくな彼女だが、もし自分の推測が当たっていれば二年前の事故で彼女もツヴァイウィングの最後の舞台となった会場でノイズと遭遇していた事になる。

 

……ノイズという死の恐怖と遭遇した。それだけでも彼女に掛かる心労は計り知れない。だというのに当時の世論、遺族達は死亡の半数以上がパニックに陥った市民達の所為だと知るや否や、怒りと憎しみの矛先を生き残った人々に向け、酷い批判を浴びせた。

 

何故お前が生きて息子は死んだ。娘を返せ、孫を返せ、と様々な罵倒を浴びせ、侵害し、罵った。

 

政府も生き残った市民に特別手当や処置を施したが、コレが却って世論を煽る結果となり、更なるパッシングを受けた事になる。

 

生き残った市民、もし響ちゃんもその一人だとすればその時の彼女の心の内は……。

 

 ……深い溜息が陰鬱となった気持ちと共に吐き出される。接待業をしている事を一瞬忘れてしまった自分を戒めながら店内に誰もいない事に安堵しながら再び作業に戻る。

 

と、その時だ。ガラガラと店の戸が開かれ、一人の少女が来客する。……珍しい事があるものだ。この時間帯ならいつもは人が殆ど来ないから。

 

綺麗な銀髪の髪を二つに纏めた少女はキョロキョロと辺りを見渡しながらカウンターの席に座る。……外人さんかな? 綺麗な顔付きだし、身なりも上品、どこかのお嬢さんかなと思いつつご注文は? と訊ねる。

 

「へ? あ、あの! 私は!」

 

 突然挙動不審になる少女に目を丸くなってしまうが、なに、動じる必要はない。既に店長からは外人のお客様に対するマニュアルも叩き込まれている。

 

少女の近くに置いてあったメニュー表を手に取り、分かり易く説明するが…この場合、英語で合ってるのか?

 

一応外国の言葉ならそこそこ話せるが……何せ付け焼き刃の言葉だ。正確な発音が出来ているかはあまり自信がない。

 

けれど少女の方は不安になる自分とは対照的に徐々に落ち着きを取り戻していく。最終的には身振り手振りで説明をする自分を冷めた目で見る程だ。

 

流石店長のマニュアルだ。対応度の高さは半端じゃない。

 

「………じゃあ、これをくれ」

 

少女の指さすメニューを確認し、畏まりましたと告げてお好み焼きを作る。

 

その際にただ待たせるのはどうかと思い、沈黙の店内を賑わせる為ラジオを付ける。

 

ラジオから流されたのはタイミングが良かったのか、最近色んな意味で話題の風鳴翼の音楽が流れて来た。

 

昨夜はあんなことがあったが、やはり彼女の歌はいい。気分も盛り上がるし陰鬱な気分など吹き飛ぶようだ。

 

だが、目の前の少女は音楽が流れた途端、表情を曇らせ、歌が聞こえた時は手を堅く握り、険しい表情で眉を寄せていた。

 

どうかしましたかと訊くと、少女は鋭い眼光を自分にぶつけ。

 

「なぁアンタ、音楽は……歌は好きか?」

 

彼女の唐突な質問に自分は曖昧な返事しかできなかった。けれど、少女はそんな事お構いなしに……。

 

「アタシは嫌いだ。歌なんて……大っ嫌いだ!」

 

震えながらカウンターを叩く少女、その瞳に強い怒りを宿した少女はお好み焼きが出来上がる前に立ち上がり、店から出ていった。

 

…………えっと、もしかしてこれ、俺が処理するの?

 

店長から店を任され、お好み焼きの焼き方もマスターし、何気にお客様に初めて差し上げる事になったお好み焼きは自分のお腹にそのまま入る事になった。

 

………お仕事って、大変だなぁ。

 

 

 

 




久々の更新。
次回も此方の話を進めたいと思います。

……多分。

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