それ往け白野君!   作:アゴン

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サヨナラのカウントダウン

 

 

 

 

 海鳴総合病院。海鳴市の中で最も大きく人々に利用されている施設、そこで自分こと岸波白野は個室待遇で絶賛入院中である。

 

あれから気絶した自分は事後処理などを他の皆に押し付けて即搬送。結界も解け、無事に街をそしてユーリを助けた自分は入院先のここ海鳴総合病院で医師の先生に診断……というか、一目見られた瞬間。

 

『即刻、入院して下さい』

 

と、その場で即時入院を言い渡された。因みに連れてきたのはセイバーとアーチャーで、目を醒めた自分は二人に退院を申し出たのだが……まぁ、もの凄い剣幕で怒られた。

 

そんなに酷いものだろうか。確かに腹が空いたりして一時は死ぬ思いをしたが、一番大きかった怪我が魔法で治癒され、後は助骨に皹が入った程度なのに……その事が不満で、後日見舞いに来てくれたなのはちゃん達に零してしまったら……。

 

『それ、本気で言ってるんですか?』

 

と、引かれた感じで睨まれた。なんというか、あの日からなのはちゃんやフェイトちゃんが矢鱈自分を気遣う素振りが増えてきたような気がする。この間もよく自分の体調に関してよく聞かれた。

 

まぁ、知り合いが入院しているとなれば、優しい彼女達が気にするのも自然な流れかもと思う。

 

そして入院している最中、バイト先の喫茶翠屋から士郎さんと桃子さんも来てくれた。結局バイトを休みがちですみませんと謝れば、そんな事よりも早く良くなれと士郎さんから激励とお叱りの言葉を頂き、桃子さんからは彼女直伝のシュークリームも頂いてしまった。

 

ホント、お二人には何から何まで世話になってばかりで頭が上がらない。その後も恭也さんや美由紀さんもお見舞いに来てくれた。

 

セイバーやアーチャーも頻繁に来てくれたしキャスターに桜、ギルガメッシュも来てくれた。

 

……ギルガメッシュの方は冷やかし気味だったけど。

 

 レヴィちゃん達マテリアルズとフローリアン姉妹であるアミタさんとキリエさんは今の所ウチのマンションに下宿という形で仮住まいをさせている事をアーチャーから聞かされた。

 

アーチャーは喧しくて適わんと嘆いていたが、口で言うほど嫌っていた様子はない。寧ろ世話焼きな彼としてはさほど苦手な状況ではないのかもしれない……プレイボーイだし。

 

ギルガメッシュも彼女達に手を出すのではないかと内心不安だったが、どうやら彼は今別件で忙しいとのこと、なんでもドラマの最終回の打ち合わせがあるとか。

 

アイツ、株だけでなくそんな事もしていたのか。流石はこの世の悦を極めた男。やることが一々凡人を超えている。

 

キャスターはセイバーと組んで仮入居のレヴィちゃん達相手に熾烈な戦いを繰り広げているとか。桜が言うには何でも自分の部屋に興味を持ったレヴィちゃん達が、キリエちゃんに煽動されるがままに毎回突撃を仕掛けているらしい。

 

キリエちゃんも大人ぶってはいるが、実はお茶目な性格らしい。毎回二人に沈められているキリエちゃん達を回収してはアミタさんが謝り通して形見を狭くしているらしい。

 

そこに自分がいないことに僅かな寂しさを感じるのは……やはり、自分も人の子だという事なのだろう。

 

 そしてそんなこんなで入院生活が始まって早一週間。そんな皆の毎日のお見舞いのお陰でどうにか退屈を凌いでいた自分、岸波白野だが一つ、ただ一つだけ不満があった。

 

別にお見舞いに来てくれる皆に不満がある訳ではない。寧ろ良く毎日来てくれるものだなと関心してしまう程だ。

 

────けれど。一人だけ、見舞いに来ない人がいる。

 

ユーリ。あの事件から既に一週間も経過しているのに今まで一度たりとも自分の所に顔を見せに来てくれていない。

 

まだ、あの時の事を気にしているのだろうか? 既に完治した腹部をさすりながらそんな事を考えていると……。

 

“コンコン”と病室の戸を叩く音が聞こえてきた。もしかしてユーリが来てくれたのだろうか? 戸をもう一度叩いてくる外の人物に期待を込めてどうぞと入室を許し、それと同時に病室の扉が開かれる。

 

そして、部屋に入ってきた“彼女達”に自分は絶句した。対する見舞い人の片割れはそんな自分の反応がおかしくてクスクスと笑っている。

 

「ウフフ、予想通りの反応ね白野。相変わらずアナタのその顔は私をゾクゾクとさせてくれるわ」

 

「あ、あの、急に押し掛けてごめんなさいごめんなさい」

 

 身を震わせている少女に対し、もう片方の少女は何度も頭を下げ、その巨峰をこれでもかと揺らしている。

 

きっと、今の自分は彼女の言うとおり間の抜けた顔をしている事だろう。だがそれは無理もない。─────何故なら。 

 

「こうして面と向かって合うのは久し振りね白野。アナタのリリスが帰って来たわよ」

 

「め、メルトばかり狡い。わ、私の事も覚えてくれてますよね? ね?」

 

画面越し、しかも基本的に電脳世界からは出られない筈のメルトリリスとパッションリップ。ムーンセル(仮)を守護する超高性能AIが、現実に、形となって自分の目の前に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時空管理局本局。 それはその名称通り次元を守護する管理局の総本山。

 

嘗て、その管理局の基礎基盤から立ち上げた三人の人間が存在した。次元の海を、世界を守る為に永きに渡って戦い、一線を退き、肉体を捨て、脳だけとなった今でも『最高評議会』となる管理局の裏の支配者として世界を管理局を通して見守ってきていた。

 

しかし、そんな彼らの志も年月と共に廃れ、やがてそれは歪な形となって世界に悪影響を与えていくのを、彼等は理解してはいても自覚はしていなかった。

 

全ては次元世界の平和の為。そこに最早人間らしい感情は差し込まず、ただ目的の達成だけを望む彼等はまるで悪夢を製造する『機械仕掛けの神(デウス=エクス=マキナ)』

 

『スカリエッティからの連絡はどうした?』

 

『分からん。奴が無人世界で研究を続けているのは確からしいが、一向に連絡を寄越さない』

 

『だとしたら、まさか別の要因が介入したか、もしくは実験事故に巻き込まれたか……』

 

『それは困る。禁断の果実にまで手を出して漸く作り上げたサンプルだぞ。もっと有効的に動いてくれなければこれまでの時間は全て無駄になってしまうではないか。“ゆりかご”の事もある。早急に奴の所に使者を送り込むことを提案する』

 

 それは、凡そ人の会話とは思えぬ内容だった。自分達の野望の為に生み出した彼を部品扱いと見なし、もっと役立てと命令している。

 

幾度もなく繰り返してきた大小の切り捨て、それを心が痛まなくなってきた頃に彼等が抱く思いは──────。

 

“世界を守る”こと、既に彼等の対象はそこに住む命ではなく、世界そのものとなっていた。

 

どんな悲劇が生まれようと、どんな憎悪が連鎖されようと、世界が無事であるならそれで構わない。

 

ただ世界を守ることだけに全てを費やしてきた最高評議会。そんな彼等の元に……。

 

『突然の出張もなんのその! 遂にやってきました皆さん待望の! BBぃぃぃ……チャンネルゥゥゥゥ!!』

 

無邪気な悪意が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ハクノ。リンゴを剥いたわ。口をあけなさい」

 

 綺麗にリンゴを剥き、食べさせてくれるよう差し出してくるメルトリリス。何故彼女とリップがここに、しかも形として目の前にいるのかは未だに混乱している為に理解出来ないが、一つ言いたい事ができた。

 

あの、すみませんメルトリリスさん。流石に丸ごとはキツイッス。

 

「あら? 折角この私がワザワザ剥いてあげたと言うのに……泣くわよ?」

 

寧ろ俺が泣きそうです。いきなり現れて自分を挟むように座ったかと思えば、いきなり果物を剥き始めるとか……。

 

いや、別にそれ自体は悪いことじゃないよ? どちらかと言えばメルトリリスの様な美少女に剥いた果実をアーンとかして貰えたら嬉しいに決まってるよ?

 

けどさ、いきなりメロンをそのまま口にねじ込もうとするのはどうよ? 皮を剥いたからってアレは丸かじり出来るような代物じゃないでしょ? 無理だといったら今度は西瓜を寄越してくるし。

 

何度もツッコんだ挙げ句、漸く分かってくれたかと思ったら今度はリンゴと来た。いいかいメルトリリス。こういう時、果物を剥くときは一口サイズに切り分けて上げる事が優しさというモノだからね?

 

「そんなハクノ、突っ込むだなんて……こんな真っ昼間に、流石の私もまだそこまで手慣れてはいないわ。寧ろ未体験よ。そんな幼気な少女を昼下がりのこんな時間にこんな所で誘うなんて……この野獣」

 

 ……なんだろう。こうして面と向かい合って自分と話し合ってくれていることに余程テンションを上げているのか、メルトリリスの言っている事の大半がワケガワカラナイヨ。

 

「あ、あの、先輩。これ、食べて下さい」

 

そしてコッチのリップはその握力で果物を粉微塵に握り砕いている。……うん、病院患者には擦りリンゴが定番だけど、これ擦りを通り越して半分液体化しているよね?

 

 満開の花の様な笑顔と共に差し出してくるリップの手には、その中心に微かな果肉を残して汁をボタボタと滴り落としている。

 

試しに頂いてみると……うん、蜜とかが全部流れ出ているからスッカスカで何も旨味も感じない。

 

 要努力しましょう。口には出さずに彼女の頭を撫でている自分の顔は、きっとなんとも言えない微妙な表情となっていた事だろう。

 

…………さて、茶番はここまでだ。メルトリリス。話してくれるよな?

 

「あら? 何を聞くつもり? 生憎私の秘密は全て貴方に知られてしまってよ?」

 

なんて、軽くおちゃらけて見せるメルトリリスに自分は再度問うた。教えてくれと。

 

すると、今までふざけた態度から打って変わり、果物ナイフとリンゴを横のテーブルに置いたメルトリリスは少し真剣な表情となって自分を見据え。

 

「……戦闘機人よ」

 

────っ!

 

その言葉に、少しドキリとした。が、同時にやはりと思った。

 

今、彼女たちは肉体を得ている。戦闘機人という半機械と化した人工の肉体を器にして。

 

だからメルトリリスにはあの鋭利な脚部は無いし、リップの腕はあの全てを破壊してしまう手がない。

 

どちらもごく普通の人間と同じ、柔らかそうな素肌を晒した手足があった。

 

だから、なのだろうか。彼女たちの女の子らしい姿に戦闘機人と聞いても怒りや驚きなど湧かず、寧ろ嬉しさが込み上がってきたのは。

 

「全く、嬉しそうに頬を緩ませちゃって、折角脅し文句を用意したのに台無しじゃない」

 

そうは言っても、メルトリリスも嬉しそうに頬を緩めているように見えているのは自分の気の所為だろうか?

 

リップも恐る恐る自分の手を触れてははにかんだ笑顔を見せてくれるし、今日の入院時間はとても有意義に過ごせたと思う。

 

けど、だからこそはっきりさせなくてはならない。そんな戦闘機人の技術を一体どうやって手に入れたのだと言うのだろう?

 

すると、メルトリリスは自分のその疑問に溜息を漏らしながら口を開き、技術使用の経緯を説明してくれた。

 

「…………BBよ。アイツが私達に貴方の護衛としてこの体をつくり上げる為に管理局と交渉したの。今回の事件の手柄を全て差し出す代わりにスカリエッティの持つ戦闘機人の技術を全て寄越しなさいとね」

 

……何故だろう。メルトリリスからその話しを聞いて管理局の人達に平謝りしなくてはならない気がしてきた。主にクロノ君やリンディさん辺りに。

 

 技術ってことはその為の資材なんかも必要になってくるだろうし、その資材はきっと違法な手段と経緯で持ち込まなければならないだろうし……。

 

うぅ、胃が痛い。また自分に犯罪王の経歴が増えてしまったような錯覚に苛まされていると……。

 

「さて、それでは本題に入りましょう。ハクノ、一週間後、私達は跳ぶわよ」

 

は? 跳ぶ? 一体何処に? そんな疑問を浮かべた自分の顔は先程以上に間の抜けた顔をしているのだろう。メルトリリスが呆れた様子で溜息を吐いている。

 

「決まっているでしょ。次の世界に向かう為の準備よ」

 

その一言に、自分の頭にハンマーで叩かれた様な衝撃が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に、良いのか?」

 

「構いません。既に、私はあの人の手によって救われている」

 

「……ごめんなさい。私達の我が儘の所為で」

 

「いいえ、謝罪は必要ないです。私のこの力、あなた達の為に使われるなら、本望です。それに、私は一人ではない。それが分かっただけでも十分です」

 

「じゃあ……」

 

「はい。私は──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────彼等と一緒には、行きません。

 

 

 

 


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