それ往け白野君!   作:アゴン

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今回で漸く名のは編のバトルは終了。

少々クドくなりましたが最後までご覧ください。


岸波白野の怒り

 その違和感に最初に気付いたのは高町なのはだった。

 

その事に気付けたのは管理外世界という魔法とは一切の関わりを持たない世界でありながら、稀有な潜在能力の持ち主であるが故なのか……それとも、彼女が日本という国で育ったお陰なのか定かではないが……。

 

(何だろ……これ、魔力が────全然減らない?)

 

 世界が物質世界に移り変わった時から、森羅万象全てが有限へと変わった。物を食べれば腹が膨れる代わりに食べ物は減り、物を使えば物資は減る。

 

動物も弱肉強食、生態系に乗っ取りそのサイクルを守っていた。食べて、肥えて、増えて、そして死に……亡骸は土へと還って新たに生まれてくる動植物の糧となる。

 

それは生命の根幹を成すモノ。決して覆る事のない真理。それは、まだ弱冠10歳の幼子でも何となく分かる事だった。

 

 魔力とてそれは例外ではない。基本的にこの世界の人間は先天的にリンカーコアという魔力を生み出す器官が備わっている。無論、無限に生み出す訳ではないし、成長に従って生産される魔力は増えるが……それでもその人によってその魔力量は大きく作用される。

 

高町なのは……彼女は確かに幼子とは思えないほどの魔力量を有している。が、それでもやはり限界は存在しており、使えば使うだけ彼女に掛かる負担は大きくなる。

 

それがこの世界の常識、それがこの世界の理。

 

だというのに、その理が音を立てて崩れるのを誰もまだ気付きはしなかった。

 

────否、一人、その事実に勘付いた者が一人だけいた。

 

「……チッ、女狐め、本性をさらけ出したか」

 

 隣の宙で浮かぶ黄金の帆船に座っていた男が、不機嫌そうにそう洩らしながら舌打ちを打つ。

 

「あ、あの、何かあったのですか?」

 

つい男の愚痴を耳にしてしまった為、なのはオズオズと男に訊ねる。苛立ちを明確に顕わにしている男に問いかけるのは気が引けたが、そこは彼女の性というべきか……困った性分である。

 

ジロリと視線を向けてくる男────ギルガメッシュに高町なのはは息を呑む。気の所為か、目の前の巨人と戦うよりもこの男と対峙した方がよほど肝が冷える。

 

そんな緊張しきったなのはを余所に、ギルガメッシュは興味なさそうに視線を外す。

 

「些末な事だ小娘、どこぞの駄狐が怒りで我を忘れているだけの話よ。お陰で中々愉しめそうな縛りプレイがとんだヌルゲーになってしまった」

 

「は、はぁ……」

 

「そうさな。分かり易く言えば最初から無限バンダナでヒャッハー言いながらロケランをブッパしているような……そんな感じだな」

 

「え、えっと……」

 

 分からない。高町なのはには目の前のAUOの言っている事の殆どが理解出来なかったが、それでも何となく理解した事がある。

 

この王様気取りの人は途轍もなく俗世に嵌まっている。先程まで怖くて苦手な印象が別の意味で苦手になった瞬間だった。

 

「どちらにせよ、随分詰まらぬ真似をしてくれたものよ。これでは我の気が萎えるというものよ、全く、KYな狐め。我が雑種は何をしていた」

 

頬杖を尽きながら理不尽な悪態を付いているギルガメッシュに、なのははツッコミせず、静かに目の前の敵を見定めた。

 

これ以上この人に関わるのはよそう。自分から話し掛けておいて何だが、これでは話が進まなくなる気がする。

 

と、そんな時だ。

 

「なのは嬢! そっちに行ったぞ!」

 

「っ!」

 

遠くから聞こえた来たアーチャーの声になのははすぐさま反応する。向かってくる歪の巨人、その触手となった右腕を振り上げて此方に向けて放ってくる光景になのははギルガメッシュの前に出て魔力による障壁を展開する。

 

そしてその際、魔力を消費して行使する術を使った事でなのはは感じていた違和感に確信を持つことが出来た。

 

(やっぱりそうだ! これだけ魔力を使っても全然減らない。ううん、“尽きる気配がない”)

 

以前、闇の書事件でリンカーコアから魔力を抜き取られる感覚を体験した事のあるなのはは、自身の魔力消費加減に敏感になっていた節があった。

 

物事には何事も限界がある。もし全ての魔力が枯渇するまでリンカーコアを酷使していたら、それこそ身体に影響が出るほどの事態になるだろう。

 

だが、今はそんな気配すらない。今までならそろそろ疲れが出始めて苦戦を強いられる頃だというのに、全くそんな様子はない。

 

まるで自分の体に何か────とんでもなくドデカい魔力タンクがあるような。そんな錯覚すら覚えたなのはに………。

 

「下がれ小娘、王の前に立つのは刎頸に値するぞ」

 

突如、目の前に現れた巨大な壁に伸ばされた触手が一刀の下に両断された。

 

『グゥォォォォォッ!?』

 

「─────へ?」

 

壁の向こうから巨人の断末魔が聞こえてくる。訳が分からないなのはは恐る恐る振り返りながら男を見る。

 

男は、何もしていなかった。先程とは何も変わりなく、退屈そうに頬杖を付いて溜息をこぼしているだけ。

 

一体何だろう。不思議に思ったなのはが目の前の壁から少しばかり距離を開けると……。

 

「─────!!」

 

それは、一振りの剣だった。あまりにも巨大、剰りにも頑強、巨人と同等の大きさを誇る剣と呼称するであろう物体に、なのはは開いた口が閉じれなかった。

 

「斬山剣。山をも切り裂く大剣よ。貴様如き汚物など、この一振りあれば充分よ───だが」

 

そう言って、英雄王は腕を横に振るう。するとその動作に合わせるように巨大な剣が光の粒となって消えていく。

 

「貴様には、その程度では赦されん。あの雑種が珍しく怒りを顕わにしたのだ。このような好機、見逃す手はない」

 

 粒子となって消えた剣の先には腕を切断されてうずくまる巨人の姿があった。

 

そして、その足下には────。

 

「さぁ、往けよ雑種、貴様の娘を取り返す時だ」

 

光の剣を片手に、巨人に向かって走り抜ける岸波白野の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に突如現れた馬鹿デカい剣を前にして、やや呆けていた自分はすぐに我を取り戻して目の前の巨人に向かって駆け出した。

 

皆が巨人を相手に足止めをしている今が好機、皆の攻撃にすっかり気を取られている巨人の足下へ駆け寄っていく。

 

 キャスターの姿はない。あれから宝具を解放した後、微笑の笑みを浮かべながらどこぞへ消えてしまっていた。

 

何やら嫌な予感がヒシヒシと感じるが……まぁ、彼女の事だ。無事である事は間違い無いだろう。

 

それよりも、問題はここからだ。巨人のすぐ近くまで近付けたのはいいが、今度はコアのある胸元までどうやって辿り付くべきかだ。

 

本当ならギルガメッシュの黄金帆船ヴィマーナですっ飛ぶのが一番手っ取り早いのだが……そのギルガメッシュは今巨人の攻撃を避けるのに忙しそうだった。

 

無造作に飛び込んでくる触手の槍を、ギルガメッシュは黄金帆船を意のままに操り、航空隊も真っ青なトンでも軌道で避けまくっている。

 

 あれではギルガメッシュも此方に気を向ける程の余裕はないだろう。……いや、あるにはあるだろうが今はあの触手攻撃を避ける事に悦を見出しているから、どちらにせよ今は彼の力を借りる事は出来ない。

 

ではなのはちゃん達に協力して貰うか? ……いや、走りながら戦場を見渡して気付いたが、どうやら巨人はあれから更にその姿を変えて触手の数は倍の倍。何百、何千もの触手が彼女達に向かって襲い掛かっている。

 

誰も彼も自分の事で手一杯のようで、とても頼める状態ではない。

 

そんな中何故自分が無事なのか……恐らくは巨人の防衛本能が自分は脅威に値しないと判断しているからなのだろう。

 

別にそれは構わない。自分がここまで来れたのは皮肉にも巨人の防衛本能が正常に働いているお陰でもあるのだし……。

 

だが、好い加減困った。ユーリの事も心配だし、早い所決着を付けたい所だが……。

 

────いや待て、あるぞ。コアに辿り付くまでの秘策が。

 

今自分の手にあるモノはなんだ? かの星の聖剣であり騎士王の宝剣である“約束された勝利の剣”だぞ。

 

それに、それだけではない。自分には出来た後輩から渡されたとっておきの代物があったじゃないか。

 

 ……イケる。分の悪い賭だが、それでもやってみるだけの価値はある。後は自分の覚悟と技量次第。

 

手にした聖剣と携帯を手に、自分はユーリ奪還の最後の作戦を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は……呪いだ。人の悪意から生まれ、憎悪をされる為に生まれ、死と破滅を撒き散らす為だけに生まれた────災厄の種。

 

憎まれて初めて私の存在意義が定着する。破壊する事で私がここにいる意味があった。

 

憎まれて疎まれて、蔑まれて罵倒されて、悪意という名の泥に塗まみれて……いっそ、心が壊れてしまえばと、何度も願った。

 

────けれど。

 

「は……クノ」

 

 例え世界が私を憎んでも、全ての人が私を恨んでも、生きていたいと願う自分がいる。

 

浅ましくと思いながらも、それでも生きたいと想う自分がいる。

 

───力が、入らない。声も……… 出ない。

 

恐らくは先程からずっと力を吸い上げられていた影響なのだろう。声どころか、今はもう瞼を開ける事も億劫だ。

 

だけども、私は声を上げる。無駄だと頭の中で囁いていながら、それでも諦めたくないと強く思っている自分がいる。

 

“諦めない”ボロボロになっても、血だらけになっても、ただ一つ事の為に一生懸命になれる。そんなあの人のような姿に憧れて────。

 

「助けて! ハクノぉぉぉ!!」

 

私は、もう一度叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユゥゥゥゥリィィィィィ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────ああ、やっぱり。

 

私の父親は、どうしようもなく非力だけど

 

どうしようもなくカッコいいな。

 

あの時、暗闇で魅せた光と共に、私は暖かい腕の中に抱かれるのを感じながら、完全に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コアに無事到着。磔の様にくっ付いたユーリのすぐ側に聖剣を突き立て、彼女を抱き寄せて回収。見事、巨人からユーリの奪還に成功した。

 

いや、もうホント割と危ない賭けだった。下手をしたら地面に叩きつけられて潰れたトマトの出来上がりになっていた。

 

再度聖剣を貸してくれた騎士王に内心で感謝する。

 

 騎士王の聖剣、“約束された勝利の剣”から放出される莫大な魔力光を噴射代わりに利用し、コアまで一気に駆け上がる。

 

途中の軌道修正は礼装スキルの“空気撃ち一の太刀”を併用する事でどうにか可能とし、ぶつかる際の衝撃吸収材としても使用する事が出来た。

 

と、まぁ、即興で出来上がったネタとしては 中々で、結果としては上手く行ったと思う。……だが、ここで新たな問題が発生した。

 

────ここから、どうやって降りよう。

 

いや、もうね。そこまで考えが纏まって無かったというか、そこまで考える暇が無かった為、ここからどうやって脱出するか、頭をフル回転させてもトンと思い付かなかった。

 

いっそのこと飛び降りるか? 半ばヤケクソとなった自分の思考に横から現れる赤い外套の男、アーチャーによって遮られる。

 

「無事かマスター!」

 

跳んでくるアーチャーに大丈夫だと返答しながら彼の方に向かって飛び降りる。一瞬大丈夫かと不安に思うがそこは流石の英霊、地上50はあるだろう高さを、自分とユーリを抱えながら難なく着地。

 

自分とユーリを地面に降ろし、自分がユーリを抱えていると、アーチャーは深々と溜息を吐き出した。

 

「全く、相変わらず突飛な無茶をするなお前は。────しかし、まさか“約束された勝利の剣”を噴射代わりに扱うとは……贅沢というかなんというか、本人に知られたら怒られそうだな」

 

呆れた様子でそんな事を言うアーチャーにうっと息を呑む。そうだよな。幾ら温厚そうで理解のありそうな騎士王でも流石に今の使い方は拙かったよな。

 

今でも自分の手の中にあるのが嘘のようだ。今度、何かお礼した方がいいのかな? でも、どこにどうやって?

 

『お握りを四十個程所望します』

 

「何だ今の!?」

 

「────ん? どうしたマスター?」

 

何故か今一瞬奇妙な空耳を聞いたような気がした。突然声を大にして叫ぶ自分をアーチャーが訝しげに訊ねてくる。

 

何でもないと言いながら、何とか誤魔化すと、ふと、ある事が思い浮かんだ。

 

攻撃が………止んだ? 先程まで巨大な要塞の如く触手よ攻撃を繰り広げていた巨人が、今は嘘のように静まり返っている。

 

もしかして、ユーリを救出した事で動きが止まったのか? だとすれば事態も収拾が付いて一石二鳥なのだが……。

 

「……いや、どうやらそう上手く事は運ばんらしいぞ。見ろ、あのゲテモノ怪獣、まだ変異を遂げようとしているぞ」

 

『うぐ、ガ、アァァァァ……!!』

 

アーチャーが言うやいなや、突然巨人は呻き声を上げながら先程のような変異を開始した。

 

その様はアーチャーの言うように、それは最早人の形を象ったモノではない。ただ命を無作為に貪るだけの……ただの怪物に成り果てていた。

 

しかし解せない。コアであるユーリを救出した今、あの腹黒眼鏡………クアットロはあの力事態保てないはずでは?

 

だが、そんな自分の疑問とは裏腹に目の前の怪物の胎動は大気を震わせながら尚もその姿を膨張させていく。……一体、どういう事なのだろう?

 

「いや、恐らくはそんな大した話ではない。ユーリの状態を察するにどうやら奴はユーリの魔力、或いは生命を限界ギリギリまで吸い上げたのだろう。ならば、その内に秘められた魔力量は膨大だ。それこそ、無限に等しくな」

 

アーチャーの補足説明に成る程なと納得する反面、自分の中にある何かが“プッツン”した音が聞こえた。

 

……そうか、目の前のあの肉塊はユーリの魔力だけでなく、その命をも吸い上げたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────フザケるなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター?」

 

抱き上げたユーリをアーチャーに手渡し、俺は肉塊に向かって一歩前に出る。

 

 自然と、聖剣を握った手に力が籠もる。聖剣もそんな自分に呼応して刀身が更に輝き出す。

 

「マスター、気持ちは分かるが……いや何でもない。お前がそこまでユーリを想っているのなら……その想い、歪ませるなよ?」

 

後ろから聞こえてくるアーチャーの溜息混じりの忠告に頷く。分かっている。恐らく今の自分は嘗て皆に見せたことのない顔をしているのだろう。

 

だが、それでもどうしても許せなかった。ユーリをあそこまで追い詰めた目の前の肉塊が……どうしても許せない。

 

あの時は彼女を助ける為だった。けれど、今は目の前の肉塊を消す為だけに奮おうとしている。こんな今の自分の姿を見て、騎士王は果たしてこの剣を振るう事を許してくれるだろうか。

 

『是非もなし』

 

 ……何だか、親指を下に向けた騎士王を幻視した気がした。先程の幻聴といい、どうやら今までのダメージの所為で上手く頭が働いていないようだ。

 

早い所決着を付けよう。キャスターの宝具の効果が切れる前に、なんとしてもケリを付ける!

 

『■■■■■■■■■■■■■■!!』

 

遂に、言語能力すら失った肉塊が自分に向かって突進してくる。その様は自分ではなく、失ったコアであるユーリを求めて蠢いているようにも見えた。

 

だが、それはさせない。手にした聖剣を掲げ、俺は迫り来る肉塊にただ一動作だけ。

 

「“約束された─────勝利の剣”!!!」

 

星の聖剣をただ振り抜くだけだった。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!?』

 

光の帯が、肉塊の断末魔と共に押し退けていく。切断されながらも退けていく肉塊は街のビル街を抜け、肉片をブチ撒けながらその身を海に沈んだ。

 

シンッと辺りの空気が静まり返る。当然だ。街を両断する程の斬撃が肉塊を押し退けたのだ。なのはちゃん達が驚くのも無理はない。

 

だが、申し訳ないが弁解は後でやる事にしよう。未だ消える様子のない聖剣を携えながら溝となった公道の上を歩く。

 

 バシャバシャと大きな水しぶきを上げながら肉塊は立ち上がる。やはりまだ完全には消せていないかと苛立ちを覚えながら再生しようとすゆ肉塊を睨みつける。

 

ふと、視界の端に黄金に輝く帆船が入ってきた。見るとヴィマーナの玉座に座る英雄王が珍しい物を見たようにその表情を愉悦に歪ませている。

 

まぁ、彼の事だ。「あの雑種が怒りに身を任せてマジ愉悦!」とでも考えているのだろ。

 

だが、今はそんな彼の考えている事まで考えている余裕はない。興奮した所為かシャマルさんによって塞がれた筈の傷がまた開き始めていた。

 

益々時間を掛ける訳にはいかない。ビル街を出て岸へと立ち、起き上がる肉塊を前に再び剣を掲げる。

 

 俺は、存外狡い人間なのかもしれない。借りた力でしか戦えない癖に、それを利用して一人で戦おうとしている。

 

うん、自分で言って思ったが碌な人間じゃないな。人様の力を拝借して我が物顔でいるなど……そんなもの、目の前の肉塊と何ら変わりないではないか。

 

まぁ、その事はおいおいアーチャー辺りにも鍛え直して貰おう。

 

─────今は。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!』

 

目の前の汚物を、早急に消してやる事だけを考える。

 

迫り来る汚物を前に、俺……岸波白野は振り上げた聖剣を───────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

 

 

 

 

何度も何度も、打ち付けるように振り下ろした。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■!!!??』

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

まだ肉塊の声が聞こえてくる。やはりまだ完全に消滅させるには程遠いのだと実感しながら、俺一心不乱に聖剣を振り下ろす。

 

 

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

『ちょ、ま、やめ……!!』

 

 何やら命乞いの声が聞こえてきた様な気がしたが、気の所為だろう。これではまだ足りないと俺はなりふり構わず聖剣を振るう。

 

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

『………………………』

 

 

とうとう断末魔も聞こえなくなってきたが、念には念を押し、ところ構わず聖剣を降り続けた。

 

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

「“約束された勝利の剣”!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

そうして幾分の時間が経ち、キャスターの宝具の効果が失ったと同時に、自分の手から聖剣が光の粒となって消えていった。

 

……手応えはあった。無限に等しい魔力を内封していた肉塊も、今は完全に姿を消している。嫌な空気も見事に消え失せているし、結界の中だというのに、不思議と空は青くなっていた。

 

心が軽くなった気持ちだ。今までの鬱憤は見事に晴れ渡り、気持ち処か体まで軽くなった気がする。

 

まぁ、リアルに減ってるけどね。主に血と肉が。そんなブラックジョークを言える位、岸波白野の心中には余裕が生まれていた。

 

ただ一つ、不満があるとすれば………。

 

「「「…………………………」」」

 

マテリアルズを含めたなのはちゃん達の自分を見る目が、とても痛々しかった。

 

──────うん、やっぱりやりすぎたか。自分の背後に映る変わり果てた海鳴の海を見て、はっちゃけた自分を戒めるのだった。

 

あとそこのAUO、何度も言うけど人を指差して笑うな。好い加減泣くぞこら!

 

そんな自分のツッコミを皮切りに、自分達の間に笑い声が響きわたった。

 

………あぁ、今日はやたら疲れた。ユーリも戻ってきた所だし、今日はもう帰るとしよう。

 

「うむ、奏者よ。今日は誠に大儀であった。余に捕まるといい。それぐらいは特に許すぞ」

 

駆け寄ってきたセイバーに凭れ掛かりながら、自分は皆と共に帰路に着く。

 

その際、アーチャーに抱き抱えられていたユーリが目を覚まし、自分を見ると。

 

「……ただいま。ハクノ」

 

────おかえり、ユーリ。

 

ああ、やっぱり。ウチの娘は笑った顔が一番綺麗だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………い、一体何だったのよあの化け物は!!」

 

 岸波白野達とは別の場所にある海岸。這うように道路沿いの歩道を歩く一つの影。

 

戦闘機人のNo.4……クアットロ。戦闘能力は他のナンバーズと比べて低い彼女だが、その分高い知能による情報戦が得意だった。

 

実際、途中までは万事上手く行っていた。岸波白野の奪取、加えて“砕け得ぬ闇”の完全支配下。敢えて暴走を起こさせる事で余計な不安材料を一掃させる狙いだった彼女は、あまりにも事が上手くいきすぎている事実に笑いを堪えるので必死だった。

 

 だが、そこまでだった。彼女の目論見は悉く外れ、遂には“砕け得ぬ闇”を取り逃し、今はこうして合流ポイントへオメオメと逃げる始末。

 

「このままでは済まさないわよ。人間!」

 

今一度、クアットロは自分をここまで追い詰めた白野に対して復習を誓う。“砕け得ぬ闇”という獲物は逃したが、代わりにそこから奪った魔力はまだ自分の体の中に渦巻いている。

 

忌々しい岸波白野に半分以下も減らされたが、ダミーの肉塊を用意した事で今頃奴らは自分は完全に死んだものだと思い込んでいるだろう。

 

「精々つけあがっていろ。私達が戻ってきた曉には今度こそ全員なぶり殺し────」

 

「いざや散れや、常世咲き裂く怨天の花……ヒガンバナ───セッショウセキ」

 

「っ!?」

 

 瞬間、自身の胸の辺りを何かが貫いた。

 

衝撃に耐えられず、地面を跳ねるクアットロ。何度も地べたを転がり、震える腕を支えに起き上がり、前を見ると─────。

 

「何処へ往く気じゃ? もしや、其方から仕掛けておいてオメオメと逃げ帰る気ではあるまいな?」

 

「ひぃっ!」

 

狐。そこには、尾を“七つ ”に分けた妖狐が目の前に現れていた。

 

彼女からの発せられる妖気、いや、禍々しくも神々しい“圧”に、クアットロは一瞬自分の心臓が止まったのを感じ取った。

 

────化け物。先程まで戦った連中も充分化け物だと分かってはいるが、目の前の存在はソレに輪を掛けて化け物である。

 

「い、いや!」

 

瞬間、クアットロは迷わず“逃げ”の選択をとる。自身のダメージなどなりふり構わず立ち上がり、すぐにこの場から逃げ出そうと走り出すが……。

 

「ヘグゥッ!?」

 

脚が凭れ、クアットロは顔を地面へと殴打する。訳の分からない状態。恐怖で足が竦んだのかと彼女は自分の足下を見るが……。

 

「…………え?」

 

その瞬間、彼女の思考は凍り付く。何せすぐそこにあるはずの自分の足が“溶けて無くなっている”のだ。

 

その事実を理解した時、彼女は叫び声を上げるよりもまず手に入れた魔力で治癒を施した。

 

術式もなにもない。ただ魔力治そうとしている無茶苦茶なやり方。だがそれでも、そこいらの治癒魔法よりも早く治せる程の魔力量を彼女は有していた。

 

しかし─────。

 

「なんで、どうして!?」

 

これでもかと魔力を注いでいるというのに、体の融解は止まらない。自分の体に何が起きているのか分からず、不安と恐怖に駆られた彼女に……。

 

「聞いた話によれば、主は無限にも等しい魔力を有しているそうではないか。ならば───」

 

『無限に呪われ続けるがいい』

 

「───────ひっ!」

 

 その瞳、その声、圧倒的死を前にした彼女の選択は一つだけだった。

 

“死にたくない”その戦闘機人でありながら生命に縋る彼女は、地を這い、それこそ死に物狂いで逃げを選択した。

 

「アッハハハハハハハ!!」

 

背後からの近付いてくる声を耳にしながら、クアットロは這い続ける。

 

「嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁ!!」

 

振り向かない。一度でも振り向いたら今度こそ殺される。一歩ずつ近付いてくる死を前にクアットロは必死の形相でボロボロに成りながらも逃げ続ける。

 

と、そんなときだ。前から現れる新たの影にそれまで絶望していたクアットロの表情が途端に明るくなる。

 

「う、ウーノ姉さま!」

 

漸く現れた援軍に、クアットロは破顔の笑みを浮かべる。これで助かったと、これでドクターの元へ帰れると、目の前に現れた姉が神の使いに見えたのはきっと気の所為ではない。

 

「あらあら、大丈夫クアットロ。酷くやられましたね」

 

「ウーノ姉さま! 早く! ああああの狐が来る前に早くドクターの元へ!」

 

「どうしたの? そんなに慌てて? ……あぁ、またキャスターさんの尾が増えちゃったんですか。全く、困ったお人です」

 

状況を理解していないのか、おっとりとした口調のウーノにクアットロは僅かに怒りを覚える。そんな事よりも今は一刻も早く逃げ延びる事が先決だと言うのに!

 

「いいから! ウーノ姉さま早く逃げ────」

 

待て。今、この女はなんて言った?

 

キャスター? そんな予め知っていた様な口振りは……一体なんだ?

 

汗が噴き出す。体が震え出す。頭で理解するよりも早く体が直感で解ってしまった。

 

「あらぁ? もうバレてしまったんですか? どうせならもっと楽しめば良かったのにぃ」

 

ギギギと、後ろに振り返るだけなのにがやけに重く感じる。何かの間違いであって欲しいと願った彼女の視界に映ったのは……。

 

「まぁいいです。今回の先輩の覚醒のお礼に、一つ良いことを教えて差し上げましょう」

 

赤黒く輝く、不気味な眼を細めて笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恐怖というものには、鮮度というものがあってですね♪」

 

悪魔が、クアットロの体を抱き包んでいた。

 

この日、海鳴の街から離れた場所で一人の絶叫が木霊したが、その声を耳にした者は誰もいなかった。

 

 

 

 




はい。と言うわけで白野君無双(笑)でした。

今回で一通り終わったので、後は後日談とエピローグを混ぜて次の世界に向かいます。

凛やランサー、そしてユーリの処遇も決まりますので、この後の話も楽しみにして下さると嬉しいです。

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