それ往け白野君!   作:アゴン

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相変わらず遅くてすみません。




腹黒眼鏡の策略

 

 

 

 私はDr.ジェイル=スカリエッティにより生み出された戦闘機人No.5──チンク。稼働テストの時に管理局の襲撃に遭遇したが、ガジェットと私の固有能力により何とか撃退し、右目を損傷するというダメージを受けたが、それでもその部隊全ての人員を全滅させたのはドクターにとっても、そして私にとっても大きな収穫だった。

 

後で分かった事だが、私の右目に傷を付けた男は地上本部ではSランク相当の実力者で、その者を破った事により、私の実力は魔導師ランクでSランクの上を往くというのが証明できた。

 

戦闘機人は戦う事が宿命の存在。故にこの時私は生まれた瞬間に自分の存在意義を勝ち取り、そして得たのだ。

 

ただ、全滅したと言っても殺してはいない。他の姉達が不在で戦力が足りていなかった所為か、先程のSランクの隊長格や二名の女性魔導師は培養ポッドで治療中。他の負傷した隊員達も現在は新しい基地で治療を受けている。

 

これでいいのかと思ったが、ドクターは実験体が増えたから構わないと寧ろバッチコイの姿勢だったから、私としては別に異論はない。

 

────話が逸れた。つまり、私は戦闘機人として高い能力を持っていると自負している。自慢ではない。事実を述べている。

 

私の固有能力、“ランブルデトネイター”の力と私自身の力を用いれば、恐れるモノは何もない。

 

 さて、そんな私は現在ドクターの命令の下、管理外世界の地球にある“海鳴”という街の外れで一つ上の姉であるクアットロが設置したとされる次元転移装置の防衛の任に就いている。

 

このジャミング機能も搭載した優れモノで魔力感知による探知も防ぐ事ができ、且つ持ち運びも可能な便利な代物。これを持ち運ぼうとしたり、奪おうとする輩から守護するのが、私の今回の任務である。

 

本来なら眼を完治させてからの方が良かったのだが…………まぁいい。戦闘能力にも支障はないし、私自身その程度で敵に遅れを取るつもりはない。

 

既に万全。次元転移装置の近くで息を潜めていた────その時だ。

 

「……前方から、何か来る?」

 

今、私がいるのは街の郊外にある山の森の深い所だ。森林が生い茂っているので隠れるのには容易く、侵入者に対しても見つける事は容易い。

 

そんな私の視界に映っているのは、次元転移装置に向かってゆっくりと近付きつつある三つの人影。生い茂った森林でその全貌は確認出来ていない為、視界を通常モードから暗視視界領域に変更する。

 

……数は三つ、その体型から察するに女二人男一人の少数編隊のようだ。私は静かにコートからナイフを取り出し、息を潜めて獲物に狙いを定める。

 

最初は迷い込んだ現地住民かと思ったが、彼等の無駄のない動きと真っ直ぐ此方に向かってくる事にそれはないと自分に回答を出す。

 

となれば管理局の者か、はたまた別の無所属の魔導師か……いずれにせよ、自分のやるべき事は変わりない。どこかへ雲隠れしたクアットロの分まで私が動かねば。

 

そう思ってからの私の行動は早かった。なるべく木々を揺らさず、不振な音は立てず、静かに獲物に近付く様は蛇の如し。

 

暗視視界領域に捉えられた三人は、依然として此方に気付いた様子はない。

 

(これで───終わりだ)

 

せめて、ここへ来た自分の不注意を呪え。そんな捨て台詞と共にナイフを投擲。

 

瞬間。街の郊外から爆発音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 手応えあり。周囲の木々をなぎ倒し、クレーターとなったその場を眺めて私は獲物を仕留めた確信を得た。

 

私の能力であるランブルデトネイターは投擲したナイフを爆発させるというモノ。火力の調節により人一人吹き飛ばす事など雑作もない。

 

応用力の高いこの能力の御陰で、ここへ来るはずだった三人は骨すら残さずに消し飛び、煙だけがモクモクと立ち上っていた。

 

少しやりすぎたか? ……いや、ドクターからは何をしてでも死守せよとの命令によりこの結果も予想の範疇の筈だ。それに情報の偽造はクアットロの得意とする分野だ。今の騒ぎもあと数分もすれば彼女の手回しによりなんて事はないただのボヤ騒ぎに報道されている事だろう。

 

さて、私も任務に戻るとするか。クレーターから翻し、元の位置に戻ろうとした時。

 

「中々見事な奇襲だったが……残念だったな。死体の確認をしなかったのは手痛いミスだ」

 

「!?」

 

いつの間にか、私の首筋には白い短刀の切っ先が向けられていた。そんな……何時の間に!?

 

視線を向ければ、そこには白髪に褐色肌と赤い外套の男が冷たい眼で私を見下ろしていた。

 

「さて、お主には聞きたい事がある。まずはそうさな……余の剣と情熱で塵に還るか」

 

「私の術で凍り漬けになるか……」

 

「“オレ”の剣で細切れになるか……さぁ、好きな方を選ぶがいい」

 

いつの間にか、男と一緒に消し飛ばした筈の女二人も不気味な笑みを浮かべて私の前に現れている。

 

圧倒的。ただその一言に尽きる彼等に私が抱いた感想は唯一つ。

 

何事も、調子に乗ってはいけない。私はこの事を後に生まれてくる妹達に強く言い聞かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、禁断の果実だった。

 

遙か昔、まだ時空管理局というものが正式に設立していなかった頃、争いの絶えない次元世界に三人の男はその果実に手を伸ばした。

 

太古の時代に滅んだとされる幻の異世界“アルハザード”彼等の手にはその世界の欠片が握り締められており、クローンの研究が本格的に開始され、その欠片を使用し復元させた。

 

《無限の欲望(アンリミテッドデザイア)》人の形を成した欲望は三人の男の 願い/野望 により世界に生まれ落ち、その驚異の技術と科学力により、管理局に多くの力をもたらした。────管理局が設立して暫く経ってからの話である。

 

「とまぁ、大雑把に説明したけど以上が私が生まれた経緯の話かな。どうだい? 少しは楽しめたかな?」

 

 自嘲気味に笑いながら問いかけてくるスカリエッティに自分はただ「はぁ」とだけ返すので精一杯だった。

 

いやだって、いきなり人の出自とか言われても困るし、どういう反応をすればいいのか分からない。

 

「なに、君のそれは当然の反応だ。いきなりこんな事を言われては誰だって驚くだろう」

 

何故か、ニヒルに笑みを浮かべるこの男に少しイラッとした。まぁ、確かに驚いたのは事実だし、どんな反応すればいいのか困ったのも確かだけど……ぶっちゃけ、そんな大した事でもないんじゃないかと思う。

 

「…………ほう?」

 

スカリエッティの生まれ方は所謂デザインベビー……設定された子供の事だが、そのやり方自体は自分の世界にもあったらしいし、シンジやユリウスもその生まれだと知った自分としてはそんな驚くという程でもない。

 

そして無限の欲望と言ったけど、人の欲望なんてそれこそ制限がない。豊かになればなるほど物を欲するし、逆に貧しい場合でもより強く物欲に執着するものだ。

 

何かをしたいというのも願望というし、詰まるところ人間の望みは全て欲望へと繋がっているというのも過言ではない。無限の欲望と言うのは、それこそ人類の総称の代名詞見たいなものだ。人一人が何かを望む限り、この事実は変わらないと思う。

 

「……では、何かね? 君からすれば私はそこらの人間と大して変わらないと、そう言うのかな?」

 

極論だけどね、と何故か目を見開いて驚きを顕わにするスカリエッティに自分はそう返す。

 

それに、例え本人が望んで生まれなかったとしても、生まれてしまった以上その人生はその人の物だ。例え、利用される為に生まれてきたのだとしても。

 

「…………」

 

黙り込んだスカリエッティの前に我に返る。い、一体いつから自分はこんな説教キャラになってしまったのだろうか?

 

はやてちゃんとか割とほっとけない子供と接して来たからか、どうもこんな説教癖が付いたような気がする。

 

ヤバい。この癖が治らずついクドくなってしまったら……ユーリ辺りからウザいと思われる日も近いかもしれない!

 

もしそうなったら、果たして自分は立ち直れるのだろうか。

 

突然現れた不安要素に危機と不安を感じていると……。

 

「く、くくく、ふははははは!」

 

今まで黙りだったスカリエッティが、突然腹を抱えて笑い出した。……え? どうしたと?

 

「ふふふ、いやー、笑わせて貰ったよ。まさか私をそこらの人間と同じと称する者がいたとは、彼等が聞いたら何というかな」

 

お腹を抱え、暫く爆笑していたスカリエッティはそんな事を呟きながら目尻に溜まった涙を拭った。

 

「無限の欲望は人類の代名詞……か、言われてみればその通りだ。例え造られたモノだとしても欲望を持つ限りソレは人として何の変わりもない。そんな当たり前のこと、誰かに言われるまで気が付かないとは……」

 

造られたモノでも人は人。その皮肉と矛盾の合わさった答えにスカリエッティはどこかスッキリした様子だった。

 

「ありがとう少年、君の御陰で目が醒めた。一時期は自分の在り方に悩んでいた時もあったが君のその言葉で答えを得ることが出来た」

 

まさか敵の総大将から礼を言われるとは思わなかったが、取り敢えずどういたしましてと答える。

 

何とも奇妙な空気となったが……まてよ? これはひょっとしてチャンスなんじゃないのか?

 

少なくとも向こうは敵意など感じないし、上手く説得できるかもしれない。そして更に上手くいけばこのまま拘束も解かれ、晴れて自由の身となりここから脱出できる算段も立つ。

 

そうと決まれば実行あるのみ。感激しているスカリエッティに思い切って自分を解放するよう説得を試みるが……。

 

「さて、ではそろそろ始めるとしよう。君の助言は私にとっては青天の霹靂だったが、それとこれとは話は別。私の研究の為の礎になってもらうとしよう」

 

────デスヨネー。ソンナキガシテマシタ。

 

いやもう、我ながら行き当たりばったり過ぎたな。そうだよ、折角捕まえた獲物をみすみす逃す真似なんてこの手の人間がする筈がなかった。

 

仕事とプライベートをキチンと区別する辺り、意外と律儀な人なんだなと関心する一方で、自分の置かれている状況に焦りを感じ始めている。

 

ヤバい。このままいここにいればピチピチ過激団の新メンバーにされ、センター争いに巻き込まれてしまう!

 

どうにかして脱出しなければ、だが、どんなに力を込めても枷は自分の手足を固定したまま動きそうもない。一体どうしたものか、脱出する術のない状態に本気で危機を感じた時、その声は聞こえてきた。

 

『全く、相変わらずのおバカさんなんですね、センパイ。あまり私の手を煩わせないで下さいね』

 

 扉の方から聞こえた来た声にスカリエッティが振り返ると、そこには先程部屋を後にした女秘書が呆れた表情で佇んでいた。

 

「ウーノ? どうしたのかな。もう端末の方は解析を終えたのかい?」

 

スカリエッティが女秘書の近くに寄る。何の抵抗も警戒もせず、家族に接するように近付き……。

 

『アナタですね? センパイを浚うよう指示したのは』

 

「……ウーノ? 何を言っ─────!?」

 

『気安く触らないで下さいます?』

 

ズドンと重い音が部屋に響き渡ると同時にスカリエッティは糸の切れた人形のように崩れ落ちる。秘書としての役割を担っているが、そこは戦闘機人として生まれた性能故、人一人を気絶させる程の一撃を放つ事はさほど難しい話ではないらしい 。

 

倒れ伏すスカリエッティをみむきもせず、女秘書は自分の下へ歩み寄り、再度呆れの表情を浮かべながら溜息をこぼした。

 

『全く、いつからアナタはピンチからピーチへジョブチェンジしたんですか? ホント、恐ろしい程に間抜けですねぇ』

 

罵倒混じりの一言に自分はただ済まないと返し、その通りの事を言われて苦笑いを浮かべる。

 

……ホント、君にはいつも大事な所で助けられているなBB───いや、桜。

 

そんな謝罪の言葉に、女秘書の体を手に入れたBBは一瞬だけ目を丸くした後。

 

『さぁ、とっとと帰りますよ。──────先輩』

 

優しいその笑顔を向けてくれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は、走る。

 

目的もなく、行き場もなく、当てのない道を少女はひたすら走り続けていた。

 

(私の所為だ!)

 

自分がいた所為で、多くの人が涙を流した。自分がいた為に、多くの人達が悲しみ憎んだ。

 

守護騎士達を、管制人格プログラムも、そしてその代の主達を。

 

夜天を闇に変えてしまったが為に、多くの悲劇を生みだしてしまった。そして、そんな悲劇を生みだしてしまったのが─────。

 

(私の所為だ!)

 

 アスファルトの地面が、裸足で駆ける少女の足を容赦なく傷つける。

 

自分が存在した為に、数え切れない人が死んだ。そして今回も、自分を助けてくれた人が自分の所為で捕まり、危険な目にあっている。

 

助けに行きたい。けれど、助けに行ける術が自分にはない。

 

「───あっ!」

 

大きな石に躓いた少女はそのまま受け身も取れず、勢いを乗せたまま地面を転がる。その拍子に服の一部は破れ、足は血だらけになり、幼い少女は痛々しい姿へと変わっていた。

 

………結局、自分がどこにいようと人が幸福になることはない。自分という存在がある限り、不幸の連鎖は止まらない。

 

だったら、だったら───!

 

「私なんて……生まれてこなければ良かった」

 

そんな、自虐的な言葉が出た。

 

────雨が降ってきた。ポツリポツリとしか降っていなかった雨は、やがてその量を増していき、少女の心と体を冷たくしていく。

 

嗚呼、これは罰なんだ。そんな事が少女の脳裏を過ぎった時。

 

「この程度で罰だと思うだなんて、随分能天気な頭をしてるんですねー」

 

自分の心を抉ってくるような言葉に、少女は顔を上げると……。

 

「そんなもので許されると思っているんですか? え? “砕け得ぬ闇”さん?」

 

眼鏡を掛けた一人の女性が、卑下た笑みを浮かべて少女の前に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




いやー、モンハン面白い。

ついついプレイして投稿が遅れてしまった。

皆さんは何装備メインです?

自分は太刀とチャージアックスですね。

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