本当なら本編を更新したい所でしたけど、データが消えてしまった為掲載する事が出来ず、やむなく番外編を載せる事にしました。
本当、もうしわけりません。
いつだってそうだ。いつも奪われるのは人間で、奪うのはいつも巨人共だ。百年前に突如として現れ、そしてそれは百年経った今も変わらない。
壁に囲われ、虚偽の安寧を貪る自分達は……まるで、飼われた家畜。豚のような生き方を強いられてきた。
圧倒的力の差は百年経った今も変わらず、巨人の猛威に人類は今も怯えて暮らしている。
そんな日々、突然現れた超大型巨人によって壁は壊され、人類は再び……巨人によって食い尽くされようとしていた。
「エレン! ミカサを連れて早く逃げなさい!」
「逃げるよ! だから早く出てきてくれよ!」
超大型巨人の蹴りによって壁は破壊され、その余波で多くの家屋が倒壊。少年は母親を助けようと必死に崩れた家の一部を持ち上げようとしていた。
だが、所詮は子供の力。どんなに力を込めてもビクともしない。ミカサと呼ばれる少女の力を借りても僅かな隙間も開くことはなかった。
ドズンッと巨人の足音がすぐそこまで聞こえてくる。イヤだ。少年は心の内で叫んだ。
何故自分達が一方的に蹂躙されなければならない。どうしてだ? 沸き上がる疑問はやがて怒りへと転じ、少年は意地でも持ち上げようと奮起する。
が、小さな子供一人の怒り程度でどうにか出来るほど世界は優しくはない。迫る巨人の足音がすぐそこまで近付いたとき、少年の母親は叫んだ。
「いい加減にしなさい! どうしていつも私の言うことが聞けないの!? お願いだから、最期くらい言うこと聞いてよ!」
母親の悲痛な叫びに、少年は涙する。持ち上げようとする手からは血が流れ、それでも全く動けない自分のひ弱さに少年は悔しかった。
誰でもいい。誰か助けてくれ。遂に少年はここにはいない誰かに救いを求めた。それが決して適わないと知りながらも……。
と、そんな時だ。少年と少女の間に一人の青年が割って入ってきた。
一瞬、少年は呆然となる。なんの前振りもなく、なんの脈絡もなく現れたその人物に少年は自分の祈りが通じたのだと錯覚した。
そんないきなり現れた青年に母親は今度はその人物に向けて声を張り上げる。
「私の事はいいですから、どうかこの子達を!」
自分の事は見捨てても構わない。母親のその叫びは確かに本心だった。けれどそう思うと同時に、自分の心に影が生まれるのを母親は自覚する。
───死にたくない。一瞬だけ脳裏を過ぎった言葉を、母親は呑み込む。
もう巨人はすぐそこまで迫っている。このままでは皆纏めて巨人の胃袋の中だ。
最早僅かな躊躇さえ許されない。少年や少女と同じく、家を持ち上げようとする青年に、母親はもう一度声を上げる。
と、その直前。
「────“錆び付いた鉄刀” 筋力強化」
青年が何かを口ずさむと、今まで母親にのし掛かっていた瓦礫が嘘のように払いのけられた。
その事実に言葉を失う三人。我を失った彼等を正気に戻したのは、飲んだくれの駐屯兵団の兵士、ハンネスだった。
「皆、無事か!?」
「───ハンネスさん?」
現れる知り合いにいち早く我を取り戻したのは、ミカサと呼ばれる少女。そんな彼女の言葉を川尻に少年とその母親もまた正気に戻る。
「あぁ、ちょうど良かった。オジサン、この人達の保護をお願いします。母親の方が足に怪我をしているみたいですから、治療の方も頼みます」
「へ? あ、あぁ、それは構わないが……アンタはどうするんだ!?」
突然呼ばれる事に動揺を隠せないハンネス。彼は混乱しながらも目の前の青年にどうするつもりかと訪ねた。
その問いに青年は、ただ一言「やることがある」とだけ告げて近付きつつある巨人に向かって歩き出す。
青年の行動にギョッとしたハンネスは青年を呼び止めようと声を掛ける。
「お、おい! なにしてんだアンタ! 巨人に喰われる気か!?」
巨人と人間では勝ち目がない。それは最早子供と大人の差ではない。その戦力差はまるで蟻と象。圧倒的力を持った巨人を相手にこれまで人類が対抗できた事などただの一度もありはしなかったのだ。
けれど、それでも青年の歩みは止まらない。そんな彼の背中を、少年は目を逸らさずじっと見つめ続けていた。
そして、遂に巨人の手が青年に向けて手を伸ばす。普通ならここで捕まれ、貪り喰われるのみ。
そんな現実を前に、ハンネスと母親は顔を背ける。────が。
巨人の手が青年を捕まえる直前、白い閃光が青年と巨人の間を横切り、巨人の手を肘から切り落とした。
巨人の腕を切り落としたのは青年よりも一回り小さな女の子。その白を強調した衣装はまるで雪の様な儚さと柔らかさを印象付けられる。
「うぅむ、やはりこやつらの相手は気が引ける。切った所で表情一つ変えぬのも気味悪いし何よりキモい。奏者よ! 此度の戦の後は風呂場で余の背中洗いを命ずるぞ!」
だが、そんな彼女の戦い方は見掛けとは正反対に苛烈。腕を切り落とされながらも尚向かってくる巨人の攻撃をかいくぐり、弱点とされているうなじへと一閃。
人間離れをした動きをする少女は、瞬く間に巨人を仕留めて見せた。
その光景にハンネス達は呆然。人類の天敵とされる巨人を何の苦もなく倒して見せた少女に、全員ただただ言葉を失うだけ。
そしてそんな彼等が呆然となっている一方で、壁を破壊されて地獄絵図となった町が全く別の形で変わり始めていた。
袋小路に追われ、逃げ場を無くした女性に巨人の魔の手が迫ると、赤い閃光が巨人のうなじを首ごと刈り取っていく。
また巨人に囲まれ、絶望するしかなかった子供達がふと上を見上げると、黄金の船が浮かんでおり。
「見苦しい。疾く死ぬがよい」
そんな短い台詞と共に、無数の刃と槍が巨人達に降り注ぎ、巨人達は蜂の巣にされていく。
また、壁をはかいしようと身を屈む鎧の巨人の前には……。
「残念ですが、ここから先は一方通行でございます。直ちに回れ右をして下さい。でないと……呪っちゃうぞ♪」
動物の耳と尻尾を生やし、奇妙な格好をした女性が、鎧の巨人の四肢を凍り付かせ、身動きを封じていた。
こうして、一方的に蹂躙するかと思われた人間達は、突如現れた四人の超人と一人の自称魔術師によってその窮地を逃れた。
後に、ある超大型巨人は当時の事をこう語る。
「……いやいや、あんなのどうしろっていうんだよ」
またある女型の巨人は……。
「どうしろっていうのよ……」
また命からがら逃げ延びた鎧の巨人は……。
「撤退しよ」
巨人達の猛攻を凌いだ人類はその日から四人の超人と一人の魔術師の協力のもと、巨人に対して反撃の狼煙を上げた。
調査兵団の兵力と超人達の戦力、そして魔術師と称する青年の観察眼と洞察力で巨人は瞬く間に駆逐され、エレンと名乗る少年が調査兵団に入る頃には、 既に巨人は世界からその姿を消していた。
後に、少年エレンはアーチャーと名乗る男性に弟子入りし、その才能を遺憾なく発揮され、少女ミカサと並ぶ“人類の双璧”呼ばれる事になるというのは……もう少し、先の話である。
────オマケ────
“もしも、白野がはくのん(♀)だったら”
遂にこの日が来た。調査兵団に入隊し、あの人と同じ部隊に編入できた。
あの日自分やミカサ、母さんだけではなく多くの人達を救った伝説の人達と同じ部隊に遂に入れた。
……情けなくも緊張している。当然だ。なんたって向こうは人類の救世主なのだ。緊張しないほうがどうかしている。
────いや、正直に言おう。確かに俺は緊張している。けど、それは相手が伝説の救世主だからではない。あの人が……俺にとって初恋の人だからだ。
一目惚れだった。あの日、本来なら巨人に喰われて死ぬ筈だった俺達を当然の様に助けてくれたあの人に、俺は心の底から惚れたんだ。
俺は、まだまだ未熟なガキだ。あの人には到底釣り合わないだろう。……けど。
「えっと、それじゃあ次はエレン=イェーガー君だね。どうして君は私の部隊に入隊したかったのかな?」
ドクン。あの人に名前を呼ばれ、心臓の音が急激に高鳴る。……な、なんか言え俺! このまま黙っていたら変なヤツだと思われるだろう!
緊張で高鳴る心臓を押し留め、深呼吸をした後、俺は一歩前に立ち、あの人に向かって高らかに宣言する。
「はっ! 自分はエレン=イェーガー! この度はハクノ=キシナミ参謀官の指揮下に入れた事を、光栄に思っております!」
「て、照れるなぁ。私、そんな言われる程大した事してないよ? なんで皆私を持ち上げるかなぁ」
あぁ、照れ臭そうに頭を掻く仕草も素敵だ。あの時から変わっていないこの人に対し、俺は感情が高ぶっていたのだろう。
「自分は、まだ未熟ではありますが! いつかは参謀官のお役に立てるよう努力していく所存です! ─────だから!」
「………え?」
「その時は、自分と結婚して下さい!」
思わず、そんな事を口走ってしまっていた。
この日、エレン=イェーガーは世界中に跋扈する巨人ではなく、四人の超人を敵に回す事になる。
また、同じく岸波白野の部隊に入ったミカサは事ある毎にこんな事を口ずさんでいた。
「はくのんマジ許すまじ」
もっとオカンなリヴァイとかズラ疑惑のエルヴィンとか出したかったです。