それ往け白野君!   作:アゴン

41 / 65
今回、かなり独自解釈&設定が多いです。

ですが、元々この話は劇場版を元にしたオリジナルですので
どうかご容赦下さい。

それではどうぞ。


英雄王は見た!

 

 

 

それは遙か大昔、古代ベルカと呼ばれる異世界の戦乱の事態が繰り広げられる前の出来事。

 

 本来の役割と能力を与えられていた夜天の書は造られた当時からその力を遺憾なく発揮し、多くの魔法、知識、知恵、英知を収集していった。

 

その知識を悪用されぬよう、四人の騎士と一人の管理人格制御システムが夜天の書を守護し、持ち主を転々としながらあらゆる世界、あらゆる時代を渡っていった。

 

だがそんなある日、ある時代のある世界で一人の天才がこの夜天の書に興味を示した。

 

まだ見ぬ知識がこの書には眠っている。自身の研究に息詰まった天才は夜天の書に眠る膨大な英知達に目を付け、あるシステムを付け加えた。

 

システムU─D。アンブレイカブル・ダーク、通称“砕け得ぬ闇”。

 

“砕け得ぬ闇”自体を夜天の書からデータを取り出すハードとして根付かせ、それを媒介に男は書の中に眠る英知を取り出そうとした。

 

………男は狂っていた。そんな無理矢理取り付けたシステムで夜天の書に組み込めば、どんな事態になるか分からないというのに。

 

だが、それでもやはりというべきか、男は天才だった。そんな無理矢理取り付けたシステムでもその機能は確かに動き出したのだ。

 

────本人が望んでいたモノとは、全く別の結果になったが。

 

夜天の書に取り付いた“砕け得ぬ闇”はその時まで刻まれた夜天の書のデータを全て吸収。中には禁忌とも呼べる術も記録されてあった為か単なるデータでしかなかったシステムU─Dは瞬く間に力を得て、無限にも等しい巨大構成体へと変貌してしまった。

 

システムU─Dによって歪まれた夜天の書は後に闇の書と呼ばれるようになり、更にその影響でナハトと呼ばれる闇の書の仮の統制システムを生み出してしまい、収集も“蒐集”へと変貌し、転生というバグシステムすらも発生し、死と破滅をまき散らす悪魔の書物へとその在り方を変えられてしまった。

 

ほんの些細な切欠と僅かな歪みは後の大きな亀裂となり、次元世界の恐怖の象徴として時の経った今でも語り続けられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、私の記憶にある夜天と闇の記憶だ」

 

リインフォースによって語られる夜天と闇の二つの魔導書の全てを語り終える頃には、既に時刻はお昼を迎えようとしていた。

 

夜天から闇へと変貌した経緯。それらが明るみに出たことでシグナム達は苦い顔をして俯き、レヴィちゃんとシュテルちゃんは僅かに表情を曇らせている。

 

ただ、ディアちゃんだけは目を瞑り、腕を組むだけでその堂々とした姿勢は崩していない。

 

「…………ねぇ、一体なんの話をしてるのよ? 私にも分かり易く説明しなさいよ!」

 

一人、状況からして理解出来ていないランサーだけが、自分を構えと文句言ってきている。

 

そんな彼女を片手で制しながら、凛が問い掛ける。

 

「それで? そんな話を今更して、アンタは一体何を伝えるつもりなの?」

 

凛の低い声に場の空気がピンと張り詰める。リインフォース達純粋な目的で造られたプログラムに対し、システムU─Dことユーリは一人の天才の悪意から生まれたプログラム。

 

当然、その片割れたるレヴィちゃん達もそんなユーリと同質なモノを抱えているのだろう。リインフォースの彼女達に対する目つきが氷の様に冷たいのも、それに関係しているからか………。

 

「この事を思い出したのは私が岸波殿から修正の手解きを受けた翌日だ。本来ならもっと早く伝えたかったが……生憎、此方にも色々事情というものがある」

 

申し訳なさそうに俯くリインフォースさんに凛もやれやれと溜息を吐きながら頬杖を付く。

 

何でもリインフォースもバイトをして八神家の家計に貢献しているらしく、幾ら連絡を入れようとしても出来ない状況にあったらしい。

 

 まぁ、それはそれとして問題はユーリ達についてだ。冒頭にあれだけの話を続けられればリインフォースがこの後何が言いたいのか、大体予想は付いているが……。

 

「私が言えた事ではないが岸波白野、貴方が匿っているユーリ……いや、システムU─Dは貴方が思っている以上に厄介な存在だ。もし彼女の力が暴走した時、なんらかの覚悟はしておいた方がいい」

 

…………。

 

以前、メルトリリスやBBに訊ねた事がある。リインフォースに取り付いていた不正なデータを取り除いた時、序でにユーリも見てくれないかと訊いた。

 

ムーンセル(仮)の力を得たBBはプログラム関係なら無類の強さを持っている。そんな彼女なら、もしユーリに危ないプログラムが渦巻いていふのだとしても取り除けるだろうと……難しく考えずに訊ねた。

 

だが、返ってきたのは“無理”の二文字。普段なら有り得ない返答をするBBに自分は何故だと聞き返した。

 

理由は単純、ユーリは元からそういう風に出来ているのだと、彼女は言った。…………元から、つまり修正とか修復の以前の話でそのままの状態であるユーリを弄くるという事は、彼女の存在掻き乱すという事と同じなのだ。

 

無論、ユーリからそのシステムを取り除く事自体は不可能ではない。だが無理に引き離そうとすればユーリの存在認識が崩れ落ち、ユーリはユーリでいられなくなるという。

 

……その時は、我ながら軽はずみな事をしたと後悔した。ユーリがユーリでいられなくなる。それはデータ上ではただの『削除』であっても自分にとっては『殺人』である事となんら変わりない。

 

“元”から“別”へ変わるという事はある意味では死と同義なのだと、あの時の自分は何となく理解した。

 

 一度、辺りを見渡す。心配そうに此方を見つめてくるはやてちゃん、自分の言葉にどう反応するか静かに自分を見るリインフォース。

 

凛やランサーも自分の選択にどう対応するのか、言葉を発さずに自分だけを見てくる。

 

何時暴走するか分からないユーリ。もし彼女が暴れたりすれば、再び闇の書事件の再来となる。そうなれば周囲に多大な迷惑を被るだけではなく、折角社会復帰の為に頑張っているシグナム達の足を大きく引っ張ってしまう事にだってなってしまう。

 

今、自分は選択を迫られている。システムU─Dをどうするべきか……破壊すべきか否かを。

 

確かに、砕け得ぬ闇は危険かも知れない。造られた原因だとすれば、創造された物もまた悪意になる。

 

ここで選択を誤れば、その災いは大きく広がり、折角止めた筈の悲劇を再び呼び起こしてしまう。

 

そう、リインフォースの言葉は正しい。寧ろ自分が今ユーリを匿っているのが間違っているのかも知れない。

 

大人しく管理局に渡す事が、最善の選択。

 

────だけど。

 

「大丈夫さ」

 

自分の口からは、自然とそんな言葉が零れた。

 

「大丈夫……とは? まさか、放置しておくつもりなのか?」

 

先程よりも細くなったリインフォースの目が自分を射抜く。そんな彼女の眼差しを真っ直ぐに受け止めながら、自分はただ静かに頷いた。

 

だって見てしまったんだ。ユーリの姿を、彼女の日々の姿を。

 

桜と一緒に洗濯を干したり、セイバーに抱き付かれて困ったり、キャスターに色々吹き込まれて苦笑いしてたり、アーチャーのオカンスキルに驚いたり、ギルガメッシュの後ろにチョコチョコついていったり。

 

そんな彼女の姿を目にしていると、とてもそんな気など起きはしない。例え、何かが切っ掛けで暴走したとしても……。

 

「では、もし暴走したら、貴方はどうするつもりで?」

 

無論、止めるさ。けれどそれはユーリを消したりする為じゃない。また一緒に笑ったり、ご飯を食べたりする為だ。それに……。

 

「?」

 

娘を信じてやる事が、親に出来る最大の要因なのだと、自分は思う。

 

 自分のその言葉に辺りはシン……と静まり返る。改めて思い返すと、結構恥ずかしい事を言っているのに気付き、照れ隠しに頭を掻いていると……。

 

「……成る程、参りました。それが貴方の選択なのだとするのなら、私からはもう何も言いません」

 

リインフォースは降参とばかりに両手を上げて首を横に振っている。

 

此方こそ、ワザワザヤな役割をさせて済まない。するとリインフォースは今度は驚いた表情を見せ、「かなわないな」と呟きながら苦笑いを浮かべている。

 

 ただ、もし万が一ユーリが暴れたとして、止めるのは自分の役割なのだが……まぁ、自分はご存知の通り弱々の未熟な魔術師なので、その際には皆さんに協力を求めると思いますが……何卒、宜しくお願いします。

 

「はぁ、そんな事だろうと思ったわ。まぁアンタに貸しを作っておくのは後で色々特になりそうだし、その時は私達も手を貸すわ」

 

「素直に手伝いたいって言えばいいのに~、あ、ウチも勿論その時は手伝いますよ。白野さんの頼みやし、皆もそれでええな」

 

「主の頼み、そして岸波白野に先の礼を返せるのなら我等としても望む所です」

 

自分の情けない頼みに二つ返事で了承してくれる凛やはやてちゃん達。そんな彼女達の協力を得られる事に嬉しさを感じていると。

 

「ふん。話は終わったか? ならば我は帰るぞ」

 

一人だけ終始つまらなそうにしていたディアちゃんだけが、不機嫌そうに眉を寄せて席から立ち上がる。

 

そんな彼女は扉の前で一度だけ振り返る。その目は敵意に満ちており、隙あらば襲いかかる……獰猛な肉食獣の目をしていた。

 

「此度は部下が世話になったからこの場は退いてやる。だが忘れるな、システムU─Dを手に入れるのはこの我だ。そしてそれを果たした時……そこの子鴉!」

 

「へ? う、うち!?」

 

突然ビシリと指を突き付けられ、ディアちゃんの鋭い視線に晒されたはやてちゃんは驚き、肩をビクリと震わせる。

 

「貴様を始末し、我という存在を確立させる。首を洗って待っておれ!」

 

と、そんな捨て台詞を吐くと、ディアちゃんはレヴィちゃんとシュテルちゃんの二人を連れて今度こそ八神家を後にする。

 

「………いいの? 追い掛けなくて」

 

横からの凛の問いに自分は構わないとだけ告げる。彼女達とはまた会える。それもディアちゃん達の目的もまたユーリだと分かったから、近い内にまた会うのは必然だ。……尤も、その時は話し合いが出来るとは限らないが。

 

「当然よ。寧ろなんで今まで戦わなかったのか不思議な位だわ。アイツ等、自覚は無いだろうけど相当アンタに毒されているわよ」

 

ホント、最近凛の自分に対する扱いがより酷いモノになってきている。よりにもよって毒とか、人権侵害にも程がある。

 

 ……さて、戯れも程々にしてそろそろ自分も帰るとしよう。そう思い立ち上がると今まで呆然としていたはやてちゃんがハッと我に返り、自分に名残惜しそうな視線と共に呼び止める。

 

「えー? もう帰るんですか? そろそろお昼やからまだ入ればええのに……」

 

有り難いお言葉だが、今回は遠慮させて貰う。早めに帰らないとアーチャーが心配するだろうし、なにより今も眠っているだろうサーヴァントが心配だ。

 

もし自分がいない事を知り、且つこんな所にいると伝われば……正直、想像すらしたくない。

 

やっと落ち着きを取り戻した我が家なのだ。暫くは平穏を味わいたい。

 

「そうですか……ほんなら分かりました。白野さん、またのお越しを待ってますぅ」

 

笑顔を送ってくるはやてちゃんに見送られ、自分も玄関に続く扉に手を伸ばす。と、その前に……。

 

一つだけ訊きたい事があった。ドアノブにまで伸ばした手を一度だけ引っ込め、はやてちゃんに向き直る。

 

何かと思い首を傾げるはやてちゃんに、自分は一つだけ質問を投げ掛けた。

 

 はやてちゃん。今の三人についてどけど……どう思った?

 

 

「え? えーっと……最初押し掛けられた時は驚いたけど、話している内になんというか……うん、そんな悪い子とは思いません」

 

一度だけ考え、次に出た彼女の答え。笑顔と共に出される彼女の回答に。

 

「あぁ、俺もそう思うよ」

 

自分もまた、笑顔でそう返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、八神家を出た自分は我が家に帰る帰路に付いていた。

 

闇の欠片。マテリアルズことディアちゃん達三人衆は例の戦闘機人達と同様、砕け得ぬことユーリを狙っている。

 

ユーリ自身はこれといって変わった様子はないし、日々の生活の中でも別段珍しい症状は訴えていない。

 

今までそれを理由に自分も気にしてはいなかったが、今回リインフォースの話を訊くと少し不用心だったのかもしれない。

 

帰ったら何となく訊いて見るべきか? いや、下手をすればこれを機に自分に何かしら不安を覚えるのは明白だ。

 

ユーリには危ない事はさせられない。下手に事情を説明すれば、彼女は自分の所為だといらぬ後悔を与える事になるやも………。

 

いや、たとえそうであったとしても、狙われているなら話すべきではないのか? 自分の身に危険があるとすれば襲われた時落ち着いて対応出来るかもしれないだろうし………。

 

いやしかし、いやしかしと言うべきか言わないでおくべきかの葛藤の狭間で悶えていると……。

 

「白野くーん!」

 

ふと、聞き慣れた声が耳朶に響いた。何かと思い振り返ると…………凛?

 

どうしたのだろか? 満面の表情で此方に向かって走ってくる彼女に疑問に思っていると。

 

「もう、先に行っちゃうなんて酷いじゃない」

 

突然、右腕に抱きつかれた。………え? 何してんの遠坂さん?

 

 

“フニュン”

 

 

おぅふ。抱き付かれた右腕から柔らかいマシュマロの感触が伝わってくる。

 

「何よ。彼女が折角連れ添って上げるっていうのに、白野君てば不満なわけ?」

 

ブーと頬を膨らませて上目遣いの凛。その普段は見せない彼女の可愛さに思わずクラリと脳が揺さぶられる。

 

だが、しかし。その可愛らしい仕草の所為で確信してしまった。

 

 ─────君は、誰だ?

 

「え? 何を言ってるの? 私は遠坂凛。貴方の彼女じゃない」

 

残念ながら、自分と凛はそんな間柄じゃない。どちらかと言えば……そう、戦友と言った方がシックリくる。それに……。

 

「それに?」

 

俺の知ってる遠坂凛が、そんなに可愛い筈がないからだ!!

 

 ビシリと遠坂凛と瓜二つの少女に指を突き付ける。

 

そう、遠坂凛は無意味にデレを晒すヤツじゃない。最後の最後までツンを通し、最後の瞬間に僅かなデレを見せるのが遠坂凛の真骨頂なのだ。

 

そんなデレのバーゲンセールなぞ、ツンの価値を暴落させる所業だと知れ!!

 

『後で絶対ブン殴る』

 

……今一瞬凛の幻聴が聞こえたが……今はどうでもいい。さぁ、早く姿を現せ偽物! 貴様が偽りの遠坂凛だというのは、登場したときから何となく気付いたぞ!

 

「────く、ふふふふ、やるじゃないアナタ。まさか初見で私の能力を見破るなんて……やっぱりただものじゃないわね」

 

 自分の指摘に観念したのか、目の前の遠坂凛らしき者は妖艶な笑みを浮かべながらその姿を変えていく。

 

栗色の、腰にまで届きそうな長くウェーブの掛かった髪。その手には鋭い爪が施されており、なにより……その独特がピッチリが特徴的な格好は─────間違いない。

 

先日、自分とレヴィちゃんを襲った謎の集団────その名も、ピチピチ過激団!

 

「誰がピチピチ過激団だ!」

 

がっ!?

 

鋭い衝撃が後頭部辺りから響いたと同時に、岸波白野の意識はそこで暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、ホントふざけたヤツだ」

 

地面に倒れた岸波白野を見下ろして、戦闘機人No.3のトーレは一人愚痴る。

 

「あら、ダメよトーレ。折角ドクターの気に入ったサンプルなんだからもっと丁寧に扱わないと」

 

「ふん、この程度でどうにか成る程、コイツはヤワじゃない」

 

「へぇ、アナタにそこまで言わせるなんてこの子、何者?」

 

「さてな、本人が言うには魔術師らしいが……ともあれ、それを調べるのはドクターの仕事だ。我々も早々に引き上げるぞ。クアットロ」

 

「はーい。お待たせしましたー。アジトまでの転移装置の設置、完了でーす」

 

 トーレの呼び掛けと同時に、何もない空間から現れたのは、丸眼鏡と二つに編んだ三つ編みが特徴的な少女、No.4ことクアットロである。

 

「ターゲットを確保した。これより帰還する。シルバーカーテンを我等に」

 

「りょーかい」

 

岸波白野を抱えたトーレの指示に、クアットロは敬礼の仕草をしながらトーレともう一人の戦闘機人に幻惑の膜を纏わせる。

 

岸波白野を回収して僅か一分足らず。岸波白野はその周辺にいた誰にも気付かれずに、この世界から姿を消していた。

 

だがただ一人だけ、一部始終を遠くに位置するビルの屋上で鑑賞していた男がいた。

 

「ほう? 我の所有物を持ち出すとは、覚悟は出来てるだろうな? え? 雑種共」

 

深い笑みを浮かべながら、黄金の王は標的を捉えた。 

 

 





次回

『さらば! ピチピチ過激団!』
『英雄王大ハッスル!』
『怒れる黒桜』

の三本です!(嘘)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。