それ往け白野君!   作:アゴン

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今回も短いです。

けれどシリアスです。




お食事中はお静かに

 

 

 

 戦闘機人の奇襲。それを最悪の事態と想定した自分達は、連絡の着かないはやてちゃん達に言い知れない悪い予感に震え、彼女達の無事を確認するために八神宅へ急行。

 

もし自分の予想が的中し、はやてちゃんの身に何かあれば……。

 

無事でいて欲しい。そんな渇望にも似た感情に揺さぶられながら、頬に伝わる嫌な汗を拭いもせず、リビングに続く扉を開くと……。

 

そこには────。

 

「あ、王様お魚食べないの? なら僕が貰ってあげるよ!」

 

「だからレヴィよ。我等はここにのんびりと朝食を食べに来たわけではないと何度言えば……て、あぁ!? それは我が最後に取って置いた魚! 返せ返せ!」

 

「ハグハグハグ、ぷはぁー! 美味しかった!」

 

「あぁぁぁっ!?」

 

なんというか、まぁ、実に平和な朝の朝食があったとです。

 

レヴィちゃんに鮭の照り焼きを取られ、すっかり怒り心頭なご様子のディアちゃん。こらこら、喧嘩するんじゃありません。お兄さんの分けてあげるから。

 

「ぐすん。……うん」

 

涙を滲ませていた目を擦り、自分の分の魚を貰っていくディアちゃん。あ、シュテルちゃん、そこのお醤油取ってくれる?

 

「はい。ここの醤油は少し味が濃いのでかけるのであれば少量で済ませるのがベストだと思います」

 

 向こう側に座るシュテルちゃんからお醤油を取ってもらい、それを目玉焼きにタラーっとかける。……関係ない話になるが、ウチの連中はソース派閥と醤油派閥の二つに分かれている。ギルガメッシュとセイバーがソース派でキャスターとアーチャーが醤油派だ。一時期それが原因で大喧嘩をしたことがあるが……まぁ、今となっては良い思い出である。

 

因みに自分は気分によってその都度変える。桜は意外にもマヨネーズ派だったし、ユーリはシンプルに塩だけを掛けて食べている。今度BB達にも聞いて累計をとってみようかな? なんて至極どうでもいい事を考えながら味噌汁を啜る。

 

芳醇な味噌の香りと適度な塩分が下を潤し、ワカメと豆腐、そしてジャガイモの歯応えが口の中で踊る。

 

 まさか、アーチャーやキャスター以外にここまでの腕を持っているとは……はやてちゃん、更に出来るようになったな。

 

「ホント! やぁ~白野さんに言われるとなんやメッチャ嬉しいわ~。あ、ご飯のお代わりいります?」

 

頂こう。この味噌汁だけでも三杯はいける。

 

自分の評価に嬉しく思ったのか、満面の笑顔でご飯を装ってくれるはやてちゃん。器に盛られたホカホカのご飯に箸を伸ばし、二杯目を頂こうとすると……。

 

「いい加減にしとけやぁぁぁぁ!!」

 

今まで黙していた金髪ツインテの少女、遠坂凛がお椀を片手に雄叫びを上げた。

 

どうした凛、いきなり大声を上げて?

 

「もう、ダメやよ凛姉ちゃん。お食事中は静かにせな」

 

「大声も上げたくなるわよ! なに平然と朝ご飯食べてるのよ!」

 

いやだって、自分今朝は何も食べてないし……はやてちゃんも構わないって言うし。

 

「そうやよ凛姉ちゃん。白野さんはウチ等の恩人さんなんやから、これくらいのお礼は受け取って欲しいんや」

 

だから、はやてちゃんはそう言うこと言わないの。自分はそんなつもりはなく、純粋に君の手料理を楽しみたいんだから、そう言うのは無粋っていうんだよ。よく覚えておきなさい。

 

「はーい。えへへ、怒られちゃった」

 

自分の指摘にはやてちゃんは舌を出して苦笑い。その愛くるしい仕草に此方も思わず笑みが零れる。だというのに凛は一人で頭をワシワシと掻き乱し、「ムキー!」と叫んでいる。

 

 いやぁ、最初見たときは驚いた。何せ極限の緊張感の中で扉を開けて見れば絵に描いたようなアットホームな空間が出来上がっていたのだ。その光景に呆気に取られ、緊張が解けた所へ腹の虫が鳴ってしまうのも無理はない。

 

まさか腹の虫で気付かれるとは思ってもおらず、はやてちゃん達に見つかった時は驚愕やお叱りを受ける前に爆笑されてしまった。いやはやお恥ずかしい。

 

それでそのままなし崩し的に朝食にお呼ばれされてしまい、現在に至る。あぁそうそう、アーチャーは此方の状態を伝えると了解の声と共に拠点に帰った。

 

携帯越しから伝わる彼の溜息具合で疲れの度合いが何となく分かるが……うん、今度アーチャーには温泉にでも行って貰おう。ウチの中でも特に幸運値が低いアーチャーはその気質の所為か気苦労が多い。何せあの白髪だ、彼の苦労は昔から絶えないのだろう。

 

 はやてちゃんの料理を頬張りながら、そんな事を考えていると。

 

「────えぇぇい! 守護騎士達は何やってんのよ! こんな時の為の騎士なんでしょう!?」

 

凛が今度ははやてちゃんの守護騎士であるシグナム達に白羽の矢を立てる。シグナムはソファーに座りながら新聞を広げ、シャマルさんは流し台で食器を洗いながら、ザフィーラは狼状態でシグナムの横に座りながら、ヴィータちゃんはアイスの入った冷凍庫にそーっと手を伸ばしながら、それぞれビクリと体を震わせる。

 

「い、いやぁ……その」

 

「だってそいつ等まるで敵意を感じねぇんだもん。最初来たときはアタシ等も警戒したけどさ……」

 

「そこのレヴィとやらが酷く腹を空かせていたらしくてな、それを聞いた主が我が家へ招きいれたのだ」

 

「いや入れるなよ!? なんで入れちゃうの!? 止めろよ騎士!」

 

「仕方あるまい。主はやての命令は絶対だ。我々にそれを妨げる道理はない」

 

「とか言って、ホントは説得が無理そうだから諦めたんじゃないでしょうねぇ?」

 

シグナム達のそれぞれの言い訳に凛はジト目で睨み付ける。そんな彼女の視線に騎士達は逃げるように視線を逸らせる。

 

「大体、なんでアンタ達ものんびり食べてんのよ? 一応敵同士なんでしょ?」

 

 凛の指摘に今までモグモグと食べていたレヴィちゃん達の手が止まる。互いに顔を見合わせた後、御馳走様と手を叩いて食べた食器を流し台へ運び、再び自分達の前に立ち………。

 

「我は“闇統べる王”ロード=ディアーチェ!」

 

「私は“星光の殲滅者”シュテル=ザ=デストラクター」

 

「そして僕が“雷刃の襲撃者”レヴィ=ザ=スラッシャー!!」

 

「「「三人揃って!」」」

 

『マテリアルズ!!』

 

……………。

 

「………………」

 

「………………」

 

……何とも言えない空気が辺りに充満する。キメポーズらしい格好する三人は黙した自分達に気を良くしたのか、それぞれしてやったりなドヤ顔を見せている。

 

「ふっふっふっ、どうやら我達の威厳に畏れているな。見たか塵芥共! 我等の威光に平伏すがいい!」

 

「わふぅ~! 流石王様! 格好いい!」

 

「昨日一晩練習した甲斐がありましたね」

 

和気藹々とする三人にはやてちゃんはとても優しい目で微笑んでいる。きっと自分も似たような顔をしているのだろう。

 

他の面々もどうしたらいいか分からず頬をひきつらせて苦笑いをしているし、……ヴィータちゃんだけは目を輝かせているけどね。

 

そんな日曜朝の特撮ヒーローみたいなポージングをしている三人に、凛だけは頭を抱えてテーブルに伏している。

 

「……もういいわ。アンタ達にマトモに取り合おうとした私がバカだった。それで、そのマテリアルズが何を目的に私達の所に来たの?」

 

 凛がそう問うた瞬間、三人の目つきが変わる。雰囲気を変えた彼女達に合わせ、シグナム達守護騎士も警戒の意志を露わにする。

 

急激に変わった場の空気、下手したら今この場で戦闘が起きるかもしれない状況にマテリアルズのリーダー、ロード=ディアーチェが口を開く。

 

「……我等の目的はただ一つ、砕け得ぬ闇。システムU-Dを手に入れる事だ」

 

ディアちゃんから聞かされる彼女達の目的、それを耳にした時岸波白野は素直に驚いた。

 

システムU-D、砕け得ぬ闇。それはつまり彼女達もユーリを目的に動いていると言う事、だが何故だ? 何故皆ユーリにそこまで拘る?

 

無限に力を生み出すとされるユーリが、そんなにも魅力的なのか? しかし、今のユーリにはそんな素振りは全く見せていない。

 

普段の生活の中でも彼女は特に変わった様子も見せていないし、今のユーリはどこにでもいる普通の女の子だ。戦闘機人やレディちゃん達が求めるような力は持ち合わせていない。

 

「それは浅はかな考えというものだよ岸波白野。……いや、この場合は優し過ぎると言った方が正しいか」

 

ふと、リビング前の扉から声が聞こえてくる。その聞き慣れた言葉に全員が振り向くと。

 

銀色の長い髪を靡かせた朱色の眼をした女性、リインフォースが佇んでいた。

 

「本当はもっと早く説明したかったが……良い機会だ。私から説明しよう。闇の書、ナハトヴァール、そしてそれらの原因とされる砕け得ぬ闇の真意を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……この後、自分はある二つの選択を迫られる事になる。その選択の果てに……自分は、どちらを選ぶべきなのか。

 

────それはそれとしてリインフォース、君は何故今になって出てきたの?

 

「裏でずっとスタンバっていました」

 

やだ。意外とノれるのねこの子。

 

「ふみゅう~……あれ? 子ブタ、アナタ来てたの?」

 

そして現れる更なる混沌要素に物語は加速するぅ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とあるビルの屋上。強めの風に煽られながら少女はある建物を見つめる。

 

「ここがターゲットのいるマンションかぁ~、しっかしデッカいな。どんなヤツが住んでるのこれ?」

 

目の前に佇むのは数ヶ月前に建てられたとされる超が三つ付くほどの高級マンション。その外観も近代未来がモチーフにされたもので周囲の建物に囲まれても、その派手さは消える事はない。

 

その派手な外観のあるマンションを前に、少女は嘆息しながら睨み付ける。

 

「……やるんだ。例え誰かに恨まれようとも私は、やり遂げなきゃいけないんだ」

 

静かな声で少女は呟く。まるで自分に言い聞かせるように、覚悟を改めて固めるように。

 

すると少女の体が一瞬光に包まれる。ビルの屋上から何かが光っていると目撃する人はいても、次の瞬間には光は消えている。故に目撃した人は気の所為かと思い込み、騒ぎが起こる事はない。

 

 光から現れる少女の姿は、明らかに通常とは異色な格好をしていて。白と赤、或いはピンクの装飾を施された服装は見てくれだけは変わった可愛らしいモノだ。

 

だが、少女の両手に持つ銃がその考えを払拭させ、その印象を覆らせる。軽装な服装と相まってその姿はまるでガンマン。少女の顔付きは先程までの幼さがなくなり、ソレは戦士の表情へと変貌させている。

 

「さて、お姉ちゃんが来る前にとっとと片付けるとするかな!」

 

不敵な表情を作り、少女は足に力を入れた────その時だ。

 

「やれやれ、折角帰ってこれるかと思えばまさかこんな所で泥棒に遭遇するとは……」

 

「っ!?」

 

突然聞こえたきた誰かの声に少女は驚愕の表情を浮かべる。……今この場には誰もいない筈、屋上に先に誰かいないかは調べ済みだし、屋上から下へ続く扉には既に幾重にも術でロックしてある。

 

ここには自分以外誰もいないし、いてはいけない。だが、現実として声は聞こえてきた。

 

恐る恐る少女は振り返る。有り得ない、けれど何故? 相反する気持ちと共に声のした方へ視線を向けると……。

 

「いや、 別に泥棒と決まった訳ではないな。これは失礼した。だが、客人として来るのであれば玄関から来て欲しいものだ。ま、銃を持っている事からマトモな客とも思えんが……答えろ。君は何者だ?」

 

質問と共にぶつけられる殺気。その気迫と姿に圧され少女は言葉を失う。

 

はだけた赤い革ジャン、そこから見える浅黒い腹筋に首に巻かれた首輪とジーンズ。

 

そんな如何にもアレな格好をする男を前に───。

 

「……へ」

 

「?」

 

「変態だぁぁーーー!?」

 

「なんでさぁぁぁぁ!?」

 

少女の割れんばかりの叫びが、春の青空に木霊する。

 

だってその格好だもの、仕方ないよね。

 

 

 




中々話が進まない内容に、皆さんヤキモキしてるかと思いますが、そろそろ物語は加速します。

それまでどうか我慢してください。


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