それ往け白野君!   作:アゴン

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今回、短めです。

ここ暫くはこんな調子になりそうです。


勘違いは止まらない。

 

 

 

 闇の書。それは嘗て多くの命を蝕み、数多の悲劇を生み出し、数え切れない程の災厄を振り蒔いてきた負の遺産。

 

当時、呪いの代名詞とも呼ばれたソレは自分のサーヴァント達が消滅し、悲劇の連鎖は断ち切った筈だった。………けれど、今更ながら思う。

 

果たして、本当に悪かったのは闇の書だったのか? 夜天を闇に変えたのは、そうなるよう手を加えた人間自身。

 

闇の欠片とも呼べる彼女達は、その事については一体どう思っているのか…………自分には見当も付かない。只、一つ言わせて貰えるとすれば。

 

「ねぇー、シュテるんに王様、迎えに来てくれたのは嬉しいけど……もう少し後でもいいかな」

 

「……レヴィ、それは一体どういう意味です?」

 

「いやだって、お兄さん所の料理メチャクチャ旨いんだもん。キャスターって人の料理もそうだけどお兄さんの作るお菓子も美味しいしさ、しかも今度はそのお師匠さんが造ってくれたシュークリームもあるんだよ。せめてそれを食べてからにしても……」

 

「貴様の中の我らは菓子以下と言うのかレヴィ? ん? その辺りはどうなんだ?」

 

意外にも彼女達は人間らしく、それこそ見た目の……年相応の女の子のようで────。

 

「ほぅ、レヴィの他にもまだ童女がいたとは……ムッハー! 夢が膨らむ! 奏者よ、あの三人をお持ち帰りしても良いか? 答えは聞いてない!」

 

…………はい、本日のシリアスタイムしゅーりょー。悲しいことに岸波白野の周りには悲観的にモノを見る人間が少ない! や、自分が言える事ではないのですが……。

 

「食料を話題に内輪揉め……まさか彼はそこまで計算を入れて彼女に餌付けを!? 流石岸波さん、その読みの深さは私では把握できない」

 

そんでフェイトちゃんはフェイトちゃんで物凄い勘違いを発動してるし。チガウヨー、ボクソンナコトカンガエテナイヨー。

 

というか餌付けってなにさ、いつから自分は猛獣使いになった。それはそれとして、レヴィちゃん、今自分の言うことを訊いてくれれば桃子さんがくれた特性シュークリームを自分の分も上げよう。

 

「ホントに!?」

 

「おぃぃ!? レヴィ、何を懐柔されとるかおのれはぁぁぁ!! 食い気か! 貴様はアホの子としてでは厭きたらず腹ペコ属性まで付ける気か!?」

 

「いけませんレヴィ、無用な複数属性は下手をすれば悪魔合体になりかねません。そういうのはもう少し世の中というものを理解してからの方が……」

 

……意外とノリがいい彼女達を見て、親近感が湧いたのはどうしてだろう。

 

「くっ、おのれぇ、よくも我が臣下を誑かしたなぁ。その罪、万死に値する!」

 

と、漸く此方に話を振られた事で会話に参加する事ができた。────初めまして、自分は岸波白野、見習いですが魔術師をやっております。

 

「これはご丁寧に、私はシュテル。シュテル=ザ=デストラクター。星光の殲滅者にして“理”を司る者。そして、こちらの傲慢な方が私達の王。闇統べる王ことロード=ディアーチェ、以後お見知り置きを」

 

「おい、誰が自己紹介をしろと言った? というか我を序でみたいに扱うでないわ!」

 

成る程、シュテルちゃんにディアちゃんか。二人は今までどうしてたの? レヴィちゃんが言うには襲われてたらしいけど……怪我とか大丈夫なの?

 

「その点はご安心を、確かに襲撃されましたが私達二人は“協力者”の手引きの元、どうにか窮地を逃れていて、今は人気のない廃ビルを拠点にしてます」

 

…………余計なお世話かもしれないけど、拠点はもっとちゃんとした所を選んだ方がいいよ。さもないとどこぞの路地裏同盟みたいになってしまうから。

 

「そうならないよう気を付けてはいますが、如何せん私達の出生が出生ですので、戸籍を造ろうにも……」

 

くっ、こんな小さな女の子達が路頭に迷う事にのるなんて、世の中世知辛過ぎる!

 

「おい、いつまでこの漫才を続けるつもりだ。え? これ我の方がおかしいの? ついていけてない我がいけないの?」

 

「王様ー? どうしたのー? お腹減ったのー?」

 

何やら落ち込んだ様子のディアちゃんにレヴィちゃんぎ頭を撫でて慰めている。その微笑ましい光景を眼にしていると。

 

「協力者? あなた達以外にもまだ誰かいるって言うの!?」

 

今まで黙していたフェイトちゃんが、驚愕を露わに問い詰めている。それを好機と見たのか、話題を変えようと目を光らせるディアちゃんの表情が見えたのは、きっと見間違いではない。

 

「ふん、それを訊いた所で無駄な事よ。貴様等は今ここで、その名の通り塵へと還るのだからな!」

 

フェイトちゃんの質問にも答えず、ディアちゃんはその手に魔導師らしい杖を顕現させ、先程と同じ無数の魔力弾を掲げ、対するフェイトちゃんも黒い法衣を身に纏い、戦斧を手に周囲に雷鳴と稲妻が迸らせる。

 

「奏者よ、下がっておれ」

 

一触即発の空気にセイバーも自分を守ろうと花嫁衣装に似た真っ白な礼装を纏う。あわや戦闘開始かと思われた時、レヴィちゃんが自分達の間に立った。

 

「……レヴィ、貴様なんの真似だ?」

 

「王様、今回は僕の顔に免じて見逃せないかな」

 

「……何故だ。理由を言え」

 

「僕、二人に迎えに来てくれるまでお兄さん達のお世話になってたんだ。そんな人達とは……戦えないよ」

 

「…………」

 

ディアちゃんの鋭い視線が、レヴィちゃんへと射抜く。その表情は先程までの状況に振り回される女の子ではなく、その名に相応しい王の風格を纏っていた。

 

数秒、或いは数分に及ぶ長い沈黙。時間という感覚が鈍り始めた頃、ディアちゃんは呆れたように溜息を吐き出し、覇気を解く。

 

「仕方あるまい。臣下の借りは我の借りでもおる。ここはお前の言葉に従ってやるとしよう」

 

「……うん、ありがとうね。王様」

 

「ふん。……では、もはやここに用はない。往くぞシュテル、レヴィ」

 

「はい。王よ」

 

 レヴィちゃんの言葉を訊き、ディアちゃんはこの場は引いてやると杖を消し、宙に浮かぶ魔力弾を消滅させると、後は興味を無くしたように踵を返し、空へと舞い上がっていく。

 

シュテルちゃんもその後に続き、レヴィちゃんも二人の後を追おうとする……けど。

 

少し、待ってくれないだろうか。

 

「お兄さん?」

 

自分の声が訊き届いたのか、レヴィちゃんは此方に振り返ると、なんだろうとフワフワと浮かびながら近付いてくる。

 

法衣まで自分とそっくりな事に驚いているのか、フェイトちゃんの警戒する顔付きが怖い。けど大丈夫だと心配かけないよう声を掛けるとその警戒心が僅かに弛んだような気がした。

 

……時間は掛けられない。空の向こうではディアちゃんの早く来いという急かせる言葉にレヴィちゃんも焦り始めている。だから、これ以上言葉を交わす事はなく、俺はレヴィちゃんにシュークリームの入った袋をそのまま手渡した。

 

「え? ……お兄さん。これって」

 

袋を手渡され、中身を見たレヴィちゃんが目を丸くして自分を見る。頷く自分に何かを感じたのか、レヴィちゃんは一瞬だけ涙ぐみ……。

 

「ありがとうお兄さん。……さようなら」

 

そんな別れの言葉を残して、レヴィちゃんは今度こそ振り返らず、ディアちゃんと共に空の向こうへ消えていった。

 

…………セイバー。

 

「む? なんだ奏者よ」

 

桜に電話して、今夜は遅くなりそうだから先にご飯を食べててくれと伝えてくれ。

 

「うむ。分かっ───まて奏者よ。今……なんと言ったのだ?」

 

え? いやだから今夜は遅くなるから……

 

「な、なんと! まさか奏者から逢瀬の誘いを受けるとは! う、うむ。そういう事なら仕方あるまい。余も覚悟を決めるとしようではないか!」

 

なんかエラい気合いの入った様子で携帯で電話しているが……一体どうしたのだろう。

 

まぁ、それは今は置いておく。それよりもフェイトちゃん。

 

「あ、はい。なんでしょうか?」

 

君達の今住んでる所って、確かリンディさんもいるんだよね。

 

「はい。今調度その人と話していますけど……それが何か?」

 

なんと、先程から耳に手を当てて何をしてるのかと思ったけど……成る程、これが念話という奴か。

 

便利そうだ。今度自分にも出来ないか教えて貰えないかな。っと、話を逸らしてしまった。フェイトちゃん、リンディさんに伝えてくれ。

 

「は、はい……なんでしょう」

 

話したい事があるから今から其方に向かう。待っていて欲しいとだけ。

 

その事を告げると、フェイトちゃんは素直に頷き、念話越しでその旨を伝えると、自分に向き直り付いてきて下さいと歩き始める。

 

アルフもいつの間にか子犬の姿へと変え、主人の横をテクテクと歩いていく。

 

セイバー、連絡は取れた?

 

「うむ! 万事抜かりなく! さぁ、参ろうではないか!」

 

なにやらホクホクとした様子のセイバー。何か良いことでもあったのだろうか?

 

だが、それを詮索している余裕はない。戦闘機人、レヴィちゃん達闇の欠片、そしてそれに協力する謎の人物。

 

雲行きが怪しくなってきた今、少しでも協力を得る為に、自分は管理局の提督なる人に助力を仰ぐ事にした。

 

そこで、更なる混沌があるのも知らずに────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんですって!? セイバーさん、それはどういう!?」

 

夕食時前。もうそろそろアーチャーの料理が完成しようとした所、食器を並べていた桜の所に携帯の着信音が鳴り響く。

 

なんだろうと電話を取り二、三回程頷いた桜だが、あるキーワードを耳にした途端表情を真っ赤に染め上げ、電話越しにいるセイバーに怒鳴りにも似た叫び声を上げる。

 

「うわ、びっくりしたー。いきなり大声だしてどうしたのですか桜さん」

 

思わず同席していたキャスターもこれには驚き、尋常ではない様子の桜に問いかける最中ふと思う。

 

(まさか、ご主人様の身に何かが!? いえ、喩えそうであったとしてもご主人様にはセイバーさんがいる筈。セイバーさんがヘマをするのも疑問に思いますし、何よりご主人様は未だ制限はあるものの礼装も使用可能となっている。そんな二人がそう簡単に足下を掬われるのは考えにくいし……)

 

主人である白野の事になるとその思考速度をトランザムさせるキャスターだが、明確な解は得ることはない。

 

言いし難い不安、携帯をしまいギギギと振り向く桜にキャスターにも緊張がはしる。

 

「い、今セイバーさんから連絡があって……」

 

「そ、それでご主人様は!? ご主人様はどうしたのです!?」

 

ここまで彼女が動揺するのは珍しい。昔の彼女を知る者が見れば目を疑う程の光景だ。

 

ゴクリ、キャスターは生唾を飲み込み緊張した様子で桜の次の言葉を待っていると。

 

「“奏者の貞操は戴いた”と、それだけ────」

 

瞬間、一匹の狐がマンションから飛び出した。

 

 




やはり、ギャグはいい。ギャグはリリンが生み出した文化の極みだよ。

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