それ往け白野君!   作:アゴン

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今回、やや短めです。


闇の欠片

 

 

 

 

 どうもこんにちは、岸波白野です。ピチピチ暗殺者達となイサコザの後、雷刃の襲撃者ことレヴィちゃんを回収してはや二日、やっとトーレから受けた傷も癒え、これから翠屋に行って士郎さん達に顔出しに向かおうとしたのだが────。

 

「なっ!? フェイトが……二人!?」

 

「お、お前が私のオリジナルか、よし、今すぐ勝負だ! 私が勝ったら……えっと、その髪型を変えて貰うぞ!」

 

「え? ……え?」

 

「奏者よ、見よ! 同じ顔が二人もいるぞ! 余は知っているぞ、これを世間ではドッペルゲンガーと言うのであろう!」

 

現在、どういう訳かマンションの出入り口前で絶賛カオスの真っ最中である。

 

事は数分前、バイトに休みの謝罪と暫く来れそうに無いことを伝える為に外出の支度をし、バイト先を見てみたいというレヴィちゃんの要望に応え、護衛のセイバーを連れて出掛けるつもりがマンションの自動ドアを潜った所でフェイトちゃんとアルフちゃん、そして何故か一緒のアーチャーとユーリと遭遇。そしてそのまま現在に至る、という事である。

 

というか、マジどうしたの? アーチャーは兎も角としてユーリまで朝帰りとは……何か事情があるのだろうけど、少しこれは頂けないのでは?

 

「え、えっとその……」

 

「マスター、彼女に非はない。言い訳になるだろうが私の話を聞いて欲しい」

 

困り顔のユーリを庇うように、アーチャーが事の倣わしを語ってくれる。

 

 アーチャーの話では、昨日リンディさんと話をする為にとある料亭で会合し、先の闇の書事件に関して謝罪と感謝の言葉を話してきたという。

 

ただ、話の途中でギルガメッシュが余計な茶々を入れ始め、何やら物騒な話をし始めたという。

 

止めに入ったアーチャーだが、ギルガメッシュに無理矢理呑まされた酒によりダウン、その場はユーリが介抱していたがギルガメッシュが帰った後、残されたどうしようもない空気の中、リンディさんは自分の家に来るよう進め、その日一晩お世話になったらしい。

 

……なんというか、うん。ホント色々申し訳ないです。近い内リンディさんには挨拶を兼ねてお礼を言いに行った方がいいのかもしれない。

 

唯でさえ闇の書事件で多大な迷惑を掛けたというのに、未だ連絡すらしていないのは流石に失礼かな。バイトや特訓、日々の生活で忘れていたが………もしかして自分、結構ヤバい事している?

 

と、内心でビクついていると、服の袖に何かに掴まれる。何だと思い視線を向ければ、そこには俯いたユーリが自分の服を握っていた。

 

まる一晩いなくなった事で自分に怒られると思ったのだろう。その暗い表情をするユーリの頭にそっと手を載せて「怒ってないよ」と出来るだけ優しく声を掛ける。

 

するとユーリは一度自分の顔を見ると、頬を弛ませて頷く。安心して気持ちが緩んでいるのかその頬は若干朱くなっている。

 

……うん、ウチのユーリマジ天使。こんな子にお父さんと呼ばれても満更でもない自分がいる。

 

ひとまずこれでアーチャー達の疑問は解決した。フェイトちゃんとアルフが来ているのもそんな二人の送りに来たと何となく理解できる。それにギルガメッシュも丸一日帰って来ないのはそう珍しくもないので放置。只、残されている問題は……。

 

「いい加減にしな! 私のフェイトはねぇ、アンタみたいにそんなアホ丸出しなんかじゃないんだよ!」

 

「なにをー! 犬の癖に生意気だー! それに僕はアホじゃなくてレヴィ! 強くてカッコいい大人の“れでぃ”なんだぞー!」

 

「あ、あの、二人とも喧嘩は止め……」

 

この混沌の空気を、いい加減何とかしなくてはならないという事だ。フェイトちゃん、時々此方に助けをチラ見してくるし、どうやら本気で困っているみたいだし。

 

ただ、いきなり自分とそっくりな人間が目の前に現れても変に殺伐とした空気にならないのはそんなアホ……いや、純真なレヴィちゃんの人格の賜物なんだなぁと思いつつ、三人の間に割って入る。

 

これこれいかんよレヴィちゃん。あんまり人様に噛みついては。

 

「何だよお兄さん、邪魔しないでよ!」

 

……またほっぺたムニムニされたい?

 

「サーッ! 大人しくしますサーッ!」

 

自分の説得に大人しくなったレヴィちゃん。軍式の敬礼までするのは少しやりすぎに思えるが……まぁいいだろう。

 

取り敢えずここで立ち話をするのも何だし、皆で行くとしようか、フェイトちゃんとアルフは見送りの途中という事で……。

 

「は、はぁ……」

 

「私はフェイトがいいなら構わないけど……」

 

 レヴィちゃんを大人しくした事で本日の方針は決まり、ひとまずは翠屋に向かう事にする。アーチャー、ユーリはキャスターと桜と一緒に留守番の方を頼みたい。

 

「はい。分かりました。気を付けて下さいね」

 

「セイバーがいるから大事ないと思うが、努々気を怠らぬようにな」

 

アーチャーの台詞に分かってると軽く応え、自分達は喫茶翠屋へと向かう。

 

…………所でセイバー。

 

「む? どうした奏者よ。何か悩み事か?」

 

悩み事というより疑問なのだが、どうして今回はキャスターは自ら進んで留守番役を選んだのだろうか?

 

「さぁ、良くは知らぬが……何でも奏者の部屋を掃除するからと言っていたな」

 

あぁそうなの? キャスターに申し訳ない事したな。翠屋から帰るときは桃子さんのシュークリームをお土産に買っておこう。

 

と、キャスターに対して感謝の気持ちを感じると同時に。

 

「ヌフフフフ、ここがご主人様のお部屋~♪ 香しい匂いがプンプンするぜぇぇ!! さて、では先ずは枕の交換から始めるとしましょう。………クンカクンカ、クンカクンカ」

 

………何故だか、途方もない悪寒を感じるのは自分の気の所為か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翠屋での一時は少々の波乱を呼びながらも比較的平和に過ごせる事が出来た。

 

最初はバイトを休んでしまった事への謝罪ともしかしたら頻繁に休んでしまうかもしれないという報告。特に後半の方は流石の士郎さんでも一言文句を言われるかと覚悟していたが、此方をジッと見つめた後士郎さん特有のスマイルを浮かべコレを承諾。

 

余りにも器の広さと深さに思わず聖人君子か何かと錯覚してしまう。…………や、聖人と付いた人にはマトモな思い出はないから比較出来ないが。

 

流石に休みの間はバイト代は出せないとか言ってたけど………士郎さん、それ普通だから。一般常識だからそんな申し訳ない顔しないで欲しい。マジで良心が痛むから、胃が痛くなるから。

 

などと冗談混じりの会話を交わしながら、せめてもの償いとお店への貢献として昼食はここで取ることにし、メニューにあった桃子さんの手料理をご馳走になる。

 

その時レヴィちゃんを紹介すると、士郎さんは驚きの表情でフェイトちゃんと見比べる。咄嗟の思い付きで出したフェイトちゃんの妹発言にフェイトちゃんもレヴィちゃんも驚愕。特にレヴィちゃんは納得がいかなそうに抗議してきたが、セイバーにハグさせる事で黙らせる。

 

その後、昼食を取っていた最中に店内に現れたなのはちゃんと二人の少女、アリサちゃんやすずかちゃんとやはりレヴィちゃんの事で一悶着あったが、その辺りはセイバーのハグで解決。流石はハーレムを築いた皇帝様、守備範囲は広い。本人はお持ち帰りをしたいと言っていたが、そこは流石に自粛せよと言い聞かせる。

 

そんなこんながあり、翠屋から抜け出した自分達は今、フェイトちゃん達を送っていこうと海岸沿いの道を往く。

 

 日は沈み掛け、夕焼けの光が街に本日最後の光を照らしているのを眺めながら、ふと思う。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

空気重っ! 何この空気! 何で皆黙ってるの? 翠屋でキャッキャと賑わっていた空気は何処へ行ったの!?

 

「奏者よ。騒いでいたのは基本的余だけだったぞ?」

 

知ってるよ! というか自分でそういうことを言わない! 余計悲しくなるでしょう!

 

「余はどこぞの青と違って豆腐メンタルではないからな。この程度の自虐は屁でもないぞ」

 

いやそんな胸を張って言う事じゃないから、あと青ってなに? 誰のことを言ってるの? いや、それ以前に無意味な誹謗中傷は止めなさい。色んな人に怒られるから。

 

「そろそろ説明して」

 

自分とセイバーの漫才に突然冷たい声が場の空気を貫く。恐る恐る振り返ると鋭い眼差しとなったフェイトちゃんがレヴィちゃんに向けて斧を突き付けて凄んでいる。

 

「一体アナタは何者? どうして私と同じ格好をしているの。応えて」

 

先程以上に冷ややかな口調になるフェイトちゃん。修羅場と化しつつある空気をどうにか和らげようと間に割って入るが………。

 

「よく言うよ。ホントは分かってる癖に」

 

レヴィちゃんもまた、フェイトちゃんと色違いの戦斧を取り出す。セイバーも物騒な空気に流石にふざけては入られなくなったのか、自分の前に立ち彼女達から下がらせようとする。

 

「僕はレヴィ=ザ=スラッシャー。“雷刃の襲撃者”お前達が滅ぼした闇の書の闇、ナハトの残した闇の残滓だよ」

 

吐き捨てるように出てきた彼女の一言にこの場にいる全員が息を呑む。闇の書の闇、つまり目の前の少女はギルガメッシュが消した筈の…………。

 

「闇の───欠片」

 

フェイトちゃんのその呟きに、胸の奥底がドクンと脈打った。─────有り得ない。だって暴走体はギルガメッシュが跡形も残さずに消した筈。

 

「そう、僕達は暴走体の肉片ごと塵に還る筈だった。けどね、あの金ピカの放ったバカみたいにデカい力の所為で空間は直前に崩壊。ある事が切欠で自我が目覚めた僕達はその時出来た空間の亀裂に逃げ込む事でどうにか生き延びる事ができたのさ」

 

淡々と此方の疑問を応える彼女の言葉が、否定する自分の心にストンと入り込んでくる。

 

空間の亀裂、その事自体は初めて訊かされる言葉だが、レヴィちゃんの表情が嘘ではないと告げている。

 

「なら、どうしてアナタは私と同じ格好をしてるの。闇の欠片が自我を持っていたとしても、それだけでは説明がつかない」

 

「それは………」

 

「レヴィ、そこまで語る必要はない。そこの塵芥は我が消滅させる」

 

 瞬間、第三者の声がレヴィちゃんの言葉を遮ったと同時に、大量の魔力弾が降り注いでくる。

 

「フェイト!」

 

「っ!」

 

「奏者よ、余の後ろから動くなよ!」

 

咄嗟の行動が出来たのは、フェイトちゃんの使い魔であるアルフと剣のサーヴァントであるセイバーだった。

 

アルフちゃんが魔法障壁を張り、セイバーが瞬時に顕現させた剣で全て払い落とす事でなんとか防ぎきり、それに比例するように辺りはチーズの様に穴だらけとなっている。

 

一体何がどうしたのかと思い、魔力弾が飛んできた方角へ視線を向けると────驚きと同時に何故だか納得してしまった。

 

何故なら。

 

「全く、探しましたよレヴィ。アナタの所為で余計な時間を過ごしました」

 

「ぶー、そんな怒らなくてもいいじゃん。けど、ありがとねシュテル、王様、二人とも来てくれたんだ」

 

「当然だ。臣下を纏めるのは王である我の努め。あとは……残った塵芥を消すのみよ」

 

自分が良く知る女の子と、同じ顔をしていたのだから。

 

 




今回は珍しくシリアスで終わった。

次回はその反動が………来る?

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