それ往け白野君!   作:アゴン

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今回、色々グダグダです。



深まる疑惑、広がる誤解

 

 

 海鳴市のとある料亭、海に面した所謂高級料理店と呼ばれる店で、一際目立つ男女が座敷部屋で相対するように座っていた。

 

女性の方はリンディ=ハラオウン。先の闇の書事件と因縁のある人物であり、次元航空艦船アースラを統括する提督という役柄を担っている。

 

そんな立場のある人間と相対するのは、岸波白野のサーヴァントであり、守護者であるアーチャーと。

 

「ふむ、雑種の店というから期待してはいなかったが、存外愉しませてくれるではないか。我の舌に合わねば店ごと吹き飛ばすつもりだったが……これが穴場という奴か。おい、そこの雑種、次の料理を疾く持って来い。王の直々の命だぞ。急げよ、出なければ貴様の首だけではなく店ごと吹き飛ばすつもりだから覚悟しとけよ」

 

「は、はいぃぃぃぃ!!」

 

「………済まないな、気にせず続けてくれ」

 

「は、はぁ」

 

料亭の料理を全て注文するという暴挙を行っているのは言わずもがな、英雄王である。彼の傍若無人の振る舞いにアーチャーはスルーし、リンディに気にしないでくれとだけ告げる。

 

リンディはリンディでどうしたらいいか分からず、取り敢えず頷いておくだけにしておく。

 

そして、全く関係ないのに英雄王に絡まれる仲居さん……ドンマイ。

 

「それで、その提督が何故私の携帯に連絡してきたのか、そこからの説明を求めようか」

 

 隣でドンチャン騒ぐAUOを視界の端へと消し、アーチャーはリンディに敵意の籠もった視線を向ける。マスターである白野に八神家に向かうなどと嘘を付いてまでユーリを連れて来ただけではなく、いきなり此方を呼びつけて来たのだ。この程度の対応は当然だろう。

 

それは向こうもそれを承知していたのか、リンディは困った風に微笑むと今度は深々と頭を下げて謝罪をしてきた。

 

「この度は私の勝手な呼び掛けに応えて下さり、誠にありがとうございます。それに、先日の闇の書事件に関しての事も含め、改めて謝罪させて下さい」

 

「……いや、その件に関しては此方も済まなかった。貴女の息子、クロノ君にも言ったかもしれないが、本来なら我々は部外者だ。巻き込まれたとは言え貴女達からすれば未知の勢力が介入してきたと怪しむのも無理もない。故に、その事に関しては我々も、そして我々のマスターも気にしてはいない。それに……此方も色々やらかしているから、立場的にはおあいこだ」

 

リンディの謝罪にアーチャーは前にもこんな事あったなとデジャヴを感じながら返答する。12月に起きた闇の書事件、その時起きたBB達と管理局の衝突は白野には未だ明かされていない。

 

その事実を知るのはアーチャーとギルガメッシュ、そして桜しか知らない。ただ、勘の鋭いキャスターなら何となく察しているみたいだが……。

 

アーチャーの事情を察したような態度にリンディは顔を上げ、苦笑いを浮かべる。

 

「そう言って戴けると此方も有り難いです。本当は岸波白野さんご本人に挨拶に向かいたかったのですが……何分、事後処理に追われて」

 

 心底疲れたと溜息を零すリンディに今度はアーチャーが苦笑い。闇の書事件に関する報告を殆ど偽造、隠蔽、捏造に近い形で上層部に報告したのだ。組織に属する彼女の心労は計り知れないだろう。

 

それに仮に事後処理がなくとも岸波白野の住むマンションの管理は殆どがBBが管理し、警護している。もし見知らぬ者、或いは入るのを許さない者がうっかり侵入したりすれば、それは恐ろしい結末を意味している。

 

一度誤ってハッキングをしてその脅威を嫌と言うほど味わったアースラの乗り組み員達は二度と彼等と関わりたくないと思うだろう。

 

それほどまでにBBという存在が恐ろしかった。そして、そんな彼女を従順させる岸波白野という少年に対しても……いや、或いはそれ以上に。

 

たとえそれが岸波白野自身が預かり知らぬ誤解であったとしても。

 

 リンディ提督は岸波白野に対し直接謝罪をしたいと言った。けれど、アーチャーが代わりに言っておくと提示した途端彼女の態度は緊張が解かれたものとなった。

 

彼女も恐れているのだ。無意識の内に岸波白野という情報、或いは映像越ししか知らないその人物に対して闇の書以上の畏怖を感じている。

 

だから事前に彼女が保護しているフェイト=テスタロッサの友人の高町なのはを経由して、アーチャーの連絡先を入手するというまどろっこしい手順を選んでいるのだ。

 

まぁ、BBの恐ろしさ……ゲフンゲフン、純情さを知っているアーチャーとしては苦笑いを浮かべる事しか出来ないのだが。

 

 やはりここは誤解を解くべきか、アーチャーはリンディに自分の知る岸波白野という人物に付いて語ろうとするが……。

 

「あぁ、その判断は間違っていない。良かったな女、貴様のその対応は空に浮かぶ雑種共の命を救ったぞ」

 

「…………え?」

 

それを、隣の英雄王が遮った。

 

「ぎ、ギルガメッシュ?」

 

「女、確かリンディとか言ったな。お前の中にある岸波白野の人物像は殆ど間違っていない。いや、寧ろまだ足りん所かな」

 

「そ、それはどういう……?」

 

「ハッ、白々しい態度はよせ。貴様の考えることなどとうに見抜いておるわ。大方、我がマスターを危険視しておるのだろう?」

 

「────っ!」

 

「おい貴様、何を勝手……ふぐっ!?」

 

ギルガメッシュのその言葉にリンディの表情が僅かに強張る。目の前の男の鋭い眼光に当てられ、リンディは身震いしながら自身を強く持ってその眼に抗う。

 

アーチャーはいきなり物騒な物言いをするギルガメッシュに何をするつもりだと問い詰めるが、彼の投げつけてきた酒瓶を突っ込まれ、あえなく轟沈。

 

 倒れ、目を回すアーチャーに一瞬だけ一瞥するが、リンディはこのギルガメッシュという男から視線を逸らす事が出来なかった。

 

緊迫する座敷空間、既に追加注文を出し終えた為、仲居さんはここにはいない。ホント、危ない所である。

 

「岸波さんがどういう人物か、フェイトさんやなのはさんの証言で一通り聞いています。大層な人格者で人に危害を加えるような人間ではないと聞き及んでいますが……」

 

「ふむ、まぁ確かに我が雑種は人畜無害な人種に分類されるが……何も博愛主義者ではない。相手によっては敵意を見せる事もあるだろうさ」

 

おちょこを片手に英雄王は微笑を浮かべ、目を細めてリンディを流し見る。……その赤い眼が獲物を見つけた蛇の様な眼をしているのは、彼女の気の所為だろうか。

 

「私達に彼と……いえ、彼等と敵対する意志はありません」

 

「であろうよ。でなければ今頃貴様等は生きてはおらん」

 

サラリと危険な事を口にする英雄王にリンディは複雑な感情を抱く。……そもそも、先程からこの男は一体何が言いたいのだろう?

 

リンディ自身とて、交渉や言葉を交えてのやり取りなら多少覚えはある。だが、目の前のこの男からはそのような心算は一切感じ取れない。

 

先程からの挑発しているような口振りはまるで此方の反応を愉しんでいるような……そんな印象が伺える。

 

ゴクリ、唾を飲み込む音が嫌に耳朶に残る。目の前の男の考えが読み兼ねているリンディ、すると英雄王は突然クハハハと笑い声を上げて。

 

「クハハハ、良い。未亡人の焦りの入った表情、存外に愉しめたぞ」

 

「………は?」

 

笑い声と共に吐き出される言葉に、リンディは一瞬呆然となった。一体この男は何を言っている? そんな疑問で頭が埋め尽くされていると。

 

「どうだ? 我がAUOジョークは? 王の前だが特に赦す、好きに笑うがよい」

 

一体今のどこに笑える箇所があったのだろうか。疑問に思うリンディだが……。

 

(止めておきましょう、きっとまた余計な事になる)

 

 出会ってまだ一時間も掛かっていないのに、ギルガメッシュの事を何となく理解したリンディだった。

 

「さて、我がAUOジョークに場が温まった事で、本題に移るとしよう。女、貴様が今回我を呼んだのは……海上に浮かぶ“亀裂”の事か? それとも、戦闘機人なる俗物の事か?」

 

「っ!?」

 

突如、英雄王から放たれた言葉にリンディの眼が大きく開かれる。驚愕を露わにする彼女の表情にギルガメッシュは面白いモノを見つけたようにその口を三日月に歪ませる。

 

「戦闘………機人、ですって?」

 

「お、どうやら知らなかったのは其方のほうか。なに、先日我が雑種がそう名乗って襲いかかってきたようでな。……その分だと何も知らぬようだな。では話を変えよう」

 

「ちょ、ちょっと待っ………」

 

いきなり出てきた戦闘機人という存在、そしてその存在に岸波白野が襲われたという事実、またもやサラリと重大事項を口にするギルガメッシュにリンディは問い詰めようと席を立つが────。

 

「話を変えると言った。二度目は無いぞ、女」

 

その言葉に、その眼に、何一つ返せる言葉は無かった。血のように赤いその眼、有無を言わせないその振る舞い。────暴君、リンディの脳裏にそんな単語が思い浮かぶ。

 

先程理解したような気がすると言ったが、あれは誤りだ。リンディ=ハラオウンの眼ではこの男の素性など計り知れない。

 

だが一つだけ、あえて一つ分かっているモノがあるとすれば、それは……。

 

(このムチャクチャな男ですら、彼は御しているということか………)

 

岸波白野、リンディの頭の中に浮かぶ彼の人物像がまた一つ変わった瞬間だった。

 

 そして頭の思考を切り替え、リンディはギルガメッシュの語るもう一つの案件に付いて耳を傾け、言葉を紡ぐ。

 

「女、一つだけ聞こう。あの海上に浮かぶ亀裂、アレは先の雑念を祓った際に生まれた歪み、それで相違ないな?」

 

「………はい。より厳密に言えば闇の書の暴走体を破壊した際の衝撃により生み出された“名残”のようなモノ、今は結界で隠していますが……」

 

「崩壊するのは時間の問題か。全く、力を奮おうにも世界の方が耐えられんとは、強力過ぎるのも考え物よな。……やはり一時のノリで出すべきではなかったか」

 

 英雄王とリンディの語る亀裂、それは以前ギルガメッシュが闇の書の暴走体を破壊する際に使われた乖離剣による影響で生まれた弊害だった。

 

リンディの語る話だと、英雄王の放った一撃は異界化した世界ごと暴走体を消し飛ばすだけには留まらず、現実の世界にさえ破界の爪痕を残し、今なおジワジワと広がりつつある。

 

傷痕が広がった所でどのような影響が出るかは見当つかないが、万が一があってからでは遅い。その為、リンディは警戒するようアーチャーに呼び掛けたのだが。

 

「………それにしても、大した慧眼のお持ちですわね。まさか結界を施した空間を看破するとは、流石に思ってもいませんでした」

 

「たわけ、この世の天地の全ては余すことなく我の物だ。自身の所有物がどうなっているかの程度など、見極められなくて何が王か」

 

相変わらずの超上からの目線。だが、目の前の男にはそれを言っても納得できるほどの説得力が彼にはあった。

 

「して女、話はそれで終わりか? ならば我は帰る。ここにいても大した話は聞けそうにないのでな」

 

 酒を飲み干したギルガメッシュは鼻を鳴らしながら立ち上がり、部屋を区切っていた襖へと手を伸ばす。その様子を眺めていたリンディは一瞬だけ戦闘機人についての情報を聞き出そうとするが……止めた。

 

この男は悪鬼だ。それも己が愉しむ為なら善悪を問わず食い物にする程の……。ここで下手に問いを投げ掛ければ無礼の一言で殺しに来ていただろう。あの男は────そういう存在だ。

 

たった数十分、会談と呼ぶにはあまりにも短い時間だったが、ギルガメッシュという男に付いて知れたことが今回の会談のある意味では一番の成果なのかも知れない。

 

ただ一つ、問題があるとすれば……。

 

「アーチャー、しっかりして下さい」

 

「ぐ、むう……」

 

「すいません! ご注文の品、お持ち……て、あれ?」

 

この混沌とした空気を、どうやって処理をすべきかという事だ。

 

 

 

 

「くく、これであの女も我が雑種に対して警戒するだろうよ。そうすれば自ずと今回の裏に潜む輩の正体も明らかになる。……さぁ、ここからはお前の仕事だぞマスター、貴様の足掻きを存分に見せて貰おうか」

 

暗闇の中を、黄金の王が一人あざ笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、街の反対側に面している山中。人気のない森林の中、機械的な音が鳴ると同時に電子の画面が暗闇の世界に灯りを付ける。

 

「─────以上、この世界に来て我々が体験、経験した大まかな情報だ」

 

『そう、まさか生身の人間が戦闘機人を倒すなんて信じられないけど、貴女が言うのなら間違いなさそうね。………それで? クアットロは?』

 

「今は周囲の警戒に当たらせている。……なにやら藁の人形と小槌を持っていたのが気になったが、特に問題はないだろう」

 

『そ、そう。……それで、貴女は今回の任務、どう思う?』

 

画面の向こうにいる女性の問いに女────トーレは一度腕を組んで考えた後、素直にその言葉を口にする。

 

「……率直に言えば厳しいな。夜しか動けないという点もそうだが何より戦力が足りない。この街には他にも高戦力を有した魔導師も何人かいるみたいだし、搦め手としてももう一つ欲しい所だ」

 

『そう、ならやはり彼女達の力も必要みたいね』

 

「彼女……達? まさか、No.2だけでなくNo.5の事か? No.5はまだ稼動して日が浅いし、No.2は別件の任務があっただろ? 大丈夫なのか?」

 

画面の女性の言葉にトーレは意外な物を見たような物言いで問い掛ける。そんな時、トーレの隣に今まで沈黙を保ってきた空間に突如、第二のモニターが展開され、そこには青紫の髪と金色の瞳が特徴的な白衣の男が映し出されていた。

 

『それなら問題ないよトーレ、既にNo.5の稼動は正常に安定しているし、先日侵入してきた部隊を壊滅させた所さ、戦闘方面の能力はざっとSクラス、戦力としては十分だと思うよ』

 

「ドクター?」

 

画面に映るドクターと呼ばれる青年にトーレは驚愕の声を上げる。サラリと部隊に侵入とか壊滅とか不穏な単語が出てきて焦ってしまうが、ドクターの無事の姿を見て大事ないのだと悟る。

 

『ドゥーエの方も少し現地から離れさせて上げたかったからね、彼女の力もあれば今後は多少動ける筈だよ』

 

「了解しました。ですがそちらは大丈夫なのですか? 部隊というからには我々の基地もそれなりに損害があったと思いますが……」

 

『いやね、実は今回の介入で研究所があちこち壊されてね、ここではもう研究は続けられないからね。幸いデータや次の個体は残ってあるから場所を移して再開発するつもりさ』

 

成る程とトーレはドクターの説明に何となく察しが付き、頷く。恐らくは場所を移るに当たり余計な荷物を持たないようドクターが配慮した采配のようなものなのだろう。

 

ドゥーエを此方に寄越すのも移設した研究所の座標を送る為に必要な処置、No.5という新たに配置される戦闘機人の投入も新たな実戦データが欲しい為。

 

ドクターの考えを半分ほど理解したトーレだが、ここで新たに別の疑惑が浮上する。彼女はこの疑惑を解消する為、彼に疑問を投げ掛ける。

 

「ドクター、一つお聞きしても?」

 

『構わないよ。何が聞きたいのかな、トーレ』

 

「はい。今回の遠征、確かに無限の力を有する“砕け得ぬ闇”はドクターからすれば魅力的に見えますが、その……そこまでして入手すべき代物なのでしょうか? ドクターならばそれに近しい物を造るのも、そう難しい事ではないと思いますが」

 

 自分達を生み出したドクターは天才だとトーレは自負する。それは生みの親だからとかいう贔屓ではなく、彼の出自を考えての当然の答えだ。

 

嘗て存在したとされる伝説の地、“アルハザード”彼はそこにあったとされるデータ下に『管理局の一部の人間達の手によって』生み出されたデザインベビーである。

 

無限の欲望。それが彼に植え付けられた因子であり、楔である。

 

その彼がそこまで執着する“砕け得ぬ闇”、トーレは思い切って訊いてみると。

 

当の本人は顎に指をおいてうーんと呻き。

 

『いや実はね、もう一つ興味深い物が出来たんだ。今回の戦力は謂わばその為に投入したと言ってもいいね』

 

「興味深い物……ですか?」

 

『そう。確かキシナミハクノと言ったかな? 個人的に興味が湧いてね。─────ちょっと、連れてきてくれないかな』

 

キラリと、無限の欲望の瞳が妖しく煌めいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ハックション!

 

「お兄さん、風邪ー?」

 

いや、多分違うと思う。誰かが噂してるのかな?

 




ギアーズの出番はもう少し先になりそう。
それと、多分未来組の出番は……ありません。
すみません。

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