それ往け白野君!   作:アゴン

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暗き死闘、読みの本領

 

 

 それは、今の事態に陥る数時間前の事。バイトに向かう自分に桜と話した内容にあった。

 

 

────礼装召喚アプリ?

 

「はい。先輩の携帯にはあの月で手に入れた全ての礼装を召喚出来るシステム……通称“礼装召喚アプリ”のダウンロード準備が施されています」

 

………まぁ、人の携帯に勝手に何をしているのとか、そんな野暮な質問は置いておこう。礼装、つまりあの世界で使っていたコードキャストがこの現実世界でもそのまま使用可能となるのか?

 

「そうですね。今は準備段階ですから何とも言えませんが、もしかしたらより現実的な仕様になるかもしれません」

 

現実的な仕様? それはつまり……どういう事だってばよ?

 

「つまる所、電脳世界にあったモノが現実世界に具現化される事により物質の法則、或いは世界の概念とも呼べる枠に収まり、概要通りの仕様になるものや、下手をすれば宝具級の代物になるものもある。という事です」

 

桜の真剣な表情にゴクリと息を呑む。もし彼女の言っている憶測が事実で、且つ現実的になったらその礼装によっては現実世界に干渉され、そのランクを底上げされるということなのだ。

 

───いや、正しくは“本来の代物”として変換されると言った方が正しいのか。

 

どちらにせよ、心当たりのものが幾つかある自分としてはなるたけ使用は控えたいとこの時思った。

 

下手に使って物騒な組織や団体の目に留まれば無用な争いの元になるやもしれないし、元より自分自身使うつもりは殆どなかった。

 

闇の書事件も終結し、今は平和と言ってもいいほど穏やかな日々を過ごしている。そんな中、幾ら新しい力を奮いたいと理由で礼装を使うのが何だか忍びなく思ったからだ。

 

無論、礼装は使ってこそ価値のあるものだ。何らかのトラブルに巻き込まれたり、そんな自分だけの力で乗り越えなければいけない時に使えるモノが使えないままではそれこそ宝の持ち腐れになる。

 

アーチャーにも相談し、礼装に関する訓練も受けたいと思ってはいるが……やはり。

 

「躊躇しちゃいますか?」

 

自分の顔を心配した様子の桜が覗き込んでくる。そんな彼女にそうだなと頷く。

 

「先輩のその感性は間違っていないと思います。貴方は無用な力を行使するのは是としない人、それは皆さんもよく分かっています。だから……」

 

─────桜?

 

「その礼装は先輩が……先輩自身が必要だと思った時に使って下さい。貴方が守りたいと思うモノ、人の為にその力を行使して下さい」

 

此方を真っ直ぐに見つめて来る桜に笑みが零れる。結局の所、礼装使用についての判断は自分に任せると言っているのだ。やれやれと呆れながらも、そこまで自分を信用し信頼してくれる桜に応えられるよう頑張るとするかと、内心で意気込む。

 

そんな事を思いながら、携帯の中に組み込まれた新たな───けれど嘗ての力達に視線を落とす。

 

ダウンロード中と書かれ、点滅しているその様は……まるで脈動し、胎動しているようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体、何が……起きたの言うのだ?」

 

吹き飛ばされ、地に膝を付いた暗殺者が少女を通して自分に驚愕の視線と疑問ををぶつけてくる。

 

少女は瀕死だった。それこそ指先で押せば倒れる程に……だが、それは自分という第三者が介入した事で覆された。

 

 今一度、自分の手に握り締められた鈍い光沢を放つ錆びだらけの刀に視線を向ける。“錆び付いた古刀”この礼装の効果は対象の筋力を強化させるというシンプルながらも確かな効果を発揮させる優れモノだ。

 

そして暗殺者が狼狽している内に更なる手を講じる。ポケットに入れた携帯を相手に気取られないよう注意しながら握り、念じる。

 

彼女の筋力を強化したのは、一時的な応急処置に過ぎない。まだ自分の手札を完全に把握出来ていない状態で押し切れる程、向こうは甘くない。

 

故に、此方の次なる手段は────。

 

「“鳳凰のマフラー”」

 

消え入りそうな自分の呟きとは対称的に、首辺りに暖かい感触が広がっていく。見ればシルクの中に鳳凰の羽をあしらった見た目はお洒落なマフラーが自分の首に巻き付いて風に靡いている。

 

向こうは新たに装備を変えた事に更に驚いている。────悪いが、その隙を利用させて貰う。

 

「heal!」

 

回復という意味の言霊を叫ぶと少女の躰の傷の何割かが癒され、顔色も僅かだが血色の良いものへと変わっていく。

 

「あ、あれ? どうなってんの僕の体!?」

 

勝手に自分の体が力が強くなったり回復したりと不思議な事になっている為か、少女は暗殺者以上に混乱している────お嬢ちゃん!

 

「へ? だ、だれ!?」

 

此方の声に振り返り、初対面の反応に思わず苦笑いを浮かべてしまう。───本当に気付かなかったのね。

 

だが浮かれている暇も余裕もない。自分は少女に前を向くよう言葉を強くして警告すると。

 

「───ち、やはりただ者ではなかったか!」

 

我を取り戻した暗殺者が標的を自分に切り替えて、四肢に生えた羽を展開する。

 

───瞬間、再び暗殺者の姿が消える。同時に音速を超えた爆発音が辺りに響く、彼女は標的を自分に変えた。つまり、ここから先は自分が優先して狙われる立場にある。

 

一秒後に訪れる死に怯えながら、自分は携帯を握り締め古刀とマフラーを消し、次の装備を展開する。

 

「何をするつもりかは知らんが、これ以上はやらせん!」

 

再び眼前に迫る暗殺者、トーレの一撃が自分に迫る。このままでは後からくる衝撃とそれよりも速い斬撃により切り刻まれてしまう。

 

だが。

 

「お前の相手は────僕だろ!」

 

「っ!」

 

蒼い閃光が、暗殺者の勝手を許さない。手にした戦斧に力を込め、魔力によって生み出された障壁が暗殺者の刃を阻む。

 

後からくる衝撃も彼女の張った障壁は突き破る事もなく、自分は一秒後の死を彼女によって回避された。

 

「そこのお兄さん!」

 

うん?

 

「何だか良く分からないけど、お兄さんが僕を助けてくれたの?」

 

障壁を張りながら此方を問いかけてくる少女に、自分ははっきりと応えられなかった。

 

助けたいとは思ったけど、実際助けられているのは此方の方だ。成り行きだがこうして庇って貰えなければ自分は一秒だって生き残れる気がしないのだ。

 

だからその……た、助けるつもりでいました。

 

「ふぅん、変なの。ま、いっか。僕をここまで動けるようにしてくれたのは事実だし、力も何だか知らないけど沸き上がっている。────なら!」

 

「くっ!」

 

力任せに少女は戦斧を奮い、力負けした暗殺者が再び吹き飛んでいく。宙に浮かんで体勢を整える暗殺者は忌々しげに此方を睨み付けてくる。それに対し───。

 

「強くてカッコいい────所謂サイキョーの僕、レヴィ=ザ=スラッシャーがお兄さんを守って上げる! こういうの“ぎぶあんどていく”って言うんでしょ?」

 

少女─────レヴィが満面の笑みと共に此方に振り向いてくる。その幼くも頼もしい笑みに此方も思わず笑みが零れる。

 

だが、楽観は出来ない。相手は一流の暗殺者だ。此方は礼装の補助により一見戦えそうに見えてはいるが所詮付け焼き刃に過ぎない。

 

彼女達程の手練れの戦いとなれば僅かな隙が命取りになるのは、あの月での戦いで思い知っている。

 

つまり、自分というハンデを抱えながら戦う事になるのだ。中途半端な介入は自分は勿論彼女の邪魔にもなりかねない。

 

それに────

 

「あまり図に乗らないで貰おう。貴様を一度地に叩き落としたのは誰か……忘れた訳ではあるまい」

 

「ふーんだ! 弱々の僕に勝ったからって浮かれてるお前なんか怖くないもーん! 今度はこっちがギタギタにしてやる番だ!」

 

考えている最中をレヴィと暗殺者の戦闘によって中断される。二人は剣戟を交えながらドンドン上空へと昇っていく。それに拙いと直感した自分は、近くにあったビルの中に入り込み、ズキズキと痛む左肩を抑えながら、レヴィの姿を見失わないよう屋上へと登っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 肌寒い風が頬を撫でる。もうすぐ春も間近だというのに、ビルの屋上という場所もあってか冬の名残たも呼べる寒さは未だ健在だった。

 

そんな中、頭上では紫の光と蒼い閃光が幾度も激突している。まるで花火が打ち上がっているような煌びやかさだ。

 

以前、なのはちゃんから聞いた話だと、こういう空中戦を高度な飛行戦とか言っていた気がする。

 

 空という絶対的な優勢を取られている以上、自分の行動は限られている。今はなんとか視認できているが、もっと上空を飛ばれたら肉眼での戦況確認は困難になってしまう。

 

レヴィちゃんに掛けた筋力強化の効果も無限ではない。もし本人が気付かずに“錆び付いた古刀”の効果が切れれば……最悪の結末が待っている。

 

どうにかしてその事を伝えたいがここからでは聞こえないだろうし、下手に此方の手を読ませる訳にもいかない。

 

それに、まだ多くの礼装がLockという文字に埋め尽くされている。───これはまだダウンロードが完了していないという事なのだろうか?

 

兎に角、どうにかしてレヴィちゃんとの連携を取らなければ。と、行動に移した時だ。

 

「あらあら、ダメですわよ。貴方はここで無様に地べたに這い蹲って下さいな」

 

───瞬間、背中に鋭い痛みと共に鮮血が舞った。

 

これは、斬られたのか? 一体誰に……いや、知ってる。自分は、この声の主を知っている。

 

「あら? 今ので致命傷を与えたつもりでしたけど、存外しぶといですのね。まるでゴキブリみたい………気持ち悪い」

 

ジジジと、砂嵐と共に何も無いところから人が現れる。それは、先程まで姿を消していた腹黒眼鏡の女───クアットロだった。

 

これは、どういう事だろう。この屋上には誰もいなかった。それは何度も確認したから間違いない筈。

 

だが、事実こうしてこの女は厭らしい笑みを浮かべて自分を見下ろしている。その手に血の付いた短刀を手にして────。

 

いなかった筈なのにここにいる。彼女の能力は“彼”の使った《顔のない王》と同じ能力なのだろうか。

 

「私のIS能力は“シルバーカーテン”私が見せるモノは全て幻、本物などない偽物の世界で微睡みの中で逝きなさい」

 

────なんて考えていると向こうから種明かしをしてくれた。だが、それを教えると言うことは既に王手は打ったと同じ意味だ。自分という不確定要素を抑えた事で、この場の優勢は揺るぎないとこの女は確信している。

 

そして、それはこの上なく正しい。恐らくはこの女は今まで姿を消していた事で此方の様子を伺っていたのだろう。一部始終、その全てを。

 

ならば、レヴィちゃんを急激に回復させた自分の手をも既に見切っている筈。

 

「おっと、そのポケットにある携帯には触れないで下さいね。どのような仕組みかは知りませんが些か厄介な能力を持っていそうなので……」

 

─────本当、嫌になるほど此方の手を読んでいる。自分が携帯から礼装を取り出している所まで見られては手の出しようがない。

 

だが………。

 

「さて、これ以上動かれるのも面倒ですので、貴方にはここで退場して─────貰うとしますかね!」

 

先程までの知的な表情から一変、眼鏡越しからでも分かる狂気の瞳にゾクリと背筋が寒くなる。

 

───あぁ、そうだともクアットロ。お前の見解は全て正しい。

 

自分が倒ればレヴィちゃんの妥当は俄然容易くなる。……いや、お前達からすれば多少の面倒が増えた程度の認識でしかないのだろう。

 

お前のその見解、認識、正しく正解だ。今の自分にはこの状況を打破する手段がない。このままお前の刃を受ければ、虫けらの如く潰されて……そこで自分は終わる。

 

だが、いや……だからこそ。

 

ここで、予め仕込んでおいた手札を切らせて貰う。

 

「────これは!?」

 

 胸元目掛けて振り下ろされたクアットロの刃が、皮一枚届かない。どんなに力を込めても刃は一ミリたりとも動きはしない。

 

どういう原理なのか全く理解出来ないでいるクアットロは、その光景に唖然としていると……。

 

「これは……札!?」

 

岸波白野の胸元に張られた一枚の札に視線が行った。

 

そう、これが岸波白野の現在に於ける切り札“守りの護符”だ。

 

本来ならサーヴァントの耐久を強化するだけの代物だが、この世界に干渉された影響か一時的だが物理的衝撃を遮断する結界が施されるという代物に変わっている。

 

情けない事だが保身目的で張った礼装が意外な所で活躍できた。それに、此方の防いだ一手が効果的だったのか、向こうは今も驚愕している。

 

そしてそれはこの状況を打破出来る十分な……けど、唯一無二の隙となった。

 

痛む体に鞭を打ちながら立ち上がり、体勢を整えながら携帯を取り出す。

 

呼び出すのは再び“錆び付いた古刀”。だが、これはまだこれから繋げるコンボの下準備でしかない。

 

刀を持ち、力を込める。イメージするのは迷宮、アリーナを通して行ったあの光景。

 

「この、人間風情がぁぁっ!」

 

苛立ちを露わにし、怒りの形相で突き進んでくる彼女に───俺は、その一撃を奮う。

 

「“空気撃ち……一の太刀”!」

 

「っ!?」

 

錆び付いた古刀から発する風の魔力放出。これによりクアットロは吹き飛ばされ、屋上の出入り口の扉へ叩きつけられていく。

 

“空気撃ち/一の太刀”本来ならサーヴァントが放つ魔力放出を可能とする礼装。電脳世界では形のない、言わばスキルの一種かと思われた代物だったが、どういう訳か自分にも撃てた。

 

サーヴァント専用だけかと思われた礼装だが、この分だと他の礼装も意外と自分にも作用するモノが幾つかあるかもしれない。

 

色々試してみたい所だが……今は、とてもそんな余裕はない。

 

血を、流し過ぎた。朦朧とする意識の中、古刀を杖代わりに支えてどうにか意識を保っていると……。

 

「……クアットロが、やられたか。バカめ。相手を格下だと思い込むから痛い目に遭う」

 

いつのまにそこにいたのか、今まで上で戦っていた筈のトーレが瓦礫の中からクアットロを救出していた。

 

するとそこへレヴィちゃんが後を追って自分の前に立つように降りてきて。

 

「ちょっと! 逃げるのか!」

 

「……そうだな。悔しいが今回は此方の負けだ。戦闘向きではないとはいえ、ただの人間が戦闘機人を破ったのだ。潔く退くとしよう」

 

レヴィちゃんの挑発にも素直に受け取る事で流し、自分達の負けだと潔く認めるトーレ。暗殺者だと呼んではいたが、存外彼女もシグナムと同じ騎士道に似た気質の持ち主なのかもしれない。

 

「だが、次はこうはいかない。負け惜しみになるがそちらの……特にそこの人間の手の内は知った。次に会うときは───その命、無くなるものと知れ」

 

だが、そこはやはり仕事人なのか、トーレはクアットロを抱え、最後に殺気を込めて言うと、夜の帳へと消えていった。

 

屋上に残っているのは自分と自分の知った……けど、別人の少女のみ。

 

「逃げられちゃったかー。ま、けど今回は僕の勝ちだね! 次でまた勝てば今度こそ僕の完全勝利! これでシュテルや王様も僕を見損なう……あれ? 見損なうは……違うのか?」

 

嗚呼、やっぱりこの子AHOの子だ。

 

目の前の少女の可愛らしい一人漫才を耳にしながら、自分の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうつもりだ英雄王」

 

 岸波白野が激闘を繰り広げていた遙か上空、黄金帆船に乗った二人の英霊が視線を交える。

 

「どういうつもり……とは、どの事を指している? マスターが礼装を使用した事か? それとも……別の話か?」

 

「惚けるなよ。貴様の常日頃マスターに飲ませたあのドリンクの事だ。貴様の事だ、ただの霊薬ではあるまい」

 

「ふっ、王の腹の内を読まんとする貴様の態度は刎頚に値するが……まぁいい、貴様のそのオカン気質とやらに免じて許してやろう」

 

相変わらずの超絶上からの目線な物言い。一瞬愛刀の夫婦剣で切り刻んでやろうかと思ったが、この男にそんな事を求めても無駄だと悟り、褐色肌の男……アーチャーは大人しく聞き入れる。

 

「貴様の察しの通り、我が雑種に与えたドリンクに混じった霊薬はそこいらのモノとは質が違う。あれはある意味では……人としての枠を超える為の代物よ」

 

「………なんだと?」

 

アーチャーの声色に険が入る。黄金の王────英雄王の語る“人の枠を超える”という言葉に嫌な予感を感じるからだ。

 

ギルガメッシュは危険な男だ。己の欲、悦を満たすのなら他者を蔑ろにするのは当たり前、寧ろそれを誇りに思えなどと口にする生粋の暴君だ。

 

自分の中にある記憶の一部、そこから直感として感じる危険信号。

 

普段の主と接する彼の対応が比較的柔らかなものであったから忘れていたが、この男は本来こういう存在だ。

 

─────消すなら今か。アーチャーは見下ろす英雄王に切りかかるか本気で迷う。

 

マスターの身を守り、外敵を殲滅するのがサーヴァントたる自分の役目、それがたとえ同じマスターを守護する英霊であっても変わらない。

 

この距離なら一瞬で仕留められる。アーチャーは密かに短刀の一振り、莫耶を投影するが。

 

「だが、そうなるかは全てあ奴次第よ。人のままで人として生きるか、人以外のモノになり果てるか……その選択は全て奴の“意志”によるものだ」

 

「───────」

 

ワイングラスに入った赤ワインを眺めながら英雄王は言葉を紡ぐ。厳しくもマスターを見守ろうとする彼の姿勢に思うところがあったのか、アーチャーは手にした莫耶を消し、やれやれと肩を竦める。

 

「………存外、優しい所があるのだな」

 

「何か言ったか? 贋作者」

 

「いや、─────それよりもいい加減それをしまったらどうだ? 敵は撤退した。貴様がそれを出したままではオチオチマスター達を回収しにいけないのだが……」

 

ポロッと零れた言葉を誤魔化しながらアーチャーは指摘する。彼の示す“ソレ”は黄金帆船の下────つまりマスターたる岸波白野のいるビル屋上の上空に展開された無数の剣と槍の事。

 

常に暗殺者と腹黒眼鏡に狙いを定めていた武具の数々、しかもご丁寧に白野を巻き込まないよう調節込みという徹底ぶり。

 

その様を見てもしかしたら自分の考えは杞憂なのではないかとアーチャーは一人思う。

 

「………ふん、雑種の無様な足掻きも終わった事だ。ならば忠犬らしく主の下へ行くがいい。我は帰る」

 

アーチャーの指摘に不機嫌になったのか、英雄王は素っ気ない返事と共に展開した武具を蔵にしまう。

 

その様子に苦笑いを浮かべながら、アーチャーは黄金帆船から降り、白野のいるビルの屋上へと向かっていった。

 

誰もいなくなった船、自分の拠点に向かう最中に英雄王は語る。

 

「雑種、努々忘れるな。貴様の在り方はその弱さと共にある。その“人”としての在り方を忘れた時、貴様は─────」

 

そこから言い掛けて英雄王は詮無き事だなと口を閉じる。余計なお世話だなと内心思いながら。

 

黄金の船は夜の空を飛行し、金色の帯を夜空に描く。まるで主の無事を祝うかのように────。

 

 

 

 

 




はい。と言うわけで今回はレヴィちゃんの手助けもあり、どうにか自力で乗り越える白野君を演出してみました。

……ちゃんと出来ているかは不安な所ですが。


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