「それでは白野さん。私もこれで失礼します」
「ではマスター、これから二人を送って行くから、留守の方を頼む」
ギルガメッシュが(一方的に)催した宴会も終わりを迎え、片づけも済ました頃は時間も遅くなり、流石にこれ以上は不味いと思い、なのはちゃん達は帰る支度をして
アーチャーは彼女達を送って行こうと外行きの私服に着替えている。
本当は自分が送っていきたい所だが……エリザベートの料理を食べた所為で身動きが取れない。
招待しておいてごめんね。と横になりながら謝罪する。
「い、いいえ気にしないで下さい! お呼ばれしてくれて嬉しかったし、お料理も美味しかったですから!」
だから、気にしないで下さい。そうはにかむ笑顔を見せてくるなのはちゃんの優しさに涙が出そうである。
「全く、詰まらぬ事で一々悩むな雑種。この我自ら開いた宴だぞ? 喜びに打ち震えるこそはすれ、迷惑に思う事なぞ億に一つもあり得んわ」
隣で呆れ顔のAUOにツッコミを入れたくなったが……生憎、今の自分にはそれだけの気力はない。
にゃははとなのはちゃんも困った様に苦笑いを浮かべている。
「なのは嬢、そろそろ宜しいか? あまり遅くなってはお父上達が心配するだろう」
大広間の出入り口付近から、アーチャーの催促の声が聞こえてくる。時刻は既に十時過ぎ、子供が出歩くにはいい加減時間が過ぎている。
「あ、はーい! それじゃあ白野さん、今回のお呼ばれとはやてちゃん……夜天の皆を助けてくれて、ありがとうございました!」
元気一杯の笑顔と共になのはちゃんはアーチャーの所へ駆け寄っていく。……助けたのは別に自分じゃないんだけどなぁ。
自分が今出来るのは肉体強化による僅かな身体能力の向上と、持ち前の諦めの悪さ程度だというのに。
どういう原理か知らないが、あの聖剣だって元々は騎士王の所有物だ。無理言って貸して貰えたから良かったもの、次はどうなるか分からない。
暴走体を倒したのだって我らが英雄王の力によるモノだし、自分は殆ど何もしていない。……けれど、今その事を言うのは些か無粋かな?
手柄を横取りしているみたいで悪い気がするけど、ここは否定しないでおこう。
去っていくなのはちゃんに気をつけて帰るようにと、士郎さん達に宜しくねと告げる。なのはちゃんは「はーい」とこれまた元気良く返事を返すと、今度こそアーチャーと共に大広間から出て行く。
ただその時、フェイトちゃんが此方をチラチラと様子を窺っていたのが気になった。何か言いたいことがあるのだろうかと不思議に思っていると、本人と目が合い、フェイトちゃんは頭を下げて無言の別れを告げ、なのはちゃんの後を追った。
……前から思っていたが、どうやら自分は避けられているようだ。まぁフェイトちゃん自身が人見知りするみたいだし、自分に慣れるのはもう暫く時間が掛かるのだろう。
「岸波さん、今回はウチの子達の事といい、リインフォースの事といい、ホンマお世話になりました」
なのはちゃん達を見送った直後、今度ははやてちゃんと守護騎士の面々が自分の前に現れていた。
車椅子が無く、シグナムに抱き寄せられているはやてちゃん。このまま病院に帰るのだろうか?
「うん。そうなんよ。何せ無言で出て行ったからなぁ、石田先生、今頃カンカンや」
アハハと苦笑いのはやてちゃん。彼女も事前に連絡したのだが、元々彼女は重体患者、死の危険すらあった彼女が突然病室から消えていたのだ。大騒ぎになるのは必然と言える。
故に宴に参加する前に病院……ではなく、はやての担当医である石田先生個人に連絡を入れたのだが、コレがもう大騒ぎ。
どうして病室からいなくなったのか、何故宴なんてものに参加しているのか、場所を教えろと今すぐにでも此方に乗り込んできそうな勢いに少し焦った。
そこで現れたのは凛。彼女の電話越しによる催眠で石田先生は沈黙。病院側にでも何もなかったと色々手を回すよう言い含める最中の光景は……流石魔術師と思う反面ちょっと怖かった。
けれど幾ら催眠を掛けたとはいえそう長い時間術に掛かったままではいられない。催眠が解かれる前に何事もなく病室に戻るのがベストなのだが……ちょっと厳しそう。
後日自分も謝りに行くよ。ウチの王様が言い出した事とは言え自分にも多少悪い所はあるだろうから。
「そんなん気にせんといて下さい。そんな事より……ほら、皆」
…………?
なんだろうか? はやてちゃんが守護騎士の皆を見渡すと、それぞれ皆申し訳無さそうに俯き。
「岸波白野。貴方に対する数々の無礼、誠に申し訳なかった」
真摯の謝罪と共に守護騎士全員が頭を下げてきた。……え? 何故に?
「我等は、主の命を救いたいが為に多くの人達に迷惑を掛けた。中でも貴方は我等だけではなく、主はやて、そしてリインフォースまで助けてくれた。貴方にはどんなに礼を尽くしても足りない。騎士としてこのまま済ますのは許されない。だから、岸波白野。貴方直々の采配で我等に罰を与えて欲しい」
………え~と、つまりその、自分に迷惑を掛けたからどうか煮るなり焼くなり好きにしろ。と、そう言っているのかな? この騎士被れは?
「ほう。自ら辱めを受けに来るとはな。中々興味深い。どうする雑種。いっそのことこの女騎士共を手籠めにするか? あ、だがそこの狗、貴様はダメだ」
隣でAUOが悪魔の囁きみたいな事を言っているが、自分にはそんな事をする気は毛頭ない。というか、君達は思い違いをしている。
「え?」
謝るのだったら、自分にではなく君達の言う迷惑を掛けた多くの人達に謝って欲しい。
そもそも自分は最初こそは巻き込まれたが、後は自分から首を突っ込んできたのだ。故に責任は自分自身にも在る。君達が頭を下げるのは少し違うと思う。
「だ、だがそれでは我々の気が……」
気が済むとか済まないとか、それを口にしている時点でそれは謝罪とは言わない。本当に自分に謝るのであれば、先ずは君達が蒐集したという魔導師の人達に謝ってからだ。
「…………そうだな、ありがとう岸波白野。貴方の言葉がなければまた我等を道を外す所だった。貴方に頭を下げるのは、もう少し後になりそうだ」
苦笑いを浮かべ、礼を言うシグナム。やっぱり堅物だなぁと思っていると隣のギルガメッシュが不満げに………。
「つまらん。折角新たな修羅場フラグを立ててやろうと言うのに、まったく興醒めだ。我はもう寝る。あとは雑種同士で仲良くくっちゃべるといい」
何て捨て台詞を吐きながら大広間から出て行った。傍若無人の振る舞いに騎士達も慣れてきたのか、それぞれ苦笑いや同情の眼差しを自分に向けてきている。
「ほらな、岸波さんならそう言うと思った。それじゃあ岸波さん。色々ご迷惑を掛けてゴメンな。それじゃあウチらもこれで……」
守護騎士達を連れ、踵を返すはやてちゃん。その表情は背中越しからでも笑顔で包まれているのが分かる。きっと彼女は今、今まで一番に楽しい時間を味わっている事だろう。
だから、敢えて言わせて貰おう。
「はやてちゃん。それは君にも言える事だよ」
「─────え?」
「君は確かに彼女達の主で、夜天の書の所有者だ。けれど、だからと言って一人で抱え込むべきではないと思う。その辺り、よく考えてくれ」
なんて、余計な言葉を口にする。彼女は聡明な子だ。自分の立場、そして自分の守護騎士が何をしてきたか、あの闇の中で自分と同様感じ取っていた事だろう。
嘗て闇の書が振り撒いた破滅と死、それを垣間見たのなら、……責任の強い彼女ならきっとその責任を取ろうと躍起になるだろう。
ハッキリ言ってそれは間違いだ。起きた出来事は変えられないし、そもそも夜天の書の所有者というだけで全ての責を彼女に押し付けるのは筋違い……だと思う。
だからよく考えて欲しい。過去の責に捕らわれるのではなく、自身の未来の為に頑張って欲しい。
なんて、少し説教臭くなってしまった。見ればはやてちゃんは此方を驚いた表情で見つめてくるし、やはり子供相手に講釈を垂れるのは自分には向いていない。
「……うぅん。そんな事あらへんよ。ありがとう岸波さん。ウチ、もっと考えて皆と一緒に頑張るよ」
皆の為にではなく、皆と一緒に……その言葉を聞いたら何だか安心した。どうかその気持ちを忘れないで欲しい。君には今までの君よりも幸せにならなければならないのだから。
「────はい」
はにかむ笑顔のはやてちゃんに自分も笑みがこぼれる。─────と、それだけじゃなかった。
「? 岸波さん。まだ何か?」
忘れる所だった。はやてちゃん、リインフォースに伝えて欲しい。明日、もう一度ここに来てくれって。
「はぁ、それは構わないと思いますけど……何でですか?」
メンテナンス……と言えばいいのだろうか? 取り敢えず彼女に紹介したい人達がいるから。
「メンテナンスですか。ウチでいう定期検診みたいなもんやろか? 分かりました。あそこの扉に隠れている子に伝えておきます」
ビクリと、大広間の扉付近から銀色の髪が流れる。そこには夜天の書の管制プログラムにリインフォースがオズオズと此方を様子見している。
あれほど暴れ回った彼女が慎ましい態度をしているのを見ると、何故か頬が弛む。
その後はやてちゃんはリインフォースとヴィータちゃんを此方に来るのを了承し、彼女は守護騎士達と共に夜の街へと消えていった。
「みなさん、帰っちゃいましたか?」
背後からの声に振り返る。そこにはエプロン姿の桜が少し疲れた様子で立っていた。
桜、今回はありがとう。それと、色々迷惑かけて済まなかった。
「本当ですよ。先輩てば無茶ばかりするんですもの。はい、胃薬です」
そう言って渡される桜印の胃腸薬。その効果は以前のサクラ迷宮探索の時で立証済みである。
やれやれと呆れの混じった桜の溜息。やはり今回は無茶をし過ぎたのだろうか、彼女の自分を見る視線がやや厳しい。
「今回“は”じゃなく、今回“も”です! 先輩は他の皆さんと違い唯の人なんですから、もっと自分を大切に扱って下さい!」
し、叱られてしまった。まさか後輩にまでこんな台詞を聞かされるとは……はっ、まさかアーチャーの影響か?
「……怒りますよ?」
はいスミマセンゴメンナサイ。ですから笑顔で詰め寄らないで下さい。怖い、めっさ怖いですから。
「全く、あまり真面目な場面でふざけないで下さい。……けど、そんな貴方だから目が話せないんですけどね」
問題児としての意味ですね分かります。けど、実際彼女には色々と世話を掛けているし、ホント、申し訳ないです。
「もういいですから、そんなに謝らないで下さい。私も覚悟してましたから、先輩は大人しそうに見えて実は行動派なんだって」
うっ、そんな人をヤン茶坊主みたいな言い方はどうかと思う。思うが……言い返せない。
何だろう。何だか最近の桜は時折自分より年上に見えてしまう時がある。やはり落ち着きがある分自分の方が子供に見えるのだろうか。
とは言え、このままでは先輩としての立場がない。慈愛の微笑みを浮かべている桜に、自分はポケットに入れておいたモノを手渡す。
「……先輩? これ、なんですか?」
ラッピングが施された長方形の箱。差し出されたそれを桜は小首を傾げて見つめる。不思議そうにしている桜に、今日は何の日かと訊ね……。
「もしかして、プレゼント……ですか?」
桜の答えにそうだよ。と返す。ホントはサプライズとして色々考えてたけど、今日は大変な事が幾つもあったから……忘れる前に手渡せてよかった。
「あの、開けてみてもいいですか?」
訊ねてくる桜に勿論と答え、気に入ってくれるかどうか内心不安に思いながら彼女の様子を眺めていると。
桜の驚きながらも花咲く笑顔にそれは杞憂だったと思い知る。
「あ、あの。ホントに良いんですか?」
当然。それは桜の為に買ったものだ。値段は……まぁ、今の自分の経済事情の理由につき、そんな高価なものではないけれど。
い、いかがでしょうか? も、もし気に入らなければ後日改めて買わせて戴きますけど……?
「そんな事ないです! 絶対、絶対……大事にします」
プレゼントの入った箱を大事に抱える彼女に、内心で安堵する。もし気に入らなければどうしようと悩んでいただけに、桜の微笑みに何故か救われた気さえする。
さて、後はウチのサーヴァント達に渡すだけなのだが……。
「すー……そう……しゃ、むにゃ」
「おあげ………おいなりさん」
譫言と寝息を立ててすっかり寝入っている彼女達に思わず苦笑い。ユーリも二人の間で心地良さそうに眠っている事からどうやら彼女達とも仲良くなれたみたいだ。
無理に起こす事も出来そうにないし、暖房も利いてるから、今日は彼女達にこのまま眠って貰おうか。
「そうですね。じゃあ私、お布団用意しておきますね」
なら自分も手伝うよ。大広間から出て行こうとする桜を追って自分も広間を後にする。
ただ、一つ言いたいことは……。
「くー……遠坂の金融システムはぁ~、世界一ぃぃ………くー………」
「私のぉ~、歌を~、聞きなさい~………」
凛、そしてランサーよ。その寝息は流石にどうかと思うぞ。その寝言からランサーは恐らく専用のコンサート会場でリサイタルでも開いてそうだけど、凛の方は……うん、止めておこう。下手な詮索は身を滅ぼす。
酔い潰れ、そして表には出さないが戦いの疲れで疲労困憊な彼女達にお礼を言い、俺は桜と共に寝床を用意し。
セイバーとキャスターにバレないよう、こっそりと枕元にプレゼントを置いた。
後日、凛とランサーにプレゼントをゴネられたのはまた別の話。
いや、勿論用意しましたけどね。ユーリを含めて三人分。お陰で岸波白野の初めての給料は一瞬で消し飛びましたが………。
◇
そして時刻は深夜を回り、あと数分すれば日付が変わるだろう時間帯。自分はパソコンの電源を入れ、画面を開いている。
以前メルトリリスを呼んだとき、このマンションに設置された電子、パソコンの類は全てムーンセルに繋がっていることが分かった。
しかもここの住人以外は使えないという原理の分からないプロテクト付き。その気になれば軍事基地のシステム掌握や大国の機密を覗き放題というのだから、なんとも物騒な話である。
……と、そんな話ではなかった。画面の前に近付き、メルトリリスと同様彼女の名前を呼ぶ。
び、BBさーん? いますかー?
初めて顔あわせた時以来、何だか気まずくて声を掛けにくかったが……呼び掛けに応えてくれるだろうか?
『なんですか先輩、私、今忙しいんですけど?』
なんて考えているウチにいつの間にか画面には黒コートを羽織った桜───BBがジト目で佇んでいた。
は、はやい。呼び掛けから一秒も掛からないとか、余程急いでいたのか。
『もう、用件なら手短にして下さい。私はボンクラな先輩と違って多忙の毎日を過ごしているんですから』
腰に手を当てて、不満げに語るBB。まぁ、確かに彼女の仕事を邪魔するのは頂けないよな。……何やっているのかはしらないけど。
だけど向こうからしたら仕事を邪魔する厄介者に過ぎないだろう。少々味気ないが、大人しく彼女にアレを渡す。
引き出しからUSBメモリを取り出し、パソコンと接続する。するとBBの前に桜の時とは色違いの箱が三つ現れる。
突然目の前に現れた箱にBBはマジマジと見つめ……。
『……なんですか? これ』
クリスマスプレゼント。と、ただそれだけを告げ箱をクリックして中身を開ける。
桜とBB、彼女たちに送る自分のプレゼントは───。
『………リボン?』
白いリボン。それを前にしたBBは目を丸くし、視線を自分と手元のリボンへ行ったり来たりしている。
まぁその、自分達はこれからイヤでも一緒になることがあるから、これはその親睦の証みたいなものだ。
なんだかモノで釣っているみたいで悪いけど、どうか受け取って欲しい。
『……ふ、ふん。モノで釣ろうとする浅ましい先輩に免じて、取り敢えずコレは受け取っておきますね。リップとメルトリリスの分もあるみたいですし、彼女達には私から渡しておきます』
やはりどこか卑しい気があると思われたのか、不服そうなBBに自分は苦笑いをこぼす。これで少しは彼女との距離が縮められると思ったけど、どうやら失敗したようだ。
渋々残りのプレゼントを受け取るBBにゴメンねと謝るが、何か気に障ったのか彼女はそれから顔を合わせようとせず、背中越しでブツブツ言いながら電子の世界へ戻り、画面から姿を消した。
……なんだか、あまり話せなかったなぁと反省しつつ、ベッドに横になる。これまでの疲労が一気に吹き出してきたのか、意識は朦朧とし、睡魔に誘われて眠り付くのにさほど時間は掛からなかった。
今度はプレゼントを渡すときは、もっと色々気をつけよう。そう誓いながら────。
◇
─────意識が引っ張られていく。
この魂が何かに引き寄せられていくこの感覚……覚えがある。
これは以前、“彼女”の根源……原初とも呼べる部分に触れた時と全く同じ────。
自分が立っている様な感覚、その感覚に確信を持ち、瞼を開けると。
「相変わらずみみっちい面構えをしておるな。のぅ、ご主人様や?」
宮殿らしき空間に鎮座するソレ─────九つの尾を持つ白面金毛。
神が……目の前にいた。
この度、多くの感想を戴き誠にありがとうございます。
そしてゴメンナサイ。前回纏めて返すと言いましたが、リアルが多忙に付き返信できません。
ですので、この場で幾つかあった同じ内容の質問を返すだけになります。
〉今後はどこの世界へ行くの?
今の所候補に上がっているのは
コードギアス
fate/staynight
fate/Zero
ネギま!
ハイスクールD×D
になります。ただハイスクールだけは原作が終了していないのでエクスカリバー編のみとなります。
ネギま!の方も原作基準ではなく大戦時代の話が主になりそう。
と、こんな所です。
基本的に作者と皆様が知っていそうな世界にしか行きませんので、その辺りご了承下さい。
そして、マトモに返信しない駄作者で申し訳ありません。
これからも見離せず、温かい目で読んで、楽しんで下されば幸いです。
本当に、申し訳ありません。そして、ありがとうございました。