テーマはIS世界での白野君と、ラスボス風味な兎さんとの決闘。
凡人対天才って、一種のロマンじゃね?と思って一時間程で書き上げた代物です。
束さんのキャラが崩壊していますから、期待せずに読み、思いの外楽しめたら幸いです。
「誰なの、お前……」
天才……いや、天災と称される彼女は目の前の男に問いを投げ掛ける。
男は凡人だった。どこにでもいて何の価値も、目を見張るモノもない、そこいらの……それこそ彼女にとっては路傍の石ころと変わらないモノ。
世界で二人目の男性IS操縦者と騒がれてはいるが……ただそれだけ、適性ランクもDと底抜けに低く、クラス代表を決める戦闘もドベ。詰まるところただISを動かせるだけの唯の男に過ぎなかった。
だが、不思議と人望はあった。その人畜無害の人物像か、それともどれだけ侮蔑罵倒されようが決して諦めないその姿勢に惹かれたのか、彼女の親友、そして親友の弟は彼と親しくなっていった。
─────それが、彼女には我慢出来なかった。
「いい加減、死んじゃえよ!」
彼女の言葉に従い、側に控えていた無人機が少年に向けて銃火機の弾幕を浴びせる。
少年の操るISが崩れる。絶対守護領域もその効果を無くし、ただの屑鉄に成り下がったソレは少年を自身の爆発に巻き込まれないよう、吐き出す様に放り投げる。
瞬間、爆発と共に少年は外へと身を投げ出される。爆風により吹き飛ばされ、地面を何度もバウンドし、数十メートルも転げて漸く停止する。
……既に少年は満身創痍。腕、足、腹、頭と流血し、その肉体は既に死に体に近かった。そう、それなのに───。
「……へぇー、まだ立つんだ」
少年は立ち上がっていた。その瞳の色を微塵も曇らせずに、少年は天災を睨み付ける。
「──────っ!」
その目だ。その目がどうしようもなく彼女を苛立たせる。クラス対抗戦の時も学年別トーナメントの時も、自分が送り出したゴーレムと親友を模して作られたVTシステムが暴走した時も、この少年はその目を崩さなかった。
まるでこの世に希望があると、そう信じて疑わないこの少年が、彼女にはとても目障りだった。
だから、消してしまおう。そう考えに至るまでにそう時間は掛からなかった。直接的にしろ、間接的にしろ、やり方は幾らでもある。
何せ世界は自分のおもちゃ箱なのだ。指先一つで思いのまま、男卑女尊などという世界になったのも、偏に自分の気紛れに他ならない。
たかが男一人潰すなど、それこそ児戯に等しかった。
……だが、それは叶わなかった。如何に優れた無人機を送り込もうが、彼に従う四人の怪物がそれを許さなかった。
少年の護衛と称して送り込まれた四人の怪物。そのそれぞれがISを生身で圧倒する様は……天災である自分も驚愕した。
親友以上の怪物ぶりに当時は肝が冷えたが、彼を守護する存在は彼等だけではなかった。
彼をネットワーク経由で孤立させようと、あの手この手で始末しようとするも、その全てが不発に終わる。
自分を凌駕する者がいる。自ら天才にして天災と豪語する彼女にとって、その事実は何物にも勝る侮蔑となった。
故に、彼に対する憎悪は日に日に増していった。殺意に身を任せ、この手で殺してやりたいと何度も思った。
(ちーちゃんといっくんに付き纏う害虫は、私が一匹残らず駆逐してやる!)
あらゆる手を使った。それこそ、亡国企業などという組織にまで手を伸ばして彼等を仕向けるよう手はずを整えた。
彼等が亡国企業に手を焼いている間、自分はなりふり構わずISとコアを量産し、世界中に自身の悪意を乗せてばらまいた。
実に2000を越えるISは世界を混乱に陥れるべく、破壊し、蹂躙し、殲滅していった。
今、この世界を支えているのは親友と各国の精鋭達、そして彼に付き従う四体の怪物だけだろう。
そして、少年を裏から支えてきた“彼女達”の母胎も先程手中に収まった。流石にあの三体のAIがいたら手が出せないが、目の前の少年の居場所を突き止めるため全ネットワークを駆け回っている事だろう。
空き巣紛いの行為もそうだが、何よりそうしなければ電脳体一つも掌握できない事実が更に彼女を苛つかせるが……正直、今はさほど気にしていない。
何せ諸悪の元凶をこの手で打ち倒せるのだ。これを僥倖と言わず何と言う。
そう、ワザワザこんな地の果てにまで呼び寄せたのだ。ここは歓喜に震え、喜びに打ちひしがれる所……だというのに。
「…………………」
少年の、その醒めた眼が───無性に気に食わない。
「気に入らない眼だね。まだ諦めていないの? 束さん、いい加減君の相手は厭きたんだよねー」
此方に呼び込んだのは彼女だというのに、あまりにも身勝手な言葉。……だが、彼女はこの世界に於いて絶対なる存在。如何なる不条理だろうと理不尽だろうとそれが罷り通るのが彼女の天災たる所以だろう。
そして、そんな諦めの悪い少年の前に先程銃火機を乱発した無人機が目の前に降り立った。
その姿、出で立ちは彼女の親友たる世界最強(ブリュンヒルデ)に似ている。────いや、似ているというよりそれは瓜二つに近かった。
「ふっふーん。どう? それは束さん特性のVTシステム。どこぞの国が造った出来損ないとは違って、ソレにはちーちゃんの全てが詰まっているのです! つーことで、いい加減マジ死んで。あ、それとも命乞いでもする? 「参りました束様」の一言でも言えば考えなくもないよ?」
自分の傑作品に彼女は自慢げに語り、少年を降伏するよう呼び掛ける。────だが。
「…………」
少年は相も変わらず、ただ冷ややかに彼女を見つめていた。そして、その眼が彼女の琴線に触れ。
「そう。─────なら、死ね」
宣告と共に、彼女は親友の写し身に命令した。銃火機を手放し、腰に添えられた刃を取り出すと、ソレは少年に向けて一直線に振り下ろされ───────。
“ギャギィィインッ”
────る事無く、それどころか後ろに吹き飛ばされていた。
「っ!?」
その光景に天災は驚愕する。────有り得ない。親友の写し身が一刀の下に斬り伏せられているなんて、どうして信じられようか。
天災は少年に視線を向ける。
そこにいるのは─────白銀の鎧を身に纏い、黄金の剣を携えた少年が、佇んでいた。
少年の流す血が白銀の鎧に滴り落ちる。まるで落ち武者ならぬ落ち騎士だと罵倒する所だが、彼の瞳と堂々とした佇まいが、そんな考えを払拭される。
もう一度、倒された無人機に目を向ける。横一閃、腹這いに切り裂かれた斬撃はまさに洗練された一撃なのだろう。
やはり、ただの人間ではなかった。目の前の少年は自分と同じ、世界を呪う為に生まれた異端者なのだと………。
『いいえ、それは違います』
「っ!?」
だが、その言葉を入るはずのない第三者に否定される。
『貴女の想像通り、彼には力はありません。出来ても精々街のチンピラから逃げ切る程度の力です。彼があんな力を奮えるのは、悪足掻きを得意とする彼に英霊が惹かれたから手を貸しているに過ぎません』
「─────嘘だ」
嘘だ。そう天災は呟く。
だって有り得ない。ただの凡才が天災である自分に迫る力など持てる筈がない。悪足掻き? そんなもので誰かが手を貸してくれるほど世界は優しくないのは、彼女自身が一番理解している。
───────だというのに。
「何だよ、何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ何なんだよお前はぁぁぁぁぁっ!!」
何故、自分は彼の姿に釘付けになっているのだろう?
「何で世界はお前に味方する!? 秀でた才能もない癖に! ただの凡人の癖に! 路傍の石ころの癖に!」
それは、罵声と呼ぶにはあまりにも悲惨過ぎた。少年には彼女の罵倒が自分に向けてるのではなく、彼女自身の事を差している様に聞こえていた。
天才と呼ばれた彼女、天災と畏れられた彼女。彼女の中に眠る葛藤呵責など、凡人たる少年には理解できない。
ただ、一つだけ言わせて貰えば。
「篠ノ之束、お仕置きの時間だ」
彼女が重ねてきた罪を、身勝手に罰する事のみ。
「私を罰する? 何様のつもりだよ。お前」
とびきりの殺意を込めて、目の前の敵を射抜く。もはや彼女の目には少年はただの路傍の石ではない。自分を脅かす敵となっていた。
そんな彼女の視線を、少年は不敵の笑みを浮かべながら真っ直ぐに受け止め。
「俺はただの─────通りすがりの魔術師だ」
轟っ! 彼女の周りに電子の嵐が生まれる。
嵐の中から出るのは、“赤”
彼女の妹が纏う同じ色をした赤だが、それには銘はない。ただ彼女はこれを第七世代の試作機と呼んでいる。
「上等だよ。やってみせなよ。岸波………白野ぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「─────っ!」
天災の雄叫びと共に、第七世代のISは火を噴く。その禍々しい光を放つ怪物を相手に、少年は手にした剣に力を込め、天災同様駆け出した。
手にした剣と刀、力と力がぶつかり合い、天才と凡人の戦いが─────始まる。
だが彼女は気付いていない。そもそも何故こんな凡人に気になり始めたのか、それがどういう理由で他者に関心のない彼女の気に触れたのか。
その理由を知るのは……もう少し、先になりそうである。
感想返しは次回、できたら纏めて返したいと思います。