今回はギャグ回です。故にキャラ崩壊の部分が目立ちますがどうか気にせず読んで下さい。
皆さん、こんばんわ。岸波白野です。
闇の書に寄生していたナハトヴァールと呼ばれる蛇は暴走体となり一時は世界の危機に陥る事態にまでなりましたが、そこは我らが英雄王の力で見事粉砕。
暴走体はその源であるコア丸ごと消滅させ、見事、世界の危機を拭い去ったのですが────。
「フハハハハハ! やはり宴というものは蹂躙した後に限る! おい。そこの雑種、我に酒を注ぐのを赦す。手早く済ませよ」
「は、はい!」
「ユーノ君、大変そうだね」
「てゆーか、どうしてアタシ等までここにいるんだよ」
「ええやん。折角のお呼ばれなんやから、今は楽しんどこ。ね、ヴィータ」
「う、うん……」
現在は……えー……なんというかその、宴の真っ最中であります。
遡る事数時間前、暴走体を異界ごと消滅させた後、ギルガメッシュはやたら上機嫌でこう宣言し。
『これより王の帰還である。有象無象の雑種共よ。今宵限り我の宴に参加する事を特に許す』
といって自分達の拠点にして我が家であるマンションへ殆ど全員を半ば強制的に連れてきたのだ。
はやてちゃんは面白そうだと守護騎士達、リインフォースと呼ばれる新たな騎士を交えて参加し、なのはちゃんフェイトちゃんの二人はそれぞれ家に連絡して困惑しながら参戦。
白野さんの家にパーティーをすると言ったら士郎さんは安心して「お願いします」と電話越しで話してきた。
どうでもいいが士郎さん。少しばかり気を許し過ぎません? 普通バイトの人間に娘を預けませんって。
まぁ、それほど自分という人間を信頼しているから娘さんを預けると言っているのだから、嬉しいと言えば嬉しい。
クロノ君だけは報告があるといってその場から離脱。ギルガメッシュを見る彼の顔が怯えにも見えたのは……気の所為だろうか?
それは兎も角として、今現在自分達のいる場所はマンションの地上五階。住居区の合間にある大広間で宴を執り行っていた。
パーティー用にと用意されたこの広間にはなのはちゃん達と自分達を含んだ全員が入っても尚、スペースはまだまだ余りある。
隣に建設された調理場からは、シェフのアーチャーが助手の桜と共に今も料理に専念している。
……いつの間にか、桜の料理の腕前が上達している事実に少し寂しくなったのはここだけの話。
いや、元々桜は料理上手だった。弁当とか作ってたりしてたし、実際美味しかったから単に電脳世界と現実世界の違いに慣れていなかっただけなのだろう。
「フェイト! これスッゴく美味しいよ! 食べてごらんよ」
「あ、アルフ、そんなにがっついたら笑われるよ。もっと大人しくして」
と、少し離れた位置でも分かる料理を頬張る狼娘────アルフさんの野性的な食べっぷりにフェイトちゃんは顔を赤くして彼女を注意しているが……あんまり効果はなさそう。
そしてAUOのお酌係りになってるユーノ君。ごめんね、彼は金髪碧眼の女の子が好みらしいんだ。流石にソッチの趣味はないから大丈夫だろう、ここは一つ我慢して貰おう。
何せAUOを怒らせたら、それこそ闇の書以上の災厄になりかねないのだから。
それに────。
「奏者よ、何を呆けている。早く余にあーんするのだ。此度の戦いの褒美だ。十全に余に尽くせ」
「そうは問屋が卸しません! 大体、そんなに疲れているのなら部屋に戻って大人しくしていろってんです。寧ろ帰れ、さぁさご主人様。どうぞ此方を召し上がれ、このチキンの素揚げ、私が手掛けましたのですのよ」
自分も自身のサーヴァント達の相手で手一杯なのですから……。
左のセイバー、右のキャスター。どちらも自分の腕にひっしりと付いて離れない。───そして、止めとばかりに。
「ハクノ、あーん」
膝に乗ったユーリがフォークに刺した唐揚げを此方に寄越してくる。何で鶏肉ばかり? いや、問題は其処ではない。
この無邪気に自分に食べさせようとしてくる女の子はシステムU-D。あの闇の書だった魔導書の内部にあった“砕け得ぬ闇”なる存在だ。
砕け得ぬ闇とかシステムU-Dと言う呼び名では何とも味気ないので即興でU-Dから捩ってユーリと名付けてみたのだが……これが好評だったのか、彼女は自分の事をユーリと呼んで、そして呼ばれている。
まるで邪気の無い子供と戯れているみたいで自然と頬が弛む。キャスターの真似をして食べさせようとしてくる彼女に、自分は自然と口を開いて差し出してくる唐揚げを頬張る。
うん、旨い。衣はサクサクしているのに鶏肉柔らかさと旨味が広がり、肉汁と共に口の中で踊っている。
「うぅ、そんなぁ、ご主人様ぁ、どうしてタマモを無視するんですかぁ」
と、唐揚げを味わっている自分の横でキャスターが恨めしく此方を見ている。耳を垂れて涙目になっている事からどうやら本気でショックを受けているようだ。
そんな彼女にゴメンゴメンと頭を撫でながら謝り、お返しとばかりに彼女の前に手作りのお稲荷さんを差し出す。
「ご主人様?」
ヨヨヨと泣き崩れた彼女は自分の前に差し出されたお稲荷さんに目を丸くしている。
唐揚げ、美味しかったよ。これはせめてものお返し。あまり上手には作れなかったけど……。
「も、もしかしてこれは……ご主人様の手料理!?」
なんかキャスターが喜びに震えているが、そんな大層なモノじゃない。予め用意された材料の中に油揚げと酢飯があったからアーチャーの見よう見真似で少しばかりの量を作っただけ。
試しに自分で試食してはみたが……うん。やはり素人感バリバリである。酢飯の味も落ちているし、油揚げの甘さも生かし切れていない。あまり作っては却ってアーチャーの邪魔になると思った自分は手伝いを早々に切り上げて、宴に使われる食器の出し入れ……つまり、下準備の方に回った。
とまぁそんな回想はどうでもいいとして、今自分の手元にはこんな失敗作の料理しかないんだけど……やっぱり止めとく?
「いいえ! ご主人様の初めてのお稲荷さん、このタマモ、シットリネッポリと戴きます!」
そんな事を言ってキャスターは髪を託し上げ、口を開いてお稲荷さんを食べようとする────が。
「あぁ、ご主人様のお稲荷さん、なんて大きい、タマモの口に入らなふぎゅっ!?」
なんか卑猥な事を口走ってきたので無理矢理突っ込んでやった。まったく、子供の前でなんつー言葉を口にするのだこの駄狐は。
モガモガと口を動かして必死に稲荷寿司を呑み込もうとするキャスターを尻目に、嘆息をこぼしていると。
「随分と良いご身分じゃない白野君。女の子を侍らせるなんてすっかりハーレムの王様ね」
呆れ顔の凛が髪を託し上げて此方に歩み寄ってきた。
お疲れ様凛。今回はお互い大変だったね。
「まったくよ。お陰ですっかりお腹減ったわ。体重の事なんて気にしないで今からじゃんじゃん食べるつもりよ」
何だか疲労している凛。向かい側の席(テーブルは丸い円上の形をしている)に座り、慎ましくも結構な勢いで料理を食べ始める凛に、どうしたのだと訊ねる。
すると凛は応えず、視線だけでその方角を見るよう促してくる。
一体なんだろうと振り返ると、銀髪の女性ことリインフォースとシグナムがはやてちゃんの近くにいるのに居心地が悪そうに此方を見ている。
………え? どしたの?
「アイツ等、今回の件で迷惑を掛けたアンタにどういった謝罪をすればいいか私に相談してきたの。私は別にアイツがそんな事を一々気にするような奴じゃないと言ったらあの二人、なんて言ったと思う?」
曰わく、「そんな事で許される訳にはいかない」
ならば謝れば? と言えば「その程度の罰で赦されれば、騎士たる私が納得できない」
「もう面倒くさいからじゃあアイツの奴隷にでもなったら? って言ったら顔を真っ赤にして黙ったの。もうウンザリしたから、後はアンタに任せるわ」
……………………………。
何というか…………うん、やはり凛は凛だった。
人のいないところで勝手に奴隷を売りつけようとする辺り、遠坂マネーイズパワーシステムの発案者は伊達ではないと、改めて思い知った。
まぁ冗談はさておき、実際彼女達は彼女達で色々思うところがあるのだろう。
特にシグナムは騎士としての高い誇りを持っている分、 自分の額を切った事に申し訳なく思っているのだろう。
別に此方も色々言いたいことを言ったりしてるから、おあいこだと言うのに……難儀な人達である。
「ホントよ。もっと謝るべき人は大勢いるってのに……これだから騎士って奴は」
厳しい台詞を吐き捨てて海老チリを頬張る凛に思わず苦笑い。
「……にしても、アンタはアンタで出鱈目よね。セイバーにキャスター、アーチャーにギルガメッシュ。一人で四人のサーヴァント持ちとか、チート以外の何物でもないわよね」
今度は此方に愚痴の捌け口として狙いを定めたのか、ジロリと睨みつけてくる凛に二度目の苦笑い。
「大体、私はまだその事に関してまだ納得してないんだからね! 根性で聖剣だした事も含めて、後でとっちめてやるんだから! はやて!」
「なに~~?」
「今晩ここに泊まるから! 以後宜しく!」
「おっけ~、任せて~!」
ビシリッとレンゲを向けてはやてちゃんに言い放ち、はやてちゃんもそれに笑顔で応える。
うん。前から思ってたけど君達仲良いよね。声が似てるから?
「ちょっと凛さん。幾ら素直になれないからといって、それは少し強引過ぎやしません?」
「そうだぞ! 折角の余と奏者の宴だというのに邪魔するでない!」
「ふん、そんなのお断りよ。そっちこそいい加減彼から離れなさい。彼、嫌がってるの分からない?」
あ。あれ? なんだろう。先ほどまでの和気藹々とした空気からいきなり修羅場っぽい空気に様変わりしたぞ?
「フハハハハハ! 早速やっているではないか雑種! 相変わらず人誑しな奴よ。善いぞ、遠慮なく爆発するがいい!」
くそ! あのAUOめ! 人の危機に笑いを求めやがって! てゆーかなんだ爆発って、爆発するほどの燃料なんて持ち合わせていないぞ。
だが、確かにこの空気は些か宜しくない。今にも喧嘩を始めそうなこの三人の空気をどうやって怒りをしずめよう。
膝に乗ったユーリと一緒に頭を悩ませていると………。
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
広間中に響く悲鳴に、この場にいる全員が振り返る。
そこにいたのは─────
「ユーノ君、しっかり!」
幼いながらも一級の実力を持った魔法少女、高町なのはちゃんが倒れ伏すユーノ君に駆け寄っていた。
何事かと思い全員(AUOは除く)が彼に駆け寄ると……。
ユーノ君の目は白目を剥いており、口から赤い液体が吐き出されており。その手には液体と同じ、赤い物体の乗ったスプーンが握り締められている。
そして、床に掛かれた“金星”の文字。まさかと思い先程まで彼が座っていたテーブルに視線を向けれると。
血のように赤い、深紅のスープが置かれてあった。
「あらあら、早くも子ブタ一匹、私の料理で昇天したみたいね」
その声に、ゾクリと背筋に悪寒が走る。
まさか、そんなバカな。頭に否定の言葉を並べながら、ゆっくりと振り返ると。
「さぁ皆さん。今宵は折角の宴、煌びやかな私、エリザベート=バートリーが腕を奮って調理したわ。泣いて喜びながら貪り食べなさい」
そこには、これでもかと眩しい笑顔を振りまくランサーが赤い満漢全席を背に両手を広げて立っていた。
それを前にした自分、セイバー、キャスターは勿論、ギルガメッシュすら固まって頬をひきつらせている。
「さぁ喜びなさい。DDの食卓、始まりよ!」
その宣言と共に岸波白野は確信する。これは、闇の書やナハトヴァールを上回る強敵の出現だと。
てゆーか! アーチャーはどうした!? こんな暴挙、料理にプライド持っている彼が許す筈がないだろう!
その頃、白野の相棒の一人であるアーチャーは、その手に赤い液体の乗ったスプーンを握り。
「あぁ、なんだ。そんなとこにいたのか爺さん。今そっちに逝くよ」
「はわわわ! アーチャーさん、しっかりして下さいぃぃぃっ!!」
割と、命の危機に瀕していた。
◇
誰もが、恐怖に脅えていた。
目の前にある赤の侵略者。それを従えているのは破顔の笑みを浮かべる魔嬢のアイドル。
「さぁ、泣いて喜びながら食べなさい。この私か丹精を込めて作ったどれも至高の一品よ!」
さぁさと、エリザベートことランサーは全員に食べるよう促してくる。
倒れたユーノを見て、なのはは直感する。アレはこの世に在らざるモノだと。
もはや食べ物の範疇を超え、毒物の概念すら越えた名状し難きナニかなのだと、十年そこらしか生きていない少女は語る。
それを証拠にこの場にいる全員が動かない。あの暴走体をコアごと消滅させた金ピカの人すら、驚愕に目を見開かせている。
「な、何よ、さっさと食べなさいよ。料理が冷めちゃうじゃない」
涙混じりになるランサー。端からみればか弱い少女を大勢で苛めているように見えなくもない。
だが、誰も彼女の席に座ろうとしない。特に異臭する訳でもないし、外見だけはマトモな料理に見える。
しかし、彼女の料理と称するナニかからはコレ以上ないほどの“死”の匂いがする。
それを動物の本能を刺激しているのか、フェイトの使い魔であるアルフは怯えながらも威嚇するという必死の抵抗を見せている。
「……私が、戴こう」
そんな時、守護騎士の長こと烈火の将シグナムが一歩前に出る。
「なっ!? ダメだってシグナム! お前だって味わっただろ! アイツの作った飯はシャマルの料理(毒物)の比じゃねぇ! 以前アレを食って丸三日寝込んだの忘れる訳ないだろ!」
「アレ? ヴィータちゃん。何気に私のことディスってない?」
背後から聞こえてくる鉄槌の騎士の言葉に僅かに躊躇いが生まれる。───忘れる筈がない、あの料理の恐ろしさは自分達が良く理解している。あの料理を食べた瞬間、眩暈を起こして以後数分間の記憶が根こそぎ失われていたのだ。
しかも味覚もおかしくしたのか、その後に食べたシャマルの料理が意外と旨く感じてしまう。それ程にあの料理は不味かった。
「なに、流石の奴もあれから少しは料理の腕は上がっているだろう。ユーノ少年が気絶しているのは……単に、あの味に慣れていないだけだろう」
そう、信じたい。
だが、自分とてあの料理(地獄)を体験したのだ。多少なりとも耐性は出来ている……筈!
それに───。
(今まで主はやてにご迷惑を掛けた分、ここで挽回せねば!)
今までの自身への払拭と主への忠義を示す為、烈火の将は意を決して赤い液体を掬い上げ、口の中へ運び────。
─────しばらくお待ち下さい─────
「シグナム! しっかりしろ、シグナム!」
結果、彼女の完敗。口にした瞬間糸の切れた人形の如く地に落ちたシグナムは二、三回ほど痙攣した後、事切れた様に気を失った。
侮った。まさか改良ではなく改悪されていたとは……そう口をこぼしたシグナムの一言がその場にいた一部の者に恐怖を与えたのは、言うまでもないだろう。
「もう、慌てて飲み込むからそうなるのよ。幾ら待ち遠しかったとは言え、騎士なのだから食卓の礼儀は守って欲しいものだわ」
やれやれと肩を竦めるランサーに全員が「違ぇよ!」と心を一つにしたのは彼女しか知らない。だが、どんなに否定しようとも目の前の現実が変わることはない。
声高にして叫びたい。そんなもの作ってくるなと、だがそんな事を口にすれば今度は竜の息吹による音波兵器が飛び込んでくるのは目に見えている。
────何この理不尽。その言葉を誰かが呟くのに、そう時間は掛からなかった。
(おい雑種! 貴様三度は蘇るのだろう!? ならば今逝ってこい!)
(ふざけるでない! そういう貴様こそ、自慢の蔵にしまい込めばよいではないか!)
(戯けた事を抜かすな! 我の蔵は至高の一品しか持ち込まぬ! いや、アレもある意味ではそうなのだろうが、どちらにせよ我の趣味ではない!)
(タマモの術でも味が変わらないとか、どんな呪い(カース)が宿ってるの? あの未知の物体は)
あの料理の恐ろしさを客観的に知っている三人はそれぞれ押しつけあっている。
その一方では───。
「我が主、私が出来るだけ時間を稼ぎます。その内にどうかアナタだけでもお逃げ下さい」
「あ、アカン! それはアカンよリインフォース!」
祝福の風が主を逃すために自ら死地に飛び込もうとしていた。
────誰もが、恐怖に呑み込まれていた。
────誰もが、絶望に染まっていった。
“この世、全てのメシマズ”を前に、誰もが抗う気概すら奪われ掛けていた……その時。
ガタリッ、と誰かが席を立つ音が聞こえてきた。
全員が、一斉に振り返ると。
「………ハクノ?」
キョトンとした表情のユーリが白野の膝から下ろされ、彼の席に代わりに座らせていた。
「その料理、この俺が戴く」
その姿に、どこぞの求道僧が重なった。
「白野、今シャマルがとっておきの胃薬を調合してるわ! だからそれまで何とか時間を稼いで!」
「─────凛、一つ聞くが」
凛の言葉に白野はただ一言だけ応える。
「時間を稼ぐのもいいが、─────別に、アレを完食しても構わんのだろう?」
その背中に、遠坂凛は何も言えなくなった。
一歩、また一歩、赤い満漢全席に近付いていく男を前に誰も何も言わず、そこへ続く道だけを譲っていく。
そして、赤い満漢全席へと辿り着いた白野は慎ましく席に座り、ランサーの持つレンゲに手を伸ばす。
「え? 子ブタ、いいの? だってアナタには───」
そこから先は彼女も言葉に出来なかった。覚悟の決まった漢の眼、そこに余計な言葉は不要と悟ったランサーはただ頷き、手に持ったレンゲをそっと彼の掌に乗せる。
そして────。
「全ての食材に、感謝を込めて────」
“戴きます”
両手をパンッと重ね、万物全てに感謝する漢の姿を見て、ヴィータは思う。
(まるで、神様に祈っているみてーだ)
そして晩餐は静かに、そして粛々と過ぎていった。
◇
──────幻視した。いつか見た、その風景を。
何時だったか、以前にもこんな事があった。どんなにキツい難行でも、どんなに辛い苦行でも、その背中を見ながら自分は必死に食いついていった。
『付いてこれるか?』
フッと、首だけ振り向かせ、その程度かと嘲笑う彼の微笑に、自分は内心で嬉しく思いながらも反発した。
『あぁ、付いてってやるさ、────いや、お前が付いてこい、まるごしシンジ君!!』
今はもう見えない親友の背中だが、その姿は今でも自分の脳裏に、記憶に刻み込まれて色褪せる事なく──────。
──────欠けた夢を、見たような気がした。
◇
「すっごーい! 全部食べちゃったの!? もう、子ブタったらがっつき過ぎ♪」
隣でランサーが何か言っているが、今の自分の耳に入らない。
映っているのは空になった満漢全席だったモノ。それを見たとき岸波白野は言いし難い達成感に包まれていた。
─────やった。苦しく厳しい戦いだったが、どうにか勝ち、そして生き残れたようだ。
以前にも増して破壊的な味だったというのに、どうにか全て平らげる事ができたようだ。
所々記憶がないのは……ランサーの料理を食べた弊害だろうか。相変わらず恐ろしい料理だが、もう大丈夫。その元凶たる料理は全て自分が食したのだから!
だから、ちょっとテンションが上がってたのだろう。自分は徐に立ち上がり。
「エリザベートよ」
「は、はい」
「この俺をお前色に染めたければ、今の三倍は持って来い!」
そんな、勝ち鬨じみた声を上げた時、広間は歓声に包まれた。
「きゃーん! 流石ご主人様ぁぁん! 一生……いえ、輪廻の果てまでお供します~!」
「うむ! 奏者はやはり余の見込んだ男よ! 今すぐ婚姻の儀を済ませたい所だ」
「我のマスターを名乗るのだ。この程度はこなせなくてはな」
それぞれから聞こえてくる拍手喝采の声。ちょっと乗せ過ぎな気がするが……ハッハッハ、よい気分である。
「じゃあ、はい」
──────え?
ランサーの声に振り返ると、今し方食べ終えた筈の赤い満漢全席が置かれていた。しかも、先程の倍以上の量で。
……えっと、エリザベートさん? さっき僕、ここにあったの食べたよね? なんでまた料理があるの?
「あれは余り物よ。本当はアナタだけに作ろうと思ってたんだけど、予想以上に張り切っちゃって、捨てるのも勿体ないから他の連中に上げようと思ったの。だけどまさか余り物まで完食してしまうなんて……そこまで私の料理を食べたかったのね。もう、この食いしんぼ」
……なん……だと……?
アレが……余り物? あれだけあった料理が、単なる余り物? あんまりにも衝撃的な発言をするランサーに岸波白野の思考は混乱している。
助けを求めようと凛達の方へ視線を向けると……。
「ほらユーリ、あっち行って食べましょうね」
「ご主人様! ファイトです!」
「奏者よ。そなたに華の祝福があらん事を」
「逝け雑種。貴様の旅路は、それは見応えがあるだろうよ」
────────。
どうやら、調子に乗ったのが運の尽きらしい。
「さぁ子ブタ。遠慮しなくていいのよ。量的にもさっきのを合わされば三倍近くだから、きゃっ! アナタも遂に私色に染まっちゃうのね」
そして後ろには、嬉しそうにはにかむランサーが。
……どうやら、覚悟を決めるしかないようだ。
この日、岸波白野の胃袋は─────死んだ。
DEAD END(嘘)
前書きでも書きましたが今回はギャグ回です。
デッドエンドとありましたが、特にタイガー劇場とかそんなものはありません(笑)
そして感想返しの方ですが……申し訳ありません。ここ数日はリアルが忙しいため、
マトモに返信する事も更新する事も難しくなりそうです。
ですので、大雑把にここで感想の感想を……。
誤字脱字多くてホンットすみせんしたぁぁぁっ!!
では、また次回ノシ