それ往け白野君!   作:アゴン

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すみません。現在手掛けている両作品がどうも上手く書き留められず、ストレス発散ばかりに書いてしまいました。

相変わらずの駄作者ですが、何卒宜しくお願いします。




なのはA’s篇
終わりのようなプロローグ


 

 ムーンセル。月に存在する太陽系最古の物体。

 

地球が誕生して以来全ての生命、歴史、そして魂すら記録している記録媒体。

 

そこで行われてきたとある闘争とその際に起こったトラブルと戦い、その果てに“自分達”は勝利した────。

 

 唯一人勝ち残った自分はムーンセルと一体化し、優勝者の権限を以てムーンセルを完全に封印し、地上との繋がりを断ち、誰にも手を出すことのないようにした。

 

───のだが。

 

 

「おい贋作者(フェイカー)なんだこの供物は? この我に草を食らえと言うのか?」

 

「それはほうれん草のお浸しだ。無駄口を叩いてないでさっさと食せ」

 

「むむむ、この味噌汁の塩加減といい焼き鮭の味付けといい、ウズメちゃんと同レベルの美味さ……アーチャーさんオカンスキル高すぎじゃね?」

 

「奏者よそこのショーユを取ってくれぬか?」

 

はい。あんまりかけ過ぎるとしょっぱくなるから気を付けてね。

 

「うむ!」

 

 ほうれん草のお浸しに醤油を垂らし、食す。次に焼き魚を頬張り白く輝くホカホカご飯をかっこむと、少女はリスのように膨らんだ頬をモゴモゴと動かしながら幸せそうに目元を緩める。

 

幸せそうに食べる彼女の笑みに此方も吊られて笑みをこぼしてしまう。

 

────というか。

 

どうしてこうなったんだっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事は遡る事数日前。月の裏側、サクラ迷宮の最深部。ムーンセルの中枢で行われた最後の決戦の時まで巻き戻る。

 

ムーンセル内部にある霊子虚構世界。通称「SE.RA.PH(セラフ)」が用意した上級AIがふとしたきっかけで起きたバグ。

 

そしてそこにつけ込んだ一人の“欲”が発端となり本来行われる筈だった『聖杯戦争』はその機能を失い、巻き込まれた魔術師(ウィザード)達は月の裏側に引きずり込まれる事になった。

 

 まぁ、その後も色々あったりしたが仲間達のお陰でなんとかムーンセルの中枢にまでたどり着き、元凶となった“この世全ての欲(アンリ・マユ)”を倒した事で、ムーンセルを解放し、全てが解決した────これが自分………岸波白野が体験した 『月で体験した』大まかな経緯である。

 

だが、その事と目の前の光景は本来なら繋がらない。何故なら、彼等は『この時代の人間ではない』からだ。

 

彼等は全員、ムーンセルにより記録された“英雄”達。或いは暴君として君臨し、或いは世界の守護者としてその名、勇姿、魂の在り方を世界に示し、刻んだ英傑達である。

 

「きっさまぁ! またこの腐った豆を王であるこの我に献上したな! 首を差し出す覚悟は出来ておるだろうな贋作者!」

 

「たかが納豆ごときムキになるなよ英雄王。それにこの世全てが貴様の財だというのなら残さず食してみせろ。この間だって……」

 

「あ~あ、また始まったよあの赤と金。埃が舞うから暴れるなら外でやれっての。それはそれでご主人様、いい感じで納豆が錬れましたよ。はい、あーん♪」

 

「あ、ズルいぞキャスター! 今日は余が奏者にあーんをするのではなかったか!」

 

「はん、甘いんですよ皇帝さん。戦いは常に相手の二手三手を読むこと。それを忘れた時点で貴女に勝機はありません」

 

「ぐぬぬぬ。おのれ~、ならば奏者! あーん、だ!」

 

「くっ、その手があったか!」

 

──────英傑達である。

 

テーブルを囲み、ギャイギャイと騒ぎ立てる彼等を見て、とてもそうは思えないが彼等はまごうごとなき英雄なのである。

 

ここ、大事な所だからね?

 

 此方に顔を向けて食べさせて欲しい口を開いてせがんでくる少女に卵焼きを食べさせる。

 

その様子を目の当たりにしたピンク髪の少女は狐を思わせる耳をピコーンと立てて驚きを顕わにしている。

 

騒がしい喧騒。朝の食卓にしては些か煩いと思われるが、今の自分にとってはこの光景すら眩しく、尊いモノに見えた。

 

「ふふ、今日も賑やかですね先輩」

 

 隣から聞こえてきた声に振り向くと、そこには紫髪の少女、間桐桜が慈しむように微笑んでいた。

 

その優しい笑顔に少々煩すぎる気もするけどね、と苦笑いで返す。

 

「所で先輩、その………お体の方は大丈夫なんですか?」

 

 すると今度は表情を暗くさせ、此方の身を案じた視線が向けられている。

 

心配そうに見つめてくる彼女に大丈夫だと口にする─────

 

「いらん心配はよせ雑種。その男には既に我秘蔵の秘薬を呑ませてある。こやつの体を蝕んでいた病などとうに消え失せているわ」

 

────前に、金髪紅目の男が腕を組んで呆れた様子で桜をその鋭い視線で射抜く。

 

「す、すみません。どうもまだAIだった頃の癖が抜けなくて……」

 

 男────ギルガメッシュの迫力に圧され、つい萎縮してしまう桜。

 

いや、それは仕方がないと俺は口にする。桜はただでさえ生い立ちが少し特殊なのだから慣れるのに時間が掛かるだろうし、何よりその気遣いが自分にとっては嬉しいのだから桜が気にする必要はない。

 

慣れてなければ学べばいいし、不安があれば自信をつければいい。少し違うけどこれってギルガメッシュの口癖だったよね。

 

「……ふん」

 

 ソッポを向き、卵焼きを頬張るギルガメッシュ。分かっていながらの指摘に少し機嫌を損ねたのかそれそれ以降今日の朝食では口を開く事はなかった。

 

というか、本当に変わったな彼も。以前なら言葉一つ間違えたらそれだけで斬り殺す気満々だったのに───。

 

「所でご主人様、今日は如何なさいます? 地下で魔術の勉強をなさいますか? それとも外へ探索に?」

 

 狐の耳と尻尾を生やした少女、キャスターに少し外に出てみると、口にする。

 

今、自分達が拠点としている住居は……信じられないことに超が付くほどの一流マンションだ。

 

地上で目覚め、まだこの体が病で蝕まれていた時、先に『受肉』して待っていてくれた金髪の少女───セイバーとギルガメッシュが用意してくれたものらしい。

 

 何でも宝くじでそれぞれ一等が当たり、株で更に儲けて現金払いでこのマンションを一括購入したらしい。

 

………流石皇帝特権と黄金律、マジパネェ。

 

地上12階、地下三階、屋内にプールやカラオケ、ゲームセンターにネットと娯楽に充実しており耐震構造も完璧。

 

ジナコではないがここまで充実してしまうなら本当に引きこもってしまいそうだ。

 

部屋一つ一つが無駄にデカい所為もあってここに住んで数日経過した今も落ち着けなくて中々寝付けない。

 

嗚呼、あの狭くも私生活感に溢れたマイルームが懐かしい。

 

 因みに地下の一階は自分の魔術or肉体の鍛錬所だ。今までは電子世界で何不自由なく活動していたが、ここは重力に支配された現実世界。

 

長い間眠っていた自分には最初の頃は堪え、ほんの少し歩いただけでも息切れを起こしてしまう程だった。

 

 そこで設けられたのが自分専用の為に皆が用意してくれた地下トレーニングルーム。

 

肉体的鍛錬のコーチにはアーチャーが、魔術鍛錬にはキャスターとそれぞれつきっきりで指導してくれた。

 

最初の内はアーチャーの筋力トレーニングで体を十二分に動かせるまで鍛え、その後キャスターが自分に魔術の基礎を教えてくれた。

 

流石に英雄の指導だけあって辛いものだったが、それだけ真摯に自分に付き添ってくれたのだから文句はない。ただ驚いたのは普段は空気を読まないキャスターがこんな時は真剣な態度でトレーニングにつき合ってくれた事だ。

 

彼女曰わく、魔術は時に人としての倫理を捨てる場合があるから真剣にならなければならないとの事。

 

彼女は良妻を自称しているが、それ故に自分に対し気を効かせてくれる所が多々ある。

 

魔術を使い、それによりあらぬ災いに巻き込まれた時、自分一人でも立ち向かえるよう彼女なりの配慮の仕方なのだろう。

 

 まぁ尤も、今自分に使える魔術はせいぜい肉体強化ぐらいのものだけどね。

 

「ご主人様? どうかなさりました?」

 

─────おっと、どうやら少しばかり思い出に浸りすぎていたようだ。ボーッとしていた自分にキャスターが顔をのぞき込んでいる。

 

ちょっとここに来たばかりの頃を思い出していたんだ。あの頃は皆に世話をかかせてばかりで申し訳ないなぁって。

 

「何を今更、君が手の掛かるマスターであることは今に始まった事じゃないだろう」

 

「うむ! あの頃の奏者は生まれたての子鹿のようにプルプル震えていてとても可愛らしかったぞ! 今も余のすま~とふぉんに記録してあるからな!」

 

ちょ!? いつの間になに撮ってんの!?

 

「私も自前のパソコンにご主人様の育成日記を動画として保存しておりますよ。プルプル震えながらそれでも頑張って立とうとするご主人様……………ハァハァ、テラカワユス」

 

携帯を掲げてにこやかにしているセイバーに対し、キャスターは不気味な微笑みを浮かべて鼻血を流している。

 

こ、このサーヴァントはどうしていつもこう………なに笑ってるんだよギルガメッシュ。

 

「雑種と駄狐に弄ばれているマスターマジ愉悦」

 

コイツもコイツでブレねぇなぁ!

 

「あ、あはは……」

 

視界の端では呆れたように肩を竦めるアーチャーと隣の桜は困ったように苦笑いを浮かべるだけ。

 

最初は色々ドタバタしてるけど、結局は自分がいじられて終わるといういつもの朝食を終え、“俺”達は食卓を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして朝の食卓を終えた俺は身支度を整え、玄関先で靴を履いて待機していた。

 

「ご主人様、お待たせしました」

 

「奏者よ! 待たせたな!」

 

声がする方に振り返ると、そこではセイバーとキャスターがそれぞれに似合った格好で佇んでいた。

 

というかそれ、“向こう”の服だよね? こっちにもあったんだ。

 

「お二人のはどうやら地上にあった物をモデルにしていたみたいですので、見つけるのは比較的簡単でした」

 

 そうなのかと、聞こえてきた桜の方へ視線を向けると。

 

───────。

 

「あ、あの、ど、どうでしょうか先輩。私、どこか変な所はないですか?」

 

 桜の服装はセイバーのような情熱をもった赤のワンピースでもなければキャスターの現代風の若者をモチーフにした可愛らしさの物でもない。

 

ただただシンプル。紫のセーターにクリーム色のスカートという単純な格好だが、その姿は俺の目に鮮烈に焼き付いて離れない。

 

────あ、あぁ、す、凄く似合ってるよ。

 

と、我ながら情けない声色で感想を述べると。

 

「……あ、ありがとう、ございます」

 

 桜も顔を真っ赤にさせて俯いている。

 

な、何だこの空気。だ、誰か何とかしてくれ!

 

「むーっ! 奏者よ、桜ばかりに魅とられてるでない。余の格好も賛美せよ!」

 

「……ご主人様?」

 

 と、此方が淡い青春を思わせる空気に四苦八苦していると、セイバーは頬を膨らませて不安を顕わにし、キャスターは笑顔で此方を見据えていた。

 

ちょっ! キャスター、尻尾、尻尾増えてるって!

 

「あらやだオホホ。というか、桜さん? 幾らご主人様を想ってはいてもご主人様は私の旦那様。そこの所は間違えないで下さいまし」

 

「うむ! 奏者は余の婿だからな! こればかりは桜でも譲れんぞ!」

 

「……………」

 

「……………」

 

「………………あ?」

 

「……………むむ?」

 

 ホラホラ二人とも、そんな事で喧嘩しないの。折角の日曜での探索なんだから楽しもうよ。

 

「むぅ……」

 

「で、でもぉ……」

 

 未だ溜飲が下がりきれない二人。そんな彼女達に仕方がないと思い。

 

……ふ、二人も、可愛いよ。

 

「………ふぇ?」

 

「ご主人様、今なんと?」

 

 さて桜、今日も天気が良さそうだし、そろそろ行くか。

 

「は、はい」

 

 俺は桜の手を引いて玄関の扉を開け、目の前に広がる街並みに向けて走り出す。

 

「ま、待つがいい奏者! 今の、今のもう一度訊かせてくれ! 今度は耳元で囁くように!」

 

「あぁんご主人様ぁ、お待ちになって~!」

 

後ろから聞こえてくる俺の“家族達”

 

「……先輩」

 

ん?

 

「正直、私は怖いです。貴方をムーンセルから救い、皆さんを現界させた事で私たちは私達の知る世界とは全く別の異世界に飛ばされてしまいました」

 

────そう。彼女はあの戦いで一時的にムーンセルに同期、同化する事で自分を地上に戻し、更にどういう訳か今まで戦ってきたサーヴァント達とその記憶も持ってきてくれた。

 

その時の弊害か、彼女は受肉を果たしたサーヴァント達と自分の魂と肉体と共に近いようで違う世界、平行世界へと飛ばされてしまった。

 

 未だ、多くの事柄は依然謎のまま。この世界ははたしてどういったものなのか分からず、桜が不安になるのも無理はない。

 

それはAIなど関係なく、彼女が彼女だから感じ、思う事。

 

だから、俺は言わなければならない。

 

────大丈夫だ

 

「………え?」

 

ここにはアーチャーがいる。セイバーが、キャスターが、そしてギルガメッシュがいる。少なくとも俺達は一人じゃない。

 

「先輩は………怖くないんですか?」

 

怖くないと言えば嘘になる。けど、それ以上にワクワクしているかな。

 

「ワクワク……ですか?」

 

 まだこの世界は俺の知らない光景がある。だからそれを見てみたい。恐怖よりも興奮が上回って落ち着かないんだ。

 

「………ぷ、フフ、まるで子供ですね先輩」

 

 そうだ。自分はまだ子供だ。この世界に産声を上げた幼い命そのものだ。

 

未熟で、一人では何一つできない無力な命だけど、自分達には体がある。進んでいける足がある。

 

「だから、行こう桜。俺達は多分、その為にここにいるのだから」

 

「──────はい!」

 

「ちょ、ご主人様ぁ! 無闇にイケメン魂を上げないで下さい! ────惚れ直すやろーーー!!」

 

「むぅぅぅっ!! 狡いぞ桜! 余も奏者と手を繋ぎたい!」

 

 ここがどんな世界であれ、きっと自分は止まらない……否、止まれないだろう。

 

何せ、この身体は多分それで出来ているのだから。

 

 

 

 

 

 




終わりじゃないよ! これがプロローグだよ!

なんか最終回っぽくなりました。

けれど、ここからこの岸波勢力は色んな作品に出張っては引っ掻き回していく予定ですので、 生暖かい目で見てくれると嬉しいです。

今の所はリリなのやマジ恋い辺りかな?


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