魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第96話 静寂突破

「世界が変わり、人間が進化しても・・・ここだけは変わらないんだな・・・」

 

一年以上この地には来なかった。

世界各地や異世界にまで行ったが、この場所に訪れるのは久しぶりだった。

異世界に流されている間に結婚記念日を一緒に迎えることが出来なかった。

申し訳ないと思う一方で、自分が最後に来た日とあまり変わっていない光景に少し寂しさを感じた。

唯一変わったとすれば、墓の前に花束などが供えられている。

きっとロシウたちが置いてくれたのだろう。

だがそれ以外は何も変わらない。

友と、最愛の眠る地で、シモンはその光景を眺めていた。

 

「みんなは俺と共に生き続ける、だけど・・・・墓を目の前にすると・・・もう、みんなは死んだんだって思わされちまう・・・・でも・・・」

 

たとえ一人だろうと、涙は流さない。

そのために今日ここに来たのではない。

涙や寂しさが込み上げようとも、決して流してはいけない。

 

「でも大丈夫だ。だって俺は本当に幸せだった。今でも幸せだ。そこに嘘は無いんだからな」

 

久しぶりに会いに来たのだ。だったら笑顔で語り掛けなければならない。

一度拳をギュッと握り締めた後、シモンは笑みを浮かべて語りかける。

 

「聞いてくれ、ニア・・・俺は幸せな出会いをした。これは・・・お前が・・・みんながくれた明日だ!」

 

シモンは最愛の人の墓の前で座る。

供える花も、何も持っていない。しかしその代わり、語るものは山ほどある。

 

「聞いてくれ、穴掘りシモンが新たに見つけた世界の話を」

 

男は一人語り始める。

それがどれほど壮大で、驚きや興奮の連続の物語でも、反応を返す者はこの地には一人も居ない。

だが彼はそれでも最愛の人と仲間たちが魂となってこの地で聞いてくれていると信じて、寂しさを押し殺しながらも開いた口を閉ざさない。

語り尽くせば日はまた昇る。

だが時を忘れてシモンは一人、この地で自分の見てきた世界を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

異世界で強くなろうとする者達が、今までの短い人生の中で最も過酷な訓練を受けている頃、こちらの世界は実に平和が続いていた。

忙しさは確かにあるかもしれない。

だが、強さを求めようとする者は居ない。

何故ならこの世界は突き進むのではなく、今を維持することのほうが重要だからである。

その平和のために多忙な日々を過ごす者たちが居るが、今日だけは少し穏やかに過ごしていた。

ここはカミナシティ、新政府の会議室だった。

 

「それでその魔法っていうのが、私達にとっての螺旋力のような力が浸透している、そんな世界に私もシモンも居たのよ」

 

出されたコーヒーを飲みながら、魔法や、もう一つの世界について説明するのは、この世界の英雄の一人、ヨーコだった。

そしてその話を、一旦仕事の手を止め、彼女の仲間たちは聞いている。

ロシウを始め、ギミー、ダリー、リーロンやあの日ヨーコの出発を見送ったキノンやダヤッカなどのグレン団の面々がヨーコの説明を足りない頭でなんとか理解しようとしていた。

その中でも説明を理解できたのはロシウとリーロンだけだった。

 

「そうですか・・・しかしもう一つの地球という名の世界。人口が60億も超える世界など想像もつきません。一体どうやって世界の統制を取っているのでしょう・・・」

 

この世界では信じられないような話を聞いて、ロシウは難しい顔をしながら考えた。

 

「でも驚きましたよ、グレンラガンが消えたと思ったら、ヨーコさんがグレンラガンに乗って現れたんだから」

「そうですよ、ギミーや私だけでなく、あの日は政府が異常なほど混乱に陥ったんですよ?」

 

そして一通りの話を聞いて、ギミー、ダリーが口を挟む。

あの日、・・・それは学園祭の最終日の日に、グレンラガンがこの世界から消えたことだった。

心臓が飛び出しそうになるほど衝撃を受けたロシウたちは、とにかくグレンラガンの捜索と同時にマスコミ関係全てに情報を閉ざしたまま、大規模な捜索を開始しようとした。

それほどまでにグレンラガンが消えるというのは彼らだけではなく、この世界にとっては大事件だったのである。

しかし数時間後、突如何事も無かったかのようにグレンラガンの反応がレーダーに引っかかり、カミナシティに向かってきたのである。

 

「あの時はこっちもビックリしたわよ。グラパール部隊総出でお出迎えしてくれたんだから」

「当然です、最初はテロリストかと思ったんですから」

「そうだぞ~、ヨーコ。あの日は丁度キヨウとキャルとアンネを連れて外で食事をしていたんだが、急に上空にグラパールが集結して何事かと思ったぞ!」

 

政府の超重要機体が忽然と姿を消して、カミナシティに向かっている。

ロシウたちはそれが新たなテロの仕業かと思い、カミナシティ上空にグラパール部隊全戦力を配置させるという大騒動をやらかした。

当然マスコミ関係に知らされていなかったため、市民は突然の出来事にパニックになりそうになったが、それが大規模になる前に、グレンラガンからヨーコの通信が入り、最悪の事態は免れたのだった。

 

「でも、グレンラガンがシモンの持っていたコアドリルに反応して次元の向こうまで行っちゃうなんてね~、やっぱりアレはスペシャルなのね」

 

そう言ってリーロンはクネクネしながらうれしそうに語る。

長年グレンラガンが登場した当初からずっと見てきたのは彼だった。

壊れるたびに彼が整備する。だからシモンは何度でも戦えた。

そんなグレンラガンをよく知る彼でも、未だに予想を上回るグレンラガンの力に興奮していた。

 

「ギミ~ィ、アンタもがんばんなきゃダ・メ・よ♪ シモンから受け継がれたソイツで、まだまだ私を興奮させてちょうだ~い」

「うっ・・・(やっぱこの人には慣れないや)」

 

リーロンの言葉に青ざめて仰け反るギミー。だがしかし、リーロンの言っていることは胸に突き刺さった。

そしてヨーコから返してもらった胸のコアドリルを握り締めた。

 

「っていうか・・・最初から俺がアレを使いこなせていたら・・・シモンさんももっと早く見つかったんですよね。なのに・・・グレンラガンが俺の力なんか無しで、自分の意思で別の世界に飛ぶなんて・・・やっぱちょっとショックです」

 

ギミーがワープを使えなかったために、ヨーコ一人だけシモンを探しに行くという事態になった。

しかしその後、グレンラガンは命じられたわけでもなく、自分の意思でシモンの元へと向かった。

それは本当に興奮する話だった。

しかし現在のグレンラガンのパイロットとして複雑な心境ではあった。

 

「そうね、・・・シモンは今でも前に突き進んでいる。過去を捨てずに・・・それでも悲しみに負けずに前へと進んでいる・・・」

「ヨーコさん・・・やっぱりシモンさんは・・・」

「ええ、ニアのこと・・・・完璧に割り切ったわけではなかったわ・・・でも、それでも穴掘りシモンとしてどんな世界でも生きていたわ・・・。そんなアイツだったからグレンラガンも力を貸してくれたのよ・・・」

 

心に悲しみはあったものの、穴掘りシモンは穴掘りシモンのままだった。

そんな彼が異界でグレン団の誇りを叫んでいたのである。

その想いが次元を超えてグレンラガンまで届いたのだとヨーコは解釈していた。

 

「そうね~、つまりィ、気合って事ね」

「そーゆうことよ」

 

理論的ではない。

しかしこの場に居るものはそれで納得できた。

銀河の果てまで向かったグレンラガンなら、シモンがどこに居てもきっと駆けつけてくれる、それが妙に納得できた。

 

「それでそのままアナタたちはグレンラガンで異界から帰ってきたと?」

「ええ、そうよ。色々省略したところもあるけど、大体そんなところよ」

 

ロシウはここまでのヨーコの大雑把な説明だけで大よその事態を把握することが出来た。

 

「だとしたら・・・彼は・・・」

「ええ、・・・一年ぶりに皆に会ってるわ・・・」

 

グレンラガンに乗ってヨーコ、そしてシモンはこの世界に帰ってきた。

だが、カミナシティに現れたグレンラガンにシモンは乗っていなかった。

それはつまり、シモンはカミナシティに来ることよりも、優先しなければならないことがあったからである。

 

「ニアさんと・・・みなさんと一緒に居るんですね?」

「ええ、今頃壮大な物語を土産話として聞かせてあげてるんじゃない?」

 

ヨーコはそう言って窓の外を見る。

ダリーもヨーコにつられて遠くを見つめた。

この街よりもずっと遠くにある英雄達の眠る地で、シモンは今頃ニアの墓の前に一人で物語を聞かせているのだろう。

その光景が浮かび上がり、悲しさがダリーに浮かび上がった。

それは他の仲間たちも同じである。

どんな気持ちでシモンは言葉を返すことの無い人に語りかけているのかと思い、少し切なさを感じた。

するとダリーが少し躊躇いながらも口を開いた。

 

「今のシモンさんの気持ちを考えると・・・私は木乃香っていう子達を応援する気にはなれません・・・」

「えっ、なんで?」

「たしかにシモンさんには・・・心から幸せになって欲しいです・・・でも・・・」

 

大雑把に説明をしたということは、当然衝撃の出来事は全て教えた。

しかもヨーコが異界に行ったのは学園祭直前という短い期間のため、説明するのに時間は掛からなかった。

魔法使い、学園祭、そしてシモンの家族、超鈴音、偽りのグレンラガン、そして何よりも新生大グレン団。

大雑把な説明だが、皆その話を興奮しながら聞いていた。そしてその中には当然シモンに告白した者が現れたことも教えた。

そしてダリーが引っかかったのはその出来事だった。

 

「私は・・・シモンさんとカミナさんたちが大グレン団ではなくグレン団のころから旅をして来ました・・・。そして何年も政府でもシモンさんとは居ました・・・」

「そうね、そう考えると7年会ってなかった私よりもアンタたちの方が詳しいわね」

「はい、だから・・・シモンさんの隣に最も相応しいのはニアさんしかいないと思うんです! 私は・・・シモンさんにはニアさん以外の女性と一緒に居て欲しくないです・・・」

 

ダリーの言葉に他のものも少し俯いた。

そしてシモンとの別れの日を思い出す。

 

 

―――ありがとう、みんな。俺達は幸せだった

 

 

その言葉に嘘は無いだろう。しかしその言葉が悲しかった。

ダリーだけではなく、皆があの日のシモンの笑顔を覚えている。

あれほど頑張ったシモンが幸せになれなかった。しかしそれでも本人は幸せだったと言っている。

そんなシモンに掛ける言葉など無かったのはヨーコも含めて同じだった。

 

「俺も・・・そう思います・・・。このままじゃシモンさんが報われない・・・シモンさんには幸せになって欲しいです・・・でも、シモンさんがニアさん以外の人と居るのは・・・なんか嫌です・・・」

 

ギミーもダリーに続いて気持ちを告げる。

それはニアとシモンの絆を知っているからこそ思うのである。

二人の絆を知らない子に、シモンを任せるのは嫌な気がした。

 

 

「もし仮に・・・いるとしたら・・・シモンさんとニアさんの絆の強さと・・・シモンさんの気持ちを知る人こそ、シモンさんの隣に相応しいと思います。そんな女の子じゃなくても・・・ヨーコさんなら・・・・いえ、ヨーコさん以上シモンさんの隣に相応しい人は・・・・」

 

「それ以上はダメ!!!」

 

「!?」

 

「「「「!?」」」」

 

 

ヨーコはギミーが言い終わる前にテーブルを強く叩いて黙らせた。

その音に全員が一瞬ビクッと肩を震わせた。

 

「・・・ヨーコさん・・・」

「お願いギミー・・・それ以上は・・・・言わないで・・・」

「・・・・・・・・・」

 

ヨーコは拳をギュッと握りながら、少し顔を俯かせた。

ギミーやダリーの言っている事はよく理解できる。

自分だってニア以外の女とシモンには一緒に居て欲しくないと思っていた。

 

「ねえ、さっき格闘大会で私がシモンと戦ったって言ったわよね・・・実はあの後・・・・シモンが教えてくれたの・・・」

「・・・何をですか?」

「ねえ、みんな知ってた? シモンって昔は私のことが好きだったんだって・・・」

「「「「!?」」」」

 

反応は様々である。

昔といったらニアと出会うより前の話である。

シモンは直接口には出さなかったが、なんとなく感づいていた者もいたようだ。

するとヨーコは苦笑しながら告げる。

 

「私・・・知らなかったの・・・・そう、私はシモンの気持ちを知らなかったのよ・・・」

「ヨーコさん・・・でもそれって随分昔の話でしょ?」

「ええ、でも知らないままでも一緒に時を過ごしてきて、今の私とシモンの関係が出来たの。だから・・・今の関係が一番いいのよ。道に迷ったアイツをぶん殴れるポジション、そしてアイツも私が女だからって遠慮しない、それが私達のあるべき姿なのよ・・・」

 

それがヨーコのシモンへの気持ちの表し方だった。

ニアの居ない今、ヨーコ程シモンの隣に相応しい者はいない。

しかしその二人が今の関係を一番だと言っているのである。それがまた妙に切なかった。

ダヤッカは妻のキヨウの手を影で握り締める。

そしてキノンもロシウの横顔を見つめる。

そして自分達の大切な存在と想いをもう一度認識した。

 

「まあ、木乃香も刹那って子も本気でシモンを好き。それは間違いないわ。たとえシモンが今でもニアのことを想っていてもね・・・それでもあの子達はあきらめていない」

「なるほど、つまらない子達じゃないって事ね?」

 

リーロンの言葉にヨーコは頷いた。

 

「ええ、だから私もその気持ちは認めてるの。だから少し応援してあげたいって思ったのよ。それにシャークティや美空にココネって子も居るし、友達も居る。少なくとも今のアイツは不幸なんかじゃないわ」

 

今その木乃香が刹那を巻き込み、とんでもない答えを導き出したとは知らずにヨーコは爽やかに告げる。

 

「なるほど、家族っていう新たな絆ね~?」

「そうよ、だからこれ以上アイツを甘やかしたらダメ。あの戦いで、大切な人を失ったのは、シモンだけじゃないでしょ?」

 

その通りである。

兄を失った黒の兄弟。

マッケンを失い、一人で残された子供を育てているレイテ。たしかに失ったのはシモンだけではない。しかしそれでも皆前に進んで生きているのである。

その言葉が皆に突き刺さり、これ以上は何も言えなかった。

そして自分達がまったく知らない女の存在に反対していたギミーとダリーも、ヨーコが認めているのならこれ以上は文句を言えないと思い、口を閉ざした。

そして代わりにロシウが口を開いた。

 

「彼は今不幸ではない・・・ですか。それなら僕もそれでいいと思います」

 

取りあえず友の近況を知ることが出来てロシウは満足だった。

そしてその言葉を聞いて他の者達も小さく頷いた。

自分達はその者たちに会ったこと無いが、ヨーコがそう言うのなら信じることにした。

そして会話が一旦中断され、ヨーコはもう一度窓の外を見る。そしてもう一度この部屋に居る仲間たちを見て、あることに気付いた。

 

「あれっ・・・そういえば・・・」

「どうかしましたか?」

 

ヨーコが仲間を全員見渡すが、間違いなかった。

ここに居るべきはずの者が一人居ないことに気付いた。

 

「アイツはどうしたの?」

「アイツ?」

 

そう、今では政府の人間であるはずのあの男がこの場に居なかったのである。

するとロシウは少し困った顔になりながら告げる。

 

「・・・彼は有給を取って、ついさっき出かけています・・・」

「はっ? 何よ・・・せっかく人がシモンの近況を教えてあげようと思ったのに。それについさっきって・・・・どこ行ったの?」

 

しかもあの男はたまたま仕事で居なかったのではなく、ヨーコがシモンの話をすると知った上で出かけたというのである。

そのことにヨーコが首を傾げると、ロシウが窓の外の遠くを見つめた。

 

「場所は聞いていませんけど・・・・恐らく・・・」

 

ロシウの視線の先。

それはヨーコが先ほど見つめた先である。

 

「あっ、・・・まさかアイツ・・・」

「えっ、ちょっと総司令!? まさかあの人・・・」

「ええ!?」

「多分そうでしょうね・・・まったく・・・僕達も彼に会いたいというのに・・・、大体仕事が山ほど溜まっているのに・・・・」

 

ロシウの言葉に全員が同じ方向へ視線を送った。

その先にあるもの・・・

それは英雄達の眠る場所だった。

 

 

 

 

 

「・・・森で泣きながら歩いてきた子供、それが俺とネギって奴との出会いだった・・・」

 

一体どれだけの時間そこにいたのかは分からない。

それでもシモンはニアの墓の前でずっと独り言を言っている。

まるで物語を話しているかのように墓に語りかけていた。

今はいない大切な人。

返ってくる言葉は無い。

だが、それでもシモンは話を止めなかった。

 

「そのネギってガキを見ていると昔の俺を思い出したんだ・・・。だから俺は咄嗟にアニキを真似してソイツにこう話しかけたんだ・・・それは・・・・・・・・・・」

 

そこでようやくシモンの口が止まった。

 

「ブウ?」

 

何故急に話を止めたのか? それは疲れたからでも忘れてしまったからでもない。

彼はこの場に近づく一つの気配を背後に感じたのである。

気配の主はワザと自分に悟らせるように近づいてくる。相当な実力者だと空気に伝わってくる。

 

「まったく・・・せっかく良いところだっていうのにな・・・」

 

シモンは座りながら苦笑した。

せっかくの逢瀬に水を差す無粋な輩。そしてその人物が誰なのかシモンには直ぐに分った。

 

(相変わらずだな・・・コイツも・・)

 

この気配を何度感じ取ったかは分からない。だからこそ直ぐに分かった。

懐かしく、強く、そして頼もしい者。

そしてその気配の主がとうとう真後ろに立った。

 

「ブウゥ!?」

 

シモンは振り向かない。

しかし肩に乗っているブータは声を出して背後に立った人物に驚いて鳴く。

だがシモンは驚きの代わりに口元に笑みを浮かべた。

すると背後に立った男は何を思ったのか、急に腰に携えた刀を抜き出して、シモンに振り下ろした。

 

「ふっ!」

 

しかしその刀がシモンに届くことはなく、前を向いたままのシモンが座りながら螺旋力を流し、瞬時に作り出したブーメランを片手に、男の斬撃を防いだ。

 

 

「ほう、随分と変わった力も使えるようになったな、ハダカザル!!」

 

 

刀を防いだシモンに、男は感嘆の声を上げた。

だが、驚いているわけではない。

むしろシモンならこれぐらいやるだろうと男は知っていた。

 

「そっちは相変わらずみたいだな、でも少し無粋なんじゃないか? けだもの野郎!!」

「ほざけ、この地で腑抜けた背中を見せる者こそ無礼だろうが!」

 

すると男はもう一本腰に携えた刀を抜き出して、そのままシモンに切りかかる。

そこでようやくシモンはその場から飛び退いて、男の斬撃を交わした。

 

「久しぶりだっていうのにイキナリだな。それに俺の背中が腑抜けているだと?」

「ふん、違うのか? 死んだ女の墓の前で語るキサマの後姿など女々しくてイライラしたぞ?」

 

二つの武器の衝撃音が荒野に響き渡る。男もシモンも手を抜かずに振り下ろしている。

 

「イライラだと? ふざけんな、俺は腑抜けたつもりは無い!」

「ふん、だったら何故俺は斬りたくなった? それは見るに耐えなかったからだよッ!!」

 

男は二刀流のスタイルでそのままシモンに襲い掛かる。

二本の刀を腕で交差させ、シモンに迫る。

だがシモンは手に持っているブーメランで真っ向から迎え撃ち、交差した刀の中心を押さえた。

 

「ぐっ・・・・・・見るに耐えない?」

「ふん・・・そう見えたから言っている!」

 

三つの武器が中心で交錯する。だが、パワーはシモンより相手のほうが大きかった。

男は二本の刀でブーメランを弾き、そのまま横殴りに振るった。

 

「ぐおっ!?」

 

二つの真空の刃が放たれたが、シモンは真横になんとか回避する。

だが、男はその隙に一気に間合いを詰める。

 

「速い!?」

「遅い!」

 

二つの刃が高速で上下左右に襲い掛かり、シモンはそれを辛うじて凌いでいく。

そのスピードは実に見事だった。

常人を遥かに上回る身体能力に、訓練された戦士の動きが男に身についていた。

 

 

「どうした? 寂しさ誤魔化して、女々しく一人語るために貴様はこの世界に帰って来たのか?」

 

「なんだとぉ!?」

 

「それが大グレン団や螺旋王、そしてニアを失ったキサマの行く末か? そんな今日を迎えるためにキサマは長年に渡り命を賭けたのかぁ? そんな今日のためにキサマは帰ってきたのかぁ?」

 

「勝手なこと言ってんじゃねえ! 俺は・・・幸せな出会いをした! それは決して嘘じゃねえ!」

 

「だったら、その見るに耐えない女々しさは何だ!!」

 

 

シモンの叫びと共に螺旋力が体中に行き渡る。

この戦闘方法を目の前の男は知らない。これは向こうの世界で開花した力である。

だが男はそれをむしろ面白そう眺めている。

 

「フルドリライズ!!」

 

シモンの体から伸びる無数のドリルが男の体を容赦なく削っていく。

シモンに容赦は無い、本気だった。

そして無数のドリルで削られた男の体から血が溢れ出した。

 

「ほう、こんな螺旋力の使い方があるとはな、・・・中々人間離れしているではないか!」

 

傷ついた男だが、うれしそうにニヤリと笑う。

すると血を流し削られた男の傷がみるみると閉じてスッカリと完治してしまった。

 

「お前こそ、相変わらずの打たれ強さだな」

「ふん、この程度で降参か?」

 

鼻で笑う男。しかしシモンは真っ向から睨みつける。

 

「バカ言え、俺を誰だと思っている!」

「口だけの男は誰だか知らん! キサマが俺の知る男なのだとしたら、キサマの証を見せてみろ!」

 

再び男は高速で間合いを詰める。その動きはたしかに速く独特である。

以前までなら反射的に回避したものだが、こうして自分でも力をつけると、男の人間とは違う獣のように鋭い動きには目を見張った。

だからこそ、この男の力を返すには、こちらも全力で行くしかない。

再び剣を構えて切りかかる男を見て、シモンはブーメランをしまい、男の言った自分の証を取り出した。

 

 

「ああ、見せてやるぜ! けだもの野郎!!」

 

「来るがいい、ハダカザル! 錆び付いていないのならな!!」

 

 

シモンが取り出したのは巨大な螺旋槍。

そして先端のドリルにシモンの螺旋力が流れて高速回転する。

 

 

「これが俺のドリル! シモンインパクトだぁ!!」

 

「キサマが何者なのかを見せてみろ! 腑抜けたドリルなら叩き返すぞ!!」

 

 

魂の眠る墓場に巨大な衝撃波が行き渡った。

実に罰当たりな行為である。

特にここは宇宙の英雄の眠る墓場である。

政府関係者がもしこの場に居たら二人を怒鳴り散らすだろう。逮捕されるかもしれない。

その光景をブータは離れたところから呆れて眺めている。

実に荒々しい、しかしそれでも二人らしい再会の仕方に思えた。

そしてこれでいい。

しんみりした雰囲気など大グレン団たちに必要ない。

たとえ墓場だろうと騒がしくした方が彼らも寝ていて退屈しないだろう。

シモンは久々再会した宿敵に向けてドリルを向ける。

 

(お前にドリルを見せるのは久しぶりだな!)

 

そして宿敵は久々見た男のドリルに真っ向から向かっていく。

 

(キサマのドリルを見るのは久しぶりだな!)

 

シモンは唸る。

 

「お望みなら、見せてやる!」

 

男は吼える。

 

「御託はいいから、見せてみろ!」

 

そして互いの影がぶつかり合う。

 

 

「昔から変わらない俺の魂を見せてやる!!」

 

「昔から変わらないキサマの魂を見せてみろ!!」

 

 

出会うたびに何度も戦った。

ガンメン同士の殺し合い、素手での殴りあい。それがこの二人の関係だった。

戦いを通して結び合う二人。

これがこの二人の絆だった。

シモンから放たれた衝撃波に男は吹き飛ばされた。

そして男は大の字になりながら剣を捨ててその場で寝転びながら口を開く。

 

「まったく、不死身の体でも何度も喰らう気にはなれないな・・・」

「当たり前だ、そんな安っぽくは無いからな。・・・これだけは・・・変わらない」

 

手にあるドリルをギュッと握り締めながらシモンは寝転んでいる男に告げる。

すると男はようやく体を起こして、シモンとドリルを見る。

そのドリルに詰まった想いは紛れもなく本物である。

そして先ほどの殺気を捨て去り、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「腑抜けたのかと思ったが、腕と魂は錆び付いていないようだな、シモン!!」

 

ようやくシモンの名を言った。

それはこの男が自分のことをシモンだと認めた証拠である。

だからシモンも男の名を呼んだ。

 

「ああ、お前も変わってないな、ヴィラル!!」

 

宿敵ヴィラルがこの場に現れた。

カミナシティに帰らなかったシモンにとって、これはヨーコ以来の仲間との再会である。

 

「でもいきなり斬りかかるなよ、墓が戦いに巻き込まれたらどうするんだよ。みんなも迷惑するんじゃないか?」

「ふん、ならば斬りたくなるような腑抜けた後姿を見せるんじゃない。それに、みなも迷惑するだと? 何を言っている。どうせ奴らなら、俺たちを見て、呆れたように笑っているはずだ」

 

ヴィラルは体についた埃を払いながら、立ち上がる。相変わらずこの男は言葉に容赦が無い。シモンは懐かしく思い苦笑する。

 

「腑抜けて見えた・・・か。本当にそう見えたのか?」

「ああ、殺したくなるほどにな」

 

ヴィラルの言葉は一々突き刺さった。

 

「そう・・・なのかな? 自分では分からないや、・・・・やっぱり誰も言葉を返してくれないから少し寂しかったのかな? そんな自覚は・・・無かったんだけどな」

「ふん、辛いのはそんなキサマを見ても何も言えないニア自身ではないか?」

「・・・・・・・そう・・・だな・・・・ああ、お前の言うとおりだよ。俺が悪い!」

「そうだ、キサマが悪い!」

 

男の言葉は乱暴だが、いつも核心を突いている様な気がした。

この男が核心を突くからこそ、自分もムキになって否定しようと声を荒げていた。

たった一年振りなのに、ひどく懐かしいような気がした。

 

「まったく、ヨーコ以上に容赦が無いな」

「ふざけるな、俺はあの女ほど甘くは無い。たとえ銀河が消滅しようとも、俺を倒した大グレン団の中に、腑抜けた者がいるなど許さない」

 

腑抜けたつもりはない。

しかし自分をよく知るこの男が言うならそうかもしれない。

言葉を返されぬことに少し寂しかったのかもしれない。

そしてこの男は人に容赦なく言う資格がある。

 

(本当に・・・こいつは相変わらずだ・・・)

 

ヴィラルは螺旋王より不老不死の肉体を与えられた。

それはとても悲しいことでしかない。

獣人であるがゆえに子孫を残すことも出来ない。友と同じ時間を生きることが出来ない。

今はまだいいかもしれない。しかしいつの日か自分達も寿命が来て死ぬ日が来るだろう。

だがヴィラルは違う。たとえ今いる仲間たちが皆死んでも、不老不死の彼だけは変わらずこの世に生きていくしかない。

永久の孤独。

しかし彼は一度も弱音を人には見せない。

今でも誇り高く生きて、自分に活を入れてくれた。

そんな男に言われればこれ以上文句は言えないとシモンは心の中で思った。

 

「悪かったな。一人で気が抜けていたみたいだ、気をつけるよ」

「ふっ、当たり前だ、キサマはどこに居ようとも俺の知る穴掘りシモンでなければならない」

 

大グレン団であり、自分の認めた穴掘りシモンだからこそ、どんな理由にせよ弱さを見せるのは許さない。

それがこの男の気の遣い方だった。

久しぶりの再会を喧嘩で始めて、シモンに活を入れた。

そのお陰でシモンは墓場での妙な寂しさや孤独感も吹き飛ばされてしまった。

 

「でも、俺が本当に腑抜けたのかは・・・これから話す物語を聞いてからにしろ」

「ほう、ニアと二人きりでなくて良いのか?」

「アニキたちもこの地にはいるんだ。今更一人ぐらい増えても変わらないさ」

「相変わらず口はよく回るようだな」

 

シモンの言葉にヴィラルは嬉しそうに答える。そして迷うことなく、その場に座り込んだ。

 

「いいだろう、聞いてやる。どんな世界を掘り当てた? 途中でまた寂しいなどと思い、腑抜けたなら叩き斬ってやろう」

「安心しろ。俺がお前の前で弱音を吐くのはガキの頃までだ」

 

ありがたかった。

延々と一人で語り続けていると、たしかにヴィラルの指摘した通り、少し寂しさがあったのかもしれない。

しかしこうして懐かしき戦友がこの場で一緒に話を聞いてくれるのである。それが孤独感から救ってくれた。

ましてやヴィラルの前でこれ以上情けない顔も背中も見せることなど出来るはずは無い。

 

「だからお前も聞いてくれ。俺がどんな出会いをしたのかをな」

「いいだろう、丁度暇だったところだ」

「はは、そうか・・・(暇って・・・そんなはずないだろ・・・)」

 

政府の役職に居るこの男が暇であるはずが無い。

きっと今日は忙しい中で無理してここに来てくれたのだろう。

戦友の心遣いを感じながら。シモンは再びニアの墓の前で座り、語り始めた。

 

(ありがとう、・・・ヴィラル・・・)

 

決して口には出さないが、心の中で戦友に感謝した。

そしてシモンは続きをニアの墓の前で語り始める。

語り明かせば日はまた沈む。

しかしヴィラルはその話をずっと聞いていた。

 

 


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