魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第95話 決意突破

日本の裏側にて、ウェールズのとある丘の上で一人の女が日本で働く弟の手紙を読んでいた。

 

<お元気ですか、ネカネお姉ちゃん。僕が日本に来て、もう半年近くが過ぎました。今回は写真を同封しといたよ>

 

ネギの姉、ネカネはとてもうれしそうに、紙の上で動くネギの映像を見ていた。

 

「アーニャ! ネギよ~」

「ネギ?」

 

ネカネは、ネギの幼馴染のアーニャを丘の上に手を振って呼び寄せる。

 

<たった半年と思えないくらい、色んなことがありました。3-Aの皆・・・アスナさん達やコタロー君、そしてシモンさんやヨーコさん。修学旅行や学園祭・・・それに、格闘大会・・・本当に色んな事があって・・・>

 

2人で立体映像に映し出されるネギの手紙を読みながら、同封されている写真を眺める。

 

「何よコレー、女の人ばっかじゃない!?」

「フフ・・・楽しそうね」

 

さすがに女子中学校の先生なのだから、大半が女生徒との写真ばかりである。

それがアーニャには少し面白くなかった。

 

「むっ!」

「どうしたの、アーニャ?」

 

たくさんの写真の中の一枚にアーニャは手を止め、急に眉を寄せてかなり不機嫌になった。

ネカネが不思議そうにアーニャの手にある写真を覗き込むと、そこにはネギが真っ赤な顔をして、ビキニ姿の大人の女に頭を撫でられて照れている写真が出てきた。

 

「あらあら・・・」

「なっ、なによ、この女!? こんな品のないカッコして!?」

 

ネギと一緒に写っている女、それはヨーコだった。

少し腰をかがめたヨーコがネギの頭に手を置きながらカメラに向けてウインクをしているツーショット写真である。

 

「ネネ、ネギもネギよ! こんな胸がデカイだけの女にデレデレして!?」

「フフ、ひょっとしてこの人がヨーコさんかしら? 以前手紙で、すごくきれいな人と知り合ったって言ってたけど」

「えっ!? なにそれ、聞いてない!」

 

ネギがどのようにネカネにヨーコについて説明したかは分からないが、ネカネは写真に写るネギの様子から、弟の淡い想いをなんとなく感づいていた。

因みにこの写真をネギは写真盾に入れて自分の机に大事そうに保管していることは、内緒である。

アーニャがヨーコについて初耳のため、少し慌てた様子で騒ぎ出す。

その様子をネカネは苦笑しながら、送られてきた写真を再びめくっていく。

そして女たちばかりが写っている写真の中で、ネギとコタロー以外の男が写っている写真が目に入った。

 

「あっ・・・ひょっとして・・・この人が」

「なになに、まだ何かあるの?」

「ええ、ひょっとしてこの人が、シモンさんかしら?」

 

そこには、ネギと二人で天に向かって指を指している男がいた。

ネギは少し恥ずかしそうだが、隣にいる男は腕をピンと伸ばしてニッと歯を出して笑っている。

 

「うわっ、何コイツ、ダッサー」

「そう? カッコイイ人じゃない」

「え~、絶対ダサいよ~、ネカネお姉ちゃん見る目無いよ~」

「あらあら。でもこのシモンさんって言う人が、ネギにはとても重要な人だったみたいよ」

「え~、コイツが~?」

 

アーニャは顔を顰めながらシモンの写真を見るが、ポーズといい、服装といい、あまりいい印象ではなかった。

 

「ええ、その証拠にネギの顔や瞳を見て。たった半年で随分凛々しい? いえ、男の子らしくなったって思わない?」

「ハァ? ネギが?」

 

アーニャはそう言われて手紙から出ている立体映像のネギの姿をジ~っ見てみる。

 

「どこがよ。全然変わってないわ。相変わらずチビでボケでマヌケ顔なんだから」

 

そう言ってプイッと視線を逸らすアーニャ、すると・・・

 

 

<まだ期末テストって難関があるけど、そんな壁はみんなと一緒に気合を入れて簡単に突破して見せるよ!>

 

「「・・・・・・えっ?」」

 

<まだ詳しい予定は決めてないけど、壁を突破したら夏休み中には必ず帰るよ、ネカネお姉ちゃん>

 

 

そこでネギからの手紙は終わった。

ネギは最後に、夏休みには帰ってくるという報告をしたが、今の二人は、ネギが発したネギらしくない言葉に少し驚いてしまった。

 

「な・・・何よアイツ・・・急にカッコつけちゃって・・・」

「ふふふ、本当にね。誰に影響されたのかしらね?」

 

ネギが急に力強い瞳で喋ったことに、頬を染めるアーニャ。

そしてネカネは半年前には想像も出来なかったネギの様子に可笑しさとうれしさがこみ上げて、広い空を見上げながら微笑んだ。

 

そしてネギの言葉どおり、たしかに期末試験は難関だった。

 

特にクラスには、鬼やロボットと戦える兵がいるのに、何故か彼女たちは机の上にある紙に書かれている問題と言う名の壁は、彼女たちにとって強固だった。

 

学園最強の頭脳を誇る超鈴音がクラスから去ったことに、平均点が大幅に下がることを抜かしても、バカレーンジャーの五人組は普通に夏休みの補習を受ける可能性もあった。

 

だが中学最後の夏休みを台無しにしてはならぬと、彼女たちはネギと協力して足掻いて足掻いてジタバタした。

 

当然ネギ自身も相当力を入れた。

 

その甲斐あってか、一人の脱落もなく、見事壁を打ち破るという結果に至った。

 

取りあえず補習生徒がいないため、ネギが夏休みに授業で借り出されると言う事態は避けられた。

 

だがしかしその結果、ネギの夏休みの予定、そして補習を免れたアスナたちの予定が明確化されることになる。

 

彼女たちの向かうべき場所、それは勉強のように、がんばれば何とかなるというレベルを超える場所である。

 

 

 

 

 

 

 

そしてこちらでもそうだった。

日本・麻帆良学園の敷地内にある教会で。

 

「えっ、魔法世界に~?」

「はい、アナタとココネ、そして中等部の佐倉さんと、高等部の高音さんです」

「ちょっ、何で私たちなんすか~?」

「魔法協会から回された仕事です。とてもいい経験になると思いますよ?」

 

それは美空とココネにとっては予想もしていなかったことだった。

夏休みの間に、魔法使いとしての仕事で、魔法世界に行けというのである。

ココネは魔法世界出身だが、美空にとって魔法世界はかなり危ないというイメージしかなかったのである。

そうなると当然以前までの美空なら、どうにか理由をつけて断ろうとしただろう。

 

「ふ~ん、魔法世界・・・っすか・・・」

 

しかし今は違う。

美空はシャークティから提示された仕事について、真剣に考えていた。

 

「・・・たしかに、強くなるには本場の空気を味わっとくのも手っすね」

「ほう、意外ですね、アナタにそんな前向きな考えがあるだなんて」

 

確かに意外だった。と言ってもシャークティは大して驚いていない。むしろ今の美空なら当然の考えだろうと見通していた。

 

「まあ、そりゃあ・・・私もいつまでも遊んでらんないっつうか・・・」

 

少し気恥ずかしそうに頭を掻いて視線を逸らす美空。しかし美空の思いはシャークティには分かっている。

 

「ふふ、敗北がよっぽど堪えたみたいですね」

「うっ・・・・まあ・・・・」

 

楓との戦いの敗北から、性格はあまり変わっていないものの、美空の心構えは学園祭を経て大きく変わった。

自分の強みを理解し、そして力のなさからの後悔が、美空を一回りも二回りも成長させた。

シャークティはそのことをとてもうれしそうに微笑んだ。

そしてパートナーの美空が前向きな態度を見せるとココネも身を乗り出して意思を示した。

 

「ココネも行ク!」

「う~ん、よっし、せっかくの中学最後の夏休みっすけど、やりますか!」

 

半年前ならこんなことにはならなかっただろう。

もし美空を今回の仕事に行かせるとしたら、命令で強制させたり、招待客で歓迎されるという餌をぶらさげたりしなければ、美空は頷かなかっただろう。

しかし今の彼女は自分の意思で、魔法世界行きを決めた。それがシャークティにはうれしかった。

 

(成長しましたね、気合が偽りでない証拠ですね)

 

美空とココネの成長振りに最近涙腺が緩むシャークティだった。

 

「おっ、どうしたっすか? さては私たちの成長に感動っすか?」

「・・・ふっ、いいえ、これでココネに変な言葉を教えたり、クラスメートの真剣な恋愛に妙なアドバイスを送ったりしなければと思っただけです」

「うっ・・・・」

「ソウイエバ結局教えてくれナカッタ。サイショウドウキンって何?」

「「生涯知らなくていい!!」」

 

教会の家族が一人今いないが、それでもそれなりに賑やかで温かかった。

シモンがいなくなり、たしかに前よりは寂しさがあるが、いつまでもそのままでいるわけにはいかない。

それぞれにやることもあるし、何よりつまらない表情はグレン団としては許されなかったのである。

 

「まあ、出発までにはまだ時間があります。それまではコチラの代表として恥ずかしくないように修行していきましょう」

「「はいっ!!」」

 

 

 

 

そして美空とココネが魔法世界行きを決めたころ、こちらのグループも夏休みの予定が決まっていた。

 

 

 

 

 

朝早くの女子寮にて、一人の少女が夢の中にいた。

空飛ぶ巨大な物体。

光る巨人。

そしてその巨大な影が自分を覆いつくす。

だが、自分はそこから一歩も動かない。

恐怖で動けないのか? それとも鎖で身体を縛られて動けないからなのか?

だが、自分はその様子に一言も声を発さなかった。

すると急に周りの人間が騒ぎ出した。

そして巨大な雷光と共に、三人の男が迫りくる巨大な物体を退けて、自分の前に現れた。

その中の一人の男が言う。

 

『安心しな、俺たちが全て終わらせてやる』

 

自信に満ち溢れた表情で告げる男。しかし自分の周りにいる老人は首を縦に振らない。

 

『しかし・・・敵の数を見たのか!? お前たちに何が・・・』

 

すると男は鼻で笑った。

 

 

『俺を誰だと思ってる、ジジイ』

 

 

どこかで聞いたようなセリフを男は言う。

 

 

『俺は、最強の魔法使いだ!』

 

 

三人の男たちは自分に背を向けてそのまま飛び出した。

その背中はどこまでも頼もしく、全てを任せることが出来た。

そこでアスナは現実に飛び起きた。

ひどく寝汗を掻いているが、夢の内容が頭の片隅に残っている。

 

「あ・・・ああああああーーーー!! 思い出したーーー!!」

 

飛び起きた第一声がそれである。

 

「ここ、このかーー! アレ、いない。ネギー! エロガモーー!」

 

夢の内容を忘れぬうちに、同じ部屋にいるはずの木乃香やネギ、そしてカモを探すが見当たらない。

 

「もー、夏休み初日の朝からみんなどこに・・・」

 

しかし事態は急を要した。

アスナはパジャマ姿のまま、廊下に飛び出し、取りあえず知り合いを探そうとする。

そして刹那の部屋を見つけて、何のためらいもなく入ろうとするが、中から、妙な騒ぎ声が聞こえた。

 

「しかし現実問題としてはやはりまずいです!!」

(!?)

 

部屋のドアノブに手をかけようとした瞬間中から刹那の大声が聞こえて、思わずピタッとアスナは手が止まってしまった。

 

「それやったら、どっちかがお嫁さんで、どっちかがパートナーてのはどうや?」

「いえ、・・・ですが・・・やはりシモンさんにご迷惑では・・・」

 

中から刹那と、探していた木乃香の声が部屋の中からした。

 

(木乃香? 刹那さんと一緒にいたんだ・・・でも何の話をしてるんだろう? ・・・聞き取れない)

 

中から聞こえる刹那の声に、何か真剣な話かもしれないと思い、気になったアスナはゆっくりと扉を開けて中の会話を聞こうとする。

 

「それにシモンさんは魔法使いではありませんし・・・そういえば以前エヴァンジェリンさんが仮契約しないかと誘った時も、自分は穴掘りシモンだからと断っていました・・・」

 

(シモンさん? ちょっと二人して何かあったのかな?)

 

木乃香と刹那は共に親友同士でありながら、同じ男に惚れている。

刹那の真剣な声から、何か二人にあったのかもしれないと思い、アスナは黙って耳を立てる。

すると・・・

 

「ふふ~ん、こ~ゆう手段もあるえ! あれからちょっと調べたんや!」

「・・・えっ、それは・・・一体・・・」

 

刹那とアスナが息を呑む。すると・・・

 

「モルモル王国ゆうところは何人と結婚しても認められとるえ!」

「・・・・・・へっ?」

「なんでも王女様が日本のある一人の東大生と結婚できんかった腹いせに法律変えたそうや!」

 

部屋にコッソリ忍び込んだアスナ。

しかし普段の刹那なら気配で感づいていいものの、どうやら木乃香との会話に集中しているようで気づいていない。

 

「な、なるほど! ・・・確かにそれなら合法ですけど・・・しかしお嬢様、それなら実家をどうなさるおつもりですか?」

「む~、せっちゃんはシモンさんと一緒にいたくないん?」

「そ、それは・・・ですけどその前にやるべき事が山ほどありますよ! 大体私たち振られているわけですし!」

 

アスナは声を失った。

しかもそれが当たり前のように広がる二人の姿が、さらに追い討ちをかけた。

 

 

「そんなんわかっとる。せやけど一度好きになったからには逃げへん、退かへん、悔やまへん、前しかむかへん、振りむかへん! それぐらいの心意気無いと、二人がかりでもニアさんにもヨーコさんにも勝てへんよ」

 

「で、ですが・・・その・・・こうゆうことをシモンさんが果たして受け入れられるかどうか・・・その、何を考えてるんだ、などと言って怒られてしまわないでしょうか・・・それにあまり行き過ぎると煩わしいと思われるかもしれませんし・・・」

 

「あ・・・・あの・・・木乃香・・・刹那さん・・・」

 

 

もう限界だった。とんでもない会話中の二人に口を挟み、アスナは二人に姿を見せる。

 

「えっ!?」

「あや、アスナおはよ~」

 

突如背後から聞こえたアスナの声に振り向き、硬直する刹那。

それとは対照的に何事もないかのように普通に挨拶する木乃香。

そして対するアスナは・・・

 

「あ・・・・あの・・・」

 

ドン引きだった。

 

「い・・・いやいや、いいんじゃない!? シシ、シモンさん喜ぶんじゃない!? 若い女の子に、ここ、ここまで愛されて!?」

「ちち、違うんです!? いえ、違いませんけど・・・こここ、これは教会の悪魔に囁かれてしまい!?」

「あはは~、この続きはまた今度やな~」

 

慌てて飛び出そうとするアスナの足にしがみついて、必死に弁解をしようとする刹那。

と言っても弁解の余地などはないのだが、とにかく涙目になりながらアスナを引き止める。

にもかかわらず、木乃香はいたっていつも通りのため、ある意味最強の精神力かもしれなかった。

 

「アスナー、そんな慌てて何の話やったん?」

「えっ・・・え~と・・・」

 

そこでようやく自分が何をしにここに来たのかを思い出したが、何を言おうとしていたのかは頭から飛んでしまった。

少し間を置いて苦笑いを浮かべた。

 

「・・・忘れたわよ。朝からとんでもないヘビーな作戦会議聞いちゃったから・・・・」

「いえ、その・・・これにはわけが・・・」

 

何とか言い訳をしようとする刹那を置いて、アスナはそのまま部屋の外に出た。

 

 

「はー・・・アホらし。どんな夢見てんだか、私ってば。ネギのお父さんや、このかのお父さんまで出て来て・・・こないだ見たハリウッド映画の所為かな~」

 

 

 

 

 

 

 

 

一度頭の中身を落ち着けさせて、今度は別の話をするために、皆を一斉に呼び出した。

 

「アスナさん、こんな所に呼んで何の用事ですか?」

 

ネギ、木乃香、刹那、のどか、夕映、ハルナは中等部校舎の屋上に集合した。

夏休み初日にいきなり何故呼び出されたのか分からなかったが、呼び出した張本人のアスナがようやく口を開く。

 

「ねえ、ネギ。アンタさー、魔法の国に私たちの卒業まで待たないで、夏休みに行くつもりでしょ?」

「え? ハ、ハイ」

 

学園祭終了後、アルビレオ・イマことクウネルは自分が持っているサウザンドマスターの情報を全てネギに提示した。

そしてその手がかりが魔法世界にあることもである。

それを聞いたときのネギはさっそく行って来ますなごとくの速さで行こうとしていた。

実際アスナたちが止めなければそのまま行ってしまったかもしれなかった。

 

「はい・・・これだけはやっぱり止まることは出来ないんです・・・」

 

せめて生徒が卒業するまで待ったらという提案だったが、それほど先まで待てないのは、アスナたちの目から見ても明らかだった。

 

「シモンさん・・・そしてカミナさんに出会い・・・超さんと戦って・・・僕は誰でもない僕自身になると叫びました」

 

そしてもう一度考える。

ならばネギ・スプリングフィールドとは誰なのか?

そう考えると、やはり原点に戻ってしまった。

 

「お父さんのことをあきらめ切れない・・・それが僕なんだったら、それでいいじゃないかと思いました」

 

ネギはそう言ってアスナを見る。

 

「でも・・・僕は必ずこの学園に帰ってきます!」

 

自信満々に告げるネギ。するとアスナは少し不安気に聞き返す。

 

 

「ネギ・・・・でも、そこ相当危ないとこなんでしょ?」

 

「姐さんの言うとおりだな。まぁ鎖国してるみてーな場所だからなー。直接の危険が無かったとしても、鎖国時の日本や冷戦当時の東側諸国に潜り込むくらいの覚悟は必要だぜ?」

 

 

ネギの代わりに、ネギの肩に居るカモが説明をする。

もっとも鎖国時の日本も、冷戦当時など知らないアスナだが、それでも危険だと言うことは分かった。

だが、ネギはそれでも「必ず帰る」と言っている。

 

「はい、お父さんを見つけるまでは止まれない・・・しかしここはお父さん以外で僕が僕でいられる場所です」

 

父も探す。

だからと言って、教師の仕事も放棄しない。

 

「どっちも放棄しません! 父さんも、そして・・・先生の仕事も、どっちもです!! だから、安心してください!!」

 

それがネギの結論だった。

何か根拠があるわけではない。だが、自分も誰でもない自分になるためなら、それが自身の一番の答えだと思っていた。

するとアスナは、少しムスッとした顔で聞く。

 

「それで、もし帰って来れなかったら?」

 

その言葉を聞いて、のどかと夕映の肩が震え、不安そうにネギの顔を伺う。

しかし当のネギは「何も心配要らない」という顔つきで、言葉を返そうとする。

 

 

「僕を、誰だと思って・・・・」

 

「このアホーーーーー!!!」

 

「ぶほおっ!?」

 

「「「!?」」」

 

 

ネギが何を言おうとしたのかは分かったが、それを言い終わる前にアスナのハリセンがネギを彼方へと吹き飛ばした。

突然の出来事にポカンとしてしまう一同。

 

「ね、ネギせんせ~」

「ちょっ、アスナさん!?」

「何で今の流れで殴られるん!?」

 

そして殴り飛ばされたネギは何故殴られたのかを分からずに、アスナを見上げる。

するとアスナは肩を震わせながら、怒り心頭だった。

 

「それよ! アンタが注意しなきゃいけないのはそれ!」

「・・・へっ?」

 

意味が分からず声を出すネギ。

 

「アンタ誰でもない自分になるって言ったわよね?」

「は、はい・・・」

「でもさ、お父さんも見つけてない、教師の仕事も終わってない、それって言ってみれば今のアンタはまだ誰でもないってことじゃない?」

「?」

「だ~か~ら、今のアンタじゃシモンさんと同じ言葉を言うのは早過ぎだってことよ! ぜ~んぜん、言葉に説得力も重みも感じないのよ!」 

「あっ・・・」

 

言われてネギもハッとした。

たしかにシモンやヨーコのように言葉に重みを乗せることなど無理かもしれない。

ましてや、説得できるだけの根拠も裏づけもない。

それだけの物をネギはまだ積み重ねていないからである。

 

「僕は・・・まだ・・・誰でもない?」

「・・・そうよ・・・」

 

今のネギに、言葉だけでアスナたちを信じさせるのは不可能だった。

 

「で、でも・・・それでも僕は・・・行きたい・・・いえ、行きます! そして・・・必ず帰ってきます! そうとしか言えません・・・僕を・・・信じてくださいとしか言えません!」

 

アスナの言葉が突き刺さり、少しシュンとなったが、ネギも退く事は出来なかった。

するとアスナは軽く微笑んだ。

 

「誰が諦めろって言ったのよ」

「・・・えっ?」

「アスナ、どうゆうことなん?」

「そうだよ~、言ってることが滅茶苦茶じゃね?」、

 

ネギだけでなく、呼び出された木乃香たちも首を傾げる。

するとアスナは一枚の紙を取り出して、それを皆に突き出した。

 

「そこでコレよ!」

「・・・なんです、これ?」

 

アスナから渡された一枚の紙に目を落とす。するとそこには『新クラブ設立申請書』と書かれている。

 

「新クラブ設立申請書・・・?」

「うん」

「突然、何のクラブです? それに新しいクラブには5人以上の部員が必要で・・・」

 

アスナから渡された紙を見ても未だに状況が分からない一同。するとアスナは自分の考えを打ち明ける。

 

「シモンさんにグレン団がいるように、アンタには私たちがいる」

「えっ?」

「そして道に迷ったシモンさんを殴る人に、カミナさんやヨーコさんがいたんなら、アンタには私がいる!!」

 

ドンと胸を叩いて言い放つアスナ。

彼女もまた決意をした瞳だった。

 

 

「アンタが止まれないなら止まんなくていい! 無理してあきらめるぐらいなら、無理してでも前に突き進むこと! でも、一人じゃダメ! シモンさんに仲間がいたように、私もアンタに協力するわ! そして早いトコお父さんを見つけちゃおーってわけ!」

 

「アスナさん、・・・それじゃあ・・・これって・・・」

 

「そう、このクラブは『ネギのお父さんを捜し出して、しかもちゃんとこの学園に帰ってくる』。その為のクラブよ。名前募集中! 当然、アンタが顧問ね! 文句ある?」

 

「「「「「おおおおおおおお!!!」」」」」

 

 

アスナの宣言に、ネギに代わり、感心の声を上げる一同。そしてその目はキラキラと輝いている。

アスナの新クラブへの勧誘。

取りあえずこの場にいる者には聞く必要はないだろう。それほどまでに既にやる気に満ちた表情をしている。

 

「アスナさん・・・でも・・・」

 

アスナの気持ちはうれしい。

しかしそれに諸手を上げてネギは喜ぶことは出来なかった。

だがそれを言う前にアスナがネギの頭に手を置いた。

 

「でもね、ネギ。少しうれしかったよ」

「えっ?」

「アンタが、絶対に帰ってくるって言い切ったのはうれしかったよ」

 

そう言ってアスナはニカッと笑った。

それを見せられて、今のネギが文句を言うことなど出来ない。

危険だから?

教師として危ない目に出来ない?

これは自分の問題だから?

つまらない理由で、彼女たちの決意をゴチャゴチャ言うことなど出来ない。

それこそ最大の侮辱にしかならない。

だからネギは今出来る最高の返事をするだけだった。

 

 

「ありがとうございます!!! 僕、がんばります!!!」

 

 

難しくかっこつける必要はない。

今の自分に出来るもっとも気持ちを伝える言葉を言えばいい。

だからこそ、ネギらしい言葉にアスナだけでなく、ハルナたちもウインクと親指を突きたてて返事を返した。

 

「そうよ、そんでいつかみんなでまた言おうよ! その場のノリじゃなくってさ、胸張って堂々と、私たちを誰だと思っている! ってね♪」

 

そしてアスナが指を天に向かって指した。相当恥ずかしかったが、それを振り払って、実に堂々とポーズを決める。

ネギも「ハイッ」と頷いて自分も指を上に突き出す。

それが面白くて、ハルナと木乃香もアスナを真似して指を天に向かって突き出した。

顔を見合わせてから、頷き、苦笑しながらものどか、夕映、そして刹那も少し肘を曲げながらも天に向かって突き出した。

だが、その時だった。

 

 

「ふん。まだ誰でもない・・・・言葉に重みがない・・・・貴様がそれを言えるのか? 神楽坂アスナ」

 

「「「「ッ!?」」」」」

 

「ならば、示してみろ。ボーヤを相手に、貴様が何者かどうかをな」

 

 

悪魔の笑みを浮かべた金髪幼女が、少女たちの決意を粉々にするかのように現れた。

 

 

目的はそれぞれ違えども、行くべき場所は同じ場所。

そしてその場所へは生半可な覚悟と力では行き着くことは出来ない。

ならばやらねばならないことも同じだった。

デカイ口を叩くだけの力を身につける。

無理を通せるだけの物を積み上げていく。

つまり修行だった。

 

「ココネは十分に素質がありますから、焦らなくてもいつかは大魔法が使えるようになります」

「ハイ」

「しかし美空は・・・正直な話、やめた方がいいです」

「ノオッ~~!?」

 

しかし本格的な修行の初期段階でこの少女はダメ出しをされてしまった。

 

 

「ちょっ、なんすかそれ!? 何もいきなり何とかクロスとか使いたいって言ってるわけじゃないんすよ!? 別に基礎的なものでもいいから教えてくれって言ってるんすよ!?」

 

「当たり前です! そもそもそんな大魔法、ココネならまだしもアナタが使えるわけ無いでしょう!」

 

「はあっ!? そりゃあココネは魔法使いとしては私より優秀っすけど、私はダメって決め付けるのはあんまりっすよ! あの感動はウソだったんすか!?」

 

 

まくし立てるように文句を言う美空。するとシャークティは頭を抱えながら説明をしていく。

 

「美空、勘違いしているようですけど、アナタは強くなれないのではない。私が課す修行では、アナタが求める強さは手に入らないということです」

「・・・? どういうことっすか?」

 

シャークティの言葉に首を傾げる。

 

 

「武道大会で分かったように、アナタは魔法で戦うタイプの者ではない。むしろ戦士タイプです。だから不向きな攻撃魔法を極めるぐらいならアナタの最大の武器を鍛えることが、一番の理想です」

 

「・・・武器?」

 

「はい、アナタの速さです。それを誰にも負けない武器にして、アナタはスピードのスペシャリストになるのです。ですから無理して大魔法を覚える必要はありません」

 

 

美空は魔法使いの見習いのため、簡単な魔法なら使用することが出来る。

しかしそれは戦闘に特化したものではない。

才能以前にこれまでやる気が全く無かったために、魔法使いとしてのレベルは、ネギの足元にも及ばなかった。

しかし・・・

 

「ネギ先生どころか、高畑先生までもが目を見張ったのは、アナタのスピード、そして不恰好でしたがそれなりに威力を持った蹴り技です」

 

武道大会ではその二つを駆使して美空は一躍学園のスターにまでなったのである。

美空の才能を以前から知っていたシャークティだからこそ、美空の長所を伸ばすことを進めた。

 

 

「美空、器用貧乏ではなく、スペシャリストになりなさい。壁を突き破ることに特化したシモンさんのように」

 

「!?」

 

 

スペシャリスト。

実にいい響きだった。

たしかにグレン団に相応しい。

 

(・・・ってことは・・・速さが私の魂ってことか・・・)

 

求められるのはどこまでも突き進むことの出来る可能性である。

だからこそシャークティの提案に美空は頷いた。

 

「分かりやした! ・・・でもそれならどうするっすか?」

 

やるべき事は決まった。しかしそこで止まってしまう。なぜならシャークティは完全なる魔法使い。

そうなると美空を指導するのは不可能ではと思ったのである。

無論シャークティはそんなことは百も承知。だからこそ事前に手を打っておいたのである。

 

 

「本当は感卦法などを私が教えて上げられればいいのですが、ここは私より、むしろ戦闘に長けた特別コーチにお願いすることにしました。今からその人のところへ行きなさい」

 

「っ、特別コーチ? ・・・誰っすか?」

 

 

何か嫌な予感がした。

するとシャークティは僅かに笑みを浮かべながら地獄の教官を紹介する。

 

「エヴァンジェリンです」

「いいぃ~~~!?」

 

たしかに戦いに関しては文句無いだろう。

何よりネギを鍛え上げたのだ。師事するのは間違っていないだろう。

しかし・・・

 

「は・・・はは・・・マジっすか?」

「うれしいですか? 彼女自ら受けてくれましたので」

「自らって、あのエヴァさんがっすか!? どんな魔法使ったんすか!?」

 

エヴァはネギのように才能溢れるものならまだしも、現時点では凡才の自分に興味など無いはずである。

そんなエヴァがどうしてこんな面倒くさいことを引き受けたのかを疑問に思うと、シャークティはクスクス笑った。

 

「魔法など使ってません、独り言を言っただけです・・・」

「独り言っすか?」

「ええ、・・・ただ彼女の前で、美空がシモンさんの妹なら、シモンさんと結婚した方は美空のお姉さんになるわけで、・・・ここで未来の妹の面倒を見てくれる方はいないものかと・・・、やはり家族の好感度を上げるのは大切ですね・・・と彼女の前で呟いただけです」

 

そう言ってシャークティはニッコリと微笑んだ。

だがその笑顔が微妙に美空には怖かった。

 

(シスターシャークティ・・・さり気に黒・・・)

 

だがそのお陰で、エヴァンジェリンという、強さを求めるなら絶好の教官を得ることが出来たのである。

モチロン、厳しさはハンパではないだろう。

シャークティは出発までココネに付きっ切りだろう。今にして思えばそちらの方が何倍も安全かもしれない。

しかし・・・

 

(まあ、でも・・・半端はやめて、ハンパなくやってやろうって決めたんだ。ここらで努力っつうもんをやっときますか! ・・・・うは、似合わね~~)

 

 

一度決意した以上、美空も後に退くわけには行かない。

美空は無理を通せる強さを手に入れるためにエヴァの別荘へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして向かった先で最初に見た光景は・・・

 

「うわあ、・・・コリャ一体・・・」

 

武道大会で自分と互角に戦ったアスナが、ネギに手も足も出ずにズタボロに負けた姿だった。

 

「ふん、やはり口先だけだな神楽坂アスナ」

 

横たわるアスナに問答無用で吐き捨てるエヴァ。そして彼女は美空の存在に気付いた。

 

「アレ~、美空ちゃん?」

「春日さん、どうされたのです?」

 

別荘内に入ってきた新たな気配に気付き後ろを向くと、目の前の光景に呆然としている美空がいた。

 

 

「ふん来たか、未来の妹よ」

 

「「「「へっ?」」」」

 

 

ニヤリと笑って告げるエヴァと、告げられた美空に、皆訳が分からずに二人を交互に見る。

 

「ちょっ、どういうことですか?」

「いつから美空ちゃん、エヴァンジェリンさんの妹になったん?」

 

するとエヴァはアスナを掴み上げながら、美空を見る。

 

「くっくっく、手加減はせん、この私の妹になるのなら最強にしてやる。この口先だけの女と共に地獄の訓練を課してやろう!」

 

そう言って高笑いを上げるエヴァ。

 

「・・・やっぱ半端でいいかも・・・・」

 

それを見て美空はエヴァの別荘に入って数秒でこの場に来たことを後悔してしまった。

 

(兄貴・・・惚れさせるなら普通の女にしてよね・・・。)

 

天の向こうに消えた兄に心の中で美空は嘆いたのだった。

口に出した決意を口だけにしないのは、中々に難しい。

こうしてアスナと共に美空は地獄とめぐり合うことになった。

 

 

 


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