魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第92話 またな、ダチ公

 

『さあ! 皆さん! 敵火星ロボ軍団はあらかた壊滅!! 巨大ロボも皆さんの活躍で消滅しました!!』

 

 世界樹広場前の舞台では、朝倉が嬉々とした顔で実況をする。

 

『更に裏ボスとのガチバトルも宿命タッグが勝利を収め、全ての壁を突破しました!、ということは?』

 

「「「「「「と、いうことは?」」」」」」

 

 

本日何度目の光景かは分からない。勝利を確信した瞬間にどんでん返しがあったからだ。

しかしこれ以上のことはもはや無い。

朝倉は今度こそ、その言葉を学園中に告げる。

 

『我々、学園防衛魔法騎士・・・いえ、我々全員の勝利です!!』

 

所属するチームなど関係ない。誰もが敗者ではないのである。

グレン団も学園の生徒も、みながその言葉の後に勝利の雄たけびを上げた。

光り輝く世界樹の周りで全学園の生徒たちが後夜祭で大盛り上がりである。

全ての戦いの証人であり、関係者たちだった彼らは、心の底から騒ぎ明かしている。

 

「我々も勝ったと思ってもいいのかな?」

「微妙なところだな・・・」

「でも、いい場面を逃したみたいですね」

 

その光景をガンドルフィーにや神羅木、そして瀬流彦などの失格弾で退場させられた面々が眺めてみていた。

 

「少なくとも私は負けましたよ」

「葛葉先生! なんでジャージ姿で?」

「そこは気にしないでください」

 

唯一失格弾から逃れた刀子。しかしその後彼女はシャークティとの死闘の後に気を失っていた。

そして次に目が覚めたときは目の前で、超鈴音とシモンが共に巨大ロボットへ立ち向かっていく姿だった。

後に続くネギたちや学園の生徒たち、そしてそのすぐ後に現れたもう一体の巨大ロボット。

その光景を彼女は震えて見ていた。

 

「私には何も出来ませんでした。退場するしないに関わらずです」

「ネギ君たちが・・・やってくれたんですか?」

「・・・ネギ先生やシモンさんたちと言う括り方ではなく・・・突き進むことを止めない方たちがやってくれました」

 

手は出せなかったが全てを見ていた。

シモンがこの世界の者たちに捧げた十倍返しは、彼女の心にも深く突き刺さった。

 

「あんな男といれば、女は変わってしまう・・・か・・・」

「惚れたのか?」

「違います!! ただ・・・彼女がああなった理由が納得できたんです」

 

シャークティが言っていたことが少し刀子にも分かった気がした。

そして周りには次々と退場していたものたちが現れる。

その中にはネギの生徒の亜子や史伽もいた。

そして、

 

「これが・・・彼らの道の先にあったものか・・・」

「「「高畑先生!?」」」

「僕も、やられてしまいましたよ。最強の二人組みにね」

「高畑先生まで・・・・・」

「ええ、でも・・・・」

 

現れたタカミチは、後夜祭の光景を見て、全てを一瞬で理解した。

仮定は知らない。

しかし結果が全てを教えていた。

 

(自分たちの明日を掴んだようだね・・・ネギ君・・・)

 

この騒がしい光景の中のどこかにいるであろう少年に、タカミチは心の中で告げた。

 

 

 

 

 

祭りは終わらない。

疲れを知らない生徒たちは飲んで、食べて、騒ぎつくす。

グレン団もこの戦いを勝利したと思い、メンバー全員が勝利の喜びに包まれていた。

今では全員が後夜祭の中で盛り上がっていた。

 

「なにィ!キッド、お前は四位か!? 俺は七位だったぜ!?」

「ふっふっふっ、この私を舐めたらいけないよ~、あんちゃん。私を誰だと思っている」

「うおおお、その言葉は!」

「いや~~、すっかり憧れちゃったよー! 気に入ったよ~この言葉!」

 

すっかり戦友として意気投合してしまった裕奈たちは、とうとうシモンの口癖まで真似してしまうほど、グレン団に影響されていた。

 

「ぬうう、キッド! その意気や良し! どうよ、グレン団に入らねえか?」

「あっはっは、考えとくよ~」

 

特に裕奈は逃げ惑う生徒の中、身を乗り出して共に最前線で共に戦った仲として、豪徳寺もすっかり心意気に感服してしまった。

 

「なんだよ~、薫ちん。ナンパか? 中学生にまずいんじゃねえか?」

「俺たちの女神はヨーコさんだろ、見損なったぞ豪徳寺」

「なっ、違うぞ! それにもう一人の女神の美空ちゃんだって中学生だろ」

「薫チンサンハ、年下好ミデスカ?」

「なあっ!? エンキ~、そりゃあねえだろ!? つうかお前、腕が取れてるけど大丈夫か!?」

「問題アリマセン。後デ修理スレバ」

「なんか面白そ~、ねえ、アキラも一緒に入団しない?」

「えっ、裕奈・・・本気? でも・・・私、熱血は少し・・・」

「はは、もし入るなら歓迎しますよ、お嬢さん方」

 

ドサクサに勧誘作業も怠らないグレン団。

たしかに今回の戦いは、武道大会以上にグレン団の存在は広がっただろう。

興奮が未だに収まらないテンションが高い状態では、グレン団の勧誘に頷くものも出てくるかもしれなかった。

その時、メンバーの一人があることに気づいた。

 

「あれ? そういえばリーダーやヨーコさんたちは?」

「あっ、そう言えばロボットに乗って、どっか行っちまったな」

 

 

 

 

 

教会は静かだった。

生徒たちの騒ぎ声は遠く離れたここまで届いているが、世界樹広場とは対照的に、この場は静かだった。

教会の外に立ち尽くすグレンラガン、そしてそこには黄昏る超と、それを眺めているシモンと茶々丸の三人がこの場にいた。

 

「何を考えてるんだ?」

 

グレンラガンの二つのコクピットの蓋を開けて、シモンは上から未だにグレンの席に座る超に話しかける。

すると超はグレンの中の空気を一つ残らず堪能したような満足感に満たされた顔をした。

 

「私の計画は・・・全て失敗だた・・・」

「・・・ああ・・・俺たちと・・・あのガキたちにな・・・」

「用意した策も、兵器も・・・イレギュラーとはいえ、リミッターを外した巨大ロボですら、正面から粉々に打ち砕かれた・・・。数年の歳月を掛けたものが全て無くなってしまったヨ・・・」

 

全てを失った。

しかしそう言っている超の表情にまったく説得力は無い。

 

「超・・・その割には満たされた表情をしていますが・・・・・」

「はっはっはっ、茶々丸にバレるようでは私もお終いカ? いや、茶々丸が進化したのか、それとも私は隠しきれないほど満たされたのか・・・」

 

超はケラケラと笑いながらその場で背伸びをした。

そして己の思いを打ち明けていく。

 

「シモンさん・・・アナタは・・・私を否定すると言ったネ・・・」

「・・・否定はしていない。賛成しないだけだ・・・」

「ふっ、まあどちらにせよだ。シモンさん・・・アナタたちがどれだけ賛成できなくても、私は・・・一つだけ確信した・・・」

「何をだ?・・・言ってみろよ」

「私の想いも、過去の失望も、計画も全て叩き潰されたガ・・・一つだけ正しかった・・・」

「・・・・?」

「私は・・・・この時代に来て良かった」

 

超はこの時代の記憶を頭の中で思い返す。

そこには大義のための計画だけの日々ではない。

あまりにも日常で、誰にでもありふれた生活の中での楽しかった思い出ばかりである。

 

「クラスのみんな・・・ネギ坊主たちとの日々は私にとっては夢のような日々だった。そして何より・・・この時代に来たからこそ・・・アナタに会えたヨ」

 

真のグレン団の姿。

物語。

そして本物のグレンラガンとの遭遇。宿命合体。

夢以外の何物でもなかった。

だからこそ超は、自分が起こした行動は間違いではなかったと思った。

 

「私はみんなと、アナタに会えて良かったヨ。全てを賭けたからこそ、全てを手に入れた・・・」

 

そんな超の気持ちを理解してシモンは笑った。

 

「そうか・・・。お前が無理をした行動の中で、誰からも否定させない良かったと思えるものがあったんだったら・・・それでいいんじゃねえのか?」

「・・・ウム!」

 

二人同じ空を見上げた。

茶々丸も二人につられて空を見上げた。

天に輝く光を眺めながら、時を過ごしていく。

そして、

 

「だが・・・、こっからはお前次第だ・・・」

「分かってるヨ」

 

シモンの真剣な言葉に超は全てを理解し頷いた。

 

「アナタは私の世界にはいない。しかし・・・逃げるわけには行かない。アナタたちが、ネギ坊主たちが、そして・・・茶々丸までもが気合を持っている・・・。私だけが・・・振り絞らずに逃げ出すわけには行かない・・・」

「超・・・それでは・・・」

「グレンラガンも螺旋力も無い・・・しかし・・・気合なら誰にも持っている。今度は私が気合を出して立ち向かう番ネ」

 

超は立ち上がり、そしてゆっくりとグレンから飛び降りてグレンラガンを見上げる。

 

 

「私も・・・己の明日に向かうネ」

 

 

それが超の全ての決意だった。

過ぎ去った過去を変えるのではなく、己の未来を変えるために戦う決意だった。

その答えを聞ければ、もう何も言うことは無い。シモンも黙って頷いた。

そして茶々丸も、超の本気を感じ取り、口を挟むことはしなかった。

だからこそ、もう何もやることは無い。だからシモンは迷わずに告げる。

 

「だったら、俺がもう帰っても・・・大丈夫だな?」

「・・・ふっ、それを言うのはあの子達が先ではないカ?」

 

超が苦笑して指差した先には、寂しそうな表情をするネギたち、そしてシャークティたちやエヴァが居た。

 

「シモンさん・・・あんな、・・・その・・・ウチら・・・」

 

彼女たちは全てを理解している。だが、それでも明るく振舞うのは難しかった。

そんな中で最初に口を開いたのはエヴァだった。

 

「行くんだな?」

 

確認するようにたずねるエヴァに、シモンは小さく頷いた。

 

「ああ、流石にグレンラガンを持ったままはまずいからな。それに・・・「いや、言わなくていい」・・・えっ?」

「・・・他の女を理由に行かれては、素直に見送ることが出来ん。『とりあえず一度帰るだけ』、それでいいな?」

「・・・・えっ? ・・・まあ、それでいいなら・・・「ただし!」 はい!」

「・・・必ず帰って来い! お前の世界を破壊されたくなければな?」

 

エヴァはニヤリと笑ってシモンに言う。

態度は相変わらずだが、想いは確実に伝わってくる。だからシモンも、いつものようにニッと笑って頷いた。

そしてその言葉を聞けて、皆も顔から寂しさが消えた。次々に前へ出て、シモンを見送る。

 

「シモンさん、待ってる女を泣かせちゃダメよ♪」

 

アスナはエヴァだけでなく、木乃香や刹那をチラッと見て笑う。

シモンも苦笑しながら頷いて、二人の前へ向かった。

 

「・・・シモンさん・・・約束やからね。今度帰ってきたときは・・・ウチを・・・ウチと・・・」

「ああ、お前の気持ちに向き合ってみる。俺は約束は破らない。堂々とお前の挑戦を受けてやる!」

 

ここで抱きしめたりでもすれば、雰囲気が出るのだが、シモンはしない。

まだここに居るうちはニアだけを見ていると決めているからである。

木乃香もそれを分かっている。だからこそ、その時を待つために、今はおとなしく身を引くことにした。

そして隣に居る少女も同じである。

 

「シモンさん・・・、絶対ですからね。勝ち逃げは許しませんよ? ・・・それと・・・わ、私のほうも・・・」

 

人差し指を唇に当てながら、親友の隣で刹那は冗談めいた口調で笑いながら言う。

しかし想いは真剣である。

最後の方は少し恥ずかしくてうまく言えなかったが、シモンは理解した。

 

 

「ああ、でも何人掛かってこようが同じだ! 俺は決して・・・「「「「そこは威張るところじゃない!!!!」」」」・・・・・」

 

 

恋する女たちの熱意に圧されるシモン。

しかし自分の気持ちを知っていながらも想い続けてくれる彼女たちの想いは、帰ってきたときは真剣に向き合うべきだと改めて感じた。

 

「シモンさん」

「・・・ネギ」

 

ネギがシモンの前に立つ。

互いに言いたいことは山ほどあったかもしれない。

お礼、楽しかったこと、これからのエール。だが、二人は何も話さぬまま、シモンは黙って拳を前に突き出した。

 

「ネギ!」

「はいっ!」

 

それを見てネギもシモンを真似て、自分の拳をシモンの突き出した拳に軽くコツンと当てた。

 

「「楽しかったぜ(です)!! また会おうぜ(会いましょう)!!」

 

出来はいいが、まだまだ未熟な弟のように思っていた。

だが、最初の出会いから少年は成長し、今日は自分の対等な相手として立ちはだかった。

そんな二人にはこれだけで十分に分かり合うことが出来た。

互いの再会を誓い、男は拳を重ね合わせた。

だが最後までかっこつけるのは難しかった。

 

「ネギ、これからもガンバリなさいよ!」

「ヨーコさん!?」

 

突然後ろから頭を撫でられ、振り返るとそこにはヨーコがいた。

さっきまでは大丈夫だったが、気が抜けた瞬間にヨーコに会うと、どうしても冷静にはなれなかった。

 

「えと・・・・あの・・・ヨーコさんも・・・帰るんです・・・よね?」

「そうね、私も向こうに残した生徒たちが居るからね」

「そ、そうです・・・か」

 

シモンが帰るのだ、当然彼女も一緒に帰るのである。

少しシュンとなるネギだったが、すぐに顔を上げた。

 

「ヨーコさん・・・あの・・・その・・・僕、いい男になります!!」

「ふふ、難しいわよ~、少なくともコイツよりはいい男になんなさい」

 

シモンを指差しながら微笑むヨーコ。そしてネギは決心する。

 

 

「その・・・僕が・・・いつか、ヨーコさんから見ていい男になったら・・・・その・・・」

 

「「「「えっ!? おいおいおいおいおい!!??」」」」

 

 

ネギの様子にアスナたちは顔を赤くして慌ててしまう。

 

(ひょっとして、あのバカ!?)

(ゆえ~~~!?)

(ののの、のどか・・・その・・・)

(うおおお~~~、ラブ臭が~~!)

 

ネギの想いなど誰もが知っている。

故にネギが言おうとしていることは他のものに容易に想像が出来た。

そして悶々としながら待つネギの言葉は・・・

 

 

「いつかデートして下さい!!」

 

 

それが子供の彼には精一杯だった。

あまりにも謙虚な発言に、肩透かしをくらいアスナたちはズッコケてしまった。

しかしヨーコはそれを冗談として受け入れることは無く、温かい笑みでネギの頭を撫でた。

 

 

「頑張れ、男の子!」

 

「はいっ!」

 

 

ヨーコに伝わったかどうかは本人にしか分からないが、ヨーコは笑顔で頷いた。

それがあまりにも美しく、のどかたちは嫉妬を覚えた。だからこそ彼女たちも動いた。

 

「ヨーコさん!」

 

のどかも真っ赤になりながら、ヨーコに告げる。

 

「その・・・私・・・へうう、・・・あの・・・負けませんから!!」

「でで・・・でしたら・・・私も・・・その・・・」

 

夕映もつられて宣戦布告をした。

思えば初めてヨーコがこの世界に来た日にはエヴァ、木乃香、刹那が宣戦布告をした。

そして今、再び宣戦布告をされた。

その全てが男絡みである。

アスナですら、ネギのパートナーとして、ヨーコに心の中で女としての憧れや、負けない、という気持ちがあった。

ある意味ネギパーティのメンバーにとって最大の壁なのかもしれなかった。だからこそヨーコも壁として受け入れた。

 

 

「私もまだ、簡単に負けたりはしないわよ♪」

 

「「「「「はいっ!!」」」」」

 

 

ヨーコもこの世界で十分影響力を発揮した。

それがおかしくてシモンは笑って女の火花を見ていた。

そして、

 

「兄貴・・・・」

 

振り返るとそこに居るのは二人の妹だった。

 

「美空、ココネ・・・おい、そんな顔をするなよ、すぐ帰ってくるって」

「で、でもさ~・・・・」

 

決して二人は心の底から笑っているわけではない。

やはりシモンとの少しの別れも寂しいのである。だが、それでもシモンに心配させないようにと、必死にハニカンでいる。

 

「ったく、ほら・・・」

「あ、あ、兄貴~~」

「ぐすっ……」

 

その心遣いが身に染みて、シモンは二人を両手を広げてギュと抱きしめて頭を撫でた。

 

「あっ・・・ええな~・・・」

「・・・はい・・・」

「うっ・・・あれは・・・家族としてのだ・・・ウズウズ・・・」

 

美空たちだけは特別だった。家族としての愛情を込めて力一杯抱きしめた。

ココネはシモンに撫でられてひどくご満悦である。

そして最初はクラスメートの前で恥ずかしかった美空だが、次第に固さが抜けてシモンに抱きしめられた。

そしてシモンは二人をいとおしそうに撫でながら、この世界に来てからを思い出した。

ニア、そして仲間と別れての旅路、ブータしかいなかった自分の傍にとても大切な存在が出来た。

そして、自分の中の寂しさも忘れさせてくれた。

 

「ありがとな。お前たちのお陰で俺は笑って行ける」

「バカ・・・何言ってんだよ・・・感謝するのは・・・ううん、私たちはそういう関係じゃない、お礼をいちいち言い合うなんて水臭いよ」

「ウン、水臭イ・・・」

 

美空もココネも思い出す。

この兄との出会いが自分をどれだけ変えたのかを。

渡してくれた背中に燃えるマークが、どれだけ自分に力を与えてくれたのかを。

だが、お礼は言わない。

それは自分たちにとって当たり前なのである。

家族であり、仲間でもあるのだ。当たり前のことで礼は言わない。

 

「ブータもヨーコさんも元気でね!」

「ブウ!」

「ええ!」

 

だから変わりに心の底からの笑顔で、

 

 

「「兄貴、いってらっしゃい!」」

 

 

それをようやく告げることが出来た。

 

 

「ああ!」

 

 

シモンはもう一度大切な二人を抱きしめた。

必ず帰ると約束をして。

そして、もう一人の家族を見る。

 

「シャークティ・・・」

「・・・シモンさん・・・」

 

戦いの歴史が茶々丸から始まったのなら、この世界の全ての始まりは彼女から始まった。

掘って突き進んで見つけた新しい世界で彼女に拾われて、今日までに至る。

つい最近のことのようで、随分昔の話に思えた。

最初は疑われて、何度も怒られたが、今では自分を信じてくれる家族として傍にいる。

この世界で最も感謝しなければならない女性だった。

 

「おい、・・・どうしたんだ、この二人?」

「見つめ合ってるんかな~?」

「目で会話しあっているように見えるんですが・・・・」

 

二人は何も話さない。

だが、お互いはそれで理解しあっているようだった。

言葉にならないほどの二人の思いが、言葉を交わさずに成り立っているようだった。

その二人の空気に木乃香たちはハラハラしているが、二人はそれに構わずに見つめ合う。

そして、ようやくシャークティが口を開く。

 

「シモンさん・・・あの・・・」

「なんだ?」

「あの・・・私・・・その・・・アナタを・・・」

 

するとシャークティは顔が少し赤くなっていった。

そしてその意味に彼女たちはピンときた。

 

「「「「!?」」」」

「(ちょっ、シスターシャークティ、・・・まさか・・・)」

「(美空ちゃん、どうゆうことなん!? シャークティ先生は割り切ったんやないの?)」

「(いや、私に言われても・・・・)」

「(いえ・・・、ですが私もそうでしたから分かります・・・私や・・・お嬢様と同じ目です・・・)」

「(えっ!? じゃあシャークティ先生もまさか木乃香や刹那さんみたいに!?)」

「(おのれ~~~!)」

「(マスター、落ち着いて! 今いいところです!)」

「(離せ坊や!)」

 

一瞬でシャークティの想いに察した木乃香たちは慌てだした。しかしその間にもシャークティの口は動いている。

 

「私は・・・アナタが・・・・」

 

ギュッと拳を握り締めるシャークティ。

そして思い出す。この男との出会いを。

美空たちだけではない。自分がどれほど変わったのかを。シスターでありながら、どんな想いを抱いていたかを見つめなおす。

だが、それは決して一生言わないと決めた言葉である。

今の関係が一番だと望んだのは自分である。

恋人ではない。しかし、家族である。ならばそれでいいではないか。

そう思い。シャークティは顔を上げて、シモンに握手を求めた。

 

 

「私は・・・アナタを・・・グレン団を誇りに思います!」

 

 

そう、これでいいのだ。

シモンを困らせる必要などは無い。これがもっとも自分たちの一番の関係なのだ。

シャークティは想いを心の奥底に封印し、シモンの家族であることを選んだ。

 

「俺もだ。お前たちと会えて・・・本当に良かった」

 

シモンは差し出された手を握った。

二人が寄り添いあい、愛を育むことは無いだろう。

しかし、その心が離れることは無いだろう。

それはニアやヨーコたちとは違うが、それもまた確実に厚く、強い絆だった。

 

 

((((か、かっこいい~~、あれが大人の雰囲気))))

 

 

いつしか二人の大人の雰囲気に少女たちは憧れてしまい赤くなって呆けている。

 

「まったく、中々皆さん面白い反応を見せてくれるネ」

「マスターも本気で慌てていたようですが」

「そうネ、まだまだシモンさんの隣の座が誰に渡るかは、それ以前に渡るのかは・・・この時点ではまだ未定ネ♪」

 

含み笑いをしながら眺める超と、面白がっている茶々丸。

相変わらず戦いの後だと言うのに、賑やかなクラスメートたちに笑みを浮かべていた。

 

「なんだよ、何か知ってるってのか?」

「ふっふっふっ、私は未来から来たネ。当然この争いの結末を・・・・・」

「「「「「なにィーーーーーー!!??」」」」」

 

またとんでもない発言をしやがった。

 

「どど、どういうことなん、超さん!?」

「き、貴様・・・なんということを・・・」

「いや、それ聞いたらまずいんじゃない!?」

「大丈夫、某サイ○人の王子も地球人の女と結婚してたことを、未来から来た息子が教えてたから問題なしザマス!」

「馬鹿ヤロウ、それで暴走した界王神が未来をメチャクチャにしたらどうすんだよ!」

「・・・ハルナさん、長谷川さん、ネタが私には分からないのですが・・・」

「おや刹那、少しはそちらの方面も勉強するべきでござるよ」

「話が脱線してるです・・・」

 

完全に取り乱す木乃香たちを見て、ひょっとしたら、ネギたちに囲まれたときにこの話をすれば簡単に隙を見つけて逃げ出せたような気がしたが、あえて言わないことにした。

そして、食い入るように超の言葉を聞こうとする木乃香たちを手で制して、シモンは告げる。

 

「そんなことは今知らなくていい。その結末は、自分の目でいつの日か確かめるさ」

「「「「うっ・・・・・・(でも気になる・・・)」」」」

 

シモンに笑顔でそう言われれば、これ以上聞き出すことは出来なかった。

非常に気になるし、あきらめきれないが、この場は渋々と彼女たちも引き下がった。

 

「茶々丸、また遊ぼうぜ!」

「はい、今度こそアナタを・・・自分の限界を超えて見せます」

 

茶々丸とシモンは手を互いに叩きあい、実に爽やかな光景を作った。

ある意味で美空たち以外に最も変わったのは彼女かもしれない。

彼女もまた、シモンとの再会を待っている。

そして、

 

「私も、面白かったヨ」

「ああ」

 

そしてシモンは超とも握手をした。

超が帰るべき場所へ行ったら、この中で最も彼女との再会は困難である。

だが、シモンと超はサヨナラを言わない。

代わりにシモンは自分のコートを脱いで、それを超に渡した。

 

 

「たのんだぞ。捻じ曲がった物語を・・・お前が正せ!」

 

 

シモンはそう言ってグレン団のマークが描かれているコートを超に手渡した。

 

 

「シモンさん・・・しかし、これは・・・」

 

 

だがそれを受け取るのを超も少し躊躇ってしまった。ずっとムキになって否定していたものである。

だがシモンは超に受け取ってもらいたかった。

 

 

「グレンラガンを動かしたお前は、誰よりも立派なグレン団だ。だからこれを受け取れ、ダチ公!!」

 

「ッ!?」

 

 

ずっとうらやましかった。

これを堂々と身に纏い、戦う美空が超にはうらやましかった。

だが、今この場で、穴掘りシモン自らが自分に相応しいと渡してくれたのである。

超は躊躇いを捨てて、コートに腕を通した。

 

「うわあ、かっこいいです」

「超、似合ってんじゃん!」

 

背中に燃えるグレン団のマーク。

サイズはシモンが着ていただけ合ってぶかぶかだが、それでも温もりを感じた。

シモンを包み、幾多の壁を突破してきた服。

最後の最後に欲しい物が全て手に入った。

 

「いいじゃねえか、お前に合ってるぜ!」

 

そして、これを着てしまった以上、彼女はもう逃げるわけにはいかない。

 

「受け取ったヨ。貴方たちの気合は、この私が語り継ぐ!」

「ああ、頼んだぜ! 俺もお前と会えて良かったよ!」

 

そして二人は再び固い握手を交わした。

今ここに、完全に二人のわだかまりは無くなったのである。

それを見てネギたちはホッとした。二人が完全に仲直りした姿を見て、これ以上望むものは無かった。

 

「さて、そろそろ行くか・・・」

 

言葉はこれ以上ない。

渡すものもこれ以上はない。

シモンはブータを肩に乗せてラガンのコクピットへと飛んだ。

そしてヨーコもグレンのコクピットへと入った。

 

『シモン、もういいのね?』

『ああ、これ以上アイツを待たせるわけにはいかないからな』

 

スピーカー越しに話す二人。そしてシモンは螺旋界認識転移システムを作動させようとする。

思い描く場所はカミナシティ・・・ではない。

最愛の人が眠る地である。

 

『ヨーコ・・・』

『分かってる、着いたらこれは私がカミナシティに持って帰るから、アンタは好きなだけニアと一緒にいてやりなさい』

『ああ、そのつもりだ』

 

一年以上ほったらかしにしていた最愛の女を思い浮かべて、シモンは、そしてブータとヨーコは少年と少女たちを見下ろす。

 

 

「「「「「シモンさん! ヨーコさん!」」」」」

 

 

誰もが手を上げて、見送ってくれる。

そして最後に超が叫んだ。

 

 

「シモンさん! 私は逃げずに明日に立ち向かうヨ! でも、私もサヨナラは言わないヨ! いつの日か・・・いつかまた・・・」

 

 

超の声はハッキリと届いた。

その言葉にシモンはコクピットの中で頷いた。

 

『ああ、分かってるよ』

 

そしてグレンラガンが螺旋力に包まれ、姿を消す瞬間、シモンは最後の言葉を告げた。

 

 

 

『またな、ダチ公!!』

 

 

 

緑色の光に包まれたグレンラガンから、最後にその言葉がネギたちの耳に聞こえた。

サヨナラではなく、再会を約束して、螺旋の男はこの世界から姿を消した。

そして残された者たちも、近い日の再会を想い、しばらくその場で星を眺めていた。

彼らは絶対に忘れない。グレンラガンをではない。次元を超えて現れた不撓不屈の者たちのことを。

そしてこれからは自分自身を今以上に高めて、己の道を突き進むことを、自分たちより先に突き進んだ者たちへ誓った。

 

 

 

こうして異世界の英雄たちは、その大きな物をこの世界に残して、立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、この世界の裏側で、東の方角を眺める一人の少年がいた。

 

なぜ彼が東を見たのかは分からない。

 

だが、不意に見た方角に何かを彼は感じた。

 

意味も無く、ただ東にある日本の方角を眺める少年。そんな彼を不思議に思い、一人の少女が話しかける。

 

「どうしたんです~、フェイトはん?」

「・・・月詠さんか・・・」

 

名前を呼ばれて、振り返るフェイト。しかし彼も明確な答えは分からなかった。

 

「別になんでもないよ。ただ、眺めていただけだ・・・・」

「ほ~、あの方角は日本ですな~、分かりますわ~、ウチも刹那センパイを思って時々見ますえ~」

「・・・そういうわけではないが・・・まあいいです」

 

クネクネと危ない言動を口にする月詠を無視しながら、フェイトはもう一度東の方角を眺めた。

たしかにそこには日本がある。つまり、彼らが居るのである。そう考えると月詠の発言はあながち間違ってはいないかもしれない。

 

「まあいい、そろそろ準備をしましょう、世界を救うための」

「は~、そらまた大掛かりなことですな~、」

「マジメにやりましょう、つまらない邪魔が途中で入るかもしれませんから」

「ウチは大歓迎です~~」

 

フェイトはその場から動き出した。そして東の地に居る者に、心の中で語りかける。

 

(たしかにこのままではつまらない、だがネギ君たちが現れると思うのは僕の早計だろうか・・・いや、それに・・・)

 

表情からは読み取れない。

しかしフェイトの中にある争いの火種に火が付きかかっているのも事実だった。

拳を強く握り締め、螺旋の男を思い出す。

 

 

「来るなら来い、シモン。決着をつけたいのなら、相手になろう」

 

 

地球の裏側でも、シモンを待つものがいた。

着実に動き出した新たなる脅威。

そのことをまだネギたちは誰も知らない。

今はまだ、掴み取った明日を満喫することしか考えていない。

だが、再び争いの中に巻き込まれるのは逃れることは出来ない。それが彼らの選んだ道なのである。

 

 

 

戦いはまだ終わっていない。

 

 

 

 

 





魔法は、おまえの魂だ!

第一部、完! ・・・・・・ここまでで70万字以上・・・ラノベ一冊が10万~12万字だったとして、六冊分ぐらいはあるわけですか。つくづく、昔の私って本当に暇だったんだなと思います。しかも、まだ前投稿したののようやく半分にいくかいかないかぐらいだし・・・。
私がラノベ作家になれたのも、絶対にこれで鍛えられたからですわ。改めて感じました。

とにもかくにも、皆さん、懐かしい方々とも同窓会気分だったり、新しい螺旋の友が加わってくれたりと、感想欄でとても賑やかに盛り上げて戴きありがとうございます。

ある意味で「本来ならここが一番区切りがいい」のかもしれませんが、私が自分で書いてる小説で好きなキャラ、シモン、超鈴音、茶々丸は存分に書けましたが、まだフェイトとチコ☆タンがまだいるので、頑張らんといけません。

チコ☆タンなんて、冒険王ビイトが奇跡の再開するからにはねえ・・・・

さあ、まだまだ長いですが、お付き合いいただけたら幸いです。

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