魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「儀式が・・・結界の復活と共に消滅しました・・・・。すいません・・・私が千雨さんに気付いていれば・・・」
飛行船の上でハカセは全ての終わりを告げた。
自分達の戦いを終わらせたのはグレン団ではない。目の前に居る少年達だった。
心の弱音を晒し、計画が台無しになった超は苦笑いを浮かべながらため息をついた。
「ふう、・・・数年の歳月を込めて・・・全てを費やし・・・激痛に耐えながら・・・いざ実行した結果がこれカ? 呆気ないネ・・・」
儀式が消滅し魔方陣も光を失った。
それは本当に超の手が全てなくなったことを意味していた。
「グレン団以外に敗れて・・・無様を晒して・・・本当に私は一体何がしたかったんだという話ネ・・・」
己を自嘲しながら、戦意を失った超は体中の力を抜いた。
力なくうな垂れる超に、ネギは一歩近づいた。
「超さん・・・アナタは本当に・・・何がしたかったんですか?」
「・・・? 何を言っている・・・私はシモンさんを倒して・・・「それです!」・・・」
「・・・ネギ?」
突如口を開いたネギに超もシモンもハカセも顔を向ける。
「僕・・・思ったんです。超さんはもっとズルくすれば、簡単に勝てたんじゃないですか?」
「・・・な・・・に?」
「シモンさんも言ってましたよね。超さんは黙っていれば出来たのに、あえて自分達に挑戦して来たって」
「・・・ああ・・・」
「過去を変えたいだけなら・・・この時代じゃなくても良かったはずです。それなのに超さんがこの時代を選んだ理由・・・それって・・・もしかしたら・・・」
それはシモンも武道大会の日に超に言ったことだった。
超の本当の望み、それはグレン団の真の物語を知りたかったのではないか、ということである。
超の困難を突破していくグレン団の姿を知ることこそ、超がこの時代を選んだ本当の理由なのだと思っていた。
当然超は意地になって納得しようとしなかった。
「ふっ、まさかネギ坊主もシモンさんのように、私がグレン団を知りたかったから、とでも言うつもりカ?」
超もネギの言おうとしていることを予想して、先に否定した。
先ほど弱みを見せたが、どうしても丸分りな意地を張ってしまった。
だがしかし、ネギは首を傾げた。
「・・・何を言っているんですか?」
「・・・はっ?」
「そうじゃありません、確かにそれもあるかもしれませんが、あなたがここに来た本当の理由・・・それは・・・さっき超さんが自分で言ったじゃないですか・・・」
ネギはチラッとシモンを見た。
「「「!?」」」
それだけでシモンもハカセも超も、ネギの考えが理解できた。
ネギはグレン団と超の因縁を全く知らない。だが、超のシモンに対する素直になれない姿を見て、超の心の奥底の本心を予測した。
「俺は・・・超が・・・俺達グレン団の真の姿を知りたいのかと・・・ずっと思っていた・・・・」
意地になって認めないが、それこそ超の本心だと思っていた。
ハカセも時折見せる超の切ない表情から、同じ考えを持っていた。
だが、ネギが言った先ほどの超の言葉を思い出す。
そして、全てに辿りついた。
「・・・ふふ・・・ハハハハハ、そうか・・・そういうことだたカ・・・」
超も理解し、思わず笑ってしまった。
少年の純粋な心に、打ち壊された意地という心の壁の中に潜んでいた自分の本当の気持ちが、ようやく分ったのだ。
「そうか・・・グレン団とか・・・過去を変えて世界を救うとか・・・そんな大仰ではない・・・私の願いは・・・」
自分の時代に既にいない男。
伝説と歪んだ物語を超の時代に残した男。
たしかにそれが原因で世界は変わってしまったかもしれない。
その歪みを正すために、過去に来た。そしてグレン団と戦い、失望した物語に見切りをつけて、前へ進む。
それが全てだと思っていた。
だが、それだけではない。
少女の願いは、もっと純粋で小さな願いだった。
「そうだ・・・シモンさん・・・・私は・・・ただ・・・」
涙を拭い、笑みを超は見せた。
それは、策略でも作り笑いでもなんでもない、
「私はただ・・・アナタに会いたかっただけなのかもしれない・・・」
「超・・・」
それこそが、超鈴音が抱いた本当の願いだったのかもしれない。
「私が作った壁なんかを突破して・・・無理を通して道理を蹴飛ばしてアナタに・・・会い来て欲しかった・・・」
「バカヤロウ・・・俺みたいに穴を掘るしか脳の無い奴には・・・伝えてくんなきゃ分んねえよ・・・」
「そうネ、フフフ、私・・・バカだたヨ」
「そうだな・・・ハハハ、俺達はバカだったよ、・・・答えは道の途中に落ちてたのに・・・二人共気付かなかった」
超とシモンは互いに笑った。
笑わずにいられなかった。
余りにも単純すぎる答え。十歳の少年にすら分ってしまったことに、なぜ自分達は今まで気付けなかったのかと、笑うしかなかった。
純粋におかしそうに笑い合う二人、その光景はどこか温かく、地上の生徒達も思わず微笑んでしまった。
そしてボロボロになりながらも世界樹を防衛していた者達は、消えた鬼神に驚いていた。
「おい・・・って・・・アレ?」
「き・・・消えた?」
「おい、あのデッカイのが消えたぞ!!」
それはギリギリのところだった。
最後の防衛ラインで粘った男達の粘り勝だった。
千雨の活躍により見事学園結界が復活し、あともう少しのところで世界樹広場にたどり着くかと思えた鬼神は姿を消した。
「やったぜ!!」
「勝ったぞ! 約束どおり俺達はやったぞ!!」
「ヨーコさんとの約束も守ったし文句なしだ!!」
「やったね、兄ちゃんたち!」
「おうよ! ゆーな☆キッド、お前もよくやったぜ!!
消失した鬼神にグレン団たちは手を叩き互いを称えあった。
その中には最後の最後まで一緒に粘った裕奈たちもいた。
千雨のお陰でもあるが、彼らはあたかも自分達が倒したかのように喜び合っている。
「やったね、みんな!」
「スゴカッタ!」
「オ見事デス」
「ぶう!!」
「はい、感心させられました」
「本当よ! 約束も守ったみたいだしね!」
豪徳寺たちが声のした方向に振り返る。するとそこには自分達の先輩がいた。
「うおおおお! 美空ちゃんたち! エンキも、無事だったのか!」
「ヨーーコさん! 約束守ったぜ!」
勝利、引き分け、敗北、結果はそれぞれだった。
しかし誰もが同じような表情をして、己たちの成すべきことをしたことに、喜びを分かち合っていた。
『皆さんご覧ください! 巨大ロボが皆さんの活躍により消失しました!! 敵の火星ロボ軍団はあらかた壊滅!! ・・・ということは・・・』
「「「「・・・ということは・・・?」」」」
朝倉がこの光景を見て、学園中に勝利宣言をしようとした。生徒達もそれを待っている。
しかし、その言葉は阻まれた。
「ちょっと待って!!」
『うおっ!? どうしたのアスナ~? せっかく今・・・「なに・・・アレ」・・・?』
「アスナさん?」
「アレよアレ!! 向こうから・・・何か・・・近づいてくる・・・」
「えっ?」
アスナは恐る恐る、ある方角に向けて指を指した。
その先にあるのは湖、
そう、たった今消えた最後の鬼神が居た方向である。アスナの言葉に生徒達は振り返る。
するとそこには・・・・
「は・・・・はあああああああ!?」
「なっ・・・・なんだありゃあ!?」
数人の生徒が気付いて叫ぶと、全員が振り向き、その視線の先にあるものに驚愕の声を上げる。
「ちょっ、どういうことよ!? もう終わりじゃないの!?」
「き、聞いてないよーー!?」
「バカナ・・・アレハ・・・」
「ぶ、ぶう!?」
「嘘・・・ブータたちが・・・・倒したのに・・・」
近づいてくる巨大な物体。
生徒達も、グレン団も己の目を疑った。
己の目に映るものが信じられなかった。
「ちょっ、どういうことよ!?」
「・・・こ・・・こんなことが・・・・」
「せっ・・・せっちゃん・・・」
「おいおい、なんの裏ボスだ?」
アスナも、刹那も木乃香も千雨も、自分達の勝利を確信していた矢先だった。
突如現れた巨大なロボットが、一歩一歩、世界樹広場に、不気味に近づいてきていた。
その情報は直ぐに上空に居るハカセに届いた。
「なっ、これは!? ちゃ、・・・茶々丸?」
「どうしたハカセ?」
「その・・・敗退したはずの・・・グレンラガンの反応が・・・せ、世界樹広場の目前に現れました!!」
「「「なっ!?」」」
「どういうことだよ、ハカセ!? あの偽者はブータとエンキが倒したはずじゃ・・・」
「で、ですが・・・・本当に。・・・茶々丸! 応答してください! 茶々丸!」
ハカセの言葉に超もシモンも、ネギすらも度肝を抜かれた。
敗退し、偽りの夢として湖に沈んだはずの巨大ロボットが、真っ直ぐに、この飛行船の丁度真下に姿を現したのである。
ハカセは慌てて回線を茶々丸に繋いだ。
だが、応答は返ってこない。
不審に思ったハカセは真下に現れた巨大ロボットの反応を己のパソコンを使い、詳しく調べてみた。するとそこには衝撃の事実が記されていた。
「う、・・・うそ・・・」
「どうした、ハカセ?」
「大変です、超さん! この巨大ロボット・・・ありえないほど強大な魔力を溜め込んでいます・・・世界樹の大発光の魔力が・・・」
「バカな! それでは動力がオーバーロードしてしまうから、リミッターを着けた筈ヨ!」
「それが・・・リミッターが・・・外れています・・・・」
「なっ!?」
「機体の制限を・・・全て解除されています・・・。学園祭の世界樹の魔力を今現在も無尽蔵に吸収し続けています・・・」
ハカセの発言に取り乱す超。二人の会話はよく分らないが、シモンもネギも尋常でない事態を察した。
「おい、茶々丸! 応答しろ! こちら超、応答しろ!」
「ダメです! さっきから応答がありません・・・・」
「まさか・・・オーバーロードした機体に影響されて茶々丸の自我が乱されたのか?」
「おい! 俺にも分るように説明してくれ!」
「ぼ、僕にもお願いします・・・」
先ほどから自分達を置いてきぼりに二人でパソコンの画面を見ながら、通信機を口元において叫ぶ超とハカセ、業を煮やしたシモンが口を挟むと、超は少し考えながら、今の状況を説明していく。
「・・・簡単に言うと・・・魔力を吸収しすぎて・・・茶々丸が・・・いや、偽りのグレンラガンが暴走してしまい、それにより、同じ機械である茶々丸まで影響を受けた・・・ということヨ・・・」
「暴走って・・・暴走してないじゃないか!」
シモンの言うとおり、画面に映る巨大ロボットは世界樹広場から少しはなれた所で立ち往生していて、今は動く気配は無い。
そのことが少し不気味に思えたが、シモンが超から通信機をとり、茶々丸に直接話しかけた。
「おい、茶々丸! 聞こえるか? シモンだ・・・何か言ってくれ!」
しかし声はすぐには返ってこなかった。
超やハカセが声をかけても無反応だったのだ。それは当然のこと・・・かに思えた。
だが声は返ってきた。
感情が芽生え始めた茶々丸とは思えないぐらい無機質な声が返ってきた。
『ターゲットヨリ通信・・・コレヨリ・・・ターゲットノ捜索・・・及ビ、排除・・・・』
「「「「!?」」」」
それが、シモンたちの心を大きく揺るがせた。
その口から発せられた言葉が、ただの冗談であって欲しかった。
それは、茶々丸という少女の体を借りた別の存在に思えた。
「そ・・・そんな・・・」
「シ・・・シモンさんが・・・ターゲット?」
ハカセとネギが恐る恐るシモンを見る。
混乱した二人には、今の茶々丸の言葉の真意がまったく分らなかったのである。
だが、シモンと超は理解してしまった。
「アイツ・・・俺と戦うために・・・・」
「私の協力者だったために・・・・」
グレンラガンモドキの巨大メカに飲み込まれた茶々丸という名の少女。
今の彼女は本来のメカと同じように、ただ与えられた役割を忠実に果たすだけの存在になってしまった。
己の意思を持たずに、感情を持たずにただただ実行する存在。
そして悲しいことに、茶々丸という人格は飲み込まれても、与えられた役割は覚えていた。
それはグレン団と戦うことである。
「こんな・・・・所に・・・いたのか・・・」
「・・・ウム」
シモンと超は拳を強く握り締め、パソコンの画面に映る巨大ロボを悲しい目で見つめた。
「俺達の・・・信念を通すという名目で行なわれた意地の張り合いによる犠牲者が・・・」
「こんな所に・・・いた・・・カ・・・」
全ては自分達から始まった。
先に喧嘩を売ったのは超。
それを真正面から受けたのはシモン。
どちらが悪いかどうかはこのさい、どうでもいい。何故なら重要なのはそこではないからである。
重要なのは、自分達の行なった行為に、とうとう犠牲者が出てしまったのである。
それが、シモンと超の心を締め付けた。
だが・・・
「いや・・・まだだ!」
そう、まだ終わっていない。
「そうネ、ここであきらめていいはずが無いヨ」
被害者は出たかもしれない。だが、まだ犠牲となったわけではない。
茶々丸はこうしてまだ生きているのである。
だから諦めるわけには行かなかった。そしてそのことの意味を超も分っている。
「超・・・俺達のしてきたことに対するケジメをつけなくちゃいけない・・・」
「ウム、・・・茶々丸を・・・助けるヨ」
二人の考えは、一点のブレも無く同じだった。グレン団も、火星軍団も関係ない。
己のしてきたことに対する尻拭い。
そして単純に自分達の友を救うという想いが、超とシモンの意地を捨てさせ、一つになった。
「シモンさん! ・・・でも・・・どうやって? リミッターを外したあの巨大ロボの出力は・・・その・・・」
「・・・問題ないさ」
「・・・・ウム」
「えっ!?」
想像を遥かに上回る巨大ロボの数値に不安を拭えないハカセだったが、その不安をシモンと超は一蹴した。
そして同じように少し不安気な表情のネギを見た。
「ネギが教えてくれた・・・」
「ウム、私達が力を合わせれば・・・・」
「「どんな困難をも乗り越えられる!!」」
超とシモンはその言葉と共に走り出した。
激痛、疲労、そんな物は知ったことではない。
それよりも何倍も痛い心の痛みを負わない為に、飲み込まれた友の下へ走る。
「ハカセ、これ借りるヨ」
「ちょ、超さん!?」
超はハカセの背中についているブースターを許可無く取り外し、自分の背中に装着する。
それは戦いに巻き込まれないようにハカセがいつでも逃げ出せるように持たせていたものだ。それを自身に取り付け、シモンと共に飛行船から飛び降りる。
「シモンさん、超さん!?」
ネギの言葉に二人は振り返らないどころか止まらない。
ブースター放出して空を飛ぶ超の腕にシモンが掴まり、二人は真下にいる最後の相手へと向かう。
そして、二人の存在を茶々丸も感知した。
『ターゲット補足、迎撃体勢』
ロボの目が急に光り出して、突如巨大な光をロボット全体に覆った。それはまるで魔法使いの戦闘体勢のような光である。
「アイツ、動き出したわよ!?」
「ちょ、アスナ見てよ! ほら、空から誰か落ちてくるよ!」
「えっ? ゆーな、どこ? ・・・ってあの人!?」
「シモンさんや!」
「それに超鈴音も!」
ついに動き出した巨大ロボに広場に集合している生徒達は思わず身構えてしまう。
するとその時同時に夜空を駆ける二人の人間の存在にも気付いた。
「兄貴!?」
「リーダー! ようやく来たか!」
「シモン・・・決着を・・・つけるのね」
闇夜に浮かぶ二人の元凶が、そのまま真っ直ぐ臨戦態勢に入った巨大ロボヘと向かっていく。
「シモンさん、茶々丸だが・・・・」
「大丈夫だ! ようは、あのモドキに風穴開けて、中からぶん盗っちまえばいいんだろ?」
「理論は無茶苦茶だが正解ネ!!」
巨大ロボの正面に辿りついた瞬間、シモンは掴んだ超の手を離し、シモンは落下していく。それと同時に巨大なドリルを真下に向けて、叫んだ。
「超銀河シモンインパクトォォーーー!!」
超銀河モードで何倍にも膨れ上がった状態でのシモンインパクト。
これで暴走した機体ごと再び元に戻してしまおうという作戦だった。
しかし、敵がそれを許さなかった。
膨大な魔力に包まれたグレンラガンモドキは、その覆った魔力から周囲に無数のドリルを放出した。
『ターゲット接近、迎撃、コマンド、フルドリライズ発動!!』
「なにっ!?」
「シモンさん!?」
完全に予想外の事態だった。
制限を失ったグレンラガンモドキは、機体から無数のドリルを出すという本物と同じ技を行なった。
シモンの勢いは止まらない。
落下スピードをプラスして、ハリネズミのようになった巨大ロボットに突っ込んでいく。
「ちっ、このままいくぜ!!」
舌打ちするものの、状況は変わらない、超銀河のドリルでそのまま突っ込んでいく。
そして次の瞬間、鉄が削れて行く音が響き渡る。反発しあい互いに逆の方向へと掘り進もうとするドリルがぶつかり合う。
しかし威力が上回っているのはシモンの方である。
だが、長く伸びきったドリル全てを削るのに、多少に時間のロスがあった。
そこを巨大ロボは冷静に突く。
『グレンブーメラン、装備』
「!?」
胸元にあるグレンを真似したサングラスの形をしたブーメランを装着し、それを思いっきり振りかぶり、未だにドリル同士をぶつけ合っているシモンを叩き落そうとする。
シモンに避ける術はない。
「そうはさせないヨ!」
危機を判断した超が、作業途中のシモンを上から掴み上げて、間一髪の所でブーメランの刃から逃れた。
「悪い・・・予想以上に硬い。それにあんなものが使えるとは思ってなかった」
「・・・私もヨ・・・」
「製作者だろ?」
「起動するのは今回が始めてヨ。魔法の力が私の想像を遥かに超えて、茶々丸を媒体にして具現化した」
超の描こうとした本物。
そして茶々丸はこれまで何度もシモンの側で、その力を見てきた。
動力に魔力と螺旋力の違いはあるものの、世界樹から溢れる魔力は十分にそれを実現させた。
「とにかく一度、動きを止めるヨ!」
「体は大丈夫か?」
「心の傷以外なら、いくらでも耐えて見せるヨ!!」
一度距離を置いて建物の屋上に並ぶ超とシモン。すると二人の体から螺旋力と科学の力で起こした魔法が発動する。
「ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル!! 魔法の射手(サギタ・マギカ)、連弾(セリエス)、火の59矢(イグニス)!!」
「超銀河螺旋砲!!」
螺旋の力と魔法の力が同時に巨大ロボヘ向けて真っ直ぐと向かっていく。
しかし巨大ロボは避ける動作も見せずに、フルドリライズ形態のままその場に居る。
そして、フルドリライズで伸びた全てのドリルを回転させた。
周囲360度に無数に伸びたドリルの一つ一つが高速回転し、その回転が巨大ロボの周囲に風を巻き起こした。
手を天に掲げ、その瞬間巨大な竜巻が出現した。
「なっ!?」
「嘘だろ、おい!?」
シモンはその技の、その使用方法は、茶々丸には見せたことが無い。
しかし彼女は理解していた。ドリルの巻き起こした風が巨大な竜巻を生み出し、シモンと超の強大な攻撃すらも阻んだ。
炎の矢と螺旋力のエネルギーが風に弾き飛ばされる。
さすがにショックを受ける二人だが、生まれたはずの感情を見失った茶々丸は隙を逃さない。
『被弾・・・損傷・・・ゼロ』
機体の確認後、フルドリライズのドリルをしまい、巨大ロボットは建物の屋上に居るシモンに目掛けて走り出した。
「超・・・体は・・・」
「ハア、ハア・・・この・・・ぐらい・・・」
魔法を再び使用した超は激痛の余りに膝をついて激しい息をした。誰がどう見ても限界である。
今の超に避ける力は無い。
だから迫りくる巨大ロボをシモンが真正面から迎え撃つしかない。
「来るなら来い! テメエの暴走なんざ、どこまでも突き進む俺の魂が突き破ってやるぜ!!」
シモンは破れかぶれで超銀河のギガドリルでぶつかってやろうと身構えた。
しかしその時だった。
「雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!」
「神鳴流決戦奥義・真・雷光剣!!」
巨大な二つの雷がシモンの横を通り抜け、巨大ロボに襲い掛かった。
『巨大エネルギー接近、攻撃キャンセル、魔力シールド展開』
二つの雷に反応して茶々丸は冷静に攻撃の手を止めてシールドを展開した。
そして巨大な土埃と共に中から、ほとんど無傷状態の巨大ロボがそのままの姿で健在していた。
だが、シモンと超は無傷な巨大ロボよりも、通り過ぎた雷が来た場所へと振り向いた。
するとそこには杖に跨った少年と、白い翼を羽ばたかせた少女が剣を掲げて、自分達の後ろに浮かんでいた。
「ネギ! 刹那!」
二人の登場に声を上げるシモン。
だが二人のドラマチックな登場に水を指す様に巨大ロボのグレン部分の口が開き、大気が震えるほどの魔力が集中していった。
『遠距離攻撃。ターゲットロックオン、超絶魔力光弾射出!!』
「シモンさん、前ヨ!」
「なっ!?」
ネギと刹那に気を取られていると、巨大ロボは休む間もなく、今までとは比べ物にならないほどの膨大な魔力の塊をそのまま放出してきた。
レーザー砲のように真っ直ぐにシモンに向かって襲い掛かり、シモンの反応が遅れた。
だが、再びシモンの横を通り過ぎる風が現れた。
それは騎士の格好をし、大剣を持ったツインテールの少女だった。
「魔法みたいなのは、私には通用しないのよ!!」
シモンを追い抜いた少女は迫り来るレーザー砲の真正面に立ち、大剣を一直線に振り下ろした。
「どりああああああ!!」
全ての魔法を無効化させるアスナには、いかに巨大とはいえ、魔力の塊などは問題にはならなかった。
迫りくるレーザーを正面から一刀両断に斬り裂いた。
「なっ!? ア・・・アスナ?」
「へへん! 私だけじゃないよ♪」
シモンに振り返りVサインを向けるアスナ。するとシモンの背後に別の気配を感じた。そして魔力の光を感じた。
振り返るとそこには疲弊しきった超に温かい魔力を流し、超の傷を完全に治癒させてしまった少女がいた。
「き・・・傷が・・・治ったヨ」
己の完治した体に目を見開いて驚く超。その横には超を治した少女がニッコリと微笑んでいた。
「いくら約束してても、やっぱ最初から最後までシモンさんと二人っきりはズルイえ♪」
「こ・・・木乃香さん・・・」
アスナだけではない、なんと木乃香まで自分達の側に現れた。
「木乃香まで・・・。お前達・・・どうして?」
この事態にシモンと超が戸惑っていると、ネギは当たり前のように二人に告げる。
「シモンさん、さっき言ったように、二人が力を合わせればどんな困難でも乗り越えられると思います。でも、そこに更に多くの協力があれば、それこそ絶対無敵です!」
ネギは胸を張って自信満々に告げる。そしてその言葉にアスナたちも頷いた。
「茶々丸さんは私達の大切なクラスメートでもあるのよ? シモンさんたちの責任とか、ケジメとか、関係ないからね♪」
「はい、想いが同じなら・・・私達が共に戦うのはおかしくないはずです」
「せや、さっきシモンさんと超さんが、力を合わせてたようにな」
アスナ、刹那、木乃香。さきほど自分達が打ち倒した少女たちまでもが何のわだかまりも無く、共通の想いのために、何の迷いの無い目でこの場に現れた。
そして・・・
「だったらそこに、もっと力があればどうなるかしら?」
「はい、形容詞が見つかりませんね」
「ウム・・・美空殿、どう表現するのが一番でござるか?」
「そだね、う~ん超絶怒涛絶対銀河級の無敵とか?」
「よく分ラナイ・・・でもカッコイイ」
同じ想いを掲げた戦士達が続々と集った。
「ヨーコ、シャークティ、長瀬、美空・・・ココネ・・・お前たちまで」
「皆さん・・・しかし・・・これは・・・私達の・・・責任ネ」
この場に現れた友や仲間達の出現にシモンと超は申し訳なさを感じた。
するとヨーコがシモンと超の二人の頭を軽く叩いて、世界樹広場へ向けて指差した。
「なっ!? これは・・・」
「分った? もうアンタ達の戦いだけじゃなくなってんのよ」
驚愕するシモンと超。
すると大量の掛け声と、光の弾丸が、自分達を通り過ぎ、巨大ロボ目掛けて飛んでいった。
巨大ロボのシールドは厚く、破るには至らない物の、それでも攻撃の数は計り知れない。
「「「「「敵を撃てーーーっ(ヤクレートゥル)!」」」」」
「撃ちまくれーー! 何かよく分らねえが、アレが裏ボスなんだろ!」
「私達もやるよーーっ!!」
「まだまだイベントがあるなんてスゴイね!」
裕奈や美砂達には事情はよく分らない、しかしシモン、超、ネギたちの反応が、巨大ロボを敵だと判断して、離れた場所から攻撃を繰り出した。
そしてその声と攻撃は、イベント参加者の生徒達だけではない。
「野郎共、遅れを取るな! リーダー達の援護だ!!」
「おうよ! 烈空掌!!」
「よーっし、この際何でもかかって来やがれーー!!」
出遅れないようにグレン団の男達も一斉に叫び巨大ロボットに向けて攻撃を飛ばす。
言葉が無かった。
事情を知る者、知らない者、全てを関係無しに、全ての人間が共に叫んだ。
茶々丸には申し訳ないが、実に気持ちが高まった。
本来この場では自分達が決着をつけるべきなのだが、既に戦いは自分達だけの物では無くなっていた。
理由はそれぞれかもしれないが、立ちはだかる最後の敵に、全ての者達は自分の意思で戦った。
そんな想いを止める権利はシモンにも、超にもない。互いに顔を苦笑して見合った後、シモンと超も共に駆け出した。
それは実に異様な光景だった。その光景を空の上でエヴァンジェリンは高らかに笑いながら眺めていた。
「ハッーハッハッハッ、こいつは面白い。相変わらずシモンが関わると静かに戦うことも出来ないか」
「この展開は予想外じゃのう、まさかこうなるとはな・・・」
「京都ノ戦イモ似タヨウナモンダッタガ、今回ハ規模ガデケーナ・・・」
京都でスクナと戦ったとき、その場に集った様々な者達が力を合わせて立ち向かった。
そして今回はその規模を大きく上回っていた。
「ウム、未来人、異世界人、魔法使い、一般人・・・いや・・・三つ巴の大喧嘩、新生大グレン団、火星軍団、学園魔法騎士団の戦い合った三つの勢力が力を合わせるか・・・なんとも情熱溢れる戦いじゃのう」
顎に手を当てながら学園長もこの異質な光景に目を奪われていた。
「だが、茶々丸君は大丈夫かのう・・・」
唯一の気がかり、それは巨大ロボットの中に飲み込まれている茶々丸の安否だった。
しかしマスターであるエヴァは、何の心配も無いかのように自信に溢れていた。
「ふん、茶々丸に芽生えた気合を舐めない方がいいぞ? そして・・・シモンやぼーやたちもな」
「ケケケ、信頼サレテルッテコトカ」
酒を飲みながら、エヴァと学園長は、立ち向かう若者達の勇士をはるか上空から見守っていた。
「巨大ロボの攻撃はアスナさんが中心になって防いでください! もし怪我人が出たら木乃香さんが!」
「任せて!」
「了解や!」
「では、ネギ先生、私達もシモンさんたちとともに!!」
アスナ、木乃香たちを最後の防衛ラインに残し、刹那とネギは巨大ロボヘシモンと超とともに向かっていく。
「私達も遠距離から援護をするわよ!」
「わかりました!」
ライフルとロザリオを掲げて、接近することは不可能でも、ヨーコとシャークティはアスナたちとともに防衛ラインに残って援護する。
「ココネは私と一緒に、周りをウロチョロしてデカ物の気を逸らすよ!!」
「分カッタ」
「拙者も共に行こう!!」
コンピューターを少しでも撹乱しようと、美空は周囲を走り回ることにした。
その美空の考えに楓も賛同して、敵同士であったのを忘れ、共に戦場を駆け出した。
最早自分達の意思に関係なく自分達の戦いが大きな動きを見せていく。シモンも超も、笑わずにはいられなかった。
「茶々丸・・・聞いているか? 理由はそれぞれだが、今この場にいる全ての人間がお前を見ている!」
螺旋弾を飛ばしながらシモンは茶々丸に向かって叫ぶ。
「皮肉なモノネ。魔法も人間も、こうも簡単に協力し合う・・・本当に皮肉なものヨ」
再び魔法を飛ばしながら超も叫ぶ。
「もう、終わりにしよう・・・・」
「私の歪んだ想いとともに・・・・だから・・・」
「「何とか言え!! 目を覚ませ茶々丸!!」」
一人の犠牲者も出すわけには行かない。それは茶々丸も含めてである。
だから二人は叫んだ。
たとえ茶々丸に反応が無かろうと、精一杯大声で叫んだ。
『敵・・・無量大数、シールド状態維持・・・』
だが茶々丸に声は届かない。
その原因は、それほど深く飲み込まれたからなのか、それとも茶々丸に記録された決着をつけるという役割がとても根強く残っているからかは分らない。
しかしどちらにせよ、シモンと超の声は茶々丸には届くことなく、グレンラガンモドキは止まらない。
ネギも、刹那も、アスナも木乃香も、夕映も、ハルナも、そして千雨ですら茶々丸に叫ぶ。
クラスメートの意識を取り戻そうと精一杯に叫ぶ。
だが、それでも届かない。
『魔法螺旋弾・・・射出準備』
巨大ロボットは魔力で作り上げた大量のドリルの形をした魔力弾を周囲に作り出した。
それは魔法使いの「魔法の射て」の要領のように見える。
しかし螺旋の形をした魔力の塊は、ハッキリ言って威力を想像することが出来なかった。
「ちょっ、あんなたくさん、私でも防げないわよ!?」
「まずいです、あんなものを無差別に乱射されたら!?」
シールドを張り続けるものの、大量に休むことなく降り続ける攻撃に業を煮やしたかのように、螺旋の形をした魔力が大量に世界樹広場を狙っている。
「「茶々丸――――ッ!!」」
意地でも阻止しようとシモンと超が決死で止めようとするが、茶々丸に反応は無い。
このままでは多くの犠牲は免れない。
だが、最後の最後まであきらめるわけにはいかない。
(俺の気合が無いのか? 魂が弱いのか? そんなハズはねえ! だが、まだ足りない。まだ・・・まだ・・・俺はまだ全部を見せちゃいない!!)
シモンは真っ直ぐ走り出し、巨大ロボに向かって突き進む。
「危ない!」
「シモンさん、避けて下さい!!」
巨大ロボは数秒後に強力な攻撃を放つ。
人間ぐらい軽く消し去ることが出来るだろう。
後ろから仲間、友、家族、敵だった者の叫びが聞こえてくる。
だが、シモンは振り返らずに突き進む。
グレン団は、自分達は、いつもそうやって困難に自分から突っ込んで行った。
だからこそ己を疑うことなく、シモンは突き進む。
『魔法螺旋弾、発射』
巨大ロボが茶々丸の命により、大量の魔力の弾丸をシモンに向けて放つ。
だがシモンはそれに向かって飛び込もうとする。
「茶々丸・・・言った筈だ! 何度でも思い出させてやる! 俺のドリルは・・・」
その瞬間、シモンの胸元にあるコアドリルが光った。
そしてそのままドリルを片手にシモンはあの言葉を叫んだ。
「俺のドリルは――――――――――」
「「「「「シモンさん!!」」」」」
「「「「「リーダー!」」」」」
ネギたちは忘れない。
その時の光景を誰もが忘れない。
誰もが今日という日を忘れない。
魔法を知っている者、知らない者は何も関係ない。
そしてこの光景を、映像を通して見ている他の生徒達も忘れない。
膨大に光り輝く緑色の光。
同時に魔法が溢れ出す世界樹の光、
その光が、学園祭最後の奇跡を起こしたのだった。