魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
ネギたちを退けた超とシモンは二人並んで走っている。
「これだけ走っても、学園側に見つからないな・・・」
「まあ、ほとんどの人数が減った上に未だに総力戦で潰しあってるからネ・・・」
これだけ学園全土を巻き込んだ戦いにもかかわらず、2000対以上いるロボットとも、学園の生徒たちともすれ違うことはない。
まるで誰かが二人を戦いの舞台に誘おうとしているようである。
だが、それもそのはずだった。今の学園の生徒達は襲い掛かるロボットや、巨大なロボット同士の戦いに夢中になっているのである。
さらに二人を探そうとしている学園側の教師も既にほとんどが退場している。
「仲間が心配カ?」
少しに皮肉めいた口調で超がシモンを見る。しかしシモンは即答した。
「大丈夫だ・・・そう信じてる。俺が出来るのは心配することじゃない。皆を信じて、そして開いてくれた道を進み、俺のやるべきことをする。それだけだ。俺が信じる仲間を信じる!!」
心配していないとはシモンは言わない。
現実の残酷さは身に染みてわかっている。しかしここで仲間を気遣うのは彼らに対する侮辱でしかない。
仲間は誰一人失いたくない。
しかし彼らの気持ちに応える為、シモンは拳を強く握り締めながら堪え、超の後を追いかける。
ネギたちの第一ラウンド目が終了した頃、別の場所で一つの戦いの決着がつこうとしていた。
「はあ、はあ、はあ、・・・くそっ・・・足が・・・」
息が完全に上がり、呼吸も荒い。
そして自慢の足は既に疲労が限界を超えてパンパンに腫れ上がっていた。
「美空・・・」
「へっ・・・へへ・・・だ、大丈夫だってココネ・・・」
美空だった。
肩にココネを乗せているものの、誰がどう見ても疲労困憊の姿である。
「美空殿・・・拙者には誤魔化しの力は通用しないでござるよ」
建物の屋根の上から息一つ乱れぬ声で告げるのは楓だった。
当初互角に思えていた両者の戦いだったが、いつの間にか形勢は完全に傾いていた。
「楓・・・はあ、はあ、うっ・・・・」
「美空!?」
とうとうよろけ出した美空。ココネも慌てて肩から飛び降りて美空を支える。
美空は心配して覗き込むココネに心配をかけない様に無理やり笑顔を作ろうとするが、出来なかった。
今の美空はココネに支えられなければ立っていられないほど完全にガス欠してしまったのである。
「ちっ・・・くしょう・・・」
「美空・・・」
なんとか強がろうとするがそれも出来ず、それどころか自分の今の不甲斐なさに思わず涙が浮かび上がってきた。
パートナーが悔しそうに流す涙にココネも思わず涙ぐんできてしまった。
「美空殿、お主はよくやった。真剣な鍛錬もせずに才能のみで戦って、拙者がここまで時間が掛かるとは思わなかった・・・」
最初は互角・・・だった。
しかし徐々に経験の差。そして体力の差。積み重ねてきた物の差が浮き彫りになってしまった。
幾多の修羅場を潜り抜け、今でも鍛錬を怠らない楓。そんな女を能力のみで上回るにも限界があった。
最初は間近で美空のスピードに舌を巻いたものの、訓練不足ゆえの体力不足、そして格闘技術も半端であるがゆえに、どうしても攻撃が単調になってしまった。
その動きに慣れるまで楓は分身の術などでやり過ごし長期戦を挑んだ。
しかし初めからペース配分などなく全開で飛ばしていた美空にはそこまで考えが回らなかった。
そして多少の時間が掛かったものの、このような結果になった。
攻撃が当たらないことが強みだった美空も、自慢の足が使えなくなってはどうしようもなかった。
「これ以上は無意味、拙者はネギ坊主たちと共にシモンさんの下へ行く」
これ以上クラスメート同士で争うことは楓も望むものではない。美空を残し、シモンを探しに行こうとした。
しかし、
「ま・・・待て!」
美空はもう一度立ち上がった。
ボロボロだが楓の足を止めた。
「無理をするな、美空殿。拙者もネギ坊主の想いに賭けた以上、いつまでもここに居るわけにはいかぬ」
だが、美空は頷くことは出来なかった。
勝算は無い。考えも無い。今の自分には一欠けらの意地しか残っていない。
だがそれでも叫んだ。
「ガタガタうるさいんだよーー!! 兄貴が・・・兄貴が認めてくれた私は・・・こんなとこで負けてられないんだよーーーー!!」
「美空!?」
美空は走り出した。
しかしそれは走っていると呼べるほどのスピードは無かった。
高速の動きが見る影も無く、普通にランニングしているようなスピードだった。
しかし走った。
「私は・・・グレン団・・・私を・・・誰だと・・・思って・・・うわあああああああ!!」
ココネを振り切り、残された意地だけで楓に向かっていった。
「美空殿・・・」
無視してもよかった。
どうせ今の美空では走った楓に追いつくことなど出来ないからである。
しかし楓は美空の目に、胸が熱くなった。
ガムシャラで醜く見えるかもしれない美空の最後の走りだが、流れる汗、そして振り切る涙に、武人として無視することは出来なかった。
「わかったでござる。受けよう!」
楓は振り返り、建物の屋上から飛び降りて真っ直ぐ美空に向かっていった。
とどめの一撃を容赦なく叩き込むつもりである。
「美空!」
美空は前だけを見て走っている。
楓は拳を振り上げる。
(兄貴・・・兄貴・・・・兄貴――――ッ!!)
心の中で何度もシモンに叫ぶ。
背中に背負った誇りに恥じたくない。そう誓いながらただ走った。
そしてココネの叫びが響き渡ると同時に美空と楓がぶつかろうとした瞬間、
「・・・美空殿・・・」
楓は寸前に動きを止めた。
美空と楓はぶつかることなく、美空はそのまま前のめりに倒れてしまった。
倒れた美空の前で楓は振り上げた拳の行き場を失い、一瞬呆然と見下ろした。
「美空! 起キロ! 起キロ!」
倒れた美空に慌てて駆け寄るココネ、しかし何度揺らしても美空は起き上がらない。
それでも何度もココネは美空の肩を揺らした。
「美空殿・・・」
立っているのは楓。ならばこの勝負は文句無く楓の勝だった。しかし楓は心の中を勝利で埋め尽くすことが出来なかった。
力の差は明らかだった。
しかし最後の最後まで前のめりに倒れた美空を敗者だと決して思えなかった。
複雑な想いが絡みつき、尚且つ掛ける言葉も見つからない。
だから楓は無言で自分の戦った相手に一礼をして、そのままその場から立ち去った。
「美空・・・シッカリ・・・美空・・・」
後に残されたココネはいつまでも美空に呼びかける。
すると・・・
「・・・うっ・・・ココネ・・・」
「美空!」
顔を埋めながら美空は声を漏らした。ココネの顔にも安堵の色が広がり、少しホッとした。
「いやあ~~負けちまったよ、どうすんべ~~?」
「・・・美空?」
前のめりに倒れたまま急に美空から明るい声が聞こえてきて、ココネは肩がズルッと落ちてしまった。
「そりゃあさ~、楓に勝てると思ってなかったし~、私の役目は足止めなんだからもう十分なんだろうけどさ~、いや~~これがシスターシャークティにバレたらまたお説教っすね~~」
先ほどまでバテバテだったのに急に元気な声を響かせる美空に、ココネも流石に少し呆れて、未だにうつ伏せになっている美空を無理やり起こそうとした。
だが、少し様子が違った。
「あ~あ~、薫ちんとか他の連中はどうなったかな~~、つうか負けたの私だけだったらどうしよ~~、」
「美空・・・」
声は相変わらずの能天気な声だった。しかし彼女をよく知るココネを誤魔化すことは出来なかった。
「でもさ~、・・・せっかく熱血になったのにさ~、や、やっぱ・・・私じゃ・・・勝て、ない・・・」
美空は地面に顔を埋めたまま、起き上がらない。それどころか徐々に嗚咽が聞こえてきた。
「美空・・・?」
ココネは直ぐに分った。
「あ~あ・・・かっこ悪・・・うっ・・・ぐすっ・・・・うううっ・・・・」
そう、美空は泣いていた。
「ココネ・・・私・・・、負けちゃったよ・・・ひっぐ・・・ぐっす・・・ううう・・・」
パートナーであるココネですら初めて見る姿だった。
意気揚々と戦場に出て、仮初の自信で有頂天になり、その結果敗北してしまった。
今まで明るく、軽いノリで生きてきた彼女が初めて流す種類の涙。
そう、悔し涙だった。
「美空だけじゃナイ・・・ココネも・・・負ケタ・・・・」
文字通り二人掛りで戦ったのである。直接手は出していないものの、ココネも自分の敗北を実感した。
すると美空はうつ伏せになりながら激しく泣き出した。
「くそ・・・・くそおォォーー! 強く・・・強くなりたい・・・強くなりたいよ~。自分の無理が・・・自分の無理が通せるぐらい・・・強くなりたいよ・・・」
空元気は続かなかった。
必死に明るく誤魔化そうとしたが耐え切れずに、美空は泣きじゃくった。
15年という短い人生の中で最も真剣になった今日、その想いが届かなかった。それがなによりも悔しかった。
そんな彼女の背中にココネは優しく手を置いた。
相変わらず無表情だが、ココネの目にも涙が溜まっていた。
「ココネも・・・強くナル・・・」
だが、涙を懸命に零そうとせずに言葉を告げる。
「美空・・・一緒に強くナル・・・」
「!?」
一緒に強くなろう。
そのパートナーの言葉に美空は体をようやく起こし、ココネを力強く抱きしめた。
そしてココネを抱きしめながら何度も頷いた。
「うん、・・・一緒に強くなろう。そして・・・今度こそ勝とうね・・・」
「ん!」
一度だけ美空の顔に笑みが戻った。
だがその直ぐ後に自然と再び涙が込み上げてしまい、ココネを抱きしめたまま大声で泣いた。
「うっ・・・・うわあああああああああああああん」
そしてココネも、堪えた涙がとうとう決壊してしまい、彼女も美空の腕の中で泣いた。
学園が戦場と化し、辺りに爆音が響く中、二人の少女の鳴き声が響き渡った。
結果的に彼女達は敗北してしまった。
だが、共に敗北の味を知った美空とココネ、二人の絆はこの日を境により一層強くなった。
そしてこの悔しさから這い出して、二人で強くなることを共に誓った。
二人のグレン団の女が涙を流す中、ここにもまた、シモンが信じる気持ちに応えようと戦うグレン団の女が居た。
「魔法の射て(サギタ・マギカ)火の三矢(セリエス・イグニス)!!」
「そんな初級の呪文が通じるモノですか!! 雷鳴剣!!」
炎の矢を飛ばすシスターにジャージを着たメガネの女剣士は雷を剣に漲らせて襲い掛かる。
シャークティと刀子である。
するとシャークティは振りかぶった刀子の剣に「今だ!」と狙いを定めてロザリオを向ける。
「武装解除(エクセルマティオー)!!」
シャークティの狙いは的中した。
刀子が技を発生させるために作り出した溜めの瞬間の隙を突いて、刀子の剣を弾き飛ばした。
しかし刀子は剣を失っても構わずに向かってきた。
「ふっ、神鳴流を舐めないように! 斬空掌!!」
武器が無いことなど彼女には関係ない。気を練った両拳から空気の刃を繰り出した。
そしてその刃はシャークティの足を掠らせ、シャークティは思わず転んでしまった。
「くっ、しまった」
傷はそれほど深くない。
しかし掠った足から血が滲み出し、足がしびれ出す感覚に襲われて、うまく立ち上がることが出来なかった。
「ふう、少々時間が掛かりましたがこれで終わりです」
戦っているうちに、ブチ切れモードだった刀子も時間がたつに連れて落ち着きだし、今ではちゃんと冷静に物事を判断できる思考に戻っていた。
そして足を怪我し、これ以上の戦闘はシャークティに不可能と判断し、飛ばされた刀を拾い、ゆっくりと近づいてくる。
「いくら魔法先生とはいえ、こちらは戦闘が本職なのです。ただでさえ西洋魔術師であるアナタでは剣士である私に最初から勝ち目など無かったはず。なぜこのような事を?」
自分と同じ仕事をし、常にクールで冷静な思考、そして厳しい判断力を持っているシャークティ。
彼女を知る刀子だからこそ今回の行動を不可解に思った。
するとシャークティは地面に肩膝を突いたまま、刀子の言葉を否定した。
「はあ、はあ、・・・・魔法先生ではありません・・・」
「・・・はっ?」
「魔法先生ではありません・・・私は・・・・新生・・・大グレン団です!!」
まだ折れぬ闘志を瞳に漲らせ、シャークティは強い口調で返した。
だがそんなシャークティの叫びを、刀子は哀れむような瞳で見つめた。
「・・・あの男に・・・誑かされたのですか? アナタらしくもない・・・」
「・・・そんなこと・・・ありません・・・」
「だったら何故このようなバカな行為をしたのです! 魔法使いとしての誇りを忘れたのですか!」
忘れてなどはいない。
シャークティは魔法使いであることを誇りに思っている。そんなのは当たり前だった。
しかし自分にはもう一つの誇りが出来たのである。それは決して譲ることの出来ない誇り。
彼女は胸元にある小さなグレン団のマークを握り締めた。
「アナタはグレン団を・・・シモンさんを知らないんです。彼と話してみてはどうですか? 彼らの大きさに触れてみてはどうですか? そして・・・彼らの魂を見れば・・・少しは私の気持ちも分ると思います」
小さく笑みを浮かべながらシャークティは己の誇りを握り締めながら話し出した。
しかし刀子はそれでもシャークティの言葉を信じられなかった。
「随分立てるじゃないですか。・・・そんなにあんな男がいいのですか? まさか白馬の王子様とでも言うのですか?」
「ふふっ、私はシスターです・・・仮に白馬の王子などが現れても・・・私は揺らいだりしません・・・・ですが、・・・」
刀子は皮肉を込めてシャークティに告げる。
するとその言葉にシャークティはクスクスと笑いながら、傷ついた足に鞭を打ちながら、ゆっくりと立ち上がった。
「天をも突く男に出会えば・・・女は嫌でも変わります」
そして立ち上がったシャークティは握り締めた手を離し、もう一度己の武器である十字架を刀子に構える。
そして恥じることなく堂々と告げる。
「お望みなら言いましょう・・・私は・・・彼のことが好きです」
それは決して本人に向かって言うことがないであろう言葉だった。彼女自身はそう決めている。
木乃香や刹那、エヴァンジェリンのようにその気持ちを惜しみなく伝える恋愛もある。しかし彼女はしない。
その気持ちを伝えることはしない。しかし最も信頼の置ける家族であり仲間として側にいる。
そして寄り添いあうことはせずとも、共に同じ誇りを掲げて前へ走る。それが彼女の選んだ愛し方なのかも知れない。
「ですが・・・それと今回の事とは関係ありません」
「・・・なんですって?」
だが、シモンに対する感情を認めても、シャークティはそれだけは認めなかった。
「私は・・・魔法先生ではなく、家族を選びました・・・そして、このグレン団のマークを受け取りました。・・・私だけではありません。美空も・・・ココネも・・・豪徳寺さんたちも・・・、シモンさんの為でなく、自分の想いでこの旗の下に集ったのです!」
戦うのはシモンを好きだからではない。
キッカケはシモンだったにせよ、学園側ではなくグレン団として動くと決めたのは誰が何と言おうと否定できないシャークティ自身の答えだった。
そう、
「戦うのは、自分の意思です!! 私を誰だと思っているんですか!!」
それがシャークティの想いだった。
彼女はグレン団という誇りを守るために、こうして今戦っているのである。
愛する者のためではない。
仲間の道を作るためである。
リーダーのシモンが超鈴音にグレン団を証明するための道を邪魔させないことが、今の彼女の使命だった。
だからシャークティは負けを認めない。
誇りを傷つけられることに比べれば、足の傷などいくらでも耐えることが出来た。
「それで・・・我々が納得するとでも?」
「しないでしょう・・・ですが、私が引き下がらないことは理解していただきたい」
揺らぐことのない瞳、それを見て刀子もため息を一つついてあきらめた。
「分りました・・・では、全身全霊を込めて・・・アナタを打ち負かすことにします!!」
刀子も再び戦闘のプロの瞳に戻った。
「はああああああああああああああ」
先ほどとは比べ物にならないほどの雷が刀子の剣に集っていく。
そしてシャークティの身に突き刺さるような大気の揺れが襲い掛かる。
説得を無理だと判断した刀子は、かつての同僚であろうと、倒すべき敵と見なして全力の攻撃を放つ。
刹那の最強技と同じ。
上空へ飛び上がり、溜めた雷を一気に振り下ろす。
「神鳴流・決戦奥義!!」
シャークティには一歩も動く気配はない。
それは怪我した足では回避することが出来ないと判断したのである。
ならば刀子が技の溜めに時間を集中している間、こちらも攻撃に全ての魔力を込めて迎え撃つことを決めた。
「私も・・・全てを賭けます!!」
シャークティは手持ちのロザリオに残りの全ての魔力を込める。
これを使えばおそらく今日はこれ以上の戦闘は不可能になる。
しかし目の前の強敵を止めるため、グレン団の一員として、全てを覚悟した。
(安心してください、シモンさん。・・・私は・・・勝ちます。アナタが信じてくれる私を信じます!)
シャークティは魔力を込めたロザリオを上空に浮かばせる。
「大十字の神光・・・照らせ!」
打ち上げたロザリオが上空から神々しく巨大な光で照らし、その光が一気にシャークティの合図と共に撃ち下される。
「真・雷光剣!!」
「グランドクロス!!」
雷と大十字の裁きの光がぶつかり合い、聖戦と呼ぶにふさわしいほどの神々しい交錯がこの一撃に込められていた。
刀子の巨大な雷を飲み込もうとする光。それを刀子は強烈な雄叫びを上げて持ち堪えようとする。
「ぐううう・・・こんな・・・もの、はああああああああああああ!!」
雷神の如き光が四方を貫いた。
そしてその光の中から折れた刀を持った刀子が傷ついた体を労わることなく飛び出した。
「勝った! アナタの最後の魔力、堪え・・・・ッ!?」
全ての魔力を出したシャークティに戦う術などはない。
足を怪我している以上、自分から逃げられるはずもない。
ならばこの勝負は自分の勝ちだ・・・・そう刀子は思った。
しかし・・・
「バ・・・バカな・・・魔力を使い切って・・・なぜ・・・」
光の中から飛び出した刀子は驚愕した。
なぜならば自分の直ぐ目の前にシャークティの拳があるからである。
傷ついた足で、それでも歯を食いしばり、実に彼女に似つかわしくない攻撃を繰り出そうとしているのである。
「たとえ魔力が切れても、私には残っている物があります!!」
残った力を込めたシャークティの最後の拳が鈍い音を立てて刀子の顔面に直撃した。
「気合! 私たちの最大の武器です!!」
シャークティの格闘技術は刀子には遠く及ばないだろう。
しかし大技を堪えたことに勝利を確信し気を緩めた刀子には避けられず、拳はピンポイントに入り、刀子の脳を揺らした。
そしてその一撃が全てを決めた。
シャークティの気合の一撃が、刀子の意識を一瞬で断ち切ったのである。
「はあ、はあ、・・・・勝った・・・」
殴り飛ばし、倒れる同僚を見下ろしながら、シャークティは自身の勝利を確信した。
「ふふ、こんなボロボロの姿・・・美空とココネには見せられませんね・・・」
勝利を手にしたものの、自身の姿にシャークティは苦笑してしまった。
そしてようやく全ての力が抜けてその場で仰向けに倒れた。
夕焼け空を眺めながら、拳をギュッと握り締めた。
「ですが、新生大グレン団としての初陣を勝利で飾ることが出来ました・・・。私も野蛮になったものです。・・・ですが・・・」
クスクスと笑いながら、彼女を知る者なら想像が出来ないぐらい華やかな笑みを浮かべた。
そして、誰もいないその場で呟く。
「私はシスター・・・神に仕える者・・・しかし、主よ・・・今だけ耳を塞いでください・・・」
刀子も気絶しているので、聞いているものなど誰もいないこの場で、シャークティは夕焼け空の下で仰向けに寝たまま、一言呟いた。
「好きです・・・シモンさん・・・」
その言葉は誰も聞いていなかった。
おそらくシャークティはシモンに向けてではない、自分自身に向けて言った言葉だろう。
そして一度口にした言葉をもう二度と言わないようにもう一度飲み込んで。彼女はゆっくりと立ち上がった。
まだ戦いは終わっていない。
今でも戦う仲間の下へ、彼女はゆっくりと向かった。