魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第83話 俺のこと嫌いになったか?

シモンと超は自分達を囲んだネギたちの一点を目指して走り出す。

いくら武装して自分達を囲んでいるとはいえ、一部の者が持っている武器は人体に影響の無い対ロボット用の魔法具でしかない。

 

「悪いが退場してもらうヨ!」

 

超は特殊弾の束をズラリと並べ、一点に集中放火する。

一箇所を崩し、一気に駆け抜ける作戦である。

 

「ってうおおい、私かよ!?」

 

標的は千雨の場所だった。

アーティファクトの能力は不明だが、素人の上に図書館探検で鍛えられ上げ、意外に逞しいのどかや夕映やハルナたちよりも劣ると判断した。

シモンと超は話し合ったわけではない。しかし両者の考えは一致して、千雨に向かって走り出す。

 

「おお~っと、そうはさせないよ、お二人さん!」

 

千雨の直ぐ隣にいるハルナが逸早く動き出した。

既に用意していたアーティファクト、一軒ただの落書き帳に見える物に、高速のペンの速度で何かを書き出し、それをシモンたちに向けた。

 

「落書帝国(インペリウム・グラフィケース)!! 出でよ!! 囮カモ君大行進!!」

「ムッ!?」

 

千雨に向けて放った弾丸だが、突如ハルナの落書き帳から飛び出したカモの大群が弾丸を遮り誘爆した。

 

「さっきの戦いで見切ったよ! この弾丸は着弾前に何かにブツけて誘爆させるのが最善策!!」

「読みはいいが俺っちは釈然としないような・・・」

 

目の前で自分の大量の分身体が黒い渦に飲み込まれるのを少し納得しないような目で見ているカモ。

 

「シモンさん、今ネ!!」

「ああ、分ってる! ドリルの刃先は丸めとくから勘弁しろよ!」

 

攻撃が防がれた超だが、焦る様子は無い。

むしろ黒い渦で視界を遮るのが目的だった。

そして隣にいるシモンがドリルを地面に突き刺した。

 

(下からの大量のドリルの攻撃だ、これをぶっ放した隙に・・・)

 

それは超とシモンの連携攻撃だった。

だが、簡単には成功しなかった。

 

「皆さん、シモンさんが地面から沢山のドリルを出します! 直ぐに後ろに飛んでください!!」

「なにっ!? スパイラルガーデン!!」

 

シモンが攻撃を繰り出す前にのどかの声が聞こえた。

その手に持っているのは読唇術のアーティファクトの本だった。

その声を聞いたネギたちは直ぐに一歩下がった。すると地中から無数のドリルが顔を出した。

 

「よっし、サスガ本屋ちゃん!!」

 

空振りに終わったシモンの攻撃。

のどかがいる限り心の中で思ったことは読まれてしまう。

のどか自身に戦闘能力は無いものの、これだけの仲間と共にいると存分に威力が発揮された。

 

(こうして俺が悩んでいることも読まれてる・・・これじゃあ作戦の立てようが無い・・・)

 

全て筒抜けになってしまうのどかの能力をどう対処すべきか考えようとするが、その隙は与えられない。

 

「ん!?」

 

上空から研ぎ澄まされた殺気を感じた。

その殺気は自分に狙いを定めている。

上を見上げるとそこには、タカミチがポケットに手を入れながらシモンを見ていた。

 

「豪殺・居合い拳!!」

 

のどかの指示により一旦間合いをネギたちが広げたため、気兼ねなくタカミチは渾身の力を拳に込めて、一撃を振り下ろす。

シモンにシールドを張る暇は無い。

文字通り一撃必殺の技が襲い掛かる。

しかし、

 

「させないヨ! その男を倒すのは、この私ネ!!」

 

超がさせなかった。

背中に装備しているカシオペアを起動させ、擬似時間停止、絶対回避能力を同時に発動させ、シモンの身を救い出した。

 

「間一髪ネ・・・」

 

寸前で回避した超とシモン。だが一息つく間は与えられない。

 

「超、後ろだッ!?」

「エッ?」

 

攻撃を避けた瞬間、超の背後に襲い掛かる人影があった。

それはネギだった。

拳に魔力を纏い、高速で超の間合いを詰める。

超が気付いた時には遅い。ネギは超の背中にあるものを目掛けて一直線に拳を貫く。

 

「雷華崩拳!!」

 

ネギが狙った物、それは超の強化服の背中の窪みに装備されているカシオペアだった。

ネギの拳の着弾と共にガラスが割れるような音が響いた。

 

「しまっ、カシオペアを!?」

「よっし!」

「これで、キサマもその力を易々と使えまい!」

「覚悟しなさい!!」

 

超と何度か戦い、ネギたちも超の力の正体がカシオペアにあることに気付いた。

しかしネギのカシオペアが既に壊れている以上、対抗するには超のカシオペアも破壊するしかない。

たとえ最強タッグが相手だろうとネギたちは己の能力をフルに使えば、カシオペアの一つを破壊することは出来た。

そして間を空けずに今度は刹那とアスナの二人が飛び掛る。

 

(まずい!? 壊れてはいないが、確実に傷が入っている。 このままでは後数回の使用が限度・・・)

 

自分の切り札とも言うべきカシオペアのダメージ、それは超に迷いを与えた。

 

(くっ、後数回ならここで使用するわけには・・・。こんな事なら予備を持ってくれば良かったネ・・・)

 

ここで刹那たちの攻撃を交わすためにカシオペアを使ってもいいが、シモンとの戦いの前に使いきるような真似はしたくなかった。

 

「させねえよ!!」

 

今度はシモンが超を守った。

右手に螺旋槍、左手にブーメランを持ち、アスナと刹那の攻撃を止める。

だが、刹那はそれを見て大声を上げる。

 

「今です! ネギ先生! 高畑先生!」

 

シモンの両手はアスナと刹那に押さえられている。

その隙にタカミチとネギが同時にシモンに向かっていった。

 

「シモンさん!?」

 

慌てて駆け寄ろうとする超、しかし・・・

 

「させないアル!」

 

蹴りが別方向から飛んできた。

放ったのは褐色肌の格闘娘、古だった。

そしてもはや問答はしない。

古は魔法関係者ではないが、素の力を存分に使い、拳打を放ち超を止める。

 

「ぐっ、古・・・」

「超、これまでアル!!」

「くっ、・・・舐めるな!」

 

超がこれほど古に乱暴な言葉を使ったことは無い。

それだけ超は焦っていたのかもしれない。

超は無我夢中で渾身の力を込めて古の腹部を殴る。

 

「うぐっ!」

 

素の力だとわずかに古が勝っているだろう。

しかし強化服に身を包んだ超の拳には耐えられず、勢いよく後方に古は殴り飛ばされてしまった。

しかし超が足止めを喰った間にハルナが再びアーティファクトを使い、今度は見るからに屈強そうなゴーレムを召喚する。

 

「確保ーーッ!」

「グッ!?・・・させるかァ!」

 

惜しみなく特殊弾をぶちまける超。しかしそれは再びハルナのゴーレムに阻まれてしまった。

完全に一糸乱れぬパーティのチームワーク。シモンも超も後が無い。

だが終われる筈が無い。

シモンは塞がった両手のまま螺旋力を解放する。

 

「ネギ先生、シモンさんからドリルが伸びます!!」

 

のどかの声が一瞬早かった。瞬時にシモンからアスナたちは離れ、接近しようとしたネギたちは動きを止める。

そしてシモンは誰もいない周りに向けて包み込むオーラからドリルを伸ばす。

フルドリライズである。

だが当たらなかった。

しかしシモンはネギたちが自分から離れたのを見て直ぐに超へ向かって走り出した。

 

「超!」

「シモンさん!」

 

中心点で二人は駆け寄りあい、そして同時に背中合わせで振り向いた。

 

「「ふう~~~」」

 

互いに背中を預け合い、二人はようやく一息ついた。ネギたちも無理に攻めて来る様子はない。

シモンと超は冷静に息を整えながら口を開く。

 

「どうやら、成長してるのはコイツらも同じみたいだな」

「ウム、オマケにのどかさんの力でこちらのやろうとする事は筒抜け・・・想像以上ネ」

 

背中合わせにネギたちの力量に素直に脱帽したシモンと超。

 

「シモンさん、お二人が力を合わせたと言っても所詮は急造です。本当に一つになった僕たちには勝てません!」

 

ネギの言葉にはどこか自信が漲っていた。

それは、自分達の絆は超とシモンの能力に負けていないという確証が今の攻防で掴めたのである。

それはアスナたちも同じだろう。たとえ超とシモンの二人を相手にしようともまったく引く気は無い様である。

 

「ったく、俺も舐められたもんだぜ・・・」

 

実力者の集まり、のどかの能力、更に・・・

 

「さっきは吹っ飛ばされたが次はそうはいかないアルよ」

 

先ほど激しく吹き飛ばされたはずの古が無傷でこの場に戻ってきた。

あれだけ派手に吹っ飛ばされてなぜ無事なのか? それは木乃香の力だった。

多少の怪我など、木乃香の魔力に掛かれば一瞬だった。

 

「攻撃が読まれて、怪我しても直ぐ直る・・・か、随分といい仲間が揃ってるな・・・ネギには」

 

当初は凸凹に見えていたが、意外とネギパーティのバランスが調っていることにシモンは気付いた。

これを更に鍛え上げれば相当恐ろしいチームが出来上がるのではないかと予想した。

だが、

 

「フム、しかし少々調子に乗りすぎたようネ・・・。決戦の前にカシオペアを傷つけられたのは少しカチンと来たヨ・・・」

 

常に笑っていた超の瞳が真剣な目つきに変わった。それは怒りがにじみ出ていた。

ようやく運命の日が来たのだ。

隣にいる男との決別を決める一戦をやろうと言うのに、無粋な横槍にいい加減不愉快に感じたのである。

 

「そう・・・だな、俺も甘かった。昨日は対等に思ってやるって言ったのに、・・・甘かった・・・」

 

シモンも目つきが変わった。

それは完全に本気の目である。

今までも十分本気だった。しかしやはりどこかで全力で攻撃することを遠慮していた。

だが、今のネギたちを相手にそうは言っていられなかった。

こうしている間にも仲間達が戦っているのである。

こんなところでいつまでも止まっているわけには行かなかった。

 

(空気が・・・変わった?)

 

タカミチが何かに感づいた。

シモンと超、二人から溢れ出す覇気、それは別々の種類だったが、どちらも自分達に突き刺さるほどの気迫をあふれ出していた。

 

「ネギ先生・・・」

「はい・・・分かっています・・・」

 

そしてネギ、刹那たちも明らかに変わった二人の空気に鳥肌が立った。

 

(シモンさん・・・怖い・・・)

 

素人の木乃香たちも、覇気に当てられて口元が震えだした。

そしてシモンは自身のドリルやタカミチたちとの戦いで傷ついた大地を眺める。

 

(・・・どうせ心を読まれるなら・・・俺だってどうなるか分からないぐらいの規模でぶっ放す!)

 

どうせ自分の考えが読まれるなら、シモンは開き直ることにした。

たとえ先を見ることが出来てもどうしようもないほどの攻撃を繰り出す。

 

「超、飛べ!! 大地を壊す!」

「ウム!」

「皆さん、シモンさんが地割れを狙っています!」

「「「「えっ!?」」」」

「いくぜ、大地は全て俺の武器だ!! トロイデルバースト!!」

 

シモンがドリルを大地に突き刺した。

すると穴だらけの大地に皹が一瞬で広がり、一帯の大地が浮き上がったり沈んだりして巨大な地割れを引き起こした。

 

「ちょちょちょっ!?」

「落ち着いて! 急いでこの場から飛びのくんだ!」

 

たとえ攻撃内容が分っていてもこれだけはどうしようもなかった。

地震を予知しても防ぐ術が無いように、シモンの起こした地割れからは逃げ出すのが精一杯だった。

だが、一瞬でシモンの攻撃を理解した超は既に動いていた。

 

「ホラ、隙ありネ」

「えっ・・・」

「のどか!?」

 

攻撃前に飛んだ超は地割れの影響を受けることは無かった。

それどころか、慌てふためくネギたちの一瞬の隙をついて、のどかの背後から特殊弾をぶつけた。

 

「のどかさん!?」

 

既に遅い。

 

「皆さん、ごめんなさ・・・でも、がんばってくだ・・・」

「のどかさーーーん!?」

 

黒い渦がのどかを包み込み、のどかの退場を表していた。

 

「し・・・しまっ! くっ、キサ・・・ッ!? うわあ!?」

「せっちゃん!?」

 

仲間がやられ激昂する刹那が超を取り押さえようとした瞬間、ブーメランが飛んできた。

辛うじて剣で防ぐものの、余りの威力に押されて刹那が後方へ弾き飛ばされる。

 

「本屋ちゃん!? 刹那さん!?」

「取り乱したらダメだ! のどか君も恐らく無事だ! 今は・・・えっ?」

 

退場したのどかと攻撃を受けた刹那に目が行き、アスナたちが目を離した僅かな間に、既にシモンはそこにいなかった。

 

「えっ?」

「シモンさんが・・・消えた?」

「油断大敵と言ったヨ」

「えっ・・・うあああ!?」

「アスナさん!?」

 

混乱が広がった。

仲間がやられたと思ったら、シモンの姿が消えた。

そのことに気を取られている隙に超が接近し、強化服に電流を流して力を溜めた拳を、アスナの腹部に放つ。

たとえ鎧に身を纏おうと、防御もとれなかったアスナは激しく吹き飛ばされる。

 

「三人目・・・さあ、四人目に行くヨ!」

「ネギ君、今は目の前に集中するんだ!」

「わ・・・分ってるよ!」

 

次々とやられる仲間だが、気を取られている暇は無い。

迫り来る超にタカミチとネギは構え、警戒態勢に入る。

すると超が走りながら笑みを浮かべる。

 

「さすが高畑先生ネ。しかし目の前ばかり見ていると、足元に躓いてしまうヨ」

「なっ!?」

 

超の笑みと同時に割れた大地の下から振動が聞こえた。

削岩機のような物が音を立てて地中から地上へ飛び出そうとするような音である。

 

「まさか!?」

 

己の真下から近づく気配にタカミチが目を見開いた瞬間、地中からドリルが現われた。

それはドリルを持ったシモンだった。

一瞬姿を消したかと思われたシモンだが、地割れを起こした後、刹那にブーメランを投げつけ、その後地中に身を隠し、そのまま地中を掘り進み接近していたのである。

 

「そのまさかだ! 掘って砕いて地下から天まで突き抜ける! これが穴掘りシモンだ!」

「し、しまっ!?」

 

魔法使いではないタカミチに障壁を張ることは出来ない。

そのため自然と体が防御ではなく反撃体勢へと移った。

真下に向けての居合い拳でシモンを迎撃しようとする。

だが、シモンに拳が向けられるその僅かな間こそ、達人タカミチの唯一の隙だった。

ドリルと拳がぶつかり激しい音を立てる。

シモンを再び地下へ押し戻そうとするほどの威力である。

だが、シモンはその手の問題になるといつも以上に気張る。

タカミチの居合い拳ですら正面から互角に持ち直す。

そしてその隙に超が間合いを詰める。

 

「させません!」

「ふっ、擬似時間停止!」

 

タカミチに詰め寄ろうとする超の前に立ちはだかろうとするネギだが、超はこの瞬間、残り数回しか出来ないカシオペアの能力を一度だけ使用し、ネギの横をすり抜ける。

 

「ぐっ、・・・これまでか・・・」

 

シモンに腕を封じられているタカミチに超を止める術は無い。

超は真横からタカミチに向けて特殊弾をぶつけた。

 

「タカミチ!?」

 

黒い渦がとうとう学園最強のタカミチをも包み込んだ。

この特殊弾の力を使えば、学園祭期間中ならエヴァンジェリンでも防ぐことが出来ないほどの威力を持っている。

 

「ネギ君、すまない。後は・・・」

 

さすがのタカミチもこれにはどうしようもなかった。

包まれた渦に逆らうことが出来ずにそのまま姿を消した。

 

「そ・・・そんな!?」

「た・・・高畑先生まで!?」

「おいおい!? 急になんなんだよ!?」

 

そしてタカミチの退場という非常事態にネギが取り乱した僅か数秒の間に、地中から飛び出したシモンはネギに向かって手を伸ばし、螺旋力を解放した。

 

「超次元アンカー!」

「しまっ!?」

「遅い! 覚悟していた結果に一々取り乱して、目標を忘れたら全てが水の泡だぞ!!」

 

ネギが取り乱した僅かの間にシモンが作り出したアンカーがネギの体に巻きついて動きを封じる。

そしてネギを思いっきり引き寄せる。

 

「ネギ君!?」

 

そして引き寄せられこちらに体を浮かせて向かってくるネギに向かって超は渾身の力を込めて顔面に一撃を叩き込む。

 

「ネギ坊主、少し痛いが歯を食いしばるネ!!」

 

反動をつけて向かってくる無防備なネギは鈍い音を響かせながら、顔面を強打され吹っ飛ばされた。

勢いは止まることなく建物の壁に激突とし、そのまま埋まってしまった。

 

「そんな、ネギ君!?」 

「ちょっ、お前ら!?」

「く、よくもネギ坊主を!」

「古さん、待ってください!?」

 

次々と倒れる仲間達、古は自身を抑えることが出来ずに、ガムシャラになってシモンと超に向かっていく。

 

「はあああああああ!!」

 

雄叫びを上げて渾身の力を込めてシモンに殴りかかる。

しかし・・・・

 

「・・・・螺旋フィールド・・・・」

 

シモンは一歩も動かずにその場にシールドを張った。

いかに強烈とはいえ気を纏っていない古の拳は、ロボットを倒すほどの威力があっても、シモンが張ったフィールドを破るほどには至らない。

 

「ぐっ」

 

拳が届かずに歯軋りする古。

その後ろには超がゆっくりと近づいていた。

 

「古さん!?」

「なっ・・・超・・・」

 

振り返ると後ろには弾丸を握り締めた超がいた。

そして彼女は少し悲しそうな笑みを浮かべながら、古に特殊弾を使った。

 

「許せ、・・・古よ・・・新世界で会おう・・・」

「ぐっ、超・・・・起きろ、ネギ坊主――!!」

 

黒い渦に包まれならが古は最後に少年の名を叫んだ。

そしてその叫びは届いた。

 

「古老師!? くっ、シモンさん! 超さん!」

「ほう、あの一撃を喰らって起き上がるか? さすがはネギ坊主ネ」

 

超の一撃に、膝がガクガク揺れ出すネギ。

相当のレベルでも今の超の攻撃をまともに受ければ意識を失うことは避けられない。

しかしそれでもネギは立ち上がった。生まれたての小鹿のように震えながらも、力を振り絞り、叫ぶ。

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル・来れ虚空の雷・薙ぎ払え・雷の斧(ディオス・テユコス)!!!!」

 

雷の斧がシモンに襲い掛かる。

しかしシモンは避けようとも、シールドを張ろうともしない。

ネギの雷の斧をドリルで正面から突いた。

 

「なっ!?」

 

ネギの放った雷はシモンの突き刺したドリルによって阻まれるだけでなく、ドリルの先端の一点にエネルギーが溜められ中和されていくように見える。

以前この力を見たことがあった。

修学旅行でスクナと戦ったとき、シモンのドリルにネギの魔力を織り込んでスクナにぶつけて倒したことがある。

その時から、いやそれよりも以前から憧れた男とその魂であるドリル。それが本当にネギ自身に向けられていることがようやく実感できた。

 

「俺を誰だと思っている」

「・・・シモンさん・・・」

 

魔力を放った今のネギにこれ以上の手はなかった。

力を使い切り、その場に膝を突いてしまった。

そんなネギに向けてシモンは続ける。

 

 

「俺はシモンだ、新生大グレン団のリーダー、穴掘りシモンだ!」

 

 

ネギの瞼が徐々に重くなる。しかし薄れ行く意識の中、シモンの言葉が最後まで頭の中に入っていく。

 

 

「お前達がどれほどの答えと覚悟を背負おうと、俺の壁となって立ちはだかるなら、何度だって風穴開けて突き進む! それが俺のドリルなんだよッ!」

 

 

膝を突いたネギはそこで前が見えなくなり倒れ込む。

最後に見たのは自分に向けてではなく天に向かって溜めたエネルギーを放出したシモンの姿だった。

そして雷を込めたシモンの解放したエネルギーは天に向かって昇っていった。

そこでネギは完全に意識を失った。

天に昇る雷は、一度だけ大きな光を出して直ぐ消えた。

だからその姿に気付いた者はいなかったかもしれない。

しかしこの場での勝負は、誰が何と言おうと既に決した。

 

「・・・さて・・・こんなものカナ?」

「ああ、・・・そうみたいだな・・・」

 

複雑な笑みを浮かべて苦笑する超。そしてシモンの顔には笑みは無かった。

自分達の行なってしまった結果にそれぞれ複雑な想いを浮かべてこの場を見渡していた。

しかし結果は出た。

残された木乃香たちにどうすることも出来ない。

この戦いはシモンと超の勝利だった。

 

「う・・・うそだろ・・・おい」

「うわあ・・・これ・・・ひょっとして私達・・・死んだ?」

「強い・・・た・・・高畑先生も、ネギ先生も・・・桜咲さんにアスナさんまで・・・」

 

当初圧倒的優勢だと思っていた自分達だったが、今のこの現状はどうだ?

のどか、古、タカミチは退場。

ネギ、アスナ、刹那は気を失っている。

この場で残っているのは木乃香、夕映、千雨、ハルナの四人だけである。

そして彼女達だけでどうにもならないことなど明らかだった。

 

「さあ、・・・通してもらうヨ」

 

超が静かに木乃香たちを睨み静かに近づいてくる。

 

「さ・・・させへん! ウチも・・・ウチも!・・・」

「木乃香!?」

「バッ、バカ! 私達じゃどうしようもねえだろ!」

 

震えながらも両手を広げて通せんぼする木乃香。

だが、超は無言でお構いなく近づいてくる。

そして手には特殊弾。

夕映たちも動こうとするが、どうしようもない実力差に足を踏み出すことが出来ない。

そして超はそのまま木乃香に特殊弾を使おうとする・・・

しかし・・

 

「もう、いいだろ」

「むっ」

「シモンさん!?」

 

超の手をシモンが掴み、止めた。何のつもりかと超は見上げると・・・

 

「もう勝負はついた。これ以上ネギや木乃香たちにソレを使うな。残りの弾丸は全て俺のために使え。タイムマシンが壊れかかっている以上、これ以上のハンデはキツイぞ?」

 

突如告げるシモンの甘い考えに超は鼻で笑って拒否しようとする。

 

「甘いヨ。この場で退場させなければ何度でも彼らは来るヨ。それに木乃香さんがいる以上、ネギ坊主たちは直ぐに怪我を治して再び現われるネ」

 

せっかく邪魔者を排除できるチャンスでそれをふいにしようなど、もっての他だった。

しかしシモンも超の手を掴んで離さない。

 

「その時はその時だ。何度来たって関係ない。これは元々俺とお前の戦いだ。これ以上やれば目的も失うぞ。お前の言う大義って奴もな・・・」

「ふんっ」

 

超は少し不機嫌になりながらシモンの手を払いのける。

そしてしぶしぶ弾丸を閉まった後にシモンを、そして木乃香をチラッと睨む。

 

「振った女の子に随分と優しいではないカ。のどかさんや高畑先生が消えた時には何も言わなかったのに・・・」

「たしかに・・・でも、もうこれ以上はダメだ。中途半端って思われるかもしれないけどな・・・」

 

超も覚悟をしていたとはいえ、やはりクラスメートと戦うことに心を痛めていた。

それはシモンよりも彼女達と多くの時間を過ごしているため、シモン以上かもしれない。

だから決着がついた以上無駄な争いは止めろというシモンの言葉は理解できた。

しかしシモンには素直になりたくなかった。

シモンに対して素直になってしまえば、自分の敗北を認めてしまうことになる。

だからこそ、超は憎まれ口を叩いてしまった。

普段なら絶対に言ってはいけないと刻み込んでいたにもかかわらず、イラついた彼女は言ってしまった。

 

 

「仮にも自分を好きだと言った子が二度も目の前から消えるのはサスガのシモンさんでも・・・嫌カ?」

 

「ッ!?」

 

「・・・えっ?」

 

 

シモンはその言葉に肩を大きく揺らし、目を見開いた。そして木乃香は唖然としてしまった。

しかし超は構わず続けた。

 

 

「そう、一年前・・・アンチスパイラルのメッセンジャーとなったニアさんが・・・・・ッ!?」

 

 

だがその途中で超は慌てて口を止めた。

そして深く後悔した。

 

(しまった・・・私は・・・なんてことを・・・)

 

それだけは絶対に言ってはならないことだと思っていた。それは人間としての問題である。

いくらシモンと敵同士とはいえ、超はそのことだけは絶対に言ってはならなかったと自身を大きく責めた。

そして今の超の言葉に夕映たち、そして誰よりも木乃香は気になって仕方なかった。

 

(アンチスパイラル? メッセンジャー? なんのことなん? ニアさんのこと? ・・・それに・・・なんで超さんが知ってるん?)

 

超の言葉に頭の中で「?」が次々と浮かぶ木乃香たち、そして辛そうに俯く超。

だが、シモンはいつもと変わらない明るい声で口を開いた。

 

 

「そうだ、だからもうこれ以上はやめよう。後は全て俺とお前の決着だけだ」

 

 

シモンは取り乱したりなどしなかった。

それはヨーコのおかげだった。

ヨーコとの武道会での戦いがあったからこそ、シモンは超の失言を笑って過ごすことが出来た。

そして超もそのシモンの笑顔に心を痛めて、ようやく身を引いた。

 

「わかった・・・シモンさん、決着をつけよう。私とアナタの舞台をすでに用意している」

「ああ、そうだな」

 

超の言葉にシモンも笑って頷いた。

そして未だに両手を広げて立ち尽くしている木乃香に振り向いた。

 

「木乃香・・・」

「・・・・シモンさん・・・あんな・・・・あんな・・・その・・・」

 

聞きたいことが頭の中でうまく整理が出来ず、木乃香は少し混乱してしまった。

そんな木乃香にシモンは苦笑しながら尋ねた。

 

「俺のこと、嫌いになったか?」

 

容赦なくネギや刹那たちを倒したシモン、しかし木乃香は急にハッとして、慌てて頭を横に振った。

 

「そんなん絶対あらへん!!」

「・・・そうか・・・ありがとう・・・」

 

心を痛めたが、木乃香の想いでシモンも心が少し癒された気がした。

そして木乃香が何を言いたいのか大よそ察することが出来た。

木乃香が聞きたいのはニアについてだろう。

だが、今それをこの場で話している暇は無い。だから一言だけ告げた。

 

「いつか話すよ・・・必ず。約束する」

「・・・っ!? ・・・・うん・・・」

 

木乃香も心に引っ掛かりがあったが、今はその言葉だけで納得した。

少し目に涙を浮かべたものの、シモンの一言で十分だった。

そして一つの謎を残したまま、超は先に動いた。

 

「シモンさん・・・そろそろ・・・」

「分ってる」

 

超の言葉を聞いてシモンは背を向けた。そして超は先に走り出した。

夕映たちにはそれを黙って見ていることしか出来なかった。

そしてシモンも超の後を追いかけようとしたが、一度だけ立ち止まり、背を向けたまま口を開く。

 

「木乃香、・・・ネギにも言っておいてくれ。・・・いや、言わなくても分るか・・・今のお前達なら・・・」

 

その言葉に木乃香は涙を拭いながら強く頷いた。

 

「当然や。ウチらはあきらめへん! 何度だってシモンさんと超さんに会いに行ってみせるえ!」

 

シモンは決して振り返らず、しかし口元に笑みを浮かべながら再び走り出して超の後を追いかけた。

二人がどこに向かっているかは分らない。しかし絶対にその背中に追いついてみせると誓い、木乃香は動いた。

 

「夕映、ハルナ、千雨ちゃん。ネギ君たちのところに!」

「はい!」

「ああ、急いで目を開けさすぞ!」

 

ネギたちの治療のため、木乃香たちは一斉に倒れているネギたちの元へと走った。

 

「でもさ~、高畑先生までやらっれちゃったんだよ? ネギ君たちも・・・・」

「そうだな・・・まさか旦那と超の二人があれほどとはよ・・・」

「ハルナ、カモさん、何を言ってるんです!」 

「せや、・・・まだ負けてへん! 壁にぶつかることが負けなんやない。壁の前で立ち尽くしたら負けなんや。ウチらはまだ・・・あきらめたらアカン! 何度だって立ち向かうえ!」

 

この勝負はネギパーティの完敗だった。しかし、まだ敗北したわけではない。彼女達の目はまだ敗者の目ではない。

シモンが庇ってくれたとはいえ、自分達はまだ退場していない。だから何度だって立ち向かってみせる。木乃香は心にそう誓っていた。

 

「私達は厄介なことをしたのを理解しているカ?」

 

前を走る超にシモンが追いつくと、超は振り返らずに走りながらシモンに言う。だが言っている意味が分からずに首を傾げると超は呆れながら呟いた。

 

「シモンさんもそうだったではないカ。武道大会でヨーコさんと戦っていたときも・・・」

「・・・何が言いたいんだ?」

「やれやれ、まだ分らないカ? 人がもっとも輝く時、それは順風満帆に進むことではない・・・」

「ああ、・・・そういうことか・・・。ネギもそうだってことか?」

 

シモンはようやく超の言葉の意味を理解し、尋ね返す。

 

「分らないヨ。しかし・・・敗北を知り・・・それでもどん底から這い上がった者ほど恐ろしい者はない・・・」

 

ネギたちはこのままでは終わらないだろう。

そして再び自分達の前に現れたときを想像し、超は少し複雑な心境になりながらシモンと二人並んで走った。

 


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