魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第60話 不幸なんて目指さず幸福つかみ取れ

(刹那・・・随分といい目をしているじゃないか・・・)

 

それが向かい合う刹那に対する感想だった。

大会前から色々とあったようだが、自分の知らぬ間に目の前の少女はギラギラした瞳を自分に向けている。

きっと何かがあったのだろうと分かった。エヴァと戦い、アスナやネギ、そして美空の勇気を見て刹那も何かを感じ取ったのかもしれない。もっとも今となっては知りようがない。

だが心が軽くなっているのは自分も同じだった。

ヨーコと戦いこの一年の溜まっていた弱音を全て吐き出したシモンに今残っているのは胸の中で熱く滾っているものだけだった。

 

「準備はいいか? 刹那」

 

刹那の得物はデッキブラシ。刃を禁止されているこの大会では妥当な武器である。

しかしそれでも気で強化された武器なだけあってそれなりに強力であろう。

確認したわけではない。しかし素手ではやはりキツイと思ったシモンは巨大化させたブーメランを自然に構えていた。

 

「はい。全力であなたと戦います」

 

シモンと相対する刹那。その心は妙に落ち着いていた。

思えばシモンとともに居るといつも驚かされることばかりだった。

そんなシモンに対して最初は拒絶し、しかしいつの間にか信頼し、気づけば惹かれていた。

それは自分だけではなかった。この学園の生徒たちも何名かそうである。

だが、今この場に居るのは自分とシモンの二人。

今の刹那は己の想いをぶつける。その気持ちで満たされ、真剣な眼差しでありながら頬が少し緩んでいた。

 

『さあ、2回戦最後の戦い、桜咲選手対シモン選手!! 互いが実力者同士、その力を存分にぶつけてもらいましょう!!』

 

朝倉が二人の間に入って手を上げる、それを見て刹那とシモンは互いの武器を構える。

 

 

『ではFight!!』

 

 

先に動き出したのは刹那。

シモンとの距離を詰めてブラシを振り上げ斬りかかる。

シモンは反射的にブーメランで受け止める。

 

「うおっ!」

 

受け止めたがその衝撃はとても女の細腕の一撃とは思えず、シモンは微かに膝が曲がる。

しかし刹那は一撃では終わらず洗練された剣技を次々と繰り出していく。

シモンも反射的に受けていくが、剣の技術は刹那が圧倒的に上。

 

「神鳴流奥義・・・斬岩剣!!」

 

横になぎ払う形で刹那はモップを振るう。

シモンはジャンプで回避するが、それは己の隙を与えてしまったようなもの。

 

「奥義・・・斬空閃!!」

 

宙に浮いたシモンに対して気の塊を飛ばす。

しかしシモンはブーメランを体の前で円のようにグルグル回して弾き飛ばす。

 

(重い・・・気でも魔力でもない力・・・これがシモンさんの気合)

 

気で強化されている自分の得物と互角に打ち合っている。

だがシモンの常識外はすでに刹那にとっては常識内として認識していた。

いちいち驚いていたらキリが無いからである。

お互い刀ではないが鍔迫り合いのような形で互いの武器の動きを封じている。

シモンは小細工はせずこのまま押し切ろうとする。

しかし剣士の刹那にはそんな単純な方法はうまくいかずに簡単にいなされ、剣を弾かれる。

 

「シモンさん、神鳴流にそんな力任せは通じません!」

 

ブーメランを弾かれシモンの体がむき出しになった瞬間、刹那は腰を屈める

 

「神鳴流奥義・・・百烈桜華斬!!」

 

円を描くようにあたり一体に花びらが舞うような美しい剣、しかし・・・

 

「通じない? そんな壁がこの世に有るものか!」

「むっ!?」

 

一瞬ブーメランを弾かれ仰け反った形になったシモンだが、体を無理矢理とめ、思いっきり振りかぶった形で上から刹那に向かってブーメランを振り下ろす。

 

「穴掘りシモンはどんな壁にも風穴開けて道を通す!! これが漢の魂炸裂斬りーー!!」

 

両者の一撃が音を立ててぶつかる。

互いの武器が擦れ合うような音を響かせたが、押し切ったのはシモンだった。

 

「くぅ!」

 

刹那はシモンの攻撃の直撃は防いだものの、威力に押されて後方に飛ばされる。

しかしすぐに体勢を立て直し、大地を蹴りシモンに向かって跳ぶ。

 

 

「さすがですね、シモンさん! アナタに常識を問おうとしたのが間違いでした!」

 

「その通り! なぜなら俺は・・・「道理を蹴っ飛ばす」・・・刹那?」

 

 

シモンがブーメランを振り下ろしながら言おうとした言葉に対して刹那が笑いながら口を挟む。

 

 

「無理を通して道理を蹴っ飛ばす・・・・それがシモンさんでしたね・・・・」

 

「ははは、俺のことをよく分かっているじゃないか!」

 

 

シモンも言われて思わず笑ってしまった。

互いに目は真剣に、しかしどこか楽しそうに、お互いの力をぶつけ合っていた。

 

『これは意外だ! 武器を使った勝負では桜咲選手有利かと思いましたが、シモン選手も負けていません!』

 

朝倉の言葉は、今まさにこの戦いを見ているタカミチや刹那を知る龍宮達の思っていることだった。

力任せに振り回す剣が刹那とちゃんとした戦いの形になっている。

刹那が手を抜いているとも思えない。

しかもシモンの動きは刹那と打ち合うたびに徐々にキレていくようにも見えた。

 

(シモンさん・・・体がすごく生き生きとしている・・・シモンさんは元々気合しだいで強くなる人だったが・・・これは・・・)

 

刹那はシモンとの打ち合いに楽しさを感じると同時に、動きが格段によくなっていくシモンに何かを感じ取っていた。

今まで何度かシモンと共に戦ってきた。窮地になればなるほどシモンは力を解放していった。

気合という曖昧なものをあまり認めたくは無かったが、シモンのそれは何故か信じてしまった。

 

しかしこれはそれだけではない。

まるで今まで封じ込めていたものが一気に開放されたような感覚。

まるで美空と戦っていたときのアスナを見ているような感じだった。

その正体が何なのかは分からない。しかし解放された原因は刹那には何となく想像できた。

 

(ヨーコさんとの戦い・・・シモンさんは己の弱さを全て吐き出した・・・。弱さを吐き出した今のシモンさんに残っているものは強さだけ・・・まったくこの人は・・・ヨーコさん・・・ニアさんといい、私たち以外の女性には心を動かすんですね・・・)

 

打ち合いながら途端に刹那は急にムッと不機嫌になり少しだけ剣が雑になった。

一方シモンも自分の体も心も軽くなり、未だに成長し続ける自分自身に胸が熱くなっていた。

 

(ヨーコ・・・お前のおかげだ。・・・今の俺は・・・グレンラガンを動かしていた時と同じぐらい心が高鳴ってる)

 

己がずっと隠してきた心に巣食った弱さを吐き出した今、自分は何でも出来る気がした。

思えばカミナの死を受け入れ明日へ向かおうと決意したときもそうだった。

心が開放されて、何でも出来る気がした。

その後の四天王との戦いはすべて自分たちには不利な戦局だった。

海中での戦闘、空の上の攻防、竜巻を発生させ近づくことの出来ない相手とも戦った。

しかしどんな状況でもそのたびに自分たちは強くなった。その度にグレンラガンも進化した。

今のシモンはその当時と同じような感覚だった。

 

「いくぜ刹那! 螺旋力全開!! シモンブーメラン!!」

 

螺旋力が身体を覆い、シモンの体から光が大量にあふれ出す。

そして雄たけびとともに投げたブーメランが轟音を立てて刹那に襲い掛かる。

 

「甘いです! 武器を投げるなんて失敗でしたね!」

 

だがシモンのブーメランは直線的な攻撃だったため、刹那は難なく真横に回避した。

武器を無くしたシモンは丸腰である。

勝機と思い、刹那は向かっていく。

しかし刹那はシモンの投げた武器がブーメランであることを忘れていた。

 

「えっ!?」

 

後方から迫り来る気配に刹那は思わず後ろを振り向くと、シモンのブーメランが戻ってくる。

 

 

「俺を甘く見て失敗だったな!」

 

「ま・・・まずい・・ぐっ!?」

 

 

思わず刹那の口から声が漏れる。

自分でシモンのことを一瞬でも甘いと思ってしまったことが悔しかったが、今はそれを悔いている暇は無い。

直撃すれば敗北は必死。さらにシモンは相手が強敵なら年下の女であろうがまったく容赦ない全力攻撃だったため、この攻撃はヤバかった。

 

(回避・・・無理だ・・・これは当たる・・・どうする・・・どうする・・・真横に回避しても間に合わない・・・ならば上? 勢いよく飛び出せば・・・しかしどうやって・・・)

 

コンマ数秒の間に刹那は頭をフル回転させて活路を見出そうとした。しかしどの案も成功することは出来ない。だが・・・一つだけ思いついた。

 

(・・・そうだ・・・この方法なら・・・しかし・・・)

 

せっかく思いついた方法だが、その方法に刹那は一瞬だけ躊躇った。

なぜならこの方法は自分の中では使いたくない方法だったからである。

自分にとってはコンプレックスだったもの。

これが原因で親友との間に壁を作ってしまったのである。

しかしそんな一瞬の躊躇いから刹那はある言葉を思い出した。

 

 

――周りの奴らが持っていないからって周りの真似することなんて無いのにな

 

それはシモンが言った言葉だった。

それは直接自分に言ってくれたわけではない。しかしその言葉は刹那の心を軽くさせた。

 

(そうだ・・・・シモンさんが言ってくれた・・・・隠す必要なんて無いんだ・・・)

 

その瞬間ブーメランが刹那の立っている位置に巨大な音を立てて突き刺さった。

 

 

「せ・・・せっちゃ~~~~ん!?」

 

「ちょっ・・・いいのアレ!?」

 

『ちょっ・・・これはやりすぎだ~~~~!! シモン選手容赦なし! 桜咲選手は生きているか~~!?』

 

 

衝撃音とともに巨大な土煙を上げたシモンのブーメラン。これには会場中がざわつき出した。

あまりの威力にアスナたちも口を大きく開けて唖然としていた。しかし・・・

 

 

『ええ~~土煙が晴れていきますが果たして・・・・ってあれ?』

 

 

リングを覆った土煙がようやく晴れたと思ったら、リングに居たのはシモンと地面に突き刺さっているブーメランだけだった。

 

「ちょっ・・・えっ?・・・刹那さんは?」

「せっちゃん・・・・あれ?・・・おらへん・・・・」

 

リングの隅を見渡しても刹那はどこにも見当たらなかった。

地面に突き刺さっているブーメランを見る限り刹那は回避したのである。

しかしどこにも刹那が居ない。

するとシモンは少し苦笑しながら空を見上げた。

それを見て全員シモンの視線を多い上を見た・・・・すると・・・

 

 

「「「「「「なっ・・・・なんだってェェーーーー!?」」」」」」

 

「ぶーーーーーーー!?」

 

「・・・・・せっ・・・・せっちゃん・・・・・」

 

 

会場中が同時に驚愕の声を上げる。なぜなら・・・

 

『桜咲選手・・・攻撃を上空に逃れて回避していました!・・・しかし・・・しかし・・・』

 

皆同じことに驚いていた。刹那が攻撃を上空に回避した。それまではいい。

しかし全員刹那が今背中から出しているものに声を上げられずにいた。

事情を知るネギやアスナたち、知らなかったタカミチやシャークティたち、ハルナたちや他のクラスメートたちを含め全員が唖然としている。

そして朝倉がアナウンサーとして皆の思いを代弁する。

 

『桜咲選手・・・翼が生えてるぅーーーーーーーー!? ・・・ど・・・どうなってんだ~~~~~!?』

 

そう、刹那はなんと今まで隠していた翼を使い、遥か上空に逃れていたのである。

 

「刹那・・・・お前・・・・」

 

シモンの口からも思わず声が漏れた。

刹那がずっとコンプレックスに思っていたもの。純粋な人間ではない証。

それが原因で刹那はずっとツライ思いをして来たことを聞いた。

シモンがそれを知らずにかつて知ったような口を聞いたことに対して刹那は激怒した。

しかし彼女は今、戦いの最中とはいえ多くの一般人やクラスメートが見る中、己の翼を解放した。

そのことに対してシモンも目を見開いて驚いた。

 

「ふふ、シモンさんの驚く顔は貴重ですね」

 

会場中がざわつきながら、刹那は羽をバタバタさせながらゆっくり下降していった。

その姿はとても美しく、まるで白い翼をもった天使が舞い降りてくるように見え、会場中がその姿を見て途端に声を失い見惚れていた。

 

「隠してたんじゃないのか?・・・お前はそれを・・・・」

 

シモンは舞い降りる刹那を見上げながら呟いた。

すると刹那は温かい笑顔を見せて口を開く。

 

 

「アナタの所為ですよ・・・・シモンさん・・・」

 

「!?」

 

 

その言葉を聞いてシモンはハッとした。

熱くなった戦いに感化され、自分の繰り出した無我夢中の攻撃が、刹那のずっと隠してきたものを、よりにもよってこんな大観衆の前で出させてしまったのだと。

しかし刹那はそんなシモンの表情から心を読み取り、首を横に振る。

 

 

「違います、そうではありません。・・・アナタの所為・・・それは・・・アナタの所為で私はこの翼を後ろめたいだなんて思わなくなってしまった・・・」

 

「刹那・・・お前・・・」

 

「アナタの所為ですよ・・・この翼を誇ってしまうようになったのは」

 

 

シモンは考え込んだ。なぜならシモンは翼について刹那と話し合ったことなど無かった。

京都の木乃香の実家の温泉で詠春と少し話した程度だった。

だがハッとした。あの時詠瞬との会話を刹那やネギたちは聞いていたのである。そのことを思い出し、シモンは顔を上げる。

すると刹那は力強い笑みを浮かべた。

 

「私はもうこの翼を後ろめたいなどと思いません! 私の翼は隠すためのものでは無い! そう・・・なぜなら・・・」

 

刹那は指を高らかに天に向かって突き出した。

 

 

「私の翼は、天を翔ける翼なのですから!!!!」

 

 

恥じらいなんて無い。刹那は誇らしげに高らかに天を指差した。

こんな刹那を誰も知らない。親友の木乃香ですら初めて見た。

生真面目で、物事を細かく常に考え、日常生活では自分の気持ちを押し殺し遠慮していた彼女が、今自信に満ち溢れ、己を誇りながらシモンと同じポーズをしているのである。

その姿に多くのものが目を輝かせている。

何故刹那の背中に翼が生えているのか、本物なのか?そんな疑問は長谷川千雨を除いて、完全に吹き飛んでしまった。

 

 

「せっちゃん・・・・せっちゃんカッコエエエーーーー!!」

 

「「「「「「うおおおおおおおおおおお!! せっちゃーーーーん!!」」」」」」

 

 

木乃香の叫びが口切となり、会場が大歓声を上げる。

木乃香はその様子に目をキラキラ輝かせながらうれしそうにする。

 

 

「うは~~、せっちゃん人気者やわ~~~」

 

「あ~あ~、とうとう刹那さんまでやっちゃった~~、いいのかな~、一度やると癖になっちゃうのに~」

 

 

アスナも顔をニヤつかせながら、刹那を見る。

アスナ自身これまで何度もシモンの真似をしていただけに、刹那の行為をうれしそうに見ていた。

 

 

「ははは、誰の真似をしてるのか一発で分かるというのもすごいね」

 

「ふふふ、相変わらず物凄い感染力ですね、シモンさんの気合は。」

 

 

教員として、魔法先生・生徒の間柄でタカミチとシャークティも幾度と無く刹那と関わったが、こんな刹那は初めてであった。

 

「ははは・・・そうか・・・そうなんだ・・・・・」

 

シモンもクスクスと笑ってしまった。

刹那らしからぬ刹那の行為に思わず笑みがこぼれてしまった。

 

「いいと思うよ、刹那。今のお前・・・・すごくカッコイイぜ」

 

お世辞ではないシモンの言葉に、刹那は可愛らしくハニカンだ。

その笑顔に心奪われ会場中の男が再び騒ぎ出した。

 

(カッコイイ・・・か。まったくアナタは・・・そうやって容易く私をうれしくさせる・・・)

 

そんな中、ようやく刹那は着地した。そしてシモンを見る。

これまでこの翼を見たものたちは軽蔑の眼差しで自分を見ていた。しかし今は違う。

今では自身が誇れるものになった。

そのキッカケを与えてくれた目の前の男を見て、刹那は決心した。

 

「シモンさん・・・私・・・エヴァンジェリンさんとの試合で言われたことがあるんです・・・」

 

着地した刹那は攻撃を仕掛ける様子も無く、翼を広げたまま語りだした。

 

「どちらかを選べ・・・と・・・剣と幸福・・・どちらかの道を選べと・・・・」

 

その言葉を聞いてエヴァやアスナたちも反応した。

刹那がエヴァに問いただされたこと。今後己が歩む道、刹那はその答えはまず自分に勇気をくれたシモンに告げたいと。

刹那はその答えを言う決心がついたのである。

 

 

「どちらかを・・・・選ぶ?」

 

「はい、私のように人外としても中途半端な存在、最近甘い日常にタルみきった私にエヴァンジェリンさんが叱咤してくれたのです。お嬢様を護るために強くなるのか、それともただの人になって幸福に生きるのかを・・・・」

 

 

刹那は顔を上げてシモンを見る。

 

「その答えを・・・・アナタに聞いて欲しいのです」

 

力強い瞳で刹那はシモンを見る。

この数十年苦悩し続けた己の道、今後自分がどうするのか、刹那はようやく答えを出した。

 

 

(そう・・・エヴァンジェリンさんでもない・・・・このちゃんでもない・・・ネギ先生やアスナさんでもない・・・私が自分で勝手に作った心の壁を簡単に突き破ってくれたアナタに・・・新たな道を私に教えてくれたアナタに・・・私は・・・言います。)

 

 

迷いも無い、躊躇うことなんて無い、いつも堂々と己の道を進むシモンに向かって、刹那は己の決意を述べようとする。

・・・・・しかし・・・・

 

「私の道・・・それは「あのさ、ちょっと聞いていいかな?」・・・えっ?」

 

刹那が述べようとした瞬間、黙っていたシモンが首を傾げながら口をはさんできた。そして・・・

 

 

「あのさ・・・なんでどっちかなんだよ・・・両方選んじゃダメなのか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

 

 

シモンは純粋に疑問に思い質問する。

その言葉に場が「し~ん」となった。

エヴァやネギたちも口を半開きにしている。

シャークティと美空はある程度予想していたかのように、少し呆れ顔でシモンを見ていた。

すると少し顔を下げて刹那は呟く。

 

「私は・・・・剣と幸福・・・・・両方選びます・・・・・」

 

ボソリと呟いたが、ちゃんと皆の耳には聞こえていた。

するとシモンは「ポンッ」と手のひらを叩き

 

 

「そうなのか? うん、いいじゃないかそれで。でもなんでエヴァはどっちかを選べなんて聞いたんだ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

シモンはアッサリ納得してしまった。

むしろ二つ選んで当たり前のような様子だった。

 

 

・・・刹那の決意表明終了・・・・というわけにはいかなかった。

 

「シモンさ~~~ん?」

 

すると刹那の肩がプルプルと震えだし、ツカツカと歩み寄ってきた。

その声には微かに怒気が孕んでいた。

 

 

「私が・・・エヴァンジェリンさんに心も身体も痛めつけられ・・・ボロボロになり、苦悩し・・・ようやく・・・ようやくたどり着いた答えなのに・・・・・・なんで先に・・・しかもアッサリ言うのですか~~~~~~~~~~~!?」

 

 

刹那はシモンの胸倉を掴み、涙目になりながらシモンを揺すり始めた。

苦悩の末にようやく導き出した答え。それは困難な道かもしれない。今の幸せをかみ締めながらも、己を高めるための練磨を絶やさずに、大切なものを護るために己の命と魂を賭けた決意だった。

それを口だけの決意にしないように、常に己の命と魂を賭けて突き進んできたシモンに誓うことによって刹那は前へ進もうとしたのだが、シモンはまるで「そんなの当たり前じゃないか」というような態度だった。

 

 

「なんでって・・・だって剣を捨てたら幸福なのか? 違うだろ、両方選んで初めて幸福になるんじゃないか! 自分にとって大切なものを片方切り捨てて、なんで幸せになれるんだ?」

 

「たしかにそうです、ええそうですとも! しかし二兎を追うものは一兎をも得ずという諺もあるじゃないですか! 全てを手にするなんて驕りなのですよ!」

 

「そんなの誰が決めたんだ! そんな道理なんて俺が蹴飛ばしてやる!」

 

「えっ・・・え~~~~~?」

 

 

グッと親指を突き上げて「当たり前だ!」と言わんばかりのシモンに刹那は完全に取り乱してしまった。

刹那の答えにシモンも賛成なのだが、こうもアッサリと終わらされてはどうにも釈然としなかった。

それゆえ賛成されているにもかかわらず、なぜか刹那はシモンに異議を申し立てるという訳の分からない行動に出てしまった。

 

 

「え~~と・・・・あっエヴァンジェリンさんが言っていたのですがトルストイの『アンナ・カレーニナ』の冒頭の一説、『幸福な家庭は皆同じように似ているが、不幸な家庭はそれぞれにその不幸の様を異にしているものだ』というのがあるそうです。」

 

「ふ~ん、それで?」

 

 

話の方向が少しズレだした。刹那はエヴァが言っていたことをそのままシモンに伝える。

 

 

「幸せな人はみな似たり寄ったりですが、不幸な人はそれぞれに違うということです。この意味が分かりますか?」

 

「・・・・・いや、全然・・・・」

 

「つまり幸せな人はエヴァンジェリンさん曰く、つまらないということです」

 

「はァ? なんでだよ?」

 

 

刹那はエヴァに言われた言葉を一言一句忘れずに丁寧にシモンに説明していく。

 

 

「幸福な者に語るべき物語はない。不幸と苦悩こそが、人の魂に火を宿す・・・ネギ先生のように」

 

「なんだよそれ? 人の不幸話聞いて何が面白いんだ? だいたい自分の人生は人に語るためのものじゃないだろ?」

 

「・・・・・・・は? ・・・あの・・・えっと・・・・・」

 

 

完全否定だった。

エヴァにこのことを言われたとき刹那は己が幸せになっていいかどうかを苦悩した。

最近自分が気づかぬうちに幸せになり腑抜けていたことを理解した。

しかしどうもシモンとは話が噛み合わなかった。

 

 

「刹那、自分の生き方を人にどう判断されたって別にいいじゃないか。人から見て面白いとかつまらないとかで生き方を決めるほうが、よっぽど薄っぺらでつまらないよ。不幸なんて目指さないで幸福を掴み取れ!」

 

「・・・・・で・・・ですが・・・・」

 

「それがどんなものでも自分が誇れればそれでいいじゃないか。泥臭いだ、汚いとか人に言われても俺はそうやって生きてきた。ドリルはお前の魂だ・・・・・そう言ってくれた人がいたから俺は自分の魂を誇れるようになった。」

 

「・・・・・あの・・・ですから・・・私は両方を選ぶと・・・・・」

 

「ああ、だったらそれでいいじゃないか。何の問題があるんだ? 一々人に言わないでも自分がそうだと決めたら、そうすればいいじゃないか。確かに二つを同時なんてことは困難かもしれないが、困難に立ち向かわないで得るものなんて無いと思うよ」

 

 

シモンはそう言ってニッと笑い刹那を見た。

強引な理論と笑顔、それに刹那を始め多くの者が今まで救われてきた。

しかし今の刹那にとっては違った。

なぜなら刹那の先程までの悩みは、こうもアッサリと終わってしまった。

 

(えっ・・・あれ? ・・・これで・・・話は・・・・終わり? ・・・アレ?・・・)

 

その瞬間刹那は地面に両手と膝をついてうな垂れた。

その肩は震え、物凄い落ち込みようだった。

 

(わ・・・・私の悩みはなんだったんだ~~!? この人は・・・この人はなんでこうも滅茶苦茶な理論がポンポン出てくるんだ? あのエヴァンジェリンさんとの戦いから学んだことを・・・こんなにアッサリと・・・)

 

新たな自分の決意をシモンに聞いてもらいたい、そのために刹那はエヴァや木乃香にも言わずにいたのに、まるで自分の悩みが物凄く小さいことのように感じ、急に馬鹿らしくなってしまい、刹那は本気で泣きそうになってしまった。

そんな刹那を周りの者は気の毒に思って見つめていた。

 

「とりあえず・・・・シモン君とのディベートは無理だな・・・・」

「無理矢理な理論で言い包められるうえに、言っていることが間違ってないだけに大変ですね・・・」

 

タカミチとシャークティはリング上で落ち込む刹那を哀れむような目で見ていた。

 

「ちょっ・・・急にどうしたんだよ、刹那? 俺なんか変なこと言ったか?」

 

戦いの最中に落ち込み、うな垂れる刹那に、シモンは素で心配そうに顔を覗きこむ。

すると刹那の肩が急に震えだした。まさか泣いているのか?そう思い少しシモンが慌てそうになった瞬間、

 

「クス、クスクスクス」

 

刹那が突如口元を押さえながら声を漏らす、そして

 

「アハハハハハ! そうですね、・・・ふふ・・・、申し訳ありません・・急に・・・」

 

刹那はお腹を押さえながら笑った。その様子にシモンは益々訳が分からなくなり、周りに助けを求めようとするが、リングサイドに居るエヴァやタカミチたちも、おかしそうに口元を押さえて笑いを堪えていた。

 

 

「シモンさん・・・やはりアナタはすごい人です。だってどんな滅茶苦茶な言葉も、アナタが言えば信じてしまえるのですから・・・」

 

「・・・滅茶苦茶・・・に聞こえちまうかな?」

 

「はい、滅茶苦茶で・・・根拠が無いのに・・・筋が通っている・・・。少し悔しいです・・・、どうやら私はまだシモンさんのことを理解していなかったようですね」

 

 

複雑そうな笑みを浮かべる刹那を見てシモンは再び武器を構える。

 

 

「刹那・・・互いを真に理解し合うのには、言葉だけでは限界がある」

 

「・・・シモンさん?」

 

「俺のことを・・・互いをもっと知り合うんだったら、もっと語り合おう! 言葉だけじゃなく、拳や魂をぶつけ合ってな! 今この場には俺とお前しか居ない、俺は全部受け止めてやるよ!」

 

 

その一言が合図となり、シモンの体から螺旋力が開放される。

それは正面に居れば思わず後ずさりしてしまうほど、大気を揺るがす荒々しさを帯びていた。

 

(ああ・・・スゴイ・・・なんて熱く・・・大きく・・・強い・・・魔力でもない・・・気でもない・・・・人が誰しも持っている気合という名の力・・・)

 

だが、刹那は気圧されたりはしない。むしろ胸が熱く高鳴った。

シモンの心に居るニアでもカミナでもない、ヨーコやシャークティ、美空でもない。

今シモンは刹那だけを見て、その魂を正面から受けようとしてくれている。

そう思った瞬間、刹那の肩が再び震えた。

それは歓喜や怒りや笑いを堪える震えではない。これは純粋な武者震いだった。

そしてその湧き上がる想いを堪えることが出来ずに、刹那は再び笑った。

 

「では・・・受け止めてくださいね。・・・今の私のありのままを・・・・アナタにぶつけます!!」

 

刹那の武器はブラシ、傍目から見て少し頼りないようにも見えるが、刹那の気を纏い強化されているブラシは更に硬度と力を増していくように見えた。そして刹那も構える。

 

 

「神鳴流剣士、3-A、出席番号15番、桜咲刹那!! いざ参ります!!」

 

「ああ・・・・来いよ、・・・お嬢さん!!」

 

 

同時に駆け出して互いの武器を交錯させる。

武器と武器がぶつかり合う。

どちらも攻撃の手を一瞬たりとも休めずに辺りいっぱいに何度も衝撃音を響かせる。

 


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