魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
『さあ続いての試合はもはや説明不要!子供でありながら大人顔負けの超実力者ネギ選手! 対するは意外と根は熱かった春日選手! ともに一回戦大活躍をした二人ですがはたして勝敗はどちらに転ぶか!?』
二人の選手が現れた。
瞬間に黄色い歓声と野太い声の声援が上がった。
ネギへのコールはあたりまえだが、意外と美空への声援も大きかった。
どうやら彼女も一躍人気者になり、少し照れたような表情を見せていた。
そして目の前の少年を見た。彼は十歳でありながら自分の担任。彼の経緯は大まかに聞いてはいたが、まさかこうして戦う日が来るなどとは微塵も思っていなかった。
なぜならこの少年の目、性格、夢、才能、そして皆から愛される可愛らしい顔、そして不幸な過去というオマケつき。
どれをとっても物語の主人公にお似合いな少年に対して、自分は物語にいても居なくても進行に大した影響が無い、その他のキャラだとずっと思っていた。しかし・・・・
「ネギ君・・・言っとくけど・・・私ケッコー、今はマジだからね」
地面をトントンと足のつま先で何度か鳴らしながら美空はネギを見る。
すると目の前の少年は真剣な目つきで自分に向かって構えた。
「はい! 美空さん相手に油断なんてしません! 僕だって真剣です!」
そう、ネギは・・・物語の主人公は今、自分のことを強敵と認め全力を出すことを決めている。
これは美空にとっては衝撃だった。そして同時に胸が高鳴った。
ここに居る観客も、そしてネギも、こんな自分を認めてくれている。
考えただけでゾクゾクした、血が滾る、興奮が抑えられない。
さすがにネギ相手に生身ではキツイので、今はココネに魔力を送ってもらい体中を満たしている。そのため多少の興奮はしていた。
しかしここまで押さえられないものだとは思っていなかった。
今の美空はとにかく早く走り出したい気持ちでいっぱいだった。
そしてクラスメートや家族たちの見守る中、ようやく朝倉が手を上げる。
『では、Fight!!』
その声とともに美空が直線的に走り出した。その身体からはココネから供給されている魔力が光っている。
「!?」
ネギは直線的に来た美空を落ち着いて迎え撃つ。
美空が速いことなど既に承知済み。中国武術の中段の崩拳で迎え撃つ。
しかし直撃かと思われた拳は空を切る。それと同時に後ろに気配が現れたことに気づき、伸ばした拳の肘を折り曲げそのまま後ろに裏拳の形で振り返る。
「せーーーい!」
「ッ、見えてます!」
激しい衝撃音が響く。
ネギの偶然出していた拳が丁度美空の飛び蹴りをガードする形でぶつかった。
一瞬で背後を取ったと思った美空だが、アスナには通じた攻撃はネギには防がれた。
ネギはすかさず美空を捕まえようともう一方の手を伸ばすが美空はネギの手を弾いて後方へ飛びのく。
それを見てネギは美空が着地する寸前に瞬動術で接近をする。
その瞬間観客の視界からネギの姿が消えた。
そう錯覚させるほどのスピードだった。
しかし動体視力の優れている美空は真横に交わす。
「くっ!?」
ネギの口から声が漏れる。
急な方向転換が出来ない瞬動は直線に動いた後は一瞬動きを止めるしかない。
しかし美空はその隙を逃さず右足の蹴りを振りかぶるが、ネギは下手に防御するより勢いに任せてそのまま前に倒れこんで蹴りをやり過ごす。
「わお!?」
当たると思っていただけに美空は驚きの声を上げる。
そして勢いに任せて蹴ったにもかかわらず、空を切ったためバランスを崩し倒れそうになる。
すかさずネギは倒れこんでそのまま地面で前転をして勢いに乗せ立ち上がり、肘打ちで美空に追撃する。
「外門頂肘!!」
ネギの肘が迫ってくる。
その直撃の瞬間バランスを崩しながらも蹴りの体勢のまま自分を支えている左足を思いっきり地面を叩き、その反動でわずかにその場から飛びのく。
「これも当たらない!?」
「アブナ・・・・」
必殺技を放ったネギは更なる追撃ができずにその場で固まる。
そして美空もゆっくりと着地した。
これが試合開始わずか数秒足らずの攻防だった。
『・・・あ・・・あの・・・え~と・・・・・・』
観客が気づいたら静まり返っていた。
それはクラスメートや観客席に居るシモンもそうだった。
はたして今の攻防を何人のものが見極められたか分からない。それほどのハイスピードだった。そしてようやく・・・
『あの・・・申し訳ありません!! あまりの速さに解説出来ずに見入っていました!! そのため言える事は一つ! なんかこの二人スゴイです!!』
朝倉が視認出来なかったのも無理もない。観客の沈黙がそれを肯定していた。
しかし今の朝倉の一言でようやく観客もハッとして声を上げる。
「お・・・おう! たしかにスゲエ!!」
「よく分からねえけどスゲエ!!」
ただ一言スゲエの連発だった。
具体的には分からなかったが凄さが二人から伝わった、そんな様子である。
二人の攻防に目がついていけた者たちでも息を呑んでいたのである。
「ふう~~、やるじゃないか美空君も」
「う~む・・・・・一芸というのは侮れないアルネ・・・」
「いや・・・・私全然見えなかったけど・・・・・・」
「ウチもや~~~」
高畑や楓、刹那、エヴァ、古、そしてシャークティはこの攻防をちゃんと見ることが出来た。
それゆえの評価のため、いかに二人のレベルが高かったかを物語っている。
アスナたちは目で追えなかったが、高畑たちの反応からそれを感じ取った。しかし・・・・
「となるとこの勝負・・・・・長引くかもしれませんね・・・」
「え? ・・・・なんで?」
刹那の言葉は素人のアスナたちにはよく分からなかったが、高畑たちは刹那の意見に頷いていた。
舞台は再び二人に戻される。
先手の攻防を終えて二人は少し考えているようだった。
(美空さんは確かに速い・・・・でも攻撃は大雑把だから避けられる・・・・でもこっちの攻撃は当たらない・・)
美空は魔法使いの見習いのうえに修行をサボり気味だったため、攻撃はほとんど素人のようなものだった。
アスナにはそれで通用したが、エヴァや古に短期間とはいえミッチリ鍛えられているネギなら、美空の動きをある程度予測して回避することが出来た。
一方で美空は、
(中国拳法か~動きは読みづらいけど、瞬間的な加速さえ気をつければ見極められる・・・・でも・・・・こっちの攻撃は読まれている・・・・)
両者攻撃を当てることが出来ない。それゆえに刹那たちも長期戦を予期した。
しかし二人には決定的な違いがある。
動きを先読みして回避するネギと、動きを読まなくても攻撃を回避できる美空。
ならばネギが動きを先読みできなくなれば戦況は変わる。
美空がそこまで考えていたかどうかは分からない。
しかし元々出来ることが一つしかない彼女はやるべきことは一つだけだった。
(もっと・・・速く・・・・いや・・・もっと疾く!!)
美空は意識を自分の足に集中させる、それを見て再び構える。
(カウンターだ・・・美空さんの動きを最後まで読み切れば・・・・)
ネギは自分からは仕掛けない。
なぜなら自分から仕掛けても攻撃を回避されるだけである。
魔力で身体を強化している美空には並みの攻撃は通用しない。大技出して回避されてその隙を攻撃されればたまったものではない。
そのためネギに出来ることは美空の動きを先読みしてカウンターで迎え撃つ、それがネギのプランだった。
それは決して間違えていない。
しかしそれは美空のスピードを把握しきれていればの話である。
(大振りは当たらない・・・・ネギ君には手数で・・・いや・・足数で押し切る!)
(一撃だ・・・・耐え抜いて一撃に賭けるんだ!)
お互いの作戦は決まった。そして同時に美空が動いた。その瞬間にまた彼女は視界から消えた。
「ほれほれほれーい!」
「・・・・つっ!」
その瞬間ネギにマシンガンのように前後左右から攻撃が襲う。
アスナとの試合で見せたように美空がスピードでネギを囲みながら蹴りを撃つ。
しかしネギは冷静に美空の気配と攻撃を察知して直撃を防ぐ。
『おお~と春日選手が再び風となる! ネギ選手は大丈夫か?』
傍目から見ればネギが押されているように見えるが、ネギの頭は冷静に回っている。
(大丈夫・・・・移動しながらの蹴りで腰が入っていない。これなら耐えられる!)
元々素人同然の美空の蹴りが余計に威力を落としている。
ネギは一つ一つに対処していき、その瞬間を待つ・・・・そして・・・
(引き付けて・・・引き付けて・・・ここだ!!)
ネギは自信をもって拳を振り切っていた。
だが・・・そこには誰もいなかった。
「えっ・・・・あれ?」
辺りをキョロキョロ見ると、さっきまで自分の目の前にいた美空がリングの端で軽く飛び跳ねながら構えていた。そして・・・・
「ぐっ!?」
美空が離れていたと思った瞬間、今度は目の前に現れた。
一瞬のことでネギは油断し、何発か被弾する。
しかし攻撃が当てられたことより別のことで頭がいっぱいだった。
(そんな・・・・完全に捉えたと思ったのに・・・・・)
しかし動揺している暇はない。現に美空は目の前にいる、もう一度神経を集中させ美空を見る、そして
(次こそは当て・・・・・)
次こそは当てようと拳を握った瞬間に美空は再び消えた。
そして再び遠く離れたところでネギを見ていた。
「そ・・・・そんな!?」
ネギから思わず声が漏れる。
『これは春日選手、完璧なヒット・アンド・アウェイでネギ選手を翻弄しています!!』
散々攻撃を繰り出して、いざネギが反撃しようとする頃には既に手の届かないところにいる。
そして次の瞬間また目の前に現れる。ネギの驚愕も朝倉の解説も正しかった。
「うわっ!?」
攻撃が再開される。
正直ダメージはほとんどないが、美空の攻撃は精神的に来た。
なぜなら向こうからは好きなだけ攻撃できて、気づいたときにはもういない。そう思った瞬間に再び自分の前に現れる。それが現状だった。
(そんな!? ・・・・こんなに近くにいる人を・・・・)
苦し紛れに拳を突き出すが既にそこには誰も居ない。再びネギの攻撃は空を切った。
そう、先程まで目の前にいたはず美空はすでにそこにいない。
(こんなに近くにいるのに・・・・見失うなんて・・・・)
遠く離れた美空をネギはやるせない瞳で見つめていた。
(へへ~ん、だーんだん、分かってきたぞ~、ネギくん)
美空はネギの目を見て確信した。
目の前の少年は決して嘘をつくことが出来ない。それゆえこの瞳は真実を物語っている。
それはつまり、ネギは自分のスピードについていけないという事実である。
それを確信してか、美空の頭はさらにスーっとした、もっと速く動ける気になっていく。
(ネギ君・・・それで限界だとしたら・・・・・物足りないよ!!)
美空は意識を集中し、再び走り出した。
その瞬間美空の残像がリングに現れ、軽快な足音がリング上に響き渡る。
「うっ!?」
『春日選手今度は目にも留まらぬフットワークでリング上を駆け巡る!』
右へ左へ、背後へ、高速のステップワークで駆ける美空にネギは完全に翻弄され、いつのまにか攻撃を読むのを忘れ、顔をキョロキョロさせて美空を目で追ってしまう。
余りにも華麗にリングを舞う美空の姿に観客から思わず声が漏れる。
「お・・・おい・・・あの技・・・・」
「ああ・・・間違いない・・・・某東洋チャンピオンの必殺技・・・・」
観客がゴクリと息を呑む、そして美空は・・・・
「くらえ! スピード地獄!!」
「「「「「宮田くんだーーーーーー!!」」」」」
リングを縦横無尽に駆け巡り高速に揺れる美空がネギに襲い掛かる。
「ぐあっ!?」
ネギは防御の構えをするが、まったく効果はなく、不規則に繰り出される高速の連打を全て受けてしまう。
(速い!? いや・・・速いことは最初から分かっていた・・・でもただ速いだけじゃない・・・動きが読めない!?)
先読みしようにも変幻自在のステップを織り交ぜたスピードにネギは完全に翻弄されてしまう。
そんなネギの迷いが美空には手に取るように分かる。
(スゴイ集中力だ・・・アスナのときよりも進化している!)
完全にスイッチの入った美空に観客は盛り上がる。
「「「「言ってくれ~~~! あの・・・あの言葉を!!」」」」
ネギやアスナたちにはよく分からない観客の要求。
しかしそれを一瞬で理解した美空は少し調子に乗りながら、
「ふっ・・・・・今日の私はキレてるぜ!!」
「「「「美空ちゃ~~~~ん!!!!」」」」
とにもかくにも会場のほとんどの男子生徒は美空の味方になってしまった。
「そして、からの~~~キュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュ!」
「「「「「あれは・・・・・・あの、腕や頭部、脚部など全身を個々で別々にランダムに動かして相手を翻弄する独特のフェイントは・・・・・」」」」」
「我が名は美空! 時空を司る神が一人!」
「「「「ガキシャッフル! ……いや、もはや美空シャッフルだあああああ!」」」
美空のパフォーマンスにシャークティたちは呆れたものの、美空の考えは間違っていない。
アスナからの勝利により自信が確信に変わり、その力にネギも手が出せない状況にある、過信は行き過ぎではない・・・と美空は思っていた。
「はっ!!」
またも苦し紛れに拳を突き出すネギ。
しかし美空に当たるはずも無い。
美空はネギが演技ではなく本当に苦戦していることを感じ、更に調子に乗り、ボルテージの上がった観客へのパフォーマンスを開始する。
「これが夢見た君の力かな?」
「美空さん?」
「だが足りない! 足ぁり無いぞォ!!」
ネギの拳を回避しながら美空が口を開く。そして
「えっ? ・・・・何が・・・ですか?」
「・・・・・美空? ・・・・」
「・・・・・・美空ちゃん?」
「「「「「・・・・・まっ・・・・・・・まさかっ!?」」」」」
「どうしたんだ? ・・・・美空の奴・・・・・」
一見美空らしからぬ発言にネギやアスナたちは呆けてしまう。
それはシャークティやタカミチ、シモンもそうである。
「「「「まさか、まさか! まさかあああああああああああああ!」」」」
しかし叫ぶ美空を見て会場中の男たちが息を呑んだ。
そして美空は走り出した。そして
「君に足りないものは、それはーーーー、情熱思想理念じゅにょうきひっ・・やべっ噛んだ!? まあいいや、とりあえずなによりもォーーーーー速さが足りない!!」
走り出した美空は何かを叫びながらネギにミドルキックを叩き込み、呆けていたネギはまともに食らってしまった。
「ぐうっ!?」
本来なら避けられたのだが、美空の突然の行動に体の反応が遅れたネギはスピードに乗った美空の蹴りを受け倒れこんだ。
美空は何か叫んでいたが早口の上に途中で噛んでしまったため、一部のものは理解できなかったが、男子生徒たちは涙を流し震えていた。そして・・・・・
「「「「か・・・噛んだけど・・・あ・・・アニキだーーーー!!」」」」
「むしろアネキと呼ばせてくれ~~!!」
「美空ちゃん! 君は女の子だけど熱い魂の申し子だ~~~~!!」
「それ教えてくれ~~! 俺を・・・・俺を弟子に~~~!!」
『強いぞ春日選手! さすがの子供先生も春日選手の前ではスロウリィです!!」
拳を握り締め、男たちは感動の涙を流しながら大盛り上がりしていた。
それを聞いて美空は益々調子に乗り笑顔が顔中に広がっていく。
この状況はシモンにもうれしい誤算であった。
「すごいよ美空! さっきから何やってるかよく分からないけどネギを翻弄している! 長谷川、パソコンの反応はどうなってる? これは大盛況じゃないかな?」
美空の活躍に興奮気味のシモン。
今のこの状況をネットではどう捉えられているのかを期待しながら隣に居る千雨を見た。すると・・・
「くそっ・・・まじかよアイツ・・・・まさかこのまま衝撃のファーストなんたらをやるんじゃねえだろうな・・・まさかできんのか?・・・アイツにあんな芸が出来たなんて・・・アイツだけは私と同じ常識人だと思ってたのに・・・」
元ネタを知る千雨はブツブツ言いながら美空を見ていた。
「長谷川?」
「だ~~、分かってますよ! え~と、ネットでは・・・世界を縮めた・・・って盛り上がってますけど・・・」
「縮めるって何を?」
「あ~~、シモンさんは知らなくていいですよ。でもこのままじゃ春日が勝ちそうですね」
それは客観的に見て普通の意見だった。
素人の目から見ても明らかに美空が優勢だった。会場中もそう信じている。そして戦っている美空自身も手ごたえを感じていた。
しかし、専門家たちの考えはまったくの逆だった。
「高畑先生・・・この戦況をどう見ます?」
尋ねるのはシャークティだった、すると高畑は少し真剣な目つきでリング上の二人を交互に見て答える。
「さっきまでは五分五分でしたけど・・・今のでネギ君が有利になったと思います」
「・・・そうですか・・・私もそう思います」
高畑の目には美空ではなくネギが有利だと感じていた、その言葉にシャークティも同意した。
「ちょっ・・・だってネギ手も足も出ないじゃないですか!? 美空ちゃんの方が優勢じゃないんですか!?」
アスナの意見は木乃香や夕映たちの気持ちを代弁していた。
自分たちの目から見ても美空のほうが優勢で余裕もあると見える。
そこでその疑問を解消すべく、ネギが有利という理由、この意味をエヴァが解説する。
「先程までのぼーやは自分の予想を上回った美空の純粋な速さに戸惑っていた。予期していたものよりも鋭い動きに、まだ未熟なぼーやは対処できなかった・・・だが・・・今ので分かったはずだ、今の春日美空の攻撃力に警戒する必要はないということを」
「「「?」」」
「ぼーやは・・・・無防備に攻撃をモロに受けたが、大したダメージをくらってないだろう? それはつまり、・・・・春日美空の攻撃は・・・・質が軽いんだろう」
アスナたちにはまだエヴァの説明は理解できなかった。
だが、リングに居るネギは肌で直接、現在の美空の力を感じたことにより、勝機を見出した。