魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
『かつて、お前のように戦った男がいた。その行いが人類を滅ぼすことになるとも知らずにな!』
その男は、正に圧倒的な力だった。
『なんのことだ!』
『知る必要も無い。どうせ直ぐ死ぬのだ!』
これまで、どんな無理も無謀も乗り越えてきたグレンラガンが、螺旋王の圧倒的な力の前にその機体に無数の穴を開けられていく。
パワー、スピード、ガンメンの技術、全てが圧倒的だった。
「つ、つえええええ!?」
「グレンラガンが全然敵わないよ!?」
「ちょ、なんなのよあのハゲのおっさん!? あんな理不尽、ジャック・ラカン並じゃない!」
これまで幾度と無く強敵を打ち破ってきたグレンラガンをあざ笑うかのごとく、殴り、蹴り飛ばし、そしてドリルを突き刺していく。
「ま、まさか・・・今のでシモンさんたち・・・死んだ?」
「裕奈・・・それは無いって・・・・」
「で、でも・・・強すぎや・・・ギガドリルも敵わなかったやん!」
王の力は想像を遥かに上回った。
無理だ。
勝てっこない。
ドリルがまったく歯が立たない。
忍び寄る死の恐怖の前には、誰も震えを止めることは出来ない。
モニター越しだというのに、螺旋王という絶望の壁に、オスティアの観客は口を閉ざしてしまった。
画面に映る、大グレン団のロシウも震えている。
だが、この絶望に目を逸らさずに見続ける者たちはいた。
「・・・まだよ・・・・」
アスナが呟いた。
すると、その言葉に木乃香も刹那も頷いた。
「・・・・当然や・・・・」
「ええ・・・・当たり前です」
僅かに呟いたその言葉に、何故か会場中の者が聞き取り、アスナたちに振り向いた。
そして彼女たちの言葉に続けて、ネギも口を開いた。
「彼らが、これで終わるはずが無い!」
拳をさらに強く握り締める。
胸が熱くなる。
そうだ、何度だって見てきた。
何度も、心を熱くさせられた。
こうゆう展開でこそ・・・・
『あきらめるな!』
この男は・・・
『無理を通して道理を蹴っ飛ばすのが俺たち大グレン団なんだよ! ロシウ、俺を信じろ! お前を信じる俺を信じろ! 俺たちは、まだ戦える!』
燃え上がるのだ。
ロシウも震えが止まった。
彼もシモンを信じた。
だからこそ、彼もまだ戦えた。
『無駄な足掻きよ』
『どうかな!』
何度だってドリルを突き出し、折れても、心は折らずに立ち向かう。
大グレン団の最終決戦。
誰もがそう思っていた。
これが彼らのラストバトルだ。
誰もがそう思っていた。
この戦いが、真の戦いへのほんの序章・・・・いや、真の戦いへのキッカケになるというのを誰も知らぬまま・・・・
シモンを・・・ニアを・・・ロージェノムを・・・グレンラガンを・・・螺旋の力を目に焼き付ける。
『負けねえんだよ! アニキが信じた俺は! 俺が信じる俺は!! お前なんかに絶対に負けねえんだよ!!』
『面白い! ならば、わしも全力でお前をつぶそう!!』
両ガンメンの全身から光がほとばしる。
緑色の暖かい光と、禍々しい冷たい光。
グレンラガンとラゼンガン、両ガンメンから放出される光が螺旋の渦を巻いてぶつかり合う。
地下で燻っていた男のドリルが、この世界最強の男のドリルとぶつかり合う。
「「「「「「ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」」」」」」」
『うおおおおおおおおおおおおおお!!』
「「「「「「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!」」」」」」
激しくうねる光の渦がラガンとラゼンガンを包み込む。
激しい螺旋の光をぶつけ合う両者の力。いつしか押しつぶされぬように粘るシモンとニアの姿に観客も気づけば歯を食いしばって唸っていた。
『ウオオオオォォォォーーーーーーーッ!!!』
「「「「「「「うぐうううううううううう!!!」」」」」」」
その時、ラガンのドリルの勢いが増した。
『おお?』
ロージェノムが声を上げた。
そして次の瞬間、ラゼンガンの超巨大なドリルに亀裂が走り、一気に弾け飛んだ。
「「「「「「「「いっけええええええええええええええ!!!!」」」」」」」」
その声と共に、ドリルを弾かれたラゼンガンの胸に、ラガンのドリルが深々と突き刺さった。
「「「「「「「っし、決まったアアア!!!」」」」」」」
観客が溜めていた息を吐き出して、大歓声を上げる。
決めた!
これで終わりだ!
ラガンのドリルにより、破片を撒き散らすラゼンガンを見て、誰もがシモンの勝利を確信した。
だが・・・
『ふん、ガンメンなど・・・・・・』
そのあまりにも理不尽な展開だけは予想していなかった。
「えっ・・・・」
「なっ・・・・」
「ウ・・・・」
「ウソ・・・だろ?」
ロージェノムが、ラゼンガンを乗り捨てて・・・・
『所詮こんなものかァァ!!』
紅き螺旋の炎を燃やし、恍惚に歪むロージェノムが、気づいたらラガンのコクピット目掛けて、拳を振りかぶった。
思わず悲鳴を上げるシモンとニア。
歓声をピタリと止めて、唖然とする一同。
ロージェノムが素手でラガンを殴り飛ばし、弾き飛ばしてしまったのだ。
「ッ、あの力・・・・・」
「どうした、ラカン?」
「・・・何か知っておるのか?」
「・・・・そういや、さっきのラゼンガンの技・・・・それに、・・・・あの光の色・・・・・」
「ちょっと、自分だけ納得しないで欲しいわね」
流石のラカンも身を乗り出してしまった。
それはロージェノムの生身の力だけではない。
今のロージェノムの身に纏う螺旋の光の色、そしてこれまで見てきたラゼンガンの技、それは自分が一度見たことがある技だった。
(シモンの野郎が使ってた技じゃねえか・・・・)
シモンと戦ったとき、暴走状態となったシモンが、今画面で映っていたのと同じ技を使っていた。
いや、そもそもガンメンの技を生身で使うというのがおかしな話だ。
よくよく考えれば、シモンが使っていた技は、これまでグレンラガンがどれも使っていた技だ。
それをシモンは生身で使った。
ロージェノムと同じ、光を放ちながら。
「な、・・・なんなんだ・・・・・・・こんな事が・・・・」
ネギもこの光景に唖然とした。
いや、シモンだって生身で戦えるのだから、ロージェノムが戦えてもおかしくない。
しかし、これまでガンメンの戦いばかりを見ていたために、すっかりそのことを失念していた。
そして、それを今思い出した。
シモンも窮地に陥ると、今のロージェノムのように、燃え上がる螺旋の光を身に纏っていた。
「あれが・・・螺旋力・・・魔力でも・・・気でもない力・・・・」
これまで気合と言って誤魔化されてきた、シモンの力。
ここに来て、ネギはようやくその謎に触れた気がした。
「ア、 アカン、シモンさん!? ニアさん!?」
無残に殴り飛ばされるラガン、そしてその衝撃で外へ放り出されたニア。
シモンは慌ててニアを助けようとするが、ロージェノムがそれを許さない。
『グワハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!』
ラガンを容赦なく殴り、投げ、踏みつけ、叩きのめす。
ラガンも殴り返すが、まったくダメージを感じていないロージェノムの拳が、何倍にもなって返ってくる。
『シモン!』
放り出されたニアの叫びが聞こえる。
だが、ロージェノムの勢いは止まらない。見る見るうちに破片を飛び散らせて、ボディに亀裂を入れていくラガンに対し、ロージェノムの生身の拳は回数を増すごとに強くなっているように見える。
そして、ついにロージェノムはラガンと手と手を組み合わせ、組んでいた手に力を込めて、ラガンの両腕までへし折った。
シモンの顔は腫れ、あざだらけのシモンは、そのまま動かなくなってしまった。
「ま、まずい・・・・」
「やべえぞアイツ!」
そして、ラガンが完全に機能を停止した。
完全に、螺旋の力が切れた瞬間だった。
息を呑む観客たちの心の中に、「これまでか?」という思いがめぐっていく。
こんな化け物をどうやって倒せばいいのかと、誰もがあきらめかけた。
だが、その時・・・・
『シモン!! シモンを信じる力がシモンの力になるのなら・・・私はあなたを信じます!!』
過去も未来も、どんな状況でも、彼女だけはシモンを信じていた。
『全力であなたを信じます!!』
迷わず叫ぶニアの声が聞こえた。
この理不尽な絶対的絶望的な状況・・・
誰もがあきらめかけていた・・・
『だから・・・勝って!!』
しかし・・・シモンには彼女の声が届いたはずだ・・・・届かないはずが無い。
「ニアさん・・・・・・」
木乃香が切なそうに自分の胸元をギュッと抑えながら、この最後の場面を見つめていた。
「そっか・・・そうゆうことやったんや・・・・・」
すると、木乃香が何かを悟ったかのように呟いた。
まるで、長い間の疑問がようやく解けたかのような表情で・・・・
「木乃香?」
「お嬢様?」
「うち・・・・今まで・・・ニアさんに勝てないんは、シモンさんと一緒に居る時間やと思っとった・・・・・だって・・・・ウチやってシモンさんを信じとるから・・・・そこに差はあんまりないなんて思っとった・・・・・でも、ようやく分かったえ・・・」
そして彼女はどこまでも切なそうな表情だった。
「どうゆうこと?」
「シモンさんが言っとった。自分を信じてくれって、誰よりも何よりも自分を信じてくれって・・・・・シモンさんの女になりたいんやったら・・・・まずはそうしろって・・・・。今のニアさんを見て・・・その言葉の意味と、ニアさんとウチの決定的な違いが分かったんや」
負けられないと奮い立たされ、時には優しく、時には暖かく。
カミナが死んでから、どれだけのピンチがあっただろうか。
しかしその度に、シモンは乗り越えてきた。
自分を信じ、そしてどこまでも自分を信じてくれたニア。
そんな二人の絆が、ようやく木乃香は理解した。
「時間やない・・・・距離やった・・・・ウチなんかと全然違うんや、・・・二人が積み重ねて乗り越えてきたもんが全部・・・」
かつて自分も、ニアと同じくらいシモンの傍にいれば、自分はニアにも負けないなどと豪語したことがあった。
それがどこまでも浅はかであったのかをようやく理解した。
なぜなら、身勝手な自分の想いとは違う。
「いつでも・・・離れていても・・・心は一番近く・・・・・なるほどね。そこらへんは少し離れた場所からシモンさんを見ていたりしたヨーコさんとは違うわね」
「確かに・・・見えてしまいましたね・・・二人の絆を・・・胸がしめつけられるほど・・・・・」
これが、ニアという少女だ。
ようやく見えた二人の絆に、悔しい反面、納得せざるを得なかった。