魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「ぐっ・・・・・このバカミルフが・・・・・・」
「ぬう・・・・お主もしぶといのう・・・流石じゃ」
「けっ・・・・アンタに今更認められても嬉しかねえんだよ・・・・この・・・デカ物がァ!!」
「オスはデカク生きるのだ!!」
拮抗していたミルフとディーネの戦いに、徐々に流れが見えてきた。
シモンの熱気に当てられて、ガラにも無くミルフも影響を受けた。
槍を振るう力にキレが見られる。
「破軍の刀鎗(アルカイド・グレイブ)!!」
「ぐうッ!? し、しまっ・・・・聖流雲(セイルーン)が!?」
焔を纏ったミルフの槍が、ディーネの武器を破壊した。
己の武器を破壊され、顔を顰めるディーネは舌打ちして、武器を投げ捨て、即座に巨大な蠍の尻尾で応戦する。
「ふん、流石にこの程度で心は折れぬか・・・・じゃが・・・・往生せんかァ!!」
「うっさいんだよォ! テメエみたいに影響受けやすいバカの見識でアタシを量るんじゃねえよ!! 大体私たちが負けるかい! 数じゃあ圧倒的にこっちが有利なんだからね!」
武器を失いながらも、数字上の優位を口にするディーネだが、その言葉にミルフは小さくほくそ笑んだ。
「さて・・・それはどうかのう?」
「あ~?」
「周りをよく見てみるといい」
尾を振るって、容赦なく旧友をなぎ払おうとするディーネの攻撃を防ぎながら、ミルフは呟いた。
その笑みを気に食わず、ディーネがイラつきながら周りを見渡すとそこには・・・
「グレンライトハリケーン・キーーーック!!」
「負けませんわ! 氷神の戦鎚(マレウス・アクイローニス)!!」
紅蓮の炎を纏った風の衝撃と、氷河時代の猛威が甲板を埋め尽くしていく。
「うっひゃ~~~、やるね~~い。魔力は無くなったんじゃなかったの?」
「ふっ、それは以前までの私の話ですわ! 少し歯を食いしばれば、まだまだ放出できますわ! 特訓の成果・・・・今こそ見せて差し上げますわ、美空さん!」
エミリィの挑戦的な言葉に、美空もニヤッと笑ってエミリィの背中に寄りかかった。
「いいね~、決闘の次は狩り勝負? かなり出遅れたけど、追い上げさせてもらうよ!」
「望むところですわ!」
開放された美空が、今まで溜め込んでいた全てを吐き出そうと、竜巻のように敵を吹き飛ばしていく。
その頼もしさと、うれしさに、エミリィだけでなく、全ての者がもう一度立ち上がって、大暴れを始めた。
「私たちも負けてらんないよ、ユエ!!」
「え、ええ・・・わかったです・・・・(美空という方・・・それにシモンさん・・・やはりどこかで・・・)」
「っしゃあ! 帰れ帰れ、田舎もんどもがァ!!」
「おらァ! 軍人なめんなァ!」
「二度と馬鹿な真似するんじゃねえぞォ!!」
「我々をナメるなァ!」
「さあ、いくさね!」
「本物の拳闘士の力を見せてやる!」
「あのクソッタレ野郎にばっかり、目立たせるかよ!!」
変化のなかった戦場に変化が訪れた。
いくら大暴れしても、一向に人数も減らず、見える景色も変わらなかった戦場が、いつの間にか立っている敵の人数が減ってきていた。
敵も、いかに人数が有利であろうと、大した連携も取れていない者達が集まっただけだ。
シモンや瀬田たちを筆頭に大暴れをすれば、いかに50の戦力でも、互角以上に渡り合えたのだ。
そう、陣形が崩れていた。
この状況に流石にディーネも驚愕の表情を浮かべた。
「バ、・・・・バカな!?」
「ふっ、気づいたようじゃのう。いかに歴戦の猛者を引き連れようと・・・・・ひねくれ者達に根性はあるまい。50人全員が確固たる意思を持ち続ければ・・・・十分に対抗できるというわけじゃよ」
「ぐっ・・・・おのれ・・・・・」
「オスティアの近辺にはまだ各国の戦闘艦隊が無数配置されておる。この様子ではもはや、それを打破する力もあるまい。お前たちの負けじゃ・・・・ディーネ」
次々と敗北し、そして立ち上がる気力を無くして武器を下ろす味方たちの姿に歯噛みするディーネ。この時ミルフは、自分たちの安否はまだ分からぬが、少なくとも最悪の事態が免れたことを確信した。
「へっ・・・・たしかに・・・・カス共は負けたが・・・・私は・・・まだ負けてねええ!!」
しかし、見苦しくもディーネは敗北を認めずミルフに飛び掛る。
「ぬう!?」
「ふざけんじゃねえ! たった一人のクソなんざに、状況を変えられてたまるかい!」
ディーネにもこうなった原因は分かっていた。
それはシモンだ。
シモンの魂に感化された者たちが、心震わせて何度でも立ち向かってくるのが原因だった。
そのことをディーネも分かっている。
しかし、認めてたまるかと、攻撃の手を休めなかった。
「・・・気に食わんのか?」
「アン?」
ディーネの様子から、ミルフはその心の内を読み取った。
「認めるのは癪じゃが・・・・シモンと奴の関連性は無いが・・・・・ディーネよ・・・・オヌシも感じたはずじゃ。・・・・どんな困難も突き破った男たちが・・・20年前にもおったではないか」
「ッ!?」
「じゃから・・・・・そんなに気に食わないのか?」
ディーネの表情が、全て図星だと物語っていた。
(・・・・・アリカ・・・・姫・・・・)
それは・・・ただの喧嘩だった。
何てことは無い、二十年前、何もしないで偉そうなことばかり言っている政治家をぶん殴って、罰として頭を冷やすためにオスティアの監獄に入れられていた時だった。
とてもくだらない理由。
反省する気は微塵も無かった。
だが、その時、最悪の事態と時期が重なった。
オスティア崩壊の日。
全ての者が逃げ出し、監獄の中に居たディーネには避難をすることが出来なかった。
こんな緊急事態に、罪を犯したものを救いに来るものなど居るはずがない。
だが・・・・そんな時に・・・・
―――逃げよ! オスティアは間もなく崩壊する! たとえ何者であろうと、この国にある命を散らすことなど妾がさせぬ!
女神が現れた。
救う命を選別することなく、オスティアにある全ての命を救うために、自ら動いた王国の姫君。
ディーネの命を救った者が、昔居た。
「・・・・ふざけんじゃねえってんだよ・・・・クソッタレめが・・・・」
そのことを思い出し、より一層ディーネの奥底に腹立たしさが湧き上がった。
「・・・・じゃあ・・・・テメエの連れてきたアイツはあのクソ野郎と同じ英雄って言いたいのかい? あの・・・姫を・・・・惚れた女も救えないクソ男を重ねて・・・政府の連中の言っていることを鵜呑みにして・・・黙って従って・・・・テメエはあの訳の分からない男に影響されてんのかよ! 冗談じゃないよッ!!」
湧き上がった怒りがディーネを後押しして、向かってくる。
対するミルフは少し寂しそうな表情で、しかし正面からディーネを受け入れる。拳をギュッと握り締め、旧友に向かって振りかぶる。
「そうではない・・・・しかし・・・・気づいたのじゃ。時代は動いておる。いつまでもワシらの尻の拭き残しで・・・宿題を・・・今を生きるものたちに押し付けていいものなのかと・・・・」
「アア?」
「ディーネよ・・・・もう一度出直して来い・・・・そしてその時は・・・・事実ではなく・・・語られなかった・・・姫様の処刑の日の真実を貴様に話そう!」
「ッ!?」
「貴様も歯を食いしばって、目を覚まして来い!!!」
そしてミルフは槍ではなく、その力強い拳で正面からディーネを殴り飛ばしたのだ。
殴られる方も殴る方も痛い、その拳で打ち抜いた。
「ふう・・・・・手間取ったのう・・・・・・・」
実力はほぼ互角。
しかしこの場を制したのは、懸命に自分の正義を押し通そうとしたものだった。
気絶する旧友を見つめ、直ぐに視線をいまだに続く乱戦に向け、ミルフは休憩も挟まず、直ぐに動き出した。
「さて、・・・・次にいくとするかのう!」
「くそ・・・クソ・・・・グゾがァァ・・・・・・・」
「はあ・・・・はあ・・・・やるじゃないか・・・・」
お互い一歩も譲らず向かい合うシモンとチコ☆タン。
チコ☆タンはこの状況に胸の怒りが収まらないで居た。
「クソ・・・クソッ・・・クソガァ・・・・ムカつくぜ・・・ムカつくんだよッ!!」
何度も何度も立ち上がり、自分を信じきった自信に満ち溢れたシモンを見るたびに、チコ☆タンは脳裏に浮かぶ誰かに苛立ちを隠せないで居た。
「クソ・・・ムカつきやがる・・・・その目・・・・似てやがる・・・・あいつ等に・・」
「ん?」
「クソ野郎・・・・」
シモンには分からないことだ。関係のないことだ。
しかしチコ☆タンは脳裏に浮かぶ人物と、目の前に居るシモンを重ねた。
遥か昔に、自分を打ち倒した、思い出すことも癇に障る男と、シモンを重ねてしまった。
(あの男たちと・・・・あの男と同じような目をして・・・・それで・・・・)
―――へへ・・・テメエ強えじゃねえか・・・・流石は魔人ってだけありやがるな。無敵の俺を相手にここまでやるとはな・・・・
「・・・サウザンド・・・・・・」
――テメエはしばらくオスティアの監獄で反省してろ。でも・・・反省して出所したら、また喧嘩しようぜ!
「サウザンドマスター・・・・・・・」
・・・・それが無敵の魔法使いを見た最後だった。
正直監獄の中に捕らえられたチコ☆タンは、外の世界に興味を無くした。
紅き翼や各国の連合、黄昏の姫御子、そして完全なる世界。
牢獄に居るだけで情報が何故か色々と入ってきたが、ほとんど興味も無かった。
サウザンドマスターとの戦いで、深く傷ついた体もあったが、脱獄する気も失せていた。
そんな中、サウザンドマスターが世界の破滅を救い、英雄となったという情報が入った。
薄暗い監獄の奥底まで聞こえるほどの市民の大歓声だ。
祝辞を述べる気にはならない。しかし、自分を倒した者が世界最強というのは、少しだけ心が安らいだ。
だが、救われたはずの世界に崩壊が突然訪れたのだ。
『な・・・なんだァ!? どうなってんだゴラアア!! この揺れは何だァ!?』
――オスティア崩壊
全ての悲劇の始まりだった。
戦争も終わり、ついこの間まで大歓声と平和の喜びの声が監獄の奥底まで聞こえたというのに、再び人々の悲鳴が世界に響き渡った。
『ちっ・・・看守の野郎共も逃げやがって・・・・』
チコ☆タンは強固な監獄の中、四肢を厳重に繋がれ身動きが取れなかった。
騒いでも誰の声も返ってこない。どうやら、看守も全員逃げ出したようだ。
いや、超危険な魔人を檻から解放するなど、どちらにせよありえない話だ。
『クソがァ・・・・ここまでか・・・・・』
死を受け入れた。
あれだけ大暴れをして、非常に短気なチコ☆タンにしてはやけに素直な最後だった。
だが、構わなかった。唯一の心残りといえば、せいぜいサウザンドマスターに雪辱できないことぐらいだった。
彼は小さく舌打ちをして、崩落してくる建物の瓦礫の中、目を瞑り、死を受け入れた。
しかし・・・
『無事か!? 今開放してやる!』
気づかなかった。
自分の囚われた監獄を開け、自分の四肢に巻かれた枷を断ち切り、自分を自由にしようとする女が目の前に現れた。
『テ、テメエは!? ど・・・・・どういうことだコラァ!』
地獄に女神とはこのことかもしれない。
なんと死を目前にした魔人を救うために、一人の女が危険を顧みずに崩壊する監獄の中に現れたのだ。
だが、その女神の行動をチコ☆タンは当然受け入れられなかった。
しかし、女神は厳しい口調で、少し疲弊した表情でチコ☆タンに告げた。
『別にどうもせん・・・ただ頼むだけじゃ・・・・生きよ』
『アア゛?』
『モタモタするでない! 妾は直ぐに行かねばならん! 貴様もさっさと逃げよ!』
彼女はチコ☆タンを自由にし、そして彼ならばこの崩壊する建物の中でも、自由になれば生きられると判断し、直ぐに背を向け走り出した。
『ま・・・・待ちやがれ!!』
その背中をチコ☆タンは思わず止めてしまった。
神々しいオーラを放っていた女かと思いきや、懸命に走り回るその姿は普通の女にしか見えなかった。
『なんじゃ!? 妾はこれより、貧民外に赴かねばならぬ! 貴様とこうして会話をしている間にも、島が崩落してしまうかも知れぬ!』
女はチコ☆タンの言葉に振り返り、焦った表情で聞き返した
それほど状況が切羽詰っているのだ。
それが一瞬で理解できる。
しかし、だからこそ目の前の女がやった事をチコ☆タンは理解できなかった。
『だったら・・・・何故助けた・・・・・罪を犯したクソどもを逃がすぐらいなら、ハナから見捨てたらよかっただろうがァ!!』
するとどうだ?
目の前の女は震えだした。
そしてギリギリと唇をかみ締めながら、その怒りを口から吐き出した。
『バカ者ッ!!!』
『なッ!? バ、バカだと・・・この・・俺に向かってこのクソ女がァァァ!!』
『貴様なぞバカで十分じゃ!! 先ほど助けた流麗もそうであったが・・・・何故そんなことを言う! 捨ててよい命なぞ何も無い! 市民も! 貧民も! 犯罪者も! 魔人も同じじゃ! この国に居る以上、捨てよい命なぞ・・・・選ぶ命なぞ無い!! 全てを救って見せる!』
『ア・・・アア゛?』
『・・・・・頼む・・・生きるのだ・・・これ以上・・・・これ以上、悲しみを増やすな!!』
チコ☆タンは以前一度だけ、遠目からだが、目の前の女を見たことがある。
威厳に満ちて、近寄りがたい空気を醸し出す王家の血筋。その冷たい表情と、人を見下したような目が気に食わないと思ったことがあった。
しかし今目の前に居る女は何だ?
高価なドレスを汚し、その美しい指先は、あかぎれだらけで汚れ、一人でも多くの命を救おうと必死に駆け回り、魔人に「生きろ」と告げるこの女は一体何なんだ?
『お、俺は・・・・この世界を破壊するぞォ! 改心なんざクソ食らえだッ!! 今ブチ殺さなければ後悔すんぞォ!! その時は、テメエは俺を脱獄させた大犯罪者だ! テメエも終わりだ!!』
この女は何だ?
チコ☆タンの皮肉に、小さく笑みを浮かべた。
だが、女は少し俯きながら・・・・
『そうか・・・・じゃが・・・・妾が罰せられるのは・・・・もっと早いかもしれぬがな・・・』
『な、・・・なにィ?』
その表情から読み取れたのは、・・・寂しさ。
だが、直ぐに表情を元に戻し、鋭い瞳でチコ☆タンを射抜いた。
『ふん、問題など無い。・・・その時は・・・・無敵を誇るあのバカが・・・妾の騎士が・・・もう一度貴様を捕らえよう!』
それが生で彼女を見た最後の姿だった。
『さらばじゃ、勇猛なる魔人よ!』
最後に自身に満ちた表情で告げた言葉に、女の強さを垣間見た。
その背中を見送りながらチコ☆タンはギリギリのところで王都の監獄から脱出し、外界へと逃げ出すことができた。
崩落する島々を眺めながら、千塔の都と称えられた、空中王都オスティアの最後を見届けたのだった。