魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第216話 そのことをまだ誰も知らない

『ヒトって、いったい何ですか?』

 

 

普通真顔で聞くか?

思わずシモンと同じように観客は噴出してしまった。

見るからに世間とはかけ離れたお嬢様は、本当に全くと言っていい程何も知らない、典型的な世間知らずのお嬢様そのものだった。

だが、誰もが馬鹿にしたような冷めた目で彼女を見なかった。

それだけの魅力というのか空気というのか、何か人とは違う何かを見た目だけで感じたからだ。

只言えることはとても可愛くて・・・・

 

 

『私はお父様を怒らせてしまいました。私は尋ねたんです。何故私は生まれてきたのかと。その途端お父様は心を閉ざしました』

 

 

やっぱりどこか変わっているというところだ。

画面に映るシモンも大グレン団の面々も反応に困って頭を掻いている。無理も無い、こんな変わった女は誰もが初めてだった。

 

 

「あれが・・・・・ニアさん? なんか・・・・ヨーコさんとは全然違うタイプよね・・・・」

 

「「「「「「「うん」」」」」」」」

 

 

アスナも同じように頭を掻きながら呟いた言葉に全員が同意した。

ニア・・・・それはシモンがこの世で最も愛した女性。どこまでも、誰よりもシモンを信じ、強い意志を持っていた女性だと思っていたのだが実際はどうだ?

 

「うう~~~ん、・・・ニアさんってちょっと天然なんかな~?」

「ん? 木乃香? アンタもいい勝負だと思うわよ?」

「しかし・・・・う~む・・・・現時点ではよく分かりませんね」

 

ある意味もっとも知りたかった人かもしれない。

少なくともシモンに恋をした少女たちにとってはそうだった。未だにシモンが愛を貫くほどの女性はどんな女性だったのかと思えば、ヨーコとは真逆のか弱い少女に見えた。

皆が唸ってニアを見定めようとするが、どうも判断が出来ずに居た。

すると画面に映るダイガンザン・・・改名して大グレンとなった彼らの家が、大きく揺れ始めた。

全員の表情が緊迫した表情になる。それは敵の襲来を意味していた。

皆が慌てて戦闘準備に取り掛かる。

しかしシモンは動かなかった。

今の彼の心は完全に折れたままだったのだから。

それに大グレン団のメンバーも、今のシモンには何も期待していない。彼が何もしようとしなくても構わずにそれぞれのガンメンに乗り込んで、甲板に現れた敵を追い払おう。

と思ったら・・・・

 

『・・・えっ?』

 

シモンが顔を上げた。

なんと最初に飛び出したのは大グレン団のガンメン部隊ではない。部屋から飛び出して甲板を最初に駆け出したのは・・・

 

『ニア?』

 

ニアだった。

敵のガンメンの目前に生身で駆け出すというカミナ並みの自殺行為を彼女はやった。

誰もが慌てて、ただ驚いた。

ようやく目を覚ましたシモンが慌てて駆け出すが、甲板に飛び出したニアは現れたガンメンに対して両手を広げて叫んだ。

 

 

『よしなさい! 螺旋王ロージェノムの第一王女ニアの命令です。下がりなさい。私を誰と心得ますか!!』

 

 

そんなこと・・・・聞いていなかった。

 

「・・・・へっ?」

「い、今・・・なんて言ったん?」

「あの・・・僕の聞き間違いでしょうか?」

「い、いえ・・・わ、私も・・・・その・・・」

 

皆が画面のシモンやヨーコ、大グレン団たちと同じ顔で呆けていた。

今、ニアはなんと言った?

螺旋王の娘?

螺旋王? それはシモンたちを地下へと追いやった獣人たちのボスのことだ。あの、カミナを殺した連中の親玉だ。

その娘がニア?

シモンが最も愛した女性?

 

 

「「「「「「「「「「ええええええええーーーーーーーーーッ!!!???」」」」」」」」」」

 

 

まったく知らなかった衝撃の事実に誰もが呆然とするしかなかったのだ。

だがそれはつまり・・・・

 

 

『お前は螺旋王の娘。つまり俺たちの敵だ』

 

 

当然そういうことになる。

大グレン団がニアを尋問するのは自然流れである。

 

「そ、そうですよ・・・・・・・それじゃあニアさんは・・・・・カミナさんを殺した人たちの・・・・・」

「ど、どうなってのよ・・・・・・何でそんな人をシモンさんは・・・・・」

 

カミナを殺した親玉の娘だ。

 

「おいおい・・・あいつはカミナを殺した親玉の娘か? あんなに可愛いのに?」

「どうなってんだよ・・・・・つうかもう、わけが分かんねえ!!」

「何かあるのよ、この女には!」

 

そうだ・・・・この女には何かがあるのかもしれない。

 

「おい・・・ちょっと静かに・・・・何かしゃべるぞ・・・・」

 

大グレン団総勢数十人でニアをグルリと囲み、緊迫した表情で誰もが固唾を呑んでニアの言葉を待つ。

 

ネギたちも・・・魔法世界の重鎮も・・・いや・・・

 

世界がニアの言葉を待つ。

 

しかし・・・・・

 

 

『テキって何ですか?』

 

 

世界中の視聴者が画面の前で一斉にズッコケた。

 

 

『て、敵ってのはよお! ・・・その・・・・ブッ倒す相手だ!!』

 

 

ヨロヨロとズッコケた連中が立ち上がって画面をもう一度見る。

すると・・・・

 

 

『ブッタオスって何ですか?』

 

 

またズッコケた。

 

『ブッ倒すってのは・・・・こう・・・拳骨で殴ったり・・・』

『ゲンコツって何ですか?』

『拳骨ってのは・・・・よお・・・』

『何故そんなことをするのですか?』

『ム、・・・ムカつくからだ!』

『ムカつくって何ですか?』

 

とにかく・・・やはり只者ではなかった。

ガンメンかっぱらって勇猛に戦う大グレン団たちも、ニアの前に完敗だったのだ。

 

「・・・・・ど、どんな国じゃ? 聞いたことも無い王と王女の名じゃが・・・・アリなのか?」

 

同じ姫として引きつった笑みでテオドラがツッコミを入れた。

会場中も一気に空気が変わり、緊迫かと思った事態は、あまりにもほのぼのとした事態へと変わり、思わず皆が苦笑を漏らした。

中にはニアが可愛いと言っている観客の声も聞こえてきた。

 

「うわ~~~、なんつうか・・・・凄いわね~、ニアさんって・・・・」

「う~む、予想外でござるな。シモン殿はああいう女性が好みなのでござるか?」

「僕も驚きました・・・・とにかくスゴイ人ではあるみたいですね・・・・」

 

思わず苦笑するしかないネギたち。しかしここで皆はまだ気づいていなかった。

形はどうあれ、苦笑とはいえ、カミナの死から重かった空気の中、ようやく皆が笑みを浮かべたのだった。

 

だが・・・、その苦笑も一瞬で変わる。

 

今は誰もがソッとしておくことしか出来ないシモンに向って、ニアは何も知らずに尋ねてしまった。

 

 

『シモン・・・アニキっていったい誰ですか?』

 

 

その話題だけは聞いてはならないと、誰もがまずそうな表情で顔をしかめた。

するとシモンは不貞腐れながら、カミナのことを語り始めた。

 

 

『アニキは、憎しみで戦っていたのとは違う気がする。うまく言えないけど、アニキはどんなに大変な目にあったっていつも笑ってた。俺が戦えたのは、アニキがいたからだ。俺を信じてくれる、アニキがいたからだ』

 

 

カミナを語ろうと思っても直ぐには語りつくせない。

 

 

『ヨーコと会うずっと前・・・ジーハ村からアニキと逃げ出そうとしたとき、穴を掘っていたら地震が起きて閉じ込められた・・・・怖かった・・・俺も父さんや母さんのように、死ぬんだって・・・そう思った・・・でもアニキは違った。笑いながら言った。前に進めって。その声を聞いたら・・・・震えが止まった・・・・そして・・・あきらめずに掘り続けて・・・俺は助かったんだ』

 

 

しかしシモンは語る。

ニアは一言一言を真剣に、一緒に居るヨーコも切なそうにシモンの言葉を聞く。

だがいつしか・・・・

 

 

『アニキが最後まであきらめなかったから、俺は頑張れたんだ』

 

 

それはカミナのことを話すというより、まるでシモンは自分自身を責めているように聞こえてきた。

 

 

『アニキのおかげだよ。いつもそうだったんだ。アニキがいなきゃ俺はなんにもできないんだ』

 

 

誰かが違うと言ってやりたかった。

自身を責めるシモンに違うと言ってあげたかった。だが、誰もが言うことは出来ずに痛々しいシモンの姿に再び目を背けそうになった。

 

 

『だから俺が、アニキのぶんもアニキになって、アニキをやんなきゃいけないんだ』

 

 

ヨーコも何も言わない。

いや、彼女自身も言えないのだ。彼女自身もまだ自分自身で精一杯だったのだ。

だが、そんな中、誰もが違うと言えない中で一人の少女はアッサリとその言葉を言った。

 

 

『それは違います』

 

 

ニアだった。

 

 

『シモンは一人でも私を助けてくれたではないですか。シモンは一人でも大丈夫です。何故そんなにアニキというヒトにこだわるのですか?』

 

 

言ってしまった。

よりにもよって、カミナのことを何も知らないニアが当たり前のことのようにシモンに告げた。

 

 

『いない人を知ることはできません。でもシモンだって、いない人に頼ることはできないはずです』

 

 

まるで他人事のように、しかしそれが真実だからこそ・・・シモンは余計につらかった。

だからこそヨーコが激怒した。

ここまで怒ったヨーコを見たのは初めてだ。

それほど彼女はニアの言葉にガマンならなかったのだ。

カミナのことを何も知らないニアに、シモンの気持ちが分かるはずはないと。

だが、ニアは引かない。

 

 

『アニキさんのことを知らなくてもシモンのことはわかります。シモンは何もできないヒトじゃない。なのに、いつまでもいないヒトにこだわっていては・・・・・』

 

 

誰だってそんなことは分かっている。

ヨーコだって、シモンだって本心では分かっている。

カミナは死んだのだ。もう二度と帰ってこないし、頼ることなど出来ないことは分かっている。

だが、それほど人の心は簡単ではない。

だからこそ、簡単に忘れられるはずはないのだと叫ぶしかなかった。

 

 

「ヨーコさん・・・・」

 

 

初めて見せたヨーコの弱音をネギは切なそうに眺める。

皆同じだ。

結局どちらも間違っているとは言えないのだ。

ニアの言っていることは正しい。

しかしヨーコとシモンの気持ちはどうだ? そんなに簡単に割り切ることが出来たら、誰だって涙を流すことは無い。

そう、それが「人」なのかもしれない。

だが、何も知らなかったニアはこの瞬間いろいろ知った。だからこそもっと知りたいと思ったのだ。

 

 

シモンを、シモンたちを・・・そして人間をもっと知りたいと・・・

 

 

そんな決意の表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして・・・・遠く離れた空の向こうでは、最悪の決着がつこうとしていた。

 

 

「テメエが誰だか聞いてなかったが・・・・・・・まあ、どうでもいい。せいぜいデケー叫び声で死んでくれよなア!!」

 

「うぐっ・・・・ぐっ・・・・・・・」

 

 

誰にもどうすることも出来ないまま、その瞬間は近づいていく。

 

シモンは動けない。

 

シャークティも、美空もココネも立ち上がることが出来ない。

 

瀬田たちも・・・・

 

奴隷長たちも・・・・

 

アリアドネーも・・・・

 

へラスも・・・・

 

メガロメセンブリアも・・・・

 

そして仲間たちも敵の前に追い詰められていく。

 

誰にもどうすることは出来ない。

 

正義の味方も英雄も現れない。

 

そう・・・これが・・・敗北・・・・

 

 

「これで終わりだ!! テメエらの負けだ!!」

 

 

チコ☆タンはシモンに告げるが、シモンは口も動かせず、只悔しそうに顔を歪める。

 

・・・こんなものではない。

 

自分はこの程度ではないと心の中で叫びながら顔を歪ませるが、もうどうしようもない。

 

そう・・・・これが・・・敗北・・・・・だが・・・・

 

 

「ふざけんじゃねえぞ・・・・あの野郎・・・・」

 

 

だが・・・・まだ終わってはいなかった。

 

 

「あのバカ野郎・・・・・・・・何やってやがんだよ・・・・クソッタレが・・・テメエは・・・こんなもんじゃねえだろうが・・・」

 

 

この局面を変えるキッカケをこの男が作った。

 

決して主役になれなかった男が・・・・・

 

英雄にもなれないはずだった男が・・・・

 

地べたを這いずって穴の中に篭った男が・・・・

 

殻を破って穴の外へと飛び出すのである。

 

この男が絶望の中で動き出し、この戦場を大きく変えるのである。

 

 

そのことを、まだ誰も知らなかった。

 


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