魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第214話 地獄と葬式

人知れずに行われる頂上決戦。

魔人も超人も不撓不屈の男たちも魂を削っている。

しかしその中でも最強クラスの力を誇るこの鬼は、周りの熱気とは裏腹に、実にふざけた笑みを浮かべていた。

 

「嵐脚!!」

「鬼の足は~~、鬼脚!!」

 

カマイタチを発生させるほどの高速の蹴り。

しかし、人体の限界まで鍛えた瀬田の蹴りを、ユウサは軽々と交錯させて受け止めた。

 

「ッ!?」

「かっかっかっか、確かに速え~し、威力もある。だが・・・・所詮は人のレベルよ。超人も凡人も、所詮は俺の前では人なのさ」

「くっ、拳銃連弾!!」

「はん、シルバーブレッドも俺には通用しないぜ!」

 

ユウサのレベルは明らかに瀬田がこれまで戦った者の中でも際立っていた。だが、だからこそ後手には回らず自身の鍛え上げた体術をフル活用して攻撃の手を休めない。

だが、効果的な一撃が入ることは無い。

 

「こ、この男・・・・・」

「ひゃっはっはっは! 理解したか? たしかにテメエは強いが、俺には通じねえ! 地獄の果てで地獄を見やがれ!!」

「くっ・・・・なら、スピードで」

 

正面からでは瀬田には分が悪い。

スピードであらゆる角度に移動し、ユウサをかく乱させようとするが・・・

 

「ん~、速いね~・・・・だが・・・・・・・俺の鬼脚から逃れられると思うなよな!!」

「ッ!?」

「ざ~んねん♪ 鬼なだけあって鬼ごっこは得意中の得意なんだよ! そして、それが限界速度のようだな!!」

 

逃れられない。

いや、逃げているつもりは無いのだが、高速で動き回る瀬田をあざ笑うかのようにユウサは追いつく。

そして鬼ごっこの鬼が逃げるものをタッチするのとは違うが、ユウサは鬼の拳を針山に変えて殴りつける。

 

「針山地獄拳!!」

「てっ、鉄壁の――!!」

 

針山のような拳を瀬田は交わせぬと判断して、防御技で辛うじて弾く。しかし相手の攻撃を弾いただけで相手は攻撃をやめたわけではない。

 

「はん、くだらねえ!! そんな防御で何発ガマンできるかな?」

「ぬ、ぬう!?」

 

構うことはなかった。

ユウサは何発弾かれようとも握った拳で鉄の体と化した瀬田の肉体を何度も何度も殴っていく。その休む事無く繰り広げられる拳に、瀬田は反撃どころか、徐々に顔が苦痛に歪んでいく。

 

(ま、まずい・・・・防御がグラついていく・・・なんて重い・・・一発一発が・・・・このままでは・・・紙絵に切り替える必要が・・・・)

 

鉄の硬度を誇る瀬田の防御も、このままではすぐに崩される。瀬田は慌てて防御を切り替えようと、全身の力を抜き、一枚の紙のようにヒラヒラと相手の攻撃を捌こうとする。

しかし・・・・

 

「甘え! 逆巻く地獄の風の前で自由に羽ばたくことも許さねえ! 竜巻地獄!」

 

黒い竜巻だ。

ユウサが鬼の掌から黒い風を渦巻かせて、瀬田の全身を覆わせて、瀬田は逃れるどころか、竜巻に飲み込まれて完全に自由を奪われる。

いや、自由を奪っただけではない。

 

「ううっ!? こ、これは!?」

 

体の自由を完全に奪われた瀬田に防御技をする術は無い。そして竜巻の風の刃が瀬田の皮膚を容赦なく切りつける。

黒い竜巻の中に飛び散っていく瀬田の血痕。彼の白衣は既に真っ赤に染まっている。

 

「ぐ・・ああああッ!?」

「ひゃはははははは!! 真っ赤に染め上がれ!!」

「くっ、ぼ・・・防御が・・・・」

「ふふふふふ、俺をチコちゃんやジャック・ラカン、サウザンドマスターのように無駄な環境破壊する奴等と一緒にするなよな。俺の技の規模は小さいが、その分無駄な破壊もせずに生命のみを苦しめるためだけに特化している」

 

まるでジワジワと苦しめながら切りつける風の刃は瀬田の意識すら断ち切ろうとする。

 

(ま、まずい・・・・このままではッ!?)

 

辛うじて繋がる意識を断たぬ様に瀬田は歯を食いしばる。その表情は、いつものユルい瀬田の表情とはまったく違う。

 

(強い・・・・この男はケタ違いだ)

 

彼自身これまでとは明らかに違う局面だと理解していた。

 

(こうなったら・・・多少のダメージを覚悟して、この竜巻から突破して一撃に掛けるしかない!)

 

竜巻の中で瀬田は外で笑うユウサに狙いを定め、目を光らせる。そして両の足に力を込めて、大地を蹴る。

 

「超速で蹴りだし・・・鉄の高度で突撃する・・・・・」

「ん? 何する気だい?」

「刀砲(トマホーク)!!」

 

硬質化させた体をも激しく皮膚を竜巻で切りつけられるが、瀬田は竜巻を自力で破り血まみれで脱出を成功させた。

それだけではない。

高速の弾丸と化してユウサに突撃しようとする。

しかしユウサは・・・

 

「ほう、食らったら痛そうだな・・・・・だが届かなければ・・・・・意味ね~じゃ~ん♪」

 

ユウサの技にはタメがない。

次から次へと詠唱も何も無く、顔色一つ変えずに様々な地獄を召喚させる。

 

「極寒地獄!!」

「なっ、何ッ!?」

「ひゃはははははは、おつかれちゃ~ん♪」

 

針山と竜巻に続いて今度は極寒だ。

ユウサが一直線に発する地獄の吹雪が、突撃する瀬田を止め、それどころか瀬田の手足は見る見るうちに氷で覆われ、瀬田は一瞬で全身を氷の中に閉じ込められてしまった。

 

「な、なんという・・・・・・・」

「ひゃはははははははは! いいね~、その表情! そんなバカな~って顔して落ち込む表情なんかは最高だぜ!」

 

そして氷の中に閉じ込められて身動きの取れない瀬田にトドメとばかりに・・・

 

「そしてェ! ついでにコイツも、もらっとけッ!!」

 

地獄の吹雪と続いて最後はこれだ。

ユウサは両手の平に黒い魔力の球体をスパークさせ、二つの魔力の集合体を一つに掌握し、一気に解き放つ。

 

 

「電撃地獄玉!!」

 

―――ッ!?

 

 

どうやって防ぐ? いや、防ぐ方法などあるはずが無い。

地獄行きを命じられた人間が刑を逃れる方法が無いように、地獄の刑を瀬田はその身に味わうのだった。

 

「う、うわああああアアアアアアアア!!??」

 

家族は初めて聞いた・・・

 

「パ、パパァーーーーッ!!」

「・・・そ、そんな・・・・ウソだろ・・・おい・・・」

 

ここまで苦痛に叫ぶ瀬田の姿を・・・

いや、そもそも瀬田がここまで圧倒される光景など初めて見た。

そうだ、まるで相手にならなかった。

ふざけてハルカが日常で瀬田を殴り飛ばすことなどがあっても、命をすり減らすような戦場では圧倒的に瀬田のほうがハルカよりも強い。

瀬田は紛れも無く旧世界の一般人では最強クラスの力を誇っている。

それはこの魔法世界での戦いでも証明され、現に彼は名の通った猛者を相手に逞しく勝ち残ってきた。

しかし今はどうだ?

 

(つ・・・・強すぎる・・・・ま、まるで歯が立たない・・・・)

 

これまでの戦いの全てが無に思えるほどの圧倒的な実力差を誇る鬼の前に、瀬田は手も足も出ずに倒れる。

 

「ぐっ、・・・・・か、・・・体が・・・・まいったね・・・これは・・・・お、思うように動かないよ・・・」

 

電撃技で氷が砕け、瀬田は床に受身も取らずに倒れ、切れ掛かった意識の中で必死に、笑う相手を見上げる。

 

(何てことだ・・・・この男・・・・これまで戦った敵の中でも・・・・一番強い・・・しかもケタ外れに・・・・)

 

これまでの過去最強の敵ですら比較対象にならないほどの規格外のレベルを前に瀬田はいつもの余裕も無く、表情が陰るばかりである。

 

 

「ひゃっーはっはっはっは!! どうだどうだ、地獄巡りの旅はよォ!! 生きることの尊さを学べたろォ! まあ、これで判明したな! 不死身だなんだと言われても、テメエも所詮は人間だったか!」

 

 

そんな瀬田の前で、ユウサは結局息一つ乱さずにいつものようにただ笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分かっていた者も・・・分かっていなかった者も・・・・心は同じだった。

大歓声が悲しみに包まれた。

 

まるで葬式だ。

 

いや、表現は間違っていないかもしれない。

 

今、・・・一人の英雄の死を知ったからだ。

 

 

『いいか、シモン忘れるな。お前を信じろ。俺が信じるお前でもない。お前が信じる俺でもない。お前が信じるお前を信じろ』

 

 

シモンだけに告げた最後の言葉。

敵の攻撃からも血まみれの中立ち上がった彼は、最後の合体と咆哮で敵の親玉を打ち倒したのだ。

噴火する火山がより一層熱さを取り戻し、彼らは雄叫びを上げて突き進んだ。

そしてデッカイ自分たちの家を手に入れたのだ。

 

そう・・・彼らは勝ったのだ・・・・・

 

しかし・・・・

 

 

 

『アバヨ・・・・・ダチ公・・・・』

 

 

シモンに・・・ヨーコに・・・大グレン団に・・・・そして彼に魅入られた魔法世界の者たちの心に10倍でっかい穴を空けて、英雄カミナは逝ったのだった。

 

そこから先は本当に葬式のように誰もが俯いていた。

 

誰もが見ていられなかった。

 

気づけば涙を流すものたちは一人や二人だけではない。

 

そして画面に映るシモンの痛々しさに目を背けるものも居たぐらいだ。

 

そして何も言えなかった。

 

 

『そうさ・・・俺がアニキを殺したんだ・・・・』

 

 

否定してやれなかった。

お前の所為ではないと言ってやれなかった。

声が届かないからではない、本当に声が届いても、今のシモンに掛ける言葉など誰もが思いつかなかった。

 

 

『ロシウの神様は何でアニキを助けなかったんだ? あっ、そうか・・・ロシウが祈っている神はガンメンだったな。だったら死ぬわ・・・アニキを殺した相手が・・・神様なんだもんな!』

 

 

仲間に暴言を吐き不貞腐れ・・・・

 

『先手必勝だ! アニキならそうする!』

 

止まる事無く暴走し・・・

 

『うるさい! このぐらいアニキならなんとかしてたさ!』

 

仲間の声も聞かずに一人で走り・・・

 

『怯むな! アニキはこんなことで悲鳴を上げたりはしなかった!』

 

もう居ない男の背中をいつまでも追い続け・・・

 

『アニキなら逃げない!』

 

彼はどんどん堕ちていった・・・

 

 

『アニキなら・・・アニキなら・・・』

 

 

先ほどまで画面に夢中になっていた者たちも声を失いほとんどの者が俯き始めた。

本当に見ていられなかったのだ。

これが本当にあのシモンか?

いや、カミナを失って間もないのだから無理もないのだが、その姿は本当に見るに耐えなかった。

 

「うう・・・・・シモンさん・・・うう・・・」

「木乃香・・・・ねえ、ちょっと休む?」

 

アスナがボロボロと泣く木乃香の肩に手を置いて、木乃香に見ないように諭す。

無理もない。

愛する人のここまでの痛々しい姿は、誰だって目を背けたくなる。

だが、木乃香は首を横に振って、決して画面に映るシモンから目を離さない。

 

「ううん、ウチは絶対に目を逸らさん。最後まで・・・ずっと見続ける・・・・それが今のウチに出来るたった一つのことや・・・・」

 

木乃香だけではない。刹那も・・・・ネギも・・・・茶々丸も・・・彼に影響を受けたものたちは、どれほど見るに耐えない光景も、決して目を背けない。

声も掛けられない。その身を抱きしめることもそばに居ることも敵わない。

だが、それでも彼らは見た。

カミナが死に、裕奈やまき絵たちが泣いて画面から顔を背けようとするが、木乃香たちは見続けた。

 

「リカードよ・・・よいのか? 流石に・・・これ以上放映したらどうなるか・・・・」

 

重い空気へと変わった観客を見下ろしながら、テオドラは心配そうに告げる。

 

「そうだな・・・・・流石に平和の祭典でこれ以上流し続けるのはマズイかもしれねえな・・・・」

 

紅き翼のフィルムと間違えて、どうゆうわけか放映されてしまったシモンの物語。

そのインパクトと興奮が連続して襲う物語に、いつしか時も役目も忘れて誰もが集中していたが、その空気がカミナの死という事実に一変した。

そしてこれ以上この空気を続けることは問題だと、リカードが頷こうとしたその時・・・・

 

 

「待ちな・・・・まだ終わってねえよ。ここまで見たら、最後まで見届けようじゃねえか」

 

 

ラカンがそれを止めた。

 

「ラカン、そうは言うが・・・・こんな空気を世界中に流すわけにはいかねえだろ・・・・・まあ、忘れて熱中しちまった俺も言えねえが・・・・・」

「それでもだ。失態を認めるんなら、最後まで見届けようぜ。それに俺は・・・むしろここからようやく始まるんじゃねえかって思えて来るんだよ」

「・・・・何故だ?」

「勘だ」

 

根拠はなかった。

カミナが死に、今の状態のシモンを見て、何を期待するというのか理解できなかった。

しかし、ラカンは何故かこのままでは終わらないと思った。

それは今のシモンを知っているからだ。

自分が認めて友となったシモンは、ここから何かが起こったはずだと確信した。

そして・・・・その何かが起こり始める。

 

「・・・・ん・・・お、おい・・・」

「えっ?」

 

観客が何かボソボソと騒ぎ出した。

それは画面に映っているシモンが仲間と逸れ、谷底で一つの大きな箱を見つけたのだ。

降り続く雨の中、足元の泥をネチャネチャと踏みながら、シモンはゆっくりと箱へと近づいていく。

箱には窪みがあり、シモンの胸元のコアドリルと共鳴するかのように光った。

シモンはわけも分からず、ただ自然にコアドリルを箱の窪みへと差し込んだ。

そうやると知っていたわけではない。しかし何故か体が自然とそう動いたのだ。

すると箱が開くと同時に白い空気が溢れ出し、靄がかかった。

突然のことに少しうろたえるシモンだが、徐々に靄が晴れていき中の様子が徐々に見えてきた。

そしてその中には・・・・

 

『えっ?』

 

美しい少女が眠っていた。

 

 

「あっ!?」

 

 

ネギが一際でかい声を出して反応した。会場中が一斉に振り向くが気にしない。

 

「ひょっ・・・ひょっとして・・・・」

「まっ、まさか・・・・・」

 

アスナ達もネギに続いて声を出す。

 

「せや・・・・たぶん・・・・ううん・・・絶対に・・・あの人や・・・・この人が・・・・・」

 

箱の中で眠るくるくると巻いた長い髪に、白い肌、手足は細くしなやかで、可愛らしい白いワンピースを身に纏い、・・・・ただ・・・・綺麗だった。

やがて徐々に俯いていた会場中も顔を上げていき、眠る少女の美しさに少し見惚れてしまった。

そんな中、箱の中で眠っている少女がゆっくりと目を覚まし、まだ眠そうな目でシモンを見つめて小さく微笑んだ。

 

 

『ごきげんよう』

 

 

ここから先は・・・ネギたちも知らない物語だ。

ただ、知らなくてもこの少女の名前だけは直ぐに確信した。

 

 

『あなたはどなた?』

 

 

ようやく見ることが出来た。

 

 

『ここは外ですね』

 

 

ようやく声を聞いた。

 

 

『これが雨』

 

 

もう自分たちでは一生会うことができない人。

やがて薄暗い谷底で雨が降り続ける中、その雨がようやく止み、雲の切れ目から光が降り注ぐ。

その光が丁度少女を照らし、その姿、その表情を鮮明に映し出した。

 

 

『私はニア。あなたは?』

 

 

まるで世界で彼女だけに光が当たっているように見えるほど、その子は美しく、誰もが見惚れてしまうほど、ニッコリと微笑んだ。

 

これが希望との出会いだった。

 

カミナを失い、絶望しか無かったシモンの前に現れた希望。

 

 

「この人が・・・・・・ニアさん・・・・シモンさんの・・・ニアさんなんや・・・・・」

 

 

カミナでもない、ヨーコでもない、今まで知りたくても知ることが出来なかったニアという人物を、ようやくネギたちは知ることになる。

 


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