魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第208話 過去と今の伝説進行中

仲間を信じて、リーダーの自分は彼らが開けてくれた道を進むしかないのだと、心に叫び続けてシモンは走った。

だが・・・壁は多く・・・

 

「ブラッディフラッパー!!」

「なっ!?」

「シモンさん!?」

 

 

僅か一歩進むのも困難である。

 

「ほう、よけたかい。少しはやるようだね~人間! だが・・・・」

「ちっ・・・新手かよ!」

 

どこまでも吊り上った笑みを口元に浮かべて、シモンたちの行く手を阻んだのはスゴ腕の賞金稼ぎのディーネだった。

 

「ゴミ蟲共がァ、あんまり私たちの手間を掛けさせんじゃないよ!!」

 

ディーネは太い蠍のような尻尾をクネクネさせ、その後ろには多くの舎弟をつき従えていた。

 

「くっ! 彼女も・・・別格ですね・・・。・・・ならば・・・・」

 

少々焦り気味のシモンに代わってシャークティが冷静にディーネの戦力を分析する。だが、ここで二人揃って足止めを受けている場合ではない。

 

「お、おい・・・・シャークティ・・・・何を・・・・」

 

先ほどの豪徳寺たちの覚悟を見て、シャークティも同じように前へ出ようとした。

だが・・・

 

「断罪の焔(コンデム・ブレイズ)!!」

「なっ!?」

 

突如上空からレーザー光線が降り注ぎ、慌ててディーネはその場から飛び退く。

今の攻撃で、避け切れなかった部下が何名か負傷してしまったようだが、ディーネは目もくれず、一回舌打ちをしただけで、直ぐに上空を見上げて笑みを浮かべた。

 

「くっくっくっく~、ゴミ虫退治もいいが、いい所に来てくれたじゃないかい、ミルフ~!」

「・・・懐かしいのう・・・ディーネ!」

「はん、マンドラまで連れ来て、まるで同窓会だね! あの老いぼれまで居たら勢ぞろいだよ!」

 

上空から現れたのはミルフだ。輝く刃鎗を携えて颯爽と現れた。

着地した瞬間大きな音を響かせて僅かに揺れた。ミルフの登場にディーネの部下たちは少し臆し気味になった。

 

「げげーーッ!? メガロのミルフじゃねえか!」

「や、やべえ!? 気をつけろ頭ァ!」

 

その醸し出す威圧感は以前シモンたちと戦った時よりも迫力を増していた。おそらくは、今の彼こそが、本当の姿なのだろう。

するとミルフはシモンとシャークティたちの前に立ち、顎を上に向けた。

 

「シモンよ! こやつはワシに任せろ! 行け! 敵の大将の首を取ってこい!」

「なっ・・・・何!?」

「このバカ騒ぎは敵の主催者を倒さねば納まりそうもない! そしてヌシはここに何しに来た! 優先順位を考えよ!」

 

豪傑なミルフの背中はとても頼もしかった。

敵であったシモンに対して、何の因果か道を譲る。だが、それでこそ彼も大戦記の英雄の一人と呼ばれているだけのことはあるのかもしれない。

だが、敵はディーネだけではない。

 

 

「クケー、行かすかァ! この大空の狩人、ゲッコ様が相手をしてやる!」

 

「!?」

 

 

一瞬の油断。

思わずミルフの頼もしさに心に隙が出来た途端に、上空から迫る一匹の鳥獣人が翼を広げ、その光る鉤爪でシモンに襲いかかろうとする。

だがそこに、一隻の戦闘機が横から突進し、鳥獣人ゲッコを吹き飛ばし、シモンを守った。

 

 

『ふはははははは! 貴様の相手はこの私だァ!』

 

「なっ・・・・マンドラァ!?」

 

 

現れたのはマンドラだ。

形的にはシモンを守ったのだが、マンドラはシモンを見てもいない。彼はたった今吹き飛ばして苦痛にあえいでいるゲッコを見た。

 

『久しいな、汚らわしいこの私の隊の唯一の汚点よ! 貴様が飛べる空などこの世にはないわァ! その羽切り落としてくれる!』

 

どっちが悪人かは分からない・・・しかし・・・

 

「ぐっ・・・マンドラァ! デケーツラをいつまでもしてんじゃねえ! もう俺はアンタの部下じゃねえ!」

 

甲高く笑うマンドラに対してゲッコも甲高く鳴く。実にやかましい鳥たちの攻防戦が始まった。

 

「お前たち・・・・」

 

次々と現れる敵・・・・

 

「油断したなァ! このジギタリ様が相手をしてやろう! 援護しろティトリ!」

「がってんがってん承ー知ッ♪」

 

この戦場では僅か一瞬でも命取りだ。シモンは咄嗟にブーメランを出し、苦し紛れに向ってきた敵に投げつける。

 

「くっ・・・シモン・ブーメラン!」

「ふん、甘いわァ! ブーメラン・ホームラン!!」

 

現れた獣人が野球のバットのような武器でシモンのブーメランを打ち返し、高速でシモンに跳ね返ってくる。

 

「し、しまっ!?」

「シモンさん!?」

「ぬう、シモン!?」

 

敵の力量を計りそこなった。

まさか打ち返されるとは思わず、回避が間に合わない。

このままではシモン自身にブーメランが突き刺さり大ダメージを免れない。

しかしそう思ったとき、今度は女神様が現れた。

 

 

「風花旋風風牢壁(フランス・カルカル・ウェン ティ・ウェルテンティス)!!」

 

「これは!?」

 

 

シモンにブーメランが直撃するかと思った瞬間、シモンを包み込むように竜巻が発生し、渦巻いた気流がブーメランを弾き飛ばした。

その瞬間竜巻は消え、弾かれたドリルがシモンの目の前に落下した時、美しき戦乙女が舞い降りた。

 

 

「情けないぞ! 貴様を倒すのはこの私だ! こんなもの共に打ち倒されては、貴様に敗れた私の名が地に堕ちる!」

 

「エマァ!!」

 

 

厳しい表情でシモンに叱咤しながら今度はエマが現れた。

このあまりにも魔法世界では豪華すぎる助っ人に、シモンもシャークティも思わず苦笑した。

 

「何をやっている、早く行け! 私にここまでさせたのだ! 私が貴様を監獄に叩き込むまでは死ぬことは許さんぞ!」

「さあ、行け!! 後で事情聴取はたっぷり受けてもらうぞい!」

「いいか? これが最初で最後だぞ? この争いが終わったら、もう見逃しはせんぞ!」

「そうじゃ! 少しでも罪を償いに行け!」

 

シモンたちに背を向けながら言うエマとミルフ。

 

 

「「さあ、行って来い!! この道は譲ってやる!!」」

 

 

しかし声だけで今二人がどんな顔をしているのかが分かった。

 

 

「お前たち・・・・・・ああ・・・・お前らの気持ち、受け取った!」

 

 

きっと今の自分と同じ顔をしているだろう。

何故だか分からないが、零れる笑み。

 

「・・・・行きましょう、シモンさん!」

「ああ! 待ってろよザイツェフゥ!!」

 

あまりにも頼もし過ぎる援軍たちが自分たちの道を開けてくれた。

走りながらシモンは先ほどの頭の中に響いた声について考えた。

 

(違う・・・・見捨ててなんかいない・・・・皆は託してくれたんだ・・・・この道を・・・)

 

そうだ、彼らも初めはどうあれ、今は自分自身の意思で道を開けてくれたのだ。それは見捨てたわけではない、託されたのだ。

 

(それで突き進むことを罪だと言いたければ勝手にしろ! でも・・・・・俺たちは滅びない! この足が・・・前へと進む限り!)

 

そう、ただ進め。今はそれだけでいい。

 

 

「だからテメエが何と言おうと、この道だけは譲れねえ!!」

 

 

少なくとも、己の進む道の果てに自分が来るのを待っている人が居るのなら、とにかく今は進めばいいとシモンは心の中で思った。

そんなシモンとすぐ後ろを駆けるシャークティ。

そして視線変えれば、あちらこちらで響く爆音と戦士たちの雄叫びと血の匂い。

その全てを傍観者として眺めながら、鬼は笑った。

 

「ふっふっふっふ・・・昔の血が滾り始めた。どうにもこうにも止まれそうもねえじゃねえか。ひゃっはっはっはっは! これじゃあ平和も何もあったもんじゃねえ!! ゾクゾクしてきたぜえ」

 

誰もが命を賭けて魂を滾らせる中、只一人この光景をまるで酒の肴にでもするようにユウサは眺めていた。

 

 

「かっかっかっか、平和が平等? 法は平和のための積み重ねの結晶? ひゃはははは何言ってやがる! 法律は役人どもと弱者を救済するためのシステムじゃねえか! 不平等だ! 強い奴等はどこにいけばいい! 弱くても、強くなれば勝ち残る! 平等じゃねえか! これを違法と呼ぶのなら、違法の中にこそ幸福は眠る! 見ろよ、荒ぶる豪傑たちのイキイキとしたこの姿! この胸の高鳴りを! 俺たちは笑って生きられる! 笑えねえ世界と人生に何の意味がある! ひゃはははははは、無気力なカス共が増える世界に刺激をもたらす、覇気に満ちた世界の幕開けだ!」 

 

 

彼に敵は居ない。

味方も居ない。

チコ☆タンは演説で大層な理由を掲げていたが、別にここに居る祭りの参加者たちは何も特別な理由があってこの場に集ったわけでない。

特に明確な理由はないが、派手なことをして今まで溜まった鬱憤を晴らしたい。せいぜいそんなところだろう。

彼もその内の一人だ。しかし彼は何かが違った。

祭りの持つ魔力に当てられてバカをやるために、ここに集まった連中に比べて、彼だけは素のままに見えた。

 

 

「ヒャハハハハ! そう、無法が俺たちの法律だ!!」

 

 

素のままで狂っているように見えた。

そんな彼もとうとう動き出す。

その目に誰を標的に決めたかは分からない。しかし歪んだ笑いが、とうとう戦場に広がる。

その時は、この激闘がさらなる大混乱を巻き起こすことになる。

 

 

 

魔法世界の歴史を左右させるかもしれないこの日は、あらゆる場所で人々がその局面に関わっていた。

 

 

 

変えようとする者たち。

 

 

抗おうとする者たち。

 

 

そして、偶然見物者として関わってしまった者たちだ。

 

 

彼らは次々と変わる場面やまったく知らない世界の映像に心奪われていた。

 

 

戦う! 飛ぶ!走る! 撃て!突き破れ!

 

 

見たこともない世界の物語だ。

 

 

薄暗い地下の天井が突如崩れ、そこから顔が体で体が顔の巨大な兵器が出現して暴れだしたかと思えば、

 

 

 

『下がってなさい、あなたたち!!』

 

 

 

プロポーション抜群で、その体つきとは裏腹に、未だに少女のあどけなさが残っている女がライフル片手に登場し、

 

 

『これかシモン? お前が見せたかったものは、いい面構えじゃねえか!』

 

『これもガンメンなのかしら?』

 

 

瓦礫に埋もれながらも目を閉じて、眠っているかのような金属製の物体をシモンとカミナ、現れたヨーコという名の女が取り囲み、これを使えば現れた巨大な兵器を倒せるのではないかとシモンが言うと、カミナが少し顎に手を置いて考えた後、シモンに向って「お前がやれ!」と言い放った。

言われた少年シモンは直ぐに情けない顔をして首を横に振る。

「無理だ」「自分なんかに出来るわけがない」「俺なんかじゃ・・・」臆病者が服を着て歩いているかのような弱弱しい表情で少年シモンは恐怖のあまりに小刻みに震えた。

だが、それでもカミナはシモンにやれと命じた。

そしてカミナは震えるシモンの肩に手を置いて、言い放つ。

 

 

『いいか、シモン! 自分を信じるな! 俺を信じろ! お前を信じる俺を信じろ!』

 

 

その言葉に隣で聞いていたヨーコは呆れ顔をしている。意味も分からず観客も目が点になっている。

しかし画面に映るシモンは違った。

彼は自問している。自分を信じることは出来ない。だが、カミナは信じられないのか?

 

・・・・違う。

 

彼はカミナを信じられた。

彼のアニキはそれだけの男だったからだ。その時、震えながらもシモンは小さく頷いて決意した。

ガンメンのコクピットのような場所に入り、自分の首から下げた点滅しているコアドリルを突き刺して、激しい光を放ちながらガンメンは飛び立った。

 

『動いた・・・・・』

 

そこから物語はどんどん加速していく。

 

『はっーはっはっは! ちっとは驚えたか、ガンメン野郎! 貴様の横暴は天が許しても、このラガン様が許さねえ! さあ、あのデカ面に叩き込んでやろうぜ! 俺たちのグレン団のドリルを! 行け、シモン! お前のドリルで天を突けッ!!!!』

 

小型ガンメンをカミナが勝手にラガンと命名し、シモンと共に雄叫びを上げて巨大なガンメンに向って突き進む。その時、光り輝くラガンが変形し両手と頭にドリルが現れた。

それを見て、観客が息を呑んだ。

 

あれはドリルだ!

 

そんな当たり前のことを、皆が思ってしまった。

シモンとカミナ、二人の熱気と気合が光り輝くドリルを回転させ、全ての熱き想いが渦巻いて、彼らは巨大なガンメンを開いた天井へ押し上げていく。

その向こうに見えるのは夕焼けの広がる空。

シモンはその空に本当に風穴を開けるかのごとく、勢いよくガンメンを突き破り天に向って突き進んだ。

その時、初めてシモンは日の光を感じた。

冷静になって周りを見渡すと、壁も天井も見当たらないどこまでも続く広大な世界が広がっていた。

それが、彼らが始めて地上へ出た瞬間だ。

 

美しい・・・・

 

ただその一言に尽きた。

その光景には地上と空と夕日に見慣れている魔法世界の住人たちでも心に残るような美しさに感じた。

 

「す・・・・・・すごい・・・・・」

 

画面に映る世界に見入って沈黙していた観客の中で、ネギが目を輝かせて呟いた。

その一言が口切りとなり、他の観客やアスナ達もざわつき始めた。

ネギや彼女たちにとっては、シモンに口で簡単に説明されていた程度のガンメン、地下の世界、昔は臆病者だったと言われて半信半疑だったシモンの少年時代、学園祭で見たグレンラガンのラガン、カミナや自分たちと同じぐらいの年齢のヨーコなど、どれもが新鮮さ全快の物語だった。

そして彼女たちだけではない・・・・

 

「すげ~・・・・」

「ああ・・・すげ~な・・・・」

「うん・・・・すごい・・・・」

 

断じて語彙力が乏しいわけではない。

しかしカミナとシモンとヨーコとラガンの息もつかせぬ大アクションを見て、まず最初にそれぐらいしか言うことが出来なかったのだ。

それは観客たちだけではない。VIP席で眺めている魔法世界の重鎮たちも同じである。

薄暗い世界で穴を掘り続けた男が天井を突き破った一連の光景は、時間や状況を忘れて惹きつけられた。

 


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