魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「う・・・・うん・・・・ふわあ・・・・・・朝?」
目を覚ませば、天井が目に入った。
寝返りを打って自分が初めてベッドにいることに気づいた。無理もない、ここずっとまともな寝方を彼はしていなかった。
「僕は昨日ラカンさんと戦って・・・・・う~ん・・・・それで・・・・」
眠い目を擦りながら、ネギは上半身を起こし、ボーっとする頭を覚まそうと、現状認識をしようとする。
「そうだ・・・・結局ラカンさんと殴り合いで・・・色々成功したけどあの人は強くって・・・・って!? そうだァ!!」
寝ぼけ面が一気に目を覚ました。
無理に起き上がるが、体は思ったより疲労を感じない。
それもそうだ、試合が終わった後に木乃香や、オスティアの上級治癒魔道士に治療してもらったのだ。一晩もグッスリ寝れば完治する。
問題なのは、あまりにもスッキリ過ぎて、今までのことが全て夢だったのではと疑問に感じた。無理もない、あのラカンとガチンコバトルを繰り広げたのだ。それでいてこれほどスッキリとした体調など、疑わずにはいられない。
ネギは慌てて部屋の外へ飛び出した。
すると・・・・
「おはよう、ネギ!!」
「ネギく~ん!!」
「ネギ先生!」
部屋の前でパァッとうれしそうな笑顔を全快にして、アスナを始めとするクラスメートたちがネギを出迎えた。
ネギは思わず呆けた顔で固まるが、クラスメートたちは問答無用でネギを撫で回した。
「すごかったよ、ネギ君! 昨日はマジで惚れちゃいそうだったよ~♪」
「あの人ってすっごい強い人だったんでしょ? それを引き分けなんてすごいよ~!」
「ほんまや~! ゆーなや、まき絵の言う通りや~、見てみいネギ君。今朝の朝刊は、ネギ君とラカンさんで埋めつくされてるえ~♪」
木乃香がまるで自分の事のように自慢げに、呆けるネギにオスティアの朝刊を見せた。
ネギが慌てて、その新聞に目を凝らすと、そこにはこう書いてあった。
『伝説復活! 拳闘大会史上最強決定戦! ナギVSラカン DRAW!!!!』
二人の男が殴り合いをしているシーンをデカデカと載せた朝刊だった。
「そうですか・・・・夢じゃなかった・・・僕は・・・引き分けたんだ・・・ラカンさんと」
自然と肩の力が一気に抜けてヘナヘナとネギは力なく腰をついた。アスナ達もその気持ちが分かったのか、ハニカミながら一人一人ネギの頭を撫でていく。
「しっかし、小太郎君はネギ先生と違って、あんまり載ってないね~」
「むっ、何言うとるんや夏美姉ちゃん。俺は別にそんなんに興味ないわ。昨日は確かにネギがすごかったからな~。せやけど、ネギ! 俺はお前のライバルなんやからな!」
「ま~、二人ともすごかったよね~」
「はい、ネギせんせ~も小太郎君もすごかったです。私感動して泣いちゃいました」
伝説の一戦の余韻にオスティアは浸っていた。
自分たちは、全世界が注目する中で行われた世紀の一戦の証人なのだと、恐らく未来まで語り継がれる戦いを語り継ぐ存在なのだと、うかれていた。
そしてその伝説の片割れでもあるネギ・スプリングフィールドも同じ心地だった。
―――お前は今日から「一人前だ」誇れ! 胸を張れ!
その言葉を思い出すだけでも、胸が満たされた。
「ネギ先生、本当に強くなられた」
「うむ、もう拙者らは大分離されたかもしれんな~」
「う~む、師匠としての威厳が保てないアル」
そう、誰からの目で見ても昨晩行われた戦いはそれほどの評価だったのだ。だからこそネギも清々しい表情へと変わった。
自分はようやく扉を開けたと、自分で自分を認めることが出来た。
「でもよ~、結局引き分けだよな~? そうなると決勝はどうなるんだ?」
しかし余韻に浸って間もない頃、千雨の一言に皆が固まって千雨に注目した。
「えっ・・いや・・・そんな顔すんなよ・・・素朴な疑問じゃねえか。少なくとも大河内に和泉に村上を奴隷から解放するにはとりあえず優勝だろ?」
「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」
そのあまりにも空気が読めない一言が白き翼の面々を暗くさせた。
「あれ・・・・でも・・・ねえ? 本当にどうなるの?」
「たしかに・・・・ネギ先生は勝ったわけではありませんが・・・・」
「え~、それやったら、アスナ~、せっちゃん、ネギ君はもう一度ラカンさんと戦って白黒付けるゆう展開になるん?」
木乃香ののほほんとした言葉だが、洒落になっていなかった。
もう一度・・・・
ラカンと?
その無きにしも非ずな可能性を予想しただけでも、ネギはダラダラと汗が流れた。昨夜に一人前に認められたというのに、今ではか弱い子供そのものだった。
しかし・・・・
「その必要はねーよ」
朝も早くから豪快なラカンの声が響き渡る。
「ラカンさん!」
「いよォ♪ 怪我も問題なさそうで元気そうじゃねえか。嬢ちゃんたちも、ハラハラだったな!」
予め言っておこう。ネギと違ってラカンはまともな治療を受けていない。
ネギとの何時間もの死闘の末、ネギが最高クラスの治療を受けていたのに対して、彼は自力で闘技場を後にした。
そして現在は腹の部分に包帯を巻いているだけで、ピンピンしている。
何度思ったか分からないが、やはり改めて規格外なのだとアスナ達は笑みを引きつらせていた。
「お早うございますラカンさん。それで・・・さっきのはどういう意味です?」
「あん? どーもこーもねーよ、言っただろ? お前はもう一人前、俺から教えることは何もねえ、所謂弟子卒業だ! 本当はシモンの野郎と戦いたいところだったが、今回は弟子の成長を見抜けなかった俺様の負けってことよ!」
ラカンがケラケラと笑いながら言う言葉に、ネギたちはしばらく呆然としていたが、ようやくその意味が分かりだし、徐々に顔に笑顔が浮かび上がって来る。
「そ・・・それじゃあ・・・ラカンさん・・・・」
ネギが恐る恐る尋ねると、ラカンはニッと笑って頷いた。
「おお! 俺は辞退する! 決勝進出はお前だぜ、ネギ!」
その瞬間、アスナ達も花が咲いたような明るい笑顔を浮かべ、全員ネギに飛びついた。
「「「「「「「やったアアアァ!!!!」」」」」」」
それはまるで優勝をしたかのような喜びだった。
無理もないといえば無理もないが、気づけばアスナ達だけでなく、裕奈や亜子達も全員交えての歓喜が朝っぱらからオスティアに響き渡った。
そう、まだ決勝戦が残っている。
しかし彼女たちもネギ本人も、ラカンという壁がいかに強大だったのかを誰もが理解しているために、この騒ぎようは仕方の無いことでもあった。
しかし・・・・
「まったくも~、ネギがこんなにがんばったんだから、シモンさんだって何か言いに来てくれたっていいのにね~」
ネギの頭をクシャクシャと撫でながらアスナが何気なく言った言葉・・・・
だが・・・・
「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」
その言葉に全員がピタリと止まった。
「あん?」
ラカンが首を傾げる。
そう・・・・彼女たちはスッカリ忘れていた。
ラカンばかりを考えてスッカリ失念していた。
「「「「「「「忘れてたアアァァーーーーッ!!??」」」」」」
シモンと戦うことをすっかり忘れていた。
その瞬間、さっきまでの大騒ぎが一変してネギたちは神妙な顔で顎に手を置いて唸り始めた。
「そうだった・・・シモンさんに待っていてくださいってお願いしたんだった・・・・」
「うわ~、そっか~、そうだよね~、シモンさんがいたわ」
「う~ん・・・・複雑やな~」
「しかし・・・やはりシモンさんとも本気で戦うのでしょうか?」
「刹那よ・・・それは野暮でござるよ」
「楓の言うとおりアル。二人は真剣勝負アル!」
気づいてしまったもう一つの脅威にネギパーティたちは「う~ん」と唸りだした。
「ねえねえ、小太郎君。シモンさんってそんなに強いの? ラカンさんの方がどう考えてもすごいと思うけど・・・・」
「なんや、夏美姉ちゃんたちは知らんのか? まっ・・・・たまによく分からん時もあるけど・・・・やっぱ・・・・強いで」
「ええ~!? そうなん? せっかくラカンさんに勝ったのに・・・・」
「たしかにシモンさんは学園祭ですごかったが・・・・」
ネギたちの様子や小太郎の言葉で亜子やアキラも徐々に顔を暗くする。
「そう言えば、格闘大会でネギ君をボコボコにしたしね~」
「あ~、私も覚えてる!」
言われて裕奈やまき絵もシモンのことを思い出していく。
学園祭での大立ち回り。
あれが全てCGではなく、本物なのだとしたら・・・・・
そう思うと徐々に不安が広がっていた。
「ネギ先生・・・・その・・・シモンさんってどのくらい強いんですか?」
亜子が悩んでいるネギに尋ねると、ネギだけではなくアスナも刹那も木乃香も、シモンを知るものたちは同時に頷いた。
「「「「「「「天を突き破るぐらい」」」」」」」」
「・・・・・・・・・はっ?」
言葉の意味は分からないが、シモンを表現するならこれぐらいしか思いつかなかった。そしてそれこそ正しい答えなのである。
ラカンと違ってシモンの明確な武勇伝を知らない亜子達だが、ネギたちの表現だけで、シモンも別世界のレベルの人物なのだと確信した。
「だがよ~、思ったんだが、昨日の先生の力を見る限りそこまで慌てるものでもないんじゃねえか?」
「えっ? 千雨さん?」
その時、白き翼でもっとも冷静な判断が出来る千雨が少し考えながら呟いた。
「いや・・・私もよくは知らないけど、あの熱血野郎は戦うたびにいつもボロボロじゃねえか。それにあいつが強いってのは知ってるけど・・・・単純なガチンコバトルはラカンのおっさんほどじゃないんじゃないか?」
言われてしまえばそうである。
シモンはいつもボロボロだった。
強敵と戦う時に負けはしないもののいつだってボロボロの勝利を勝ち取ってきた。
そう、やること成すことが規格外な男ではあるが、ラカンのように理論も法則もよくわからない、人間核兵器に比べるとよっぽど現実的に・・・・・
「でも・・・・シモンさんも理論も法則も無視した人間ドリルですから・・・・・・」
現実的でもなかった。
その言葉にアスナ達も「うんうん」としみじみ頷いた。
「「「「「「「「う~~~ん・・・・シモンさんか~~~」」」」」」」
ラカンのように桁外れに強いわけでもない。
しかし何だかんだでいつだって想像を超えたことをやり遂げるシモン。
全員が本日行われる決勝戦の展開を予想できない中、ラカンがニヤニヤと意地悪そうな顔を浮かべて、腹に巻かれた包帯を解いていく。
「そうか・・・それじゃあ俺から有力な情報をくれてやる♪」
全員が首を一斉にラカンへ向けると、解いていく包帯の下からラカンの強靭な腹筋に残っている痛々しい傷跡を見た。
初めて見た亜子たちは少々引き気味で、ラカンの傷跡を見て息を呑む。しかしアスナ達はそれほどの反応ではなかった。
「そこ・・・ネギが昨日やったところでしょ?」
「ああ・・・・元々あった傷跡の上からぼーずに腹をやられてよ~。おかげで傷が開いちまった」
アスナが痛々しい傷跡を指差して尋ね、木乃香も刹那の肩越しから恐る恐る覗いて、少し青ざめた。
「うわ~、・・・痛そ~」
「そうですね・・・しかしネギ先生がつける前からあった傷ということは、それも大戦の時の傷跡ですか?」
刹那もその傷跡を少し興味深そうに眺めるが、そこで少し妙なことに気づいた。
「あれ? ラカンさん・・・・ラカンさんが見せてくれた大戦記の記録映像で・・・・ラカンさん、腹部に傷がありましたっけ?」
そう、そこで皆が気づいた。
魔法世界全土を巻き込んでの命懸けの大決戦。サウザンドマスターと共に、あらゆる死地を乗り越えた英雄たちに傷跡がないはずはない。
しかし、映像で見たラカンの腹部には、このようなデカイ傷跡は無かった。
「そういえば・・・・僕も昔の古傷だと思ったんですけど・・・・・ラカンさん、そのお腹の傷は誰に?」
ラカンに未だにドテッ腹に残る傷跡は、貫通した穴は塞いでいるものの、傷跡は痛々しく残っている。
てっきり大戦期の傷跡だと思っていただけに素朴な疑問が生まれた。
しかし、ネギは聞かなければよかった。
アスナ達も聞かなければよかった。
ラカンを突破したことに大喜びをしていた彼女たちにこの事を教えるのは酷な話だった。
「この傷が付いたのは、約一ヶ月ほど前だ」
「えっ・・・・一ヶ月って!? それじゃあ僕がラカンさんと会ったとき辺り・・・・えっ? それって最近出来た傷なんですか!?」
驚いているのはネギだけではない。
無敵のラカンのドテッ腹にここまでの巨大な傷跡を残せる人物が、この世界に居たのか?
だが・・・・居たのだ。
「ああ・・・・一ヶ月前にシモンと戦ってやられた穴だ♪」
「「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・へっ?」」」」」」」」」」」
今度は全員揃って同じアホのような顔で固まった。
「いや~、今思い出しても中々の喧嘩だったぜ~。この俺様がまさかドリルで穴あきにされるとはよ~。ナギ以外の野郎に負けるとは思わなかったぜ♪」
ちょっと意外なエピソード。
よくよく考えればネギたちがシモンと再会した時、既にラカンとシモンは既に顔見知りだった。
そしてよく見てみると、ラカンの傷跡も剣や魔法で傷つけられたというよりも、削りとられたかのような形をしている。
そう、シモンとラカンは戦ったのだ。
そしてシモンはその魂でラカンを突き破ったのだ。
「「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」」
そっか~、流石シモンさん♪
「「「「「「「「「「「はっ、はあああああああッ!!??」」」」」」」」」」」
・・・・・・・・・・というわけにはいかなかった・・・・・・
ようやく死に物狂いで立ちはだかる壁に風穴を開けて通り抜けたと思ったら・・・・・
壁の向こうには更に厚い壁が待っていたとさ♪
あまりにも救いの無い酷な真実に、誰も何の言葉も出なかったのだった。
全世界のネギとラカンファンの皆様申し訳ない。二人の戦いは省くぞ? 気になる人は原作読め!