魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
まるで修学旅行のように恋バナに盛り上がる少女たちとは打って変わって、こちらの男湯では少し真面目な話が展開されていた。
「アリカ姫?」
「はい」
少し複雑な表情でネギはその名を口にする。
「どこかで聞いたような・・・」
「ほらシモン君、さっきクマのメイドさんが言っていたじゃないか」
「ああ・・・・そういえば・・・言っていたような・・・・」
ネギが口にした名を瀬田に言われて、ようやく少しだけ思い出したシモン。
しかし瀬田は少しばつの悪そうな顔で警告する。
「でもねシモン君、それに・・・ネギ君だったかな?」
「えっ? は・・・はい・・・」
「その名前はあまり無闇に口にしないほうがいいよ」
「えっ!?」
瀬田の言葉にネギは思わず湯船から立ち上がってしまった。
「ど、どういうことですか!?」
「う~ん、実はオスティアで少し調査していた時に知ったんだけど、その人を快く思っていない人もいるらしいよ」
「えっ・・・・え?」
戸惑い、明らかに動揺するネギ。予想をしていなかった事態なのか、その戸惑い振りは、尋常ではなかった。
しかし・・・
「うん、聞いた話によると――」
「おっと、それまでだ」
「ん?」
「ラカンさん!?」
瀬田が語りだす前に、ラカンが口を挟んで邪魔をした。
「真実を語るには、半人前の小僧には早すぎるぜ!」
「どういうことですか!? まだ何かあるんですか!? その・・・ラカンさんの映像記録に出てきたアリカ姫・・・あの人は・・・あの人はやはり・・・僕の・・・」
「だーかーら、半人前の小僧が何でもかんでも知れると思うなっつーの。知りたいことがあったら、教えてもらわないで冒険王みたいに自力で知るんだな。ある意味それでこそ一人前よ!」
「僕は未熟でも男です!!」
「あ~ん? まだオ・ト・ナの漢じゃねえだろ~が!」
ネギはむ~っと頬を膨らませながらラカンにせがむが、ラカンは子供のわがままだと、まるで相手にしなかった。
「それにしても、急にどうしたんだ? 何かあったのか?」
「あっ・・・それは・・・その・・・実は・・・実はラカンさんからお父さんのこと・・・・そして二十年前の大戦の話しを教えてもらいました。その中に・・・その中に一人だけ気になる人が居て・・・」
「それが・・・・そのお姫様か?」
ネギはシュンとなりながら頷いた。
その表情は、まるで親とはぐれて迷子になっている子供そのもののように見えた。
そのアリカという人物に、ネギが何を気にして、ラカンが何を隠しているかはシモンにも瀬田にも読み取ることは出来ないが、少なくともどうすればいいのかは示すことは出来た。
「だったら・・・早いところ、一人前になることだな」
「うんうん、シモン君の言うとおりだね。一人前の漢になることだよ」
半人前でダメなら一人前になる。
実に簡単なことだった。
「そ、それはそうですけど・・・・じゃあ、ラカンさん。どうすれば一人前に認めてもらえますか?」
「ん? そーだな・・・・まあ、拳闘大会で優勝すれば、一人前だと認めてやるよ
するとラカンは大して考えもせず条件を提示した。
「ほ、本当ですね!?」
その言葉に目の色を変えて確認するネギ。
すると小太郎とカモもネギに駆け寄った。
「やったな、ネギ! しかしそーなるとや・・・・一番厄介なんは・・・・」
「ああ・・・・・・・旦那~・・・・どうにかならねえかい?」
カモが少し情けない言葉でシモンに訴えかける。
そう優勝・・・・そうなると最大の難関は、今目の前に居る男だった。
「ネギ・・・言っておくけど漢なら・・・」
するとシモンの言葉に間髪要れずにネギが頷いた。
「はい! 必ず通して見せます! 立ちはだかる壁がシモンさんでも!」
どうやらそれに異論はまったくないようだ。
むしろ望むところだという表情で、ネギはシモンにギラついた目を見せた。
それに男として、そして大人として、何だか子供の頼もしさを感じる親や兄弟のような心境を感じ、シモンもニッと笑って頷いたのだった。
「ほう、随分と盛り上がってるじゃね~か。・・・・そういや、お前らは戦ったことあるのか?
何気なく、少し気になったラカンが尋ねるが、シモンは覚えていない。だからこそ、自然と目はネギへと移った。
「どうなんだ?」
「はい、戦ったことありますよ。学園祭の時に二回ほど。結果だけで言えば一勝一敗です」
「ほう! シモンに一勝か! そいつはやるじゃねえか!」
ネギの言葉に、ラカンは「へえ」と興味深そうにした。しかしネギは慌てて両手をバタバタさせた。
「あっ、でも違います! 僕が勝ったといっても、武道大会でドリル無しのルールでシモンさんが咄嗟にドリルを使っちゃって、反則負けになっただけで、実際僕はシモンさんには負けっぱなしです!!」
「なんだ、ドリル無しかよ。そいつは、つまらねえな」
急にブーブーと唇を突き出して文句を言うラカン。その様子はとてもではないが、伝説の戦士になど見えなかった。
「ったく~、それじゃあ優勝は超難関だな~」
「うっ・・・で、でも・・・・僕は・・・引き下がりません!」
「ああ、そうじゃねえよ。実はさっき拳闘大会の組み合わせ表が発表されたんだが、シモンとお前は順当に勝ちあがれば、決勝で当たることになっている」
「うっ・・・決勝・・・・」
ラカンの言葉にネギはグッと息を飲み込んだ。
そう、決勝戦でシモンと当たるということは、まるで学園祭での麻帆良武道大会の再現のような気がした。
自然と胸も高鳴り、握った拳に力も入る。
気づけば笑みが零れていた。
「へへ・・・今度はネギだけやないで~。俺もいるんやからな」
小太郎も好戦的な目でニヤリと笑った。
シモンも二人の少年の挑戦的な表情に、自身も闘争心が刺激され、笑みを浮かべながら頷いた。
しかし・・・・彼らの笑みはこの男の一言で一瞬で消え去るのだった。
「ちなみにボーズは準決勝で俺と当たるがな♪」
「はい・・・・・・・・・・へっ?」
普通に耳を疑ってしまった。
「「「「へっ?」」」」
ネギだけでなく全員だった。
「あ、・・・あの~ラカンさん? 今・・・僕が準決勝でラカンさんと戦うとかどうとか・・・・」
「は・・・はは・・・俺耳が悪くなったんやろか?」
「はっはっはっ、ラカンのおっさんも冗談がきついぜ~」
三人は汗をダラダラと掻きながら、引きつった笑みで自身の耳がおかしくなったのではと感じて耳の穴に指を入れて確認していた。
しかし・・・
「ラ・・・ラカン?」
「ふふん、実はよ~、おもしろそうだから俺もエントリーしちまったんだよ♪」
「「「「・・・・・・・・・・」」」」
「だからよ~、ボーズに勝ったらシモンとは決勝で当たるかもな♪」
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
この後どれほどデカイ驚愕の叫び声が聞こえたかは・・・・この場に居たものにしか分からなかったのだった。
そしてその直ぐ後・・・・・さっそく緊急作戦会議が行われた・・・・・
そこで彼等は己の心に問うた。
合言葉は何だ?
いきなりそう言われても分からないだろう。
だが、こう言われればすぐに分かる。
「無理を通して道理を・・・・」
そうグレン団の合言葉は!
これだけで何も疑わずに突き進めた言葉!
しかし・・・・
「「蹴っ飛ばせねえええええええええええ!!?」」
今回はいつもより状況が困難だった。
「あのおっさん、なんてことを~~~~!!」
「ぬわああああ、ただでさえフェイトとか悪の組織でメンドクサイってのによ~~~!!」
「お、落ち着いてよ、カモ君に千雨さん・・・・」
「落ち着けるかよこのバカがァ! いいか? ただでさえ、学園祭ではボコボコにやられたドリル有りの熱血野郎と戦わなきゃいけないってのに、その前にあのおっさんと戦うんだろうが!! 優勝なんて、グレンラガン使ったって100パーセント無理だ!!」
風呂上りで早速だが、白き翼参謀メンバーの千雨とカモは、頭を抱えて突如入った問題に唸り悩んでいた。
「あ、・・・あの・・・100パーセント無理でしょうか?」
「当ったり前だ!! くそ~~、何が優勝は楽勝だ♪ だよ、あのおっさん! 自分でハードルメチャクチャ上げてんじゃねえかよ!!」
「だな・・・シモンの旦那はこのさい置いといて、準決勝で当たるラカンの旦那だけでも無理くせえ。ちょいと調べただけでも、大戦期に沈めた艦の数や、鬼神兵を倒した数やら、はたまたは神クラスの化物との決闘やら、歩く伝説帳だぜ」
「は~~~・・・・こら~夏美姉ちゃんたちはあきらめるしかないか?」
「あきらめんなと言いたいが、この際言うなァ! しかし・・・どうすりゃいい!!」
「う~ん」
しかし参謀メンバーといっても、その正体は頭の回転が速いわけではない。只単純にパーティーの中でもっとも冷静に現実的な判断が出来るというだけである。
だが、だからこそこの困難のレベルを理解しすぎてしまった。
もはや参謀とは思えないほどの取り乱しっぷりだった。
ネギ、小太郎、そして付き添いのシモンはただ苦笑するしかなかった。
(ここで俺がラカンと戦って引き分けたって言ったら・・・・もっと混乱しそうだし、言わないほうがいいかな?)
千雨とカモ、そしてネギの取り乱しっぷりを見て、思わず気を使ってしまったシモン。
何よりも、自分自身も人のことを言えないことに気づいた。
(さて・・・俺もどうしよう・・・・この前は何か良く分からないうちに勝ったからな・・・・・・)
頭の中でラカンとの戦いを思い浮かべる。
あの時は、アンチスパイラルやロージェノムとスパイラルネメシスの影響で暴走したが、ブータの機転とニアの存在が、暴走したエネルギーを全て変換し、強力な力を身に纏うことができた。
(あれ以上の力を・・・・あれ以上の気合を身につければ・・・・・・)
しかし、そうも簡単にはいかない。
そもそも自分の力はネギたちと違って訓練のしようも無いものである。その時々のモチベーションや状況によりいくらでも上下する自分の力は、修行してどうこうの力ではないのである。
シモンも別に優勝する義務は無いのだが、ラカンともう一度戦う可能性や今後のことも考え、自分はどうするべきなのかを考えた。
すると、ネギが頭を抱えて悩むメンバーの中で、少し自信無さげに口を挟んだ。
「あの・・・皆さん・・・・ちょっと見て欲しいものがあるんですけど」
「「「「?」」」」
ネギが何か思いついたのか、皆を引き連れてオスティアから少し離れた場所へと移動を始めた。