魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
オスティアから遠く離れた古き古城。
遠い空の上で平和を祝うオスティアを向きながら、鎖につながれていたはずの魔人が虎視眈々とその瞳と牙を光らせていた。
「ザ・・・ザイツェフさんよ・・・・もう一度教えてくれねえかい? 今・・・・何を・・・どうするって?」
冷や汗を流しながら顔を引きつらせて、虎獣人ラオは横幅の広いソファーに深々と座りながら顔を俯かせている男に尋ねる。
「俺たちは・・・大物賞金首を捕らえるって話しを聞いただけなんだが・・・・」
「ラオの言う通りよ・・・その、もう一回言ってくれない?」
ラオの肩の上で、同じく顔を引きつらせている可愛らしい小さな妖精、ラオの相棒で拳闘界ではそれなりに名前の通ったコンビ、ラオ・バイロンとランファォ。
彼等はオスティアから離れた古城の一室にて、一人の魔人と相対していた。
「だから・・・・何度も言わせるな、同志よ」
魔人は告げる。
「オスティア終戦記念祭・・・・ナギ・スプリングフィールド杯の決勝戦当日・・・・オスティアを・・・・墜とす!!」
意味が分からなかった。
いや、言葉の内容は分かるのだが、それでも聞き返さずに入られなかった。
「な、なんでだよ・・・・なんでそんな話しになってんだよ・・・」
それは何故か?
決して冗談だと笑い飛ばせないほど、男の言葉の一言一言には背筋を凍らせるような威圧感を孕んでいたからである。
ラオもランも、拳闘界では名の知れた二人。いくつもの戦いの毎日に明け暮れていた。
そんな彼等でも、いやそんな彼等だからこそ気づいていた。
全身の細胞が脳に語りかけていた。
「くっくっく・・・ 祭りだよ諸君! 新たな時代を作るために、デカい花火を打ち上げようではないか!!」
高らかに笑う魔人。その姿に鳥肌を立てながら、たった一つのことだけを理解した。
(こ、・・・この男・・・・本気・・・・か?)
ラオは自身の目を疑った。目の前に居るザイツェフという名の男、ラオもランもこの男のことはそれなりに知っていた。
『カニス・ニゲル(黒い猟犬)』その組織がどのようなものかは大抵のことは知っていた。しかしそれ以上に、ザイツェフに関しては過去に拳闘士としての面識があり、特に親しいわけでもないが、特に危ない人物だとは認識していなかった。
しかし、今の目の前の男の姿は何だ?
「・・・・オ、・・・オスティアを墜とすって・・・ひゃはは・・・無理に決まってんじゃん? 首都の大艦隊とか国の周りを囲んでいるのに、出来るわけないでしょ? アンタは何を考えてんの?」
混乱で上手く言葉を出せないラオに変わって、ランがザイツェフに向って軽口を叩いた。
そしてそれは正論だった。
どう考えても無理に決まっている。
何故? それを説明する必要すら感じられないほど、常識ハズレのザイツェフの言葉・・・しかし・・・
「・・・・ア゛?」
たった一度だった。
「「―――ッ!?」」
座っている男が顔を上げて、たった一度自分たちに睨んだだけで、彼等は命を握り締められた感覚に陥った。
「アンタ・・・だと? ・・・・テ・・・・テメエ・・・・誰にィ!」
「危ない、ラン!!?」
獣の勘といえば、それまでだった。
しかしその判断は間違っていなかった。彼等が間違えたといえば、話しに誘われてこの男の前まで来てしまったことだろう。
ラオは、肩に乗るランを両手で包み、庇うようにザイツェフに背を向けた。
その瞬間、ラオの背中には空気を振るわせる怒声と超高密度の拳圧を感じたのだった。
「誰に向って言ってんだアア!!」
ただ、一言ムカついた。それだけである。
たったそれだけのことで男は豹変し、力任せにラオを殴り飛ばした。
「た、隊長! 今のは何の音ネ!?」
「すごい音が・・・・ウッ・・・」
怒号と衝撃音が城内外に響き渡り、パイオ・ツウとモルボルグランの二人が慌てて駆けつけてきた。
するとそこで目にしたのは肩で息をしたまま拳を繰り出した状態で固まるザイツェフと・・・
「グッ・・・アッ・・・アガアア・・・・ガッ・・・」
「ラ、ラオォォーーーッ!? しっかり、ラオッ!!」
部屋の壁を貫通し、何枚も向こうの部屋まで殴り飛ばされ、床に悶絶しながら転がるラオと、泣き叫ぶランの姿だった。
パイオ・ツウもモルボルグランも一歩も動けなかった。
いや、何をすべきかは分かっている。
しかし今のザイツェフに僅かな不快すら与えてはならぬと誰よりも理解している二人は、ザイツェフの一挙一同を見つめながら、時間が経つのを待った。
「はあ・・・ふふ・・・はははは、私としたことが・・・うぐ・・・ま、またやってしまったようだ・・・いい、急いで新たな同志を手当てしてやるのだ」
ザイツェフは額に手を当てて俯きながら、仲間の二人に指示を出した。ビクッと肩を震わせる二人だが、急いでその場を離れ、悶絶するラオの元へと駆け寄った。
「やれやれ・・・くくく・・・あのクソ・・・いや、あの娘と会って以来、嫌いな私が顔を出す。少々冷静さを欠いていたようだ。すまんな、ラオよ。」
遥か遠くの部屋に居るラオに向って謝罪するザイツェフ。その言葉にただ無性に恐怖で震えるラン
すると・・・・
「ぐっ、・・・ひ・・・一つ・・・聞かせてくれ・・・・・」
「ラオ!?」
「ちょっ、まだ動いちゃダメネ!」
ラオは全身を粉々に砕かれたと思えるほどの衝撃を受けてなお、弱弱しくも自力で立ち上がり、必死に笑みを浮かべながら、自分を殴り飛ばした張本人へ口を開く。
「ほう・・・・・何だ?」
今のこの男に対するたった一つの過ちが命取りになる。黙ってやり過ごすのが一番の中、拳闘士としての意地なのか、ラオは何とか立ち上がった。
「ようやく・・・ぐっ・・がはっ・・・ようやく訪れた平和・・・終わった北と南の戦争・・・・それを・・・大戦を・・・再びしようって言うのかい?」
すると魔人は高らかに笑った。
「ククク・・・・・・戦争ではない。何故ならこれは祭りなのだ!」
「ま・・・祭り?
「くくく、ははははははははは!! 大戦が終わった? 戦争が無いことが平和? 平和が幸福? そんなものクソ食らえだ! 今の歪んだ世界を戦国時代と言わずになんと言うのだ!」
「せ、戦国時代? な・・・・何を言っている・・・今の世界のどこにそんなものがある?」
「すぐに教えてやる!・・・俺・・・いや私は「法」や「制度」という力が頂点に君臨し続けるこの戦国の時代に、新たな炎を巻き上がらせるのだ。くくく・・・あの・・・あの男の息子が・・・犯罪者と知った瞬間、臆病者だった私の失ったかつての火種に火がついた!!・・・ふふふ・・・それだけのことよ。そのきっかけを作ったあの二人の少女には感謝するべきか? くくくくくく」
もはや何も言うことは出来なかった。
いや、一つだけ心の中でつぶやいた言葉があった。
(こいつは・・・・バカなのか?)
そして何より、その馬鹿な考えや行動が、全て本心であるからこそタチが悪い。
「隊長! 本部から・・・・例のものが来たぜ!」
「ほう」
狂った魔人の笑い声の最中、部屋の中に彼の部下がもう一人現れた。その報告に、ザイツェフは、声を出して笑うのはやめたものの、口元の笑みは余計につりあがった。
「それと・・・・祭りの参加者が続々と来たぜ・・・・拳闘大会予選で偽ナギに敗れた、蜘蛛魔族コンビ・・・狼族のウルフ王子・・・・それに最近この大陸に出没している賞金稼ぎチーム、『蠍(サソリ)』とその女頭、流麗のディーネ・・・他にも各地の拳闘団から参戦の返事が・・・」
「はっはっは、あの噂の口汚いサソリ女まで来たか。中々の面子だ。奴の息子を祭りの目玉に・・・神輿にして正解だったな」
報告により一層機嫌よくなるザイツェフ。先ほどまでの怒りは消えたようだが、代わりに不気味さがより一層増した気がした。
「まずは数百人程度集めて冒険王と、白き翼を仕留めた勢いで軍資金と同志を集めつつ、祭りに入ろうとしたが・・・くくく、この調子なら・・・・500・・・いや、1000・・・2000は固いな・・・・ふふふ・・・祭りの準備が楽しいとはこのことだな!」
もはやここにパイオ・ツウやモルボルグランたちの知る隊長はここには居なかった。
まるでようやく本物の自分の居場所を見つけたかのようにはしゃぐザイツェフ、その狂気を誰にも止めることは出来なかった。
「ふ・・・・ふざ・・・・ぐっ・・・」
「ラ・・・・ラオォーーーッ!?」
意識朦朧で倒れる中、ラオは今すぐこのことを誰かに伝えねばと必死に頭の中で考えていた。
一体この祭りがどれほどの規模になるかは分からない。しかし祭りの興奮と狂気に駆られた獣たちを解き放てば、取り返しのつかないことになる。
(誰に・・・・・・だれ・・・に・・・言えばいい・・・・政府にタレこむか? いや・・・チンピラ拳闘士の俺がこんなバカな話をしても信じねえか・・・・じゃあ、拳闘団に? いや・・・ダメだ・・・もはやどこを信じていいかも・・・わからねえ・・・・)
どうすることもできない状況の中、相棒の泣き叫ぶ声と魔人の声が響き渡る中、ラオは意識を手放したのだった。
爆発は怒り。怒りは発散させるものではない。怒りはぶつけるものである。
長年臆病者の化けの皮をかぶり続けてまで貯めてきた全ての爆弾を、魔人は全てをぶちまけるつもりである。
どんな戦いにも意味がある。戦争も同じ。そして人はそれをさまざまな言葉で誤魔化す。
正義、大義、復讐、誇り、使命、己の価値観・・・・
しかしこの祭りには意味もない。大義もない。正義もない。
ただ、大戦が終わり、平和な世界では牙を抜かざるを得なくなり、鎖で繋がれ戦いという餌にありつけなくなった獣たちが、腹をすかせて胸の内をぶちまける。
賞金稼ぎ、用心棒、拳闘士、そして騎士団など、新たな居場所を見つけたものも居る。それに満足して生きるものたちにちにとってはこの祭りなど非常識な話である。
しかし当たり前のことが当たり前に出来ないものたちが、数十年のときを経て集った。
和みも癒しも平穏もいらない。
そんな彼らの祭囃子が、徐々に音を立ててオスティアへと向かうことになるのだった。