魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第184話 この瞬間のために

四方八方、百を超える戦力に囲まれたこの絶対的なピンチの中、彼等は微塵の不安も顔に浮かべず、囲まれたこの状況下でも笑みを浮かべていた。

余裕ではない。ただ、自然と笑みが零れてしまったのだ。

 

 

「どうだ、リーダー? 流石に少しは驚いたんじゃねえか?」

 

 

豪徳寺がニヤニヤしながら告げると、シモンも苦笑しながら頷いた。

 

 

「確かに、いつも驚かせるほうの俺が、初めてポカンとしちまったよ」

 

 

すると他の面々も満足そうな顔をしながらシモンに振り向いていく。

 

「へへ、驚いたよーで満足だぜ♪ 出てきた甲斐があったな」

「達也の言うとおりだね。僕たちでもリーダーの度肝を抜けるんだね」

「悔い無し」

「私はチョッピリ怖かったですけどね~」

「シカシ、ノリノリデシタ」

 

豪徳寺に続いて達也、慶一、ポチ、ハカセ、エンキが驚いたシモンに機嫌良さそうに笑う。

見渡せば自分を守るように囲む七人の仲間らしき・・・・いや仲間たち。

そして・・・・

 

「まあ、・・・・こうしてこの目であなたを見るまで、私たちも不安でしたけどね」

 

一人のシスターが微笑みを浮かべて、シモンの前に立つ。

その瞬間、シモンの心の中で何かが騒いだ。

目の前に居る者たちは自分の仲間。それは分かっている。しかし目の前の女はそれだけではないという事を心が感じ取った。

 

「ようやく・・・・また・・・・また会えましたね。シモンさん」

 

心の安心感。温かさ。この状況下でも、彼女の微笑み一つでどんどん自分の心が安らいでいくような気がした。

 

「・・・・・・・・・・・シャ・・・・・・シャーク――――」

 

口が自然と動いた。

そう、記憶が無くとも口が動いていく。

それが刺激となって、シモンの頭の中に何かが思い出されようとしていく・・・・・・はずだった・・・のだが・・・・

 

「歯を・・・・」

「ん?」

「歯を・・・・食いしばってください♪」

「・・・・・・・・・・・・・・へっ?」

 

―――ドゴオオン!!

 

 

ニッコリと微笑みながら、シャークティはグーでシモンを殴り飛ばした。

 

 

「「「シ、シモン(君)!?」」」

 

 

今まで呆然としていた瀬田たちも、状況も展開も分からず思わず声を出してしまった。

するとシモンを殴ったシャークティはこめかみに怒りのマークを浮かべたままの笑顔で、ゴゴゴと非常に威圧感のあるオーラを出しながら、殴られた頬を押さえながらテンパるシモンに顔を近づけた。

 

「本・当・に! ・・・ようやく会えましたね(怒)♪」

「ぐおおお・・・・・・えっ・・・へっ? えっ? あ、・・・あれ?」

 

同じ笑顔でも雰囲気が違う。

シモンの心を包んだ温かさが一瞬で吹っ飛び、代わりに全身の細胞が危険信号を発していた。

 

「さてシモンさん。・・・散々寄り道した挙句、随分と楽しそうですね~?」

「えっ・・・あっ・・・あの・・・」

 

おかげで何かが思い出せそうだったのに、すっかり全部頭の中から消えてしまった。

 

「拳闘大会の中継は見させてもらいました。・・・・さて・・・・懺悔は?」

「い、いやいやいやいや、ま、待ってくれ!? その、実は色々と事情を説明しなくては・・・・」

 

この世界に来て、シモンは規格外人物として出会ってきた者たちの心の中に残った。

しかし今のシモンはどうだろう? 

完全に浮気現場を見つかったどこにでも居そうな男のようにあたふたしていた。

しかしそんなシモンをシャークティは容赦しな・・・・気にしない。

 

「ええ、じ~~っくりとお話しを聞かせてもらいたいですね~。特に・・・・女性・・・いいえ、家族・関・係・に!! あなたは・・・誰彼構わず家族を作ったりするみたいですね~」

「い、いや、だからそれは!?」

 

だが事情を説明したくとも説明できない。

そもそも何故自分は怒られているのかを・・・何となくは分かっているけど、説明できない。

もはやシモンは完全に動揺モードだった。

 

「だっはははは、ようやく怒りのはけ口がリーダーに行ってくれたようで安心だぜ!」

「だな、俺らは表現することが困難なほど張り詰めたプレッシャーを浴び続け・・・」

「うん、あれは・・・怖かった・・・・女神が般若になった瞬間だった・・・・」

「我等の手に負えず・・・・」

「男の責任取らなきゃですね~」

「年貢ノ納メ時デス」

 

そんなシモンに指で十字架を切りながら冥福を祈る仲間たち。

ようやくシャークティの恐怖・・・・もとい八つ当たりから開放されて安堵しているように見えた。

 

「な、何なんだろうね?」

「まあ、大体は今ので分かったが・・・・」

「ま、また知らない女が・・・・シモンの奴~」

「ぶ、ぶい~~~」

 

そんなほのぼのとした光景を繰り広げるシモンたち。

だが、自分たちをすっかり忘れられているように感じた者達がようやく口を開いた。

 

 

「おいおいおいおい、無視してくれてんじゃね~よ」

 

「「「「「「「「?」」」」」」」

 

「ず~いぶんとノンキに話してるじゃね~か~? 状況分かってんのかい? まあ、どいつもこいつも知らない顔だが、勇ましい連中のお出ましってことみたいだが・・・・」

 

 

自分たちを囲む軍勢を代表してリカードが少し呆れ顔で前へ出た。

するとシモンたちは口を閉じ、リカードへ全員が振り向く。するとリカードに続きテオドラ、セラスの両名も前へ出た。

 

「そうじゃの~、・・・今更数人増えたぐらいでどうするつもりじゃ?」

「そうね・・・・そちらの方・・・・あなたが一番話が分かりそうね」

 

セラスがシャークティに向って話しかける。すると般若になりかけていたシャークティの表情が元に戻り、セラスに顔を向ける。

 

「私のことでしょうか?」

「ええ。少しは冷静に状況を見たらどうなの? この期におよんで更に抵抗を続ける気なの? 状況把握できないような人には見えないけど・・・」

 

その言葉にシャークティは目を閉じた。そしてゆっくりと溜息を吐きながら、苦笑した。

 

「そうですね・・・そもそも何故この人があなた方と戦っているのか・・・いえ、・・・それ以前に、後ろに居るこの三名の方が誰なのか、私はまったく知りません」

 

シャークティは瀬田、ハルカ、サラの三名に首だけを向けながら呟く。するとセラスは呆れたような表情になり首を傾げた。

 

「・・・・あなた・・・・それでは事情をまったく知らないの? 後ろの三名が犯罪者であることを・・・・そしてそのゴーグルの男は逮捕しようとする我々を邪魔していることを・・・・」

「・・・・犯罪者?」

「ええ、・・・・そしてこのままではあなたたちも仲間入りよ?」

 

セラスの言った『犯罪者』と言う言葉にシャークティは少し表情を変えた。

事情は分からなかったが、今ので大体は理解した。シモンが今ここで何をやっていたのかを。

 

「そうですか・・・・・・たしかにそれなら命を賭けるのも、今後の人生を賭ける理由としては論外すぎますね・・・ましてやこの状況・・・・・」

「そう理解が早くて―――」

「ですが・・・」

「?」

 

一瞬ホッとしたような表情を出したセラスに、シャークティは空かさず口を挟んだ。

辞表を提出したとはいえ、自分は元教師。そしてこの場にはハカセや豪徳寺たちのような生徒たちが居る。

しかし・・・

 

「申し訳ありませんね・・・私は・・・こう見えて物分りの悪い女なのです」

「・・・・何?」

 

シャークティはもう一度シモンを見る。

そこに居るのは、正しいこと、正しくないことを関係なく、自分の行いにまったく後悔をしていない、昔と変わらず真っ直ぐなシモンの瞳だった。

だからこそ今更そんなことを考えるのは自分にとっても、そして豪徳寺たちにとっても野暮なことだった。

 

 

「家族が・・・・仲間が・・・・命懸けで戦っています。 荒ぶる魂を振るっています。ならば充分です。それで私は充分戦えます。正しいこと、正しくないことではありません。私たちにはソレが一番重要なんです」

 

 

シャークティが誇らしげに言うと、豪徳寺たちもうれしそうに頷いた。

まるで自分たちの心の中を、そのまま代弁してもらえたかのようにスッキリとした表情をしている。

対照的にシモンも、瀬田も、ハルカも、サラも目の前の七名の者たちの誇らしげな後姿に思わず目を奪われ、何も言うことが出来なかった。

 

「なるほど・・・・どうやらそこの兄ちゃんと同じでブレねえようだな・・・・つうことは、全ての決定権はお前さんってことだな、兄ちゃんよ?」

 

呆然とするシモンに、リカードが告げる。

 

「どうやらお前さんが戦うのか戦わないのかで状況が決まるぜ? 仲間を思うんなら、ちっとは周りを見るんだな。これっぽっちの人数でこの陣形を崩せるとでも思っているのか? 頼みのお前も冒険王も、俺らを相手に精一杯だろ?」

 

リカードは両手を広げて、シモンたちを囲む軍勢を見せる。

三国の大勢の戦士たちが自分たちの周りを囲み、正に蟻の入る隙間も無いほどである。

 

 

「そうじゃな、何より無意味じゃ。大体何故反抗するのじゃ? 往生際が悪いぞ。少しは現実を見たほうがよい。そもそも妾たちはやることがまだまだあるので、いつまでも時間を掛けては居れんのじゃ」

 

「そうね、この状況を変えることなど不可能よ? 命まで賭けて、一体このような愚かな行為が何を生み出すというの? 潔く罪を認め降伏しなさい」

 

 

瀬田たち三名は犯罪者。そして戦いの行方など、この状況では決まりきっていると言っても過言ではない。

たかが数名と一匹の力が三国の軍事力を前にするなど考えられない。

リカードが、そしてテオドラとセラスも、そうまでして戦うシモンに戦う意味を問う。

 

「・・・・俺が・・・戦う理由・・・か・・・」

 

シモンは考える。

いや、考えなくても答えは最初から出ている。

シモンにそんな深い理由も何も無い。理由は単純。しかし単純だからこそ想いは深い。

たとえ掟や法に抗っても、自分の友は売らない。見捨てたくは無い。考えるまでも無かった。

そして、戦うのは瀬田たちのためだけではない。

ネギたちのためだけでもない。

今の自分の心が自重せずにずっと騒いでいる。

シャークティたちが現れた瞬間、自分の心が熱く燃え出した。

 

 

「こんな行動が、何も生み出さないことぐらい自分が一番分かっている・・・・」

 

「「「?」」」

 

 

世間で言う、正しくない行為が何も生み出さないことは分かっている。

しかし、それでもシモンの心の中で何かが生まれていた。

 

 

「・・・・でも・・・・何だろうな・・・・この気持ち・・・この一体感・・・満たされていく心は・・・」

 

 

シモンは空を見上げながら、大きく息を吸い込む。そしてそれだけで満たされていく胸の中の気持ちを吐き出す。

 

 

「金のためでもない・・・名声のためでもない・・・不利な未来しか手に入らないにもかかわらず、ここに居る11人と一匹は自分の信じる道のためにここに集った。悪だと犯罪だと、開き直りだと呆れられても、・・・今この瞬間、俺はこいつらと共にここに居る自分をとても誇らしく感じる」

 

 

今の自分の気持ちをうまく表現は出来ない。しかしそうとしか言いようが無い。

自分にしか・・・自分たちにしか分からないこの気持ち、それが自分たちの戦う理由だった。

 

 

「そう・・・何も生み出さなくても・・・たとえ何も手に入らなくても・・・俺たちは今の自分をとても誇りに思っている。・・・そうだ・・・俺たちが戦うのは・・・この瞬間のためかもしれない」

 

 

シャークティたちは、そして瀬田たちも思わず笑った。

自分を偽る事無く誇らしげなシモンの言葉に頷きながら、その心と体を戦闘体勢に移す。

 

 

「悪いな、・・・・逆に引き下がる理由が思いつかないんだ!」

 

 

所詮は戯言に過ぎない。

この状況ではなんと言っても強がりにしか聞こえない。

少なくとも、リカードたちほどの大物なら、無名のシモンの言葉など普段なら聞く耳を持たないだろう。

しかし、どうしても心が騒ぎ出し、イラついた。

 

 

(何だ・・・こいつら・・・・何だよ・・・この目は・・・)

 

 

シモンだけではない、後から現れた者たちも、皆同じ目をしていた。

 

 

「くだらないことを・・・・ならば、自己満足な誇りは監獄の中で誇りなさい!!」

 

 

セラスの口調も強い。それは普段の彼女からは考えられないぐらい動揺しているように見える。

 

(何故・・・こんな・・・こんなワケも分からない方々に・・・・私は・・・イラついているの?)

 

その気持ちがテオドラには分かっていた。

 

(リカードもセラスも気づいておる・・・・確固たる理由も無いはずのこやつ等が・・・・かつて世界の全てを敵に回し・・・そして世界を救った、確固たる信念を持ったバカ者たちと重なったのじゃ・・・・。必死に否定したくなるのも分かる・・・・)

 

そしてテオドラも判断した。目の前の者たちに個人的に興味が沸いたが、同時に国を統べる者の目からは危険であると判断した。

 

(これ以上、心を乱される前に叩くのがよかろう!)

 

 

テオドラは手を上げ、そして高らかにこの場に居る全軍に合図を送る。

 

「ゆくぞッ!! 祭りを楽しめぬ無粋な輩を叩くのじゃ!! 決して逃さず、牢に叩き込め!! 開き直った悪党共に、我等の正義の鉄槌を振り下ろせ!!」

 

その時ようやくその言葉を待っていたかのように四方を囲む戦士たちは声を上げた。

 

 

「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」」」

 

 

その声が天も大地も揺るがすかのように思えるほどの気迫を込め、わずか数名の者たちに迫る。

 


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