魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「テメエの相手はこの俺だ、冒険王!!」
真正面から小細工抜きで向ってくるリカードに対し、瀬田は己の体術で先手を取る。
「望むところだよ!」
高速の蹴り足から繰り出される無数のカマイタチの斬撃がリカードに迫る。
全てを回避しきることは不可能。
仮にヘタに交わしても、その隙に瀬田は瞬動並みのスピードでリカードの隙を突くつもりだった。
しかし・・・・
「カマイタチかァ? んなもんそよ風だぜ! まとめてぶっとばしてやるぜ! 爆裂嵐拳! うおりゃああああああああ!!」
瀬田の嵐の蹴りに対して、リカードは正に正々堂々、正面から拳の連打を繰り出す。互いの蹴り圧と拳圧がぶつかり合い、両者の攻撃が中心で破裂した。
「か、かき消された!?」
「うおりゃああああ、まだまだ行くぜぇ!」
まさかいとも簡単に正面から破られるとは予想外だったのか、一瞬瀬田の反応が遅れた。
その僅かな隙にリカードは強く握り締めた拳と共に瀬田の間合いへと飛び込んだ。
「くっ、気功防御!」
瀬田も瞬時に反応し、体を瞬時に防御の体勢に移し、肉体を鉄並みの硬度に高めた。
だが・・・・
「どりゃあああああああ! 五臓六腑大・爆・拳!!」
「ぐうっ!?」
まるで金属で金属を殴ったような音が響く。
リカードの唸る拳が防御状態の瀬田の腹部に突き刺さり、その拳は弾かれるどころか、むしろ瀬田をその衝撃で吹き飛ばした。
そしてその瞬間リカードも瀬田も互いに顔を歪めた。
「ぐっ・・・・僕の防御を正面からグラつかせるとはね・・・・どうやらたしかに一筋縄ではいかないね・・・・」
ダメージを受けた腹部を擦りながら瀬田は相手の力を素直に認めた。
だが、殴り飛ばしたリカードも、殴った自分の拳が赤く腫れていることに気づき、思わず擦った。どうやら今の瀬田を殴った衝撃でこうなったのだろう。
「殴った感触が硬え・・・今の防御技といい、さっきの蹴りといい、見たこともねえ体術を使うな・・・・おもしれえ!!」
痺れる自分の拳を擦りながら、リカードも瀬田の実力を一瞬の攻防だけで認めた。
そして顔が徐々に活き活きとし出して、まるで戦いに喜びを感じているように見えた。
「ワンインチパンチ!!」
「重そうだな・・・・なら・・・・ブレットスリップス!!」
「こ、これは!?」
瀬田が拳を固めて打ち出したパンチがリカードの顔面を捉えたかと思えば、リカードの顔の表面を瀬田の拳が滑るように受け流された。
「おらァァ!! カウンター!」
「まずい!?」
リカードがこれまでの敵とは桁違いなことは見抜いていたが、予想以上の実力に自分が押されている現状に、瀬田は珍しく動揺しているのか、いつものような柔らかな笑みが表情から消えていた。
(さっきの僕のパンチを受け流した技・・・あれはシステマに似ている・・・それに僕の動きに瞬動術で対抗している・・・・。大雑把で強烈な攻撃だけでなく、格闘技の中でも高等な技術をも体得している・・・・厄介だな・・・・)
それはこの世界に来て初めての強敵、そして初めての苦戦だった。
リカードはこれまでの烏合の衆たちとは強さの質がまったく違う。そして只強いだけではなく、身に纏う風格は紛れも無く歴戦の猛者だった。
しかし・・・
(強敵だ・・・そう・・・それは間違いないのに・・・なんだろう・・・この気持ち)
瀬田は笑った。
(何だろうな・・・この高揚感・・・・。やはり僕も男だったって事かな?)
間違事なき強敵を前に、自然と笑みがこぼれた。
「オラオラ、どうした冒険王! これで終いじゃねえだろう!」
「まったく・・・・熱くて怖いね~~~。しかし、ようやく魔法世界の強さに触れられたね」
魔法世界の戦士とはいえ、リカードは炎や雷などの魔法は使用しない。どちらかというと魔力を強化に使用させ、その身を武器として戦う男である。
そしてその体術は強力さと技術を兼ね備え、超人クラスの瀬田が息を呑むほどである。だが、それが逆に瀬田の心の奥底にある闘争心に刺激した。
本来争いは好まない瀬田だが、一人の男として、真正面からの向ってくるリカードとの戦いを不意に楽しく感じ、体のキレが徐々に上がっていく。
「がっはっは!! 中々楽しませてくれるじゃねえか!!」
そしてリカードもこの瞬間、瀬田を賞金首だとか犯罪者だとか、そういう経歴が頭から抜け、この戦いをただの喧嘩のように楽しんだ。
「いつも肩の凝る会議ばっかで退屈してたところだ! 思う存分やらせてもらうぜ!」
「ならば、受けて立とう!」
二人の男が交差する。互いが互いに真距離から技を惜しみ無く出す。
「爆壊弾!!」
瀬田が一撃に力を込めて放てば・・・・
「鬼王悶絶破砕拳!!」
リカードも同等の破壊力を持つ拳で応戦する。
「ご、互角だ・・・・流石リカード元老院・・・あの冒険王と互角に・・・・」
「バ、バカ言うな・・・互角であってたまるか。ぽっと出の賞金首ごときが・・・・リカード様と互角であっていいはずが無い」
もしこの場に瀬田の力を知るものが居れば、瀬田と互角に戦うリカードに驚いていただろう。しかしこの場は逆に、リカードと互角に戦う瀬田に対して皆が驚いていた。
この世界の英雄の一人であるリカードと互角に戦う瀬田。それだけで瀬田がただの密入国者だとは誰も思わなくなった。
そしてこちらも激しい戦いが繰り広げられていた。
「ほれほれ、どうしたのじゃ? まだまだこんなものでは無いであろう!」
「ちっくしょ~~! ふっ飛んじまえェ! カオラン砲発射!!」
「皇女に手を上げたから死刑とか言うなよな? 浦島流柔術・竜連牙!!」
「はっはっは、やるの~」
相手が魔法世界の姫だろうと、法律という常識そのものを悉く破ってきたサラたちに遠慮は要らない。力の限りをテオドラに向ける。
しかし相手も魔法世界の皇族の血筋。
「こうやってバカ騒ぎをするのも久しぶりじゃ。じゃが、手加減はせん。大人しく牢の中で反省して貰おうぞ」
「それだけ潔ければ、ここまでやらねーっての!」
「同感だね」
「はっはっは、では痛い目を見てもらおうか」
常識破りの男の家族を二人も相手に彼女は一歩も引けをとらないどころかむしろ楽しんで戦っていた。
普段は完璧に猫被って気品漂う姫を演じていただけに、少々彼女の部下たちは首を傾げているが、それでもサラたちを手玉に取るその力に感動しているのか、誰も何も言わなかった。
そして一方でこちらは対照的に、一歩も動かずにらみ合いが続いていた。
「相手をすると言ったものの、まず初めに・・・・・あなたは誰? 手配書には載っていないのなら・・・これ以上罪を重ねる前に降伏していただければ良いのだけど・・・・」
三人の中で最も冷静なセラスは、未だに動かず対峙するシモンに語りかける。しかし今更聞くまでも無いことなので、シモンは迷わず答える。
「降伏か・・・・俺がそういう男だったら良いんだけどな・・・・」
苦笑しながら言うその言葉にセラスは軽く溜息をつく。
「反逆・・・抵抗・・・・見苦しい行動を取るのが、あなたなの? 潔くなるのも男だと思うわ?」
「潔く・・・か・・・・俺の気合と魂・・・そして話しを聞く限り、この背中に背負ったマークに誓って、そいつは出来ない相談だな」
完全に囲まれたこの状況下でもシモンは構わずに笑った。
その笑顔にセラスは、シモンと誰かを重ねているのか少し複雑そうな表情になり黙った。
(・・・・真っ直ぐな目・・・・・紅き翼と・・・・彼等と非常に仲良く慣れそうな人ね・・・・)
しばらく無言のにらみ合いが続いたが、リカードやテオドラたちの戦いが激しくなるにつれ、ようやくセラスも観念して動いた。
「では・・・・・・手は抜かないわ」
「・・・・女が相手だと、少しやりづらいが・・・・」
「遠慮なく」
「確かに、そうも言ってられねえな!」
先に動いたのはシモンだった。まずはいつも通りに小細工なしの正面衝突。ドリルを回転させて、セラスへ突っ込む。
対するセラスは長い魔法の杖をシモンに向けて、呪文を放つ。
「紅き焔(フラグランティア・ルビカンス)!!」
戦乙女たちも使用し、それなりに威力を秘めた炎の魔法をセラスは放つ。その威力はこれまでの誰よりも威力を纏い熱量のある炎である。
しかし今更この程度の呪文で驚くシモンではない。
「んなもん、効くかよォォ!!」
激しい炎をヘタに交わそうともせず、ドリルの回転で炎を風で吹き飛ばそうとする。
しかしやはりセラスの魔法も生半可な熱ではなく、その熱さがドリルを持つシモンの手にも伝わる。だが、その程度のことで音を上げるシモンではない。熱く火傷しそうな手で、歯を食いしばりながらドリルを持つ手に力を込めて、セラスの炎を吹き飛ばす。
しかしそれに対してセラスは驚く素振りは一切見せず、それどころか既に次の魔法を放っていた。
「氷爆(ニウィス・カースス)!!」
「なっ!?」
炎をかき消したシモンの目の前に、今度は目の前に大量の氷の塊が出現し、気づいたときには破裂し、凍気と爆風がまるで吹雪のように襲い掛かる。
「ぐうううう・・・だが・・・こんな寒さァ!!」
氷の吹雪がシモンの体温を下げるが、シモンは悴む手を強く握り堪えきる。しかしそれも全てはセラスの戦術の中の一つ。
セラスは堪えたシモンに対して、息もつかせず魔法を続ける。
「ならば、この一撃はどうですか?」
「なっ!? あれは確か・・・エミリィが・・・・」
セラスは上空に氷の破片を集結させ、巨大な氷の塊を出現させた。
シモンは以前これと同じ魔法を、アリアドネーでエミリィが使用したのを見たことがあり、セラスの次の行動が分かり、背中に汗をかいた。
「ま、まずい!?」
「遅いわ! 氷神の戦鎚(マレウス・アクィローニス)!!」
大気中の温度が一気に下がった。
それほどまでに魔力の質が高く凝縮された氷の塊がシモンに振り下ろされる。
「くっ、だが・・・・風穴開ければ良い事だ!! 必殺ゥ! ギガドリルブレイク!!」
「・・・ほう・・・・だけど甘いわね」
シモンは氷の鉄槌目掛けてギガドリルブレイクで突っ込んだ。寒さなど吹き飛ばすほどの気合を込めて雄叫びを上げながら。
だが・・・・
――ビキ
金属にひびが入る音がした。
「な、なんだと!?」
シモンは自分の目を疑った。
しかしそれは現実だった。
なんとシモンのドリルが氷塊にぶつけた瞬間、大きなひびが入ったのである。
「バ、バカな!? なんでこの程度でドリルが!?」
森の竜種やラカン、そしてフェイトの魔法など、激しい戦いを共に乗り越えてきたシモンの螺旋力で出したドリルにいとも容易く亀裂が走った。
しかしシモンにとってそれは考えられないことだった。何故ならセラスの魔法は確かに大きいが、ラカンとの戦いをも乗り越えたドリルがそれほど柔なはずが無かった。
だがその原因をセラスは当然のように述べる。
「温度差よ」
「・・・なっ・・・」
「冷たい食器に急に熱湯を注いでで砕けるように、炎と吹雪の急激な温度差が、あなたのドリルを脆くしているのよ」
「!?」
「覚えておきなさい。魔法とはこんな使い方もあるのよ」
シモンのギガドリルブレイクは氷塊に大きな穴を空けて粉々に砕いた。しかしそれと引き換えにシモンのドリルも砕けた。
だが、それに気をとられる隙すら与えずに、セラスの攻撃は続く。
「今、あなたが砕いて溶けた氷の水をそのまま使えばこんなことも簡単なのよ。水精大瀑布(マグナ・カタラクタ)!!」
今度はあたり一面がセラスの放った二つの氷系呪文により満たされたこの場の大量の水分を空中に集め、その水圧でシモンを押しつぶそうとする。
「くそっ・・・・次から次へと・・・・だが・・・」
休む間もなく魔法が放たれ防戦一方でドリルまで砕かれたシモン。しかしシモンはその目も、その言葉にも一切の弱気や弱音を込めずに、押しつぶそうとする大量の水に向って叫んだ。
「それで押しつぶされる俺じゃない!!」
シモンは気合と共に体中に螺旋力を流す。するとシモンの周りに一本のドリルの形をしたエネルギーの塊が姿を見せる。
そしてシモンはそのドリルを上空の水の塊に向けて射出する。
「穿孔ドリル弾!」
ドリルの形をしたシモンの螺旋力を秘めたドリルのミサイルは、空中で爆発し、セラスの魔法を破った。
大量の水の塊は砕け散り、雨のように上空からシモンに降り注ぐ。
「やるじゃない・・・・・でもね・・・・」
しかし、それすらもセラスの手のひらの上だった。
「来れ(ケノテートス・) 虚空の雷(アストラプサトー) 薙ぎ払え(デ・テメトー)!!」
「・・・・・えっ?」
水の魔法を砕いてほっとしたと思ったら、セラスは既に高速で次の呪文を唱えていく。詠唱と共にセラスの手の光が目に見えるほどに輝きだした。
シモンにはセラスの詠唱の意味は分からない。しかしセラスの手に収束していくその光を見ただけで、その魔法がどんな魔法なのかを瞬時に理解した。
「か、・・・雷・・・」
そう、雷である。そしてそれはただの雷ではない。
「ええ。濡れた体に耐えられるかしら?」
「ッ!? ら、螺旋フィー――――」
水に濡れた状態で雷を受ければどれだけ危険かは子供でも分かる。そんな状態のシモンにセラスの雷をぶつければ、破壊力は想像もできない。
シモンが慌てて螺旋フィールドを展開しようとするが、セラスの方が一歩早い。
「遅いわ! 雷の斧(ディオス・テュコス)!!!」
「ぐわああああああああああっ!!!」
全身を駆け巡る衝撃に耐え切れずシモンは叫んだ。