魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第170話 三つの記憶

そしてもう、これ以上はここに居ても仕方ないだろうと判断した瀬田は、とりあえず皆の様子を伺ってから帰ることを提案した。

シモンもエミリィも、そして木乃香も早々にオスティアへ戻らねばならない理由が在るために、反論など無く、遺跡を後にしようとした。

しかし木乃香が何もせず帰ろうとするシモンを疑問に思い尋ねる。

 

「なあ、シモンさん・・・・これ、持っていかんの?」

「えっ?」

「ようわからんけど、これってシモンさんにとって重要なもんなんやろ?」

「・・・・そうだな~・・・・・・・たしかにもって行けば・・・・・・・・・・・・」

 

木乃香の言葉にシモンも「確かにそうだ」と考え頷こうとした。

自分の記憶に重要なもの。そして目の前の「顔神」と呼ばれる物体はそれだけでなく、何か大きな力になることは、今のシモンにも十分理解できた。

そう、これがあれば今後も随分楽になるだろう。

今後何かをするのにも楽に出来るだろう。

シモンに記憶は無いがそれだけは分かった。

しかし・・・何か頭の中で引っかかった。

 

「木乃香・・・・・これ・・・・持って行ってどうするんだ?」

「えっ? 何って・・・・シモンさんがこれ使うて・・・・せや! サラちゃんのメカタマと、合体やったらどや? きっと魔法世界の皆驚くえ?」

「が、合体!? 科学とはそのようなことまで出来るのですか?」

「・・・科学?」

 

エミリィの言葉にシモンは自然と聞き返してしまった。

 

「えっ・・・だってシモンさん・・・・メカは科学の力なのでしょう?」

「しかし凄いね~、そのガンメンって言うのは、一度地球で調査したら、凄い科学技術が進歩するんじゃないかい?」

 

科学とメカの話で盛り上がる一同。もしシモンの話を信じるのなら、盛り上がっても別に不思議ではないだろう。

しかしこの光景にシモンは何か嫌な予感がした。

 

「・・・・・・木乃香・・・・さっき・・・・お前のクラスメートの・・・・・誰って言った?」

「えっ・・・・・超さんや・・・・・超鈴音さんゆう人やけど・・・・・シモンさん・・・・・ひょっとして心当たりあるん?」

「超・・・・鈴音?」

 

その名前はやはり思い出せない。

しかし「超鈴音」この名前から何かをシモンは感じ取った。

何時の日か、ごく最近、自分は何かを言っていたはずだ。

一人の少女に向って何かを言った。そして少女も何かを言っていた。

「超鈴音」と言う言葉と共に、シモンは頭の中を必死に働かせた。そして微かな光景が頭に浮かんだ。

 

 

「捻じ曲がった物語・・・魔法界や科学界を巻き込んで・・・」

 

「シモンさん?」

 

「いや・・・・何か少し気になってな・・・」

 

 

そう言われてシモンはもう一度「顔神」を見た。

そこにあるのは木乃香いわく、グレンラガンというメカと同じ、自分の世界とやらに在るガンメンと同じものかもしれない。

ならば、もしこれをシモンが持っていったらどうなるだろうか?

この後の格闘大会で、このメカとメカタマと共に戦ったらどうなるだろうか?

たしかに皆驚くだろう。自分も興奮するだろう。しかし、何故か心に引っ掛かりが生まれて、その気になれなかった。

 

「シモンさん、どうしたん?」

 

シモンは考える。

どうするべきなのかを。

このメカを持って行きたい。

しかし何かが心の中で邪魔して頷くことが出来なかった。

だからシモンは自分の直感を信じることにした。

 

「・・・・・木乃香・・・・そのメカは・・・そこに置いていく・・・」

「えっ、いいん?」

 

意外な言葉に木乃香は驚いた。

 

「ああ・・・・それに頼ったら・・・・何か・・・まずい気がする・・・・よく分からないんだけど・・・そんな気がする」

「そうなん? ・・・う~ん、シモンさんがそうゆうんやったらええけど・・・」

「そんな顔するなって! 大丈夫だ! 俺にはドリルがある。気合がある。だったらそれで十分だ!!」 

 

木乃香は少し残念そうな顔をするが、シモンの目は真っ直ぐだった。

 

「それだけじゃない、俺には分かる。俺はこれに頼っていた時がある。多分これさえあれば何でも出来ると思っていただろう・・・でも・・・今の俺はそれじゃあダメだ」

「・・・・何でなん?」

「勘だよ。ただの勘だ! 俺は今、忘れちまったテメエが一体誰なのかっていう答えをかき集めてようやく掴もうって時なんだ。そんな時・・・・何かに頼ってばかりだと、その手に何も掴めない、・・・そう思ったんだ」

「・・・何も掴めない?」

「ああ、・・・そして俺は・・・これがあったから昔何かを掴めたのか・・・・それとも俺は・・・俺たちは俺たちだったから掴めたのか・・・それを誰かに証明しなくっちゃいけないんだ」

「誰かに証明って・・・シモン君・・・誰にするんだい?」

「誰にって・・・・多分・・・・誰かにだ!」

 

この時、シモンは一瞬だけだが頭の中で一人の黒髪の少女の後ろ姿を思い出した。そしてその少女を裏切りたくない。それだけは分かったのだった。

シモンの言葉は以前と変わらず、記憶があっても無くても木乃香には信頼でき、それ以上は言わずに黙って頷いた。

シモンはもう一度「顔神」を見る。

そして「顔神」の開いた頭を閉じた。そしてシモンは「顔神」にコツンと頭をぶつけ、悔しそうに呟いた。

 

「そうだ・・・・そしてお前たちもだ・・・バカ野郎・・・・お前は・・・何であきらめた・・・何で掴むまで足掻かなかった・・・」

 

その表情は木乃香たちには見えないが、シモンの背中は震えていた。

 

「お前らの明日は・・・お前らで掴むものだろ! 宇宙の真実に・・・たとえロージェノムが・・・お前たちが絶望に飲まれても、まだ多くの仲間が居たはずだ・・・宇宙にはそれだけ多くの仲間が居たはずなんだから・・・何で逃げるために・・・・なぜ下に向ってドリルを掘った・・・何故・・・」

 

シモンの言っていることは理解できない。

しかしその言葉の端々から滲み出る悔しそうなシモンを皆初めて見た。

いつもはどんな状況でも何とかしようとする、シモン。しかし今のシモンは「顔神」の中の遺体に向って、もうどうにもならないことを告げているように見えた。

しかしシモン自身、今の自分の言葉に首を横に振った。

 

「いや・・・違うか・・・俺だってそうだった。ラカンとの戦いでこれを見せられたとき・・・もし、ブータが居なければ・・・ニアの言葉が過ぎらなければ・・・絶望に飲まれていた・・・。俺も同じだったかもしれない・・・。お前たちが・・・ブータみたいに・・・あの人みたいに・・・迷ったロージェノムを殴ってやれたなら・・・まだ道は続いていたかもしれないのに・・・・」

 

自分も一人で戦っていた時に、絶望に飲まれて暴走したことがあった。

だから自分も目の前の過去の戦士と同じかもしれない。だが、シモンはもう一度首を横に振って否定する。

 

「そうだ・・・俺には殴ってくれる人が居たから・・・、心強いダチ公達が居たから俺たちは勝った!! 俺たちはこのドリルを明日に向って掘りぬけた!! 掘った先に在るものを掴み取ったんだ! それをお前に・・・お前たちに見せてやる!!」

 

シモンは決意した。

その目に宿った瞳を木乃香は見たことがあった。その目は自分の良く知っているシモンの目だった。

 

 

「全てを思い出したら・・・・・いや・・・俺が帰るとき・・・お前を一緒に連れて行く! それまで待っていろよ・・・そしたら・・・今度来た時は・・・」

 

 

その時、シモンはまた何かを思い出した。

握り締めたコアドリルを見て、頭の中に誰かの言葉を思い出す。

この感じは知っている。

不快な気分がまったくしない。

ならば間違いなく自分の知っている記憶だ。

コアドリルに封じられた過去の絶望の記憶ではなく、自分が知っている自分自身の記憶だと分かった。

 

ニアのときと同じだ。

 

その言葉を思い出すだけで心の奥底から強い想いが込み上げてくる。

 

 

(そうだ・・・・俺は誓ったはずだ・・・・誰と? ・・・アイツに・・・・アイツ? そうだ・・・俺は・・・約束した・・・)

 

 

蘇ってくるのは、旅立ちの時の誓い。

 

 

―――螺旋族として、失った仲間や、女、そして貴様らの先祖たちに、掴んだ明日とまだ見ぬ世界を見せてやれ! それが貴様の役目だ!

 

 

それは男同士の誓いだった。

自分にコアドリルを餞別に渡してくれた友との約束。

 

(アイツと・・・・拳をぶつけて・・・誓った・・・たしか・・・アイツは・・・)

 

自分を送り出した誇り高き男は言っていた。

 

 

「ヴィラル・・・・・・・・」

 

「「「「はっ?」」」」

 

「ぶむ!?」

 

「・・・・・・・・・・・いや・・・・・・・あれ? なあ、ヴィラルって誰だ?」

 

「はあ~~? 今お前が言ったんじゃんかよ!」

 

「う~ん、ウチも知らんな~」

 

「・・・・ヴィラル・・・・・いや・・・・そうじゃなくて・・・そうだ・・・俺は・・・・・・・たしかに・・・・約束したんだ! 誓ったんだ! 俺はアイツに託して・・・・アイツは俺に託したんだ!」

 

 

そう、男は言っていた。

 

 

―――キサマらグレン団の創ってきた道は預かった。後はまかせろ! だから今度はキサマ自身の道を創れ!!

 

 

その時シモンの口元に不意に笑みがこぼれた。

 

 

「そうだ・・・俺の役目は・・・俺の創る道は・・・遠い過去と今日を明日へ・・・・未来へ繋ぐ道を創ること・・・後から続く者達を見守りながら・・・それが俺の役目だ!」

 

 

それは何かを思い出せたからだ。

そして何を思い出せたのか?

それは簡単なことだった。

 

 

「ようやく分かった。俺がお前に出来ること・・・それは・・・文句を言うことじゃない。お前に・・・お前が見たかったお前の世界の明日を見せてやることだったんだ・・・」

 

 

突如流れた自分に向って叫ぶ獣人の男の言葉を思い出し、シモンは笑って「顔神」の中に居る戦士に拳をグッ突き出して叫んだ。

 

 

「お前たちの見られなかった明日を見せてやる! 俺がお前を本当の故郷の世界に連れて行ってやる! それまで、待ってやがれ!」

 

 

ニヤリと笑みを浮かべて力強く言うシモン。

それは目の前にある「顔神」の中に眠る戦士だけに言ったのではない。シモンが力強く握り締めたコアドリルに眠る魂たちにも向けた言葉だった。

 

「シモン君・・・・君は・・・一体・・・・」

 

その様子に瀬田たちは少し驚いたように見ていた。いきなりどうしたのだ? といった表情である。

しかし木乃香だけはこのシモンを知っている。

 

(そうや・・・・シモンさんの言っとる事は、よう分からんけど・・・普段の優しいシモンさんもそうやけど・・・・この・・・自信に満ち溢れて何かを決意した目・・・そうや・・・これが・・・ウチの知っとるシモンさんや!)

 

ようやく自分の知っているシモンを見られた気がした。木乃香は思わず微笑んでしまった。

そしてシモンはそれだけを告げ、コートを翻して「顔神」に背を向けた。

その背中には、シモンの誇りの炎のマークが燃えているように見えた。

 

「また来るぜ! 螺旋の友よ!!」

 

己の役目と誓いを思い出したシモン。

この日、シモンはこの世界で記憶を失ってから最も自分自身に力が湧いてきた気がした。

 

「ふっ、何があったかは知らないけど・・・・・」

「そうだな・・・いい事があったんだろうな」

「なんかさ~、アイツらしいな~♪」

「そうですわね。私を助けてくれた時のシモンさんも、あんな感じでしたわ」

「うん! そ~やな~♪」

 

瀬田たちはシモンの背中に、確固たる強い意思を感じ取った。その背中を目に焼き付けながらこの場を後にした。

 

「なあ、ところでシモンさん・・・その・・・記憶なんやけど・・・」

「・・・いや・・・・それは・・・まだだな・・・」

 

木乃香が、早足でシモンの隣に駆け寄り、少し聞きにくそうに聞いてきた。しかし「残念ながら」といった表情でシモンは首を横に振る。

 

「でも、・・・ここに来て良かった・・・大分頭の中で整理出来てきた。俺の三つの記憶を・・・」

「えっ・・・三つって?」

 

しかし木乃香が落ち込む前に、シモンは笑顔を見せた。

 

「ああ・・・まっ、細かいことを気にするな! ちゃんとお前のことも思い出す。俺にはもう分かるんだ・・・その日は近いってことがな!!」

 

シモンの三つの記憶。

それは過去の螺旋族とアンチスパイラルの記憶。

大グレン団の記憶。

そしてもう一つが、目の前で首を傾げている木乃香やネギたちとの出会いの記憶である。

そして今日シモンは誓いと自分の役目を思い出した。誰との約束だったかは鮮明に思い出せないが、その誓いは絶対に裏切れぬものだと自分の心が叫んでいた。

だからこそ、今日シモンは宣言したのである。

全てを思い出してからまた来ると、自信に満ち溢れた表情で告げたのである。

 

 

―――行って来い、ハダカザル!! 

 

「ああ、行ってくるぜ!!」

 

 

名を思い出せぬが、心に刻み込まれた友との誓いを思い出したシモン。

 

 

 

シモンが全てを思い出す日は近い。

 


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