魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「いや~~、すっかりメンバーが華やかになったね~」
「ったく、・・・まさか、こんな状況になっていたとはな・・・私も昨日の拳闘大会を見たが、シモンの周りは騒がしそうだな・・・」
飛行機を操縦しながら、瀬田は後部座席に座る三人を見ながらおかしそうに笑った。
後部座席にはシモンを真ん中にして、右に木乃香、左にエミリィが並んで座り、そして飛行船の直ぐ真横ではサラがメカタマから目を光らせて中の様子を見張っていた。
すると瀬田の笑いに、エミリィがムッとして食いかかった。
「いい加減になさい犯罪者! 大人しく自首して、シモンさんを解放しなさい!」
「だから、エミリィ誤解だって! 俺は最初から瀬田さんたちが賞金首だって分かってて行動している」
「ですが!? だからといって、あなたがここにいる必要はありませんわ! このままではあなたまで、犯罪者になってしまいますわ!」
「エミリィちゃん・・・ちょ、落ち着いてな・・・」
「木乃香さん! あなたこそ、黙ってシモンさんから離れなさい! まさか・・・昨日は気づきませんでしたけど、あなたが・・・・いえ、あなたたちがゲートポートを襲った犯人だとは思ってもいませんでしたわ!」
エミリィは賞金首である瀬田や木乃香に明らかな嫌悪感を示した。それはただシモンが絡んでいるからではなく、彼女自身の正義感からの行動だった。
「シモンさんがあなたたちの知り合いというのも、信用できなくなりましたわ! 美空さんのこともそうです! お二人のような方が、犯罪者の仲間であるはずがありませんわ!」
「せ、せやから・・・・それは誤解で・・・・」
「誤解なものですか!!」
エミリィの言葉が機内に響き渡る。その言葉に瀬田は苦笑し、そしてハルカは「ヤレヤレ」といった感じで溜息をし、そして木乃香は困った表情でオロオロしていた。
しかしエミリィがそれ以上何かを言う前に、シモンが先に止めた。
「それまでだ、エミリィ」
「なっ、・・・シモンさん!? あなたは・・・・この人達を信用するのですか!?」
「ああ、そうだ・・・俺は少なくとも信じてるよ?」
シモンの当たり前のように言う言葉にエミリィはショックを受けている様子である。
「犯罪者か・・・そうでないか・・・この世の道理が未だに分からない俺にはどっちでもいいよ。グラニクスでは俺も・・・奴隷制度に逆らったからな・・・・」
「シ・・・・シモンさん・・・・」
「でも・・・瀬田さんも、ハルカさんも、そしてサラも俺は信用している。そして・・・・木乃香の気持ちも本物だ。俺には分かる。だからそれ以上は言わないでくれよ。俺は何も問題ないからさ!」
「で、ですが・・・・」
「それに事実が真実とは限らないさ。真実は・・・みんなの本当の姿はお前のその目で確かめろ!」
そこまで言われてエミリィは少し俯きながらこれ以上言わずに黙ってしまった。
そしてシモンの言葉に木乃香はパアっとうれしそうに笑顔になり、瀬田とハルカも上機嫌だった。
「ふふ~ん、シモン君もやるね~」
「いきなり、この機体に体当たりして中に進入してきたジャジャ馬を相手に大した手綱捌きだな」
どうやら二人も満更でもないようだった。
するとしばらく俯いていたエミリィも顔を上げて、シモンの言葉に頷いた。
「・・・・・分かりましたわ・・・・私は彼等ではなく、シモンさんの言葉を信じます・・・・」
「本当か!?」
「エミリィちゃん!」
「ただし!!」
「「「「?」」」」
「ただし・・・少しでも妙なマネをしましたら、アリアドネーの警備隊の意地にかけて、あなた方を逮捕します! シモンさん・・・今はそれでよろしいですか?」
「ああ、十分だ」
エミリィの譲歩にシモンが頷くと、ホッとしたように瀬田たちも笑顔になった。
「はっはっは、それじゃあ改めてよろしくだね~、エミリィちゃん♪」
「まっ、裏切らないように気をつけるさ」
「よろしくな~、エミリィちゃん!!」
「あまり馴れ馴れしくしないで下さい!!」
少し照れながらも、最低限の壁を作るエミリィだった。
「それで・・・あなた方はどこに向っているのですか?」
「そういえば、俺も知らなかったな・・・」
「ウチもや・・・」
途中行き先が分からない、エミリィが聞くとシモンも知らなかったらしく、エミリィは呆れた表情をした。
すると瀬田が変わりに答えた。
「ふっふっふ、・・・この世界で未だに謎が解き明かされていない・・・顔神遺跡と呼ばれているところさ!!」
「「「顔神遺跡?」」」
シモンたちがその珍妙な名前に首を傾げてしまった。どう考えてもおかしい名前だ。
しかしエミリィは違った。
「それって・・・・顔神と呼ばれる御神体のある遺跡のことですか?」
「おや、エミリィちゃんは知っているのかい?」
「ええ、・・・・だって・・・そこ・・・私の家が保護下に置いている土地ですもの・・・・」
「「「「へっ?」」」」
瀬田ですら本気で驚いて首を傾げてしまった。
「え、・・・それじゃあ・・・・え~っと・・・たしかその遺跡を所有している家はセブンシープとかいう名家で・・・」
「ええ、私の名前はエミリィ・セブンシープですわ。所有しているのは遺跡ではなくその土地と、森林の抜けた先にある村ですけど・・・」
「「「「ええええーーーーーーッ!?」」」」
あまりにも意外な偶然に、瀬田とハルカも素で驚きの声を上げたのだった。
その頃、オスティアからシモンたちが一旦離れた頃、二人の少女が囚われの身の中、苦しんでいた。
彼女たちは時間の感覚が分からなくなっていた。
あれから一体どれほどの時間が経ったのか、頭の中で整理できないで居た。
痛みの取れぬ肉体。
鎖で繋がれた四肢。
少なくとも自由を奪われた自分たちの状況だけは理解できた。
「・・・ココネ・・・・・起きてる・・・?」
美空は薄暗い部屋で体を鎖で繋がれたまま、自分と同じように体に傷があり、自由を奪われているココネに視線を送る。
するとココネも俯いてはいるものの、声に反応して小さく頷いた。
「うん・・・・大丈夫・・・」
声に元気は無いが、少なくとも無事であることは理解して美空は少しホッとしたような表情になる。
「そっか・・・・しっかし・・・・まいったね~、どうも・・・・」
「ウン・・・・また、負ケタ・・・・」
お互い深く溜息をついて、数日前の出来事を再び思い出す。
しかし、途中でやめた。
体が震え、思い出すのも恐ろしくなるぐらいだった。
「かっ~~、まいったね~、・・・・まさか、あのおっさんが、あんなに強かったとはね~・・・それに・・・マジで・・・死ぬかと思ったしね・・・」
美空も能天気な口調であるものの、僅かに体が震えていた。
冒険王を探すために走り出した彼女たちが途中で出会った賞金稼ぎたち。成り行きで戦うことになったが、それでも最初は優勢だった。自分たちの修行の成果が感じ取れた瞬間だった。
しかし状況は一変した。
隊長と呼ばれた男が真剣な顔つきになった瞬間に、突如姿を変貌させて、自分たちを完膚なきまでに叩きのめした。
その瞬間は今でも覚えている。
ココネも僅かに体が震えている。
しかし後一歩で自分たちを始末しようとした瞬間に、彼の仲間の三人が挙って隊長の男を宥め、自分たちは一命を取り留めた。
しかしそれ以来、こうしてどこかも分からぬ牢獄の中で繋ぎ止められ、今日まで過ごしてきたのである。
すると不意に自分たちの居る牢獄に気配が近づいてきた。そこには食事を二人分持ってきた小さな亜人の少女が居た。
「うむ、まだ生きているようネ」
「・・・パイオ・ツゥ・・・・」
パイオ・ツゥと呼ばれた少女。それは美空たちの命を救い、今日まで監禁された彼女たちを世話してくれた少女である。
「まっ、もう少し生きていてもらうネ。隊長もちょっと企みがあるようだから、それが解決すれば・・・・」
悪名高い賞金稼ぎたちとは思えぬほど、砕けた少女だった。いや、彼女だけでなくあの日戦った者たちは、何だかんだで、どこか憎めない者たちばかりだった。
しかしパイオ・ツゥが隊長と言った瞬間、美空も顔つきが変わった。
「・・・・・アイツ・・・・あんたたちの隊長さんって何者? あれ・・・マジで半端なないんだけど・・・・」
「モフフフ、虎の尻尾を踏んで怯えたか? まあ・・・分からないでもないが、隊長は怒るとああなるよ」
ニヤリと笑みを浮かべてパイオ・ツゥ自身もあの日に見た隊長、即ちチコ☆タンのことを思い出す。
「私も部長から聞いた話しなんだが隊長は・・・大戦記の頃は、怒り任せの暴れる魔人だとか鬼だとか恐れられていた」
「・・・・・怒り?・・・・」
「沸点が非常に低く、僅かな衝撃だけでブチ切れて触れるもの全てを破壊しつくす手の付けられない暴れ者だった・・・・紅き翼に負けるまでは・・・」
「・・・ほ~、そりゃあスゴイ・・・・あんな化け物を倒したか・・・・・さすがっすね・・・・」
「うむ・・・それ以来隊長は歴史の表に出る事無く、人の姿で身を隠し細々と生きてきた・・・・。唯一の弱点である沸点の低さも、人の姿で居るうちはなんとか押さえられていた・・・もっとも、怒り任せの暴力が封じられてしまった所為で、力は格段に落ちたが・・・・」
「へっ・・・・それを私たちが破っちまった・・・ってことか・・・・無理なことするもんじゃないね~~~」
美空はチコ☆タンと戦う時、突然彼から禍々しいほどの空気を醸し出した後、姿形を変え、変貌した姿と荒々しい力で自分たちを叩きのめした時を思い出す。
余りの力差に寒気が出た瞬間だった。
すると再び足音が聞こえてきた。
パイオ・ツゥも含めて振り返ると、そこにはチコ☆タンがいた。
急な出来事に美空もココネも体を震わせる。すると仲間であるはずのパイオ・ツゥも少しビクビクしているぐらいである。
そして一歩一歩近づいてくるチコ☆タン。その姿はいつもと変わらない・・・わけではない。
明らかに異変が起こっていた。
チコ☆タンは人の姿のままだが、一点だけ違う部分があった。それは額から表皮を突き破り、太く尖った角が一本伸びていたのである。
そして心なしかチコ☆タンの体はかなり震えている。
明らかに普通ではなかった。
「すす・・・すまない・・小娘よ・・くっ・・・くっく・・このようなじょ、状態・・・です・・・済まないな・・・一度変身をすると、しょ・・・少々落ち着かなくてね・・・」
口を開いたチコ☆タンは喋ることもままならないほどである。自分の頭を押さえながら、紳士的に振舞おうとするが、どうしても不自然さが抜け出せない。
「本来なら・・・仕事を邪魔した君には極刑もやむなしだが・・・くく、君は実についている・・・とんでもない大物と繋がってるのだからな・・・・だから安心したまえ・・・君はエサだ・・・それまでは殺さない・・・」
美空とココネは恐怖を感じながらも、勇気を出して近づいてくるチコ☆タンの顔を見上げた。すると初めて会ったときの印象は欠片も無く、角が皮膚を突き破り伸び縮みしながら、口を三日月のように広げていた。
「そうだ、私は冷静だ。・・・はは・・・ここ、殺したりなどせんさ!!」
まったく安心できない言葉に美空は背筋が震えた。
(ぜ、全然冷静じゃねえ!?・・・・・人型だから耐えてるんだろうけど、角が隠せていない・・・あれが完全に伸びきったら・・・・また・・・ドカンだ・・・)
美空とココネはゾクリとしながらも後僅かな刺激でブチ切れる寸前のチコ☆タンを刺激しないように心がけながら、口を開く。
「エサって・・・・誰をおびき寄せる気っすか? たった数人の冒険王一家を呼び寄せるには・・・最近助っ人が出入りしているみたいだけど・・・・・」
美空はここ数日、チコ☆タンたちの下へ訪れる拳闘家、もしくは賞金稼ぎのような姿をした見知らぬ者たちを何人も目撃した。それだけの助っ人を使って何をする気なのかと、美空が尋ねると、チコ☆タンは不気味な笑みを浮かべながら、一枚の手配書を美空に見せた。
「これだ・・・・、ゲートポートのテロリストの一味もおびき寄せる」
「こ、これは・・・ネギ君!?」
チコ☆タンの見せた紙に美空は度肝を抜かれた。そこにはネギだけではない。アスナや刹那を初め、自分のクラスメートたちがそこにいた。
「き、君の素性を調べたよ・・・・まさか君が、サウザンドマスターの息子の生徒だとはな・・・」
「えっ!? ちょっ、ちょっと待ってよ! 何でこの手配書の子供がサウザンドマスターの息子って分かるの?」
ゲートポートでの事件の事は、美空も知っていた。しかし、ネギたちの写真は公開されたものの、正体不明のテロリストとして、名前は公開されていなかったはずだ。美空が疑問に思い、尋ねた。
すると、チコ☆タンの顔つきが少し変わり、角が少し伸び、顔の皮膚に徐々にヒビが広がっていった。
「待て・・・・だと?」
「・・・へっ?」
「わ、分かるの・・・だと?・・・・き、君は・・・ふふ・・・き、きみ・・・は・・・」
そして顔から笑みと震えが消え去り、チコ☆タンはもの凄い形相で美空の顎を片手で掴んだ。
「き、きみ・・は・・・て、てめえは・・・・テメエは誰に・・・・、誰に向ってタメ口聞いてやがるんだ、ゴルアアア!!!」
「――――ッ!?」
「まだ、立場が分かってねえんじゃねえかァ? 小娘がァァ!!! それともそのクソッタレた脳みそ掻き出して詰め替えなきゃ理解出来ねえほど、腐ってやがんのかァァ!!!」
チコ☆タンは変貌した。
その姿はまるで凶暴な獣のごとく美空を睨みつけ、今にも美空を殴り飛ばそうとしている。
しかし、その姿に震えながらも、パイオ・ツゥ、そして騒ぎを聞きつけたモルボルグランたちが一斉に止めに入った。
「隊長、落ち着いて! 今エサを殺したらダメだよ!」
「そうだぜ! せっかくの大捕り物で、名のある連中も来てるんだ! ここで、おびき寄せるエサを殺しちゃあ意味ないぜ!!」
必死にモルボルグランたちはチコ☆タンを止めに入り、美空に攻撃が及ぶことは無かった。
今の子、グリニデ閣下を知ってるかな?