魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第163話 この日の行動が世界を大きく変える

祭りの本番は次第に近づいていた。

多くのものがオスティアに集結するに伴って、北と南の連合勢力も続々とオスティアに訪れていた。

そんな中、メガロメセンブリアの元老院議員リカードの下に一つの通信が届けられた。

執務室で通信を受け取るリカードは、その内容に思わずイスを倒して立ち上がった。

 

 

「あっ? 黒い猟犬(カニス・ニゲル)? シルチス亜大陸のか・・・・だが、奴らはやり方は非道だが一応正式な賞金稼ぎ共だろ? 何をそんなに心配する必要があるんだ、・・・セラス?」

 

『相変わらず能天気ね、そういうところは昔と変わらないのかしら?』

 

「へっ、変わる事がいい事ってわけでもねえよ。大戦のころは、あんなに可愛かったお前さんも今じゃあすっかりおば・・・『リカード(怒)?』 ・・・すまん・・・話の腰を折った・・・本題に入ってくれ・・・」

 

 

通信越しから伝わる怒気に少し冷や汗を流しながら、リカードは旧友でもあるアリアドネー魔法騎士団総長セラスからの通信を受けていた。

 

『まあ、本来はこの程度のことでワザワザあなたに連絡などしないのだけれど、少し気になることがあってね・・・ウチの騎士団の調査で、ある男が動いているという報告があったわ・・・』

「ある・・・男?」

『ええ・・・あなた・・・アレクサンドル・ザイツェフという男は知っているかしら?』

 

セラスの言葉を聞いて、リカードは少し眉を顰めた。

 

「知ってる・・・つうか・・・去年の拳闘大会の準優勝者だろ? 一応覚えてるが・・・あいつ、拳闘士だけじゃなく、賞金稼ぎもやってたのか・・・・だが、そいつがどうかしたのか? 去年見たが、それほど慌てるほどの奴でもねえだろ?」

 

思っていたほどの脅威でもないと思ったリカードは、肩透かしを食らったかのようにもう一度イスに座った。

しかし一瞬の間を置いて、セラスが口を開く。

 

『ええ・・・私も去年見たわ・・・そして別に気にも留めてなかったわ・・・・我が騎士団が黒い猟犬(カニス・ニゲル)を調査した時の報告を聞くまでは・・・』

「あん?」

『恐らく去年の大会は・・・我々にその真の姿を見せないために、準優勝で甘んじたのでは無いかしら・・・私も報告を聞いた時は驚いたわ・・・』

「・・・・・どういうことだ?」

 

セラスの口調に何かを感じ取ったリカードは少し身を乗り出した。そしてセラスの言葉にリカードの表情が変わった。

 

 

『アレクサンドル・ザイツェフ・・・・この名は偽名よ。本名は故郷特有の恥ずかしい名前・・・・普段は策士家気取りの臆病者のクセに変身すれば全てが変わる、・・・・性格も・・・・力も・・・手が付けられなくなる化け物・・・・私も二十年ぶりだったから去年見たときは気づかなかったは・・・』

 

「っ!? ・・・・そうか・・・そういうことかよ・・・」

 

 

リカードは全てを理解したのか、イスの背もたれに体を預けながら、天井を見上げてボヤいた。

 

 

「・・・・ふん・・・チコ☆タンか・・・紅き翼に敗れた怪物が・・・二十年経って今更、何企んでやがるんだかよ・・・」

 

 

口元に笑みを浮かべながら、リカードは少し懐かしそうに言った。

 

『今年は例年以上に動員数が大きい式典だから、当然警備にも人が割かれるわ。あの男が何をするつもりかは分からないけど、警戒だけはしておきなさい』

「ああ、・・・ワザワザすまねえな。そんじゃあ式典で会おうな」

 

軽く一言別れを告げて、リカードは通信を切り、少し溜息をついた。

そして誰も居ない執務室で小さく呟いた。

 

「ふん、・・・チコ☆タン・・・こんなフザケタ名は歴史に埋もれて、もう二度と聞くことはねえと思ってたんだがよ・・・・」

 

リカードの呟きに答えるものは無く、只疑問だけがそこに残った。

だが、一瞬静寂が訪れたと思った執務室に、即座に新たな通信が入ってきた。

 

「ったく、今度は何だ? おう、俺だ! 一体何の・・・・・・・あん? ・・・・・・そうか・・・・・発見したか・・・・」

 

体を起こして、舌打ちしながらリカードが通信を受け取ると、一瞬で顔色が変わった。

 

「ああ・・・・報告ご苦労だったな・・・・至急他の騎士団たちと連携を取り確保しろ・・・気をつけろ、相当手ごわいらしいからな・・・・冒険王の一家は・・・・ああ、・・・頼んだぜ?」

 

リカードは通信を終え、更に深い溜息をついて体を投げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして再びオスティアの街へ移る。

ますます入国者が増え、行列が出来る中、シモンは両脇を固められながら一つの店を探していた。

 

「・・・・別に逃げないよ?」

「うう~~、そなんやけど、ちょっと離したら、シモンさんがまたどっか行ってしまいそうやから・・・・」

 

木乃香は顔を赤らめながら、シモンから離れすぎないようにピタリと隣に並んでいた。そして反対側には木乃香に協力するように、または対抗するように刹那が固めていた。その行動にシモンが照れて苦笑いしながら後ろを振り向くと、アスナやネギたちが笑いながら「諦めてください♪」という表情でシモンを見ていた。

 

「しかし記憶を映像化でござるか・・・・その様な魔法技術があるとは・・・」

「でもこれで、シモンさんの事を知ることが出来るわね」

「でも、よろしいのですか? その・・・サラさんを待たなくて・・・」

「まあ、今アイツはお父さんとお母さんのところに居るからな・・・何かあれば直ぐ来てくれる・・・・」

 

シモンは昨日出来なかった自分の用事を済ませるために、オスティアの街中をうろついていた。

 

「でもシモンさんの記憶か~~、グレンラガンとかカミナさんとか・・・・あ・・あと、・・・ヨーコさんの戦いも見れるんですよね? 凄い楽しみです!」

「ったく、アンタってばヨーコさんを見たいからって、このマセガキは! ・・・でも・・・私も見たいかな・・・昔のヨーコさん・・・そしカミナさんも・・・」

「うむ、・・・拙者らの恩人でござるからな・・・カミナ殿は・・・」

「えっ? 恩人って・・・・俺のアニキは随分前に死んだって・・・・」

「ああ!? シモンさんは気にしなくてもいいの♪ 私たちの話だから~」

 

自分たちの前に現れた憧れであり、目標でもある女。それがネギやアスナ達にとってのヨーコ。

そして学園祭で時空間の狭間に囚われた自分たちを、奇跡を起こして救ってくれたのが、カミナ。

そして・・・

 

「ウチらは・・・・シモンさんをどこまでも支えたニアさんを・・・・」

「はい・・・・ニアさんが、どれほどシモンさんを救った方なのか・・・どれほど愛された方なのか・・・本当に知りたいです」

 

死してなお、記憶を失ってもなおシモンの心の中で生き続けるニア。

木乃香、そして刹那のもっとも超えねばならない女性を早く知りたいという気持ちが逸り、シモンに絡ませた腕に力を入れた。

だが、そこで一旦立ち止まり、シモンは木乃香を見下ろしながら告げる。

 

「俺は・・・別にニアという子とお前たちを比べるつもりはないよ・・・・でも・・・・・・んっ?」

 

するとシモンが何かを言い終える前に背伸びした木乃香が人差し指をシモンの唇に当てて、それ以上何も言わせなかった。

 

「大丈夫や・・・・シモンさんの気持ちは・・・ちゃんと分かっとる。ウチらはウチら、ニアさんはニアさんや。・・・・せやけど・・・・ウチらの好きな人が好きな人のことを知りたい思うのは普通やろ?」

「木乃香・・・・・」

 

木乃香は一度ハニカンで指を離して、再び前を向き、少し早足で離れシモンの前を歩いた。

その後ろ姿が少し寂しそうだったが、表情を見ることは出来ず、代わりに後ろから刹那、そしてアスナにシモンが抓られ、一言呟かれた。

 

 

「「シモンさんのバカ・・・」」

 

「うっ・・・・・」

 

「まったく、・・・それでも諦めきれないから木乃香もがんばってんのよ?」

 

「シモンさんが私たちに教えたんですよ? あきらめないことを、・・・無理を通して道理を蹴っ飛ばせと・・・お嬢様は・・・あきらめきれないんですよ・・・あなたのことを・・・」

 

 

ジト目でにらむアスナ、そして刹那は小さく「私もですよ?」と呟き、二人の言葉がシモンに何かを感じさせた。

 

(まったく・・・俺にどうしろって言うんだよ・・・・いや・・・今考えても仕方ないか・・・)

 

少女たちの想いに、自分はどうすればいいのかと迷ってしまった。しかし直ぐに首を振って考えるのをやめた。

 

「そうだ・・・・そして・・・それをもう直ぐ知ることが出来る。・・・・・・おっ、ここだな」

 

そして一つの店の前まで辿り着いた。

店の看板にはデカデカと「LAKAN FILM」と書かれていた。

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」

 

五人はあえてツッコミを入れずに、そのまま店内へと入った。

そして店内に入ったシモンたちに気づき、店主が揉み手をしながら近づいて来た。

 

 

「いらっしゃい、アンタがシモンという方ですかい? 話はオーナーから聞いてやす」

 

「「「「・・・・・・オーナー・・・」」」」

 

「ええ、ラカンオーナーですよ! ようこそいらっしゃいました。ここは人の記憶を読み取って、どんなうれし恥ずかしの記憶も映像にして鮮明に、見れちゃう、知れちゃう、作れちゃう、LAKAN FILM! ささ、こちらへ・・・」

 

 

ラカンから話が通っているらしく、男は手招きをして、シモンたちを奥の部屋へと導いた。その途中の廊下では、ラカンのポスターが様々なバージョンで貼られていた。

 

 

「ラカンさんがオーナーって・・・ラカンさんは隠居していたんじゃないんですか?」

 

「ええ、そうですぜ~。だから昨日店に来たのも数年振りです。しかしオーナーは手広く色々な事業に出資だけして、金儲けをしてるんすよ。拳闘家で名を馳せたオーナーはそれを映画やドラマ化にして売るだけで、金がワンサカ入るって寸法ですぜ。どうすか? 今お勧めはオーナーが自由を手にするまでのドラマ、GFR! グレート・ファイター・ラカンがお勧めですぜ?」

 

「・・・うわあ・・・意外とチャッカリしてるわね・・・あのおっさん・・金には厳しいし・・・」

 

「意外やわ~」

 

 

ラカンの影の副業に呆れた顔になりながら、シモンたちは導かれるまま部屋に案内された。

そこには、一つのイスにたくさんのコードが、すぐ傍にある一台のPCのような装置と繋がっていた。

 

「ささ、座ってくだせえ。これでアンタの記憶を年単位で読み取って、読み取ったデータを、フィルムに保存して初めて映像が見れやす」

「どーゆう原理なの?」

「う~ん・・・多分、意識シンクロの魔法や夢を読み取る魔法・・・もしくは、のどかさんのアーティファクトのように、相手の心を強制的に読み取る力が記憶になったバージョンだと思います。頭の中にある記憶の底にある最も純粋な原記憶を魔法で読み取り、それを装置が受け取るんじゃないでしょうか?」

「? ・・・まっ、細かいことはよく分からないけど、便利な道具ってわけね?」

 

まったく話の内容は分からなかったが、アスナもどうせ理解できないだろうと判断し、これ以上聞くのはやめ、黙って見ることにした。

そしてシモンはイスに座り、頭や指にコードの付いた装置を装着され、目を瞑った。

 

「さて、読み取る記憶はどれぐらいにしやす? 」

「・・・約・・・八年前から・・・・・・所々省いて構わないから・・・出来るか?」

「ええ、勿論ですぜ。フィルムにするには二日ほど掛かかりやすがいいですかい?」

「ああ、それで頼む」

 

シモンの言葉に頷いて男は装置を稼動させた。その瞬間、小さな魔方陣が幾重にも浮かび上がり、シモンの周りで光った。

 

「ビデオカメラいらないわね・・・これがあれば・・・魔法世界のムービーメーカーね・・・」

「でも、高そうですから・・・・」

 

時間にして一~二分、それほど大した時間ではない。そして光が収まった瞬間、店主が立ち上がった。

 

「・・・・・・はい、もういいですぜ」

「えっ? もう?」

「もう終わりなん? それで、シモンさん・・・何か変化あったん?」

 

もう少し掛かると思ったのだが、意外と早く終わったことに驚きつつ、アスナ達がシモンを訪ねると、目を開けたシモンも首を傾げた。

 

「いや・・・特に何もなかったけど・・・・」

 

少しその言葉にがっかりしたものの、店主の男は笑った。

 

 

「いやいや、これは記憶を呼び覚ます魔法じゃなくて、記憶を読み取る魔法だから、これによって何かが変わるわけじゃありやせん。その代わり、覚えているものだけでなく、忘れたものに関わらず、記憶を映像にしてみることが出来やす。期限は二日ほど・・・丁度祭りの初日には間に合いますぜ?」

 

 

結局今日記憶が蘇ることも見ることも出来なかった。しかしそれでも確実に一歩近づいたことだけは分かった。

ようやく全てを知る日が決まったのだと思い、店主に礼を告げてシモンたちはそのまま店の外へ出た。

 

 

 

この日の行動が、事態を少し妙な展開へと導くことを知らずに・・・・・・。

 


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