魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「な、・・・何を言ってるんですか? た、たしかに木乃香さんたちはチョット怖かったかもしれませんけど・・・だからってそんな・・・・」
「そ、そーよ!・・・シモンさんにそんな冗談似合わないわよ! それに・・・たしかに木乃香たちも少し度が過ぎてたけど・・・それだけシモンさんを想っての事だし・・・、それをわざわざ木乃香たちに向って言わなくても・・・」
ネギもアスナもシモンの言葉が理解できずにただ、悲しそうにシモンを見る。だが、楓だけが何か異変を感じ取った。
(おかしい・・・、シモン殿が冗談でもあのような事を言うはずは・・・・。いや・・・そういえば・・・拙者らと再会した時のシモンさんは驚いていたというよりも・・・・・戸惑っていたような・・・・・。・・・・まさか・・・)
そして、重苦しい空気が漂う中、木乃香はフラフラとおぼつかない足でシモンに歩み寄り、震えながらシモンの服の裾を指先で軽く摘んだ。
「シモンさん・・・・ウチら・・・シモンさんに嫌われたんかな~?」
「ちっ、ちがッ!?」
そう、違う。
シモンは純粋に覚えていないのである。
だが、木乃香はそれを勘違いしてしまった。
「ウチらに・・・会いたなかったから・・・ずっと来てくれなかったん?」
「そうじゃないんだ! そうじゃないんだって!」
「ごめんな・・・・ウチ・・・・またシモンさんのことをよく知らんのに・・・勝手に・・・」
「違う! いいから俺の話を・・・・・ッ!?」
俯く木乃香の肩を掴んで必死に訳を言おうとするシモン。
しかし顔を上げた木乃香を見て、息を呑んでしまった。
まるで絶望に叩き落されながらも、必死に懇願しようとしている表情だった。
「お、・・・お願いや・・・・ウチ・・・これ以上シモンさんに・・・き、きらわれ・・・たない・・・もう、怒らんから・・・おね・・・ぐすっ・・・がいや・・・、そんなこと・・・ゆうて・・・ウチをイジメんといて・・・・」
木乃香の言葉はシモンに深く突き刺さった。
自分がどれほど目の前の女を傷つけたのか。
自分がどれだけ好かれていたのかを理解した。
笑ったり、怒ったり、泣いたりと、シモンの事でこれほどまでに感情を露にする木乃香を見て、何も後悔せずには居られなかった。
そして刹那も同じような顔をしていた。だからこそ、木乃香の目を見てハッキリ言うのだった。
「ごめんよ・・・でも・・・心配しないでくれ・・・そんな事は無いから」
「ひっぐ・・・う、・うぇ?」
シモンは木乃香の肩を力強く掴みながら、真っ直ぐな今の自分の言葉を言う。
「大丈夫だ! こんなに想われている子を、俺が嫌いになるはずが無い。だから・・・信じてくれ!」
「うっ・・・ぐすっ・・・ひっぐ・・・・せやけど・・・いま・・・」
「うん、俺が悪かった。たしかにあんな事をいきなり言われたら、怒っちまうよな?」
シモンは申し訳なさそうに笑った。
苦笑の笑顔だが、それもまたシモンらしい苦笑だった。そのシモンらしさが、木乃香の心をようやく落ち着かせた。
「シモンさん・・・ひっぐ・・・どうゆうことなん?」
「今・・・その訳を教える。俺に何があったのかを・・・・だから聞いてくれ。そしてお前たちもだ!」
シモンは刹那、そしてネギ、アスナ、楓を見る。
「だから、お前たちも俺に・・・・教えてくれ、俺が忘れた俺の事を」
「「「「――――ッ!?」」」」
今のシモンの言葉に全員が顔色を変えた。そして楓は小さく「やはり・・・」と呟いた。
「ちょっ、シモンさん・・・・忘れ・・・・えっ?」
「な、なに・・・シモンさん、どうしたん?」
「わ・・・我々を・・・からかっているのですか?」
シモンの言葉の意味を理解できなかった。いや、意味は分かったのだが、理解できない。それほどまでネギたちは動揺していた。
そして、今のシモンの言葉でサラもエミリィもハッとなって思い出した。
「ああ! そ~いや~お前・・・そうだったな~。バタバタしてスッカリ忘れてた・・・」
「ええ、・・・すっかり忘れていましたわ・・・当の本人である貴方は、まったく気にした様子がありませんでしたから・・・一ヶ月ぐらい前にシモンさんがアリアドネーに来た時の事故を・・・」
サラもエミリィも武器を降ろした。
エミリィも記憶喪失になってからのシモンとしか会っていなかったうえに、約一ヶ月ぶりに会ったシモンは、以前とまったく変わっていなかったために、どうやらすっかり忘れていたようだ。
「なっ、どういうことです!? じ、事故って・・・・一体シモンさん・・・あなたに何が!?」
「事故って・・・そもそも、シモンさんって一ヶ月前にこの世界に来たんですか!? それじゃあ僕たちと余り変わらないぐらいに・・・」
女たちの戦いが一時収まった瞬間、質問したいことが山ほど出てきた。
刹那とネギが、身を乗り出してシモンに問い詰めると、シモンはとりあえず今の現状を説明することにした。
「俺は・・・・アリアドネーで事故に合い・・・記憶喪失になっちまったんだ・・・・」
「「「「――――!?」」」」
開いた口が塞がらない、・・・そんな状況だった。
「そんな・・・・シモンさんが・・・私たちを覚えていない? き、・・・記憶喪失?」
「・・・うっそでしょ・・・記憶喪失って・・・」
「ほ、ほんとなん? それじゃあ・・・シモンさんはウチらの事も覚えてへんの? エヴァンジェリンさんのこととか・・・茶々丸さんとか・・・」
「ああ、・・・・ごめんな・・・・」
「「「「「―――ッ!?」」」」」
この世界に来てこれまで色々なことがあった。
それなりにつらい事もあった。
しかしこの事はそれら全てを凌駕した。それほどまでにネギたちはショックを受けていた。
「それじゃあ・・・京都のことは!? 僕たちが戦った学園祭は!?」
「ウチが・・・・海で想いを伝えたことは!? 学園祭でシモンさんとデートしたことは!?」
「私があなたと武道大会で戦ったことは!? 私があなたにその場で想いを伝えたことは!?」
「うっそでしょ・・・・・からかってんでしょ!? そうでしょ、シモンさん!?」
シモンに食い入るように押し寄せるネギたちだが、シモンは申し訳なさそうに首を振って一言「ゴメン」と言った。
「うそ・・・・そんな・・・・・」
それだけで自分たちを支えてきた何かが全て砕け散ってしまったように感じた。
「そんな・・・・ウチらのこと・・・ホンマに覚えてへんなんて・・・・そんなん・・・そんなん・・・あんまりや・・・・」
「告白して・・・フラれて・・・しかしそれでも諦めないことで我々は前に進めたと思っていました・・・あなたに近づけたと思っていました・・・・しかし・・・まだなんですか? そんなに・・・そんなにあなたは遠いのですか?」
「お前たち・・・・・」
「ううっ・・・シモンさんが・・・こんなにウチらの近くに・・・・こんな傍に居るのに・・・すごく遠い・・・」
木乃香と刹那はこれ以上どうすればいいのか分からないような表情でシモンを見ていた。
その表情を少し見ただけでも、シモンの心が痛んだ。自分がどれほど悲しませたのかを改めて実感した。
そしてネギたちもそうだった。
「そんな・・・・それじゃあ、僕たちだけじゃなく・・・シモンさんはヨーコさんやグレン団の皆さんたちのことも・・・・」
シモンが記憶喪失。
自分たちの事を何も覚えていない。
それはとても悲しいことだった。
ずっと会いたいと想っていたその男は、自分たちの事を覚えていない。
先ほどまでの心の高ぶりが、一瞬で落とされたような感覚だった。
しかし・・・
「えっ・・・ヨーコ? ・・・・・」
「・・・・シモンさん?」
「あっ・・・いや・・・その・・・う~ん・・・ヨーコ・・・」
ネギが呟いたヨーコの名前に何故か反応した。そして何かが頭の中で引っかかって考えた。
(ヨーコ・・・・ヨーコ・・・・う~~ん、すごく大切な・・・いや・・・ん? ブータ・・・・あれ? ブータの感触・・・・柔らかさ・・・弾力・・・何か・・・何か思い出せそうな・・・)
「ぶ、ぶい?」
肩に乗るブータを撫でながら「ヨーコ」という名前を考えていると、何気なく撫でたブータの柔らかさ、揉み心地が何かをシモンに思い出させようとした。
そしてやがて頭の中で形になっていくのは、はち切れんばかりに揺れるセクシーな女が持っているデッカイ山。
だが、そのイメージが出来上がる前に、シモンは現実に引き戻された。
「シモンさん・・・何でウチらを覚えてへんのにヨーコさんの名前に反応するん?」
「・・・えっ?」
いつの間にか顔を涙で腫らしながらも、目を据わらせてジト目で木乃香と刹那が睨んでいた。
「うあっ・・・・いや・・・その・・・」
「しかもブータさんを揉みながら・・・ヨーコさんの何を思い出すところだったのですか? やはり・・・・胸ですか!?」
「いや、そうじゃ・・・いや・・・そうなの・・・かな~?・・」
「「シモンさん!?」」
その瞬間、木乃香と刹那がポカポカとシモンを叩いた。
「も~、ずるいえ~~、そら~、ヨーコさんはウチらなんかとは比べられんほど美人でナイスバディやけど」
「ええ、やっぱりずるいです!」
「い、いたたたた。もう、勘弁してくれよ~」
その瞬間、場の空気が少しだけ軽くなった気がした。
自分たちを覚えていないのに、ヨーコの名前に反応したことから、強固な絆を感じて、少し嫉妬してしまった。
だが、軽く叩いただけでクスリと笑ってしまった。
「せやけど・・・・、やっぱシモンさんはシモンさんやな~~、ウチらを覚えてへんのは悔しいけど・・・ヨーコさんたちが特別ゆうところは変わっとらんな~」
「ええ・・・・この様子では・・・ニアさんのことも・・・」
「えっ・・・・ニア・・・・・・ニア!? ニア・・・・ニア・・・・」
「やはり反応するんですね?・・・まったく・・・あなたという人は・・・」
「うん・・・・ライバルいっぱい、いすぎや~~~・・・・」
案の定ニアの名前にも反応を見せた。
二人は呆れたようにため息をつくが、逆に少し安心した。
自分たちの最大のライバルは、やはり記憶喪失という障害にも負けないぐらい、シモンの心の中で強く残っている存在なのだと想ったからだ。
木乃香も、軽くため息をつきながら、頭をコツンとシモンの胸に預けながら、告げる。
「ん、わかったえ! ほならウチらがこれからシモンさんが一体どんだけ凄い人やったのかを教えたる!」
そして木乃香に頷くように刹那たちも苦笑しながら、シモンに告げる。
「ええ、・・・そしてもう二度と忘れないで下さいね?」
「まっ、そ~よね~、大体シモンさんには責任大きいんだから。しっかし、シモンさんが記憶喪失って・・・・でも、直ぐに思い出させるからね♪」
「うむ、待ってる女を泣かせたのは、どのような理由でも重罪でござるからな~」
「はい、だから聞いてください。シモンさんのことを・・・そして僕たちにとってシモンさんがどんな人だったのかを」
木乃香や刹那、そしてネギたちも、何となくシモンらしさを感じ取れ、少しだけ気持ちが軽くなったのだった。
そしてこのやり取りを眺めていた彼女たちも肩の力を抜いた。
「ふ~、・・・・仕方ありませんわね、一時休戦ですわ。・・・貴方もそれでいいですわね?」
「うん、まっ・・・そ~だな~。しっかしヨーコって誰だ? あと・・・ニアって・・・あいつ何人居るんだ?」
「よろしいのですか、お嬢様? あの子達に取られてしまいますよ?」
「ええ、・・・・ですが・・・・私だって、ようやく会えたシモンさんに、もしあんな事を言われれば傷つきますわ・・・ですから今日は・・・・」
「そーかもな~、まっ、今日は泣き虫に免じて大人しくしてやるか~」
「立派です、お嬢様」
「べ、別にそんなことありませんわ!・・・・・それにしても、彼女たちは・・・我々の知らないシモンさんを知っている・・・ということですわね・・・」
「そーだな・・・・」
サラとエミリィは唸りながら木乃香たちを見る。
(記憶を無くす前のシモンさんを知っている方・・・)
(・・・って事は私の知らないシモンを知ってんだよな~~、・・・あの写真の女のことも知ってんのかな?)
記憶を無くす前のシモンを知っている。そのことを二人はまるで大きく置いてきぼりを食らったように感じてしまい、少しつまらなそうな顔をした。
だが、エミリィはそこで首を横に振って暗い感情を振り払った。
「やれやれ・・・私たちも行きましょう・・・それに・・・シモンさんの記憶喪失の原因はアリアドネーですから・・・・」
「ああ、そーみたいだな? 私も一緒に居て何日か過ぎてようやく知ったからな~。アイツ、全然気にしてなかったからさ~」
「ふふ、でしょうね。なぜなら事故に合わせた張本人を笑って許してしまう方ですから・・・・そして、コレット? 何故コソコソしているのです?」
「うっ!?」
エミリィが笑いながら振り向くと、そこにはベアトリクスの背中に隠れてコソコソとシモンたちの様子を覗き見ているコレットが居た。
「だって~・・・あの子達・・・スゴク泣いてたから・・・・」
そしてコレットも自責の念からか、先ほどまで木乃香たちとシモンを巡る言い争いに興味心身で眺めていたが、木乃香やネギたちの様子を見て、自分がしてしまった事故の重大さを改めて思い知ったのだった。
「でも・・・言わなきゃいけないよね・・・私の所為なんだし・・・」
「そうですわね・・・、まあ・・・私も一緒に謝って差し上げますわ」
「えっ? どーして? 委員長関係ないじゃん?」
「そ、それは・・・やはり騒ぎを大きくしてあの子達を怒らせたのは事実ですし・・・べ、別にシモンさんのことなど何とも思っていませんのに、変な意地で・・・その・・・」
「えっ? ・・・・何とも思っていないって・・・むしろそれ今更? あんだけやって、まだ意地張って否定すんの?」
「・・・・・・・やはり一人で謝りますか?」
「い、いえ! やだな~、委員長~、すっぐ怒る~」
「まったく・・・・・・」
争う気も萎えてしまった。
一時はどうなるかと思ったが、これから何度も巻き起こる争奪戦の一回目もエミリィ、サラが身を引いて、この場は木乃香たちの勝ちという結果に終わった。
気づけばシモンたちも笑ったり、困ったりの顔をしながら談笑を初め、野次馬たちも自然と帰路についていた。
「それでは、ユエさんたちには悪いですけど、このまま私たちもシモンさんたちのところに寄って行きましょう・・・」
「は~い!」
「ええ、私もお供します
「仕方ねーから、私も行くか~」
エミリィたちはネギたちに囲まれているシモンの下へと向った。
こうなった事情を教え、そして自分たちの知らないことを知ってやろうと思い、アリアドネーの部隊の下へはまだ帰らず、シモンたちと一緒に行動することにした。
「・・・あら?・・・・」
「お嬢様?」
「あっ・・・いえ、・・・何でも・・・・ありませんわ」
そして途中でエミリィは何かに気づいた。木乃香やネギを見て、何かを考えるように唸り始めた。
(そういえばあの子達・・・・どこかで見たことあるような・・・・・どこでしたっけ?)
ネギたちの唯一の幸いは、エミリィたちがネギたちやサラの正体を知るのが、もう少し後になることだった。
シモンのことばかりで、結局任務を忘れてしまったエミリィが、ネギたちが賞金首であることを、この時はまったく気づかなかったのだった。