魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
木乃香は只走っていた。
本来ならアスナや刹那たちとは比べ物にならないほど身体能力の劣っている彼女だが、誰よりも速く飛び出し、誰よりも早く辿り着こうとしていた。
追いかける刹那も、ただ彼女と歩幅を合わしているだけなのかもしれないが、少なくとも後ろから追いかけているアスナやネギたちよりも木乃香はずっと前を走っていた。
治癒術士でも在り、魔法使いでもある彼女が普段これほど走ることなど無い。しかしそんなことなどお構い無しに、木乃香は一歩でも遠くに、一秒でも早く走っていた。
(シモンさん・・・・シモンさん・・・)
走りながら心の中で呟くのは愛しい男の名前だった。
歓喜、切望、怒り、嫉妬、様々な感情が数分前に過ぎったが、今の彼女には只少しでも早くにシモンの下へ辿り着きたいという想いでいっぱいだった。
やがて人ごみが向こうから押し寄せてきた。ソレは皆おそらく、格闘大会の観客の帰路なのだろう。
この向こうにシモンが居る。
そう考えるだけで木乃香は押し寄せる人ごみに一切の迷いも躊躇いも見せずに突っ込んでいった。
後ろから刹那の心配そうな声が聞こえるが構わない。そして刹那も意を決して人ごみを掻き分けて行く。
それを見たネギ、アスナ、楓も、お互い頷きあって前を行く二人の後へと続いた。
木乃香は少しずつコロシアムの入り口へと近づいていく。
そして先ほどまでの不の感情は一切忘れ、近づくにつれ、心臓の音が高鳴っていった。
もうすぐ・・・・この向こうに・・・・
学園祭からずっと帰りを待ち続けたあの男が居るのだと興奮を抑えきれず、ついには人ごみの列が途切れ、コロシアムの入り口の前まで辿り着いた。
「はあ・・・はあ・・・・はあ・・・・」
ようやく立ち止まって激しく息をつく木乃香。恐らくこれほど走ったことなど体育の授業でもないだろう。しかし木乃香は数秒息を整えただけで直ぐに辺りを見渡した。まるで迷子になった子供のように不安で脆さを兼ね備えた表情だ。
そしてその表情がある一定の方向で止まった。
そこには四人の女に囲まれて引っ張り合いをされている男が居た。
「だ~か~ら~、シモンはこれから私と一緒にパパ達の居るホテルに行くんだよ~~」
「ふ・ざ・け・な・い・で・下さい!! 私たちがここに来たからには、もうあなたの好きにはさせませんわ!」
「そーそー! これからいっぱい話したいこともあるんだから、離してよ~!」
「兄貴さん・・・兄貴さんはお嬢様や私たちを、また置いて行きませんよね?」
三対一、いやエミリィ、コレット、ベアトリクス組対サラ+メカタマだった。メカタマがシモンの右腕を引きずって帰ろうとした瞬間、三人組がシモンの左腕を掴み、引っ張り合いとなっていた。
「お、お前たちィ~~~!? 腕が・・・腕が外れちまう!? いい加減に離してくれよ~~!?」
周囲には、帰らずこの争いに注目している野次馬たちも囲んでいた。
先ほどの戦いの続きだと思って、どちらが勝つのか賭けをしているぐらいだった。
「俺は戦乙女たちに300!」
「俺はメカタマに250!」
「兄ちゃん! 男ならハッキリしろよな~!」
まるでシモン争奪戦だ。
木乃香はその光景を、唇をかみ締めて眺めていた。
(何言ってるん? その人は・・・その子らのモノやない! シモンさんは・・・シモンさんは・・・)
拳を強く握り締め、複雑な感情を抱いたまま肩を震わせながらも、木乃香は野次馬で囲まれた争奪戦に大声で口を挟んだ。
「シモンさん!!!」
「「「「!?」」」」
「「「「「「「!?」」」」」」」
「・・・・・・・・へっ?」
騒ぎが一瞬でピタリと収まった。
その言葉にエミリィとサラも動きを止めて思わずシモンの腕を離してしまった。
「お、お嬢様・・・ようやく・・・・あっ!? ・・・・・シ・・・モン・・・・・さん」
「木乃香も刹那さんも速すぎ~~~! ・・・・・って・・・・・・あっ・・・・・」
「シモンさん・・・・」
「・・・・うむ・・・・間違い無い様でござるな」
静まり返るコロシアム正門前にて、ようやく辿り着いた刹那、アスナ、ネギ、楓がシモンを見て固まった。
少し呆けた表情でこちらを見ている男・・・・
そこに居るのは間違いなくシモンだった。
「シモンさん・・・・・」
やがて木乃香が声を震わせながら一歩ずつ前へ出る。少しとぼけた顔をしているが、ずっと求め続けていた男が直ぐそこに居る。
「ウチな・・・シモンさん・・・あんな・・・・」
話したいことはいくらでもあった。
問いただしたいことも山ほどあった。
しかしそれらは、今この瞬間はどうでも良かった。
もう、木乃香にとっては細かいことに過ぎなかった。
(ずるいな~、シモンさん・・・何も聞けん・・・・シモンさんがそこにおるだけで、全部どーでもよーなったわ・・・・ホンマずるいえ・・・)
言葉の代わりに涙があふれ出た。シモンの隣で呆けてこちらを見ているエミリィもサラも気にならない。
木乃香はもう一度全力で走り出し、ついに焦がれていた男の胸へ飛び込んだ。
「シモンさん!!」
「えっ?」
「「「「なぁ!?」」」」
「「「「「「「なああにィィィッ!!!??」」」」」」」
正門前で全員が一丸となってどよめき始めた。
彼らからしてみれば、争奪戦に新たな女が参戦したと思ったのだろう。皆声を出して驚いている。
しかし木乃香は心の中で反論する。
自分が一番なのだと・・・自分が一番最初なのだと。
そして溜まりに溜まった想いの全てを、ようやく捕まえたシモンにぶちまけた。
「シモンさん、シモンさん、シモンさん、シモンさぁぁーーんッ!!」
「えっ? えっ? えっ!?」
「「「「――――ッ!!??」」」」
「「「「「「おおおおおおおお!!!!」」」」」」
シモンの首にしっかりと腕を回し、木乃香は正面からシモンに抱きついた。
そして涙で染まった頬を何度も何度もシモンの顔に頬ずりをして、シモンの存在を確かめた。
「えええーーーん、シモンさぁぁん!! 会いたかったぁ~~~も~~~ん!!」
「ちょちょ、ちょっ・・・ええっ!?」
抱きつかれたシモンはあまりの急展開に反応に困っていた。
しかし木乃香は気にしない。
大方シモンが照れているのだろうと思い、構わず今はシモンの存在を確かめるように、まるで尻尾を振る子犬のごとく、何度も何度もシモンに体を摺り寄せた。
(シモンさんや・・・・この土の匂い・・・ほっとする感覚・・・シモンさんや・・・シモンさんがここにおる! 今こうしてシモンさんがここにおる!!)
木乃香は止まらない。涙と喜びでごっちゃになった顔で、何度も何度もシモンの顔に自分の頬をすり合わせた。
「うう、・・・シモンさんのいけず~~、どうしてもっと早く来てくれなかったん? どうして傍に居てくれなかったん?」
「あ、いや・・・・えっと・・・・」
「ウチはこんなに・・・・こんなにシモンさんを好きやのに・・・どうしてウチらの傍に居てくれなかったん!? どうしてウチらを置いてきぼりにしたん!? どうして・・・どうしてもっと早く来てくれなかったん!?」
「えっ・・・え~~っと・・・その・・・えっ、・・・スキって・・・」
シモンの思考は追いつかなかった。余りの突然の出来事に目をパチクリさせていた。
しかし恋する女は止まらない。今よりもさらに抱き付く手に木乃香は力を込め、ギュッとシモンを離さない。
「もう絶対絶対ウチはシモンさんから離れん!! ウチはもう絶対にシモンさんを離さん!! 改めて分かったんよ・・・ウチは・・・もう、ウチが想っとる以上に、ウチの想いは大きいて・・・、あれからな・・・いつもシモンさんの事ばかり想っとる・・・前から変わらんほど・・・いんや、シモンさんと離れ離れになってから、もっと大きくなっとる・・・ 」
「あの・・・その・・・」
「えへへ・・・シモンさん・・・・大好き・・・・」
「――――ッ!?」
今までガマンして溜め込んだ全てを放出し、まるで誰も相手にならないぜ! とばかりの、甘えモード全快の木乃香の怒涛の求愛行動にシモンは固まってしまった。
今の木乃香は正に無敵モードだった。
何でも出来た。
そして・・・・
「んん~~~~、すりすりや~っ♡」
「――――ッ!?」
「「「「ぶふうううううう!!!???」」」」
「「「「「「「はあああああああッッ!?」」」」」」」
「えへへ~~、ガマンしてたんやからこれぐらいのご褒美は許してな♪ もう一度・・・んん~~~~♡」
涙目で頬を赤らめながらも精一杯ハニカンで、木乃香はシモンに頬ずり。
その瞬間真っ赤になったシモン、そしてサラやエミリィたち、そして野次馬たちですら盛大に噴出して、この展開に呆気に取られていた。
「ぶいいい~~~!」
「あっ、ブータ君! ブータ君も久しぶりやな~~」
「ぶいっ!」
「ん~~、よしよし♪ ブータ君も相変わらずシモンさんにベッタリやな~」
「ぶみゅっ!」
シモンの肩によじ登り、手を上げて木乃香、そしてネギたちに向ってブータは鳴き、ネギたちもうれしそうに手を振っている。
シモンと違いブータは当然ネギたちのことを覚えている。
ブータはネギたちが魔法世界に居たことは随分前から分かっていたが、シモンの記憶喪失やニアミスな会話の連続を目の当たりにしていたため、相当歯がゆい日々を送っていたのだが、ようやく再会できたことに、体中で喜びを表現していた。
そしてブータの事を知っている木乃香。
これがシモンにある一つの答えに辿り着かせた。
だが、・・・その答えを言う前に、また新たな少女が参戦してきた。
そう、まだまだこれで、終わりではなかった。
「まったく・・・お嬢様ばかりずるいです・・・」
「・・・・えっ?」
振り向くとそこには、頬を膨らまして少しすねた表情をした刹那が指でシモンの服の裾を軽く摘んでいた。
「私だって・・・・ずっと・・・・待っていたんですよ?」
「・・・・・・・・・・・・えっ?」
「「「「「「「・・・お・・・おお・・・・増えた・・・・・・・」」」」」」」
そう、増えた・・・・刹那が加わった。
そして刹那はシモンの手の平を掴む。
そこにあるのは長年穴ばかりを掘っていただけに、肉刺が潰れたりしてゴツゴツしているシモンの手の平だった。
だが、刹那は構わずシモンの手を見てウットリしていた。なぜならこの手こそ、シモンの物である証拠でもあったからだ。
「シモンさん・・・♡」
刹那はシモンの指に自分の指を絡ませたり、そのまま掴み上げ自分の頬に摺り寄せたり、ついには軽く口づけまでしだした。
「お、おいおいおいおい!?」
刹那も普段冷静な彼女ならこんなことをしないのだが、最近壊れだし、感情も露にするようになり、何より今の興奮状態では気にならない。
シモンが慌てて手を引っ込めようとするが、刹那は手に力を入れて離さず、イタズラっ子のような笑みでウインクした。
「ダメです、ジッとしていて下さい。もう少し・・・・もう少しだけ・・・・弱い私たちで居させてください・・・・・」
「いや・・・・そうじゃなくて・・・・」
「~~~♡」
刹那は何度も何度もシモンを確かめるようにシモンの手を愛でたのだ。
だが、そんな甘々なフィールドが何時までも保たれるはずは無い。
シモンは恐る恐るエミリィとサラの表情をチラッと確認する。するとそこには激しい怒気をむき出しにして、プレッシャーを与え続けている二人が居た。
だが、木乃香と刹那はそんなプレッシャーを跳ね除けて、思う存分シモンを堪能していた。