魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第153話 逃げ出さな……無理

オスティア終戦記念祭

 

あらゆる人種、宗教、国境を越えて世界中から人がオスティアへ集まって毎年開かれる世界最大の祭典。

7日7晩、決闘、喧嘩、酒に、博打に、女に男、何でもありの大騒ぎ。

平和を願うといっても決してお堅い雰囲気は漂わず、老若男女獣魔問わずに行き交う人々に笑みが溢れていた。

そこはまるで夢の世界に見えた。

ファンタジーとかの類の言葉とは無縁のシモンだったが、きっとそれは今の目の前のような光景をそう呼ぶのだろうと思った。

アリアドネーやグラニクスとは違う、どこか神秘的な匂いと祭りの派手さで賑わい列を作る人や亜人の数々。

鳴り響く楽音。

そしてパレード。

街の至る所で行われているチンピラや拳闘家同士の賭けを混ぜた野試合。

まったくその光景に失った記憶とは繋がりを感じなかったが、目の前の祭りの光景は、シモンの目に焼きついていた。

 

「スゴイな~。これが祭りか~」

「ホント、ホント。しかも本番前だろ? さっすが終戦から二十周年とか言われてるだけあるじゃん?」

「ぶみゅう~」

 

まるでおのぼりさんの様に道の端っこでウロウロするシモンとサラ、そしてブータ。

二人一匹は現在、魔法世界最大の催し物に目を輝かせていた。

 

「おい、見ろよサラ! 噂のナギとかいう奴のポスターもあるぞ。どうやら本当にスゴイ英雄みたいだな」

「しっかしスゲー人ごみだよなー。後でパパたちと合流できるかな~?」

 

瀬田とハルカと別行動を取り、シモンとサラは並んで祭りの中を歩いていた。

シモンは一切の変装をせず、そしてサラは年齢詐称薬で大人の姿に猫耳と尻尾を生やして姿を誤魔化し、歩いていた。

そして二人の姿はパレードの仮装した人々などの様々な人種が行き交う中で、実に自然に溶け込んでいた。

瀬田の言っていたとおり、賞金首が簡単に侵入できるというのも納得できた。

 

「まっ、祭りを楽しむのも良いけど、早いとこシモンの記憶をどうにかしようぜ?」

「そうだな・・・どうせ七日もある祭りだ。今のうちに思い出せることは思い出しとかないとな」

「そーゆうことだ。あの写真の女についてちゃんと話せよな~」

「大丈夫だって。記憶を映像に出来るんだろ? なら、一緒に見れば答えは得られるさ」

「まっ、そ~だな~」

 

サラは少し早足でシモンの前を歩く

その表情は少し複雑だった。

目の前の祭りを楽しもうという気分も今はならなかった。それだけシモンの失われた記憶と、ニアの存在に少し気になっていた。

 

(ま、まあ・・・こいつに恋人くらい、いてもおかしくないんだよな~。意外とかっこいいとこもあるし・・・、でも・・・なんかモヤモヤすんな~)

 

周りには家族連れだけでなくカップルで祭りを回るものたちも多い。もし周りから見れば、今のサラとシモンならそう思われるだろう。

しかしサラはそれを自然と避けて少しだけシモンとずれて歩いた。何もシモンを知らない状態で間違われるのは何となく嫌だった。

しかし前を歩いているものの、足取りが軽いわけではない。シモンの記憶を知り写真に写っている女がシモンの大切な存在だと決定的な事実を押し付けられてしまうかもしれないという想いもあり、微妙な気分で人ごみの中を歩いていた。

 

(記憶戻ったら、・・・こいつはあの写真の女のところに帰っちゃうのかな~? パパはふざけて結婚とか言ってるけど・・・・)

 

シモンは一人でスタスタ歩こうとするサラに追いつこうとするが、サラもムキになって離そうとしていた。

 

「サラ? どうしたんだよ・・・・」

「べ、別に! な、なんでもないやい、あんまりくっ付いて歩くなよな~」

「でもはぐれるだろ?」

「うう、うるさい! 離れていてもちゃんとお前は私を守れ!」

「め、メチャクチャだ・・・・」

「お、お前に言われたくなんかねーよ!」

 

シモンの記憶は知りたい。しかし知りたくないかもしれない。二つの矛盾の感情が交わりながらも、足は一歩一歩前へと進んでいた。

しかし適当に歩いていたため、サラは無意識のうちに人混みを避けて歩いていたのだろう。

気づけば二人は町の中心から遠ざかり、島の外れまで来てしまった。

 

「ま、・・・・迷った」

「ま、まあ広すぎだからな・・・、俺もここは初めて来たみたいだからな」

「ふ~ん、ここって世界的にも有名そうな所なのに見覚えが無いって事は、お前は私たちの世界の人間なのかもな~。でも、お前みたいな奴、直ぐ有名になると思うんだけどな~

「うん、・・・アリアドネーもグラニクスも見覚えが無かった・・・見上げる空に星は見えるのに、前も後ろも見覚えが無い。・・・案外そうなのかも知れないな・・・」

 

二人は島のはずれから見えるオスティアからの景色を見る。そこは空しかなく、本当に空の上に居るんだと自覚させられた。

 

(世界が滅ぶ・・・奴はそう言っていた、だけど・・・それがこの世界には見えない。・・・でも、サラや瀬田さんの話を聞く限り、旧世界って場所もそんな大それたことは無いようなことを言っていた。・・・・だったら俺は・・・・あの写真の女の子は・・・・いや、それももう直ぐ分かるんだ。・・・・あの子が・・・どれほど俺にとって大切だったのかも・・・・)

 

これほどの壮大な景色に見覚えが無いというと、サラもシモンがこの世界の者ではないと思い始めた。

それはシモンも同じである。しかしそれももう直ぐ分かる。

かつてアリアドネーで頭の中に響いた言葉。それはアンチスパイラルの言葉。ロージェノムの言葉。そして大切な女の言葉。そして己とは何か? その全てを解き明かす鍵がすぐ傍にある

そして全てを知るということは、愛した女を失った悲しみをもう一度味わうことなのかもしれない。

だが、真実から目を背けるのは自分らしくないだろう。シモンはそう思った。

シモンはオスティアからの景色から背を向け、決意の目をした。自分の真実を知る覚悟を

横目でサラもシモンの決意を悟った。そしてこうなれば止められない男だということも、僅かな出会いから悟っていた。

だからこそ、サラも気は進まないが諦めて、進もうとした。

 

 

「行こう、サラ。俺は決して逃げ出さない・・・」

 

 

異を唱えることはしない。サラも少し寂しそうな顔で頷いた。

 

 

「うん、しょーがねーから、最後まで付き合ってやるよ」

 

 

美しい空からの景色に背を向けて、二人は歩き出した。

シモンもサラも、待っている真実を受け入れる覚悟で目的地へ向かおうとした・・・・・

 

 

 

 

 

しかしその時だった!

 

 

 

「だっはははは、ようやく出来たぜ! 自主制作映画、紅き翼戦記!!」

 

 

 

ひときわデカイ声だった。

しかもその声は聞き覚えがあった。

シモンもサラも動きをピタッと止めて、声がした方向へまるで機械のようにギギギと動かす。

 

「なあ、・・・シモン・・・

「い、いや・・・・聞き違いじゃないかな?」

 

二人の視線の先には一人の大男がいた。

長髪にトレンチコートとどこか紳士的な服装ではあるが、服の上からでも分かるほど盛り上がった筋肉がそれを台無しにした。

誰がどう見ても三度のメシより戦闘好きな第一印象の男。

そしてその男には見覚えがあった。

 

「さ~って、これの制作費はボーズにツケとくとして、アイツもそろそろ親父の事を知りたいだろうから、これぐらいのネタバレは用意してやらね~とな。流石俺様、親切だぜ!」

 

高笑いをする男。

シモンとサラは何度も目を拭いて目に映る男を確認した。

 

「おい・・・シモン・・・・あれ・・・・ひょっとして・・・」

「いや・・・・・ひょっとしなくても・・・・あの筋肉モリモリは・・・・間違いなく・・・」

 

サラは指を男に指しながらカタカタ震えていた。

シモンも顎がガクガク言いながら滝のような汗を流した。

 

「まあ、ボーズも修行を乗り越えて、嬢ちゃん達と再会できたみてえだし、俺からのご褒美ってことにしとくか。つっても金は取るけどな♪ ガッハハハハハ!!」

 

何度確認しても間違いない。

一度見たら忘れない。

一度戦ったら細胞にまで刻み込まれてしまうその存在。

 

「さってと、そろそろ・・・・・・あっ」

 

ジャック・ラカンがそこに居た!

 

 

「「あっ・・・・・」」

 

 

ラカンがこちらを振り返り、視線が交錯した。

シモンの姿を見て口を半開きにしてポカンとしていた。

そしてお互い呆然として数秒後・・・・

 

 

「「うわああああああああああァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」

 

「ブミュウウウウ!?」

 

 

シモン、サラの覚悟と決意も空しく、二人はソッコーでその場から逃げ出した

当てもなく、只遠くへと逃げ出した。

 

「ななななな、なんでアイツがいるんだよーーーーッ!?」

「し、知らない! でも、まずいな・・・あんな奴と二度と戦いたくない・・・」

「うううう~~~、来た瞬間にあんな化け物に会うなんて勘弁してくれよ~!? シモン、蹴散らせ!」

「バ、バカ言うな!? あんなもんと戦ったら街がメチャクチャだぞ!?」

「ちょっ、マジで勘弁しろよーーーーッ!?」

 

振り向く暇も無く二人は全力逃走を図ろうとした。

だが、瞬間に自分たちの上を飛び越えて、走る自分たちの前に男が現れた。

 

「「!?」」

 

立ち塞がれたシモンたちは肩をビクッとさせる。

そして対するラカンはニヤニヤ笑いながら口を開いた。

 

 

「おいおい、ヒデエじゃねえか~。 逃げることはね~だろ~?」

 

「くっ、・・・・」

 

「うう・・・逃げるに決まってるじゃんかよ・・・・・」

 

 

こうして対峙すると、相変わらずの桁違いの迫力だった。その実力を身をもって知っているだけに、恐れは前回以上に感じていた。

しかしシモンはサラを渡さないためにも、逃げるわけには行かない。

ラカンを睨みつけ、戦闘準備に入る。

 

「サラ・・・急いで瀬田さんを探し出せ! コイツは・・・俺が・・・・」

「バ、バカ!? んなこと出来るわけ・・・「おいおいおいおい! ちょっと待てよお二人さん」・・・・へっ?」

 

突然ラカンが両手を前へ出してシモンとサラを制した。その行動が意外でシモンもサラも首を傾げてしまった。

するとラカンから意外な言葉が出された。

 

 

「ったく、落ち着けよ。俺は今オフだ。ついでに言うと、もうお前らの首を取る必要は無くなった。当然親父さんとお袋さんのもな」

 

「「へっ?」」

 

 

サラや瀬田を捕まえに来たからこそ、シモンはサラを守るために戦った。そして今もその覚悟だったのだが、何とラカンは瀬田たちを、もう捕まえないと言ったのだ。これにはサラもアッサリ納得できなかった。

 

 

「ど、どういうことだよ!? お前は、私やパパを狙っていたから、シモンとあれだけ戦ったんだろ?」

 

「ふん、その様子じゃあ冒険王とやらもここにいんのか? チット興味はあるが、残念ながらこっちにも事情があってよ~。あれから確認したら首都の依頼に何か異変があってな・・・お前らの首は諦めることにした」

 

「「はあ!?」」

 

 

気づいたらラカンからのプレッシャーも消えていた。どうやら本当に自分たちを捕まえるつもりも、戦う気もないようだ。

 

「依頼の異変だと?」

「ああ、まっ考えるのはメンドクセーし俺もあれから色々と忙しいことがあったからな。まあ、そーゆうわけだ。シモンには色々と仕返ししてえこともあるが、今は無しにしてやるよ」

 

ラカンはケタケタと笑いながら二人の肩を叩いた。

あまりにも意外な展開にシモンもサラもしばらく固まっていた。

 

 

「しっかし、嬢ちゃんの方は、エラく美人になったじゃねーか。これが幻術か? 俺の弟子も正体隠すために使ってるが、見事なもんだぜ」

 

「な、・・・・なんだよ・・・恥ずかしいから見んなよ・・・」

 

「しかも猫耳とはな! アレか? 語尾にニャンとか付けてんのか? 守ってくださいニャンとか言ってんのか!」

 

「バ、バッカやろーーーッ!? 何で知って・・・じゃなくて・・・その・・・・フガアアア!?」

 

 

毛を逆立てて怒るサラを、ラカンは爆笑しながらあしらっていく。

シモンはその光景にホッとしたのか、深い安堵の息を漏らした。

 

「とにかく、・・・・お前と戦わなくていいんだな?」

「まーな、ちっと残念だが、まあ俺も弟子の面倒やら親友の娘の相手で忙しくてな。それにメンドクセー理由を除けばテメエとは酒でも飲みてえからな」

 

ラカンが何の含みも無く歯を出して笑ったことにより、シモンも最悪の事態を免れたことに肩の力が抜けた。

そんなシモンにラカンは大笑いしながら肩を組む。

 

「ったく、ビビるんじゃねえよ! 一応俺に勝った男だろーが」

「い、いや・・・俺にも記憶が・・・・気づいたときはベッドの上だったし・・・」

「なんだ、そーなのか? 一応俺はあれから歩いて帰ったけどな」

「ちょっ、お前は歩いて帰ったって・・・シモンのドリルで穴開きだったじゃんか!?」

「まーな! 内臓がぶっ飛んでて大変だったぜ!」

 

とても笑えないような出来事を笑って語るラカンの器の大きさを改めてシモンとサラは感じた。

 

「とにかく最悪の事態にならなくて良かったな」

「そーだな、これで心置きなくオスティアで過ごせるぜ」

「まっ、安心しろや! だが・・・・・・う~~ん・・・・」

 

シモンとサラが一安心して、ラカンに別れを告げてその場を立ち去ろうとした時、ラカンが顎に手を置いて唸りだした。

 

「どうしたんだよ?

「いや・・・せっかくお前と会えてこのままにしておくのも勿体ねえと思ってな・・・・・」

 

非常に嫌な予感がした。

 

「そうだ☆」

 

シモンとサラはお互い同じ思いだったらしく、急いでその場を立ち去ろうとしたが、ラカンが一瞬速かった。

 

「なな、なんだよ、もう私たちは狙わないんだろ!?」

「まあ、そーなんだが、これじゃあツマんねーだろ? ちょっとお前らに・・・俺の弟子のライバルになってもらうぜ♪」

「何言ってんだ、俺たちにはやることがあるんだよ!?」

「まーそーゆうな。殺し合いをした仲だろ♪」

「ちょっ、はーなーせー!?」

 

ラカンがニコッと笑うが、その笑みからは不安な事しか想像できず、二人はズルズルとラカンに拳闘大会が行われるコロシアムへと連れて行かれたのだった。

 


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