魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第151話 いずれ始まる伝説のキッカケ

 

「ゆけ、砂蟲!!」

 

 

パイオ・ツゥの合図と共に、地中の中からおぞましい触手を幾多も吐き出しながら魔獣が現れた。

 

 

「ひゃーーーーッ!?」

 

「気持ち悪イ」

 

「あんなもんに、ネップリ舐められたら女として終わりだーーッ!? ココネ、なんかやって!」

 

「ワカッタ」

 

 

異形の魔法世界の魔獣を前にして、その見かけから鳥肌が立ち、迫ってくる触手からココネを脇に抱えて逃げる美空。

そしてテンぱる美空に抱えられたまま、ココネは冷静に魔力を集中させていく

ココネが手持ちのロザリオのほとんどを投げつける。その数は約百を超える。

そしてバラバラだったロザリオが列を創り、巨大な聖なる十字を模った。

 

 

「祈りよ交わレ・・・十字の道に! 聖なる十字架(クリスクロス)!!」

 

 

巨大なロザリオがまるで剣のように砂蟲に突き刺さる。

 

 

「ムフォオ、ヤラレタネ!?」

 

「むっ、・・・一撃とは・・・」

 

 

裏の世界に生きる者達には眩し過ぎるほどの聖なる光。

そして強力さ。

その力を顔色一つ変えずに無表情で振り下ろすココネにチコ☆タンたちは鳥肌が立った。

 

「ぼぼぼ、僕は十字架には弱いんだよ~~!? 骨だし魔族だし!

「ちっ、この小娘どもがァーーー、そろそろ俺の本気を・・・・・ッ!?」

 

トカゲ男のラゾがココネの魔法に驚きつつも、急いで体勢を整えようとした瞬間、目の前にはもう一人の少女が迫ってきていた。

「やるねえ~~、さっすがココネ!!」

「美空、ソッチは任セル」

「任せな!!」

 

 

真っ直ぐ高速のスピードで向かってくる美空。

だが、ラゾは一瞬油断したものの、すぐ冷静に頭を働かせる。

 

(速い・・・と言いてえが、動きが単調だ・・・真っ直ぐ向かってくるとなりゃあ・・・カウンターの餌食だ!)

 

やはり曲りなりにもプロである。

一瞬で頭を切り替えて、真っ直ぐ向かってくる美空に狙いを定めて右拳を力強く握り締めた。

 

 

(へっ、悪いな嬢ちゃん・・・恨むなよ!)

 

 

美空のスピードをプラスしてカウンターを放てば、美空の全身の骨は粉々に砕けるだろう。しかしラゾはプロとして、一度獲物と認識した相手には容赦しない。

 

「今だ!!」

 

ラゾが豪腕を繰り出そうとした・・・その時だった。

 

「どうかな?」

「何!?」

 

美空が微笑んだ。

そして単純に真っ直ぐ向かって来ていただけの美空の足が複雑に交差し始めた。そしてその足捌きに伴って上半身が右に左に揺らぎ始めた。

 

「こ、これは!?

 

目を疑った。

高速のスピードを一切に緩めずに美空が目の前で分身した。

それは分身の術でも魔法でもない。美空のスピードと動きが見せた幻に過ぎない。

 

「なな、なんだ!? ゴ・・・ゴースト・・・・」

 

しかしラゾの動きは硬直した。

 

「これがクロスオーバーステップを混ぜ込んだ走法! グレンゴースト!!」

 

 

ただの速さではない。

相手に触らせない、それが美空の疾さ。

想定していた動きを遥かに超えた美空に、もはやラゾは対処方法など思いつかなかった。

そしてその疾さはスピードを保ったまま回転し、高速の渦を発生させた。

その瞬間ラゾは確かに見た。

竜巻の渦の中で少女の背中のサングラスを掛けたドクロのマークが意識を失う寸前最後に見た物だった。

 

 

「グレンライトハリケーーーン・キーーーック!!」

 

 

ハリケーンを思わせるほどの回転を加えた美空の強烈な後ろ回し蹴りは、亜人のラゾの腹に会心の一撃を食らわせて吹き飛ばした。

攻撃の軽さが欠点だったはずの美空の蹴りも、エヴァとの修行や、ココネの魔力供給を無駄なく扱い、学園祭の敗北から積み重ねてきた数ヶ月の力が宿った瞬間だった。

「ば、バカな!?」

「ちょっ、あの子、強すぎでしょ!?」

「ふ・・・ふん、だが・・・動きを封じればそれで良し!! ふんぬああ!!」

 

 

チコ☆タンは背中に汗を掻きつつも、拳を握り締め、大地を思いっきり殴った。その衝撃が大地に振動を与えて、亀裂が走った。

 

「うおっ!?」

「ふっ、足場がヤラれれば、走るどころか立つことすら・・・・むっ!?」

 

地面に振動が走り、美空の体が揺れそうになる

しかし美空は踏みとどまった。

体勢を崩さず、揺れる大地をしっかり自分の二本足で掴み、その場で上体を崩さなかった。

 

「高速のステップには・・・強靭なボディバランスが必要なんでね♪」

 

全身に力を入れて踏ん張りながら、美空は無理やり笑った。

「くっ、しかし踏みとどまることで精一杯なら、急に走ることは出来まい!! 今だモルボルグラン!」

「ゴメンねお嬢ちゃん、でも、少しガマンしてね!」

 

 

倒れなかった美空に感心しつつも、美空が走る動作に入るには若干時間が掛かると判断し、モルが六本の腕を伸ばし、動けぬ美空に襲い掛かる。

だが・・・

 

(お~~、こりゃあピンチピンチ・・・・あと、数秒は走る動作に入れないっすね~~。しっかし手ェ長ぇっすね~、そんでもって六本ってどんな化け物だっつうの・・・ってゆうか化け物か? だって魔族みたいだし)

 

鞭のように長い六本の腕をしならせて、攻撃が美空に向かってくる。

しかしその時の美空は、のん気に自分で自分の考えに心の中でツッコミを入れるほど余裕だった。

(う~ん、走れないっつっても、これ食らうわけには行かないんすよね~。ココネの魔力で身を守ってるとはいえ、やっぱ痛いしな~、おお! そうか、私って攻撃あんまり食らわないから打たれ弱いんだ! 今気づいたよ。今度修行の課題に加える必要ありっすね・・・ってそうじゃなくて目の前のこれはどうしよう)

 

 

複雑な動きで繰り出されるモルの攻撃は人間の格闘知識では当てはまらない。しかし美空には見えていた。

 

(なんか頭が・・・・ス~っとして来た)

 

そして美空は自然と握った両手を自分の胸の位置まで上げた。

踏ん張る足が動かなくても腕だけなら動かせた。

ここに至るまでの時間は、現実では0.2秒以下。そのコンマ数秒の世界で美空は極限に集中した。

 

「えっ、ウソォ!?」

「こ、これは!?」

 

賞金稼ぎたちが驚くのも無理は無い。

美空はその場で動かないまま、両手を動かすだけで、モルボルグランの攻撃を捌いていた。

決して力で力をぶつけるようなマネはせず、手の甲や手首の力と肘の動きを最大限に使い、真っ直ぐ向かってくる攻撃は、相手の拳を下から上へ捌いて、真上から振り下ろされたら真横に捌く。六本の動きに対して美空は二本の腕のみで可能にしていた。

何故美空に可能なのか? それは簡単だ。

 

 

(これがMAX? ・・・止まって見えるよ・・・)

 

 

自分が速く動けなくとも、相手の動きをスローモーションのように見ることが出来る。

動体視力などを遥かに凌駕する美空のデイライトと共に身に付けた力。

美空は完全に「ゾーン」に入っていた。

 

 

「これが、私の・・・・防御技、グレンスタンガン!!」

 

 

そして数秒後、揺れも収まり、美空は大地を両足で蹴る準備をする。

そして目の前に伸ばされたモルボルブランの長い六本の腕を掻い潜る光のルートを見つけた。

 

 

「デイライト!!」

 

「ウッソ!? これって何? 骨折り損?」

 

「バ、・・・よけっ・・・」

 

 

チコ☆タンが避けろと言う前にモルボルグランは、最初に美空に思いっきり蹴られた箇所をもう一度蹴り上げられていた。

 

 

「デビルライト・・・じゃなくって、グレンライトハリケーン・キック!!」

 

 

正にそれは手の付けられない速さだった。

 

 

「ふう・・・・」

 

 

タッチダウン・・・ではなく、ゴールテープを切ったと判断したのか、ようやく美空が軽く息ついた。

そして倒れたモルボルグランを見ようとした瞬間、美空は両手を押さえて蹲った。

 

「あいてててててッ!?」

「美空!?」

「いててて、気が抜けたら・・・ってウオッ!? 手から血がいっぱい出とるーーーッ!?」

 

いくら攻撃をなぎ払っていたとはいえ、魔族の攻撃を素手で相手して無事なわけが無かった。美空の手の甲や腕の皮が剥けて、血が滴り落ちていた。

ゾーンの集中が溶けた瞬間にどうやら痛みの感覚が蘇ったようだ。

しかしそんなオチャラけている今の美空を見ても、残ったチコ☆タンとパイオ・ツゥは攻撃しようとは思っていなかった。

 

「うぬぬぬぬ・・・・・・まさか・・・これほどとはな」

「どうするネ隊長!? このままじゃ、おっぱいが・・・・」

「いや・・・それはどうでもいいが・・・・ぐぬぬぬ」

 

仲間二人をやられて、パイオ・ツゥも操っていた砂蟲までやられて、これで本当に打つ手無しになってしまった。

すると美空は涙目で痛い両手を押さえながら、蹴り飛ばしたモルボルグランまで歩み寄った。

そして近づいて来た美空を見てモルボルグランは情けない声を出しながら笑った。

 

 

「いてててて、・・・いや~勇敢だね~、女の子にこんなに蹴り飛ばされたのは初めてだよ」

 

 

見た目は化け物だが、どこか憎めないモルボルグランの言葉に美空は涙目で無理やり、ニッと笑い、血だらけの両腕でガッツポーズを見せた。

 

 

「エヘヘへ、これぞ正に、肉を切らせて骨を断つってね♪」

 

 

一瞬目が点になった。

・・・と言ってもモルボルグランには目が無いのだが、一瞬呆けた後、盛大に笑った。

 

 

「ハハハハ、なるほどね~、骨身に染みて分かったよ・・・」

 

「だっはっはっは、私たちを一生覚えときな! 私たちこそ・・・・新生大グレン団さ♪」

 

 

横たわる相手に背を向け、美空は背中のマークを相手に見せ付けた。自分たちの存在をまるで相手に刻むかのように。

そして残りの二人を見る。その時ココネも美空の傍に駆け寄り、相手を見る。

 

 

「さあ、どうするんすか? 私としては痛いのは勘弁だから、冒険王の居場所を教えて欲しいんすけどね」

 

 

確かにこれでは瀬田たち四人組を捕獲するのは難しくなった。

これで冒険王瀬田の首を取るという目的もどう考えても失敗に終わったとも言える。

プロとして体が資本の彼らにとっては、これ以上無駄な争いは避けるべきだった。

しかしチコ☆タンは首を横に振った。

 

 

「驕るな・・・・」

 

 

そう、プロとしての意地がここで終わるわけにも行かなかった。

 

 

「娘よ・・・・・・これで只では済まなくなったな」

 

 

声を落としながらチコ☆タンは不気味な覇気を出して美空を睨む。

その質と雰囲気が、美空にこれまでとは違う別次元の力を感じさせ、思わず背中に汗を流した。

 

 

「へっ・・・元々転んでも只では起きない女なんでね・・・・」

 

 

美空は肌で感じ取っていた。

目の前の男が倒した二人よりも遥かに上回る力を兼ね備えていることを。

 

 

(さすが・・・隊長ってか? だけど・・・)

 

 

強力な戦士たちを束ねる部隊の隊長と呼ばれる男だ。その力は恐らく自分たちの予想を遥かに超えているだろう。

さらに今の美空、そしてココネには不安要素があった。それは美空の血が滲み出ている両腕と、魔力を放出して肩で息をしているココネを見れば一目瞭然だった。

残りは二人。

しかし二人も居るのだ。

 

 

「屈服しても、遅いぞ? こうなっては私自身も制御できなくなる。・・・正に・・・命を摘み取る力だ・・・」

 

 

チコ☆タンにも分かっていた。だが、そんな言葉を強がりで美空は笑って返した。

 

 

「へっ、無理せず道理に従っちゃあ、気合もクソもねえっしょ。私はみっともないところを見せても、誇りを汚す真似はしない!」

 

 

彼女もあくまでグレン団。単なる意地を捨てることは無かった。

 

 

「・・・・下がってろ、パイオ・ツゥ・・・・」

 

「む・・・・むむむ、・・・隊長・・・・やる気カ?」

 

 

構える美空とココネを鼻で笑い、前へ出る。その時、パイオ・ツゥは自分の仲間が出す禍々しい雰囲気に背筋を震わせた。

そして巻き添えを食らわぬように二人の倒れている仲間の下へと走った。

 

 

「隊長はどうやらマジだ。微乳は諦めたほうがよさそうネ」

 

 

いつもふざけた素振を見せるパイオ・ツゥもこの時ばかりは慌てて場を離れた。

 

そして振り返りながら、強烈な地響きを放ちながら姿を変えていく隊長の姿を見た。

 

 

 

「見せてやろう、黄昏のザイツェフの真の姿を・・・・変身だ!!」

 

 

 

それが脅しやネタではないことなど、大気の震えで理解した。

だが、美空とココネは逃げ出さない。

 

 

「アレをやるよ・・・・ココネ」

 

「分かっテル・・・」

 

 

奥の手を残しているのは相手だけではない。

自分たちグレン団のみに許された最終奥義を二人も使うことにした。

 

 

 

「「合体だァ!! 私を誰だと思ってやがる!!」」

 

 

 

二人の少女は神々しい輝きを見せた。

その光は、記憶にではなく、相手の魂にすら刻み込めそうな力強い光を放っていた。

 

 

 

これが新生大グレン団と黒い猟犬(カニス・ニゲル)の初めての喧嘩だった。

 

 

 

そしてこの二人の少女とこの部隊のぶつかり合いが、後に魔法世界の度肝を抜く出来事へ繋がることは、この時は誰も気づいていなかった。

 


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