魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第150話 伝染

多少の警戒はしていたものの、大したことは無いと思っていた。

 

我々はプロだ。

 

堅気ではないが、数々の実践と修羅場を潜り抜けてきた。

この身に纏った黒衣の姿を見ては、逃げる獲物をキッチリ捕獲してきた。

だが今日は名のある賞金稼ぎや騎士団たちを追い払い、我々の組織でも有名になってきた冒険王を捕獲するために向う道の途中だった。

相手は久々の大物と思い、皆いつも以上に気合が入っていただろう。

しかしこれは何だ?

 

「魔法の射手!! 今は微乳に興味は無い、大人しくするネ!」

 

指先から光弾を休み無く連発する。連続攻撃で相手の動きを制限させるのがこのパイオ・ツゥのいつも通りの戦法だ。

しかし・・・・

 

「見かけの胸より人は胸ん中ってね♪ ついでに、この脚線美を見て同じことを言えるかな? デイライト!! アン~ド、ダッシュ~~!!」

「!?」

 

少女は回避した。

無駄な動きも迷いも一切無く、予め走る道を決めていたかのごとく迷いの無い走りだった。

そして流星のような飛び蹴りでパイオ・ツゥを蹴り飛ばした。

俺たちがそれに気づいた瞬間、少女は既にそこには居なかった。

 

「このッ!? 小娘・・・・・なっ・・・・」

 

姿を確認した瞬間にはもう、そこにはいない。まるで流れ星のように現れて、相手にダメージを与えた瞬間、少女は目の前にいなかった。

 

「は、はやいよ!? 全然捕まえられない!?」

 

情けない声を出すのは異形の見た目とは裏腹に気が小さい、全身が骨の姿をした魔族のモルボルグラン。

しかしその魔族ならではの耐久力と長い六本の腕で、いかなる攻撃も防ぎ、繰り出す攻撃を相手が見切ることは不可能だった。

しかし目の前の少女は見切るどころか、一瞬でモルボルグランの懐に潜り込んだ。

 

 

「えっ、ちょっ、ちょっ!?」

 

 

リーチが長い分、懐に入られて戸惑うモルボルグラン。元々中距離戦で常に戦っていただけに急に巡り合った接近戦に即座に対応できずに、高速の少女にされるがままだった。

そして少女は懐で、一度しゃがんだかと思えば、その強靭な右足を天に向かって蹴り上げた

 

 

「キックうぅうう!!」

 

 

一瞬だが、モルボルグランの体が少女の蹴りで持ち上がった。

気の弱さと似つかない強力な戦闘力を誇るモルボルグランがアッサリ攻撃を食らうのを見て、思わず戦慄が走った。

 

「ガハハハハ、やるじゃねえか嬢ちゃん! 俺も久々本気を出すぜ!」

「お、落ち着けラゾ! モルよ、大丈夫か!」

 

モルが蹴り上げられたのを見て、人型でトカゲのような顔をした亜人のラゾが、少女に向かっていく。

するとラゾの言葉に口元をニヤリと笑みを浮かべて、少女はまた消えた。

 

「ちっ、逃げんなコラ!」

「落ち着けと言っているだろ! モルよ、大丈夫か?」

「いたたたた、あの子強いよ~~。内臓が飛び出るかと思ったよ~。と言っても・・・・内臓無いんだけどね~~~ッ、骨だから♪」

「スカルジョークなど言っている場合ではない! ここでモタモタしていると冒険王に逃げられるぞ!」

「うむ・・・こちらも油断したネ」

 

実力はあるが緊張感が無い部隊である。

しかし仲間を叱咤する隊長の男は、それなりに仲間の力を信頼していただけ、この予想外の出来事に、少し焦っていた。

そして少し離れたところから声がした。

 

 

「うん、モタモタしてるから、これじゃあ周回遅れっすよ♪」

 

「「「!?」」」

 

「もうこっちの準備は出来上がってるからね♪」

 

 

少女がウインクをして笑う。

すると少女の傍らに居るまだ明らかに子供の少女が、天に向かい、ロザリオを投げつけた。

 

 

「頼んだ、ココネェーーーッ!!」

 

「任セロ!」

 

 

途端に少女が天に放ったロザリオが光り輝き、五芒星の光が自分たち四人に照らされ、その光が一斉に振り下ろされる。

 

 

「五芒の星に裁かレロ!!」

 

「まっ、まずい!?」

 

「ちょっ、ヤバ・・・・」

 

「あの年齢の子ではまだ、おっぱいは無い! まな板ッ!!」

 

「そうじゃなくて!?」

 

 

四人が四散しようとするが遅い。

ココネの魔力によって創り出されたロザリオの星の裁きが、振り下ろされた。

 

 

「五星剣(ペンタグラム)!!」

 

 

そう、男は戸惑っていた。

突如現れた名も知らぬ二人の少女。シスターの服を身に纏い、背中には何故かサングラスを掛けた炎のドクロマーク。

『黒い猟犬(カニス・ニゲル)』賞金稼ぎ部門第17部隊隊長、黄昏のザイツェフこと本名チコ☆タンは予想外の出来事に戸惑いを隠せなかったのだ。

そしてまた一段階成長を遂げた美空とココネは実に堂々としていた。相手は間違いなく強敵なのだが、二人の想定外の実力で押し切った。

 

「ひゅ~~う、やるネ~」

「チョット・・・疲レタ・・・・」

「いやいやいやいや、十分だと思うっすけどね~~。この様子なら・・・・と言いたいけど」

「ウン・・・・」

 

そして油断もしていない。

二人はココネの放った魔法により、上がった土煙の中を、目を細めて睨みつける。

 

「ぐううう、やるではないか」

「う~む、しかし新たな乳コレクションに加えるのは・・・・」

「スゴイよ~~。僕、驚きすぎて目玉が飛び出そうだったよ。と言っても・・・・骨だから目玉は無いんだけどね~~♪」

「痛いからツッコム気にならねえな、・・・・だがっ、やってくれるじゃねえか、嬢ちゃん達・・・」

 

煙の中から四人は現れた。

完全に無傷とは言えないが、それでもまだ戦えることは美空とココネには分かった。

 

 

「へん、こっから、こっから♪ 冒険王の居場所は教えてもらうよん♪」

 

「次は・・・もっとスゴイのスル!」

 

 

自信過剰に思えるような二人の口ぶりからは、確かな自信を感じ取った。

だからこそ、チコ☆タンは目の色を変えた。

 

 

「ふっ・・・どうやら・・・・本気で狩に行ったほうが良さそうだな」

 

「そうだな・・・隊長・・・狩の時間だ」

 

「モフフフフ、まな板コレクションに加えるか・・・」

 

「あ~~、怖いよ~、でも生活掛かってるからやらないと・・・」

 

 

侮っていたわけではないが、評価を変えた。四人は目の前の二人をそれなりの実力者と見なし、プロの意地を見せようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、オスティア近辺の上空で、雲の中を一隻の艦体が移動していた。

南の学術都市、アリアドネーの戦乙女たちの待機する巡洋艦ランドグリーズと呼ばれるその艦は、戦乙女と数人の見習い生徒達を乗せ、真っ直ぐオスティアに向かって進路を取っていた。

 

 

「もう直ぐ生ナギに会えるかも~~、それに美空とも会えるかもしれないし、元気かな~~、ねっユエ♪」

 

「は、はあ・・・・コレットの友に会えるのは楽しみです・・・」

 

「まったく・・・・それは私の役目ですわ!」

 

 

腕を組み高圧的な態度を取りながら、エミリィは胸を張ってコレットに告げる。するとコレットはまるで耳にタコが出来るといわんばかりのため息をついた。

 

「あ~、はいはい、委員長の気持ちはよ~っく分かってますって、生ナギに会って、美空に雪辱でしょ?」

「ええ、・・・・とにかくライバルとの決着を付けてから、生ナギとの接触ですわ!!」

 

船の進む進路に向けて指を指すエミリィ。そんな彼女の後ろでベアトリクスが小声でツッコミを入れようとするが・・・・

 

「お嬢様・・・・兄貴さ「ギロリ!!」・・・・何でもありません・・・」

 

ものすごい勢いで睨まれた。

しかし一度、形相を変えたものの、エミリィは諦めたかのようにため息をついた。その瞳は少し寂しそうだったが、首を横に振って、そんな感情を押し留めた。

 

「ふう、・・・・今は・・・・私の成すべき事をするだけですわ」

 

エミリィはため息をついて艦の窓から見える外の風景を見る。

今はまだ見渡す限りが雲で覆われてよく見ることは出来ない。

しかしその先にあるものを、目を細めて見ようとしていた。

 

「警備兵としての仕事を全うし、時間を見つけて美空さんと再会を果たし・・・・・・決着を・・・・・・・そしてもっと時間が余れば・・・・・な、・・・生ナギを・・・・」

「いや・・・それやることじゃないんじゃないかにゃ?」

「ふふ、兄貴様とどっちが本命なのかしら?」

 

徐々に顔を紅くしてボソボソ言うエミリィを苦笑しながら、ユエ、コレット、エミリィ、ベアトリクスと同じ、学院生徒代表の猫系亜人のJ・フォン・カッツェと褐色肌の亜人のS・デュ・シャがツッコミを入れた。

そのツッコミにムキになって否定しようとするエミリィをベアトリクスが、がんばって止める。

いつも通りのほのぼのとした光景だった。

 

「それにしても・・・最初は学院の代表者は二名のはずだったのですが、良かったですか?」

「いいんじゃない? ほら、総長(グランドマスター)も優秀なら特別許可って言ってたし、気にしなくてもいいんじゃない?」

「はあ、・・・たしかにそのお陰で私もこうして同行できるわけですが・・・・」

 

アリアドネーの学院の代表者は当初は二名のはずだった。その候補として最初はぶっちぎりの力をエミリィが見せていた。

しかしここ数週間のコレットや夕映の努力や気合がセラスの目に留まり、特別枠として、計六名の生徒たちを、今回のオスティア行きに許可したのだった。

最初は認められたことと、オスティア行きに喜んだ夕映だったが、ずば抜けたエミリィの力を知っているだけに、オスティアが近づくにつれて少し自分が代表者になったことを不安に思っていた。

 

(まずいです・・・少し緊張しています。私は委員長のように強力な呪文を使えるわけではない落ちこぼれですから・・・)

 

少し手が震えてきた夕映。

 

(む、ユエさん・・・緊張してるのでしょうか? ・・・ふん、落ちこぼれとはいえ私のライバルの一人なのですから、あまり情けない顔をされたくありませんわね・・・・。ふっ、落ちこぼれは・・・・私もそうでしたわね)

 

するとそんな夕映にエミリィが少し照れながら肩に手を置いた。

 

 

「委員長?」

 

「えっ・・・あの・・・その・・・・(わ、私は何を・・・・)」

 

 

不安で押しつぶされそうな夕映を見かねてエミリィが何かを言おうとしたが、そこで止まってしまった。

 

 

(わ、私はライバルに何を・・・い、いえ・・・ここはクラス委員長として・・・し、しかし・・・)

 

 

夕映に何かを言って叱咤しようと思ったが、どうしても何も思いつかなかった。

ましてやエミリィは落ちこぼれだ何だと言っても、夕映たちの力を口には出さないが認めていた。そして自分自身もまた美空との戦いで、決してエリートではないと思い知ったからこそ、相手の力を認めることにした。

だからこそ、同じように自信がなく震える夕映の気持ちが何となくエミリィには分かったのだった。

 

(こんなお節介・・・・いえ、・・・私も不安で震えていた時もありましたし・・・)

 

自分の無力に嘆いて魔獣の森でシモンの腕の中でみっともなく泣いた時を思い出す。あの時の自分と夕映が少し重なり、何かを言いたかった。

そして思い出す。

 

 

「夕映さん、あなたは・・・・贔屓ではなく総長(グランドマスター)に認められてここにいるのです。・・・だから・・・自分を信じなさい・・・」

 

「い、委員長?」

 

 

夕映が目を丸くする。

 

「(何かにゃ?)」

「(どうしたのです?)」

「(ぷくく、いーから聞いてなよ♪)」

 

口を押さえて笑いを堪えるコレットとベアトリクス。そして事情を知らない二人は首を傾げている。

その中でエミリィは自然と言葉を発してしまった。

 

 

「あなたが信じる、あなたを・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・?」

 

「って、私は何を言っているのですかーーーーッ!?」

 

「ぶはははははは! 委員長、かわいい~~」

 

 

しかし全部は言えなかった。

思わず顔を真っ赤にして、自己嫌悪に陥ったエミリィは頭を壁に何度も打ち続け、コレットたちは大爆笑していた。

事情を知らないデュ・シャたちはしきりに聞き出そうとし、エミリィがまた大暴れをする。

規律にうるさい魔法世界の戦士たちかと思いきや、実にほのぼのとした空間だった。

しかし夕映は、少し気になっていた。

エミリィが照れてそれ以上言わなくなってしまった言葉に何かを思い出しそうになっていた。

 

 

「・・・あなたが信じる・・・あなた・・・・お前が信じる・・・お前? ・・・・どこかで?」

 

 

顎に手を置いて思い出そうとする夕映。しかしそんな考えを吹き飛ばすほど明るい声で、コレットが笑いながら、夕映の肩に手を回した。

 

 

「ユ~エ、細かい事は気にするな♪ 兄貴がそんなよーな事言ってたよ?」

 

「兄貴? ・・・例のシモンという方ですか? 委員長が想いを寄せていたという・・・・「ユ~エ~さ~ん~?」・・・・びくっ!?」

 

「だから何度も・・・モガモガ「落ち着いてくださいお嬢様」離しなさいベアトリクス!」

 

 

やはりシモンの名前はエミリィには禁句だった。

数週間前もそのことで大騒動が起こったぐらいだった。それほどまでにエミリィは神経質になっていた。

だから中々シモンの事を聞き出せなかった夕映だが、失った記憶の欠片を探す内にナギ・スプリングフィールドの他にも、シモンの名前が気になって仕方が無かった。

 

 

「ユエ? 兄貴のこと知りたいの?」

 

「えっ、・・・は・・・はあ・・・・少し気になるというか・・・委員長が好き・・・ではなく、過剰に反応するぐらいですし、学院のほかの方々も高評価していました」

 

 

言われてコレットは考える。

僅か数日の出会いで、自分たちに衝撃を与えてくれた男の存在を。

 

「う~ん、そうだね~~、記憶を無くして色々ある人だけど・・・・やっぱ・・・・」

 

結局何者なのかはまったく分からなかった。

素性も力も、一切不明。しかしそんな男をコレットは全てを知っているかのように一言で括った。

 

 

「熱い漢・・・・かな?」

 

「熱い・・・ですか・・・・」

 

「そっ、そんでその熱さが病気みたいに伝染するんだよ、そんな人・・・・だったかな」

 

 

少しコレットもエミリィ同様に懐かしいのか遠くを見るような目で苦笑した。それだけで、夕映はその男がコレットたちには重要な存在だったのではないかと予想できた。

だからその一言で、何故か夕映も納得したのだった。

 

 

 

 

そしてコレットの言うとおり、その熱さが伝染した第一感染者とも呼べるべき少女たちは、受け継がれた誇りを背に戦っていた。

 


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