魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第149話 家族

「・・・・か・・・・ぞく?」

 

自分の言葉を言いなおして、シモンはもう一度首を傾げた。

 

 

「・・・シモン君?」

 

「あっ・・・いや・・・・家族・・・・・俺にも・・・家族はいたのかなって・・・・・」

 

 

目を閉じて、アリアドネーに居たときを思い浮かべる。

コレットに兄と呼ばれたとき、自分には弟、もしくは妹が居たんじゃないかという指摘をされて、それが満更でもなかったことを思い出した。

そしてそれだけではない。

自分には瀬田にも劣らないかけがえの無い宝物があったはずだと思い出す。

 

 

「・・・俺は覚えていない・・・・けど、心が覚えている。俺には・・・・確かにこの手に宝があった・・・・」

 

 

シモンは少し複雑そうな表情をしながらコートの内側に手を入れ、中から一枚の写真を取り出した。

 

 

「これが、俺にとっての宝・・・かな?」

 

 

そこにあるのは、シモンとニアの幸せそうな一枚の写真だった。

いきなり提示されたものに当然三人が食いついた。

 

「うわっ、何だよコレッ!?」

「ほ~う、・・・中々・・・いや・・・ハンパなく美人じゃないか」

「恋人かい? やるじゃないか、シモン君」

 

美しい女性と寄り添うシモンの写真に思わず身を乗り出してサラは食い入るように凝視した。

 

「なな、・・・・・なんだよ・・・・お前・・・・恋人居たのかよ・・・」

 

口をへの字に曲げて、すごくつまらなそうな表情をして少し落ち込み気味になるサラは、幸せそうにシモンに寄り添うニアと、照れた表情を浮かべて並ぶシモンの顔を何度も見る。

 

(な、・・・・なんだよ・・・デレデレしやがって・・・・恋人いんじゃね~かよ・・・・べ、別に私にはカンケーねえけど・・・・)

 

不満げに少し顔を俯かせるサラの気持ちを察してか、ハルカは無言でサラの頭に手を置いた。

 

「ったく、・・・・んで? この子はアンタの何なんだい? ・・・・って言っても記憶が無いんだったか?」

 

ハルカの言葉にシモンはゆっくりと頷いて、サラの手から写真をゆっくりと取り上げて、ニアの顔を見ながら呟く。

 

「うん、覚えていないんだ・・・・この子の・・・名前も・・・どんな子だったのかも・・・覚えているのは、この子が俺の宝物だったってことかな?」

 

覚えていない。それが何よりも悔しかった。

絶望に囚われた自分をアッサリと救ってくれた女のことを、自分は何一つ覚えていないのだ。

だが、分かったこともある。

 

 

「・・・・事故直後より俺も色々分かってきた。・・・俺は間違いなくこの子が好きで・・・俺は誰よりもこの子を信じて、この子も俺のことを信じてくれた・・・・そして・・・・」

 

 

誰よりも自分を信じ、誰よりも自分が愛した女。

そして・・・

 

 

(そして・・・・・もう・・・この世に居ないことも・・・胸の中に開いた穴が教えてくれた・・・・)

 

 

そこから先は口に出して言わなかった。

しかし複雑な何かを感じ取った瀬田は、シモンの気持ちを察してそれ以上聞こうとはせず、明るい声で、語りかける。

 

「そうか~、だったら尚更記憶を取り戻しておかないとね~」

 

シモンも瀬田の心遣いを理解し、顔を上げて、笑顔で頷いた。

 

「はい、だけど俺にはどうすればいいのか分からなくて、取り合えず今は自分の意思に従ってこの世界と人類を見たいなって思ったんだ」

 

瀬田とは少し違うかもしれない。

しかし頭の中に響いたロージェノムやアンチスパイラルの言葉。そして二アの言葉が今のシモンに前へと進む意味を与えていた。

 

(そう・・・・本当に世界は滅ぶのか・・・・いや・・・・違う、滅ばないんだってことを確かめなきゃいけないんだからな)

 

このことに関してもシモンは瀬田にもサラにも言わなかった。「完全なる世界」と世界の滅亡と言う言葉の何かのヒントになるかもしれなかったが、シモンは自分の胸の中に閉まった。

それは隠していたわけではない。

しかし答えは自分自身で出そうと思っていたから、シモンは言わなかった。

すると押し黙るシモンに、瀬田は指を鳴らしてある案を出す

 

「記憶・・・・それならいい方法があるよ?」

「えっ!?」

 

シモンとサラは思わず顔を上げた。

 

「実は噂で聞いたんだけど、この世界には人の記憶を読み取って、映像にする技術があるそうだ」

「な、・・・記憶を・・・映像に?」

「それって、映画みたいに出来るってこと? それじゃあ私にも見れるの?」

「多分ね。それは大きい街でしか出来ないし、お金も少し掛かるみたいだけど、まあ、それに関しては大丈夫だろうね。なんせこの近くには・・・・」

「なるほど、オスティアか・・・・」

「その通り♪ 悪くないんじゃないかな?」

 

オスティア。その単語にサラとシモンは顔を見合わせた。

 

「オスティアか・・・・・なあ、シモン。たしかあの白髪頭もそんなこと言ってなかったか?」

「ああ、・・・偶然か・・・運命かは分からないけど・・・・やっぱりアイツとは因縁みたいなものを感じるな・・・・」

 

オスティアで待つと言った、フェイトを思い出し、自然と口元に笑みが浮かんだ。

記憶を取り戻す、そして決着を付ける。オスティアには二つの目的が揃っているのである。

 

(いいぜ、お前が知っている俺になってから、ケリをつけてやるよ)

 

シモンは自然と拳を力強く握った。

 

(ったく、男って野蛮だよな~)

 

サラも今のシモンの頭の中を理解して、呆れていた。

 

「にしても、オスティアか・・・。それじゃあサラの帰りを待ってもらって、木乃香たちと一緒に行ってやった方が良かったんじゃないか?」

「う~ん、そうかもね~」

「・・・・・・このか?」

 

突然のハルカの呟きにシモンが首を傾げると、シモンではなく、シモンの相棒が過剰に反応した。

 

「ブイイ!?」

「うわっ、どうしたんだよブータ?」

「ぶみゅっ、ぶみゅっ!?」

 

よくよく考えればネギがテレビに出ていたのだ。木乃香もこの世界に居ても何らおかしくはなかった。ブータは懸命にシモンに何かを伝えようとするが、シモンもまた、木乃香の名前に何かを感じ取っていた。

 

「このか・・・う~ん・・・・このか・・・・あの、このかって?」

「ああ、数日前に会った女の子たちで、年はサラと同じぐらいかな?」

「・・・それがどうしたんだ?」

「いや・・・・このかって・・・・どこかで聞いたような・・・・」

 

それは僅かな引っかかりだった。

頭の中の片隅で、自分に真っ赤な顔で何かを伝えようとしている黒髪の少女が、一瞬だけ頭の中に浮かんだ。

 

(・・・・・そう言えば、・・・グラニクスでもあの変態女剣士が言ってたな・・・・たしか・・・刹那・・・・・う~ん、木乃香に刹那・・・・・どこかで・・・・)

 

そして木乃香の名前だけでなく、グラニクスで月詠が口にした刹那の名前を今になって、思い出した。

あの時は、緊急事態だった上に、それほど気には留めなかったが、木乃香と刹那という二人の名が揃って初めてシモンは何かを思い出しそうになった。

するとサラはつまらなそうに口を突き出して、愚痴りだした。

 

 

「へん、なんだよ? ひょっとして昔フッた女だったりしてな?」

 

「は、はあ? そんなバカな。そんなことあるわけないだろ?」

 

 

残念ながらそんなバカだ!

ブータはシモンにそうツッコミたかった。

するとニアの写真を見てから不機嫌なサラはジト目で嫌味を言う。

 

「いや~、わかんね~ぞ~、なんてったってお前ってば強い女をメチャクチャにして、ただの恋する女にさせたって、あの女も言ってたじゃんかよ!」

「おい、サラ! あんな奴の話を信じているのか?」

「だってそうじゃん! お前は昔何とかって女をメチャクチャにしたって・・・・、この写真の女といい、お前は・・・・」

「ったく、そんなわけないじゃないか。あんまり人聞きの悪いことは言わないでくれよ」

 

多少歪曲しているが真実だ!

そう言いたいブータだった。

しかしそんなブータの心中を察するものはなく、サラの不機嫌な声と、オロオロするシモンのやりとりに、瀬田とハルカが笑いながら眺めていた。

 

「やれやれ、のん気なもんだ。それじゃあ、目的地も決まったし飛行船でも調達するかい? 一応金はありそうだしな」

「うん、オスティアに行くには空路で行くしかないし、それにオスティアを拠点にするなら正に魔法の絨毯は必要だからね♪」

「それじゃあ、行こうぜ! さっさとシモンの頭を元に戻して、帰る方法も考えよーぜ。私だって学校あるんだしさ」

「大丈夫♪ 仮にサラが留年したり、勉強がダメになってトーダイに行けなくなってもシモン君がもらってくれるさ♪」

「えっ?」

「ぶふううう!? パ、パパのアホォーーッ!?」

「娘をからかうな」

「ははは、冗談冗談♪」

 

真っ赤になってサルのように喚いて瀬田に掴みかかるサラ。しかし最初は冗談だと軽口を言っていた瀬田だが、少しだけ様子が違った。

 

「まあ、でもシモン君なら僕の研究をついでモルモル王国で発掘活動を手伝ってくれそうだしね~。そう考えると満更冗談でもないよ~? ケータロー君は、なるちゃんと忙しそうだし・・・」

「ま、まあアイツらも女子寮を旅館に改築して、忙しいらしいからな・・・・」

「だろ~、だから将来有望な穴掘り好きが必要なんだよ~~」

 

ハルカが少し遠くを見つめながら懐かしそうに呟いた。

そして瀬田は目を光らせながら身を乗り出してシモンに尋ねた。

 

「どうだいシモン君! 将来モルモル王国で発掘活動をしながら暮らさないかい? 今なら僕の大事な大事な宝物を片方譲ってあげるよ?」

「・・・えっ? その・・・俺は・・・」

 

突然の勧誘活動に動揺してしまうシモン。

そしてサラのテンパりは最高潮に達した。

 

 

「ななな、宝物の片方って私のことかよッ!? ぱ、パパは私がコイツと結婚して、男の子と女の子一人ずつ子供生んで、一緒に発掘活動して、子供達も一緒に泥だらけになりながら家に帰ってきて、一緒にお風呂に入ったり、ご飯食べて、家族みんなで同じベッドで寝て、おやすみなさいのキスして、次の日も朝はおはようのキスして、そんでまた一緒に遺跡に遊びに行くとか・・・・・そんなツマンネー生活私がしたいとでも思ってんのかよッ!?」

 

 

娘の暴走に頭を抱えるハルカ。小さく鳴くブータ。

しかし瀬田はニッコリと笑って相変わらずだった。

 

「だってハルカは僕のものだしね~♪」

「ムキーーーッ!?」

 

目の前の父娘のやりとりは、徐々に激しさを増す。

しかしその中でシモンは何かを考えながら真剣な顔で、とんでもない一言を言い出した。

 

 

「発掘活動・・・・・穴を掘りながら暮らしていく・・・か・・・うん、俺には悪くないかもな・・・・・」

 

「「「えっ!?」」」

 

「ブウッ!?」

 

 

時が一瞬止まってしまった。

 

 

「シシシ、シモ・・・おま・・・どーゆう・・・・だだ、大体おま・・・・か、かのじょ・・・・」

 

 

口をパクパクさせながらシモンを見るサラ。

だが、シモンの判断基準はソレではなかった。

 

「だって・・・穴を掘ることが仕事って・・・いいことじゃないか! 宝物を掘り当てる事だってある。俺は・・・・そんな生き方はとてもいいと思うよ」

「んなこったろーと思ったよ!?」

「はあ~~~、まさかここまでこのバカと同じタイプだとは・・・・」

 

サラがどうとかではなく、将来穴を掘ってソレが仕事になる。ソレがシモンにとっては魅力的に感じたのだった。

激昂するサラ。心底呆れたように溜息をつくハルカ。

 

 

しかし・・・

 

 

「シモン君・・・・」

 

 

この男は何故か眼鏡の奥の瞳をウルウルさせていた。

 

 

「シモン君! その通りだ! 僕もよく学生時代は変人扱いをされていた! 穴ばっか掘っておかしいだの、変な奴だと後ろ指を指されたけど、僕は自分の人生を楽しく、そして誇りに思っていた!!」

 

「あ、あの・・・瀬田さん?」

 

「う~ん、うれしいな~。ケータロー君以来、僕はようやく心の友に会えた気がした!」

 

 

瀬田はものすごい勢いで、シモンの両手を掴み、興奮したように喋りだした。

同属嫌悪とは真逆の感情が、瀬田を埋め尽くしていた。

 

「よ~っし、将来はモルモル王国に是非来てくれたまえ! その時は、僕の持っている知識や発掘能力の全てを授けよう! ついでに、君にならサラもあげよう!」

「えっ・・・あっ・・・・その・・・」

「ババババ、バッカーッ!? 人の意見を聞かないで何勝手なこと言ってんだよーーッ!?」

「あきらめろ・・・・こうなったコイツは止められん」

 

 

 

 

 

 

シモン・・・なんやかんやで内定ゲット。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、シモンたちの現在居る場所から数十キロほど離れた高原地域で、今正にその首を狙わんとしているもの達がいた。

 

 

「ほう、その情報に間違いは無いか?」

 

「ああ、間違いない。冒険王だ・・・手配書に乗っていないのが一人居るがな」

 

「モフフフフ、冒険王の妻は良いおっぱいを持っていると聞く。これは楽しみネ」

 

「は~怖いよ~。でも生活のためには僕もがんばらなきゃ」

 

 

同じ黒衣を身に纏った不気味な集団。

目の奥を光らせて、遠くの村がある方角を見る。

 

「居所知れずだったが、ようやく見つけたか」

「行くのか、隊長?」

 

獣人、魔族、どちらとともれそうな亜人の集団が、リーダーらしき男に尋ねると、男は従う部下達に鼓舞をする。

 

「ああ、当然だ! 久々の大仕事だ! キッチリ仕留めて来ようではないか! 他の奴らには奪われるな!」

「はあ~~、仕事か~、怖いよ~。強いんだろ~な~」

「いい乳をゲットするネ」

「ようやくボーナスが出そうだな」

 

獲物を見つけた獣のごとく、不気味な雰囲気を醸し出して歩き出すのは、賞金稼ぎ結社『黒い猟犬(カニス・ニゲル)』と呼ばれる集団である。

冷酷非情でその名を魔法世界に轟かせている彼らが、ついに瀬田たちの存在に目をつけた。

久々の大物を見つけたことがれしいのか、顔に僅かな笑みを浮かべていた。

だが、突然歩き出した彼らの背後から声を掛けられた。

 

 

 

 

「待ってくんない、おっちゃんたち?」

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

 

 

四人は慌てて振り返った。

いつの間にか自分達の背後に現れた謎の人物。

いや、それだけでなく、この世界の者は自分達の黒衣の姿を見るだけで震え上がり、ほとんどの者が関わろうとしなかった。

それを何の躊躇いも無く、声を掛ける存在がいきなり現れたことに驚いた。

 

「・・・・何者だ?」

 

部隊の隊長である男が問いかける。

そこには二人のシスター服を身に纏った少女達がいた。

 

「今の話・・・・ちょいと詳しく聞かせてくんない?」

 

少女は自分達にまったく恐れる気配も無く、軽口を叩く。しかし隊長の男は目の前の少女をただの少女とは思わず、警戒心を強めながら口を開く。

 

「・・・断る。仕事の内容をバラす者がいると思うか?」

 

すると少女は「やっぱり」という顔で落ち込んだそぶりをみせる。

 

 

「あ~あ~、やっぱ、そうっすよね~。・・・・・でも・・・・・そこを曲げて欲しいんだよね~・・・・だってひょっとしたらそこに・・・・」

 

 

言葉遣いは軽いままだが、その時少女の眼つきと声の抑揚が変わった。

 

 

「私達の兄貴が居るかもしれないんだからね♪」

 

「「「「!?」」」」

 

 

シモンたちの知らないところで、戦いが始まる。

冒険王への道筋を賭けて、黒衣を纏った『黒い猟犬(カニス・ニゲル)』とサングラスを掛けた炎のドクロのマークを背中に背負った『新生大グレン団』の二人が戦う。

 


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