魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
四人組が食事をしながら丸いテーブルで、四人の内の一人の眼鏡を掛けた男が読む本の内容を聞いていた。
【南の古き民と北の新しき民は古くからの確執があり、ついには「大分裂戦争」と呼ばれる全面戦争にまで至るほどになった。
しかしそれは真実ではない。
両陣営にとって一部の利の無いこの戦争の裏側には、世界を欺き私腹を肥やす悪党たちの姿があった。
両陣営の中枢にまで潜り込んだ彼らは不安と混乱を煽り、怒りと憎しみを醸成させ、戦火を拡大させようとした。
彼らこそ、悪名高き「完全なる世界(コズモエンテレケイア)」である。
この組織の壊滅と歴史あるウェスペルタティア王国の王都オスティアの犠牲を持って大戦は終わりを告げ、最悪な事態は免れる。
大戦末期、全ての真相を暴き、世界を滅亡の危機から救った英雄が居た。その名は「紅き翼(アラルブラ)」ナギ・スプリングフィールドを初めとする英雄たちだった。】
「・・・・・・・・・・出典、・・・ヘラス帝国・・・こんなところかな?」・・
分厚い本をパタンと閉じ、瀬田は疲れたのか大きく背伸びをして息を漏らした。
「う~ん、中々壮大な歴史だったね~、サラの持って来てくれた本の内容は」
「しっかし、まあ・・・随分と映画みたいな話だな。どこのポッターだい?」
「これがこの世界の歴史・・・・・・ってゆうか気になったんだけどシモン・・・・」
「ああ、あの筋肉化け物もたしか紅い翼(アラルブラ)とか言ってたな・・・・・・・」
「この世界の最強クラスの英雄の仲間だったってか? どーりで強いわけだ・・・・。お前よく勝ったな」
「いや、・・・・あれは結構手加減されてたと思うよ? 多分・・・・賞金首じゃない俺を殺すのは避けたんだと思う・・・・」
「えっ? あれで・・・・手加減? よかった~~、お前が居てくれて。私一人じゃ絶対捕まってたじゃん」
サラがアリアドネーから盗み出した歴史書には、つい数十年前の歴史が描かれていた。亜人やヒューマンの戦争、「完全なる世界」、「紅き翼」、そして英雄ナギ・スプリングフィールドなどのごく最近の、この世界に住むものなら誰もが知っているような歴史が書かれていた。
壮大な物語に、思わず息を漏らすシモンとサラ。さらに少し前に戦ったラカンが紅き翼と名乗っていたことなど、今にして思えば背筋が凍るようなものだった。
しかし聞き入っていたシモンとサラとは違って、瀬田は本をジッと見ながら、どこか腑に落ちない表情をしている。
「パパ?」
「ん? あ、いや・・・・サラのもって来てくれた本はとてもおもしろい・・・・しかし・・・・」
「?」
「・・・・しかし・・・・ここには僕の欲しい歴史や情報までは書かれていなかったな・・・・それが意図的に書かれていないのかは分からないけど・・・・」
「・・・・そうだな・・・・。内容も薄いし、所々ハショッてやがる」
「えっ?」
瀬田の呟きにハルカだけは納得したように頷いた。
たしかに歴史は新しいが、それでも十分すぎるほど濃い内容だったとシモンもサラも思っていただけに、首を傾げた。
瀬田も首を傾げる二人に苦笑しながら、自分たちの気づいた疑問点を告げる。
「ああ、・・・・たとえば・・・ここに書かれている悪党たちの「完全なる世界」・・・彼らの目的が曖昧すぎる」
まずは素朴な疑問だった。どこから読んでも紅き翼の褒め殺しに対して完全なる世界はつぶされて当然のような悪党のように書かれている。
しかし瀬田はそこに疑問を感じた。
「私腹を肥やす悪党が、どうして自分たちの住む世界を滅ぼす必要があるんだい?」
「あっ、そういえば・・・」
「・・・そうだよな・・・、だって私腹を肥やしても使う場所が無きゃ仕方ないし・・・・パパ、どーゆうこと?」
私腹を肥やす連中はどこの世界にもどこにでもいる。
しかし世界を滅ぼすのとはレベルが違いすぎる。だが確かに紅き翼が世界の混乱を収めたのではなく、滅亡の危機から救ったと書かれているのである。
シモンもサラも、合点が言ったかのように頷いた。
「まっ、そーゆうことだな。戦で私腹を肥やすってのは簡単に言えば、武器商人とかマフィアが、戦争で儲けようってことだ。しかしそれが世界の破滅に繋がるってのは、訳が違う」
「うん、これは僕の推測だが・・・・完全なる世界という組織の者はたくさんいた。しかしこの歴史書には書かれていない、何かの理由で世界を破滅させようとした者達もいた。」
「う~~~ん・・・・ようするにその悪党たちの一部には別の目的を持っていた奴がいたって事ですか?」
「うん、そしてそのメンバーたちが、紅き翼たちが戦った本当の敵の姿・・・・まあ、それ以上は・・・・そもそも地球でも、世界を滅ぼそうとする人なんて聞かないからな・・・・」
瀬田が疑問に思ったのは「動機」それが分からなかった。
世界を破滅へもたらすという言葉が、紅き翼たちの功績に誤魔化され、真実が深く描かれていないことに疑問に思ったのだった。
しかし瀬田は一度黙ったかと思ったら、小さく笑い、本を静かに机の上に置いて背伸びをした。
「でもまあ、これが僕たちの目的と繋がっているかは分からないけどね・・・・」
まるで深く考えることを放棄したかのような様子だった。その言葉を聞いてシモンも素朴な疑問を思い出した。
「そういえば、気になってたんだけど、瀬田さんたちは賞金首になってまで何を調べているんだ?」
サラは父親の手伝いをしているとしか教えてくれなかった。自分も細かいことを気にしない性格の上に、これまで駆け足で過ごしてきただけに深く聞く暇が無かった。
一体犯罪者になってまで、何を知りたかったのかが疑問に感じた。
すると瀬田が少し顎に手を置き、どうしようか迷っている表情だったが、直ぐに元に戻った。
「・・・・う~ん、一応モルモル王国のトップシークレットだし、これを聞くと君にも被害が・・・・・と今更言うのは野暮かな?」
一応シモンはアスナたちと違って賞金の掛かった犯罪者でないために、自分たちの話を聞いて巻き込んでしまうかと思い、一瞬躊躇ったのだが、同じ男として語らずとも瀬田はシモンの本質に気づいていた。
当然シモンは笑いながら頷いた。
「ははは、ああ・・・・・野暮だな」
その答えを聞いて瀬田も予想通りだと思い、ニッコリと笑った。
「ふふ、やはり君は僕の思ったとおりの人だ。だが、う~ん、しかし全部を話すのも・・・・それにまだ何も答えは出ていないし・・・・そうだな~、・・・・(アスナちゃんたちに説明しようとした時はボケ~っとされちゃったしな~)」
だが、一度アスナ達に話した時に変な目で見られたことが記憶に新しいのか、自分のまったく明確ではない仮説を語ることに、瀬田は少し躊躇いを感じてしまった。
「う~ん、まだ僕が調べていることは【点】と【点】に過ぎない・・・しかしこれをいつか【線】で結んで、・・・・この世界の真実を知ることかな?」
そのため瀬田自身も上手く説明できないために、曖昧なことしか言えなかった。
「・・・・真実?」
深く内容を読み取れないシモンは当然首を傾げた。すると瀬田は少し照れ笑いをしながら己の胸の内を語る。
「そう、・・・この歴史書と同じように、この世界は僕が魔法使いではないことを抜きにしても、謎が多い。知らないままでいることが幸せでも、僕は不幸になってでも知りたい、それが僕の大好きな謎を解き明かすための冒険さ」
その時、落ち着いた大人の物腰を感じさせた瀬田の表情が、まるで子供のように見えた。
シモンはその表情をつい先ほど見た。
遺跡で共に穴を掘っている時の瀬田の表情は、今と同じように子供のように楽しそうだった。
「この世には、未だ解けぬ幾つもの謎が隠されている。それを地中から掘り起こすのが、僕の生きる喜びなんだよ」
瀬田の言葉にハルカは「ヤレヤレ」といった感じで呆れているが、その表情はとても穏やかで、母性を感じさせた。シモンはそんなハルカを見て、きっと彼女はこんな瀬田に惚れたのだろうと思い、笑みが零れた。
「パパ・・・・カッコいいけど、説明になってないよ・・・」
サラもまた、父親の言葉に恥ずかしそうに苦言するが、シモンにとってはそんなことなど無かった。
「いや・・・俺は分かったよ・・・・」
「ほらな。・・・・ってえええ!? なんで分かんの!?」
そう、シモンには今の説明だけで理解できたのだ。
小難しい、政治や、歴史や仮説などを語られても、正直なところシモンが理解するのは難しかっただろう。だが、瀬田の嘘偽りの無い素直な感情から出た言葉だったからこそ、シモンは納得できた。
「いいんじゃないか? 男は人に何と言われても、自分の胸の中に抱いた魂や、探究心には勝てないんじゃないかな? 要するに瀬田さんが言いたいのはそういうことだろ? たとえ狙われることになっても解き明かしたいものがある。俺はそう言われた方がむしろ納得できるよ」
自分がやりたいから、やる。シモンにはそれで十分だった。
すると瀬田はシモンの言葉に一瞬目をパチクリさせたが、次の瞬間笑いを堪えきれず、クスクスと笑った。
「ふふふ、どうやら僕は・・・君を侮っていたようだね。君は僕の想像以上に自分に正直なんだね」
「えっ、そうかな~?」
「そうだろ? 君は、たとえ人がなんと言おうと、自分で決めた道を自分のやり方で通す。そんな人に見えるよ?」
己とは何か?
その答えはまだ出ていない。
しかし瀬田にそう言われて悪い気はしなかった。
「そう・・・だったのかもしれない。今は難しいかな・・・・そうありたいと思っているけど」
二人が最初に感じたシンパシーはこれだったのかもしれない。
ただ同じ穴掘りなのではない。自分が思ったことに迷わず前へと進む。二人とも同じような生き方をしてきたのだ。
それがようやく分かった二人だった。
「お~い、ったく、二人して何訳の分かんないこと言ってんだよ~。私たちのこと忘れるな~」
「ホントだよ、ったく。それで、結局これからどうするんだい?」
「そうそう、ここ数日で色んな遺跡を掘り起こしたけど、大した成果無かったじゃん」
娘の鋭い指摘にギクリと肩を振るわせる瀬田。
「うっ・・・・、痛いところ言われちゃったね~。でも、まだ後一個調べていないところが・・・」
「それって、南の大陸の辺境にあるって聞いた所のか? でも、そこは詳しい場所がよく分からなかっただろ?」
「い、いや、でも実はあれから少し調べて、そこの遺跡はとある名家が保護下に置いている遺跡って噂を聞いたんだよ! その家の人に頼み込めば教えてくれるかも・・・」
「・・・・・私達はお尋ね者だぞ?」
詳しい地理が分からない。それはこの広大な魔法世界では致命的である。
さらに私有地内にある遺跡を探索するには当然許可が必要なのだが、お尋ね者の瀬田たちに降りるはずもない。
ましてや相手は相当の名家というため、強行するのなら戦う覚悟も必要である。そのため、少し敬遠していたのだが、瀬田は今になって名残惜しそうにグチグチ言い出した。
「うっ・・・たしか・・・セブンシープ・・・って家だったかな? たしかにこれ以上騒ぎを起こしたくないけど・・・・。でも・・・もしこれで重要な遺跡だったら・・・」
「ったく、違法になってでも調べたいなら、せめて正確な場所が分かってからにしな。大体もう十分堪能しただろ? シモンと一緒にどれだけ遊んでたと思っているんだ?」
「い、いや・・・遊んでいたんじゃなくて、歴史の探求を・・・・」
瀬田とシモンが出会ってわずか数日。
しかしこのわずか数日で二人は本能に任せて迷宮、ダンジョン、遺跡など瀬田がこの世界に来てから追っ手を退けている間に調べた冒険者たちの挑戦し続けた財宝を難なく手にすることが出来た。
これもこの二人が揃ってこその成果と言える。しかしその財宝の中には求めていたものは無かったのだった。
「お前は世界を知るには歴史の勉強と過去の遺跡を探索するのが一番手っ取り早いなんて言ってるけど、本当はお前、ただ単にこっちの世界の遺跡を発掘したかっただけだろ?」
「なななな、何言っているんだよハルカ~、僕はカオラちゃんの依頼はちゃんと覚えていたよ~?」
「・・・・・怪しい」
ハルカが目を細めて瀬田を睨むと、瀬田は汗をダラダラ流しながら挙動不審になった。
「ま、まあ、シモン君のドリルのお陰で、発掘作業の時間が短縮できたどころか、お釣りが出るぐらい見て回れたけど、たしかに目立った成果は無かったのは認めるよ・・・・」
「えっ? これだけ・・・・集めたのに・・・・」
シモンは瀬田の発言に目を点にしながら、自分たちの真後ろにあるテーブルへ振り返る。
そこには見ただけで目が痛くなるほどの神々しい光を放つ積み上げられた金銀、宝石、立派な彫刻や用途の分からないマジックアイテムなどの財宝の山が見上げられるほど積まれていた。
しかし瀬田もハルカも、サラでさえも目の前にある、売れば大金に換えられること間違いなしの財宝に大した興味を示していなかった。
「はっはっは、いくら魔法世界の難解なダンジョンとはいえ、基本は地球と大して変わらないからね! 僕の経験とシモン君のドリルでらくしょーだったね♪」
冒険王の名前はたしかに魔法世界ではそれなりに知れ渡っていた。
しかし巷の冒険者たちの間では、ここ数日で数多くの遺跡を攻略した謎の四人組の冒険者たちとして知れ渡っていた。
だが、もう十分ではないかと言うほどの財宝を前にしても、瀬田は楽しさでは満たされても、満足はしていなかったのである。
「でも、たしかにこれらは高価なものだ、・・・でも僕はトレジャーハンターじゃないからね。お金に換わるものに興味ない。これだけなら財宝目当ての盗賊たちと変わらないからね」
あくまで自分たちは金のために動いているのではない。そこに瀬田の譲れない信念のようなものを感じた。
「僕が求めているのは、いくら積まれても代えることの出来ないもの。残念ながら、まだ見つからないね」
「お金に変えられない・・・。それじゃあ瀬田さんが今まで見つけた中で一番の宝って何?」
瀬田の純粋な想いに、苦笑しながら瀬田に尋ねると、瀬田はニッコリと微笑んで胸を張る。
「はっはっは、決まってるじゃないか!」
そう言って瀬田は誇らしげに笑ってハルカとサラを抱き寄せた。
「この二人に勝る宝は、この宇宙どこを探したって無いよ♪」
「「「!?」」」
瀬田に抱き寄せられた二人は、まったく恥ずかし気もなく告げる瀬田の言葉に、逆に自分たちが真っ赤になってしまった。
「パ・・・パパ・・・・」
「ぐっ・・・・(油断した・・・何故コイツはいつもいつもこんな不意打ちで・・・・)」
驚いて思わず噴出しそうになりながら、顔を赤くするハルカとサラだった。
一方シモンは、瀬田の言葉にまるで尊敬を抱いたかのような眼差しで小さく微笑みながら頷いた。
「家族・・・・・か・・・・・」